●背水之陣
侵空竜エオスポロスの自爆によって、熊本城は見る影もなく破壊された。強固に組まれた石垣も無残に崩れ落ちて惨憺たる姿となっている。
その瓦礫の中から光が生まれた。
遺産にして秘宝、現れ出たのは輝けるドラゴンオーブ。
「ドラゴンオーブが万が一にも奪われてしまえば……。この戦いに、ドラゴン種族の存亡がかかっているのだ!」
咆哮する覇空竜アストライオスがはばたいた。喪亡竜エウロス、赫熱竜ノトス、貪食竜ボレアースらも続き、巨大な姿は突然にふつりと消え失せる。
熊本城上空には次々とドラゴンが集い始めた。言うなれば本隊、竜十字島からやってきたドラゴンたちだ。はばたく音が豪雨のように辺りに響きわたる。
雲間から竜が現れれば地には虎が立つもの。
ケルベロスたちは今まさに、竜たちと対峙しようとしていた。
●風雲告急
ケルベロスたちを迎えたセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、まずは笑顔で労いの言葉をかけた。
「ドラゴンとの決戦は、辛うじてではありますが勝利できました。皆さんが尽力して下さったおかげです。お疲れさまでした」
魔竜王の遺産であるドラゴンオーブを竜十字島に転移させる事に失敗させ、覇空竜アストライオスの目論見を阻止はできた。だが、それでは終わらなかったのだ。
「ドラゴンオーブは『時空の歪み』のような空間を生み出して、内部を禍々しい力で満たそうとしています。力が満ちれば、ドラゴンオーブから魔竜王の後継者となるべきドラゴンが生み出されるでしょう」
それを座視するわけにはいかない。阻止するには時空の歪みの中に突入し、ドラゴンオーブを奪取するか破壊するか。いずれかが必要だ。
既に覇空竜アストライオス、喪亡竜エウロス、赫熱竜ノトス、貪食竜ボレアースの4竜が時空の歪みの中に突入している。彼らを追おうにも時空の歪みの周囲には、ドラゴンオーブの力で出現したらしき19体の強大なドラゴンが待ち構えている。
「作戦はこの19体のドラゴンを抑え、時空の歪みの中へと突入してアストライオスら4竜と対決しドラゴンオーブの奪取或いは破壊を行う――危険で、しかも成功率は高いとは言えません」
とはいえ、それ以外に術はない。
「どうか。皆さんの力を今一度貸して下さい」
最終目標はドラゴンオーブの奪取、あるいは破壊。
しかしそこへ至るには対処すべき問題が3つある。まず、ドラゴンオーブを守るべく現れた19体のドラゴンに攻撃を仕掛けて、時空の歪みに突入する隙を作る。
次いで、突入したチームが帰還するための退路を守り抜く。つまり19体のドラゴンと戦うチームを支援することが必須だ。
支援をする班は19体のドラゴンとの戦闘で敗北したチームが出た場合に戦場に駆け付け、ドラゴンが他のドラゴンの増援に向かうのを阻止し、時空の歪みに突入した班が戻ってくるまで退路を守り続けるのが目標となる。
「突入した班が戻るまで最大30分ほどと思われるので、長時間にわたって退路を保持する戦略が必要になるでしょう」
困難ではあるが必要な分担だとセリカは補足した。
支援を行う複数のチームが同じドラゴンを一斉攻撃し、撃破を目指すという手もある。4体以上のドラゴンを撃破できれば、突入班がドラゴンの数が減って手薄な場所を突破し撤退するという手段がとれるからだ。
突入したチームは先んじて中に入った覇空竜アストライオス、喪亡竜エウロス、赫熱竜ノトス、貪食竜ボレアースへの対処をせねばならず、できなければドラゴンオーブに手をかけることは叶わない。
しかも仮にドラゴンオーブを奪取したとしたら、ドラゴンに奪われないよう防衛しながら撤退しなくてはならないのだ。
「今でさえ困難ですが、ドラゴンオーブが竜十字島に持ち込まれていれば対処のしようもなかったでしょうね」
溜息をついたセリカは表情を引き締めた。
「皆さんの力を信じています。どうかくれぐれも、お気をつけて」
参加者 | |
---|---|
ティアン・バ(絶果・e00040) |
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695) |
樫木・正彦(牡羊座の人間要塞・e00916) |
鈴代・瞳李(司獅子・e01586) |
キソラ・ライゼ(空の破片・e02771) |
天海・矜棲(ランブルフィッシュ海賊団船長・e03027) |
アッシュ・ホールデン(無音・e03495) |
サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394) |
●出撃
瓦礫と化した熊本城周辺の戦場、既に数班が救援に向かっている。双眼鏡で覗き込んでいたシル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)が声をあげた。
「救援要請です!」
「作戦開始から17分ですね。急ぎましょう」
樫木・正彦(牡羊座の人間要塞・e00916)が時間を確認して立ち上がる。最短ルートを確認済みのシルを先頭に、一行は2分で戦場を走り抜けた。
「……!」
彼方の景色に鈴代・瞳李(司獅子・e01586)が息をのんだ。既に六人ものケルベロスが倒れ、残る二人も満身創痍。立ちはだかるドラゴンは星空のようにきらめく鱗をまとい、幾つもの輝く魔法陣を操る魔竜クリエイション・ダークだった。
「皆、願わくば、この地獄の如き現世で再会しよう……!」
あと少し――けれど届かぬ向こうで、ユグゴト・ツァン(パンの大神・e23397)が魔竜へと跳ぶ。その足元に展開した黒い魔法陣から黒い針が爆風のように打ち出されると、彼女は影に全身を蝕まれ崩れ落ちた。支援班に気づいたリリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)が悲痛に叫ぶ。
「みんな! 守りに入っちゃいけない! アタシたちの轍を踏まないで! 誰が倒れようと、固まらずに攻撃を散らして!」
サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)は眉を跳ねあげた。彼女は一年前の飫肥城で共に戦い抜いた戦友だ。
「援護するぜ、退がれ!」
「……サイガさん。ごめんね。今回、助けは必要ない……アタシも、みんなに続くわ!」
リリーは聞かなかった。退けば支援班が魔竜の攻撃に巻き込まれる。ならば自分がもう一分を稼ごう。
「こっちを向け、魔竜! これが、アタシたちの意地よッ!」
魔竜めがけて駆けて、雷光這う長刀を胸へ突き立てる。電撃が魔竜を襲ったが、それを魔法陣から迸る紫の電撃が貪り尽くした。リリーをも呑み込んで輝きを放つ。
崩れ落ちる彼女を目にし瞳李は唇を噛んだ。もう二度と人の命を諦めたくない。自分達は当然、19竜班も全員で帰ると決めたのだ。何としても連れ帰る。
後に続く仲間たちを守る紙兵を撒きながら、サイガが魔竜の懐に飛び込むように突出する。まずは戦線を押し上げ、倒れたリリーたちが戦闘に巻き込まれないように。
『――呼んでるヨ』
キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)の呟きが雨の礫を呼び寄せる。咆轟の名に相応しい身を貫き轟く滴を、魔竜も避けることは叶わなかった。リリーとユグゴトを後方へ押しやったティアン・バ(絶果・e00040)が、オウガ粒子を放出して前衛たちの超感覚を研ぎ澄ます。
新手を前にしたクリエイション・ダークは痙攣する己の脚を煩わしそうに眺めると、低い唸りをもらした。浮かぶ白い魔法陣が輝きを増して、体を包むように展開すると傷を消し去っていく。固定班の爪痕が一手を回復に使わせたのだ。
「ここを乗り切れば希望が見える! 変身! さあ、錨を上げるぜ!」
天海・矜棲(ランブルフィッシュ海賊団船長・e03027)が羅針ドライバーの操舵輪型バックルを回した。不敵な笑みを浮かべた青年は『マスカレイダー・リベル』へと変身を遂げ、高々と宙を舞った。一転、星が落ちるように重い蹴撃を魔竜へ食らわせる。
アッシュ・ホールデン(無音・e03495)の漆黒の鎖が音もなく廻り、後衛たちを護る魔法陣を展開した。武術棍を携えた瞳李が前へ出て、胸板へ渾身の力で叩きつける。
「行きますよ!」
シルの精霊石の指輪から具現化した刃が、鎧う鱗ごとざっくり傷つけた。小煩げな仕草のクリエイション・ダークへ、正彦はアームドフォートの砲口を向ける。
『50口径だ、受け取ってくれ』
12.7ミリ機関銃弾が轟音をたてて魔竜に着弾した。
●嚆矢
リリーが託した言葉は、敵の攻撃・防御力減衰と行動阻害、仲間の命中率と攻撃・防御力の底上げを徹底する班の戦術と一致していた。時間を確認した正彦が呟く。
「作戦開始20分。しかし、挑発はしたものですかねえ」
元より、隙あらば撃破する腹づもりでここへきた。
弾丸のように飛び出したシルが魔竜の脚へキックを見舞う。クリエイション・ダークがくぐもった叫びをあげると、浮遊する蒼い魔法陣が輝いて蒼い炎が雨のように放たれる。
炎を浴びながらも笑いを浮かべたサイガが懐へ踏み込んだ。
『じゃあ、ひとつ』
一撃は魂までも食いちぎる咬み傷のように疾り、挟撃位置からはキソラの竜砲弾が叩きこまれる。そこへ精神を集中した矜棲が、魔竜を中心に爆発を食らわせた。
その間にティアンは紙兵を舞わせ、炎を浴びた仲間たちの手当てを急いだ。
紅の目をぎらつかせたクリエイション・ダークが爆煙を吹き飛ばすなり、正彦が魔力を込めた星の形のオーラを胸板に蹴りこむ。
前衛に防御の魔法陣を展開しながらアッシュは魔竜の弱点を探った。今のところ穴と呼べるほどの属性は見られない。シルの代わりに炎を浴びた瞳李は、仕込み銃を回転衝角へ変形させ、腹をめがけて突き入れた。
魔竜が口を開けて牙を剥くと、聞き取りにくいが何かを唱えているのがわかる。念仏じみたそれが終わるとシルの周囲に球状の魔法陣が現れた。彼女を押しのけ、泡のように増殖する魔法陣の只中にサイガが身を投げる。
襲ってきたのは四肢を捩じ切り、身体を八つ裂きにされるような痛みだった。魔法陣の一つ一つがブラックホールのように呑み込もうと、彼の身体を四方八方に引き合う。
「がっ……あ!」
身を捩って自由を得た彼を、ティアンの舞う魔法の木の葉が包みこんで傷を癒す。傷が想定どおり深くないことに、鎖の魔法陣を自らにも敷きながらアッシュは息をついた。
魔竜の後脚へ瞳李が重い蹴りを叩きこみ、頭上からキソラの喚んだ雨の礫が降り注ぐ。地へ縫いつけるような雨の中、浮遊する魔法陣をかいくぐったサイガの『杭』が胴へ打ちつけられた。
風のように回りこんだシルの拳も、脇腹へしたたか食い込んだ。鉄の塊でしかない正彦の剣に氷が這って刃と化すと、鱗を切り裂く一撃を浴びせる。一歩退いた魔竜の胸を、矜棲の構えたリボルバーが撃ち抜いた。
二つの傷から氷が鱗の上を蝕んでいく。
●争闘
紫色の魔法陣が放ったのは紫色の雷撃だった。シルは正彦が身体を張って庇ったが、庇い手たちを守っていた加護をブレイクされたのが痛い。
サイガが紙兵を、ティアンがオウガ粒子を放出して前衛の防御を固める間に、キソラはドラゴニックハンマーから砲撃を加えた。尚も前に出ようとする鼻っ面に矜棲が大爆発を食らわせる。
前衛のための陣を敷くアッシュへ攻撃しようとした魔竜に、瞳李は理力のありったけをこめた蹴撃を叩きこんだ。彼の両親とは「戦場から必ず連れ帰る」と約束しているのだ。
「簡単に防げるとは思わないでね?」
左手薬指の約束の指輪に触れ、シルが己のグラビティを龍の形に具現化する。傍らに精霊の少女が寄り添い、グラビティを光の剣と成した。
『わたし達の絆の力、今こそ見せてあげるっ! ……さぁ、勝負だっ!』
二人の少女が乱舞する連携攻撃がクリエイション・ダークを翻弄する。避けきれず正面からの一撃を食らって怒りの咆哮が轟いた。笑顔でシルとハイタッチを交わした精霊の少女が消えていく。
正彦が穏やかに光るエネルギーでシルを回復する傍ら、キソラと矜棲が呟いた。
「イイね、この流れ」
「ダメージコントロールも予定どおりだな」
現状、挑発で調整が必要なほどには被害は偏っていない。魔竜へのダメージを積み上げてもよし、回復で一手使わせても悪くない。
その時、二人の――否、ティアンも含めた足元に黒い魔法陣が展開した。
「!」
体当たりするように瞳李がティアンを遠ざけ、正彦も矜棲を押しのけた瞬間。魔法陣から無数の黒い針が放たれた。かろうじて避けたキソラの目の前で、二人が刺さった針から現れた黒い影に侵食されて苦鳴をあげる。
立ち上がるより早く、ティアンが庇い手たちへ紙兵を飛ばした。冷たい怒りを湛えた眼を魔竜へ向けたキソラが雨の礫を喚ぶ。轟々たる音と衝撃に閉じ込められた魔竜に、サイガが視認すら難しい影の斬撃を食らわせる。
傷の塞がった瞳李も容赦のない蹴撃を叩きこみ、アッシュの影からは這い出るような紫炎が現れた。
『選り好みしてる場合でもねぇんでな……目的果たす為なら、使えるもんは使うだけだ』
邪龍の麻痺毒を含んだ炎。クリエイション・ダークの体を焼きながら浸み込む毒は、確実に自由を奪っていく。
「ここまで来たら、ダメージレースっ! 前のめりに、全力で行くよっ!!」
「頑張りますお」
シルの斬撃が影のように霞んで魔竜の身体を切り刻み、続く正彦の剣も氷の刃を宿して深い傷をつけた。振り回される尾を蹴って高く跳び、落ちかかる矜棲の蹴撃が魔竜の背に捩じこまれる。着地した矜棲は、視界の端に待ちかねたものを捉えて声をあげた。
「おい、突入班が出てきたぜ! 無事……」
だった、と続けるより前に、彼らの後をアストライオスとエウロスが追ってくるのまで見えた。何より問題は――アストライオスもエウロスも倍ほどに巨大化している。
異変は眼前でも起こり始めた。次元の歪みから放出される膨大な力を受けて、クリエイション・ダークの体がみるみる巨大化していく。
「……こいつはまた、殴り甲斐のあるこった」
「アストライオスとエウロスには、待機していた支援班が向かったようだな」
殺意まるだしでアッシュが呟き、状況を注視していた瞳李は息をついた。無傷の支援班が2班もあれば、突入班を逃がす時間は稼げるだろう。
八割増しほどになったクリエイション・ダークの体を、再び白い魔法陣が包んだ。きらめきが巨躯についた傷を塞ぎ、身を蝕むものを清めていく。
「こちらも治せる限り治しておくか」
「サイガで足りるんじゃねえかな。ティアンもぶちかましといたら?」
瞬きしたティアンは、キソラに頷いて歩み出た。
白い胸の傷から噴き零れる地獄火の色は濁って黝い。孕む怒りが大きいほどに、笑みはどこまでも透明で。
『――ふふ。ころして、くれないの?』
昏い想いは魔力を導き、魔竜ですら縛めた。彼女に代わって紙兵を撒くサイガの横を、キソラがぶっぱなした竜砲弾が行き過ぎる。
着弾を見届けながら瞳李はグラビティを編み上げた。薫る風と香る花。散り果てる白い花弁は正彦の傷を塞いで消える。
「そいじゃ、一発かますかね」
アッシュの声を圧する咆哮をあげて、魔竜が魔法陣を操りながら踏み込んだ。刹那、消失したアッシュの姿は竜の鼻先に現れる。螺旋をこめた拳が触れた途端に鱗が軋む音をたてて凹み、跳び退るアッシュと入れ替わりに、光の刃を掲げたシルがクリエイション・ダークの胸に渾身の斬撃を見舞った。
竜は怖いがそれ以上に、死ぬのが怖い。負けるのが怖い。生きて帰るにはこの敵を圧倒しなければならない――せめぎあいが朱に染まった正彦の狂相に笑みを浮かべさせる。
「僕達は勝ちに来たんだ」
だから。
「やり損ねたことをやるだけだ」
「応とも!」
笑う矜棲が彼の斬撃に合わせて魔竜の身体を爆発させた。鱗を氷が蝕む音がする。
●疾駆
恐怖を飲み下した正彦が、時刻を確認して仲間に問いかける。
「作戦開始25分! 皆さんまだまだいけますかお?」
「余裕でイケんじゃね」
「油断は大敵、だケドね」
轟々と音をたててキソラの雨礫が降りしきり、サイガの魂まで食い千切るような一閃が魔竜の腹を薙いだ。
相変わらず聞き取れない竜語が流れ、浮遊する紫色の魔法陣が輝きを増す。紫雷が後衛狙いと悟った正彦が地を蹴り、ティアンに落ちかかる雷光に身を晒した。
「っぐう!」
キソラを庇ったサイガも唸る。クリエイション・ダークの攻撃力は上がっていた。それでも一撃は耐えられないほどではない。加護を破られたほうが問題だ。
まとうしろがねにもう一度オウガ粒子を放出させながら、ティアンは唇を結ぶ。
庇護されるのは嫌い、だが。今は庇われるのではなく、支え合っている。
皆を生かして帰すためには己の何を捨ててでも、何もなくさないと――仇の竜を倒したあの時決めた。
「やってくれたな!」
紫雷を浴びた矜棲が星辰の力を宿した長剣で一太刀浴びせる。氷に蝕まれる怒りの叫びが終わるより早く、瞳李が風迷いを渾身の力で叩きこんだ。
前衛たちのためにアッシュが再び玄蛇を疾らせて防護陣を敷く。再び身を鎧う加護を感じながら、シルは素早い蹴撃を繰り出した。
「はああっ!」
重い手ごたえと共にあがる咆哮。彼女を追う魔竜を押し戻すように、正彦が理力を込めたオーラを胸板に叩きこむ。
クリエイション・ダークは少しも油断していない。詠唱と同時に青く輝く魔法陣が展開すると、頭上から蒼い炎が驟雨のように降りかかる。
シルに覆いかぶさるようにして庇ったサイガが炎に巻かれた。すぐさまティアンの放った紙兵が消し止め傷を癒す。瞳李も芳しい花を招き、穢れを拭う白い花びらは彼の傷を可能な限り癒して消えていった。
退く魔竜へキソラが竜砲弾を撃ちこみ、爆風に踏み込んだサイガは捩れた鉄の杭で魔竜の胸に重い打撃を食らわせた。連撃で巨大な鱗が幾つも弾けとぶ。
よろめいたドラゴンへ、アッシュの玄蛇が炎をまとって疾った。名の通り黒い鎖は蛇の如く魔竜を絞めあげて軋ませ、体表に炎を這わせる。
「シルさん、重い一発お願いします!」
「任せて下さいっ!」
正彦の月のように輝くエネルギー球での治療で破壊力を増した拳が、鱗に覆われた腹に捩じこまれた。鱗の軋む音を聞くまでもなく、魔竜が苛立たしげに距離をとる。
「26分過ぎるな――名残惜しいがここまでだ!」
叫ぶ矜棲の精神集中が敵を中心に爆発を引き起こした。
それを合図に一行は踵を返す。固定班の中には傷ついた身体を引きずって既に離脱したものもいるようだ。サイガが怪力にものを言わせ、意識のないケルベロスを数人まとめて担ぎあげた。キソラとシルが先行し矜棲と正彦が左右をカバー、ティアンが伴走として駆けだす。
アッシュに促され走り始めた殿の瞳李は、魔竜へ言葉を投げた。
「次に見えた時はケリをつける。覚悟しておくのだな」
あとは全力疾走。クリエイション・ダークの怒りの咆哮と追いすがる紫雷を振り切り、仲間を回収した一行は戦場を後にした。
出来うる最善の戦術で臨んだ一行は目的を果たした。全班連携した堅実な作戦も奏功し、最悪の危機を回避したのは大きな成果といえる。
あとは熊本城址にとどまるドラゴンたちとの戦いが、待ち受けているだろう。
作者:六堂ぱるな |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年7月20日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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