濛々と立ち込める土煙は全てを覆い隠していた。
だが、覇空竜アストライオスは知っている。配下の献身が、自身の望む物を現出させたと言う事を。
そして土煙は緩やかに消えていく。晴れたその先にあった物は、元の堅牢な城塞ではなく――。
「おお。あれが……」
その言葉は自身だったかもしれないし、配下の何れだったかもしれない。
怪しく輝くドラゴンオーブは、確かにその姿を露わにしていた。
「魔竜王の遺産、ドラゴンオーブが目覚める! そう、魔竜王の後継者が、生まれようとしているのだ!!」
配下のドラゴン、喪亡竜エウロス、赫熱竜ノトス、貪食竜ボレアースと共に空を駆けるアストライオスの咆哮は、喜色に染まっていた。
「後継者の誕生を、竜十字島の玉座で迎える事ができなかったのは痛恨である。だが、あのドラゴンオーブこそ、我らドラゴンの希望。絶対に守り抜かねばならぬ」
それは痛い程判っていた。個体最強と謳われたドラゴン達はしかし、今や窮地に立たされている。
全ては彼らにとっての『敵』の存在であった。
地獄の番犬、ケルベロス。取るに足らない筈の彼らは、しかし、不死者たる自身らに『死』を刻印する恐るべき能力と、そして重グラビティ起因型神性不全症――定命化と言う毒と共に、今や、ドラゴンの存在そのものを脅かす天敵と化している。
今は亡き四竜が一翼、廻天竜ゼピュロスもまた、彼奴等の牙に掛かり、命を落とした一員であった。
「この戦いに、ドラゴン種族の存亡がかかっているのだ!」
時空の歪みに突入した覇空竜アストライオスは想いの全てを噛み締める。
故にドラゴンは死地に立つのだ。侮りも侮蔑も無い。ただの敵としてケルベロス達を排除するために。
四体のドラゴンが時空の歪みに消えた後、熊本城跡地に無数のドラゴンが姿を現す。
――現出した幾多のドラゴン達は咆哮し、時を待つ。
ドラゴンオーブがドラゴン達の手中に収まる日を。或いは――宿敵の到来を。
「熊本城での決戦、お疲れ様。みんなのお陰で辛うじて、勝利を獲得する事が出来たわ」
内容に反し、リーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)の声は明るくない。それは彼女が見た予知が、ケルベロス達にとって一層、苦しい物になる事を示唆しているようでもあった。
首を振り、リーシャは淡々と説明を続ける。
「過半数の侵空竜エオスポロスの撃破に成功し、廻天竜ゼピュロスの撃破にも成功した事で、覇空竜アストライオスは出現した『魔竜王の遺産、ドラゴンオーブ』を竜十字島に転移させる事に失敗した。これは間違いなくみんなの功績よ」
だが、情勢は予断を許していない。
幾らかのケルベロス達が持ち帰った情報によれば、ドラゴンオーブは『時空の歪み』のような空間を生み出し、その内部を禍々しい力で満たそうとしている様なのだ。
「その力が充ちた時、ドラゴンオーブから魔竜王の後継者となるべき、強大なドラゴンが生み出されてしまうわ」
それが彼女達ヘリオライダーの視た予知だった。
「その阻止の為には、時空の歪みの中に突入し、ドラゴンオーブを奪取、或いは、破壊する必要があるの」
既に時空の歪みの中には、覇空竜アストライオス、喪亡竜エウロス、赫熱竜ノトス、貪食竜ボレアースの四竜が突入しており、即座に後を追う必要がある。
「でも、ドラゴン達も無策と言う訳じゃないわ」
時空の歪みの周囲には、ドラゴンオーブの力で出現したと思われる『19体の強大なドラゴン』が侵入者を阻止すべく待ち受けているのだ。
「19体のドラゴンを抑え、時空の歪みの内部に突入。その上で、アストライオスら強大なドラゴンと対決し、ドラゴンオーブを奪取或いは破壊しなくてはならない」
それが今回の作戦の概要だ。
危険かつ成功率の低い無謀な作戦だが、現状、これ以上の作戦は存在しない。
「その成就の為、みんなの力を貸して欲しいの」
それはケルベロス達を死地に送りださざる得ない悔悟と共に紡がれる。
「先の説明通り、本作戦の目的はドラゴンオーブの奪取、或いは破壊になるわ」
しかし、其処までの道のりは容易なものでは無い。
まず、突入する為には、ドラゴンオーブを守る19体のドラゴンに対して攻撃を仕掛け、その隙を作る必要がある。その後、突入したチームが帰還する退路を守り抜く必要もある為、19体のドラゴンと戦うチームへの支援は必要となるだろう。
更には、先に突入した覇空竜アストライオス、喪亡竜エウロス、赫熱竜ノトス、貪食竜ボレアースと言った四竜への対処も必要だ。
「その全てに対応した上で、ドラゴンオーブの奪取、或いは破壊を行わなければならないの」
役割分担を行い、自分達が何をすべきか、良く相談して、作戦を成功に導く必要があるのだ。
「確かに危機的状況だけど、ドラゴンオーブを破壊するチャンスでもあるわ」
竜十字島に転送されていれば、それも不可能だった。ならばこれは、先の戦いで皆が作った勝機でもある。
「だから、頑張って欲しいの。……それじゃ、いってらっしゃい」
そしてリーシャはいつもの言葉でケルベロス達を送り出すのだった。
参加者 | |
---|---|
三和・悠仁(憎悪の種・e00349) |
風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989) |
スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161) |
呂・花琳(デウスエクス飯・e04546) |
メイリーン・ウォン(見習い竜召喚士・e14711) |
ヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046) |
アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828) |
アルシエル・レラジェ(無慈悲なる氷雪の弾丸・e39784) |
●次元の歪みへ
「これが……熊本城だって言うアルカ?!」
「『熊本城だった』が正確かもな」
呆然と零したメイリーン・ウォン(見習い竜召喚士・e14711)への返答は、アルシエル・レラジェ(無慈悲なる氷雪の弾丸・e39784)のぶっきらぼうな一言だった。
一見、冷静そうな彼はしかし、その素の台詞こそが余裕を失っている証拠だと、スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)は苦笑する。
否、それが当然だと思った。自身もまた、同じぐらいに衝撃を受けていたのだから。
ここに集う12班、96人のケルベロス達は一応に同じ表情を浮かべていた。ドラゴンオーブが形成したと思わしき次元の歪みは、紫色の荒野と言う形でケルベロス達を迎え入れていた。
「魔空回廊みたいなものかえ?」
アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)の言葉はある意味正しい。
彼らの目の前に広がる光景は文字通り、異空間だったのだ。
護衛の魔竜を19の班に託し、次元の歪みに飛び込んだのはつい先程の事。
広がる荒野に衝撃を受けている暇は無いと、誰かが言った。
誰ともなしに頷き、ケルベロス達は駆け出す。彼らには外の仲間達が戦っている間、目的を果たし帰還する必要があった。
狙いはドラゴンオーブ。だが、奪取にせよ破壊にせよ、障害となりうる存在を彼らは知っている。覇空竜アストライオス以下、配下の三竜がそれであった。
果たしてドラゴンオーブを入手するのは、人か竜か。
その答えを未だ、誰も有していなかった。
剣戟が後方から響く。否、響くのは剣戟だけではなかった。
雄叫びも悲鳴も、詠唱も怒号も、全てはケルベロスとドラゴン――8班によるケルベロス達とアストライオス、エウロス、ノトス、そしてボレアースとの衝突であった。
ドラゴン達の捕捉、そして突破までは順調だった。片やドラゴンオーブを捜索し、右往左往するドラゴン達と、そのドラゴンを発見し、強襲するだけのケルベロス。どちらが有利かなど、火を見るよりも明らかだった。
(「そう。ここまでは、なのです」)
ヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046)の独白は、不安と共に紡がれる。仲間達とドラゴンによる戦闘を潜り抜ける最中も、憂いが尽きる事は無かった。
だが、それでも。
「熊本城は間に合わなかった。だが、こいつは間に合わせて見せる!」
呂・花琳(デウスエクス飯・e04546)の叫びは誰しもが抱く想いだった。
故に走る。だから駆け抜ける。
やがて足は荒野の奥へと到達し、そして。
「あった」
零れた呟きは誰の台詞だったか。だが、皆が息を飲むのが判った。それは驚愕に。そして感嘆に。
それは宝珠だった。ドラゴンの秘宝に相応しく、巨大で絶対無比な存在だった。
それは卵だった。禍々しい紫光を湛えるそれは、決して存在を許してはいけない物だった。
そしてそれは福音だった。それが竜への物か、それとも人への物か。判別出来なかったけれども。
「これが、ドラゴンオーブ」
三和・悠仁(憎悪の種・e00349)の言葉を風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989)が首肯する。
目の前に聳え立つ巨大な宝珠。それが、彼らが破壊すべき目標だった。
●ドラゴンオーブ
「コイツが俺の、『太陽の意思』だッ! 『超太陽砲』!!」
声が響く。それが開戦の狼煙となった。
金色の少女が放った極大の焼却光線はドラゴンオーブの表皮を焼き、しかし、そこに焦げ跡一つ残していない。
「ドラゴンの希望は――打ち砕く」
一欠片も残さんと放つ悠仁の一振りは、憎悪に彩られていた。
「ベルンハルトさんは……駄目だったんだね」
蹴撃と共に零れるスノーエルの嘆息は落胆ではなく、むしろ賞賛であった。彼の少年が示した資質はドラゴンオーブに認められなかった。それだけの話だ。だが、それでも、自身の信じる道を選んだ少年に、幾ばくかの羨望を感じてしまう。
「後は私達が破壊するだけなのです!」
黒い塊と銘打ったブラックスライムの槍を突き立てながら、ヒマラヤンが咆哮する。示した資質をドラゴンオーブは拒んだ。ならば、後は破壊するのみだ。
そして、切られた口火は、先程の灼熱砲台だった。
無論、攻撃は彼女達だけではない。4班32名のケルベロス、そして彼らに付き従うにサーヴァント達の一斉砲火はドラゴンオーブを焼き、凍らせ、打ち砕き、切り裂いて行く。
だが、それでも。
「流石竜の秘宝。頑丈じゃの!」
金色の光と共に体当たりを敢行したアデレードの台詞は、悔し紛れにも、誉め言葉にも取れた。
「これだけのグラビティを受けてもびくともしない、か」
アルシエルの呟きは冷凍光線と共に。
32人の一斉砲火を受け、それでも傷一つ受けた様子のないオーブに対し、愚痴の一つでも零したくなる。
(「まったく、心が折れそうになるな」)
「だけど、僕達はこれが破壊出来る事を知っている」
日本刀を振るう恵の檄は、誰もが知る事であった。
魔竜王の秘宝をしかし、ヘリオライダーは破壊出来ると断言した。ならば疑う理由は何処にも無い。
「残念ながら純粋なダメージ勝負のようじゃな」
凍気の杭を突き立てつつ、花琳はむむっと眉を顰める。付与した筈のバッドステータスはオーブに何も影響を与えていない。にも拘わらず――。
「バッドステータスは反射されるアルね!」
縛霊手による圧壊が反射された為か。血の滲む胸元を抑えたメイリーンの言葉には「卑怯アル」との誹謗が混じっていた。即座にクロノ達、4体のサーヴァントによる治癒が行われるものの、四度重ねられる治癒でようやく、彼女の体力は全快まで引き上げていた。
「次で壊れるのか、それとも延々続くか判りませんが……手を休める理由は無いのですよ!」
言い聞かせる様なヒマラヤンの言葉に、ケルベロス達は頷きで応じる。
●6分間の永劫
幾度グラビティが向けられただろう。幾度グラビティが叩き付けられただろう。
自分達だけではない。ここに集う4班の誰もが幾度となく攻撃を繰り返していた。
そしてそれは、ドラゴンオーブの反撃をも許す結果へと繋がっていた。
(「おおよそ、5割と言った処かのぅ」)
反射攻撃の割合を内心で呟き、アデレードはハンマーによる殴打を敢行する。
ドラゴンオーブの中に鎮座する幻想竜が煌く事20回程度。その都度、反射攻撃はケルベロス達を襲っていた。
無論、攻撃は彼女自身にも向けられている。それでも立ち続けているのはサーヴァント達による献身、そして、自身の纏った防具属性であった。
己の纏う攻撃が破壊ならば、耐性もまた破壊。故に、反射攻撃の被害は最小限に喰い留められていた。
だがそれでも、無傷と言う訳に行かない。
まして。
「――恵、メイリーンっ!」
悲鳴の如き言葉が花琳から零れる。悲痛な声は、深く傷つく仲間達へと向けられていた。
「手加減攻撃に切り替えるのですよ!」
ヒマラヤンの言葉は正しい。それは重々承知していた。
それでも、二人はそれを選ぶ事が出来なかった。
(「一分一秒が惜しい」)
恵は嘆息する。ドラゴンオーブに到達するまで何分が経過し、今、何分、破壊に費やしただろうか? その間、外の仲間達は――。
(「そう、例えどんな事になろうとも成し遂げて見せるアル」)
メイリーンは微笑う。覚悟は遥か昔に完了していた。
二人の想いは同じだった。
――オーブの破壊に時間を有するぐらいならば、一か八かの賭けに出る!
「断ち――斬る!!」
それはありとあらゆる物を切り裂く剛の剣。恵の一太刀はドラゴンオーブを捕らえ。
「いくアルよ。クロノ! 無限の時を経て、今こそ来たれ! 時空の龍よ我が意のままに時を歪めよ!! ――タイムリバース!」
己がサーヴァント共にメイリーンは時空嵐を呼び覚ます。
荒れ狂う斬撃と嵐はケルベロス達の視界を染め上げ、そして。
「――っ」
続いて吹き荒れたのは幻想竜の息吹だった。それは斬撃と時空嵐の力を孕み、二人の身体を吹き飛ばす。
「――ちっ!」
舌打ちは死神の刃を振るうアルシエルから零れた。向けた先は倒れた仲間へではない。阿漕な運命へ、だ。
二人の賭けは失敗に終わった。だが、誰がそれを謗る事が出来ようか。
ここにいる自分達だけではない。四竜を、そして外の魔竜を足止めする仲間を想い、全力を尽くした結果、二人は倒れた。それは戦士として誇るべき事だと判っている。お陰で、オーブの破壊は目前に迫っている筈だ。
「見える? 感じる? これが私の瞳に映るもの。私の最も怖いモノ、だよ」
スノーエルの悪夢はオーブを穿ち。
「目覚めろ飛天鳳舞! 我が降魔の剣!!」
花琳の地獄は一刀の元、オーブを切り伏せる。
「冷式誘導機全機準備完了。さあ、突撃するのですよ!」
ヒマラヤンの氷のミサイルは、アデレードの吶喊と共にオーブに突き刺さり、そして。
「Tempus edax rerum. ……Si sic, ede!! 【Abyssus abyssum invocat】!!」
突き刺さるのは悠仁の復讐の刃だった。黒き炎はドラゴンオーブに十重、二十重と潜り込み、幾多の切っ先を幻想竜に突き立てる。
ドラゴンオーブに向けられた攻撃は彼らの物だけではなかった。4班に残された全てのケルベロス達が、己が最大級のグラビティをドラゴンオーブへと叩き付ける。
それは無数の刃で、全てを焼き尽くす黒き炎で、全てを穿つ手刀と爆発だった。
それら全てを受け止め、或いは反射するだけの力を、ドラゴンオーブには残されていなかった。
やがて響くピシリと言う鋭い音は、宝珠が砕けた証だった。
そして。
同時に強大な音が響く。
それは行き場を失った魔力が暴走し、周囲を飲み込み尽くす破砕の音。即ち、破壊されたオーブによる大爆発だった。
●喪亡竜エウロス
突然の爆風はケルベロス達を吹き飛ばし、荒野の半ばまで彼らを後退させる。
幸いだったのはその爆風がグラビティを有しておらず、彼らに害を及ぼすものでは無いこと。そして、気絶した二人を含め、八人共が散り散りになる事を避けれた事か。
「――ここまでは、幸運だったけども」
「なのじゃ」
スノーエルの嘆息にアデレードの同意が重なる。
二人の感じたそれは、凄まじいまでの怒気だった。
「まさか、ドラゴンオーブが破壊されたと言うのか! おのれ、許さぬ!! 魔竜王の遺産を破壊せしものに、死の罰を与えるのだ!!」
覇空竜の雄叫びは絶叫であった。
「ま、怒るわな」
「どうするですか?」
アルシエルの軽口とヒマラヤンの問い掛けに悠仁は短く頷く。怒り狂う覇空竜は別の班に向かい、しかし、自分達にもまた、巨大な翼を持つ一体の竜が、接近していた。
喪亡竜エウロス。
見上げる程の巨体を震わせるそれは、怒りか、それとも。
「破壊の余波かのう? なんか、巨大化しとらんか?」
花琳の指摘は最もだった。15メートル程の体長だったドラゴン達の肉体は、今やその倍ほどに膨れ上がっている。
それでも、ケルベロス達の為すべき事は一つだけだった。
「突破する」
得物を掲げ、悠仁は宣言する。
如何に絶望的な状況であろうとも、今を投げ出す理由など何処にも無い。
そして、ここにいるのは彼ら達8人だけでは無かった。
「我々が先陣を切って撤退経路を確保しよう。だから、戦闘が出来ない者は、我々に任せてくれないか?」
突如の声掛けは、黒髪の青年からだった。心配そうに彼を見守る少女の他、幾多のケルベロス達が悠仁達に手を差し述べている。
「頼むのじゃ。わらわ達はちょっと、『正義』をやってくるのじゃ」
彼らに恵とメイリーンを託し、アデレードが微笑する。負傷者を託し、胎は決まった。ならば後は悠仁の宣言を真にするだけだ。
「任せてください。そして、お互い無事に脱出いたしましょう」
瞳に憂いを残す青年は、再会の約束と共に離脱していく。
彼らを見送ったケルベロス達は己が得物を構え、エウロスを待ち受ける。
ドラゴンオーブの破壊で自分達は消耗している。だが、それはドラゴンも同じだ。足止めを受け、無傷で済む訳がない。それこそ、ケルベロス達が付け入る隙の筈だ。
(「策と言うのは余りにか細い……むしろ、願いか」)
冷凍光線を射出するアルシエルから零れたのは自嘲気味な独白だった。
自身らに近づけさせまいと放たれた無数のグラビティは確かにエウロスを捕らえ、鱗を、血肉を梳っていく。空中でエウロスが怯み、飛翔を止めたのも事実だった。
「――やれるか?」
2者倒れているとは言え、こちらはサーヴァントを含め10名。その殆どがクラッシャーの恩恵を纏っている。故に、短期決戦ならば押し切れる。花琳の抱く淡い想いは、仲間の誰しもが抱く想いそのものであった。
――その願望はしかし、エウロスの息吹の一薙ぎで、霧散していく。
「そん……な」
スノーエルの呟きは絶望だった。
長きに渡る戦いの末の消耗。そして減衰。その二重苦を受けているにも関わらず、エウロスの動きに衰えは見えない。彼らが纏う魔力が付与した物は巨大化だけでなく、攻撃力や防御力もまた、例外ではなかったようだ。
「このままだと!」
ヒマラヤンの脳裏に思い浮かぶ光景は蹂躙だった。
怒りに身を任せ、エウロスはケルベロス達に牙を突き立てるだろう。爪牙は彼らを切り裂き、息吹は全てを焼き尽くすだろう。
無論、それを甘んじて享受するつもりもない。
だが。
(「……暴走とて」)
アデレードの額に浮かぶ汗は、迷いの証だった。
暴走そのものが安易な解決策だとは思っていない。纏わる不利益をも享受し、皆を生き残らせたい。自身は選択できなかったが、仲間が抱く覚悟を無為と言うつもりは無い。
だが、それも生き残ればの話だ。その保証がない今は――。
「もう大丈夫。……後は任せて」
巡る思考は、静かに響いた銀色のヴァルキュリアの声によって、掻き消された。
エウロスとの間に割って入った少女は、治癒式のドローンを展開。彼らを庇うように立ち塞がる。
「お見事でしたっす! 早く行って下さい、後は俺達が引き受けるっす」
彼女に続くのはチンピラ口調の少年による請負の声だった。
同時に放たれる竜砲弾はエウロスを捕らえ、その場に釘付けにする。
「支援班?!」
それは、彼らにとっての救いの手だった。満身創痍の彼らと違い、余力を残している支援班ならば或いは――。
「悪い。それと――」
「助かったんだよ!」
アルシエルとスノーエルの礼が重なる。短い一言で済ませたのは、長居こそが彼らへの妨げになると承知しての事だった。
「――また、何処かで」
しばしの別れを残し、ケルベロス達は荒野を駆ける。
――ドラゴンオーブの破壊。それは多くのケルベロス達の連携によって生まれた『勝利』の姿であった。
作者:秋月きり |
重傷:風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989) メイリーン・ウォン(見習い竜召喚士・e14711) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年7月20日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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