オーブンが消える日

作者:baron

 山間にあるとあるゴミ処分場で、謎の爆発が起こった。
『オーブン!』
 ドカンと音がして、処理場の壁に穴が開く。
 中から飛び出して来たのは、長方形の金属体である。
『上下から二段加熱、焼き残しはありません!』
 道に出て来たそいつは、蓋を開けてゴウと火を噴いた。
 穴の正面に在った大きな木を燃やして、街を目指して道を移動する。
 人々を虐殺し、グラビティを収集するために……。


「とある廃棄処分場で処理を待つはずだった家電製品の一つが、ダモクレスになってしまうようです」
 セリカ・リュミエールは地図と資料を手に説明を始めた。
「初分譲は基本的に山間にありますので、幸いにもまだ被害は出ていませんが、放置すれば、多くの人々が虐殺されてグラビティ・チェインを奪われてしまうでしょう」
 その前に退治して欲しいとセリカは告げる。
「今回の敵は、今では使われることも少なくなったオーブンになります」
「あれ? オーブンって普通に使わね?」
「それってトースターじゃない? 今は質が上がってピザや御餅くらいは簡単に焼けちゃうの。チンするレンジも似たような事できるわよね」
 セリカの言葉に誰かが首を傾げ、別のまた誰かが補足する。
 今ではオーブンの代わりに成るモノは数多く、そして本格的に使う者にとっても、旧型はいまいち火力が足りないのだ。
 これでは昔ながらのオーブンが使われなくなっても仕方あるまい。
「そのオーブンです。今の時代だとトースター級の火力ですね。そしてダモクレス化したことで、中にある天盤で殴りつけ、あるいは炎を吐いて攻撃してきます。もしかしたらミサイルのようなモノもあるかもしれませんね」
 あくまで参考にして居るだけなので、ダモクレスが良く使う機能は有して居ると思われた。
 また炎を吐く機能が武装の一環だとするならば、武装由来の能力があるかもしれない。
「罪もない人々を虐殺するデウスエクスを放置する訳にはいきません。ぜひ、よろしくおねがいします」
 そういってセリカは出発の準備を整える為にヘリオンヘと向かったのである。


参加者
リュートニア・ファーレン(紅氷の一閃・e02550)
メリノ・シープ(スキタイの羊・e02836)
大三上・まひる(ホームレスホームガード・e11882)
彩咲・紫(ラベンダーの妖精術士・e13306)
遠野・葛葉(鋼狐・e15429)
レイアーク・ロンドベル(悪戯な輪舞曲・e22359)
望月・理央(梨園の猟犬・e40334)
カーラ・ラクシュ(剛毅壊断・e50415)

■リプレイ


「もういいぞ。後は倒すだけだ」
 カーラ・ラクシュ(剛毅壊断・e50415)は一本道に看板を用意する事で通行止めをしておいた。
 そして周囲を眺めて人通りが無い事を再確認する。
「準備いーじゃん。気合い入ってるー」
「オーブンだっけか、俺様は料理はあんましねぇけど、あれにも誰かの思い出が入ってんだろ。それを利用するなんざ単純に気に食わねぇし……何かする前に、止めてやらねぇと」
 レイアーク・ロンドベル(悪戯な輪舞曲・e22359)が茶化すとカーラは肩をすくめはするが、億面もなく言ってのける。
 誰かの為に何かすると言うのを恥ずかしがるという者も居るが、彼女にはそんな事は関係ない。
 言うべきことははっきりと口にするし、それは思った事ならば悪口だろうがなんだろうが同じである。
「あーオーブン? 電子レンジじゃなくて? オーブントースターの事? 挟み込むんだっけ」
「挟み込んで加熱ってトースターじゃないの? ち、違うかもしれないけど……」
 レイアークが怪訝そうに首を傾げると、メリノ・シープ(スキタイの羊・e02836)はおっかなビックリ声を掛けて見た。
 なんというかこの手の機械は微妙な差で名前が違うので判り難い。
「あ、違う? まぁ、知ってるけど。蒸し焼きする機械は一応全部そうらしいよね。同じ系統の機械だからって色々とくっつけ過ぎ~」
「専門がオーブンっなんだっけ? オレは割りと好きだけどなー」
 レイアークが自分で茶化しておいて自分で答を言ってしまうと、望月・理央(梨園の猟犬・e40334)は苦笑しながら空に浮かぶ雲を眺めた。
 雲の中に面白い形を見付け、『魚焼いたり何かと便利だしさ』なんて言いながら道を登っていく。
「……まぁ、でも今はレンジが便利になっちゃってるからあんま使う人居ないのかもな。焼きムラ無しとか色々チンできるらしいし。それじゃあ……」
「焼き残しはない新機能! スゴイのー! ……今ではそんなの当たり前なのか?」
 理央が適当に納めようとしたところで、遠野・葛葉(鋼狐・e15429)が参戦して混ぜっ返す。
 本人としては本当に感動して居るのかもしれないが、話題が堂々巡りして行くだけである。
 何せオーブンレンジならば一家に一台ある時代であるし、オーブントースターを含めればもっと存在するだろう。

 それだけ身近に存在する機械であり、一点特化の旧型が忘れ去られるのも早い。
 目の前に現れたダモクレスもまた、そんな存在であろう。
「さて、ちょっと寂しい気持ちもするけど迷惑かけちゃ良くねぇしなー、頑張っていこうぜ、みんな!」
 理央は鼻をこするポーズで話題を切ると、みんなの前に飛び出した。
 残念ながら外れてしまったが気にする事は無い、後から続く仲間達を守るのが仕事である。
「捨てられたオーブンですか、使い辛い家電は捨てられることになるのですわよね。性能のいい家電だけが生き残る、ちょっと悲しい現実ではありますけど」
「古いモノは淘汰される……か。でもそのありがたみ、忘れちゃダメだよね? いっくよー」
 彩咲・紫(ラベンダーの妖精術士・e13306)はその影に隠れて接近し、レイアークは鋭い斬撃を足元に浴びせダモクレスの動きを封じていく。
 こうしてケルベロス達は徐々に接近し、壁を築いて街に活かせない様にしていった。
「……かがくのちからってすげー、だな。余りにも速くて付いて行け……いや、我ならば理解して見せよう!」
「使われなくなったのは同情するよ。だからこそ、潰してやるよ」
 ここで葛葉とカーラが飛び込んで、高低差のある蹴りで抑え込みに掛った。
 まずはカーラが打点の高い蹴りで抑えつけ、葛葉の回し蹴りで体勢を揺るがせる!
「こんな暑い日が続くのに、オーブンと戦うのはヤダなぁ。でも……やっぱり、そう来るよねぇ……」
『お・お・お・オーブン!』
 メリノは嫌そうな顔で現実から背けようとしたが、残念ながらファミリアのタルタリカが髪をガジガジやって許してくれない。
 枝毛に成るからやめてよーと言いながら、熱風の噴きつける前線へ黄金の実を掲げるのであった。
 光の加護が炎の洗礼を押し返し、少しでも涼しく成る様にと。


「まだ使えるのに使われなくなったのは悲しいかもしれないけど……」
 リュートニア・ファーレン(紅氷の一閃・e02550)は抱えて居た箱竜のクゥを降ろしながら、炎の嵐に立ち向かっていた。
 喉が焼けつく様な熱さを、後方から訪れた光が緩和してくれる。
「こんな風に利用されるのは違う。頑張って倒そうね、クゥ」
 リュートニアは手を広げてクゥにゥ美を伸ばしながら、流体金属の膜を広げて行く。
 それは仲間を支える壁であり、火傷の痕を覆って癒す力でもある。
 クゥだけではなく理央たちの傷も癒し、少しずつではあるが元の状態を取り戻して行った。
「雷鳴よ、迸れ、そして敵を痺れさせなさい!」
 紫は盾役の陰から飛び出すとロッドを握り込む。するとまるで花の様に紫電が弾け暴れ始めた。
 雷は蛇のようにのたうち、ダモクレスを二度三度と打ちつける。
「ここから先は通さねえ! たとえおれが廃品回収業者でもな!」
 大三上・まひる(ホームレスホームガード・e11882)もまた隙を窺いながら飛び出すと、携帯の角で殴りつけた。
「どおりゃあああああ! トモエ、お前も行け! やるぞ、おれ達のひっさつーゥ」
 フン! と鼻息荒くブン殴り、ミミックのトモエと共に攻め立てて行く。
 そして我に帰ると仲間達の後ろに戻るヒット&ウェイ。
「自宅でくつろぐ人々を脅かす奴は自宅警備員として許せねー。全ての自宅に住まう人々の警備員として、お前を倒す!」
 更に更に、実はまだイケてたんじゃね? と気が付くと仲間達に紛れて再び接近。
 ジグザグに交差とかジャンプで駆け抜けるのは無理なので、急いで接近して携帯を構え直した。
「うおおおお! ぜってぇ負けねえーッ!」
 まひるの鉄拳(スマホ)が唸りを上げる!
 途中で使うのは何でも良いと気が付いたのか、その辺に棒が転がって……無いので蹴り飛ばす事にした。
 そして急いで元の位置に戻り、仲間達と交代していく。
「それではこちらも。私のオウガメタルよ、鋼の鬼と化し、敵を打ち砕きなさい!」
 紫は紫色の闘気をまとった流体金属を展開して鉄拳に変えた。
 指先から滴る雫は鋭い爪と化し、ダモクレスの装甲を切り裂いて行く。

 その隙に盾役達が前進し、敵の逆襲に備えた。
 庫内から溢れていた熱気は収束され、火炎放射として叩きつけられるのだが……。
『ぼぼぼぼ!』
「炎には氷を、風はこちらの味方ですよ」
 リュートニアはカバーに入ると、一足先に時間を止めて炎に籠る熱を遮断し、その空間に閉じ込めることで手元に氷を造り出した。
 そして弾丸としてぶつけると、凝縮くされた冷気が弾けて拡がっていく。
 火炎放射を浴びてしまうが、遮断したがゆえに大きなダメージには至らない。累積した傷により多少追い込まれたくらいだ。
「まぁ、お前も人に迷惑かけるの嫌だろ? せっかく今まで頑張ってきたんだからさ、いい思い出のまま終わらせてもらうぜ?」
 そう言って理央はリュートニアとは逆方向に移動し、仲間を庇いつつ挟み込む形で殴りつけた。
 またしてもハズレそうに成るのが、不思議なことにナニカが囁く声がする。そオウガメタルの導きにより何とか命中させる。
 そしてフォーメーションはいつしか横列からV字に移行し、ゆるやかな包囲網へと移行した。
「我が同時にやる。遠慮せずにやれい!」
「えっとえっと。じゃあ、火傷してるから治療するね」
 良く見たら累積で大きな怪我を一人が負ってるのだが、何人かが火達磨である。どうしようどうしよう……。
 葛葉が声を掛けたことで、メリノはようやく決断すると黄金の輝きでもう一度照らし出した。
「ふむ。使う機会が出たかと思ったが、まあこんな所で良いか」
 葛葉は気合いを込めて力を振るおうとしたが、メリノの力で殆ど鎮火したので止めておくことにした。
 代わりにグラビティの縛鎖を広げることで、前衛陣に重力の結界を張っておく。
 これで治療できると共に相手の影響を幾らか弾けるし、今はこんなところだろう。


「逃がすな、レイアーク!」
「ほい来た、レイアークちゃんにおっ任せ~。というか、もっかいパスよ」
 カーラは超重量の金棒を力任せに叩き込むと、装甲ごとブチのめした。
 内包したグラビティが弾けるよりも先に、レイアークが追いすがってバールをフルスイング!
「パスじゃねえ、忙しくさせんなよ!」
 カーラはカっ飛ばされて戻ってきたダモクレスに対して金棒を軸に体勢を戻し、ヤクザキックばりの蹴りで叩き落とした。
「ここでれいちゃんラッシュなのっ」
 レイアークはカーラに無茶振りしている間に刀を構え直し、踊る様に切りつけて行った。
 一回転を掛けてクルリとステップ、輪を描く様な軌道で切り刻む。
「ちょっと失礼しますね。これなら、あと少し……!」
「うぎゃあああああ! 味方を……って治療用の弾か!」
 リュートニアがクゥに向けて萌葱色の弾丸を放った時、まひるは驚いてしまった。
 だが良く見れば火傷が消えており、治療のためであったことが判る。
「くっ。驚いちまったろうがあー!」
 まひるは八つ当たり気味に叫ぶと、思い立ったが吉日とばかりにダモクレスに殴りかかった。
 はた目からは黒一点に見えるパーティなので、もしかしたら切羽詰まって居たのかもしれない(まあ男子は他にも居るけど)。
「雷迅よ、今再び!」
 追い打ちを掛ける様に紫が雷撃を放ち、紫電が戦場を駆け抜ける。

 ダモクレスはタフではあるのだが、これまでのような猛攻を受け続ければ無事ではすまない。
 だがそれでも無感情に反撃を行うのが彼らの特性である。
『おーぶん! 上下から二段加熱、焼き残しはありません!』
「その情報は既に聞いた! 他のきゃっちふれーずで出直せい! あと土産も忘れずにな!」
 葛葉は盾役の後ろを移動することで攻撃を避け、蓋を締める為に後ろ蹴りを放った。
 トーラスキックばりの後方蹴りを放ち、炎の嵐を吹き出す庫面を閉める!
「あっちぃー! 痛くは無いけど汗でビショビショだぜ」
「あ、後でスポーツドリンクとかも用意するね……」
 理央は最初に外した技を今度こそ当てることで雪辱を晴らしつつ、残る片手で胸元をパタパタとやった。
 それを見て居たメリノは『タルタリカが寝床にしてたけど』とか申し訳なさそうにしながら、タオルを差し出し霧で包み込んで治療した。
「ヌオリャアアーー!!! どーっせい!」
 なお暑苦しいのは敵だけでは無い。
 まひるは今日も元気であった。果敢に殴りつけてフルボッコにする為に何度も何度も叩きつけて行く。


「逃がさない様に行こうぜ。逃げても苦しいだけだかんな」
「了解ですっ。クゥも一緒だよ」
 理央とリュートニアが突入し、パっと見だけなら可愛らしい乱舞が始まる。
 チョップで殴りつけ流体金属の爪でひっかいて、キャッキャウフフでないのが残念だ(え)。
「ふっははは! 名残惜しいがそろそろ終いだ!」
 そこに葛葉も混じって鉄拳制裁。
 オウガメタルにひーこら言わせながら盛んに殴りつけて行く。
『おーぶん、オープン!』
「怪我したら任せたよ。そーれっと! 着てよね、兄さん!」
 最後の攻撃を受けそうになった時……カバーできるか微妙なタイミングだった。
 そこでレイアークは翼猫の下僕三号くんに治療を任せ、双子の御兄さんの残滓を召喚する。
 最初は仲間の姿を死角とし、次は弾丸を放った互いの姿で死角を造りながら次々に攻撃を行っていく。
 天才と天災が過ぎ去った後には何も残さない構えである(まあ残るんだけど)。
「きぃぃえェェー!」
「沈みな!」
 まひるが飛び込んだあと、カーラはフラフラになったダモクレスを打ちのめす。
 携帯が叩き割った傷より深い穴をガラス面につけながら、金棒を振り回して抑えつけた。
「ドドメを刺しちまいな。苦しませるんじゃないよ!」
「これで終わりですわ。お眠りなさい」
 カーラが逃げない様に抑えつけた所で、紫が鉄拳を振り降ろした。
 カランと乾いた音がして、オーブン型のダモクレスは動きを止めたのである。

「役目を終えた機械を『無理やり働かせる』とは……ダモクレス、許せねえ!!!」
「確かに。付喪神とも思えませんしね。せめて安らかに」
 まひるは決意を新たに拳を握り、紫は黙祷を捧げた。
「……じゃあな。聞こえてるか分かんねぇけど、ゆっくり休めよ」
「ありがたみは忘れないけど……ごめんね、薪オーブンの方がオシャレだから好きなんだ……」
 カーラはそんな言葉を呟きながら、残骸を整理し始める。
 レイアークもそれに協力して周辺性を始めた。
「お疲れさま、ありがとう」
「オーブンかぁ……。 なんつーか、懐かしいと言うか申し訳ないと言うかだったなぁ。……たまには家にあるやつ、使ってみるかな……」
 リュートニアはクゥを抱き上げながら撫でつつ、周辺のヒールを行う。
 理央はその様子を眺めながら、どれだったっけと家電の事を思い出す。
 普段はコンロについてるグリルで魚を焼くので、オーブンは本格的に焼く時しか使って無い筈だ。
「おわーっーたー! ふはははっ我と一緒に修行と行こうではないか!」
「ちょ、ちょっと待って。何処行くの!? 暑いんだしヤだよぉー」
 全てが終わったところで、葛葉は宿題を終えた(ことにした)子供の様な笑顔で森へ向かった。
 メリノは肩を掴まれて連行中。御山の中に突入し、阿鼻叫喚の午後を過ごす事に成ったという。
 こうして一部に大変な者もいるが、無事にダモクレス退治は終わったのである。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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