リユーズ・オブ・フェイル

作者:鹿崎シーカー

 某所、港のコンテナターミナル。夜の海に反射した街灯の光が、宙を舞う巨大コンテナを照らし出す。コンテナの真下、走りながら長方形の影を見上げた卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)は顔をしかめて毒づいた。
「クソッ!」
 横っ飛びから地面を転がる彼の近くでコンテナが墜落! 重い轟音と飛び散るアスファルト片を浴びながら立ち上がり、コンテナが飛んできた方に向き直った泰孝の目にさらなる影が映り込む。泰孝めがけて飛来するフォークリフトだ! 泡を食いつつもかざされたガラクタ製の巨大な左腕でこれをキャッチし後ろに下げられながらも受けきる。フォークリフトを投げ捨て、彼は溜め息を吐いた。
「ったく……勘弁してくれよ。前もあった気がするぜ、こんなこと……!」
 渋面を作る泰孝は、やや離れた位置を油断なくにらむ。歩いてくるのは、翡翠色の電光をまとう人型の輪郭。黒い髪、陶磁器めいた材質の体に、緑の電子基盤じみた紋様が描かれた黒い衣服。二の腕に赤錆びた刃を備えた両腕は球体関節であり、左手には衣服と似た模様の浮かぶガントレットがはめられている。仮面で覆われた右目と禍々しい赤色の左目を真っ向から見据え、泰孝はコキコキと首を鳴らした。
「ポーカーの約束あるからどけっつっても、聞いてくれねえよな?」
 休みなく歩いてくる人影は無言。左腕を胸の高さまで持ち上げて握りしめ、緑の稲妻を散らす。泰孝は嘆息。
「しょうがねえな……」
 身構えつつ腰を落とし、右手でズボンのポケットを漁る。引っ張り出したコインを見せつけるように掲げ、彼は不敵に笑ってみせた。
「命懸け上等。俺の運を信じるとするかね」
 弾かれたコインが回りながら打ち上がると同時、人影は一気に加速した。


「いらっしゃい! 早速だけどお仕事です!」
 ちゃぶ台に叩きつけるようにして資料を置くと、跳鹿・穫はそれを素早くめくり始めた。
 某所のコンテナ置き場にて、卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)がダモクレスの襲撃を受けると予知された。
 彼を襲うのはとあるダモクレスの群れを率いる統率個体。略奪・破壊の尖兵を担う兵の一種であるようだ。
 既に連絡を試みてはいるが、どうにも不通。このままではデウスエクスの襲撃を許してしまうこととなる。
 もはや一刻の猶予も無い。彼が倒される前に、急ぎ増援に向かってほしい。
 今回襲撃の現場となるのは、とある港に存在する夜のコンテナターミナル。そこら中に巨大コンテナを積んで出来た山があるため高低差が激しく、見通しも悪い。反面、街灯が多く点いているため行動する分には困らないだろう。
 敵となるダモクレスは近接戦闘を得意としており、翡翠色の電光をまとっての高速インファイトを挑んで来るタイプ。全身に走る電気は攻防一体であり、不用意に触れればダメージを食らう。また、コンテナを軽々と投げる腕力やちょっとやそっとの攻撃では怯まない耐久力などもあり、零距離の格闘戦にはトコトン強い。八人で連携し、上手く立ち回って欲しい。
「ケルベロス一人じゃデウスエクスは倒せない。急いで助けに行ってあげて!」


参加者
篁・メノウ(紫天の華・e00903)
朝倉・ほのか(フォーリングレイン・e01107)
太田・千枝(七重八重花は咲けども山吹の・e01868)
アリス・ワンダー(音楽の国の迷い姫・e01945)
眞山・弘幸(業火拳乱・e03070)
シュテルン・プラティーン(天衣無縫フルメタルクルセイダ・e09171)
卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)
霧島・トウマ(暴流破天の凍魔機人・e35882)

■リプレイ

 宙のコインをつかみ取った卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)の頬を汗が伝う。視線の先には緑の雷をまといダッシュで迫るダモクレス!
「にしても……やーれやれ、またお前らか……カーッ! 人気者は辛いね全く!」
 ヤケクソ気味に吐き捨て、コインを持った手を打ち振る! 投げられたコインは高速疾走するダモクレスの目と鼻の先に到達し閃光を放った。夜の闇を消し飛ばして突き上げる黄鉄鉱の塔。すぐさま反転して走る泰孝の背後で黄鉄鉱の塔表面に緑雷と亀裂が広がって爆散! 肩越しに振り返る泰孝を粉塵から飛び出したダモクレスが追う! 地を這うような左アッパーを折り曲げたジャンクアームで受けた泰孝の足が浮き上がる。
「うおッ!?」
 さらに深く踏み込んで振り切られるアッパー! 弧を描いて飛翔した泰孝は積まれたコンテナの上に背中から衝突! 即座に跳ね起きる彼から少し離れた位置に着地したダモクレスが拳を握って突撃してくる。泰孝は左肩から伸びるプラグをジャンクアームに突き刺した。巨腕が放電!
「ストーカーは間に合ってるんだよ!」
 青白い稲光をまとった左ストレートがダモクレスの鼻面に吸い込まれていく。だが機兵はライディングでパンチを潜って泰孝の後ろに回り、空ぶってつんのめる彼に回し蹴りを繰り出した! スタンを強いられる泰孝の脇腹に緑雷のキックが触れるその寸前、横合いから飛来した高速回転リングが蹴り足にヒット! 回し蹴りを止められたダモクレスのに長剣を抜いたアリス・ワンダー(音楽の国の迷い姫・e01945)が斬りかかる!
「シッ!」
 鋭い刺突が機械の頬をわずかにかすめた。支えにした足一本で飛び下がり、両腕を固めてアリスの連続斬撃を防御するダモクレスを空から真紅の光が照らす。浮いた眞山・弘幸(業火拳乱・e03070)の左足が爆炎のビームを発射! 飛び下がってビームの着弾を見送ったアリスは泰孝を見る。
「デートのお邪魔だったかしら?」
「いいや、助かったぜ。見ての通り、ちょっと背中刺されかけたところでよ」
 アリスが、やや呆れ顔で息を吐く。
「卜部さん……あなた、何したらこんなにモテるのかしら? 羨ましい限りね」
「そう言うな。折角なんだ、オレの大事なケツを守ってくれよ?」
「野郎のケツを守るのは趣味じゃねぇんだが……まあいい」
 炎の爪先でコンテナを叩き、弘幸が低くつぶやく。
「成功報酬は旨い酒を頼むぜ」
「オーケー、小遣いあるんで一杯おごるぜ」
 一方峡谷めいた通路を挟んで対岸のコンテナ山を篁・メノウ(紫天の華・e00903)が疾駆する。表情を鋭く引き結んで目前に着地したダモクレスに急接近! 反対側には一輪バイクにまたがったシュテルン・プラティーン(天衣無縫フルメタルクルセイダ・e09171)がハンドルをひねる!
「行きますよヨタローッ!」
 白銀の装甲を装着したシュテルンがヨタローのシートを蹴って前方回転跳躍! 竜巻めいて回転しながら特攻してくる一輪バイクを横目にダモクレスは稲妻を帯び、ヨタローへ走る。地面と車輪の接地面を狙ったスライディングキックをヨタローは跳躍回避! スライディング姿勢で錐揉みしクラウチングスタートじみた体勢を取るダモクレスに居合い斬の構えを取ってメノウが仕掛けた。
「炎菊、人知れず咲き誇る。魔を飲み込み燃え盛れ!」
 両手で地面をひっかくようにして飛び出したダモクレスが腕を交叉する。電光を前面に収束させ向かってくる敵をにらみ、メノウは刀を抜き放つ!
「篁流剣術、『暁月・菊華』ッ!」
 紫炎まとう刃がクロスガードを斬り上げた! 金属同士が擦れ合い、刀を振り切ったメノウの顔にダモクレスの手が伸びる。高電圧のアイアンクローが彼女の顔を捉える直前、ダモクレスはのけ反った。背後から首を締め上げた朝倉・ほのか(フォーリングレイン・e01107)は機体を引っ張る。
「貴方の相手は私です」
 直後、持ち直したメノウがダモクレスの胴を一閃して飛び下がる。上体を後ろに大きく反らし、虚空を舞うヨタロー側面に着地したシュテルンを呼んだ。
「シュテルンさん! やったれ!」
「オラァァァァッ!」
 ヨタローからの飛び蹴りがガラ空きの胴体を狙って直進! だがダモクレスは全身から電気を放ち感電したほのかの緩んだ腕をつかんでシュテルンに投げた。慌てて足を引っ込めるシュテルンとほのかが空中で激突! こんがらがった二人を見上げ、跳躍予備動作を取るダモクレスの足が突如氷に包まれ、氷雨が降り注ぐ。局所的豪雨に触れた箇所が凍りつき、四方八方から伸びた氷柱が機兵を突き刺す。
「この地に蒼く縫い止めよ、凍れる楔よ……ってか?」
 氷塊と化していくダモクレスを観察しながら霧島・トウマ(暴流破天の凍魔機人・e35882)が白髪の頭をポリポリとかく。
「にしても、また襲われてるってなんだよ、ウチの兄貴じゃあるめーし……それに、男のヒロインにしちゃ可愛げが足りねえと……」
「悪ぃな、可愛げなくてよ!」
 戦場真っただ中のコンテナに飛び移った泰孝がジャンクアームをダモクレスへ突き出した。左右に開いた手の平からペールブルーの光を溜める砲塔が出現し、ビームをダモクレスに照射! 一瞬にして出来上がった氷を内部から爆散させたダモクレスはスピードスケートの要領でトウマに突進、唐突に制動をかけて上体を逸らした。胸をえぐりとるドリル状の炎。ダモクレスは飛んできた弘幸の左足を抱え込みんでジャイアントスイング! 弘幸をぶん投げ、前後から来る翼猫のチェシャとヨタローのタックルを連続側転を打って回避する。バク転につなげ距離を取るダモクレスに駆けたアリスの斬り上げをブリッジ回避したダモクレスは両手指をコンテナに食い込ませ、体勢復帰の勢いをつけてアリスに振り下ろす!
「ッ!」
 コンテナがアリスの脳天に直撃! 硬直するアリスの頭上から離れたコンテナが横薙ぎに振るわれ彼女を吹き飛ばし、ハンマー投げの要領で泰孝に飛翔した。舌打ちしつつ左拳を握り身構える彼の視界を埋めるコンテナの真上に舞うほのか!
「流星の如く」
 両脚をそろえた垂直降下キックがコンテナを地に叩き落とした。反動で再跳躍するほのかを見上げた泰孝は口角を吊り上げバウンドしたコンテナに発電するジャンクアームの拳を打ち込んだ!
「返却だ! 利子つけてやっから受け取りなッ!」
 カタパルトめいて射出されたコンテナがダモクレスに舞い戻る。電気を収束させた左腕で手刀を作った機兵はコンテナ砲をチョップで両断! 真っ二つに分かたれたコンテナの奥、現れた太田・千枝(七重八重花は咲けども山吹の・e01868)は左腕に展開した光の板にカードを並べ、ダモクレスを頭上に蹴り上げる。光の風を吹かせながら機械の胴に連続銃撃を叩き込み逆立ちして両脚で連続キック! マシンガンじみた連打の後に両手足を一気に縮める。
「篁流格闘術、『氷筍連蹴』ッ!」
 スプリングキックがクリーンヒットしダモクレスを空中にぶっ飛ばした。天高く打ち上げられた先には緩やかに横回転するシュテルン!
「篁流格闘術……」
 すぐそばに上がって来たダモクレスが体を丸め防御態勢を取るも構わず回し蹴りを繰り出す!
「『横雪』ッ!」
 蹴り飛ばされた機体が流れ星めいて斜めに落下! 落下地点に疾駆するメノウは歩兵銃に頬付けして引き金に指を引っかけた。床に掌底を打ちさらなる風を巻き起こしつつ千枝が叫ぶ。
「メノウちゃん!」
「オッケー! 食らえ『青鎌雨』ッ!」
 歩兵銃の銃口が三回瞬き青いビームを三発放つ。地上近くまで落ちてきたダモクレスはコンテナに手を当てブレイクダンスめいた回転蹴りでこれらを迎撃! 一足跳びに間合いを詰めたメノウは歩兵銃を宙に放って納刀したままの剣で支えとなる腕を横薙ぎに払いにかかった。
「篁流剣術、『月虹』ッ!」
 ダモクレスの五指が床にめり込み鞘の一撃を受けきった。二人の視線がかち合うと同時、ダモクレスの後ろから吹く風がメノウを押し飛ばす。ダモクレスがぐらつくのを確認した千枝は突き出した左手の平から突風を出し続けながら合図を飛ばす。
「トウマさん、今のうちに!」
「おう」
 クラウチングスタートめいた姿勢になり顔を上げたダモクレスの視界に両手を振り上げたトウマが飛び込む。手首から先を青黒い竜巻が覆い、電光が走る!
「ちょーっと不用意に近寄れないのは癪だがなァ! 昏き天より吼え立てよ、蒼き怒号よ!」
 両手が振り下ろされた瞬間青い雷撃がダモクレスを押し潰す! 浅いクレーター状に凹むコンテナに這いつくばり背面を大きく焦がしたダモクレスはトウマをにらみ上げカエルじみて跳躍ボディブロウを打ち込んだ。
「ガハッ……!」
 空中でくの字に折れ曲がったトウマを殴り飛ばした機兵の足がグンと引かれコンテナにたたつけられた。ダモクレスの片足を右手でつかんだ泰孝の、釘バットの如く剣を生やしたジャンクアーム振り下ろしを横に転がって回避し床を両肘で打って浮遊。背中をしならせハンマーパンチで泰孝の脳天を殴打する。お辞儀体勢になった彼の後頭部にかかと落としを狙ったダモクレスの顔面に子猫のチェシャがへばり付き、弾丸めいて飛翔した氷の刃がダモクレスの胸に突き刺さった。泰孝の後方、頭から血を流したアリスがつまづきかけながら疾走! 剣に薔薇色のオーラが灯る。
「卜部さんは、色々しょうがない人だけど、こう見えて大事な仲間だから」
 アリスは逆十字の剣閃を描き十字架の中央にジャベリンめいて逆手に構えた剣を突いた。
「殺させない」
 十字の中央から強まるローズピンクの光をほとばしらせた刃はレーザーめいて一直線に伸びジャンプしたチェシャの足元をかすめてダモクレスの左目を貫通! ダモクレスを挟んで反対側に立ったメノウの歩兵銃銃口に吸い込まれ、紫がかったピンクの光に変化する。
「篁流射撃術……『餓鬼雨』」
 再射出されたビームをダモクレスは首を傾げて避け、ぶん回される泰孝の巨腕を跳躍回避! 泰孝の額をドロップキックで蹴り飛ばしたダモクレスは一回転して着地しシュテルンの急降下パンチを受け止めて腕をねじ折り、エルボーでアイシールドを破壊する。のけ反るシュテルンに対する追撃のアッパーが放たれる直前、彼女の体が真後ろにすっ飛んだ。緋袴の裾から伸びるウィンチのワイヤーを引き戻した千枝は拳銃でダモクレスの足元を銃撃! 甲高い音を響かせたコンテナが橙色に変色し赤熱、横っ飛びで離れた機械の足場をぶち抜いて飛び出した弘幸は左足の先に生成した溶岩じみた物体をダモクレスに蹴る! パックマンのように口を開いた溶岩弾をダモクレスはちゃぶ台返しの要領で足場のコンテナを投げ出して防いだ。コンテナを噛んだ溶岩弾を貫く弘幸のキックがクロスガードに衝突した次の瞬間、二者は拳打と足技の高速応酬を開始した。赤と緑の火花が散る中、弘幸の鼻先に掌底が、ダモクレスのこめかみに膝蹴りがクリーンヒット! 踏ん張りが利かず吹き飛ばされた弘幸を追うダモクレスは拳を握り電圧を強化。繰り出された一撃はしかし割り込んだほのかの大鎌に防がれた。
「届かせる訳にはいきません。その力を奪います!」
 妖しく光る大鎌が手甲伝いに緑雷を吸収していく。ダモクレスは強く踏み込んだ足でほのかの鳩尾を蹴り上げその身を浮かせる。
「うっ……ぐっ!」
 大鎌を握りしめ、ほのかは縦横に飛び交う蹴りの連打を耐え忍ぶ。鼻血を親指でふき取った弘幸が千枝の風を受けて治癒される泰孝を見、紫煙を吐くように溜め息を吐いた。
「お熱い奴に好かれたもんだな。いっそ抱いてやったらどうだ」
 軽口を叩かれた泰孝は風をまとって立ち上がり、不敵に笑う。
「俺は清純派なんでな。つか、お前こそ年下の女の子に守ってもらっただろうが。今」
「女の影に隠れた訳じゃねぇ。使える物は使うってだけだ。……さてと」
 地獄の足から火の粉を散らし、弘幸は身構える。
「そろそろ大人しくなってもらうか」
「だな。とっととフッて飲みに行こうぜ!」
 離れた位置のアリスとメノウが呆れ顔を作る。苦笑いをぬぐった千枝は銃をダモクレスと斬り結ぶほのかに向けた。
「朝倉さん、決めに入ります! 篁流回復術!」
 銃口に光の風が渦巻いて吸い込まれると共に引き金を引く!
「『東尋坊』っ!」
 暴風の弾丸が潮風を裂いて吹き荒れほのかに命中、全身を包み込んだ。横一閃でダモクレスを弾いたほのかは真っ直ぐ構えた鎌の柄に人差し指を触れさせる。
「合わせます。一気に畳みかけましょう。……エンハンス、解放」
 柄をなぞり上げると同時に鎌が緑の電撃を放射! とっさに防御態勢を取って踏ん張るも雷に呑まれ、後ろに押されるダモクレスの左右にシュテルンとアリスが挟む。
「何度も襲われたり、若い女性に集ったり、襲われたそばからお酒を飲んだり……やれやれですね」
「本当。あの人に惚れたら苦労するわね」
 千枝の風を受けた二人の傷が瞬く間に修復された。電撃が止み、ガードを解いたダモクレスに長剣と鉄拳が肉迫!
「でも、言った以上は必ず助ける。仲間だもの。一応」
「やれやれ……」
 直後、拳と剣閃のラッシュが弾けた。嵐めいた乱舞を左右それぞれの腕でいなし、残像を引きながら回避を試みるもかわしきれず表皮と氷と黄鉄鉱の破片を散らす。裂帛の気勢!
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」
 徐々にかけ始めた機体が血飛沫めいて緑色の電気を漏らす。拳と剣を裏拳で逸らしバックジャンプするダモクレスの背中にヨタローの体当たり! 無理矢理追い返されたダモクレスの掲げた両腕に二人は得物を振りかぶる!
「オラァァァァッ!」
「はッ!」
 片腕に拳がめり込み、もう片方を刃が貫く。強引に腕を押し開いたダモクレスは挟撃を押しのけて前にダッシュ! 頭上にジャンプしたメノウが歩兵銃を下方に向けた。
「逃がすか! 『凍白雨』!」
 雨のように撃ち出された銃弾を掲げたガントレットで防ぎ、鋭い刺突を白羽取りで受け止める。がら空きなった懐に踏み込む低姿勢でトウマ!
「もらって行くぜ、腕と足!」
 トウマの両手首に荒ぶ嵐が千枝の風を巻き取ると同時に彼の両腕が青黒く閃いた。ダモクレスの両肘と両膝を砕き両の爪先を斬り飛ばしたトウマは拳を大きく後ろに引いて、腕に宿る嵐を強化!
「ぜああああッ!」
 稲妻じみた右ストレートがダモクレスの顔を撃ち抜く! 大きくノックバックする機械兵の背後に風をまとった弘幸がムーンサルト着地。左足を激しく燃やしながら引き絞って繰り出された渾身のキックの衝撃が背中から胸まで響き、機体を大きく吹き飛ばした。円弧を描いて降ってくるダモクレスを見上げた泰孝は右手のコインを左腕に組み込む。ガラクタの腕が金色に輝き始める!
「持つべき者は金と助けてくれる仲間だよな。ストーカーじゃなくてよお。……っつーわけで三下り半だ。持っていきな!」
 巨腕のアッパーカットが胴体に直撃した。一層まばゆく腕の接地面からダモクレスの体が黄鉄鉱に変化していき、体全体を変質させる。黄鉄鉱の彫像となったダモクレスの顔はヒビ割れ、拳が振り抜かれると共に粉砕された。


 修復されたコンテナが空いた隙間にぴたりと収まる。辺りを見回し、ほのかはほっと胸をなでおろした。
「皆さん、お疲れ様でした。無事で何よりです」
「いやあ助かったぜ、ホント。俺一人だったらマジで死んでた」
 そう言って軽く笑う泰孝に、コンテナに背中を預けた弘幸が釘を刺す。
「タダじゃねえぞ。忘れてないだろうな?」
「わーかってるって財布も落としてねえから今からだって行けるぜ。てか、飲んでくか?」
「卜部さん、良かったわね」
 泰孝の表情が一気に強張り、青ざめて汗を流し始める。背後霊めいて背中に回ったアリスはジトッとした目つきでささやいた。
「これで心置きなく、若奥様のところに帰れるわ。まさかもらったお小遣いで人にお酒飲ませたり、朝帰りになってりするなんてないでしょうしね?」
「………………なあお嬢? まさか密告するなんてそんな事はしないよな? しないって信じてるぜ、俺は。そんな酷い奴じゃないだろ?」
「密告されたい?」
「やめろやめてくださいマジで。また首絞められる」
「いーじゃん別に。首輪つけてもらえば?」
「メノっち、たまには優しくしてくれたって良いと思うぜ。こないだ見捨てたわけだし今回ぐらいはな? 良いことしたってバチはあたんねーって」
「知らん。あ、千枝ねーちゃん、帰りはお供する。夜道危ないし」
「ありがとうメノウちゃん。折角だし、何か買って帰りましょうか」
「メノっちー! 聞いてるかー! メノっちー!?」
 背後から離れたアリスが呆れ顔のトウマとシュテルンの真横を横切った瞬間、小さなつぶやきが漏れた。
「……まあ、他にも敵はいるっぽいから、これでお終いにはならないかもだけど」
「え?」
 トウマが驚きアリスを振り向く。手を振って悠々と立ち去る彼女の背中に、頬を引きつらせながら問いかけた。
「え、ちょっと待て。……この後また、なんとことは、ねーよな? ……ねーよ、な?」
「……やれやれ」
 シュテルンの嘆息が、潮風に紛れて消えていった。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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