●パラメディカル・トラップ
陽が落ちかける時間でも暑い。
まだ空気が冷える様相など無い時間、狗上・士浪(天狼・e01564)は暑さから逃げる為にビルの隙間へと入った。
ぬるりとした生ぬるい風が頬を撫でる。決して心地よくないそれに思わず舌打ち一つ。
と、段々とその道は細く狭くなり――入る道を間違えたかと思う頃、士浪はぽっかりと開けた場所にでた。
雑然と立ち並んだビルが生み出した隙間とでもいうのか、不意に現れた空間は違和感しかない。誰かが捨て置いたのか、端には廃材が乱雑に重なっていた。
「……道、間違えたか? いや……あってるな」
入る道を間違えたのかとふと思ったのだが、そうではなかった。
嫌なもの、忌避感というものが否応なくある。
本能的に、反射的にだろうか、士浪は身構えた。
けれど、何も起こらない。何も出てこない。しかしこの場に何かがいるのは間違いないと感じていた。
警戒しつつ、その嫌な気配というものを探り出す。
そしてそれを一番感じる方向に視線を向けた瞬間――くすくすと笑い声が響いた。
「気付かれてしまいましたか。ええ、でも敏いのは良い事。嫌いじゃないわ」
積まれた廃材の後ろからそれは姿を現す。
鮮やかな色、夕暮れよりも赤い髪色の、青い瞳の女。
その女は薄桃色のナース服を身に纏い、ぱっとみて看護婦とも思える。
けれど、その姿でこの場にいるのは似つかわしくない。違和感しかなかった。
「ワタシの問診にいくつか答えてくださる? その後、治療させていただくわ」
そう言ってゆるりと動いた左手。その一部が開いて幾つもの機械の手が現れる。その手には注射器が握られており今にもそれを刺そうとするそぶりさえ見える。
「ダモクレス……」
士浪はその機会の腕を見て零す。どうして今ここにこうして現れたのか、それはわからない。
が、確実にわかるのはこの目の前の女は敵であるという事だ。
「ふふ、治療したら軽い体調不良から始まり最後は……それはお楽しみにしましょう」
けれど、まずアナタが素体とするに十分な資質を秘めているのか。その判断からと女は笑っていた。
逃げる事は、おそらく難しい。そもそもそうしようと士浪は思わない。
どうやってこの場を切り抜けるか――考えながらもその身は、何時でも動けるよう今以上の臨戦態勢を取っていた。
さぁ、治療を受けてと無機質に声は響く。
●予知
「ナースのおねーさんがしろーくんに絡んでる……!」
夜浪・イチ(蘇芳のヘリオライダー・en0047)の慌てた声に、人のプライベートをとザザ・コドラ(鴇色・en0050)は思ったのだが、似たような物言いが前にもとふと思う。
「それで、どう絡まれてるの?」
「絡まれているというか襲われる、ダモクレスに」
「ややこしい言い方を、しない!」
怒られながらイチはダモクレスのデウスエクスに士浪君が行き会う事を予知したのだと言い直した。
「連絡を取ろうとしたけどできなくて。場所は、俺がすぐに送っていくからいける人は手を貸してほしいんだ」
ビル群の間にある空地。そこにビルの間を抜けて向かうのは時間がかかるので、真上に止めたヘリオンの上から降下をとイチは言う。
場所はビルの合間にできた空地。人が近づくことはないような場所なので人払いは気にしなくて良い。
特に、戦いの邪魔となるようなものもない。
敵はダモクレス。ナース服、医療従事者のような格好をした女だという。
ビルの谷間の空き地にその格好は酷く不似合い。違和感しかないのですぐわかる。
「今から向かえば、士浪君を十分助けられると思う。彼には俺も、色々依頼受けてもらってるから……助けにいってほしいんだ」
この敵と、士浪君の関係はわからないけど狙われているのは事実だからとイチは続けた。
「任せて、ちゃんと助けてくるわ!」
そう言ってザザは尾で地を一度叩く。
頼もしいと紡ぎ、イチはヘリオンのドアを開いてケルベロス達を誘う。
急いで現場に向かおうと。
参加者 | |
---|---|
アルヴァ・シャムス(逃げ水・e00803) |
レカ・ビアバルナ(ソムニウム・e00931) |
疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998) |
狗上・士浪(天狼・e01564) |
リィ・ディドルディドル(悪の嚢・e03674) |
茶野・市松(ワズライ・e12278) |
アトリ・セトリ(エアリーレイダー・e21602) |
ルリ・エトマーシュ(フランボワーズ・e38012) |
●遭遇
日没にはまだ早く。けれどビルの合間に影が落ちるのは早い。
その中でその青い瞳は嫌に輝いて見えた。
目の前にいる、看護婦の様相の、女のダモクレス――これに対して狗上・士浪(天狼・e01564)は覚えがなかった。
どこかで出会ったことも、個人的な何か、因縁めいたものも。
そういったものを士浪はもっていなかった。
だからこそ、突然目の前に現れて抱く想いというのは、いつもデウスエクスに抱くものとあまり変わらない。
いつもと同じく戦うだけ。ただ、狙われただけだ。
しかし何故狙われたのか、思い当たることがひとつある。
「……そういや、病院とかにデウスエクスが紛れてねぇか調査してた時期もあったな」
ふと思い出す。けれど、接触した覚えはない。きっとその調査の縁がどこかでつながったのだろう。
「……自分が付け回されるたぁ思わなかったが」
「周囲を嗅ぎまわるという事は、使えるかもしれませんから、どれくらいお強いの?」
ひゅっと風切る音と共に突き出された注射器は士浪の身を穿つ。
その痛みに一瞬眉をしかめるが、士浪は踏みとどまる。
逆に笑って、堪えて見せた。
「……出会い頭に注射キメようと迫る奴ぁ、初めて見たぜ。それもナースの格好した人形ってんだからよ」
赤い瞳眇め、女を蹴り飛ばし距離を取る。視線の先、手に持つ注射器の中身の色は毒々しくそれを注がれたかと思うと嫌悪しかない。
「しかし、なんだ……どうせそいつの中身、まともな薬じゃねぇんだろ?」
「それはもうしばらくすれば効いてきますから、お楽しみに」
問いかけに女は笑って返す。治療するにもまず痛めつけてからですしと。
士浪は結局ろくなもんじゃねぇなと紡いで距離詰めた。
逃げる気はない。窮地ではあるが、しかし――大丈夫だと思える何かがあった。
そしてそれは上からくる。
数分前、話を聞いて現場の上空へと着いたケルベロス達。
最短で助けに行けるように、それぞれ準備を整えてきた。早く着けるように、そして視界を遮らぬ様にと装備も整えて。
ビルの合間、あそこだと見つけたのはアルヴァ・シャムス(逃げ水・e00803)だ。
「俺様に任せておきゃ、万事OK。んじゃま、行ってみようか」
ゴーグルをつけ、ヘリオンから飛び降りる。
「キヌサヤ、行くよ」
アトリ・セトリ(エアリーレイダー・e21602)が手を伸ばすと、ウイングキャットのキヌサヤはその腕の中へ。そのまますぐ、アトリも降下する。
「行きましょうか」
皆が降下する姿をルリ・エトマーシュ(フランボワーズ・e38012)は見て、次は私達と紡ぐ。
「ええ、ルリさん、いきましょう」
きゅっと妖精弓を握ってレカ・ビアバルナ(ソムニウム・e00931)は頷き、一緒に空へ。それにルリのウイングキャット、みるくも続く。
戦友の危機とあれば駆け付けぬわけにはいかない。
疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)も翼広げ空へ躍り出た。倒されているとは思わない。けれど急ぐに越したことはないと。
「背中は任せたぜ」
おう、とそれに応えたのは茶野・市松(ワズライ・e12278)だ。相棒の、ウイングキャットのつゆはその頭にしがみ付いている。
「これは……髪とかばっさばさになる……」
降下前、ザザ・コドラ(鴇色・en0050)の言葉にリィ・ディドルディドル(悪の嚢・e03674)は確かにと頷く。
「ザザ、あとでイチがどうにかしてくれるわ」
それを聞きつけたのか、やるよーと声が聞こえ。
いきましょとリィがぴょんと飛び降り、ザザも続く。そして二人のボクスドラゴン、イドとジィジも二人を追う。
空を滑るように降下して、距離は一気に詰まる。
●合流
女はふと、何かの気配を感じ周囲を見回す。そして、その視線は上へ。
このままいけるかしら、とリィはルーンアックスを構え、地に降りざまに振りかぶる。
だがその攻撃はすでに視界に入っていた為に避けられた。
女は士浪との間に割り入るように、上空から現れたケルベロス達によって状況が変わったのだどすぐに判断した様子。
けれど決して引く様子はない。
「おーっす、生きてっかー? 助けに来たぜ!」
からりと市松は笑って見せる。
「お前さんがくたばるなんちゃあ思ってねぇが無理は禁物だなあ。オレらも助太刀すっぜー」
ぱしっと掌と拳合わせ、市松も構えた。そしてつゆもやる気満々と羽ばたく。
「よぅ、士浪。生きてっか? ……生きてんなら、よし」
士浪の無事を確認し、ヒコは次に件の女へと視線向けた。
「お前もまた変なのに絡まれてんな」
そう思うのは先だって、己の出会った女の事を思い出してだ。
お前も女運無いなとヒコが零した声を拾ったのは市松。
「ヒコも散々だったもんな」
「お前もつゆも女にゃ気を付けろよ……何かと厄介過ぎるからな」
すると市松はひっかからねーよと笑い、つゆもにゃあと一声ないてぴしりと尻尾でヒコを叩いていく。
「狗上さんもとんだ荒療治に巻き込まれて災難だね。治療中済まないけど、邪魔させて貰うよ」
かまわないよねと言うアトリに士浪は頷く。
「間に合って良かったです……!」
お怪我はありませんか? とレカは問う。士浪が大丈夫だと頷いて返せば。
共に戦う――同胞として、貴方の盾にも矛にもなりましょうとレカは笑んだ。
「甘花の香りに乗せて、みなさんに癒しの光を」
そして士浪の上、重なり合うように淡い白光が重なり合い、色とりどりの花々が咲き乱れる。
その甘い香りは士浪を心身ともに癒していく。それはルリの紡いだ癒しだ。
もう大丈夫ですと、ルリは癒しながら朗らかに、穏やかに笑み向ける。
「看病されるにしても、あんな注射は嫌よね」
それともシローはああいうのが好きなのかしら、とリィが茶化せばそんなわけがないと一言落し、士浪はひとつ深呼吸をした。
「……わりぃ。助かった」
助けに来た仲間達へと短く放つ言葉。それは士浪にとっては珍しい率直なものだ。
そして改めて女と向き直れば、仕切り直しというようにあちらも距離を取っている。しかしその視線は値踏みするようなものだ。
「ワタシの診察、全員受けてくださるのかしら?」
それは願ってもないと女は笑って――構えた医療道具を放つ。けれどそれをリィと市松が叩き落とした。
それが戦いの再開の合図。
アトリとヒコが同時に動く。
己の身に纏うsubmissiveからオウガ粒子を。アトリの元から光輝くオウガ粒子が舞う。
ヒコも銀縷の力を借り、光輝くオウガ粒子を前列の仲間達へ。
女は狙いが定まり辛い。それは仲間達への助けとなる。
「人命を救う看護師さんの服装は、容易く着てよいものだとは思いません――偽りの治療処置は今日でお仕舞です」
レカは言って、竜鎚を振るう。砲撃形態――放たれた竜砲弾の衝撃は女の足をその場に留めるものだ。
続けて、踏み込んだリィがルーンの力もって光り輝く月斧を振り下ろす。
当たるかどうか、今はまだ五分五分といった所。女はそれをいくつかの手でもって受け止めた。
そこへイドも攻撃と竜の吐息を放つ。つゆも羽ばたきを送り、皆の援護を。
しゃらんと音を奏で、市松の操る猟犬の鎖。それは女に撒きついて動きを一瞬、留めた。
流星の煌めきと重力を以て飛び蹴る。だがそれを鎖を払い、そして一歩後ろに引いて女はかわした。
舌打ち一つ零したのはかわされた士浪。
けれどそれも、おそらく今だけ。女の動きを制するように、攻撃を重ねていくいるのだから。
その横からひゅっと風切る音と共に繰り出された脚。
アルヴァの脚は女の横面を電光石火で捉えていた。手応えは確実にあり響いている。
女は攻撃受けつつ、すぐさま態勢整え攻撃をかけてくる。
その手に注射を持ち、狙うのは士浪だ。
しかしその間に割って入ったのは市松。向けられた注射器の針をその身で受け止める。
「ここでくたばってもらっちゃあ顔向けできねぇなあ」
一撃で倒れるという事はない威力。けれど無事連れ帰ると約束した相手の事を市松は思う。
それはふとその約束相手思い描くような風も吹いたような気もして。
前列の狙いは高まっている。それならとルリは後列へとカラフルな爆発起こし鼓舞を。それに合わせてみるくも清浄なる翼での羽ばたきを。
その間にザザは市松の傷を癒し、ジィジも攻撃仕掛けていた。
攻撃をかければ、女は避けるが射手の位置にある者達からの攻撃は届く。
足を鈍らせ、そしてこちらの精度を上げていけば次第に攻撃は届くようになっていく。
今はまだ仲間への援護をとアトリは縛霊手より紙兵を撒く。
それらは阻害を払う力を秘め、仲間達を守るようについていく。
キヌサヤも、ルリとザザを手伝って癒しの力を振るっていた。
「まだ、もう少し――その足を止めさせてもらいます」
女はまだかわす。それなら一層、その足を鈍らせるだけ。
レカはエクトプラズムで大きな霊弾を生み出した。
女にその霊弾があたる。
今は回復の必要もないとレカの攻撃の直後に合わせて、ルリも仕掛ける。
高速で回転しながら突撃かけるとともに女の守りを砕いていく。
ルリの影から飛び出すように、リィは下段から足を振り上げ急所を蹴り上げた。
鈍い音と共に、それを受けた衝撃で手の一つが折れる。手にしていた注射器は地に落ち、砕ける音が響いた。
「生死の苦海ほとりなし」
居合に特化した斬霊刀へとアルヴァは手をかける。その抜刀の瞬間、眩しい煌めきと共に放たれた斬撃。
その斬撃は女の傷の上を走り一層、それを深めていく。
堅牢なる銀花は拳に咲く。ヒコはその拳を女へと迷いなく向ける。
「仕掛ける相手の力量すら見抜けぬなんて欠陥もいいとこだ」
なぁ、とヒコが視線向けた先には士浪がいる。
今度は――間違いなく外さない。竜鎚振り下ろす瞬間、それは確定する。
士浪が振り下ろす竜鎚は進化可能性を奪う。超重の一撃は女の機械の手、その一つを凍らせ動かなくしていた。
「診察の邪魔をされるなんて」
舌打ち交じりの声。女は不快を露にしている。
それは少しずつ、相手を追い込んでいる印だ。
●看護婦の終わり
攻撃が当たるようになればケルベロス達が女を押し切る方が速い。
アトリも攻撃に加わるべく動く。
積まれた廃材の上へとんと一足、身軽にあがりながら狙い定めつつ。
「唸れ、氷鱗纏う気高き龍の魂……冥き刃に載せて命脈の刻を絶つ」
リディニークの鱗を一枚あしらった壮麗な首飾りへと、アトリは自身のオーラを送り込む。
すると紫黒色纏う氷のオーラが生み出され、アトリは影の刃へとそれを載せた。
アトリが影の刃を振るい斬り裂けば、その熱も奪い去る。
宛ら命の刻を凍らせんかの如くだ。
その身を凍らせながら、女は医療器具をばらまく。
それは後列に向かって投げられたものだ。
「ザザさん、私が癒します」
自身攻撃受けつつも、ルリはすぐさま癒すべく、無駄にならぬように声かける。
その声にザザは頷いて、他にできる事を。
ルリは爆破スイッチをぽちっとし、傷を癒すとともに鼓舞を。
その鼓舞を受けながら近くの壁蹴ってアルヴァは上を取る。
そのまま、斬霊刀ふたふりを揃えて構える。
「くらいな、クソ野郎!」
勢いつけて身体捻りつつ空で振り下ろせば衝撃波がふたふりから放たれる。
綺麗に走る衝撃波は女の上を通りゆく。
「さすがお猿さんの動きね」
リィはそれが走りきるのに合わせて踏み込んだ。踏み込みつつ、その耳には猿って言うなとアルヴァの声が届いていた。
月斧を握って構えて、一歩跳ぶ。ルーンの輝きを振り下ろせば、それは深い傷となり女は一歩後ろへと後退した。
そこへ地を滑る、その熱を以て市松が飛び蹴れば、女の身の上で炎が巻き上がる。
小さな悲鳴と共に女は呻く。
焼けた装甲は剥がれ、瞳には敵意。
もうすでに、追い込まれ余裕もなくなっているのだ。
「悪いが此奴は今のままで最高だ。余計な手は必要ねぇってのを俺が証明してやる」
視線合わせ、ヒコは紡いだ。戦友がここで負けることなど無いと信じているからこそ。
とんと地面を蹴って、ヒコが放つ一蹴は涅槃西風を纏う。
甘き痺れは一途に、女の心身を蝕んで鈍らせる。
「外しません。どうか、お覚悟を」
番えたのは凍てつく氷の矢。それは一矢ではなく、レカは連続で放っていく。
冷たいそれは機械の身であっても凍らせその感覚を鈍らせていた。
女の態勢が崩れる。その身に纏う氷結もなにもかも、女を縛るものだ。
その腕より生じたいくつかの腕はすでに壊れ、崩れている。
「解体……なんて、温い事は言わねぇ。粉砕してやんぜ」
一歩、重さ乗せて踏み込む。
その身、全てに滾るはグラビティ・チェイン。身の内を荒れ狂うような力の奔流は士浪の肉体を活性化するが、それには代償もある。
活性化による反動を無視して女の懐へと肉薄し、向けるのは固く握り締めた拳だ。
「――只管に喰らい尽くせ」
零距離から繰り出す、無数の乱打は女の身が崩れ落ちる事を許さない。
拳受ける度に砕けるのは女の身。
「何処でつながった縁か知らねぇけど、相手が悪かったな」
機械の身は砕け、最後に交わす言葉も無く――そこに残るものは何もなかった。
●帰途
ダモクレスの女を倒し、士浪は深く息を付く。
目の前で砕け、崩れたダモクレス。知らぬ間に繋がった縁はここで、途切れたのだ。
一人では勝てない相手だった。しかし助けが来たからこそ、切り抜けられたのだ。
「……なんつーかよ。とりあえず、ありがとよ」
礼を言うのは少しばかり恥ずかしい。真っすぐ皆を見るのはと視線逸らせつつ士浪はあーと声零した。
「……落ち着いたら腹減ってきたな。どっかで飯にすっか。クタクタだ、マジで」
緊張し張りつめていたものがなくなれば気も緩む。
「それは――士浪さんがおごってくれるということ? そゆこと?」
と、ザザが尻尾を躍らせた。するとヒコが士浪のおごりかと、それに乗ってにやりと笑む。
「そういや、いつも戦いの後に飯なんて余裕持てない戦いばかりだったな。ごちになろう」
「……おごるとは言ってねぇ」
けれど、まぁ今日くらいは――と思ったものの。
にゃあと一鳴きするキヌサヤは、それは自分も一緒に行くと言っているよう。
「狗上さん、キヌサヤも一緒に良いかな?」
アトリの腕の中、キヌサヤは尻尾を揺らしてすでに楽しみな様子。
「そういえば……ちょっとお腹すきましたね」
無事、戦いが終わりほっとしたらとレカははにかむ。
するとルリもそうですねとほにゃりと柔らかな笑み零し、みるくも同意するように一鳴き。
「シローのおごり。リィはおいしいものがいいわ」
「美味い物には美味い酒も必要だぜ」
リィの言葉にアルヴァは頷き、なぁそうだろと酒の飲めそうな面子へと声かける。
「ああ、もちろん必要だぜ!」
にっと口端上げて笑う市松。その頭の上でつゆもにゃあと一声。
「甘い物も必須だと思うー!」
「ザザ、別のをとって分けっこしましょ」
「うん、しましょ!」
次々に、ここぞとばかりにおいしいごはんをリクエストされはじめ。
「やっぱり無しだ。おごりは無しだ」
いつもの調子、ぶっきらぼうな物言いの士浪。
けれど、言葉はそこで終わりではなく――どうしてもっつーなら、ファミレスだと行先は決まる。
作者:志羽 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年8月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 4
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