付き合ってくれよ

作者:狐路ユッカ

●恋は盲目
「ヒカル、俺ずっとお前の事が好きだった。……付き合ってくれ!」
「……は?」
 カイトは、自分より頭一つ背の低い可愛らしい顔立ちの男子の手を握り、そう言い放った。
「いや、待って、俺カイトのこといい友達だとは思ってるけどさ……付き合うって……え、買い物? 何に?」
 懸命に『付き合う』の意味を逸らそうとするヒカル。カイトは首をぶんぶんと横に振る。
「わかってんだろ、俺お前の事が……恋愛対象で、好きなんだってば」
「いや、あの……好いてもらってんのは有り難いけど、恋愛感情は困る。俺が彼女いるのお前も知ってるだろ?」
「そんなの本気じゃないだろ。俺にしとけよ」
「本気かどうかは俺が決める事だろ、ふざけんな」
 踵を返すヒカルの腕を掴むカイト。ヒカルは眉を顰め、その童顔からは想像もつかない程に低い声で静かに告げた。
「いい加減にしろ。お前とはいい友達でいたいって言ってるだろ」
 期待には答えられない。そう言ってカイトを残しヒカルは去って行った。校舎裏にぽつねんと取り残されるカイト。
「あなたからは強い初恋の想いを感じる……。私の力でその初恋、実らせてあげよっか?」
「は? おま誰だよ」
 カイトが振り返るとそこには蠱惑的に微笑む少女の姿。
「どうだっていいじゃない、叶えてあげるって言ってるの」
 戸惑うカイトに歩み寄ると、その唇にキスをした。
「!!」
 初めての感触とファーストキスの力に恍惚とするカイトの胸に、彼女は鍵を突き刺す。倒れたカイトの傍に現れたのは、彼の姿にそっくりなドリームイーターだった。
「さぁ、あなたの初恋の邪魔者、消しちゃいなさい」
 解き放たれたドリームイーターは駆けだす。ヒカルを追えば、――その恋人に辿りつける。その女を、殺す為に。

●想いは重い
「日本各地の高校にドリームイーターが出現し始めたのは、知ってるかな?」
 秦・祈里(豊饒祈るヘリオライダー・en0082)は、小首を傾げてケルベロス達に問うた。
「なんでも、ドリームイーター達は、高校生が持つ強い夢を奪って強力なドリームイーターを生み出そうとしているらしいんだよ」
 祈里は手元のバインダーに視線を落とす。
「今回狙われたのは、カイト君という学生で、初恋を拗らせた強い夢を持っていたんだ。……それが、頑固な片思いでね、友情と恋をはき違えちゃったっていうか……ううーん」
 何とも言えないけど、彼女のいる『男子』を好きになっちゃったんだよね。祈里はそう付け足す。
「被害者から生み出されたドリームイーターは、強力な力を持ってるんだけど、この夢の源泉である『初恋』を弱めるような説得ができれば、弱体化させる事ができるよ。対象……『ヒカル君』への恋心を弱めても良いし、初恋という言葉への幻想をぶち壊すのでも構わない」
 エルヴィ・マグダレン(ドラゴニアンの降魔拳士・en0260)は、うーんと唸る。
「けど、恋についてあんまりボロクソ言っちゃったら」
「うん、恋することが怖くなってしまうかも」
「慎重に説得しないといけないわね……」
 任務はドリームイーターを倒す、それだけで良いが、もしできるのならば彼を救ってやってほしい。祈里は頭を下げた。
「ドリームイーターは一体、ヒカル君を追うために校舎裏から出てくるよ。遅い時間だから、他の生徒はいないから避難誘導は考えなくて大丈夫。カイト君そっくりのドリームイーターを説得して弱体化させ、撃破! 頼むよ」
「わかったわ。……カイト君は?」
「校舎裏の花壇の前に倒れていると思うけど、ドリームイーター自体はケルベロスを優先して襲撃してくるから、撃破した後にフォローをお願い」
 了解。エルヴィは答えると、立ち上がった。
「行きましょう。折角良いお友達だったのに……好意の押し付けで関係が崩れるなんてもったいないわ」
 祈里も一つ頷く。
「皆の説得が上手く行けば、カイト君自身の偏った恋心も弱まるかもしれない。……気を付けてね」
 そう言うと、ケルベロス達をヘリオンへと案内するのであった。


参加者
千斉・アンジェリカ(空墜天使・e03786)
ミスティアン・マクローリン(レプリカントの鎧装騎兵・e05683)
テオドール・ノーネーム(ドラゴニアンの鎧装騎兵・e12035)
彩瑠・天音(スイッチ・e13039)
ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)
ミカ・ミソギ(未祓・e24420)
九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)
柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)

■リプレイ


 彩瑠・天音(スイッチ・e13039)は、ドリームイーターが出現するであろう校舎裏の植え込みに身を隠していた。
「――来た!」
 ドリームイーターが走りくるのを見つけると、声を上げる。その声に合わせるように、ケルベロスたちはカイトそっくりのドリームイーターの前に滑り出るように立ちはだかった。
「俺の高校には来ないなぁこいつら。いやどこに来ても困るのだけれど」
 ミカ・ミソギ(未祓・e24420)は小さくため息をついてドリームイーターを見据える。
「退け! 俺はあいつを追いかける。追いかけて……ッ、女を、殺す!」
 ケルベロスたちに吼えるドリームイーターを見て、九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)は小さく肩をすくめた。
「行き過ぎた恋心……これが噂のヤンデレという奴か。いやはや、色恋沙汰の恨みは恐ろしいね」
(「恋に男女は関係ないアルケド、相手の意向を尊重できないなら諦めるがよろし。好きになった人と両思いになれるかなんて、時の運だもの」)
 テオドール・ノーネーム(ドラゴニアンの鎧装騎兵・e12035)はドリームイーターがどう動くかを見据えながら、かける言葉を探す。
「うーん、やっぱり友だちとして付き合うのが一番いいんじゃない?」
 ミスティアン・マクローリン(レプリカントの鎧装騎兵・e05683)の一言に、ドリームイーターは眦を吊り上げて叫んだ。
「うるさい! お前に何がわかる!」
 叫びと共に飛び散ったモザイクをよけながら、エルヴィ・マグダレン(ドラゴニアンの降魔拳士・en0260)がつぶやいた。
「……恋は盲目。友達じゃ嫌、……ってことね」
「想いを伝える事は勇気が居るわよね」
 天音の優しい声に、ドリームイーターはその殺気を一時的に緩める。
「そう……どれだけ、葛藤したか……!」
「だから、カイトは頑張ったし偉いと思うわ」
 にっこりとほほ笑んで頷いたあと、天音の視線はまっすぐにドリームイーターを射抜く。
「でも、誰かを好きになるって、想いを伝えて付き合うだけじゃないでしょ」
「え……」
「ましてや、力づくで誰かを傷つけるなんて以ての外よ。アンタ、わかってるんでしょ?」
「振られたことで相手を不幸にしようってのはどうかと思うぜ」
 ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)の凛とした声が響く。
「っ……」
 ドリームイーターがびくりと肩を揺らした。
「そんなつもりはないかもしれんが、アイツの大事な女を殺そうってのはそういう事だ」
 小さくうなずいて、柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)は続くように口を開いた。
「初恋で誰をどう好きになるかを否定する気はねえ」
 難しい恋を選んだカイトを、責める気はない。
「ねえが……相手のことを想うだけじゃあなくて、思いやりも持たなければ真に人に愛されることはないぜ」
 傍らで、幻がそうだよ、と頷く。
「気持ちを伝える事と押し付ける事は違うんだよ。本当に相手の事が大切だというのなら、相手の気持ちを考えて行動する事も出来たはずだ」


「なんで……俺の気持ちは間違って……?」
 わなわなと震えるドリームイーターに、ミカは首を軽く横に振って見せた。
「別に友情から恋が始まったって何もおかしくなかろうよ」
 恋する気持ち自体に何か問題があるわけではない。けれど、その気持ちの伝え方に問題があった。
「……ただ、彼の言葉には理があるね、本気かどうかは彼が決める。同じように君の気持ちが本気かどうかも君が決めるんだ。そこはそうでなくちゃならない。そのうえでどうするかもね。伝えるにしろ、秘するにしろ」
 本気で伝えたのならば後悔することはない。けれど、相手のことを考えての『本気』だったのか。もう一度考えるべきと。
「今のあんたのは相手に自分の気持ちを押し付けてるだけに見えるんだよな」
 鬼太郎の一言に、ドリームイーターは激昂した様子で怒鳴る。
「違う……!」
「相手の幸福を喜べないなら、それは愛じゃないアルヨ、ただのワガママネ」
 テオドールがはっきりとそう告げる。
「ぐ……」
「失恋がつらいならすなおに泣くがよろし。頭痛くなるくらい泣いたら明日が見えてくるアル。英語ではブロークンハートっていうくらいだから心が粉々になるのもわかるけれど、認めるアルヨ」
 この恋は、『終わった』そのことを認めなければ、先には進めない。わかり切っていることのはず。それを認められないから、ドリームイーターに付け込まれたのだ。
「カイトくんはヒカルくんが好きアルヨネ? 振られちゃったけれど、好きって気持ちは本物アルヨネ?」
「好きだよ、誰より好きだからこんなに苦しいんだろ!」
「その気持ちを殺意に変えてヒカルくんが喜ぶと思う?」
 カイトの姿をしたドリームイーターを包むモザイクが、まがまがしく騒めく。
「んなことするより、今回はすっぱり諦めてもっと男を磨け」
 ハンナの言葉が、深く深くカイトの傷心へ響いた。
「今のお前は負けた。なら次に勝つために努力するのが筋だろう」
「っく……」
「誰を好きかどうかは関係ねぇ。大事なのは、お前が魅力的な人間になることさ」
 幻は、ゆっくりと語りかけた。
「自分を高めて魅力をアピールするのではなく、恋敵を物理的に排除しにかかった時点で君は自ら負けを認めているようなものさ。君は、君自身の行動で君の想いに泥を塗ってしまったんだよ」
 ドリームイーターは己の手を見つめて歯を食いしばる。
「……もう一度、自分の気持ちをよく見つめ直してみるといい」
「カイト、イイ男なんだから好きな相手の幸せ、ちゃんと応援してあげて?」
 天音が優しく告げる。
「俺、は……俺なんか……」
 きっと、カイト本人は自己否定に苦しんでいるはずだ。
「大丈夫。カイトの想いを受け止めてくれる子は、必ず現れるわ。だから今は凹んでもいいから、また立ち上がって、前を向いて行きましょう?」
 ね、と笑いかけられて、ドリームイーターはがくんとその場に膝を着く。
「相手への好意の気持ちが空回りして嫌われるってんじゃあんたも悲しいだろう。一旦落ち着いて茶でも飲んで周りをゆっくりと見渡して見れば、案外幸せってのは転がってるもんだぜ」
 鬼太郎にそう言われて、ドリームイーターのモザイクの殺気が薄くなるのが感じ取れた。
「――今よ!」


 エルヴィの声に呼応し、ハンナはドリームイーターが放つモザイクを玄人で払いながら一撃お見舞いしてやる。
(「やれやれ、初恋から随分と厳しい道を選んだモンだ」)
 ミカの得物が、美しい弧を描いてドリームイーターへと振り下ろされる。
「ぐ、あ!」
 いよいよ戦意が強くなったドリームイーターに、幻は高らかに宣言した。
「雷光団第一級戦鬼、九十九屋 幻だ。手合わせ願うよ!」
「行くぜ!」
 そんな幻を背に庇うように、鬼太郎がドリームイーターの前へと躍り出る。大きく振りかぶると、桜牙を力一杯振り下ろし、その突風でドリームイーターを切り裂いた。
「くひひ……いいね!」
 幻はそれに続くようにして、高く跳びあがると流星の煌めきを宿した修羅のブーツの踵を思い切りドリームイーターへと叩き付ける。ミスティアンは、前衛の攻撃手ではあるが、ドリームイーターと距離を保ちながら機会を狙っていた。
「――今、かなっ」
 胸部の発射口からエネルギーが照射される。が、それに負けじと跳びこんできたドリームイーターの鍵が、彼女の腹部を狙い差し出された。
「っ……!」
 がくん、と膝を着いたミスティアンに、天音が駆け寄る。
「……っ、エルヴィちゃん!」
 追撃を阻むよう、エルヴィへと叫ぶ。
「了解っ!」
 エルヴィはドリームイーターへ駆け寄ると、硬化させたネイルで貫く。天音は、傷ついたミスティアンを含めた前衛へ紙兵を散布した。
「咲いた、咲いた、赤い薔薇。咲いた咲いた大きな薔薇。赤い花は彼岸へ流し、彼方の空へ……」
 千斉・アンジェリカ(空墜天使・e03786)が高らかに歌い上げると、ドリームイーターのモザイクから血が噴き出す。
「ぅ、ぐ、あぁあ!」
 苦し身悶えるドリームイーターは、そのモザイクをアンジェリカ目がけて放った。
「っ、う」
 庇いに入ったのは、テオドールだった。衝撃に、怒りを覚える。我を忘れそうになるのを必死にこらえながら、歌う。
「させない、アルヨ!」
 戦場に響き渡る『幻影のリコレクション』。ドリームイーターが鍵を持つ手が、痙攣するようにびくりと震えた。
「虎!」
 頼んだぞ、と鬼太郎がウイングキャットに命ずる。虎は、ふわりと前衛の仲間たちの周りを飛び、清浄の翼で癒してやった。
「ま、だ……あきらめるわけには……ッ、あ、アアアァッ!」
 激高したドリームイーターが鍵を滅茶苦茶に振り回す。
「……恋心っつーのは厄介なモンだぜ」
 はぁ、とため息をつきながら、ハンナは星形のオーラを纏わせたsmartで蹴りを叩きこむ。
「かはっ、……ぐ」
 呻くドリームイーターへと、幻は紅光を振るう。緩やかな弧を描いた一閃が、見事命中すればひとたまりもない。
「大丈夫、かっ」
 鬼太郎はその大きな拳をテオドールに向けて突き出す。その拳圧で、テオドールの痛みも怒りもすっかり吹っ飛んで行った。
「助かったアル! アリガト!」
 ニッ、と笑顔を交し合う。ミカの得物が、無数の霊体を纏った。
「なかなか、頑固だね」
 ざくり。ドリームイーターの斬りつけられた部分が、赤黒く汚染されていった。そこへ、ミスティアンが毒手裏剣を放つ。
「く、っそぉおおお!」
 ドリームイーターが悔しげに放つのは、夢喰らい。攻撃手であっても、仲間を傷つけられてはたまらぬとミスティアンはその場から動かなかった。甘んじて直撃を受け、その場に倒れ込む。
「やだっ、しっかりして……!」
 天音はミスティアンに駆け寄ると、ウィッチオペレーションを施す。その二人を庇うように立ち、テオドールは大きく息を吸い込んだ。ごう、と燃え盛る炎を吐き出すと、ドリームイーターはたまらずその場に蹲る。
「お前の恋は一度終わった。……さぁ、ここからが正念場だぜ」
 ドリームイーターの前へ出ると、ハンナはその鉄の拳を思い切りドリームイーターの腹部に抉りこむように叩き込んだ。
「ぐ、かはっ、ぁ……」
 どさり、とその場にドリームイーターは倒れ込む。
「自分を磨いて、自信をつけろ。そしたらもうちょい、違う世界が見えるさ」
 ざざ、とモザイクが掻き消えるとともに、ドリームイーターは姿を消した。
「さて……残るは」
 任せたぞ、とハンナは煙草を咥え、火をつけるのだった。


「ん、居たぞ」
 鬼太郎が校舎裏の花壇の前に倒れているカイトを発見した。
「おーい、だいじょうぶアルか?」
 テオドールが優しく肩を叩いて抱き起すと、カイトはゆっくりとその眼を開いた。
「ん、んん? ええと……」
 あなた方は? と問うカイトの目尻には、涙が。ケルベロスとして助けに来た旨を伝えると、カイトは肩を落として申し訳なさそうに一言『お騒がせしました』と告げた。
「ってことは……事情、全部知ってるんっすよね」
「まぁ……うん」
 エルヴィが苦笑すると、テオドールはカイトの涙をそっと拭ってやり、微笑む。
「だいじょうぶだいじょうぶ。恋はまたいつかはじまるアル」
「そ、そうだと良いけど……」
「手始めにおねーさんなんかどう?」
「え」
「……なんてね」
「くひひ」
 幻も、つられて笑う。何かぶつぶつ言っているカイトの背を、天音がそっと叩いた。
「何々? オトコだから振られたらメンツが立たないって?」
「う」
「甘いわねー。こういうのは、振られてからが勝負なの。どれだけいい失恋をしたかで、次にいい恋に出会えるかが変わるんだから♪」
 ふふん、と余裕のある笑みを浮かべる天音に、ぽかんとした顔でカイトは呆けている。
「……恋した相手の気持ち、自分の気持ちと同じくらい尊重できる?」
 ミカは、まっすぐに問う。もうその恋心がおかしな方へ暴走しないか。カイトは頭を軽く抑えると、頷いた。
「はい……こんな迷惑かけることは……もう」
「ン。いい子だ」
 鬼太郎は戦闘中にも話したことをもう一度。
「相手は『いい友達』としてあんたの事気遣ってくれたんだろ?」
 それなら、その気持ちを無駄にしてはいけないと。
「そうっすね……」
「恋人じゃなくても……良い関係って築けるものよ」
 エルヴィも、今回は関係を切られてしまうのではないのだからと付け足した。
「なんなら、おねーさんが愚痴きいたげる」
「え」
「ふふ、アタシ、オネエだもの。男の子の気持ちも女の子の気持ちもしっかりフォローできるわよ?」
 天音はくすくすと笑って見せた。なんとなく、つられてカイトも笑う。
「なんだ……笑ってると全然雰囲気違う」
 エルヴィの呟きに、天音は目配せをする。
「ね、エルヴィちゃん」
 手には、ヘアピンとワックス。意図することがわかって、エルヴィも大きく頷いた。あっという間に、カイトの長い前髪がきちっとセットされて表情が露わになり、まばらだった眉も天音の手に寄り整えられてしまった。
「ほらーっ! この方が絶対いい!」
「おっとこまえ!」
 きゃっきゃっとはしゃぐ二人に、カイトもまんざらではなさそうだ。
「変身したら……気分転換にお空の散歩でもドウアルカ? 人一人持ち上げて飛ぶくらいはデキルアルヨ」
 テオドールがスッと手を差し伸べる。
「えっ、俺持ち上げるなんてそんな」
 華奢なテオドールにできるのか。そんな疑問は、彼女がケルベロスであること、立派なドラゴニアンである事でかき消された。
「ほら、行くアルヨ!」
 嫌がるそぶりが無いのを悟り、テオドールはカイトを抱え上げる。ぶわりと舞い上がれば、あっという間に校舎が小さく見えた。細身の女性に抱えられているのは少し気恥ずかしい気もするが、不思議と気分が悪くない。――恋に固執していたことがちっぽけに思えるほど、風はさわやかで、ケルベロス達の声は暖かかった。新たな恋へ、夢へ向かえるように。大切な友を、失わぬように。失恋の痛みはあれど、地上に戻る頃には、きっと前向きになれることだろう。

作者:狐路ユッカ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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