避暑地に平和を取り戻せ

作者:黄昏やちよ


 全国的に暑い日が続き、外を歩くだけで汗がだらだらと流れてくる。
 人々は冷房機器を使用したり、避暑地に移動したりとそれぞれの暑さ対策を行っている。
 避暑地にて。東京から移動を終えたばかりの家族が話をしている。
「ふぅ……ここはまだあっちよりマシね」
「そうだね。思ったよりも人が多いけど、娘や息子のことを思うと遊ぶ相手がいたほうがいいんだろうし」
 父親と思われる人物が、遠くで別の子供たちと遊ぶ自分の娘と息子を見ながら言う。
 そんな時だ。静寂を破るように、公園の真ん中に巨大な牙が突き刺さる。その牙が、鎧兜をまとった竜牙兵へと姿を変えた。
「ギャハハハハ!」
「サア、オマエたちのグラビティ・チェインをササゲテモラオウカ!」
 子供たちの泣き声、親が自分の子供の名前を叫ぶ声、竜牙兵に襲われ助けを乞う声……平和だった避暑地に悲痛な叫びが響く。
 公園は、血と臓物で溢れかえる。


 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が予知された事件について告げる。
「レイラさんの調査により、ひとつの事件が予知されました。避暑地に竜牙兵が現れ、人々を殺戮することが予知されました」
「たくさんの家族が訪れる場所ですの。絶対に守ってみせますわ!」
 皇・露(記憶喪失・e62807)が力強く頷きながら言う。
「真っ先に狙われるのは小さな子供たちです。急ぎヘリオンで現場に向かって、凶行を阻止してください」
 セリカは悲痛な面持ちでケルベロスたちに訴えるように言う。
 竜牙兵が出現する前に周囲に避難勧告をすると、竜牙兵は他の場所に出現してしまう。
 その場合事件を阻止する事ができず、被害が大きくなってしまう。
「皆さんが戦場に到着した後は、避難誘導は警察などに任せられるので、竜牙兵を撃破することに集中してください」
 続いてセリカは竜牙兵についての情報を伝える。
「出現する竜牙兵の数は3体です。3体のうち2体が『ゾディアックソード』を装備しており、1体が『簒奪者の鎌』を装備しています」
 ケルベロスとの戦闘が始まった後は、竜牙兵が撤退することはない。
 竜牙兵の数は3体であるが、強さは大体ケルベロスと同等程度であるため、あまり油断はできない。
「竜牙兵による虐殺を見過ごす訳には行きません。どうか避暑地に訪れた人々を救ってください」
 セリカはそう言い、ケルベロスたちに深々と頭を下げた。


参加者
レクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)
相良・鳴海(アンダードッグ・e00465)
天津・総一郎(クリップラー・e03243)
レイアーク・ロンドベル(悪戯な輪舞曲・e22359)
九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)
皇・露(記憶喪失・e62807)

■リプレイ

●ある昼下がりのこと
 その日はとても暑かった。じりじりと肌を焼くような太陽。
 外を歩くだけでだらだらと流れてくる汗に、着ている衣服はぐっしょりと濡れてしまう。
 とある避暑地にて。その避暑地には公園があり、子供たちの遊び場などになっていた。
 静寂を破るように、公園の真ん中に巨大な牙が突き刺さる。その牙が、鎧兜をまとった竜牙兵へと姿を変えた。
「ギャハハハハ!」
「サア、オマエたちのグラビティ・チェインをササゲテモラオウカ!」
 竜牙兵たちの下卑た笑い声。予知通りのセリフを吐いて、そいつらは現れた。
 その中の2体が笑いながら、逃げ遅れた子供に武器を振り下ろそうとする。
 ガキィン!キィン!と2度の金属音。振り下ろされた武器は子供を切り裂くことはなく、あるケルベロスたちによって、それは遮られた。
「どこを見ている。貴様らの相手は我々だ、竜牙兵」
「胸糞悪くなるようなことしてんじゃねぇよ!」
 カジミェシュ・タルノフスキー(機巧之翼・e17834)と相良・鳴海(アンダードッグ・e00465)が子供と竜牙兵との間に割って入り、己の武器と制圧射撃のグラビティで竜牙兵の剣を止めてみせた。
 守った子供たちを竜牙兵から遠ざけるようにしながら、血相を変えてこちらに走ってきた保護者のもとへとかえす。
 そこにレクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)が翼を広げて現れ、竜牙兵たちの注意を引く。
「皆さん落ち着いて避難を。公園も楽しい時間もすぐに取り戻しますので、ちょっとだけ待っていてくださいね」
 レクシアが一般人に向けて声をかける。パニックになっていた人々であったが、ケルベロスたちの登場によりやや落ち着きを取り戻し始めた。
(「まさか本当に避暑地に現れるなんて……今度も露たちが守ってみせますわ!」)
 皇・露(記憶喪失・e62807)は自身の調査によって予知された事件を目の当たりにして、足を震えさせながらも心の中で自分自身を鼓舞する。
「さぁさぁ、悪いことする輩は綺麗さっぱりやっつけてあげよーかな?」
 レイアーク・ロンドベル(悪戯な輪舞曲・e22359)が公園近くの森から現れる。
 そこに警察官たちが到着し、一般人の避難誘導を開始する。
「一般人の避難は頼んだ!」
 ギルフォード・アドレウス(咎人・e21730)が武器を構えながら、警察官に向かって叫ぶ。
(「公園が避暑地って意味かと思ったが……避暑地にある公園ということだったとはな」)
 天津・総一郎(クリップラー・e03243)が首のあたりを掻きながら、心の中で疑問に思っていたことをぽつりと呟いていた。
「この暑さの中、どこに人が集まるか知っているとは。意外と賢いね、竜牙兵」
 九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)が、竜牙兵の行動について一言褒めてみせる。そして言い終わった後に、言葉を続けた。
「雷光団第一級戦鬼、九十九屋 幻だ。手合わせ願うよ!」
 幻が言うと、各々戦闘態勢に入った仲間たちが竜牙兵に向かっていく。
 避暑地の平和……もとい、避暑地にある公園の平和を取り戻すため、戦いの火蓋は切られたのである。

●平和を取り戻すために
 警察官たちの誘導により、その場を離れていく一般人を横目に竜牙兵がケルベロスたちの方に向かってくる。
「ケルベロス……まずはオマエたちからドラゴンサマのカテとナレ」
 竜牙兵が手に持った大鎌を振り下ろす。標的となったのは、カジミェシュだった。命中したものの、ディフェンダーの彼にとってその攻撃はさして問題にはならないものだった。
「甘い。その程度で倒せるとは思わん事だ」
 攻撃を受けたカジミェシュが竜牙兵を挑発する。
 挑発されカジミェシュに意識が向いている竜牙兵に、レクシアが遊具を利用し勢いをつけた飛び蹴りを炸裂させる。意識がそちらに向いていたことと勢いも相まって、竜牙兵は吹っ飛んでいく。
「油断なさってはいけませんよ」
 にっこりとレクシアが笑う。聖母のような柔らかな微笑みであったが、竜牙兵たちにはそう映らなかったかもしれない。
「クソクールビズ野郎どもめ……もう十分涼しそうな格好してんだから、こんなとこ来てんじゃねぇよ」
 鳴海が竜牙兵を激しく切り裂いていく。似たような武器で切り刻まれるなど、屈辱の極みであろう。
「ガァッ」
 飛び蹴りを喰らわされ勢いよく吹っ飛んだ後に、鎌で切り刻まれた竜牙兵は苦しそうに声を漏らす。さりとて、ケルベロスたちは容赦などするわけもなく。
「これで元気づけてやるからよ、ガツンと一発デカいの頼むぜ!」
 総一郎が収穫期の稲穂を思わせる黄金色のオーラを放つと、前衛に立つ味方の傷を回復すると同時に、その者の秘めた力を引き出し攻撃力を上昇させていく。
「ハートにハードなビートを刻む技だ!」
 総一郎がニッと笑ってみせる。
「穿つ……打ち抜けっ!」
 総一郎の支援を受け、ギルフォードが指先から電気を帯びた糸を発生させ、勢いよく竜牙兵に突き刺した。
 息をつく暇もなく、繰り返されていく攻撃に竜牙兵はされるがままとなっている。
「グッ……! ユルサンゾ……!」
 現れた時とは比べ物にならないほどボロボロになっている鎌を持った竜牙兵。それはそうだ。集中的にケルベロスたちの攻撃を受けているのだから。
「くひひッ……! 許さなくて結構だ」
 捨て台詞のような言葉を吐く竜牙兵に向かって、幻が走り出す。ジグザグに変形させたナイフで、竜牙兵を切り刻んでいく。
「グァ……アアアア!」
 その一撃で、竜牙兵が崩れ落ちていく。鎌を持った竜牙兵は地面にひれ伏したかと思うと、消えていった。
「このタイミングでの行動とは……おおかた、熊本の陽動か何かだろうが。見逃す訳も無いだろうが」
 竜牙兵を両目でしっかりととらえながら、カジミェシュは言う。
 彼の相棒であるボクスドラゴンの『ボハテル』と連携し、味方に回復を施していく。
 カジミェシュとボハテルのしっかりとした連携により、回復は過不足なく行われていく。
「ちゃんとついてこれるよね?兄さん!」
 レイアークが詠唱する。一撃一撃が死角からの急所攻撃でありラストを飾るのは止まぬ弾丸の十字砲火で、残る2体の竜牙兵の片割れを攻撃する。
 ウイングキャットの『下僕三号』は、前衛でふよふよと浮かんで前衛の邪気を羽ばたきで祓っている。
「頭の悪そうなガイコツさんたち、この露がお相手してあげますわよ?」
 恐怖か武者震いか震える体で、露は竜牙兵を挑発しながらレイアークが攻撃した個体に雷を放つ。
「ギッ」
 奇声とも悲鳴とも聞こえる声をあげる竜牙兵。
 攻撃され個体とは別の竜牙兵が剣を構えて飛んでくる。鳴海に飛びかかろうとする竜牙兵の間に、総一郎が割って入る。
「いってぇ!」
 鳴海の代わりに斬られた総一郎。彼もディフェンダーとはいえ、斬られた傷は痛いものだ。じんわりと血が滲む。
「余計なことすんじゃねぇ……!」
 自らの代わりに傷ついた総一郎に眉をひそめながらも、その心の内では仲間を心配しているのだろう。
 仲間を傷つけた竜牙兵を、伸ばした如意棒で真っ直ぐに突く。ドスッと鈍い音がして、竜牙兵は後ろに飛んでいく。
 間髪入れずに、カジミェシュが右手に持ったSlojで達人の一撃を放つ。サンドバッグのような状態となっている竜牙兵。
「サーヴァントの下僕3号くんは、ディフェンダーで永遠と清浄の翼でもしててね!」
 レイアークの指示通り、下僕三号が傷ついた味方を癒していく。
「これが終わったら、金持ち気分を味わうために公園散策する予定があるんだよ!」
 そう叫びながら、総一郎が竜牙兵に一撃を食らわせる。
「グッ、アアアア」
 咆哮。ゆっくりと倒れていく竜牙兵。その個体も、先に倒れた個体のように消えていった。
「あと1体だね! くひひ! 集中していくよ!」
 幻が声をあげた。こくりと頷くケルベロスたち。
 レイアークが高速の回転斬撃で残った1体の竜牙兵を薙ぎ払う。
「はあああああーーー!!」
 露が掌から発生させた高エネルギー体を拳に纏ませ、竜牙兵を攻撃する。
 その後、間髪入れずギルフォードが竜牙兵の傷跡を正確に斬り広げていく。
「さあ、これで最後です!」
 レクシアが声をあげる。
「吹き抜ける風と燃え滾る想いに枷は要らない!」
 背中から両翼の地獄を最大火力で噴き上げ、竜牙兵へと駆け抜ける。姿勢は低く低く、風に乗り地獄を操り、熱情と共に何処までも対象を追うその姿はさながら疾風の魔弾のようだ。
 そして、最後の竜牙兵も地に伏せた。ゆっくりと消えていくそれを見て、戦いが終わったのだと確信する番犬たち。
 それぞれ武器をしまい、深く息を吐く。
 近くに森があるからだろうか、車が殆ど走っていないからだろうか。
 空気が澄んでいておいしい、とその時初めてケルベロスたちは感じたのだった。

●平和なひと時
 戦いによって荒れてしまった公園をヒールし、ケルベロスたちが片付けている。
「露さん、そちらを持っていただいても構いませんか?」
 公園に散らばった瓦礫を持ちながら、柔らかい口調でレクシアが言う。
「勿論ですわ! 喜んで手伝わせて頂きますわ!」
 露はレクシアの反対側に立ち、瓦礫を持ち上げる。2人で力を合わせながら瓦礫をどかしていく。
「疲れているだろうに、手伝わせてしまってすまないねえ……」
 公園の管理人の老人が、レクシアと露に深々と頭を下げる。
「いえいえ、当然のことをしたまでです」
 老人の目線に合わせてかがむような体勢で手を胸の前で横に振りながら、レクシアは言う。
「よかったら、あとで私の家に涼みにおいで」
 老人はにっこりと人の好さそうな笑顔をケルベロスたちに向けて言うのだった。
「ああ、悪いな爺さん」
 ギルフォードがぶっきらぼうな言い方で老人に礼を言う。何処か素直じゃないギルフォードのことだ。精一杯のお礼の言葉なのかもしれない。
「なあ、俺考えたんだけど」
 総一郎が傍にいた鳴海とカジミェシュに向かって話しかける。
「手短に頼むぜ」
 鳴海が若干ドライとも捉えられるような言い方で返事する。
「例えば、暑さと喧騒を避けてここに来た家族の中に体の弱い女の子がいて『ここは涼しくていいわ』とかと言って犬の散歩とかして、ひょんなことから俺とバッタリ出会っちゃって、そしてそれが運命の出会いで俺たちは恋に落ちてもおかしくないよな!」
 まくしたてるように、総一郎は息継ぎせずにそう言った。瞳は21歳の青年の輝きを見せている。
「なるほどな。面白い発想だな」
 カジミェシュが感心したような声を出し、総一郎の話を聞く。
「いや、総一郎……暑さでどうにかなっちまったんじゃねぇか?」
 鳴海の鋭いツッコミに総一郎が返す。
「いや別に暑さで脳がやられてるわけじゃねーし! つーかオトナのオトコにも出会いは欲しいんだよ……」
 切実な声を出す総一郎に対し、鳴海とカジミェシュは苦笑いを浮かべるのだった。
「くひひ……避暑地というのは、読んで字の如くだな。なかなか涼しいな」
「そうだねー。天才美少女レイアークちゃんの前に、暑さなんて殆ど意味をなさないけどね」
 幻とレイアークが木陰で涼みながら話している。
 太陽がゆっくりと傾き始めている。ケルベロスたちの活躍により、平和が訪れた。
 明日もまた子供たちが、この公園で楽しく遊ぶだろう。
 かくして、避暑地の平和は取り戻されたのであった。

作者:黄昏やちよ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 1
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