揺れ動く巨大な浮遊樹

■リプレイ

●ビル街を移動して
　大阪府大阪市に襲来する巨大攻性植物、サキュレント・エンブリオ。
　できる限り、街に被害を及ばないようにと考える緑青色の鱗を持つ竜派ドラゴニアン、鹿島・信志（亢竜有悔・e44413）。
　一般人の姿を見つけるたびに避難を促す彼は、遠くに聞こえるサイレンの音を聞いて避難誘導を警察に任せることにしていた。
「わ～～～～、おっきぃ～～」
　敵の姿を初めて目にする長い茶髪のけも耳少女、クロエ・ルフィール（けもみみ少女・e62957）はあんぐりと口を開く。
「こんな大きな攻性植物は初めてみたよ～」
　圧倒されそうな大きさの敵だが、ぼんやりしてもいられない。
「こっちでござる」
　２段ジャンプしてビルの谷間を越えていた、エドワード・リュデル（黒ヒゲ・e42136）は双眼鏡を覗きこみ、地図を使用しつつ仲間達を無線で誘導する。
　続くクロエはフックつきロープやワイヤーラダーを駆使し、素早くビルの屋上階へと向かっていく。
「ファイトォー！！」
「なんとかー♪」
　その際、エドワードはどこかで見たＣＭのようにクロエの手をつかみ、屋上まで引っ張り上げていたようだ。
　ただ、全員が固まって移動しているわけではない。
「――あ～～っ、え～～、こちら暮葉ぁ、聞こえますか？」
　各自が準備していた無線機から聞こえてくるのは、白髪のシャドウエルフ、暮葉・守人（墓守の銀妖犬・e12145）の声だ。
「奴さん、御堂筋を道頓堀方面に向けて移動中――。……さっさと片付けようぜ」
「了解です」
　ドラゴニアンの尖・舞香（尖斗兆竜・e22446）は翼をはばたかせて豊満な胸を弾ませつつ、敵の捕捉に当たる。
　別所では、大柄でがっしりとした体格の人派ドラゴニアン、鵤・道弘（チョークブレイカー・e45254）がまたも現われた敵の姿を確認し、辟易とする。
「この間も相手したんだがよ、まだまだ出てきそうだなおい」
「サキュレント・エンブリオ……これ、倒しても胞子撒くのがイヤだけど、倒さない訳にもいかないよね」
　仲間達の声をインカムで拾っていたプラン・クラリス（愛玩の紫水晶・e28432）は女性らしさを強調したスタイルをさらしつつ、敵へと接近していく。
「市街地戦闘もたまには良いよネ！」
　前方では、相手を撃ちたくてうずうずしているエドワードが悪そうな顔で微笑む。
「ヒャア、がまんできねぇ。今日は弾薬費気にせずぶっ放しまくるでござる！」
「リュデル殿、程ほどにな」
　テンション高く重火器を構えるエドワードを、信志が嗜める。
　とはいえ、相手が相手だけに加減している場合でもないだろう。
「できるだけ早く片を付けるとしよう」
　彼が一言呟くと、皆ビルから敵を見下ろし、あるいは真横から見つめる形で配置につく。
　巨大攻性植物もケルベロス達に気付いたのか、ナイフの如き触手を振り上げてくる。
　そんな敵に、道弘が怒りを露わにして。
「根競べ上等だ、侵攻を許すわけにゃいかねぇ。ちゃっちゃと片付けるぜ！」
「さぁ、攻撃開始だね！　みんな、頑張ろうねっ！」
　クロエがそんな仲間達を鼓舞するように無線で呼びかけると、皆銘々に巨大攻性植物の迎撃へと当たっていくのだった。

●ビルからの強襲
　全長７ｍもあるサキュレント・エンブリオと戦うに当たり、ケルベロス達はビルの高さを活かしてグラビティを繰り出す。
　メンバー達は大きく、二方向に展開した挟撃作戦を展開していく。
　片方には、火力、狙撃の攻撃組。
　そして、もう片方には壁役と回復支援役の防御組がいる。
　そんな中、プランは唯一つかず離れずの距離で、仕掛けていた。
（「今回の敵は列攻撃ばかりだし」）
　事前情報から、相手の触手攻撃が広域に及ぶものばかりとプランは分析していた為、阻害役として相手の気を引く役回りを買って出ていたのだ。
「こっちにきて　目をそらさないで　いっしょにイイコトしよ」
　サキュバスである彼女は敵の花びら付近に飛び乗り、無邪気な微笑を浮かべて甘い声で誘惑していく。
「種をパンパンに溜めてえっちだね　無理矢理種付ちゃうのかな」
　露出の大きい服をプランは肌蹴させ、むっちりとした太股から股の付近、そして、大きな胸をこれでもか強調する。
　淫魔の誘惑は性別、種族関係なく理性を蕩けさせ、欲情させると豪語するプラン。
　相手がどう受け止めたかはわからないが、いずれにせよ触手を彼女目掛けて振り回してきており、うまく注意を引き付けていたようだ。
　ジャマーからの怒り作戦。
　強く攻性植物の気を引く彼女のカバーには、舞香と道弘が当たる。
　この場で飛び込む舞香は、できるだけ攻性植物の攻撃が分散されるようにと積極的に庇いに入ろうとしていた。
（「戦線をもたせませんと……」）
　鋭い触手の刃で切り裂かれ、舞香の体から鮮血が飛び散る。
　その上で彼女はお好み焼き店がない方向であることを確認しつつ、反撃としてヌンチャク型如意棒で敵を殴打していく。
　道弘は周囲にロープも張っており、翼のない仲間が動くアシストをしつつ、向こう側の攻撃陣と挟撃して敵を翻弄する。
「飛びすぎないよう注意しねぇとな」
　あまり高く飛びすぎると、ディフェンダーのポジションから外れてしまう。カバリングに当たらねばならぬのに、それでは元も子もない。
　その上で、道弘は相手を足止めすべく、勢いをつけて流星の蹴りで攻性植物の花びらを蹴りつける。
　１枚が潰れようとも、攻性植物は大きく崩れる様子はない。
　理科教師として相手の生態に興味をそそられはするが、道弘は動かす触手などへと特に注意を払って立ち回っていた。
　その防御班の援護には、白い翼を羽ばたかせて後に控える彼方・悠乃（永遠のひとかけら・e07456）が当たる。
　悠乃も高く飛びすぎぬよう注意しつつ戦場を俯瞰し、無線機で仲間達へと戦況を伝えていく。
「敵はこちらに気を払っています。今のうちです」
　向かい側の攻撃組に呼びかけつつ、悠乃は防御組の癒しにと当たる。
「繰り返す波、浄化の環、癒しの時をあなたに」
　傷つく舞香に対して悠乃は時間の流れを乱し、彼女を傷つく前の状態へと復元していった。
　その悠乃の呼びかけもあり、守人が仲間と共にビルの屋上から飛び出し、仕掛ける。
　自由落下する守人は、天空から無数の刀剣を解き放つ。
　解き放たれたいくつもの刃は巨大攻性植物の体を突き刺し、切りつけ、断ち切っていく。
　刀剣が足場にもなればと考えた彼だが、さすがにそうもいかなかったらしい。
　さらに、エドワードは怪しげな東洋人から購入したガトリング銃「九蓮砲筒」を手にし、相手との距離を保ちながら発砲を開始する。
「わぁい、嫌がらせ！　拙者嫌がらせのような足止めかますのだーいすき！」
　どこかのゆるい漫画の主人公っぽい子のような言い回しをしながら、エドワードは弾丸を乱射していく。
「いいぞ、ベイベー！　逃げる奴は攻性植物だ！」
　ガンスリンガーなのに拳銃を使わず、エドワードは非常に楽しげに重火器を扱う。
「逃げない奴はよく訓練された攻性植物だ！」
　そんなエドワードに小さく溜息をついた信志はかけていた眼鏡を外し、電柱を使って高く飛ばぬよう意識しつつ翼を広げて相手に接近していく。
　鋭い目つきで相手を見据えた信志は、重力を宿した一蹴を叩きつける。
　僅かに腰に来たらしく、小さく呻いた後、彼は次なる一撃をと日本刀に手をかけていた。
　やや遅れはしたがクロエもビルから飛び降り、思いっきりルーンアックスを振りかぶる。
「叩き……潰すっ！」
　頭上の花びらに向け、彼女はルーンの力を込めた暑い刃を攻性植物へと叩き込む。
　だが、巨大な敵にとってはそれほど痛手とはなっていない。
　それもあって、クロエはさらに身を投げ出すように敵へと仕掛けていたようだ。
「今更ながら、ガチの前衛は久々だなぁ」
　そんな彼女の姿を見て、攻撃組でありながら守人はさりげなくサポートをと、敵の触手をギリギリまで引き付けようと攻撃を繰り出していくのである。

●徐々にその浮遊樹を追い込んで
　触手を振り回し、周囲を破壊しつつケルベロスに襲い掛かる巨大攻性植物、サキュレント・エンブリオ。
　その攻撃のほとんどを引きつけるプランは仲間のカバーを受けつつ、戦場を跳び回っていく。
「夏だけど、ちょっと涼しすぎるかもね」
　呼び出す氷結の槍騎兵は素早く暑い大阪の街中を駆け抜け、敵の触手の一部を凍りつかせる。
　その隙に悠乃は光の盾を展開し、壁役、牽制役のなるメンバー達へと支援の手を増やす。
　この場は道弘もまた光の盾に助けられながら、相手の電気ショックを受け止める。
　すかさず、隣から舞香が飛び込んで。
「すぅ……ぱぁっ！」
　彼女が吐き出したのは、２５６もの微小な竜鱗を含む秘伝の竜の吐息。
　煌く鱗が攻性植物の触手に突き刺さり、鋭い尖端に亀裂を入れていく。
「いてぇな、この野郎！」
　相手の電気ショックに耐えた道弘は、怒りをぶちまけながら咆哮を上げる。
　気迫を乗せた声で、彼は自身の体を苛む痺れを全て振り払い、なおもプランを守るべく身構えていた。
「ホント戦場は地獄だぜ！　フゥハハハーハァー！」
　エドワードは鬼の棍棒のような竜鎚、九蓮砲筒と武器を持ち替えつつ、相手へと弾丸や砲弾を叩き込んでいく。
　それによって相手が僅かに動きを止めたのを、鋭い目つきで相手を注視していた信志。
「我が血は邪道也、されど、我が剣は正道也」
　剣の呪詛によって蝕まれる右腕に、信志は多量のグラビティ・チェインを流し込んでいく。
「切裂き抉るは我が化身。その魂を持って贖え」
　その反動でわずかに流す右腕の血を纏わせた日本刀の刃を、彼は巨大な敵目掛けて一閃させた。
　飛び散る血と共に、攻性植物へと大きな斬撃痕が刻まれる。
「一人より二人。……ブリッツベイル！！」
　間髪入れず、クロエも戦斧へと電撃呪文を付加し、全力の一撃を敵の真下から大きく振り上げる。
　さすがに体力の低下を実感してか、攻性植物は生命力を奪おうとナイフのような根を複数伸ばしてきた。
　プランを狙うそれらを、三角飛びで飛び込んだ舞香が受け止める。
　体力が奪われる感覚にも彼女は気を強く持ち、指輪より光の剣を発して刃を振るい、仲間達のつけた傷口を大きく切り広げていく。
　悠乃は傷つく仲間の為にと、光の盾を展開する。
　あと一息。
　敵の身体が鮮やかな色から徐々に枯れ色となってきていることもあり、悠乃はもう一踏ん張りとグラビティを発していく。
「我、一陣の風となる！！」
　触手の勢いがなくなったこともあり、守人が緑色のオーラ「神風」を纏ってビルの屋上から飛び出す。
「貫き穿ち切り払う暴風の斬撃！！」
　突進した態勢より繰り出すは、音速の斬撃。
　斬霊刀「月華零式」より放たれた暴風の如き一刀は、敵の体を破壊しながら切り裂いていく。
　積み重なったダメージもあり、ついに浮遊樹が地面へ落ちていく。
「よーしっ！　終わりっ！」
　敵の活動停止にクロエは喜ぶも、攻性植物の残骸からは胞子がフワリと空を舞い上がる。
「……ムゥ、……その時が来るまで、その命預けておきます……」
　苦々しい顔をし、舞香は風に吹かれて飛んでいく胞子を見上げていたのだった。

●修復後はお好み焼き！
　戦いが終わり、街には平穏が訪れる。
「では……、建物を修理するよ♪」
　クロエは周辺の人々へと戦いの終わりを周囲へとアナウンスしつつ、花びらのオーラを舞わせて街の修繕を始めていた。
　敵が大きかったこともあり、破壊された箇所は広域に渡る。
　それもあり、破壊された建物や道路へと信志が気力を発し、道弘は指輪を煌かせて光の盾を展開していく。
　エドワードも荒らしたことを自覚していたのか、ヒールドローンを展開して念入りに修復を進めていた。
　戦いで傷つく守人はその傷口から流れる血を操り、地面を幻想交じりに均していく。そんな彼を気遣う女性の姿もあったようだ。
　一方で、プランは悩ましげな仕草で桃色の霧を発すると、男性達が彼女の扇情的な姿に注目していた。
　悠乃も時間の流れを乱すことで破壊された場所を復元し、街を元の姿に近づけていたようだ。

　そうして、メンバー達はある程度街の修復を終え、通りに面した場所にあるお好み焼き店へと入っていく。
「お腹すいた」
「ふぃぃ～、みんなおつかれさまだよ～！」
　お腹を鳴らす守人を含めた仲間達をクロエが労いつつも、真っ先に卓へと着いてお好み焼きを注文する。
「にゃは♪　お好み焼き一番乗り頂きぃー♪」
　クロエは早速、運ばれてきた皿の中身を鉄板で焼き、いい感じに焼けるとすぐさま食べようとした……のだが。
「はふはふ！　あつつ！　熱すぎるぅ……」
　生来の猫舌さんを発動させ、舌を出して顔をしかめていたようだ。
「私はビールよりも焼酎ロックだな。あるなら麦で頼む」
　信志のオーダーに応え、店員が運んできた麦焼酎。
　肉多めのお好み焼きをつまみ、彼は杯の中身を口に流しこむ。
　言葉にはしなかったものの、信志は満足気に息をついていた。
　メンバー達の前へ、続々とお好み焼きが運ばれてくる。
「悪魔的です……。美味すぎるっ……！」
　舞香は用意していた『おいしくなあれ』を使う間もなく、肉と野菜がてんこ盛りの１枚を嬉しそうに食べていく。
　向かい側のプランは、様々なトッピングにチャレンジする。
　かつおぶし、青のりなど定番ものから、チーズ、ねぎ、コーン、紅しょうがなど、様々なものを試して食していた。
　美女２人がお好み焼きを食する図は実に絵になる。店内の客も写真撮影を求めていたようだ。
　向かいの卓では、道弘が仲間達の分まで世話もお好み焼きも焼く。
　また、彼は自分自身の分はこだわり、ねぎ焼きに薄くマヨネーズをかけつつ、程よく焼けているかと記事の具合を確認していたようだ。
　そうした中で、エドワードも次から次に食べていき、３枚ほどペロリと平らげていた。
　ところで、お腹がすいたといっていた守人。
　彼はノリと勢いで、超特大お好み焼き完食で無料のチャレンジに挑んでいたのだが。
　目の前にあったのは、５枚重ねのお好み焼きの上にたこ焼きや焼きそばをトッピングしたホールケーキ状のもの。
「うぷっ……、これの方が強敵だよ」
　敢え無く、守人は青い顔で撃沈してしまう。
　そんな仲間達の姿を見つつ、ふーふーと冷ますお好み焼きを食べていたクロエははにかみながら笑っていたのだった。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年7月16日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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