魔花の落とし種

作者:零風堂

 大阪市のとある小学校に出現した巨大な攻性植物『サキュレント・エンブリオ』は、ケルベロスたちの手によって撃退された。
 しかしその時、撃破されたサキュレント・エンブリオからは大量の胞子が撒き散らされ、どこかへと飛散していってしまった。
 胞子の一部は小学校の裏手にあったヒマワリ畑にも降り注ぎ、胞子に取り付かれた一部のヒマワリたちが蠢きながら異常な成長を始め、牙を生やした怪物の姿に変形して動き始める。
 その数は、5体。
 攻性植物となったヒマワリたちは人間を襲うつもりなのか、獲物を探す獣のように、ゆっくりと移動を始めるのだった。
「大阪の攻性植物たちが動き出したようっすね」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)はそう言って、集まったケルベロスたちへの話を切り出した。
「攻性植物たちは、大阪市内への攻撃を重点的に行っているっす。それで一般人を避難させて、大阪市を攻性植物たちの拠点にしようって計画みたいにみえるっす」
 そこから徐々に、攻性植物の生息範囲を広げようというのだろうか。
「一気に攻めてくるような侵攻じゃあないっすけど、大阪市に住む人たちに被害が出たり、住む場所が失われてしまうっす。それにこのままじゃあゲート破壊の成功率も『じわじわと下がって』いってしまうっす」
 大阪で生活する人々の身を案じてか、ダンテは僅かに焦燥を声音に感じさせながら言葉を続ける。
「それを防ぐ為にも、敵の侵攻を完全に食い止めて欲しいっすよ」
 ダンテの呼びかけに、ケルベロスたちも真剣な表情で頷いた。
「今回現れる敵は、ある小学校の裏手にあるヒマワリ畑から動き出すヒマワリの攻性植物っす。ええと、少し前に『サキュレント・エンブリオ』って言う巨大な攻性植物が小学校の校庭に現れたんすけど、そいつを撃破したときに飛び散った胞子で、攻性植物に変化してしまうみたいっす」
 ダンテの言葉に、ティニ・ローゼジィ(旋鋼の忍者・en0028)は、ぐっと拳を握りしめていた。
「この攻性植物たちが一般人を見つけると、殺そうと襲いかかってくるみたいなんで、素早く倒しちゃって欲しいっすよ」
 それからダンテは、敵の詳しい情報について、説明を始める。
「ヒマワリの攻性植物は全部で5体。花の部分に新たに生えた牙で噛みついてきたり、高熱の光線を発射して攻撃してくるみたいっす。この5体の中にはリーダーみたいな奴は居ないみたいで、だいたい全部同じくらいの強さみたいっすね。で、この5体は別行動する事は無くて、固まって移動するみたいっす。それに戦闘が始まれば逃走することもないみたいなんで、急いで現場のヒマワリ畑に駆け付ければ、被害が出る前に対処できると思うっすよ」
 それならば、急いで向かおうとティニが意気込みを見せる。
「それと、周囲の一般市民の皆さんには、事前に避難しておいてもらう手筈になっているっすよ。だから戦闘に集中できると思うんで、連中にケルベロスの皆さんの力を、見せつけてやって欲しいっす」
 ダンテはそう言って、依頼に臨むケルベロスたちを激励するのだった。


参加者
エレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)
神宮時・あお(囚われの心・e04014)
霧島・絶奈(暗き獣・e04612)
シトラス・エイルノート(碧空の裁定者・e25869)
千種・終(白き刃影・e34767)
八久弦・紫々彦(雪映しの雅客・e40443)
カーラ・バハル(ガジェットユーザー・e52477)
ウリル・ウルヴェーラ(ドラゴニアンのブラックウィザード・e61399)

■リプレイ

 燦々と輝く太陽を見上げるように、ヒマワリは一様に同じ方向へとその色鮮やかな花を向ける。澄んだ青空を背に広がる黄と緑の彩りは自然の雄大さを感じさせ、季節の豊かな表情を見せてくれていた。
「夏の風物詩がこのように凶悪な姿をしていては台無しですね」
 シトラス・エイルノート(碧空の裁定者・e25869)がヘリオンから降下し、顔を上げる。するとそこにはヒマワリ畑から歩み出てくる、攻性植物の姿があった。
「早々と刈り取ってしまいましょう」
 言葉と同時に踏み切って、白と青の煌めく闘気を足元に集め、流星の如き蹴りを叩き込む。
「……本当、ヒマワリの季節になりましたねー……」
 エレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)はそう言って、ヒマワリ畑の方に視線を向ける。
 がきん!
 そこに攻性植物のヒマワリが牙を剥き襲いかかってくるが、エレは軽い動作で煌めく槍を向け、その柄で直撃を防いでいた。
「でもさすがに、牙を生やしたヒマワリはちょっと……」
 苦笑を浮かべつつもエレはボディヒーリングの霊気を練り上げ、身を守るべく実体化させていった。それからウイングキャットの『ラズリ』がエレの肩からぴょこんと飛んで、清浄なる翼を大きく広げる。清らかな波動が仲間たちを包み、聖なる守りとなって力を高めさせていった。
「……」
 神宮時・あお(囚われの心・e04014)は降下と同時に一瞬だけ空に視線を向けるが、すぐにドラゴニックハンマーを構えていた。
 陽を浴びる花に向けるは、砲撃形態へと変じた夜香花。轟竜砲が突き刺さり、ヒマワリの花弁がバラバラと散っていく。
「全く、厄介な置き土産を残したものだね。犠牲を出す前に片づけてしまおう」
 砲撃の軌跡を追うように、千種・終(白き刃影・e34767)が身を低くしてダッシュで迫る。黄色の花弁が散る中で、敵の根元を刈り取るように蹴りつけて、その身をバサッと地面に倒した。
 ひゅんっ。
 同時に終は地に手を着き、ブレーキをかけると同時に両足を振り上げる。激しく回転したエアシューズのローラー部分は薄く煙を上げており、熱を帯びているのが見ても分かる。
 そのつま先が真っ直ぐに、花と茎を繋ぐ……。人で言う喉の辺りに突き立てられた。
 地を裂くほどの衝撃を受け、ぶっ千切れる攻性植物。だが立ち上がった終の身体に、眩い光が照射され始める。
「くっ……!」
 肌を焼かれるのではないかというほどの熱線に、終は急ぎ身をかわして焼かれ続けないよう移動を始めた。
「強制的に力を与え、隷属を強いる……。考えようによっては恐ろしい能力ですね」
 霧島・絶奈(暗き獣・e04612)は攻性植物へと変化してしまったヒマワリたちを見据えつつ、静かに呟く。しかしすぐに、何処かへ感情をひとつ置き忘れてしまったかのような、冷たい笑みを口元に浮かべていた。
 同時に絶奈は杖を振り上げ、雷の力を帯びた壁を構築していく。
「随分と獰猛なヒマワリだな。これはあまり、人に見せたくはないか。特に子供にはね」
 八久弦・紫々彦(雪映しの雅客・e40443)はそう言って、エレに噛みつきにきていたヒマワリに向かう。
 軽やかな足取りで足元に星型のオーラを生み出すと、ヒマワリの顔面……。もとい、花の中心へと撃ち込んで下がらせる。
「被害が出る前に始末してしまおう。できるだけはやく、な」
 紫々彦は仲間たちと視線を交わし、標的を絞れるよう留意しながら、敵の的にならぬよう立ち位置を調節していった。
「ここは絶対通さねエ」
 カーラ・バハル(ガジェットユーザー・e52477)が怯んだヒマワリに詰め寄って、手にした縛霊手を振りかぶる。
 気合いをぶち込むように殴りつけ、同時に霊力の糸を網のように広げて敵の動きを捕縛にかかる。
「あの時の……。そうか、そういう事もあるんだな」
 そうしてもがくヒマワリの元にウリル・ウルヴェーラ(ドラゴニアンのブラックウィザード・e61399)が駆け込んで、ダッシュの勢いを乗せた鋭い蹴りを茎部分に撃ち込んでいた。

「このヒマワリを見たら、子供は泣いちゃいそうですねえ……」
 葉を刃のようにして斬りつけてくるヒマワリから身をかわし、時に青い光を宿したオウガメタルで防ぎながら、エレが呟く。
 小学校が近くにあるなら、なおさらそんな事態も起きかねない。エレは小さく息を吐くと、ヒマワリの葉に正面から立ち向かい――。
 その姿が、斬り裂かれる直前で霧のように消滅した。
「今です!」
 ティニ・ローゼジィ(旋鋼の忍者・en0028)が分身の術を施していたらしい。
 すぐ脇で構えていた本物のエレが、霊気を凝縮させた一撃を撃ち出す!
 衝撃で吹っ飛んだ攻性植物が、ヒマワリ畑の方に回転しながら向かっていく。しかしそいつが畑に飛び込むより先に、あおがその姿を視て、静かに魔力を向けていた。
 ごっ!
 竜の幻影が植物に喰らい付き、吹き出す炎が灰へと変える。こうして敵が消滅したことを確認すると、あおは黙って次の敵へと視線を移した。
「……、……!」
 絶奈のテレビウムがヒマワリに噛みつかれ、ジタバタしながらもバールのようなもので殴って応戦している。
「植物が人を襲うとはね……」
 紫々彦がそこに駆けつけて、テレビウムの画面と敵の牙との間にナイフの刃を差し入れる。一瞬だけ力加減を見極めて、鳶色の柄に両手を添えた。
「はっ」
 呼気と共に一歩だけ踏み出し、腕の力だけでなく体全体の力を使って刃をめり込ませる。そこから抉り進めるようにして傷口を広げ、ついでにテレビウムからも引き剥がして一、二歩後退させる。
「見えたよ――。『そこ』だね」
 出来た空間に終が飛び込む。相手の葉を掴んで引き倒し、花の部分を踏みつけて駆け抜ける。
「攻性植物の尖兵に成り果てるとは……、皮肉ですね」
 絶奈がその正面に跳び上がっていた。眼前に幾重もの魔法陣を展開し、この世界ではない何処かであり得た可能性を、その力を呼び起こして引き出していく。
「……今此処に顕れ出でよ、生命の根源にして我が原点の至宝」
 輝ける何かが姿を見せ始めると、絶奈の笑みが深く、瞳に狂おしい光が灯る。
 或いはそれは、生命の根源を思わせる銀の煌めきの照り返しか。
「かつて何処かの世界で在り得た可能性。『銀の雨の物語』が紡ぐ生命賛歌の力よ」
 地面に縫い付けるように撃ち出された光の槍は、ヒマワリの中心を間違いなく貫くと、その歪んだ命を砕き、大地へ還したのだった。

「……これは放置しておけないな」
 ウリルは次の標的を見定めると、仲間たちへと身振りと声で合図してからハンマーを振り上げた。超重の一撃を叩き込むべく力を集中させるが、アイスエイジインパクトを打ち込む直前で、ウリルの視界に光が走る。
「くっ!?」
 一撃は何とか繰り出したものの、ヒマワリの葉を掠めただけで直撃はしていない。敵もウリルに向けて熱線を放射してきたのだ。咄嗟に身をかわしたお陰で純白の衣の半身が灼かれただけで、ウリル自身にも直撃の大ダメージとはいっていない。
「それでは、貴方の最後を看取ってあげましょうか」
 シトラスが敵の背後に死を象徴する者を召喚し、その者の鎌によって背にあたる部分を切りつける。よろめくヒマワリの脇にカーラが踏み込んでいた。
「被害は絶対出させねエ」
 健康的な脚をしなやかなバネのように躍動させ、鋭い蹴りで花の部分を打ち据えていた。
 よろめきながらも思い切り振り回される葉の一撃が、絶奈の頬をぴっと裂く。
 鮮血がぽたりと流れ出るが、戦いに意識を向けていた絶奈は全く気にせずに、変わらぬ笑みを浮かべていた。
 絶奈の撃ち出した竜砲弾が、ヒマワリの根元を抉り砕いて足を止める。力を失いかけたその茎を蹴って、絶奈は薄く、金の瞳を微かに細める。
「それでは、これで。二度とこんな姿になりませんように」
 寸分の狂いも無く、エレが緋の煌めきと共にそこに踏み込んでいた。信念を貫く想いを込めた槍に稲妻を纏わせて、真っ直ぐに突き通す。
 ばちんと雷光がヒマワリを貫き、その身を砕いて霧散させた。

「……確実に撃破していこう」
 これで相手は、あと1体。終はそいつに目標を定めると、弧を描くようなルートで走り、接近する。ヒマワリ畑とは逆側の民家の塀を蹴って跳び、側面から急襲するような角度で地裂撃を叩き込んだ。
 あおは静かに、儚く舞い散る花弁の如き純白の力を媒介にして、時空すらも凍結させる弾丸を精製していた。その一発を直接叩き付けるような形で、闘気を纏った拳を突き出す。
 ざくっ、と肉が裂け、牙が食い込む。
 あおの時空凍結弾はヒマワリの攻性植物に命中したものの、相手も力を振り絞って襲いかかってきており、あおの肩に思い切り噛みついてきたのだ。
「ここで全部、ぶっ倒す!」
 気合いと共にカーラが突っ込み、縛霊手でヒマワリの花を殴り付ける。そうして撃ち込んだ霊力の糸を利用して、べりべりと強引にあおから牙をひっぺがした。
「後始末は、最後まできっちりさせてもらおう」
 ウリルがちらりとティニに目配せし、あおのフォローを任せる。ウリル自身は引き剥がされたヒマワリに向かい、蹴り上げるようにしてグラインドファイアの炎を叩き込む。
「雪しまき、呑まれて消える向日葵よ」
 さらに紫々彦が吹雪を巻き起こし、ヒマワリの姿を雪の中に沈めて自由を奪っていく。
 夏の花には厳しいだろうと小さく呟き、凍えるような風と共に、紫々彦は振り返る。
「美しいヒマワリを醜悪な姿へと変化させるとは、優雅ではありませんね」
 後を託されたシトラスは小さく頷くと、蛇が蠢くようにガジェットを変化させる。
 ごっ!
 天を仰ぐ蛇が呼び起こしたかのような炎が、最後のヒマワリを包んで燃え上がった。
「少しは姿にも気を遣えないのですかね? ……そうすれば、少しはこの剣先も鈍るという所なのですが」
 やるせなさを含んだ口調で呟いて、シトラスは武器を下げるのだった。

「とりあえず、ここは収まったか」
 静かになった周囲の様子を確かめて、ウリルが息を吐く。
「あの胞子が、これ以上広がらないといいのですけれど……」
 エレはラズリを肩に乗せて、戦闘の影響で損傷した場所がないかヒールして回っていた。
 どれくらい胞子が飛んだのか、同様の事件がまた起きるのではないか。不安は尽きない。
「軽んじがちですが、ある意味一番油断出来ないのは攻性植物なのかもしれません」
 絶奈も静かな面持ちでヒールを手伝いながら、残ったヒマワリの方に視線を向ける。
 幸いにも周辺の建物やヒマワリ畑に大きな被害はなく、これなら近くの小学校の生徒たちも、観察したり絵にかいたりと、この夏の花を楽しむことができるだろう。
「……」
 あおは仲間たちの様子を眺めてから、もう危険は無いだろうと判断し、そっとその場を立ち去っていく。
「……いずれ大元も断ちたいけれど。それはまた、次の話かな」
 終もそう言って仲間たちを労っていた。
 正確な情報が手に入るまでは、被害が出ないよう活動を続けるしかない。その中でも攻勢に転じるチャンスが訪れたり、何か手がかりが見つかるかもしれない。地道な調査を続けるしかないだろう。
 鮮やかに咲くヒマワリを眺めながら、ケルベロスたちはこれからも注意しなければと思うのだった。

作者:零風堂 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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