唸れ! サーキュレーター!

作者:あかつき


 とある田舎町から少し離れた場所にある、廃棄家電置き場。山のように積まれている廃棄家電の間をちょこちょこと這い回る握り拳大のコギトエルゴスムは、元は白だったのだろうが経年劣化で茶っぽくなったサーキュレーターの間に潜り込んだ。次の瞬間。
「ズガガガガガ!! ゴゴゴゴゴゴッッ!!!」
 機械的なヒールを施された茶っぽいサーキュレーターは、1メートル程に巨大化した挙げ句、唸りながら二本の手と二本の足をずぎゅん! と生やし、歩き出す。
「ブオオオオオオオン!!!」
 それから、サーキュレーターは人間で言うところの顔部分のファンを全力で回し始める。巻き起こった突風は、他の家電を吹き飛ばした。それに満足したのか、サーキュレーターのダモクレスはファンを止め、歩き出す。その足は、人々の暮らす町の方へと向けられていた。


「とある田舎町の廃棄家電置き場の家電の一つが、ダモクレスになってしまう事件が発生するようだ。幸い、まだ被害は出ていないが、こいつを放置すれば近くの町に暮らす人々が虐殺されてグラビティ・チェインを奪われてしまうだろう。その前に現場に向かい、ダモクレスを撃破して来てくれ」
 雪村・葵は、集まったケルベロス達に、事件の概要を説明し始めた。
 現れたダモクレスはサーキュレーターが変形したロボットのような姿をしている。攻撃方法も元となった家電製品に由来するものとなっており、今回のダモクレスはサーキュレーターなので顔部分のファンで突風を起こして攻撃してきたり、尻部分についているコードを振り回して攻撃してきたりする。
 なお、隣の田舎町まではそこそこ距離があるため、避難については考慮しなくても問題は無いだろう。
「近隣の住民は何も知らずにいつも通りの生活を送っている。そんな彼らの生活を守るためにも、絶対にダモクレスを倒してきてくれ」
 葵はそう言って、ケルベロス達を送り出した。


参加者
ミルカ・アトリー(タイニーフォートレス・e04000)
柚野・霞(瑠璃燕・e21406)
カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)
月島・彩希(未熟な拳士・e30745)
心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)
香月・渚(群青聖女・e35380)
ココ・チロル(箒星・e41772)
小野・雪乃(光と共に歩む者・e61713)

■リプレイ


「こっちには誰もいなかったよ」
 廃棄家電置き場の東側を確認してきたミルカ・アトリー(タイニーフォートレス・e04000)が、他の仲間達が待つ廃棄家電置き場から町へと続く道路の真ん中へと駆けてくる。
「こっち側にも誰もいなかった」
 ミルカの言葉に頷き、カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)は自分が見てきた西側の森を指差す。
「この辺りにも人気は無いし、大丈夫そうだね」
 月島・彩希(未熟な拳士・e30745)斜め下へ視線を向け、相棒のアカアキと頷き合う。ならば、避難誘導や被害の拡大などは心配しなくて良さそうだ。あとは、廃棄家電置き場からダモクレスがこっちへ移動してくるのを待つだけ。八人のケルベロスは、それぞれの武器を構えながら廃棄家電置き場へと視線を向ける。
「廃棄家電のダモクレス……元々は人の役にたっていたと考えると、少し複雑な気持ちになりますが……」
 柚野・霞(瑠璃燕・e21406)はそう呟くが、緩く頭を降り。
「まぁ、町中で暴れられたら困りますから、仕方ありません」
 多少同情する気持ちはあるものの、そこははっきりとしているようだ。
「ところで……俺サーキュレーターってあんまり見たことないんだけど、どういうやつなのかな」
 首を傾げるカシスに、彩希は顎に手をやって、唸る。
「扇風機みたいに風を送る機械なんだけど、私も扇風機とサーキュレーターの違いがわからないんだよね」
 うーん、と首を傾げる二人に、心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)がのんびりと答える。
「サーキュレーターは、移動式で風量が強いのが魅力的で、この季節には有り難いわよー。だからきっと、その辺りが違いなんじゃないかしらー?」
 括の意見を聞き、彩希は目を輝かせてうんうんと頷いた。カシスを始めとする他のケルベロス達も、括の意見にピンと来たようで、納得したような表情を浮かべていた。
 尚、扇風機とサーキュレーターの違いは使用目的にある。人が涼を取る為に広範囲に緩やかな風を送るのが扇風機、室内の空気を撹拌する為に直線的に強い風を送るのがサーキュレーターだ。なので、括の意見は大体あっていると言える。
「で、その……肝心の、サーキュレーター、ですが、時間からいって、そろそろ、来る頃」
 かと、思います。
 と、ココ・チロル(箒星・e41772)が言い終わるより前に。
「ズガガガガガガ!!!!」
 廃棄家電置き場の方から聞こえてくる、けたたましい唸り声というか、なんというか。どぉん! ずがぁん! と特撮映画のようなわかりやすい足音をさせ、現れたのは巨大サーキュレーター。
「なんなの、あのでかいサーキュレータは……?」
 ハーケンクロイツの腕章を付けた黒い細身の軍服に身を包み、小野・雪乃(光と共に歩む者・e61713)は初めて見るダモクレスに、思わず愕然とする。巨大な姿と、それに似合った巨大なプロペラ。その後ろでぶんぶんと振り回されるコード。
「コードが尻尾みたいで面白いわねー」
 微笑む括の横で、雪乃はマジックスカーフを後ろで結んで簡易のマスクがわりにし、そして腰までの長い髪をシルクのリボンで纏め、気合いを入れて。
「こんなものが街中に出てしまったら大変なことに……! これは、止めなければならないですね!!」
 アリアデバイスを握り締める。そんな雪乃の視線の先で、ダモクレスは一度ぐぐぐ、とその両手を握り踏ん張るように両足を開き、そして。
「ブオオオオオオン!!!!」
 大音声を発しながら、プロペラを高速で回転させ風を起こす。左右に首を降るダモクレス。突風は辺りの木々を薙ぎ倒した。
「涼むどころか人も建物も吹き飛ばしそうな風ですね……。こんな風を町に吹かせる訳にはいきません」
 その様子を見て顔をしかめた霞は、紺青の翼を広げ、地を蹴り空を切る。一度空へと昇り、そして滑空し低空でダモクレスへと突っ込んでいく。
「恨みはありませんが……破壊します」
 静かに告げて、流星の煌めきと重力と星の宿した蹴りをそのボディへと叩き込むと、そのまま脇を掠めるようにダモクレスの射程を離脱する。
「ゴゴゴッ!!」
 霞の後ろ姿を追うように視線を向けるダモクレスが、コードを振り上げる。攻撃の姿勢を取るダモクレスへ、ミルカは空中へ翼とスラスターで姿勢を整えつつ、バスターライフルの銃口を向け。
「この暑い時期、涼める風なら気持ちいいけど……さすがに、何でもかんでも吹き飛ばす突風は勘弁だな」
 素早く照準を合わせ、引き金を引く。放たれた冷凍光線は、ダモクレスの横っ面あたりに命中した。
「ズガゴッ!!」
 凍りつくボディに慌てるダモクレスは、ジタバタと手足を振り回しながら暴れまわる。
「被害が拡大しないうちに倒しちゃうよ!」
 そんなダモクレスを視界の隅に捉えつつ、彩希は仲間達に守護を与えるべく紙兵を大量に散布する。
「ガガガガガゴ!!!」
 その間に体勢を立て直したダモクレスは、顔部分のファンをケルベロス達の方へと向けた。
「ブオオオオオオン!!!!」
 そして、ファンを回す。あっという間に回転は早くなり、突風が巻き起こる。その突風から仲間達を守る為、アカツキが攻撃の射線上へと身体を捩じ込む。それと同じタイミングで、括も駆け出した。突風を受けたアカツキは、その身体に細かな傷を受け、そして。
「わーお、もーれつー!」
 装備が僅かに破け、ひらりとスカートが捲れた括は、スカートの裾を戻す。しかし。
「も……もーれつ?」
 同じく攻撃を受け止めたココは、横の括の一言に首を傾げる。見事なまでのジェネレーションズギャップに、そこを掘り下げるのは何だか気が引ける。
「えと……今、回復しますね!」
 スカートよりも装備の破れの方が一大事なんじゃないのか、とか、ダメージあってもネタに走るのはすごいな、とか。色々と言うべき事があるようなないような。結局何を言ったらいいかわからなかった雪乃は、取り敢えず回復の為に動き出す。
 歌うは清浄結界。口ずさむ歌は、淡い光を放つ水の薄いヴェールを構築する。
「さぁ、行くよドラちゃん、サポートは任せたからね!」
 香月・渚(群青聖女・e35380)の掛け声で、ボクスドラゴンのドラちゃんも雪乃に続き回復の為に駆け回る。その間に、括はウイングキャットのソウの清浄の翼でダメージを回復する。
「ありがとー」
 そう括が声をかければ、ソウは嬉しそうににゃあと鳴いた。ダメージを回復していくケルベロス。それを隙と判断したダモクレスはコードを手に持ち、振り回し初める。
「こっちだよ!」
 そんなダモクレスの背中へと、渚は姿勢を低くして突っ込んでいく。
「ブォン?」
 唸り声に疑問符を付け、振り返ったダモクレス。渚は地面を蹴って、跳ぶ。
「この飛び蹴りを、避けられるかな!?」
 勢いをつけた蹴りは、ダモクレスの脇腹辺りに命中する。
「ズガガッ」
 姿勢を崩したダモクレスへ、ココの相棒でありお兄さんであるバレが炎を纏って突進した。
「ゴガゴガッ!!」
「えっと……! いき、ますっ!」
 回復は足りていると判断したココは、身の丈ほどのルーンアックスを手に、重そうに飛び上がる。バレの攻撃によりぐらりと横に倒れかけたダモクレスの頭へと降り降ろす。
「暑いのは苦手、ですし、ちょうどいい風でしたら気持ちいい、の、ですけれ、ど……強すぎるのは困りもの、です、ね。もう一度、眠っていただき、ます!」
 慣れない攻撃に戸惑いながらも、ココの振り下ろしたルーンアックスはダモクレスの頭頂部へと叩きつけられた。
「グガッ!!!」
 強烈な一撃を受け、頭を抑えたダモクレスへ、カシスが距離を詰めた。飛び上がって、振りかぶり。
「さぁ、その機動力を奪ってあげるよ!」
 叩き込まれた蹴りに、ダモクレスは遂にばたりと倒れる。
「……倒した、んですか、ね?」
 首を傾げるココ。地に伏したダモクレスに、ケルベロス達が動きを止めた、その時。
「グガガガガガガガ!!!!」
 痙攣するように、倒れたままダモクレスが手足を振り回す。
「わわっ!!」
 慌てて飛び退く雪乃へと、ダモクレスから放たれたパーツの欠片らしきプラスチックの破片が幾つも飛んで来る。
「危ないっ!!」
 そこへ、彩希が身を捩じ込む。ダモクレスへ向けた背に、破片が掠め、突き刺さる。破片を乗せた突風にスカートが捲れたが、中のスパッツが見えただけだった。
 ダメージにがくりと膝をついた彩希へ、アカツキが属性インストールで回復を施す。
「回復……任せてください!」
 雪乃は言いながら右手の人差し指の真ん中を犬歯で噛み千切ると、吹き出た血液を彩希へ向けてダーツのように真っ直ぐ飛ばした。忌むべき純血は、しかし、仲間へと癒しを与える。
「ありがと!」
 礼を言い、彩希は立ち上がる。しかし、僅かにダメージは残っており、ぐらりとふらついた。
「もうちょっと、かしらねー?」
 そう言って、括はふわりと両手を広げる。
「大切な想いは強い力になります」
 宝石の様に輝く想いを束ね、手に届く事を強く願う。括の強い想いは、彩希を含むように癒しの領域を展開した。
「ゴガガガガガガガ!!!」
 ダモクレスは尚も地面で転がった亀のようにじたばたしている。唸り声を上げるダモクレスを見据え、ミルカはFortress ≪Type:Blaze≫のスラスターを制御しつつ、砲門を展開、そして照準を合わせ。
「これで終わりだよ……フォトンドライブ、モード・フレア!」
 放たれた超高出力のホーミングレーザーはじたばたしたままのダモクレスへと吸い込まれていき、その刹那、膨大な熱量に耐えきれなくなったダモクレスのボディは強烈な閃光と共に、跡形もなく大爆発した。


「うーん……こんなもん、かな?」
 ミルカは呟きつつ、穴の空いた地面を埋めていく。
「この辺とか、かなり抉れちゃったな……」
 その少し離れたところで、捲れたコンクリートを補修しつつ、カシスがぽつりと呟いた。
「スパッツ履いてて、良かったよ。ね、アカツキ!」
 頷くアカツキと共に、彩希は流れ弾を受けて凹んだ看板を直していく。
「これは、こっちかな?」
 ダモクレスが暴れて飛んできた廃棄家電を運びながら、渚はドラちゃんに聞くが、ドラちゃんもわからないので首を傾げただけだった。
「戦闘痕、そろそろ、キレイに、なり、ました、ね」
 ココは呟きつつ、ほぼ元通りになった路面と廃棄家電置き場を見やる。その横では、バレも満足そうにエンジンを唸らせている。
「えっとー……あったわー!」
 道路脇の雑草の中をがさがさと漁っていた括が、ボロボロになったサーキュレーターを見つける。
「あっ、それ……さっきのサーキュレーターですね」
 駆け寄ってきた霞はそれを数秒眺めてから、問う。
「もうダモクレスにもならないでしょうし……ヒールで直しても、良いでしょうか?」
 一応発見者の括に問えば、括はにっこり笑って頷く。
「良いんじゃないかしらー?」
 それを聞き、霞はサーキュレーターを受け取りヒールで直す。そこにあったのは、ダモクレスの時より小さく、手足の生えていない普通のサーキュレーターだった。
「じゃあ、これを」
 サーキュレーターの転がっていた草むらの前に、雪乃は持参した花束を置く。そして、すぅっと大きく息を吸い、歌う。仮初めの儚い命を、天へと送るための鎮魂歌。すっかり暗くなった廃棄家電置き場を、雪乃の寂しげな歌声が包んでいく。
「……まだ使えるでしょうか」
 使えるなら、持って帰ろう。霞は呟く。また、人の役に立つように。こんな終わり方ではなく、誰かのために終われるように。霞は両手で持つサーキュレーターへと腕を回し、ぎゅっと抱き締めた。

作者:あかつき 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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