病魔根絶計画~優しくない世界

作者:ほむらもやし

●秘密の仕事
 ジャングルの奥地、森林保護区での伐採は、してはいけないことだったが、良い木が多く残っているため、稼ぎの良い仕事になった。
 取締官に賄賂を渡せば目こぼししてもらえる。世の中全体に頽廃した空気が漂っていて、現職閣僚の汚職も日常茶飯事という有様。
 だから、今、毛布にくるまってガタガタと震えている、この男も娘の入学金を手っ取り早く稼ぎたいという、気持ちから、やってはいけない伐採に手を出した。
 仕事を終えてから、一週間ほどをかけて森の奥から帰って来て、家族との夕食を取っていた時に症状が現れた。
 その時はまだ、軽い悪寒と頭痛、それに背中の筋肉痛ぐらいだった。
 一眠りして様子を見ようと、横になり、数時間後の未明、激烈な苦痛と嘔気に飛び起きた。
「これ、なんだよ?! あいつと同じじゃ無いか……」
 失禁した尿の色によって寝具や下着には不気味な黒色が染みつけられていた。
 眠りにつく前とは、比較にならないほど身体症状は悪化していて、寝返りを打つだけで全身に激痛が走り、頭は割れるように痛い。
「大変、お父さんが!!」
 そして目灯りに照らされる男の目は真っ黄色に変色していた。
 男の頭を過ぎるのは、子どもの頃、お婆さんから聞かされた、精霊に呪い殺される物語り。
「助けてください、堪忍してください、もう木は伐りません……ごめんなさいごめんなさい」
 消えてしまいそうな声で懺悔して、男は存在するかも分からない精霊に救いを求めるしかできず、娘は学費になるはずの金を持って、病院に走った。

●恐るべき黄熱病
「大変な時期にすまないけれど、病魔を根絶する作戦に、手を貸して欲しい」
 ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は、病院の医師やウィッチドクターの努力により、『黄熱病』という病気を根絶する準備が整ったと告げる。
 黄熱病とは蚊の媒介する人畜感染症で、主に熱帯地域で発生する急性ウィルス性の出血性疾患で、毒性の高い第二期移行して重症化してしまうと、肝臓や腎臓などの臓器にまで感染が拡大し、やがて死に至る恐ろしい病である。重症化の過程で黄疸や黒っぽい尿という症状が見られるという特徴もあり、これが「黄熱病」の名前の由来にもなっている。
「で、この黄熱病の中でも特に強い重症患者の病魔を一体残らず倒すことができれば、この病気は根絶され、新たな患者が現れることも無くなるそうだ」
 この病気に苦しむ人をなくすため、また、世界中の人々に8月に予定されている『ケルベロス大運動会』を安心して楽しんでもらうため、ぜひ作戦を成功させて欲しい。
「というわけで、今から現地の患者の元に向かい、病魔との戦闘を実施する」
 デウスエクスとの戦いに比べれば緊急性は高くは無いが、この病気に苦しむ人をなくすためには、作戦を成功させることが必須である。
「それと今回も、病魔への『個別耐性』を得ると有利に戦える」
 個別耐性とは患者の看病をしたり、話し相手になり、言葉や行動で元気付けることで一時的に獲得できる特殊な耐性だ。この耐性を得ると敵から受けるダメージが減少するので、病魔を召喚する前に患者を励ましておくとよいだろう。
 召喚した後の病魔はウィルスを感染させ、激しい身体症状を発生させるような攻撃を掛けてくるが、攻撃耐性さえ得られていれば、充分に耐えられるはずだ。
「ずっとこの地域の人々を痛めつけてきた病魔だ。だから絶対に根絶して、もうこんな苦しみは今日で終わりにしよう」
 あなた方ケルベロスが希望を示すことが出来れば、もうすぐ行われるケルベロス大運動会の未来も明るいものになるだろう。
 よろしく頼む。ケンジはあなた方、ひとりひとりの顔を確りと見つめると、丁寧に頭を下げた。


参加者
田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)
彩葉・戀(蒼き彗星・e41638)
惟任・真琴奈(変彩金緑ざしきわらし・e42120)
レッヘルン・ドク(診察から棺桶まで・e43326)
木嶋・徹也(あなたの街の便利屋さん・e62493)
佐藤・しのぶ(スポーツ少女・e62849)
クロエ・ルフィール(けもみみ少女・e62957)
ジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)

■リプレイ

●Boa tarde (こんにちは)
 クロエ・ルフィール(けもみみ少女・e62957)の明るい声に導かれて、ケルベロスたちは玄関をくぐった。
 そこはゴミ捨て場のバラックでも無ければ、森の中の掘っ立て小屋でも無かった。塗り重ねられたようなペンキ塗りの壁は、経年劣化を感じさせたが、ごく普通の家だった。
 家電製品もあれば、DSL回線でインターネットにも接続している。3人の娘は学校に通っている。
 この国での貧困は純粋に経済的な問題だ。戦乱や対立によって焼け出され飲み水や食べ物に事欠いている訳ではない。働く力があるのに真っ当な仕事で稼ぐことが出来ず、今ある幸せが脅かされたり、幸せになるチャンスを得られないことだ。
「どうやら、考えすぎのようでしたね」
 ジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)は、少しホッとしたように胸を撫で下ろす。そして娘たちに声を掛けようとするが、その憔悴仕切った様子を見て思いとどまった。
 大切な学費を持って医師を呼んだからこそ、今回の病魔根絶作戦にも加わることが出来た。これまでずっと娘たちは父親の為に戦い続けて来た。
 だから、ここから先は、ケルベロスの戦いだ。
「よく頑張りましたね。あと少しです。この病気を滅する準備ができましたから」
 惟任・真琴奈(変彩金緑ざしきわらし・e42120)が、ダイナマイトモードを発動した姿で、告げる言葉には、一点の迷いも曇りも無い。
 ただ、ケルベロスの力で国際情勢に翻弄される、苦境から来る、この国の諦感を消し去ることは叶わない。しかし人々を苦しめる病魔を滅ぼすことは出来ると、信じさせるには充分なダイナマイトモードであった。
「絶対治るから頑張って!」
 クロエ・ルフィール(けもみみ少女・e62957)の言葉に、明らかに苦しそうだが、アントニオは笑顔を見せて、点滴のチューブをつけた腕を上げて、サムズアップで応じる。黄色く染まった目に浮かび上がる毛細血管の赤が、どこまでも痛々しく見えた。
 今、水を与えれば誤嚥を引き起こすかも知れない。黄疸が出るほどに肝臓が痛めつけられた状態では僅かな化学物質でも深刻な合併症を引き起こす可能性があるから解熱剤も使えない。
 日本の魔法少女を連想させる、ケルベロスたちの勇姿は、実年齢などという些細な問題を気にさせない。来てくれただけでも病気と、その苦痛に立ち向かう勇気を奮い立たせるには充分だった。
 いま出来ることは、気持ちを、言葉と行動に乗せて伝えることのみ。
 そこで、レッヘルン・ドク(診察から棺桶まで・e43326)が、ナノナノ『ナノミン』を魔法少女の精霊っぽく見せれば、空気が和んだ。悪いのは病魔であって、こんなにかわいい精霊に害意があるはず無いじゃないか。
「心配しないで、困ったときは任せてよね」
 万一の時は言葉の仲立ちをしようと思っていた、佐藤・しのぶ(スポーツ少女・e62849)もクロエも目を細める。伝えたいことがあり、伝えたい気持ちがあって、伝える努力を惜しまなければ、違いを認めた人間同士、気持ちは通じる。
「Muito prazer (はじめまして、お会いできて嬉しいよ)。お父さんも元気だしてっ! 私たちが病魔をやっつけるから、もうすぐ病気も治るんだよ!!」
 そう、此処に来たのは、黄熱病の病魔を打ち倒し、この病気で苦しむ、全ての人を助けるため。
 病魔撲滅作戦にはアントニオ・ガルシア氏を助けることも含まれるが、彼一人を助けるための作戦では無い。
 しかし、そのたった一人の事情を知ってしまえば、個人的な情も沸いてしまう。
「天国の奥さんが、あんたの病気を治せるよう、うちら引き合わせてくれたんと違うやろか?」
 田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)の言葉にアントニオは悲しげな顔をするだけだった。
 恐らく、現時点でも、充分に『個別耐性』は獲得できているだろう。
 病状は相当に悪い。下がらない体温が時間と共にアントニオの命を削り取って行く。
 一刻も早く病魔を引き剥がし、撃破しなければならないのは明らかだった。
 しかし、まだ二人が、到着していない。
 こうして待っている間に、患者が力尽きて死亡してしまったら元も子も無いと、6人が顔をつきあわせた、その時。
「どうやら間に合ったようじゃのう」
「ま、褒められたことじゃないが、ギリギリセーフってことで勘弁してくれ」
 濡れ髪を乾かす間も惜しんで駆け続けた、彩葉・戀(蒼き彗星・e41638)と、木嶋・徹也(あなたの街の便利屋さん・e62493)が、到着して、遂に8人のケルベロス全員が揃った。

●戦いの時は満ちた
 マリアとレッヘルン、ウィッチドクターらが、ベッドの傍らに立ち、気合いと共に両手を突き出す。
 次の瞬間、絞った雑巾から汚水が溢れ出る様に、アントニオの体内に巣くっていた、赤と緑の炎を纏った黒い異形――黄熱病の病魔が現出する。
 瞬きの刹那に、黒い身体の端が繋がったままの病魔はアントニオの体内に戻る動きを見せる。
「させない」
 間に割り入る形となった、しのぶがそれを阻む。
 直後、腹いせとばかりに、吐き出された毒の直撃を受けて、しのぶは膝の力が抜け落ち、目の前が真っ暗になるのを感じた。
 通常であれば、一撃で落ちて当然の被弾だったが、防具のダメージ耐性の適切さが、それを食い止める。
「ルーキーに良いところを持って行かれたら、面目が立たないのじゃ」
 実は、戀と徹也の水垢離も病魔の弱体化に貢献していた。しかし別行動により、あと少しで遅刻しそうになったことを考えれば、言わぬが華じゃろうと、戀は深く息を吸って呼吸を整えてから、六枚の光の翼を広げた。
「お主ら、出番じゃぞ? 往くが良い、妾の忠実なる下僕共よ……狂詩曲『殺戮の紅月光』(ラプソディ アバタッジ・クリムゾン・クレール・ド・リュンヌ)の始まりじゃ!」
 しのぶに続けて真琴奈にも進路を阻まれた、病魔が、その目では見えない、ただならぬ気配に気がついた時にはもう、戀の召喚した姿を見せないエネルギー体はこの世にある叙事――ありのままの狂気を奏でて、襲いかかる。
 狂気を孕んだ魔力が爆ぜて、病魔の纏う赤と緑の炎の輝きで風景を明滅させる。
 この依頼を引き受けたのは、ただ黄熱病と言う禍を消し去りたい衷心からだ。手柄を立てるとか、歴史に名を残すとか、俗な理由からでは無い。
 時を同じくして、病魔との繋がりを完全に絶ち、部屋の外に患者を引き離した、マリアとレッヘルンは深く傷つきながらも戦おうとする、しのぶに向けて莫大な癒力を注ぎ込む。
「もう無茶はしないで下さいね」
 解毒され、傷口が塞がったとは言っても、しのぶの体力の上限は大きく削りとられていた。
 次に同様の被弾をすれば、弱体化している病魔とは言え、ただでは済まない。
「ブリッツベイル!!」
 攻撃こそ最大の防御。強く握り込んだルーンアックスに決意を込めて、クロエは病魔に肉薄し満身の一撃を放つ。救うべき者たちの想いを孕んだ戦斧は雷と化し、怒れる天空の刃の如くに病魔に突き刺さる。
 雷光が往き、刃と炎がぶつかり合う攻防の果て。盛大に壁に叩き付けられた病魔は艶の無い黒の身体に2色の炎を移らせて、体内の治癒力を活性化させた。
 どんな手を使ってこようが、傷ついた者がいるなら癒し、そうでないなら打って出るつもりでいた。マリアは、瞬きの間に判断して宙に跳び上がり、流星の煌めきを帯びた蹴りを打ち込んだ。
 次の瞬間、病魔が纏っていたエンチャントのひとつが霧散する。
「葬らん!!!」
 レッヘルンの声が聞こえた。独特の一本足で立つフォームから繰り出された魔法の力が強かに病魔を直撃して、ダメージを与えると同時に、残っていたエンチャントを消し去り、丸裸にした。
 病魔の口からごぼりと黒い塊が溢れる。石炭の黒光を思わせる艶を放ちながら地面に滴れ落ち、タールのようにゆっくりと広がってゆく。
(「お前らはただ存在してるだけで。根絶なんて人間のエゴかもな……」)
 黒に絡んで燃え続ける赤と緑の炎は獅子の鬣を連想させたが、徹也の目には勇ましさよりも、滅びを運命づけられた者の悲しい抵抗に見えた。
「アントニオ、おまえはすごかったぜ。家族のために必死で頑張ってきたんだろう……今、助けてやるからな」
 集中攻撃に揺らめく病魔の様に、思いがけず、自分自身が生きてきた時間と、情報として得ていた患者の人生とを重ね合わせて、その違いに複雑な感情を抱く。
 黄熱病になった奴は、みんな、こんなもの身体の中に入れて耐えていた。
 身体の内で暴れ回る病魔がもたらす苦痛に想いを馳せながら徹也は、鋭い腕の一振りから御業を展開する。差し込んでくる熱帯の強い光の下には似合わない、繊細な半透明の御業が放つ清らかな炎弾が煌いて、病魔の纏う炎とは違う色の炎で黒の身体を焼く。
 ケルベロスたちの猛攻により、病魔は倒れそうに見えた。
 しかしそう見えたのは、ジュスティシアの早く戦いを成功させたいという気負いからだったのかも知れない。
 自身にとって、初めての戦いと言うプレッシャーからか、この依頼の成功に向けての戦闘方針を、ある意味自分自身で台無しにしてしまっていた。
 それでも日頃の鍛錬か、元軍人だと言う過去の記憶が、そうさせたのか、身体は自然に動いて、投げ付けた礫は深々と病魔の身体にめり込んで、その効果を顕した。
 直後、部屋を覆い尽くさんばかり広げられた赤と緑の異様な火焔が破壊の力と共に吹き荒れた。
「ボクもしくじりましたが、あなたを放って置いてまで保身を優先すべきではないでしょう」
 被弾率が高いディフェンダーは回避耐性よりもダメージ耐性の方が重要になるが、ダイナマイトモードに目が眩んだのが痛恨であったと、真琴奈は思わずにはおれなかった。
「ど、どんまいなのじゃ。お主のためにも、速攻で退治するからの」
 そう告げてから、戀は強く踵を踏み込ん駆け出す。超高速で突き出す槍の纏う稲妻が、複雑な樹形の光筋を描き、一瞬の後、爆ぜる稲妻の生み出すエネルギーが旋風を巻き起こす。その莫大な斬撃の力と幾重にも麻痺が刻まれる中、真琴奈は吸血鬼を名乗る元居候の力を借りることに成功する。
「ボクだって一応、魍魎の主の主ですから」
 迸るのは空想の結晶たる紫の光、それはさらなる空想の力により流星に変わり、凄まじい勢いで病魔の頭上に落下したように見えた。
 紫の光が爆ぜた。果たしてそれが衝突したかどうかは分からなかったが、光が消えた後には、病魔は両膝を地に着いたままで動こうとしない。
 叩き……潰すっ!
 この瞬間を待っていた!
 他のチームの成否も気になるけれど、今は自分たちの役割に全力を尽くそう。
 機を逃さずに、踏み込んだクロエが全力の一撃が振り下ろせば、大きく開かれた傷口に、レッヘルンの投げつけたバールのようなもの輝きが交差して突き刺さる。
「今度こそ決めましょう!」
「わかった!」
 ジュスティシアの主砲の一斉射の爆炎に包まれた病魔を目掛けて、徹也は突っ込んで行く。次の瞬間、突き出した拳に、自分の気持ちと黄熱病に苦しむ人たちへの万感を、自身が出せる魔法の力の全てを乗せて、徹也は跪く病魔の顔面に、超音速のパンチを叩きつけた。
 緑と赤の炎が、大きく燃え上がり、そして消えた。
 炎が消えた病魔の黒い身体は動かず、静寂が支配して。
 直後、意外なほどに、軽い音を立てて、倒れて塵と消えた。

●未来のはじまり
 病魔は消滅して、アントニオの熱は下がり始めた。
「いやいや、どこからどう見ても成人のダイナマイトばでぃーでしょう!?」
 ダイナマイトモードに拘る真琴奈が両手を腰に当てて、華やかかつ大胆なデザインをされた、素晴らしいセクシークロスをあらためて披露すると、レッヘルンはアントニオの枕元で、アイズフォンを起動して、掌に踊る魔法少女の立体動画を再生させる。
「これが、最新の魔法少女の画像ですよ」
「ほうほう、これはなかなか――ローアングルを攻めさせて頂いてもよろしいですかな」
 そんなやりとりを目にしたマリアは、消耗しきった身体も、快方に向かい始めたようだと、判断して、水で冷やしたタオルをアントニオの顔に乗せと、退室していた娘たちに連絡を入れる。
「もう、大丈夫やで、しっかり養生して、早う元気になろうな」
 レッヘルンもマリアからの突き刺すような視線を感じて、画像再生を終了させた。
「ありがとう、ございました。私どもの為に遠くから来て頂いて……え、これは?」
「運が良かったな。このカードはいつでもいい、娘たちが無事に巣立ってからでいいから、いつか日本に返しに来な」
 徹也はアントニオがしてはいけない仕事に手を出したことは指摘せずに、確りと手を取って握手した。掌の皮膚は固くて、それは働く者の手であった。
 2人が手を握り合う様子を見て、真琴奈もジュスティシアは渡そうと思っていた自分のケルベロスカードをしまう。
 なぜなら、お金に困っている人はこの一家だけでは無い。
 この家にばかり、ケルベロスの支援が集中することとなれば、支援が届かぬ者からの羨望が集まる。羨望が呼び起こす妬みは、大きな厄をもたらす。だから、やりすぎるべきでは無いだろう。力を持っている者は、その力の大きさや影響力を知るべきだ。
「私たちだけではありません。たくさんの人があなた方一家を見守っています。だから困ったときは、一人で悩まずは、相談して下さいね」
 戻って来た3人の娘に告げると、ジュスティシアは穏やかに目を細め、真琴奈は堂々と胸を張った。
「本当にありがとうございます。何から何まで。おかげで私たちも学校を続けられます」
「お主らは正しいお金の使い方を知っておるの。じゃから妾らも此処に来られたし、お主たちに、出会えたのじゃ」
 笑顔で応じる戀の長い銀色の髪は、丁度良い具合に乾いていて、キラキラと輝いている。
「おねえさん、髪、とっても綺麗、シャンプー、何、使っているの?」
 多少貧しくても、女の子が少しでも綺麗になりたいと思うのは万国共通かも知れない。そうねえと、年長者の貫禄を見せながら、台所で人数分のレモネード作って来たマリアがやって来て、キレイの話題に花を咲かせる。
「依頼って、こんなに沢山の人生に関わるのね」
「うん、そうだよね。わたしもそう思う」
 クロエやしのぶは、真に人の助けになる援助の大切さを感じつつも、今回の依頼に関わった人たちが、これから先も幸せに生きて行けそうだと感じて、ほっとした表情を見せ、女の子たちの話の輪に入っていった。
「皆、お人好しすぎるよな」
 何処か諦観を含めて呟くも、それも悪くないと、徹也は夕焼けに色づいた空を見上げる。
 世の中に本当の意味での優しさがあれば、きっと誰もが幸せになれるはずだ。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月25日
難度:やや易
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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