魔竜顕現~白鱗の殺戮者

作者:洗井落雲

●廃墟の城で
 無数の竜達による爆発により、かつて熊本城であった場所は灰燼と化した。
 その瓦礫を照らすように、中空には怪しく輝く『ドラゴンオーブ』が浮かんでいる。
 ふと、ドラゴンオーブが、その怪しい輝きを増した。その輝きは力となりて、熊本城の瓦礫へと降り注ぐ。
 瓦礫の下には、自爆して果てた19体のエオスポロスのコギトエルゴスムが埋もれている。ドラゴンオーブのエネルギーは、そのコギトエルゴスム達を探し当て、力を注ぎ始めたのだ。
 途端。コギトエルゴスムが激しく蠢きだした。瓦礫を吹き飛ばし、虚空より生まれる肉と鱗。逆再生するように、コギトエルゴスムを中心に、骨が、内臓が、肉が生み出され、一匹の巨大な竜を形作っていく。
 白亜の竜であった。
 その竜は美しいほどに白く、しかし見る者をすくみ上らせるほどに邪悪な者である。
 白亜の竜は立ち上がり、産声をあげた。その瞳は、ドラゴンオーブを見ていた。

●魔竜顕現
「まずは、熊本城での決戦、お疲れ様。皆が無事に帰ってきてくれたことをうれしく思う」
 アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)は、集まったケルベロス達に向けて、そう言った。
 先の熊本城決戦では、過半数のエオスポロスの撃破に成功し、また廻天竜ゼピュロスを撃破する事により、覇空竜アストライオスの『魔竜王の遺産、ドラゴンオーブ』奪取を阻止することができた。
 だが、状況は予断を許さない。
 ドラゴンオーブはその力を発揮しだし、『時空の歪み』と言える空間を生み出した。その内部は、ドラゴンオーブの禍々しい力が、徐々に集まっているという。
「この空間がその力で満たされた時、『魔竜王の後継者』となる、強大なドラゴンが生み出されてしまうという予知がなされたんだ」
 もちろん、それをただ黙ってみているわけにはいかない。
 これを阻止する為には、時空の歪みの中に突入し、ドラゴンオーブを奪取、或いは、破壊する必要があるという。
「時空の歪みの空間へは、既に『覇空竜アストライオス』、『喪亡竜エウロス』、『赫熱竜ノトス』、『貪食竜ボレアース』の4竜が突入している。すぐに後を追わなければならないだろう。だが、問題が発生した。この時空の歪みの空間の周囲には、ドラゴンオーブの力で出現したと思われる『19体の強大なドラゴン』が出現し、その防衛を行っているんだ」
 つまり、ケルベロス達は、この19体のドラゴンと戦ってその動きを抑え、さらに時空の歪みの空間内部に突入し、アストライオスら4竜と対決、ドラゴンオーブを奪取、または破壊する、という、非常に困難な任務を実行しなければならないのだ。
「言うまでもなく、非常に困難な作戦だ。だが、現状、我々の取れる手立てはこれしかない……」
 アーサーは悔しげに呻くと、
「君達に危険を押し付けてばかりですまないが、どうか、君達の力を貸して欲しい」
 そう言って、頭を下げたのであった。
 さて、このチームが担当するのは、19体のドラゴンの内の1体、『魔竜ジェノサイド・サード』の迎撃である。
 時空の歪みの空間に突入する別チームと同時に攻撃を行い、彼らの突入を援護。
 その後、彼らが撤退してくるまでの最大30分の間、このドラゴンを押さえ続けることが任務となる。
 19体のドラゴンは、目の前の敵の排除に成功すると、他のドラゴンの救援に向かうという。その為、ドラゴンの抑え役の内、一か所でも崩壊してしまえば、そのままなだれ込むように全ての戦線が崩壊してしまうだろう。
 もしそうなってしまえば、時空の歪みの空間へと突入したケルベロス達は退路を失い、撤退は絶望的になってしまうだろう。なんとしても、戦線を維持し、突入チームの退路を確保してほしい。
「君達が迎撃する『魔竜ジェノサイド・サード』は、覇空竜アストライオスに勝るとも劣らぬ強敵だ。少人数のケルベロスでの撃破は不可能だろう。幸い、コイツらは、目の前に一人でもケルベロスが健在であるのなら、その場で戦い続けるという行動を取るようだ。倒せないとしても、時間を稼ぐことは不可能では無いだろうな……」
 仲間のケルベロスの支援も期待できるが、可能ならば、突入班の帰還までドラゴンを抑え続けられるような作戦をとった方がいいだろう。
 とはいえ、突入支援チームの作戦によっては、戦力を集中してドラゴンの撃破を狙う作戦が行われる場合もある。その場合は、突入支援チームと力を合わせてドラゴン撃破を行ってほしい。
「確かに、今は危機的状況だ。だが、同時に、ドラゴンオーブを破壊できる最大のチャンスでもある。作戦の成功と、君達の無事を、祈っている」
 そう言って、アーサーはケルベロス達を送り出したのだった。


参加者
月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)
寺本・蓮(幻装士・e00154)
コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)
霧島・絶奈(暗き獣・e04612)
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)
クオン・ライアート(緋の巨獣・e24469)

■リプレイ

●狭間の世界で
 熊本城跡地付近、今や魔竜の領域と化したその場所へ到達したケルベロス達を出迎えたのは、巨大な白き魔竜であった。
 邪悪にして強大な存在。その者の持つ力の大きさを、ケルベロス達は戦う前からすでに理解できていた。生物の本能か、身体の内から鳴り響く警鐘。戦士であるからこそ測りうる、相対する存在の実力。
(「まずいわね……多分このドラゴン、わたしが今までに戦ったデウスエクスの中でもトップクラスの相手だわ……!」)
 円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)が、胸中で呟いた。
「飲まれるなよ」
 コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)が言った。敵の放つ巨大な存在感、それに屈するな、と、仲間に声をかける。ケルベロス達も、それは理解していただろう。改めて、魔竜を見据える。
 魔竜の瞳が、ぎろり、とケルベロス達を睥睨した。途端、魔竜は咆哮をあげた。それは、獲物を見つけた歓喜の声か。
「此度の戦い……我らに勝利は無い」
 コロッサスが呟く。その言葉の通りで、今回の作戦において、ケルベロス達がこの敵に勝てる可能性はほとんど全く、と言っていいほど、無かった。
 だが、それでもケルベロス達は、この敵に立ち向かわなければならなかった。
 それは、ドラゴンオーブを破壊するという任務を帯びた、仲間たちの為に。
 彼らが行く道と帰る道を守るために。その為ならば。
「たとえこの身が砕けようとも悔いは無い」
 ケルベロス達は、仲間の命を背負っていた。それだけではない、熊本に住む人々の命を、この国に住む人々の命を、いや、この星に住む人々の命を、その背に、背負っているのだ。
 これはそういう戦い。
 倒すための戦いではない。
 護るための戦いだ。
 だからこそ。それ故に。
「全力を尽くしましょう」
 霧島・絶奈(暗き獣・e04612)が言った。
「行くも地獄、引くも地獄……ならば、少しでも、進むべき道を切り開く……ってね」
 月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)が言った。
 皆の意志は決まっていた。
 ゆるぎない決意を胸に。
 ケルベロス達は、各々の武器を構える。
「厳しい戦いですが、時間……稼ぎましょう」
 そういうソールロッド・エギル(々・e45970)へ、
「なに、こういう時は格好良く笑ってこう言うんだ。『別に倒してしまっても構わないんだろう?』ってね」
 寺本・蓮(幻装士・e00154)が言った。
 ケルベロス達の胸に、絶望の文字はない。
 茜色の空は徐々に暗く色を変え、恐る恐る現れた月とまばらな星々が、ケルベロス達の死闘の行方をうかがう。
 昼と夜。現実と異界。そのはざまの世界で。
 人類の命運をかけた死闘が、始まろうとしていた。

●死線
 白。白。白。一面の白。
 白き突風、或いは豪雪の吹雪。
 魔竜――ジェノサイド・サードのブレスは、その姿にもよく似た、「白い」モノであった。
 氷か、あるいはもっと違う別の物か……いずれにしても、文字通りに身を切るような寒さを伴って吹き荒れる魔竜の吐息は、ケルベロス達を蹂躙した。
 そのブレスを切り裂くように、クオン・ライアート(緋の巨獣・e24469)放つ竜砲弾が、魔竜へと直撃した。
「これか、これが真の竜か! 面白い、実に面白いぞ!!」
 『破壊の王』を携え、クオンが笑う。クオンの体に満ちるのは、何とも言えぬ『高揚感』だった。強敵と相対するが故の歓喜。そう言った物がクオンに活力を与えていた。
 ヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)は『Unterwelt』を構え、魔竜へと突き刺した。浅い、と直感した。その証拠に、魔竜は悲鳴の一つ、あげることはない。
「なるほど――」
 ヴォルフは呟いた。予想通りの怪物である。元より、一撃必殺などとは考えてはいない。浅かろうが何だろうが、とにかくダメージをつみ重ねる事。相手の行動を阻害する事。奴を殺すためには、その積み重ねこそが重要だ。
 アリと象の戦い――そんな言葉が脳裏に浮かぶ。それはそれで面白い。こちらはただのアリではないのだ。毒持ち、象の皮膚すら食い破る強靭な刃を持ったアリだ。
 ヴォルフは思う。いかにして相手を殺すか。その手段を、次の手段を、次の次の手段を、考える。ただただ、殺すために。目の前の敵を殺すために。
「相っ変わらずの戦闘中毒って感じだな、義兄……!」
 朔耶がヴォルフを見やりつつ、ぼやいた。展開したケルベロスチェインの魔法陣で仲間を援護しつつ、
「さて、リキ。正念場だぜ。死ぬほど痛い思いもするだろうけど我慢だ。ここで耐えなきゃ、未来が無い」
 朔耶の言葉に、オルトロス『リキ』は頷いて答えた。リキは決意を漲らせた瞳で魔竜を睨みつける。瞳の力で魔竜の足元が燃え盛る。
「さて、平時であればこの戦い、存分に楽しめたでしょうが」
 絶奈が呟きつつ、竜砲弾を打ち放った。テレビウムもそれに合わせるように、凶器で攻撃を加える。
「今回の戦いは耐久……私にも私の役割があります。それを外れてしまっては、私達の勝利はあり得ません」
 絶奈の言葉通りだろう。今回の作戦に参加しているのは、ここにいる八人のケルベロス達だけではない。多くのケルベロス達が命を懸け、その役割を全うしようとしている。
 今回の作戦は、参加したすべてのケルベロスが、己の役割を完全にこなしてこそなしえる作戦であるのだ。
 全員が、己のなすべきことを、的確にこなす。臆する者がいてはならず、逸る者がいてもいけない。
 歯車として動く、とはネガティブな意味合いにとられがちではあるが、今回に関していえば、その歯車とは「替えのきかぬもの」であるのだ。
 ドラゴンとは、強大な敵である。その強大な敵に対抗するために生まれた群れ。数多の勇者たる歯車で構成された、複雑にして巨大なる猟犬。それこそが今回の作戦であり、ケルベロス達の切り札でもあるのだ。
「人類の興廃はこの一戦にあり!」
 コロッサスが叫び、現れた光の盾が傷ついたケルベロスを守るべく浮遊する。
「我が倒れようと、戦友が倒れようと! 今日この場は! 貴様には決して譲らぬと知れ!」
「――展開、検索、接続。幻装憑依、全工程クリア」
 蓮が呟くや、ケルベロス達の姿が、異なる姿へと変わっただろう。
 それは、可能性の幻想。あり得たかもしれぬ別の姿。
「可能性を纏え、夢幻!」
 『第五幻装 夢幻(ダイゴゲンソウ ムゲン)』は、失われた時の世界を展開し、その者の別の可能性を幻想武装として纏わせ、能力の向上を行うという。
 キアリがケルベロスチェインの魔法陣を展開。オルトロス『アロン』は神器の剣で魔竜を斬りつける。
 一方で、ソールロッドは仲間のケルベロスへ向けて、鳥のヒナを放った。
 ソールロッドの掌に乗る位のサイズだったヒナは、目標に近づくにつれて徐々に大きさを増し、人間大サイズのそれへと変化する。
 ソールロッドの生命力より生み出されし存在であるヒナは、その身体で以て、対象の傷を癒す。『献身(ディボーション)』と呼ばれるグラビティだ。
「熊本の戦いもこれで三回目だけど……最後に凄いのが出てきたわね……!」
 キアリの言葉に、ソールロッドが頷いた。
「でも、大丈夫。必ず、勝って見せます!」
 ソールロッドは、あえて強気な言葉を発した。自身を奮い立たせる気持ちもあったが、これは必ず勝つという誓いのようなものでもある。
 ソールロッドの言葉に、キアリも頷いた。そのまま、腕の時計に視線を移す。戦いはまだ始まったばかりだ。最長で30分。耐えなければならない。それには、キアリとソールロッド、二人のメディックの活躍が欠かせないだろう。
 気を抜けない時間になる。2人は決意を新たに、魔竜へと立ち向かった。

 魔竜の尻尾が大地を抉る。巨大な壁が、大地を破壊して迫ってくるかの様子だ。スケール感が異常でくらくらしてくるかもしれない。魔竜の尾が、ケルベロス達を吹き飛ばした。一瞬意識を手放しかけて、気力でそれを引き戻す。
「チィッ……!」
 クオンが舌打ちをする。何十分たった? どれだけ戦っている? キアリによるカウントは、何度目だった?
 体感時間もおかしい。もうずっと戦っているようでもあるし、まだ少しも戦っていないようでもある。頭もふら付く。おぼつかない意識のまま、クオンは吠えた。
「この程度で魔竜を名乗るか! このちっぽけな私すら殺せぬ貴様が!」
 仲間のケルベロス達が、必死の攻撃を続けるのが見える。
「――来い! 殺して見せろ! 私を!」
 その言葉に応じるように、魔竜はその口を大きく広げ、クオンへと向けた。
 白。白白白白白白白。クオンの視界が白く染まる。これを何と表現するべきか。濁流? 爆風? 何もかもが生ぬるい。白い暴力。ただすべてが白くなるという感覚。
「は――はははは! 何と言う戦闘力、何という存在感! ああ、これは倒せん。倒せん、が」
 クオンは笑った。白のブレスに蹂躙されながら、しかしその言葉は確信に満ちて。
「それでも“勝つ”のは我々、だ」
 その言葉はブレスの爆風に飲み込まれて。クオンは意識を手放した。
「隊列を変えろ! 今の内だ!」
 その様子を見て、コロッサスが吠えた。自身の体にも、『金剛不壊』と名付けられたその鎧にも、数多の傷が残されていた。気力だけで立っている状態。恐らく、もう、一、二撃。耐えられてその程度だろう。だが、コロッサスはその最後の瞬間まで立ち、仲間を守ると決めていた。
 魔竜は健在であった。与えられた傷は多くなく、その傷もまた、瞬く間に癒されていく。
 それでもケルベロス達は、その手を止めない。その動きを止めない。
 血を吐き、血を流し、血だまりに溺れようとも――ケルベロス達は、もがく手を止めない。
 魔竜へと立ち向かい、蹂躙された。それでも立ち上がり、なおも蹂躙される。
「出来るだけ長く保たせる、まるで……」
 仲間達の傷を少しでも癒しながら、ソールロッドが呟いた。脳裏に浮かんだのは、先の見えない延命治療だろうか。だが、ソールロッドは、その思考を振り払った。それは、違う。これは、死を先延ばしにするための治療ではない。この戦いの先に未来が待っているからこその仕事だ。
 ぽん、と、ソールロッドは肩を叩かれた。絶奈だった。
「お辛いかもしれませんが。最後まで、よろしくお願い致します」
 作戦上、メディックであるソールロッドとキアリ、2人のうちどちらかが、最後まで立っている可能性が高い。
「それと」
 と、絶奈は言って、肩をすくめた。
「撤退する時は、私の回収をお願いしますね」
 そう言ってから、絶奈は魔竜の前へ立ちはだかると、
「数に任せる……単体最強種族が聞いて呆れます。独りで事を成さんとした魔竜王とは大違いですね。まあ生白い貴方みたいなのにはお似合いの戦略でしょうが――」
 そう言って、魔竜の攻撃を一手に引き受ける。
 暴力の塊のようなブレスが絶奈をなぶり、飲み込む。意識を手放す最後の時まで、絶奈の瞳には、勝利の確信の色が宿っていた。

「20分……!」
 キアリが声をあげた。もう、と言うべきか。まだ、と言うべきか。犠牲は決して少なくはなかったが、サーヴァントを含め11名ほどの人数で、彼の魔竜に対し、ここまで耐えたことは、まさに驚異的と言えるだろう。
 魔竜のはばたきにより生まれた竜巻が、ケルベロス達を切り刻む。
 ヴォルフが飛翔した。『Wahnsinnig attentat(ヴァーンズィニヒアッテンタート)』。その業は、何処までも敵を追い詰め、攻撃する事のみを目的として放たれる。
 魔竜への一撃。『Lament』を用いた斬撃が魔竜の肉を切り飛ばすが、
「まだ、か……」
 ヴォルフが呟く。殺すには、程遠い。それが理解できた。仲間たちの追撃を、どこか遠くで起こっているように錯覚しながら、ヴォルフは魔竜の事を考える。殺せなかった敵。届かなかった敵。そう、届かなかった。今は。だが、
「次は殺す。必ず殺す」
 どこか楽し気に、嬉し気に、ヴォルフが言った。魔竜の尾に叩きつけられたヴォルフが、その意識を手放す。この戦いで何度も倒れ、何度も立ち上がり、ただ殺すためだけに戦い続けたヴォルフが、ついに倒れ伏した。
「愚兄ッ!」
 朔耶が叫ぶ。キアリとソールロッドの回復を受けながら、朔耶は自身のファミリアロッド、『Porte』を梟に戻すと、自身の魔力を込めて魔竜へと射出した。『月桜禽(ツキ)』の一撃は魔竜の体を傷つけることに成功したが、当然ながら、その命を奪うには至らない。
「やれやれ、大した化け物だぜ……!」
 朔耶のボヤキへ、
「とはいえ、俺達も頑張った方じゃないかな。さて、もう少し時間を稼がせてもらおうか」
 蓮が苦笑しつつ、答える。
「それもそうだな……先に行かせてもらうぜ?」
 朔耶がそう言って、魔竜の攻撃を一手に引き受ける。放たれた白いブレスが、朔耶を飲み込むのを、三人は見ていた。
「さて、次は俺の番だな」
 蓮はそう言って、二人へと向き直る。
「後は頼んだよ。この戦いに、勝利を」
 そう言って笑う。キアリとソールロッドの援護を受けて、蓮は叫んだ。
「これで、この程度で、俺達が倒れ絶望するとでも? 程度が知れるな、魔竜様?」
 嘲笑うような挑発。それを受けた魔竜は、蓮へと白のブレスを吐きかける。
「25分……」
 すがる様な声で、キアリが声をあげた。残り5分。魔竜の口が、二人へと狙いを定めた。拡散された白のブレスが、二人を包み込む。暴風にもみくちゃにされて、2人が吹き飛ばされた。
「まだ……一分でも、一秒でも……!」
 キアリが立ち上がる。ソールロッドが立ち上がる。お互いの傷を癒しながら、限界の体を気力で立ち上がらせて、魔竜へと対峙する。
 そして、戦闘開始から26分が経過した時に、それは起きた。
 突如として、辺りの雰囲気が一変した。
 膨れ上がる、あまりにも邪悪な空気。
「一体何が……?」
 困惑するキアリの瞳にうつったのは、『時空の歪み』より撤退するケルベロス達の姿だ。ドラゴンオーブの破壊には成功したのか? それは分からないが、いずれにせよ、撤退路を死守するという、ケルベロス達の任務は、ここに完了した。
 ケルベロス達は、この場を、守り切ったのだ。
「キアリさん!」
 ソールロッドの言葉に、キアリは頷く。2人は倒れた仲間達を助け起こすと、撤退の準備に入る。
「嘘……」
 キアリが、呆然と、呟いた。
 時空の歪みより注がれる邪悪な力を受けた魔竜は、その身体をさらに、さらに、巨大な物へと変貌させていった。
「そん、な」
 ソールロッドがたまらず呻く。
「撤退よ、今は……」
 呆然としつつも、キアリが声をあげた。

 ケルベロス達は、撤退を開始した。
 その彼らの背後で、魔竜はその身体を巨大に変化させ。
 大地を揺るがさんばかりの咆哮が、世界に響いた。

作者:洗井落雲 重傷:ヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月20日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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