魔竜顕現~駆ける者達

作者:沙羅衝

 先ほどまであった熊本城の跡を見つめる、ひときわ大きな四体のドラゴンの姿があった。
 その視線の先には、禍々しく怪しく輝くドラゴンオーブの姿があった。
「ドラゴンオーブが万が一にも奪われてしまえば……。この戦いに、ドラゴン種族の存亡がかかっているのだ!」
 覇空竜アストライオスが、喪亡竜エウロス、赫熱竜ノトス、貪食竜ボレアースと共に、向かう。
 その四体は、時空の歪みに入っていき、消える。
 すると、ドラゴンオーブを守るように、次々とドラゴンが姿を現し始めた。

「熊本城でのドラゴンとの決戦は、なんとかかろうじてやけど、うちらの勝利、になったわ」
 宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)が、ケルベロス達を前に説明を始めていた。絹が言う勝利とは、儀式を行うドラゴン達の一角を落とし、竜十字島にドラゴンオーブを転移させる事を阻止した事だ。
「せやけど、や。熊本城に現れたドラゴンオーブやけど、『時空の歪み』を生み出した。どうやら、その内部を禍々しい力で満たそうとしてるらしい。
 するとどうなるか、やねんけど、その力が充ちた時にドラゴンオーブから魔竜王の後継者となるべき、強大なドラゴンが生み出されてしまう、……みたいや」
 ドラゴンオーブにそんな力がと驚くケルベロス達。それに魔竜王という言葉。
「うん、せや。あかんやつや。
 で、これを阻止するためには、うちらがその時空の歪みに突入する必要がある。そんで、そのオーブを奪うか、破壊せなあかん。
 実は既にやねんけど、時空の歪みの中には、覇空竜アストライオス、喪亡竜エウロス、赫熱竜ノトス、貪食竜ボレアースの四竜がもう突入してる。せやからすぐに後を追わなあかん。
 でも、それだけやない。なんやそのドラゴンオーブの力で出現したんちゃうかっていう『19体の強大なドラゴン』が、時空の歪みの周りで待ち構えとる。
 まとめると、や。この19体のドラゴンを抑えてから、時空の歪みの内部に突入。アストライオスとかの強大なドラゴンと対決して、ドラゴンオーブを奪取或いは破壊する……」
 絹の話を聞くだけでも、困難は想像に難くなかった。その説明に、ケルベロスの一人が、他に方法は……。と言おうとするが、絹は首を横に振る。
「現状は、これ以上の作戦はないんや。ほんま、ごめんやで」
 絹の申し訳ない表情に、ケルベロスは様々な反応を示した。
 しかし、一人ずつ顔を上げ、頷いた。
「有難う」
 絹は頭を深く下げ、この作戦の詳細を説明する。
「まず、この作戦の目的は、ドラゴンオーブの奪取、或いは破壊や。その為に、19体のドラゴンに攻撃を仕掛けて、その隙を付いて突入する。
 実はうちらはこの突入班、もしくは支援班になる。19体のドラゴンは他のチームが担当する事になったから、そこは間違えへんといてな。
 で、うちらが出来る事の説明や。
 一つは、四体のドラゴンの相手をする。
 アストライオス、ノトス、エウロス、ボレアースやな。撃破できたらええけど、最低でも邪魔する必要はあるやろ。
 二つ目が、ドラゴンオーブを奪うか、破壊する。
 まず奪う場合、『ドラゴンオーブの所持者に相応しい資質』を示す必要があるみたいや。この『資質』に関しては良く分かってへん。でも、認められたらええけど、失敗したら膨大なダメージを食らってしもて、戦闘不能になってまう。
 そいじゃあ破壊しようとする場合やけど、これは純粋なダメージ量が必要や。で、一定の確率でその攻撃を反射する能力があるらしい。せやからそれで戦闘不能にならんためには、手加減攻撃がいるって言われてる。
 最後に、19体のドラゴンの戦いの支援をする。
 これは、もし19体のドラゴンに挑んだチームが負けたりした場合の時間稼ぎになる。突入班が撤退してくるまで退路を支える役や。
 んで、その支援班で固まって、一つのドラゴンを撃破してを目指すっちゅう方法もとれる。さっきの支援よりも攻撃的な方法や。撃破したそのドラゴンが4体以上になったら、防備は薄くなるからな、撤退してきた他の班が、強引にでも突破できる隙を作ることが出来るわけやな。でも、これは賭けでもある。ちゅうのも、全然撃破できへんかったら、その突入班は帰って来られへんからな……。自分達で何が出来るか。それは皆の相談にかかってる。成功するように、力をあわせてな。お願いや」
 作戦それぞれが全て密接に絡み合っている。何処も疎かには出来ないが、成功させるには綱渡りのようなものでもあった。
「ホンマにピンチでもあると思う。でも、チャンスと捕らえるのも、心の持ちようかもしれん。ドラゴンオーブを破壊できるという事でもあるしな。大変な作戦や。でも、うちは信じてる。せやから、頼むわ」


参加者
十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
シィ・ブラントネール(フロントラインフロイライン・e03575)
ライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)
ジェノバイド・ドラグロア(忌まわしき狂血と紫焔・e06599)
ラズリア・クレイン(黒蒼のメモリア・e19050)
四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)
キーア・フラム(憎悪の黒炎竜・e27514)

■リプレイ

●次元の歪みと金髪の少年
「さてみんな! ワタシ達も続くわよ!」
 シィ・ブラントネール(フロントラインフロイライン・e03575)が、翼を広げながら仲間達の先頭を行く。彼女の傍らにはシャーマンズゴースト『レトラ』が、彼女と同じ速度で浮かぶ。
 ケルベロス達は、魔竜と戦うチームに心で礼を言い、次元の歪みに突入していた。そこは『荒れ果てた荒野』という名が相応しいほどの光景だった。光も届かない、不可思議な場所。
「こんな場所が……」
 十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)はそう言いながらも、辺りを確認する。
「少し、怖いな。でも、お兄様もジェノお兄さんも、そしてCも居るし。大丈夫、だよね……」
「でも確かに、ちょっとクルもんは、あるな……」
 燈家・陽葉(光響射て・e02459)とジェノバイド・ドラグロア(忌まわしき狂血と紫焔・e06599)は、顔を見合わせて、頷きあった。
「どうやら、あれが目的の物のようね」
 四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)は、紫の靄のかかる荒野を見る。よく見れば、巨大な影も蠢いていた。
 ケルベロス達の前方には、アストライオス達を足止めする為のチームが先行していた。そして我々の周囲には、自分達を含め四チーム。心強い仲間達である事は、間違いなかった。

「始まるわね……」
 暫くその荒野を進んでいくと、キーア・フラム(憎悪の黒炎竜・e27514)が目に憎悪を浮かべながら、そう呟いて前方を見る。先行するケルベロス達が、四竜に追いついたのだ。
 剣戟や爆音等、グラビティが交錯する音が響き始めた。先行するチームがアストライオスと交戦を開始したのだ。
「行きましょう」
 ラズリア・クレイン(黒蒼のメモリア・e19050)が駆け出し、他の仲間達も一斉にドラゴンオーブのもとへと突っ込んでいった。全長3メートルの台座に乗った宝玉。ケルベロス達がその周りを、取り囲んだ。
「これが、……ドラゴンオーブね!」
 そのオーブは、明らかに異質で邪悪なモノであると感じた。シィはその姿を見て一つ唾を飲み込んだあと、いつものテンションで声を発する。数多の戦いを潜り抜け、時には挫け、また立ち上がってきた彼女であったとしても、背中に冷や汗が流れる程だった。
「オーブが敵の手に渡ったら、本当に終わってしまう。そんな未来は繋がない」
 ライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)が一歩前に出て、チェーンキー『虹彩』を取り出す。巨大な四竜と他のケルベロス達の戦闘音が大きく響いてきた。その音だけでも激戦である事が容易に想像が付く。彼等の為にも、ここで引く訳には行かないのだ。
「繋ぐのは平和で優しい未来だ! 変身!」

 全員の戦闘準備が済んだ時、金髪の少年が進み出た。このドラゴンオーブと因縁があるという少年が、資質を仰ぎたいと言う話を聞いていたからだ。
 ドラゴンオーブと対峙する少年、ベルンハルト・オクトだ。
「ベルンハルトさん、お願いします」
「おう、やっちまえ!」
 少年は少し躊躇っている様だが、仲間達の声を聞き、意を決して宝玉に手を触れた。相変わらずドラゴン達の咆哮が聞こえる為、その時間はより永く感じられた。
「死力を尽くして戦う俺達は、龍さえ奮い立つ者ばかりだ。これが次なる主の矜持だ、しかと見届けろ……!」
 ベルンハルトがそう言った時、オーブにドラゴンのような影が浮かび上がった。
 だが次の瞬間、ベルンハルトは後方に吹き飛ばされた。失敗だ。少年がどぅ……と倒れた時、ケルベロス達は即座に動いた。
『コイツが俺の、『太陽の意思』だッ! 『超太陽砲』!!』
 燃えるような瞳をした金髪の少女が、その髪を太陽のように輝かせ、光線を放つ。その少女の攻撃を皮切りに、躊躇う事無く攻撃に移るケルベロス。その対応の早さは、この少年が失敗した時の事も考え、相談を重ねていたからだった。
 ケルベロス達に迷いは無かった。ドラゴンオーブを破壊する。目的はそれだけに絞られた。

●ドラゴンオーブ
「魔竜王の再臨なんてさせられないしね。こんな厄介なものは、壊すに限るよ」
 陽葉がすかさず、自分のリボルバー銃『白蓮の銃』を放つ為に、一番得意な位置に移動する。
「オーブの力に魅力を感じないといったら、嘘になるわ。けれどもその力は家族を、守るべき人達の為にある。
 時間を稼いでくれている他の皆のため、放っておけばやがて来る災いを防ぐため、一秒でも早く破壊するわ」
 玲斗が頷き、相手の攻撃に備えて集中を開始した。ドラゴンオーブの攻撃とは反射。とすれば、その反射に備えるのが最善であると、彼女は対処療法を行うと診断したのだ。
『終わりにしよう。何もかも・・・!』
 ライゼルが地獄の炎と混沌を翼へと変換し、跳躍する。そして急降下し、渾身の蹴りを放つ。
 どぅっ!
 鈍い音を伴い、ドラゴンオーブにライゼルの蹴りが打ち込まれると、即座に鎖が追撃する。
 だが、まったく同じ音と、自らの鎖と同じ力が跳ね返り、自らに突き刺さった。
「ぐぅ!!!」
 脚から腹に向けて突き刺さった鎖が、体を貫通したかと思うと、それはすぐさま消える。しかし、その傷は本物だ。
「兄貴!!」
 ジェノバイドがそう叫ぶが、ライゼルは首を振り、弟を叱咤する。
「ボクに構うな! 続くんだ!!」
 そうだ、怯んでいる時間はない。その反射は分かっていた事だ。怯むこと無く叩き込み続けるしかないのだ。
 その傷を見たラズリアは、玲斗と頷きながら、まずは自分がとマインドリングから光の盾を張り巡らせながら、ライゼルを癒した。
「分かったぜ兄貴……最大火力。だったな」
 ジェノバイドはそう言って『覇龍憚界』に、紫焔と狂血を凝縮させていく。
「そうだ、最大火力だ。行くんだ!」
 ライゼルの声にジェノバイドが頷き、勢いよく飛び上がる。
「この作戦、いっちょやってやろうじゃねぇか!」
 そして、力を与えた斧を投げつける。
『覇龍になるのは!この俺だっ!』
 ドゴッ!!
 すると、その斧がドラゴンオーブに叩き込まれた瞬間、凝縮された爆発が起きる。どうやら、今度は反射はされなかったようだ。となれば、全力で攻撃を叩き込むのみ。
 ジェノバイドの攻撃を見て、泉は静かに、シィはテンションを上げて攻撃に移る。
「魔竜王の後継なんて生まれたら、聖王女様やお祖母様達の苦労が水の泡になっちゃうわ! そんなの許さないんだから!」
 此方も最大火力を込める。
『壊されてしまっても知りませんよ?ミッツメ、参ります。』
『時を超えるほどのエネルギー、味わってみる?』
 泉がエアシューズ『夜明』を最小限の動きで叩き込む。そして、膨大な電力をシィが放つ。すると、その電力の雷が、シィに向かって跳ね返ってくる。
 すかさずレトラがその雷の間に入り、受けきる。レトラは守備に重点を置いた指示をシィから受けおり、その傷は考え得る最小限の傷だけ残した。
「自らの攻撃は、自らが一番知っているものね」
 傷の様子を見て、玲斗がレトラに容赦ない施術を施した。
 ケルベロスたちは、己の最大火力の業をぶちこんだ。へリオライダーのお陰で、情報は得ていた。そして、自分自身の攻撃は、誰よりも知っているのだ。
 ケルベロス達は、全員が自分達の攻撃を軽減する防具を装備していた。例え反射されたとしても、ダメージは最小限に押さえ込む自信があった。
 キーアがゲシュタルトグレイブに地獄を載せ、叩き付ける。そしてまたライゼルが、再び最大火力の鎖をぶち込んだのだった。

『前へ!』
 陽葉がその歌に込められた光の剣を具現化し、切り裂く。そしてジェノバイド、シィ、泉が続いて攻撃を加えた。
 ケルベロス達は攻撃を何度も繰り返した。その度に、幾つかの攻撃は跳ね返ってくる。
 今度は、泉の正確で無駄の無い一撃が跳ね返ってきた。だがそれをシィが手刀で弾き、後ろに飛び退って受け流す。
「イズミの全力の攻撃も、なかなかのものね! 今度手合わせしない!?」
「レトラ君が居るなら、2対1でしょう? ですが、魅力的なお誘いですね」
 泉はふふっと笑い、シィに礼をする。そして流れるような動きで傷を玲斗が癒し、ラズリアが『スカイクリーパー』の一節を歌い、前衛のメンバーへと希望を与え、回復しきった。
「大丈夫のようね。ええ、キープせてみせるわ。任せて」
「誰一人、倒れさせはしない」
 攻撃する者は最大火力を繰り返し、防御も兼ねたアタッカーが可能な限りその攻撃を受ける。そして玲斗とラズリアによる回復。それでも足りない場合は、自ら気合い入れて傷を塞いだ。
「こっちの傷は大丈夫だよ。手加減はまだ、しないよ」
 陽葉の言葉通り、彼らの傷にはまだ余裕があった。まだ自分の攻撃で倒れる事はない。
 その事を確信しながら、また己が信条である攻撃を叩き込んだ。その連携は、ほぼ完璧と言えた。
 キーアがゲシュタルトグレイブをぶんと振り回し、構える。
「全て燃やし尽くしてあげるわ……!」
 彼女グラビティが黒く染まっていく。そして、その槍を渾身の力を以ってオーブに突き刺した。
『神をも滅ぼす尽きる事のない黒炎…魂の一片すら残さず燃え尽きろっ…!!!』
 黒炎を上げ、燃え上がるオーブ。
 すると、キーアの攻撃と同時に、三和・悠仁が己の復讐心と共に斧を叩き付け、据灸庵・赤煙がオーブと台座の間を突き、ハル・エーヴィヒカイトが黒刃を次々と降らせた。
 ビ……!
 乾いた音が響き、オーブに一瞬皹が入ったかと思うと、一気にその領域を広げていく。
 そして……砕けた。
「マズい!!」
 その瞬間ライゼルが叫ぶ。オーブの力が膨れ上り、瞬時にして爆発を起こしたのだった。

●駆ける者達
 周辺が更地に成ったかと思う程の大爆発。その力によって、ケルベロス達は吹き飛ばされていた。
「みなさん……、無事で、しょうか?」
 泉が体を起こし、周りを見渡した。
「こっちは、大丈夫……。でも、オーブが爆発するなんて……」
 陽葉も自らの体を確認しながら立ち上がる。幸いにも外傷はない。
 その時、シィが明らかなる注意の声を発する。
「ねえ皆。急いだほうがよさそうよ! アレを見て!」
 彼女の視線の先を確認し、一同は目を見開いた。
「でけぇ……」
 その姿にあっけに取られるジェノバイド。なんという事だろう。二体のドラゴンが此方に怒りの咆哮を上げているのだ。
 アストライオスとエウロス。そのドラゴン達は、確実に巨大化している。
 それを見た赤煙のチームが、応戦しているケルベロス達のチームを助ける為に飛び出した。
「ちょっと、怒りを買ってしまったようね。まあ、当然といえば当然ね」
 玲斗はそのドラゴン達が、オーブを破壊した我々へと向かって来ている事を確信した。それでも玲斗はあくまでも冷静に、最後に攻撃を肩代わりした泉に施術を施す。
「逃げるよ!」
 ライゼルの声と共に、ケルベロス達は後方へと駆け出した。だがそれでも、竜は目と鼻の先の距離へと近づいてくる。その距離が遠くなる気配はない。
 どうする? どうすればいい? 他の仲間達は大丈夫なのか?
 様々な思考が行き交い、迷う。その迷いの間に、ドラゴンは攻撃態勢に入った。
「間に合わない、か!?」
「迎え撃ちましょう!」
 ライゼルが立ち止まり、鎖を展開し始め、ラズリアが頷く。そして来るべき攻撃に備え『ニーベルングの星環』にグラビティを集中し始めた。
「ちょうど良いわ。あのドラゴンも、纏めて燃やしてあげようじゃない!」
 キーアが威勢よくゲシュタルトグレイブを構える。だが、一筋縄では行かない事も感じていた。
(「こうなったら……」)
 彼女がそう思った時、ラズリアに向かって一つの塊が飛んできた。彼女はリングに光を蓄えさせたまま、それが少年である事を察知し、受け止めた。
「紗神様!?」
 ラズリアが驚いた表情で紗神・炯介を見る。彼が投げ寄越した少年は、信念を貫き、倒れたベルンハルトだった。
「頼んだよ」
 炯介はそれだけ言い、アストライオスの強烈な雷撃をオウガメタルで武装した腕で受け止めた。そして次々に炯介の仲間達がアストライオスへと立ち向かっていく。
「無茶です。我々も……!」
 そう発し、自らも駆け出そうとするラズリア。すると、七種・徹也がグラビティを練りながら言う。
「大丈夫だ、すぐ追いつく。俺達の頑丈さはそいつが良く知っているだろうからな」
「ですが……!」
 それでも彼女は首を振り、凛とした表情を崩して、心配そうな顔を向ける。
「暗雲は既に晴らしたんだ。にひひっ、死ぬ気はねーよ、先に帰って待ってろよ」
 その声は、良く知る年下の少女、草火部・あぽろだった。あぽろは、笑みを残しながら踵を返し、アストライオスに近づいていく。
「承知……しました。お任せください。そして、ご武運を……」
 ラズリアは祈るように呟き、ベルンハルトを確りと体に固定した。
 炯介達がアストライオスに挑んで行く。しかし、同時にエウロスもまた向かってくる。竜はまだもう1体存在するのだ。
「お兄様……、どうしたらいいかな」
 陽葉が兄と呼ぶライゼルに問う。状況を把握した彼は、素早く思考を巡らせる。
(「目の前には強大な敵。もう一つのチームは戦闘不能者を抱えているみたいだ。この先の脱出経路も安泰という訳じゃない。とすれば……」)
 ライゼルはその目に決意を表し、周りを確認する。目の前のシィもその意思を読み取ったのか、頷く。
「我々が先陣を切って撤退経路を確保しよう。だから、戦闘が出来ない者は、我々に任せてくれないか?」
 ライゼルの言葉に、アデレード・ヴェルンシュタインが微笑を浮かべながら応えた。
「頼むのじゃ。わらわ達はちょっと……『正義』をやってくるのじゃ」
 彼女も決意をした一人のようだった。風峰・恵とメイリーン・ウォンが泉と陽葉に託される。
「任せてください。そして、お互い無事に脱出いたしましょう」
 泉が丁寧に声をかけ、一礼する。
「仕方ないわね。やってあげるわよ」
 キーアが翼を広げて舞い上がり、先頭に居るシィに並ぶと、前を向いた。
「師団に朗報を持って帰る、俺らの使命ってやつよ」
 ジェノバイドもまた、気合を入れる。
 アストライオスとエウロスが巨大化したという事は、他のドラゴンも同じ様になる可能性が高い。とすれば、ここを脱出した先にいる魔竜と戦っているケルベロス達にもその事を知らせなければならない。
 ドラゴンオーブの破壊という目的は達成したのだ。ドラゴンを倒せてはいなくとも、もう一度挑むことが出来るはずだ。
 その事を可能にするために、少しの戦力も欠けさせる事無く、今、脱出するのだ。
 ケルベロス達は駆けた。次の未来に繋げる為に。

 そして、次元の歪みから脱したライゼルは声の限り叫んだ。
「オーブの破壊に成功! だが、逃げろ!! 今すぐ、熊本から撤退するんだ!!!」
 と。

作者:沙羅衝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月20日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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