なつまつり

作者:ふじもりみきや

 神社の石段、ぼやっとした昏い闇。
 屋台の狐面、からからと廻る風車。
「夏祭り……。いいじゃないか。射的に大人気なく熱くなるのも醍醐味だな」
「……あまり、羽目は外しすぎないようにお願いしますね」
「? 夏祭りで羽目を外さずして、一体どこで外せというのかな、君は」
「……いや、大体そこらへんで羽目を外してますよね、月子さんは」
 真面目な顔をして言い切る浅櫻・月子(朧月夜のヘリオライダー・en0036)に、萩原・雪継(まなつのゆき・en0037)は若干なんともいえないような顔をした。それをまったく気にせずに、月子は肩をすくめる。
「まあ、細かいことはさておこうじゃないか、諸君。そういうわけで夏祭りだ。……なに。話は簡単。とある町で行われる夏祭りがあったのだが、周辺の市街地がデウスエクスの攻撃であちこち酷い有様らしい」
 死者は出なかったものの、さすがにそのまま夏祭りを開くわけにもいかず、お祭りは順延になっているらしい。
「そこで、諸君らが町に出向いてヒールをかけ、町を修復することで、夏祭りをできるようにしてあげよう、ということだ。お金をかけて準備したものが、開催されないとなれば勿体無いだろう。花火高いのに」
 最後はちょっと妙な感想が混じった。
「何せこんな時代だ。騒げるときに騒いでおいたほうが、日々に活力も出るというもの。ついでに諸君らも、ちょっといって楽しんでくるといいと思うよ」
「夏祭り……。日本のお祭りには、とても興味があります」
 それまで話を聞いていた、アンジェリカ・アンセム(オラトリオのパラディオン・en0268)も深く、深く頷く。
「ボンオドリというものもあり、歌い、踊り、楽しむこともできるとか……」
「それは……ちょっと、違うと思うんですけど」
「戦い、そして勝利したものだけが素晴らしい宝物を手に入れるという催しもあるぞ。金魚すくいとか、輪投げとか。まあ、わたしのお勧めは射的だが」
「そう、なのですか……。日本のお祭りは荒々しい側面もあると聞いておりましたが……」
「それに、打ち上げ花火もある。青春と素敵な出会い、そして恋には欠かせない代物、だろう?」
「まあ……!」
「……」
 好奇心いっぱいで、あれこれに目を輝かせるアンジェリカ。月子はそ知らぬ顔をしている。雪継は軽く額を押さえながら、
「とにかく、現地の皆さんのためにも、ヒールを頑張りましょう。そして、楽しんで遊んで来ましょうか。勿論、少しくらいなら羽目を外してもいいとは思うけれど……。あの。だめな大人、ぐらいの範囲にしてほしいと思います」
 折角だから、楽しく行きましょうと。雪継は最後にそう言うのであった。……若干、胃が痛そうな顔をしていたのは、諸君らの胸にそっとしまっておいてほしい。


■リプレイ


「あつあつ、たこ焼きあつ! あ、焼きそば大盛りにフライドポテトに……かき氷!」
 【エトランジェ】、連は紺地の絣の浴衣に草履で。屋台の隅々まで食べ歩く予定だ。
「私のオススメはこれです、玉こんにゃく! 可愛いですし、甘いタレがたまりません!」
 緑地に白花のレトロな浴衣を着たアイカがと主張する。声を上げたのは藍色に大きな花柄の浴衣のマイヤだった。
「おいしそう! あ、オススメと言ったら、じゃがバターかな! ここのお店はバター盛り放題みたい」
「うわ~あ。すごい! 珍しいものがたくさんあっていくら驚いても驚き足りないよ!」
 ピンク地に藍色の小花模様の浴衣を着た摩琴が目を輝かせて両手を広げる。ぜんぶ食べる! との摩琴の声に、おー! と頼もしい言葉が返った。

「よーしお前ら。一番元気そうなのを捕まえろ!」
「な、中々難しいぃぃ……!」
 今だと掬いとられる金魚たち。【IF】のマリーの宣言に、愛路が声を上げる。
「二匹目にもチャレンジしよう。世話ならマメな長男が居ることだし、何とか……あ」
 シェリオが二匹目を。フィーラがもくもくお勧めの焼きイカやらリンゴ飴を齧りながら頷いた。
「すごいー。よくがんばりました、えらいえらい」
「おーぅお前らいい感じだな。新しい家族だ!」
「ああ。名前は、何にしようか」
 マリーの台詞にシェリオがいう。愛路も応援に回り、
「水槽とか用意してあげなきゃね!」
「そうだね。これで家族、ふえた、ね」
 頑張る皆の頭をフィーラは撫でる。……合計四匹、おもち帰り。彼らに新しい家族が増えた瞬間だった。

 射撃の狙いを定めた有理は真剣な顔をしていた。
「君に似ていて可愛かったから」
 冬真に貰ったぬいぐるみに有理も取りたい物があった。
 冬真に手伝ってもらって取ったぬいぐるみ。射撃の最中もどきどきして幸せだった。
「貴方に似たオオカミさんも一緒に連れて行きたかったの」
 ウサギと狼一緒に抱えれば、幸せそうに有理はそんなことを言った……。

 【フィニクス】水風船争奪戦会場……。
「それなら審判は私に任せてくれ。構えて……用意、始めっ!」
 リィンの言葉で戦いの火蓋は切って落とされた。
「よしきた。ガキの頃、屋台荒らしのまーくんとまで言われたのは俺のことだ。任せろ」
「それは凄いことなのか?」
 ニヒルなマクスウェルに、飛び入りの月子が思わず突っ込んだ。
「へえ。そうなんだ。すごいね。……あ」
 瑠璃が言うや否や、マクスウェルのこよりは水没。
「うん、なかなか頑張ったよ。僕」
「ふ……おもしろそうじゃない。行くよ天音。目にものを見せて……」
「そうそう、アンジェちゃん、ユキちゃん。力を入れないほうが……」
「……あ、とれました」
「え? え? あ、あの……っ」
 飛び入りの前者が雪継で後者がアンジェリカである。
「……。あっ! いい感じだったのに……次こそは!」
 人助けモードに入っている天音に光咲が自分でやるしかない。と腹をくくったり、
「那岐さん一緒に頑張りましょう! ……やった!一つ目ゲットね♪」
 桜音が不慣れながらも水風船を吊り上げる隣で、
「はい。これは、やり方にコツがいる高度な物ですね。こよりを……」
 那岐は真剣に長考モードに入っていた。そんな彼らを、
「……」
「飛び入り参加、可、なんだったな?」
「ああ。可だ! つまり私もっ!」
 じっと見ていたリィンは、月子の言葉に手を挙げるのであった。

「あっ、シャルフィン見てみて!鼻眼鏡あるよっ」
 マサムネが指させば、
「そう言えば祭りと言えばボンオドリという珍しい鳥がいるらしいな?」
 シャルフィンがぼける。
「わっ、あんなに近くまで見える! 今日は君と一緒に来れて良かった」
「ああ……」
 射的に屋台に花火に。マサムネは声を上げる。天を仰ぐシャルフィンも、どこか嬉しそうだった。

「大丈夫よ、エスコートするって言ったでしょう?」
 浴衣で盆踊り。転びかけたアンジェリカにイリスが手を貸す。
「ありがとうございます」
 少し恥ずかしいけれど、
「楽しい?」
「勿論ですっ」
 楽しそうに笑いあった。

「ダイジョウブ、まだまだ酔っていないよ?」
 と。すっと真剣な顔になり夜は一撃を放った。狙うはチョコだ。
 眠堂も麦酒飲み干せば撃つ。落としたのは煙草の箱で月子が手を伸ばす。
「おや、優しいな眠堂。だがこのぬいぐるみと交換してやろう。君が勝者だ」
「一位が酒奢り、二位が串肉奢り、三位がたこ焼奢り。ヤッター! やっさしー」
「!?」
 しまった、という顔の眠堂。大人気なく喜ぶ二人。……さて、呑みに行こうか……。

「わぁっ……♪ 凄い、凄いのよぅ萌花ちゃん!」
 なかなか掬えない如月のかわりに萌花が金魚を捕まえる。
「ふっふーん。こういうのはお任せあれだよ。よければ如月ちゃんが大事にしてあげて?」
 差し出されたのは小さい子と尾鰭の綺麗な子。
「うん! 大事に育てる……ありがとう♪」
 本当に嬉しそうに笑う如月に、萌花もぐっ、と親指立てて笑った。

「これを食べなきゃ始まらない♪ ……あ! ダリアちゃん射的もやろっ」
「ん、あ、射的、やろうやろう!」
 たこ焼きワタアメ飲み込んで。射的に駆け出すリィンハルトとダリア。
「三人で挑戦すれば誰かは取れるかも!」
「よーし、苧環も一緒に誰が取れるかやってみよっか」
 射的の屋台も賑やかに。一緒ならきっと結果がどうであれ楽しいだろう……。

「これぞ! 美味しいですよ。後それとあれとこれと……」
「落ち着け。いいから落ち着け」
 紫睡は既に出来上がっていた。ユストは宥めるもあれこれ食べ物を配る。アンジェリカは目を丸くして、
「まあ。まあ……!」
「ありがとうございます。あ、紫睡さんは浴衣着ないんですか?」
「私は汚れたりしたら勿体無いので浴衣は着ませんよ」
 言い切った。ユストのなんともいえない顔に月子が声を上げて笑った。彼女らしいことだろう。

「ねぇねぇ、綴ちゃん。一口交換しない?」
「……交換って、まぁいいけど」
 ブロウも綴も初めての夏祭りでテンション高く。でもクールに装う綴をブロウは微笑ましく見ていて、わたあめを差し出したりしていた。
「ん。甘いね。でも美味しいや」
「素直でよろしい、なの」
 手を繋いで二人散策を。楽しい時間はきっとあっという間に過ぎるだろう。

「どっちが沢山撃ち落とせるか、勝負しましょう!」
「ほう……受けて立つ!」
 千笑と月子の戦いを、ほわほわと月と雪継は見守る。
「勝敗分かれたら勝った方に僕が何かご馳走しますよー……お酒以外で」
「朔望さん、雪継くん。なにがいいー?」
「えっと、では……あの大きめのキャラメルとか?」
「うーん……。あのおもちゃの箱を」
 返答に千笑はガッツポーズをして、
「任せてください!」
 銃声と楽しげな笑う声が、周囲に響いた。

 ミコトと朔羅はお互い本名を呼ばぬ様子。浮世離れした様子でお祭りを渡り歩いて……、
「遊んでみたいのですけれど遊び方がわかりませんね……。貴き龍の方はご存知ですか?」
「しばし待て、白百合。……すまない、慈悲の心を持っているなら繊細な中年を助けてほしい」
 目を輝かせる朔羅。こっそり尋ねるミコト。それもまた、思い出のひとつだろう。

 ……さて。
「はい、今宵も始まりました、九龍町町長杯第一回射的大会。実況はワタクシ、謎の狐面の男でお送りします」
 【九龍】狐面大集合撮影会の後、徐に声を上げたのは謎の狐面Xこと巽清士朗であった。
「面白い。狙撃の腕前だけは自信があるんだ」
 レスターが得意げでどこかかっこいいまなざしで獲物を見つめている。
「勝負? 望むところなんよ」
「いいだろう。わ私が勝ったら全員なんか恥ずかしい台詞を盆踊り櫓から叫んでもらうぞ」
 ひさぎもやる気を示していた。腕まくりしていつでも来い感。そして大人気ない月子。一方……、
「せ…謎の仮面男さん……? 射的ですか……せっかくですしやってみよう……」
「……お薬なら百発百中なんだけど」
 楓とフィーが挑戦するも……外れる。
「わーい、頑張ってー! ……あ」
 応援組、エルスが声援を上げると同時に面がずれた。それをリリィが丁寧に直して、
「……ふふっ、フィーさんさすが詳しいわね♪」
「……」
 ミカドが後ろのほう、じ、と黙ってそんな姿を見ているので、
「ほら、こちらよ。一緒に見ましょう」
「……!」
 びく、とリリィの問いかけに身を震わせるミカド。それだけでいい。去年の私より幸せだとふらふら足が向く。
「……ふふ」
 林檎飴を齧りビールを片手に國景はその様子を優しく見守っている。微笑ましい。うんうんと清士朗もぷはーっとビールを煽っていたが……、
「よく狙って……そこだ」
「当てるコツ……なるほど……」
「あれ、これじゃな……まあいっか! 結果おーらい!」
「あっはっは、完勝! ぺんぺん草も、生えない!」
「ああ。決着前に店仕舞いになりそうだな」
 清士朗は額に手を宛てる。目の端に商売にならないと屋台のおじさんの怖い顔。何か言おうとして……やめた。
「……空にも、花が咲いたな」
 いいや。屋台ごと後で買えば。花火綺麗だし。楽しそうだし。
 我、悟りを開いた感。志苑も微笑んだ。
「出店側も……良いやもしれませんね」
 きっと大変だが楽しいだろう。


「ん~っこの優美なフォルム、上品な佇まい! 控えめながら花火に負けない美ですよーぅ! かーわい♪」
「皆待たせたな!  金魚を救うのに手間取った!」
「花火だ花火だ! お前らは何買ったの? 食べ物はある? 金魚? それは食べれないぞ?」
 【賢島組】、メリーナと鬱金の金魚愛に、レインは割と本気であった。
「あ、ハナビはじまった! すっげーーー! よぞらにバチバチーって、ホントに花みたいなんだナ!」
 その時、大きな音がして空の上に花が咲いた。ウルスラが思わず歓声を上げて指をさす。
「ああ。素敵……。いつかはこう……好きな人と、とかその様な機会もあったりなかったり? きゃっ」
 バンリがゆめかわわたあめにゆめかわ浴衣で夢の世界に片足突っ込んだりもしたけれど、
「何て綺麗な夜の花……。職人さんの技術の粋、しかと堪能していきましょう」
 迦陵がしみじみと天を見上げ、頷くのであった。
「よーし、来年はどれだけあの花火を倒せるか、勝負です!」
「よし、受けて立つ……!」
 メリーナと鬱金は謎の勝負が始まって、
「私は来年その戦いに参戦できるだろうか。なあ金魚、お前はどう思う。……わかんないか、そうか」
 パルテが自分の金魚に語りかけた。その間に、花火は終わって行って……、
「ふっ、悲しまなくていいのよ皆の衆! そう、今こそはこれの出番よ!」
 徐に要が花火セット特盛を取り出した! そして!
「こんな事もあろうかと、バケツも持って来ているよ」
 英世が言う。そのまま何故か、
「ああ。勿論こちらも気になるだろう。心配しないでほしい。全員分色違いで各種取り揃え……」
「あ、誰かライター持ってない? 忘れてきちゃったみたいね」
 ソフビに対して語り始めようとする英世を完全に聞いてないふりする要なのであった……。

「次はこっちだよ!」
「はい!」
 蛍とアンジェリカは右へ、左へ。
「大丈夫、包丁がなくてもスイカ拳で割れるよ」
「え!? それは……」
 スイカと共にお喋り、どーんと花火。きゃあきゃあはしゃぐ乙女二人であった。

「めーげーなーいー!」
「困ったな。迷子ですか?」
 騒ぐイストテーブル。雪継が困っている。要はナンパのつもりが間違えたらしい。
「……失礼ですが目がちょっと残念なんじゃ」
「ひどい! こうなったら自棄コーラに自棄焼きいかだよ! つきあって」
「あ、はい。それは構わないけど……」
 どうやら時間がかかりそうだ。

 しっぽが揺れた。
 しっぽが揺れた。
「……!」
 花火が散った。しっぽが揺れた!
「ところでそんなに解りやすいんだろうか、俺は」
「ん? あぁ……」
 自分のしっぽに気付かないレイヴン。つかさは笑う。
「夏が終わるまでに、また見えると良いな」
 返事のかわり。それにレイヴンは、
「ああ。また花火を見に行こう」
 来年もと二人言い合って笑った。

「こっちのかき氷も食ってみるか?」
「克己も私のかき氷をたべてみますか?」
 カトレアと克己は氷を分け合ったり、
「何時も笑っててくれよ。お前が笑っていてくれれば、俺は何度だって立ち上がれる」
「ええ。いつでも。この花火の様に、人の心に添う一輪に私もなりたいですわ」
 花火が始まると二人寄り添って。静かにそっと、夏の花を眺めていた……。

 天に花火が輝いて、【星見台】の面々はたこ焼きお供に顔を上げる。リートは瞬きひとつ。
「お腹の足しにはなりませんが綺麗なものですねぇ」
「花火……なんというか、言葉で表せない綺麗さと、すぐに消えていく儚さが、素敵です。綺麗……」
 涼香がどこか祈るような思いを乗せて見上げると、
「ああ。皆と共にこの夜空を花を眺めることができ、とても嬉し……」
 帷が。言いながらたこ焼きを口に含んでそして硬直した。
「おいおい、大丈夫か? 俺のでよければ水がある……どういう事だ!」
 当たりが二個……! 獅龍はしかし帷と視線を交わし、一瞬で平静を装った!
「当たりだね?」
 千鶴がそっとラムネを渡したとき、ひときわ大きな花火の音。
「……夜空に咲く大輪の花はやはり良いものだ」
 ああ。とその彩りに由加が息を呑んで素直な声を吐き出す。
「……花火も星も、また皆で忘れない景色を見に行こうね」
 千鶴の言葉に皆が頷いて、そしてそんな続く未来を願った。
「まあ、私としては見事的中したお二人の悶え苦しむ姿もなかなか見ごたえがあったかと思われますが」
「そいつは放っておけ、そいつは」
 獅龍が思わず言って、笑いの花もまた咲いた。

「会えて良かったな。今度ははぐれるんじゃないぞ」
 人ごみに真也は迷子の少女を見つけて親を探した。
 見つけての別れ際。お礼の言葉にその頭を撫でる。それだけで充分だった。

「煉くん」
「んっ!?」
 二人で見る花火は美しくて。見とれる隙にリシアは煉にキスをした。
「今日はデートしてくれてありがとう」
「リシア……」
 迷わず煉はリシアを抱きしめる。
「……持ち帰り希望って事でいいんだよな?」
 冗談めかして言ってリシアをそのまま抱き上げる煉。先からリシアも煉を誘惑していたのでお互い様か。リシアの返答は……。

 気付けば春乃はどんどん大人っぽくなっていて。
「ねえ、アルさん」
 見とれるアラドファルに春乃は扇子を傾け、そっと頬へキスをした。春乃も同じように思ってた。
「――だいすきだ」
 そんな彼女が愛しくて、頬へのキスで返事をする。
「――わたしも、だいすき」
 耳元で囁きあう。子供の頃とは違う仕草。違う会話。けれどその気持ちは、きっと……。

 あれがほしいこれをかぶってと笑いながら。
「――綺麗なものを見せて貰ったしな。ちょっとばっかり歩かせちまったが、対価には足りるんじゃねえかと思う」
 社がレティシアの手を引いて、花火の特等席へと案内した。
「貴方がそう言ってくださるなら、それ以上の対価はありませんよ」
 楽しかったと。ぎゅっと手を繋ぐ。空には大きな花が咲いていた。

 エリザベスはトーヤの浴衣の裾を握る。
「あ、あの、逸れたら駄目だよね。……だから……」
 それで、トーヤは察した。いじらしい姿がなんとも可愛らしくて、
「そうだな、結構人いるから。はぐれないようにな」
「……うん!」
 手を伸ばして掴んだ。とたんに笑顔になるエリザベスに、
「ベス、今日は本当に綺麗だ」
 いつもより。なんてトーヤは笑った。

「なんだ?オレに見惚れてるのか?」
「そうだね。君の頬に付いてる青海苔に視線を奪われてるよ?」
「!?」
 慌てるシズネ。ラウルは笑う。そして思わずもれた呟きに、
「花火だって何回でも一緒に見られる。いや、見るんだ!」
 シズネはラウルの手を掴んだ。空に砕ける星々に、
「ありがとう。シズネの優しさが、好きだよ」
 声は、染み込むようだった。

「こっちこっち」
 猫晴はアンジェリカの手を引いて。
「さん、はい!」
「はい、たまやー!」
 上がる花火に顔を上げ、
「花火って、本当に綺麗だよね」
「ええ……。本当に私、日本に来てよかったです」
 二人長い間空を見ていた。

「たい焼き、たこ焼き、お好み焼きに……」
「これはすごいな」
「食べ比べだよ」
「月子嬢。おっとお嬢さんも。良ければご一緒、してくれないか。射的に金魚すくい」
 御影が缶ビールを片手に声をかける。勿論と月子は声をあげて。屋台完全征派計画を実行中のノルンは途中で屋台寄りながらならと。道中御影は、
「子供っぽいだろうか」
「ふふ、それがいいのだろう?」
 そこに首からカメラを提げたエリオットが声をかけた。
「ちょいと、そこのお嬢さん――」
「ああ。写真を一枚……君か。折角なら一緒に撮らないか」
「俺は撮る方が好きだけど……。ナンパされちゃしょうがないな」
 たまには一緒も、良いかもしれないとエリオットも頷いた……。

「夏祭りと言えばやっぱり花火だよねぇ」
 お揃い浴衣姿の由美が嬉しそうに天を仰ぐ。
「そうだな……」
 なんていいながらも、ヤトルは由美から目を離せない。そんなヤトルに、
「えへへ。夏祭りに付き合ってくれたお礼」
 不意打ちで頬にキス。ヤトルはひとつ瞬きをして、照れたように目を細めた。きっとその顔もふんわり、赤い色をしているだろう。

作者:ふじもりみきや 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月24日
難度:易しい
参加:82人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 5
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