真夜中アイス~ラシードの誕生日

作者:東間

●某月某日
「──……」
 ラシード・ファルカ(赫月のヘリオライダー・en0118)は真剣だった。
 自室で1人真剣にパソコン画面を見つめ、来る時に備え、ただただ待っていた。
 そして時計の針が昼の12時を指した瞬間、自ら静寂を破る。
 キーボード上でスタンバイさせていた指でF5をポチッ!
 右手でマウスをシュバッからのカチカチ!
 更にボタンをカチッ!!
 結果。
「イエッス!!」
 大声でパシッと両手を打ち合わすその目には、成し遂げたという感情が充ち満ちていた。

●真夜中アイス
 ヘリポートでの雑談中、今年はどう過ごすのと花房・光(戦花・en0150)に訊かれ、ラシードは小さな贅沢をするよと笑った。
「予約が取れたホテルに1泊して、そこのアイスビュッフェを楽しむのさ。『真夜中アイス。好きなアイスに好きなトッピングを好きなだけ』ってテーマなんだけど、良かったらみんなもどうかな?」
「アイスビュッフェ? 楽しそうだわ」
「夏ならではですね」
「だろ? ホテルはここ。前に泊まった時、デザートでアイスを食べたから味は保証する」
 壱条・継吾(土蔵篭り・en0279)は差し出されたダイレクトメールを受け取るも、ホテル名を見て目をぱちぱちさせる。
「……あの、このホテル、所謂高級ホテルだったと思うんですが……僕のような未成年でも利用出来るんでしょうか?」
「大丈夫。ビュッフェの方は、さっき言った『小さな贅沢』設定なんだ」
 そしてホテル上層、常に真夜中となったレストランフロアには最高の贅沢が待っている。
 昼は暗く、窓──床から天井まであるそこに白い幕が掛けられ、映し出された満月と星空に包まれながら。夜は幕を上げ、煌めく大都市の夜景と共に極上のアイスが楽しめる。
「フレーバーは定番のものとフルーツ系、山葵に……あと薄桃色の薔薇アイス。俺はまだ食べていないけど、食べたら口の中に薔薇が咲くって話だよ」
 そしてホテルが特に拘っているというチョコレートフレーバーは、『口に入れた瞬間チョコが豊かに香る』『アイスだけど何ていうかもうチョコ!』と絶賛の嵐なミルク、スイート、ビターの3種。
 アイス同様、好きなだけ使えるトッピングも豪華だ。
 カラースプレー、ドライフルーツ、ナッツ、胡桃。チョコやフルーツ系のソースに加え、蜂蜜とメープルシロップ、瑞々しい厳選フルーツ各種もスタンバイ済み。
 菓子系ではドーナツにプチシュークリーム、麦チョコがあるが、バターやココアのクッキーはシンプルな形から兎や小熊と可愛い形も作られていて、ミニチュロスとウェハースもある。
「和菓子系だと餡子と白玉、あられや煎餅もあるって聞いたね。スクエア型のプチケーキは、苺ショートとチョコとチーズと抹茶と南瓜の4種類だった筈」
 それらは全てホテルで作られており、そのまま食べても美味しいと大評判。
 勿論、ホイップクリームもある。
 するとラシードは真顔で『カロリーの事は一端放り投げよう』と言い──にこり笑った。
「最高の場所に最高のアイスが待ってるんだ。カロリーの事を一時的に放り投げたって罪にはならない筈さ」


■リプレイ

●極上一夜
 煌めく『夜空』は春乃の心を躍らせ、今夜という特別な時はアラドファルをゾクゾクさせる。とびりきのアイス達に悩まされながら選んで盛り付けて、チラリ過ぎったカロリーは『またダイエット頑張るもん』と明日へぽい。
 アラドファルにとって女子の気持ちは未だ不思議だけれど、アイスのように甘やかしたい想いは何よりも確か。一緒に食べて、沢山分けあって。
「おかわり、しちゃっても、いいよね?」
「お腹が痛くなるぐらいは駄目だぞ。その時は食べ途中でも俺の口が全回収だ」
「ちゃんと気をつけるから!」
 絶賛チョコには可愛い形のクッキー? あられや煎餅も楽しみたい。
 山葵には和の精神で白玉と餡子。しょっぱい物も合わせれば無限ループが待つ予感。
 並ぶ品々は目移り必至で、アラドファルの究極トッピング計画は止まらない。春乃の心惹いた薔薇アイスにはプチケーキを乗せようか。
「ほら、アルさん、もっと選ぼ?」
 夜は始まったばかり。食べたいものを、2人でしっかり楽しもう。

 光へ薔薇溢れたひとときの礼を伝えた氷翠の手には、あの時を思い出させる組み合わせ。クッキー添えたバニラアイス。まずはそのまま味わって。
「うん、美味しい。チョコのソースも足してみようかなぁ。クリームも、あったよね」
「絶対美味しいわ……!」
 2人舌鼓打った後、あのね、と氷翠はそっと呟いた。
「ラシードさんに、クッキー添えのおすすめ作って届けに行こうかなって」
「! 賛成、大賛成よ氷翠さん」
 配慮覗く小サイズ。届く祝いはそれ以上。

 昼でも真夜中、アイスという贅沢。そこで重が選ぶのは美味しい和。抹茶に目を煌めかせ、『じゃ』を呑み込み、アクセントに山葵も盛り込んで。
「ラシードも目一杯食べてる?」
「勿論。既に3皿目さ」
「満喫してるね! なんならかさねチョイスの『かさねアイス』も食べて食べて♪」
 誕生日祝いだろうアイスの隣に置いた和パフェな一品は、笑顔と一緒に記念撮影され。その後は最高のアイスで、
「ハッピーバースデー♪」

 目標、全種類制覇。初手、トッピング無しプレーン状態。有名ならば寧ろ無くなる可能性のあるチョコも先に。アイスを見つめる将、もとい晟の中で作戦が組み立てられていく。
(「トッピングは……」)
 充実の菓子類は無論アイスとの合わせ技。だが味が霞まないよう量は適当に。生クリームは、
「頼む」
「畏まりました」
 シェフの手で。
 ある程度運動は済ませた。小さな贅沢を飛び越えていそうな状況は──考えない事にする。

 叱られそうな程に食べたらしいラシードに対し、サイファは選ぶのに時間が掛かってこれからだ。好物の抹茶、大評判のチョコ、果物系にクッキーを添え、温かな紅茶もバッチリ。
「ふふ、アイス食べるのに夜更かしするのって子供じみてるよな。いや寧ろ大人ならではの贅沢な時間なのかな?」
「さて。どっちかな?」
 悪戯に笑う男へサイファも笑い、今回の礼を言う。
 次回の願いも重ねれば、任せてくれと明るい笑顔。

 背徳感ある真夜中アイスの最初。ばっちり決めていたメロゥは定番バニラと薔薇、ミルクチョコの贅沢3種盛り。仕上げはホイップクリームでいけなさ倍増。
 ヒルダガルデは数多を前に迷った後、ブルーハワイに拘りと聞いたチョコのスイートにビターと、同じく3種。プチシューにチュロスに旬の果実も盛り盛りで。日々の激務に先日の運動会。酷使される心身には、
「これくらいの贅沢、良かろ?」
「バチは当たらないわ」
 2人視線交え、くすり。
 掬った一匙はメロゥにひんやり冷たい甘さを広げていき、笑顔もふわり。
「……おいしい、しあわせ」
「夜の脳と胃に糖分が染み渡るなぁ」
 まずはそのまま、次はチュロスと合わせたヒルダガルデも噛み締める。その前に、花香る一匙が差し出された。
「ヒルデもお味見、どうぞ」
「メロゥもどうぞ? 勿論、トッピングも一緒に」
 交わした一口が幸せを紡ぐ。友と過ごす『今』は、正に至福のひととき。

 先日甘い物を食べたとしても、アイスはいつ食べても美味いという絶対的真理がある。体の事を考えると時間という問題も、ある、が。
「……ううん、野暮ね。そういうのがあってもいい、だから私達はここにいるッ!」
「ふふ、今日のユナは気合い十分って感じだなぁ」
「だって、中々できないじゃない。こういうのって」
 ユスティーナの視線にメリルディは笑って答え、ミルクティアイスにありったけのナッツを混ぜた。バニラにはチョコスプレーとクランチをたっぷりと。
「美味しいものは不健康なものっていうけど、たまにはそれがこころの栄養になるんだから。今夜だけはいっぱい食べるよ」
「ザ・子供の夢って形ね」
 シンプルを選んだユスティーナも同じ二皿を用意して──ぱちり合った視線に、2人は同時に笑った。
 羽目を外すのが楽しいし、作ったアイスは凄く美味しくなるだろう。それも全て『彼女と』だからこそ。

 渾身の旗取り成した男に祝辞を贈った後、レーグルは継吾に気付き声を掛ける。規則正しい生活とエアコンで酷暑を乗り切る少年のアイスは、チョコチップを散らしたバニラと葡萄だった。
「レーグルさんは?」
「我は薔薇をな」
 見目楽しく味も美味しいだろう花香るアイス。トッピングには悩まされたが。相席した少年の視線に気付き、ゆらり尾を動かし交換を提案する。
「これもまた共に楽しむ醍醐味だ」
「では、お言葉に甘えて」

「薔薇が咲くってどういう感じなのだろうね」
「ジエロのお口に薔薇が咲いたら、かっこいいだろうなぁ」
 クィルはふふと笑い、ボウル中央に薔薇アイスを盛るとチョコアイスも小さく並べた。ベリーソースをたっぷりかけたら、プチシューとプチケーキを乗せ、生クリームを盛りっ。
(「……かっこいいのだろうか。今度買ってきてみようかなあ」)
 内心首を傾げたジエロだが、薔薇色ジエロアイスにどやりな子にはやっぱり、と作り始める。
 チョコのプチケーキに3種のチョコ。チョコ尽くしはやり過ぎ? いいえ丁度良さそう。追加でチョコソースも、とろり。
 そして交換すれば、
「ふふー、ジエロが選んでくれたから格別です」
「じゃあこれはチョコクィルアイス? ん、おいしい」
 互いの顔に幸せ笑顔が咲く。
 今が何時でも、此処が何処でも。2人一緒なら、『そこ』がどんな特別にしようかと考える時間もとっておきになる『特別な今日』であり、『輝かしい毎日』。

 まず制覇するのはホテル拘りのチョコ3種。が、そこからの選択は記にとって究極レベル。
「ううん……わたしはアイス界のセンターポジション、スイートから参ります!」
「んー……決めた! 僕、ビターから食べる!」
 悩みを乗り越えたフィデルが描くのは、ずっとやってみたかった虹色タワーアイス。
 夢のようなそれに記の心はときめいた。チョコクッキーの猫耳、クランベリーのドライフルーツは瞳。顔はチョコペンで──。
「リヒトさんの出来上がり! 居ないならアイスで御一緒という訳です!」
「可愛い! リヒトってばここにいなくて残念。……あ、お花のトッピングもいいな」
 翼猫に想いを馳せたフィデルがドーム型アイスに食用の花を飾っていけば、アイスの花束の出来上がり。
 お互い可愛く作れたら? それは勿論、交換こ。

「はわ、萌花ちゃんは薔薇のアイスなんだ!」
「如月ちゃんはスイートチョコ? それもめっちゃ気になってたんだ。あとでシェアしよ」
 約束してから目を向けたトッピングは、想像通り多種多様で悩ましい。
 薔薇の香りだけでなく、一緒に添えて味を楽しめるよう、萌花は蜂蜜を少しだけ垂らす。兎形のバタークッキーの傍には、選びきれなかったチョコとチーズの抹茶ケーキを1つずつ。ミニチュロスも付けて、仕上げはシェフの生クリーム。
「如月ちゃんはどんな風にトッピングしたの?」
「うん、あのね……」
 胡桃、ナッツ、ドライフルーツ。普段は乗せないカラースプレー。全部食べてみたくて、
「本当に全部、乗せちゃった♪ ……だから後で運動、つきあってね、もなちゃん」
「ん、いーよ。なんでも付き合うから楽しも?」
 真っ赤になっていた頬が落ち着いていく。
 3駅隣に出来た最新アスレチック公園の情報は、ラシードから情報入手済み。
 その前に、まずは夜景とアイスを目一杯。

 バニラ、ライム、薔薇のアイスの3段重ね。トッピングはオレンジピール。そこに蜂蜜を加え、幸せ満ちた笑み浮かべる光流作のアイスはウォーレンがイメージだ。
「ちょっと照れるね。チョコとかは?」
「チョコちゅう感じやあらへんな。味はあくまでイメージやで」
「……それなら、味見してみる?」
 いつもの延長線のつもりが、ひょいと手を取られ──手の甲に、キス。
「うん、チョコはちゃう。蜂蜜や。強いて足すならアーモンドやな」
「そっか。それなら僕は光流さんのイメージのアイス作るよ」
 早鐘打つ鼓動は隠して、まずはベースのミント。それからチョコ。種類は。
「悩んでんねやったら味見して良えんやで」
 味見。さっきみたいな?
「遠慮しとく。今は、ね」
「ほな後で一口ずつ分け合いこしよ」
「うん」
 こっそり足されたとびきり甘いチョコに気付くのは、一口食べた時。

 祝辞を贈ってから向かった先で、ウルトレスは解を得た。アイスとはアイスクリームの事なり。
「冷却用の氷が取り放題って何が楽しいんだろうと疑問でした。では自分が運びますから、お好きなだけ取ってってください」
「ありがとうUCさん。種族柄、寒いのは当然だけど暑すぎるのも結構堪えるのよね。まずストロベリーでしょ、ピスタチオでしょ……」
 鱗付きも機械多めも、この季節辛いのはお互い様とコマキは笑い──目についたものをどんどこと。
 宣言通り運んだウルトレスだが、大量の文字が輝くアイスを前に動揺が滲んだ。少しだけ。
「ふふふ、別腹っていう都合のいい日本語があってね? 私は食べた分全部ドラゴンブレスとかの熱源になっちゃうから」
 コマキは背にした夜景以上に目を輝かせ、アイスに手を伸ばす。
 幸せそうな様子に、去年の今日が重なった。
 あの時と今は真逆の雰囲気だが、こういう瞬間だからこそ男の胸には生きる実感と喜び、決意が湧き、娘も今という時間をしっかりと抱き締める。

 好きな味を1つずつ選んで半分こ。けれどその好きな自分ではなく『伴侶の』好き。
 同じ事を考えていた驚きは自分を想ってくれた事への愛おしさになり、冬真と有理は微笑みを交わした。
「どうぞ」
 彼女の選んだビターチョコを前に、まず冬真が差し出した一口は、甘酸っぱい苺味とふわり広がる濃厚なミルクの香りに満ちていた。
 瞬間有理の表情が柔らかくなるが、それは愛しい夫の前だから。
 口元へ差し出された兎クッキーは、不思議と溶けそうなくらい甘くて柔らかくて──温かい。まだ少し残っていた兎に、影が重なった。
「――ご馳走様」
 兎を半分攫ったら、心が蕩けていく気がした。甘さでか温もりでか判断の付かない耳に、声が届く。
「――まだまだ夜はこれから、でしょ?」
 とうに残りの兎を頂いた唇が、甘い言葉を紡ぐから。
「そうだね。じゃあ……もっと味わおうか」
 誘われるまま、今度は兎ではない場所へ口付けて。
 蕩けるようにほろ苦く甘い最高の夜を、2人きりで味わおう。

 むいむいと食べるティアン作のアイス、ミルクチョコにクッキーとマシュマロを合わせた、いつぞやのスモアから来た連想が夜の味覚にアサルト!
「さくふわの異なる食感が堪らないね。素晴らしい発想にこれを」
 チョコメダルで新たな扉を開いた灰の目が、ポジション・スイート、アイヴォリー(食道楽番長)の異変に気付いた。エンチャント・昇天している。
「大丈夫かアイヴォリー。ラズベリーとピスタチオとスイート、そんなにあうの」
「さあさティアンもどうぞ一匙」
 酸味と香ばしさと甘さが紡ぐ効果は、受け取った娘の耳を動かした。その様を見れば、黙々食べている品が如何に美味いかなど、ビター担当の夜にはよく分かる。
 ご機嫌な耳にアイヴォリーも微笑み──ミルクがもたらす濃厚なコクと絶品マシュマロの甘美な罠に堕ちた。
「こんな贅沢を知ってしまったら、もう戻れないじゃありませんか……!」
「夜のビターにオレンジピールの惑星もさながらオランジェットで、見るからにおいしそう」
「……そう、正解」
 丸く盛ったビターな惑星に煌めく星々はオレンジピール。片目瞑って差し出された美を一匙貰った番長の目が、キラッ。
「柑橘の苦みと相俟って余りにもパーフェクトな大人の味」
 これは、幾らでも、食べられ──と、夜の指が頬をつん。
「……ティアンの分けてもらえる分、のこってる?」
「ハッ、すみませんわたくしったら」
 詫びスイートが受け取られた後、3人は次なる戦いへ向かった。
 全種制覇。難易度、幸せ。

 2色ずつのプチケーキ土台に、丸く敷かれた和洋MIXアイス。上段は白玉にホイップ、蝋燭代わりのチュロスと、盛るのを楽しんでいるうち魔物化しただけの品が二度見される。
「なァに、俺流シェイプアップ術伝授したるって」
「弁護士に相談させてくれ、カロリーモンスターで腹筋が24に割れそうだ。あと記念に1枚。人に見せても?」
 楽しむラシードと共にサイガはスプーンをドスリ。祝いで満腹だろうと半分以上を持っていく。
「にしても四十路なあ……娘からの誕プレは健康グッズ?」
「娘手作りの医療本とか最高だね!」
「んじゃ、立派な親馬鹿サンにゃこれやるよ」
 国で囲む食と比べ小さいだろう中央の薔薇は、今日の主役へ。

 薔薇に蜂蜜とメープルシロップ。果物系には果物を重ね贅沢三昧。和菓子やプチケーキはいっそそのまま。豪華絢爛なアイスはアベルの年齢知らずな胃袋を楽しませるばかり。口内に薔薇の花弁がふわり広がる心地の中、向かいに目をやれば。
「……ああ、うん。これは、ちょこだ。しあわせ」
 豊かに盛られた3種のチョコをプチシューでバランスを取り、ふわふわ生クリームと胡桃を添え、猫形クッキー付き。着席して即食べ始めたラカは、アベルの予想通り顔で美味さを語っていた。
「――そうだな、チョコだな」
 漂う幸せのお裾分けは予想より早く変わる。何せ、目の前が空になるのにつられたラカの匙が進むのだ。果物でより華やかに盛られた薔薇は、アベルを真似、蜂蜜とメープルで煌めいている。
「まだ和も果物もある。今夜は寝かせない」
「こっちは最初から其のつもりだ。寝てる暇があるなら食え、禁断は今だけだ」
 外の夜景も『今』だけの味。
 存分に欲張る言葉につられ、ラカは外を見る。ああ、此れも旨い。

 ミルクチョコの山の天辺にはココア猫。更にマーブルチョコや麦チョコをぺたぺたと。更に更に、チョコケーキを乗せればチョコもりもりマウンテン! 最後に大好きな苺を1つだけ!
「シズネのはチョコを極めた逸品だね。一粒の紅い苺がまるで王冠みたい」
 まさに禁断のアイスと讃えたラウルは、逸る気持ちを抑えた。宝石のように鏤めた桃や苺のドライフルーツの前に、バニラと共に咲く薔薇と琥珀の蜜を絡め、一匙。
 ふんわり咲き誇る全てに頬を蕩けさせ、煌めく夜景と好みのアイスを楽しく満喫するラウル。こういう時はかっこよくきめるのがオトナの男、という事で。
「夜景よりもおめぇの方がきらきらして見える」
 アイスのように甘い、嬉しい言葉。薄縹色はパチリとして、夜が明けそうな幸せ笑顔が輝いた。
「アイスの方が輝いて見えるね!」
 橙が、きょとん。自分のアイス。真夜中でもより煌めく彼のアイス。確かに。でもでも!
「オレのチョコまうんてんも負けてないんだからな……!」

 誕生日の男に星と花のクッキーを贈ったら、いざ真夜中アイス。
 ムジカが夜空に咲かせた大輪の一皿は、せめてもの良心が滲むビターチョコと薔薇。チョコクランチをかけたそれを一匙食べれば、真夜中の彼方へ放り投げて捨てたカロリーと、真夜中アイスの背徳感が凄かった。
「禁断の味に身も心も蕩けそう……の、お裾分け。市邨ちゃん、あーん♪」
 ひんやり美味しい一口を頂いたら、市邨も餡子の和風アイスを大好きな彼女へ、はいあーん。
(「ムゥがぷくぷくしたらそれはそれで可愛いと思うけど……女の子にぷくぷくは御法度かな」)
 故にせめてもの、なビター。可愛い。
「背徳感たっぷりの真夜中アイスも、市邨ちゃんと一緒ならどこまでも堕ちれそうネ」
「ふふ、ね、背徳の真夜中も──君と一緒なら、何処迄も」
 煌めく夜景の底でもきっと、大丈夫。

 拘りチョコのビターに、ドライフルーツとナッツ多め。
 椅子にもたれたキソラは、硝子に薄ら映る自分越しに見下ろした夜景と、アイスの口当たりに笑む。
「成る程禁断の贅沢だ」
「だろう?」
「おっ。オメデト39歳。満喫してるね」
 盛りたてアイス片手の男へ撮るポーズで問えば、笑顔でYES。
「君は?」
「オレはお蔭サンで生きるのに必要な情報以外はそれこそ贅沢、なんて時期もあったケドねぇ」
 今じゃ縁あって一緒にアイス食べてる男が、何を経てココに居るのかと興味沸く位には、贅沢出来てるじゃないかと笑う。
「甘いの同様、まだちぃと慣れはせんが」
「へえ? じゃあたっぷり慣れてもらおうかな」
 真っ赤な目で面白そうに笑むものだから、お手柔らかにと返し、気付いた。
「コレ洋酒掛けたらもっと罪だと思わねぇ?」
「あっ、天才!」

作者:東間 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月31日
難度:易しい
参加:34人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 0
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