バッドマンズ・ランド・ランブル

作者:天草千々

●かすみがうら市某所工場跡の空き地
「よく逃げずに来たな、イモリ」
 背に羽根の様に伸びた枝葉を持ち、本来左目があるべきところに赤い椿を咲かせた青年が言った。
「ぬかせコガ、二人もやられて黙ってられっかよ」
 イモリと呼ばれた青年は口の端を憎々しげにゆがめて返す。
 裸の上半身には無数の蔦が茂り、肩や胸などから塊根のような突起が突き出している。
「サチにちょっかいかけたゲスに道理を分からせてやっただけさ」
「んだとォ?」
 売り言葉に買い言葉の応酬に、周囲が殺気立つ。
 仲間が一歩前に出かけたところをコガが制した
「――条件は覚えてるな? 俺とテメエ、サシの勝負だ」
 他の奴らには手を出すなよ、と続いた言葉に、イモリはニタリと笑みの質を変えた。
「わぁってるさ、負けたほうは相手の傘下に入る。つまり勝負がすんだらみぃんな大事なオレらの仲間ってことだろ?」
 下卑た笑いがイモリのグループからあがる。
 彼らの視線はコガのグループにいる、ごく少数の女子へ向けられていた。
「――畑」
「あぁ?」
「お前んとこのナワバリに畑ってあったか?」
「――なに言ってんだ手前」
「サツマイモってのは、蔓を植えりゃあまた生えてくるんだろ? テメエだけほったらかしじゃ可哀想じゃねえか」
 すっとイモリの顔から表情が消える。
 互いにそれ以上の言葉はなかった。
 地面が沸き立つように揺れる。
 強い怒りは即座に行動になる、その一点においてのみ二人の青年はよく似ていた。
 
「かすみがうらの攻性植物について、皆は聞いたことがあるだろうか」
 島原・しらせと名乗ったヘリオライダーの少女は、ケルベロスたちの反応を確認し、説明に戻った。
 茨城県かすみがうら市、そこで複数の青少年のグループが抗争を繰り広げていること。
 その中にデウスエクスである攻性植物を受け入れ、異形の姿となる者が現れ始めたこと。
「そして彼らは今その変化を、その存在を受け入れつつある――抗争の形もかわる」
 結果として起きるのが、攻性植物をグループの代表とする決闘だ。
 敗北した陣営は、相手の傘下に入る。それ事態はさしたる問題ではない。
 恐らく彼ら自身は命を賭けているつもりだろうが、と前置きしてしらせは続ける。
「問題なのは、デウスエクスがデウスエクスの手によって本当の意味で倒されることはない、ということだ」
 戦いに敗れ、コギトエルゴスムと化した攻性植物は、地球の豊富なグラビティ・チェインにより、そう時間を置かずに復活するだろう。
 つまり決闘のあとには、攻性植物2体を擁するグループが生まれる事になる。
 そして、そのような決闘が繰り返されれば、かすみがうらに『攻性植物の一大組織』が出来上がる事になりかねない。
「どれほどの事態か、分かってもらえたと思う。それを防ぐ為に1体だけでもいい、皆の手で攻性植物を倒してもらいたいんだ」
 問題は、攻性植物たちが手を組んだ場合、勝利は非常に困難になるということだ。
 2体を同時に相手にする事態は、絶対に避けねばならない。
 そのためには何らかの手段を講じる必要がある。
「鍵になるのはとうの攻性植物たちだな」
 コガは短気でうぬぼれ屋だが、前世紀の不良のように仁義や美学に拘る面もある。
 一方のイモリと呼ばれる青年は小心から来る打算的な性格で、手段に拘らない。
 元々リーダーだったコガとは違い、攻性植物化する前はいち構成員に過ぎなかったこともあり、今の立場を失うことを非常に恐れている。
 またイモリの所属するグループは、喧嘩や器物損壊に加え、強盗や婦女暴行といった重犯罪にも手を染め出しており、それが今回の決闘の原因にもなっている。
 決闘前に介入する場合、コガは横槍を嫌う為、イモリだけを相手するにはコガが勝負をゆずるに足る理由が必要だろう。
 容易ではない説得だが、成功した場合コガは決着まで絶対に手出しすることはない。
 逆にコガだけを目標にするなら、適当な理由でもイモリは傍観に回るだろう。
 ただし戦いが長引けば『やはりコガと戦うのは自分』といった口実で、介入してくる可能性がある。
 決闘の最中に仕掛けた場合も、コガは邪魔者の排除に動くし、イモリはケルベロスたちがコガだけを狙うと分かれば手出しを控えるだろう。
 あるいは、適当な理由をつけて逃亡を図るかもしれない。
「それともう一つ、本来は両者が消耗しきったころに介入し、まとめて片付けてしまうのが一番良いと思うんだが……」
 しらせの表情が全てを語っている、それは今回の予知の範囲外となる、ということだ。
「猶予は最大でも決闘が始まってから約3分、それ以上待てばなにが起こるか分からない」
 ほとんど、ないも同然の時間だ。
 気を引き締めなおすケルベロスたちを真っ直ぐ見つめてしらせは口を開く。
「二兎を追うものは、の言葉もある。この上難しいことを言うようだが、どうか無理はしないで欲しい」


参加者
八代・社(ヴァンガード・e00037)
レイ・フロム(白の魔法使い・e00680)
サンドロ・ユルトラ(サリディ・e00794)
円谷・円(デッドリバイバル・e07301)
狩魔・夜魅(シャドウエルフの螺旋忍者・e07934)
山彦・ほしこ(山彦のメモリーズの黄色い方・e13592)
ダルク・ディザスタ(シャドウエルフのウィッチドクター・e16148)
七咲・彩香(ななついろのこころ・e18919)

■リプレイ

 地面が沸き立つように揺れる。
 コガとイモリ、両者の間で蔦と木の根が取っ組み合いをするように地を割って現れた。
「ブッ散れ!」
「おらァ!」
 続いてコガの背の枝葉が、イモリの半身を覆う蔦が鞭のようにしなり互いの体を打つ。
 二人は拳を握り、前へと駆けた。激突の予感に観衆達が沸く。
 そこへ、空から突如として一団が割り込んできた。
「――その決闘、待った!」
「ンだテメェら! どっからきやがった!」
「クソッ、ハメやがったなコガ!」
 飛びのき、叫んだ内容こそ違えど、両者が次に選んだのは共に攻撃だった。
 ――ケルベロスたちが決闘が始まるのを待ったのは、少しでも両者の消耗を狙おうという算段だったが、方針を考えればこれは欲張りが過ぎた。
 戦いに乗じるならまだしも、話を通すのならば決闘前にすべきだっただろう。
 今の状況は、争う獣の間に割って入ったようなものだ。
「待て、話を……!」
「喧嘩の邪魔ァすんじゃねえ!」
 制止の声などお構いなしに、一撃が来る。
 乱入者を排除しようという動きは、コガがより苛烈であった。
 一応は一般人でも死なない程度に手加減しているようだが、攻撃することには少しのためらいもない。
 無論、応じてしまえば話し合いの余地などなくなるだろう。
「……!」
 サンドロ・ユルトラ(サリディ・e00794)は歯噛みをしながら耐える事に徹し、サーヴァントたちには主人の制止の声が飛ぶ。
「やり返しちゃだめだよ、蓬莱」
「シルキー、まだ我慢なの!」
 その忍耐は程なく報われたが、わずかな静観がもたらしたものは攻性植物たちよりも大きな消耗と言う皮肉な結果だった。
「……やりあおうってワケじゃねぇみてぇだが、用件次第じゃ叩きだすぜ」
 攻撃の手を止めコガが言う、サンドロは大きく息を吐いた。
 言いたいことがないではなかったが、口が回るほうではない。これ以上話をこじらせるのは避けたかった。
「おいコガ、ヤラセじゃねぇだろうな? ここは手前が指定したんだぞ」
 そこへ先に様子見に回っていたイモリが噛み付いた。
 ――聞いていた以上の小物ね。
 サンドロたちの傷を癒しながら、ダルク・ディザスタ(シャドウエルフのウィッチドクター・e16148)は思った。
 コガにも黙殺されているが、こんな手の込んだことをする必要がどこにあるというのか。
「で、テメェらはなんなんだ?」
「歌って踊って祈っちゃう、ノマドご当地アイドル山彦のメモリーズです☆ ……なーんて、おらのこと知らねえだか?」
 ポーズまで決めた山彦・ほしこ(山彦のメモリーズの黄色い方・e13592)に返ってきたのは無言の肯定だった。
 そうだか、と呟きつつ落胆の様子はない。
 ようは話を聞こうという『間』ができればそれでよかったのだ。
「邪魔をしたのは詫びる。だが理由があってな、そこのクズの相手を譲ってくれねえか」
 イモリを示しながら、八代・社(ヴァンガード・e00037)が言う。
「友人の女性が乱暴されてね、その仇討ちだ。他の皆も似たようなものだな」
 レイ・フロム(白の魔法使い・e00680)の声は静かだったが、同時に深い怒りを感じさせるものだった。
「ソイツだって根拠は?」
「イモリって名前と、一人は体に蔦を生やした男だったって……つらいことを話してくれただ。だからお願いだ、どうかこの喧嘩譲ってくんねぇか?」
「みんな、いっぱいいっぱい泣いてたの! 絶対に許せないの!」
 ほしこに続き、七咲・彩香(ななついろのこころ・e18919)が幼い顔を赤くして訴える。
 コガはわずかに考え込むように目を閉じた後、イモリに視線を向けた。
「イモリ、テメェに覚えは」
「おいおい、マジで言ってンじゃねえだろうな? 手前だってぶん殴った奴のことなんざ一々覚えてねえだろうが」
 たいしたことではない、と言わんばかりの言葉にケルベロスたちの怒りが膨れ上がる。
 確かに嘘は混じってはいた、けれど被害者の存在は紛れもない真実なのだ。
「そりゃそうだ、キリがねえ……だがな、だからこそ俺ァ仕返しだ、って奴は全員相手になるぜ。しらばっくれたりしねえでよ」
「……ケ、格好つけやがって」
 コガの返しは、痛烈だった。身に覚えのあることならば、尚更だろう。
「あー、俺なら五分で焼き芋にしてやるけどよ?」
「いいや、女としてこいつだけは許せねぇ。オレの手で始末をつけたい」
「卑怯者にはおしおきするから……譲ってほしいの。おねがいします」
 意外なほど好意的な申し出だったが、狩魔・夜魅(シャドウエルフの螺旋忍者・e07934)も、円谷・円(デッドリバイバル・e07301)も首を横に振った。
 彼に任せては来た意味が無いというのも、勿論ある。
 それよりも、偽らざる本心が自分たちの手による決着を望んだ。
 その意思が赤い椿を頷かせた。
「わぁった、アンタらに譲るぜ。ま、ソイツがビビって逃げるかもしれねえが」
「上手いこと逃げやがったなコガ、覚えておけよ」
 煽るような言葉に、負け惜しみで返したイモリの顔に、ほっとしたような雰囲気があるのは、コガとの対決を避けられたからだろうか。
 与しやすい相手と見られるのは業腹だが、侮っているならば逃げることもないだろう。
「言っとくが俺は手出しはしねえ、手助けも、だ。人数差くらいは覚悟してるよな?」
「あぁ、譲ってもらっただけで充分だ」
「感謝するよ」
 社とレイに軽く手を振り、コガは仲間の元へと歩いていく。
 ケルベロスたち8人と3体に対してイモリたちは十数人。
 しかしグループの一般人が数のうちに入らないことは知らされている。
 もっとも、あるいは彼らが脅威であったとしても、ケルベロスたちは戦いをためらわなかっただろうが。

「……さって、決闘に水差してくれた落とし前、つけてもらおうか」
 いけしゃあしゃあとイモリは言う。
 仲間の手前、コガにああも言われて戦いを避けるわけにはいかなかったのだろうが、夜魅や円に向ける無遠慮な視線は違う目的も感じさせた。
「つくづく救えない奴だ、どこぞの豚にそっくりだぜ」
「私、頭が悪くて下品な人はちょっと」
 嫌悪感むき出しの夜魅に対して円の言葉は淡々としていたが、容赦のなさは似たようなものだった。
「そうか? 俺はつれない女が好みだけどな」
 しかし、二人の反応はむしろイモリを喜ばせたようだ。
 自分を強者と信じて疑わないものに特有のおごりが、そこに見て取れる。
「さっさとかかって来い、クズ野郎。俺ァお前みたいなガキが一番嫌いなんだ」
 何事か言い返そうとした夜魅を制して、社が言った。これ以上は聞くに堪えない、というのが正直な所だった。
「あぁ、そうかい」
 バレットタイムで高まった集中力が、イモリの足元の不自然な動きをとらえる。
「来るぞ」
 警告に遅れず、侵食された地面から緑の蔓が襲い掛かってきた。
 同時に夜魅の殺界が周囲に広がる。
 ひ、と引きつった声をあげ、口元をニヤつかせていたグループの一般人はあっけなく戦いを放棄し、我先にと逃げ出した。
「使えねえ……!」
 横目でそれを確認しイモリが忌々しげに舌を鳴らす。
 あまり驚く様子ではないのは、はなから期待していなかったか、あるいは自分と彼らの力の差を正しく認識しているからか。
「♪ふりまけ飛沫 ねばれよ大蛇! 十ある瀑布も結氷よ☆ 夜空に散ったマイナスイオン!」
 ほしこの歌う滝壺の追憶が、イモリの体を覆う無数の蔦に霜を降ろす、そこへ雷光を帯びて黄色く輝く三日月が突き立った。
「近づかせない、から……」
 月鱗の欠片を投じた円の脇では、ウイングキャットの蓬莱が翼を羽ばたかせ、清浄な風を吹かせている。更にダルクと彩香の攻性植物が果実の形をとり、光を放つ。
「まずは1回目ねー」
「シルキー、やっちゃってなの!」
 主の声に応じ、オルトロスのシルキーが駆けた、顔を狙った蹴りをかいくぐり、口にくわえた神器の剣で軸足を切り裂く。
「突き立てろ、獣の牙!」
 レイの奏でる紅瞳覚醒をBGMに、螺旋の力を込めた左の掌に右の拳を打ち合わせて夜魅が吼える。
 まずはグラビティで強化を図るケルベロスたちにイモリは嘲るように声をあげた。
「ッチ、かったりい真似してンなよ! 威勢のいいこと言ってなかったか!?」
 その挑発にこれまで我慢に我慢を重ね、沈黙を守っていた竜の男が応えた。
「口のきき方に気ィつけろよ、小僧」
 被害者のことを思えばイモリを叩きのめす事に、異論のあろう筈もない。
 勝利の為には全力を尽くそう、だがそれはあくまで制裁、私刑の代行のようなもので、誉れのある戦いではなかった。
 サンドロの流儀で言えば、イモリの相手は『スッキリしねェ』のだ。
 そのゴチャゴチャした感情ごと吹き飛ばそうと、ルーンアックスが唸りをあげる。
 横薙ぎの一撃を、地面から顔を出した無数の蔦が絡めとろうとする、それをお構いなしに振りぬいた。
「俺は今ヒジョーーーに機嫌が悪ィんだ!!」
「馬鹿力が……!」
 樹齢数百年の大樹であろうと切り倒しそうな一撃を受け、イモリの体が浮き上がる。
 それを合図に、戦場に動きが生まれる。
「ご期待通り、再教育してやるぜ!」
 社が両の手に構えた惨殺ナイフが閃く、イモリは蔦を絡めた両の手で受け、流し、時に体の塊根で弾く。
 そこへ彼のものとは違う攻性植物が噛みついた。
「あなたには、負けない」
 主に続いた蓬莱の爪は蔦の防御に阻まれた、しかしそれをおとりに夜魅の縛霊手が刃の鋭さでイモリを裂く。
「はっ、そんな姿になり果ててこの程度かよ!」
「うるっせえンだよ、どいつもこいつも!!」
 ほしこが不屈の魂を歌い上げるのを黙らせようと、攻性植物の蔓が伸びる。
 そこへ、小さな影が地を蹴って割り込んだ。
 体を蔓に締め上げられながら、シルキーは鳴き声ひとつあげることなく身をくねらせ、器用に神器の剣でそれを裂いた。
「どなったって全然こわくなんてないの!」
 相棒の奮闘に報いようと、レイのブレイブマインの爆煙を背に、彩香が時空凍結弾を放つ。しかし黄金の林檎から飛び出した弾丸はうごめく蔦に絡めとられた。
「2回目っと、いやラストかな?」
 前衛陣に黄金の果実の光を放ち、ダルクは指折り数えながら呟く。
 シルキーの傷を癒すサーヴァントのデンギーとあわせて、主従はどこまでも淡々と自分の役割に徹していた。

 前衛の数を厚く、強化と回復を強く意識したケルベロス達の作戦は、決闘前のアクシデントを受けてもその狙いを充分に果たした。
 一部が望んでいたような、一気呵成に決着をつけるほどの勢いはなかったが、掴んだ流れを手放すようなことも決してない。
「クソッ、ふざけやがって、ウゼェんだよ手前ら!!」
 侵食された大地から伸びた蔓が前衛陣を絡めとる。
「回復は任せて、攻撃に集中してくれ」
「痛い人は教えてねー」
 だがその傷もすぐにレイの演奏が、ダルクのメディカルレインが癒していく。
 癒しきれないダメージは蓄積していく、だがケルベロスたちとイモリどちらが先にその限界を迎えるかは、火を見るよりも明らかだった。
 それを自覚してか、イモリの表情には焦りの色が濃くなっていく。
(「クソッタレ、コガならまだしもこんな奴らに!」)
 気にいらねえ野郎も気に入った女も、好きにできる力を手にしたはずだった。
 金が欲しければ奪えばいい、グループの誰の顔色だってうかがわなくていい。
 そう、自分は強くなったはずなのに――!
 頭の中で、何かが割れる音が聞こえた、同時に激痛が身を襲う。
 戦いの瞬間、少女の青い瞳がじっとこちらを見据えている。
「……ガンつけてんじゃねえぞコラァ!」
 奥深くまでものぞきこむような視線に、言い表しようのない怒りを覚えてイモリは叫ぶ。
 彩香はそれに頬を両手でつまみ、歯をむいて応えた。
「どうした、顔色が悪いぜイモ野郎!」
「そろそろ観念したらどうだ?」
「ウザってぇ……!」
 夜魅の螺旋掌を受け流し、大口を開けたほしこのブラックスライムの顎を、絡み合い槍のようになった蔦が逆に食い破る。
「――誰も自分のしたことからは逃れられない、これは、あなたが招いた終わり」
 だが円のストラグルヴァインからは、逃れられなかった。
 ギシリ、ときしむ音を立てて絡めとられたイモリへ、社が一気に間合いをつめる。
「ヤンチャのやり方を間違えたんだよ、てめえはな!」
 惨殺ナイフの斬撃を警戒し、交差させた両腕を下から靴の先で蹴り上げる。
 僅かに広がった隙間にナイフを突きたて、両開きの戸の様に左右へとこじ開けた。
「歪め。おれの魔弾をくれてやる」
 両腕を西部劇のガンマンのように腰だめに構え、社が宣言する。
 武器を手放した手のひらに、いつの間にか弾丸があった。
 撃鉄は、彼の指だった。
「ぐああああああ!!!」
 放たれた無数の魔弾は蔦を貫き、塊根を打ち砕く。
 イモリがついに悲鳴をあげた。
 主の生命の危険を察知したかのように無軌道に暴れだす攻性植物の蔦をかわし、イモリの腕から惨殺ナイフを引き抜いて社が離れた。
「畜生ッ、誰か手を貸せ! どこ行きやがった! コガァ! きたねえぞ手前! お前のせいでッ!」
 攻性植物をでたらめに伸ばして、イモリが叫ぶ。
 暴れまわる緑の蔦を、巨大な斧が草刈でもするように軽々となぎ払った。
「――今更泣き言抜かすなら、借り物の力ではしゃぐんじゃねェ!!」
 暴風のような横回転のあと、位置を高くし更にもう一回転、足が地を強く噛んだ。
 ルーンアックスを大きく振りかぶり、サンドロの巨体がねじれる。
 一瞬の制止のあと、蓄えられた力は爆発的な振り下ろしの一撃となって攻性植物と化した青年を両断した。

「敵討ちが出来たってのに、随分シケたツラだな」
 枯れ木のように砕けたイモリの体を静かに見下ろしながらコガが言った。
 他は殺界から逃れたままなのか、空き地には今ケルベロスたちと彼が残るだけだった。
「そう見えるか?」
「ああ。よくよく考えりゃ、イモリだけってのも妙な話だ、普通はグループまとめてだろ」
 社の問いにコガは自嘲する様な笑みを浮かべた。
 騙された事を憤るようではないのは、恥の上塗りになると言うことか。
「――で、どうすんだ?」
 簡潔な問いを、ケルベロスたちは取り違えなかった。
 消耗はしているが、まだ戦うことはできるだろう。
 けれど、勝利することは?
 円は首を横に振り、彩香がそれに同意する。
 サンドロにとっては不完全燃焼の形になるが、彼も強硬に主張はしなかった。
 皆の意思を確かめて、夜魅が口を開いた。
「帰るさ、目的は果たしたからな。お前も騒ぎは起こすなよ」
「ハ、まるで俺が見逃してもらうみてぇに言いやがる」
 肩をすくめて、赤い椿の青年は冷笑を浮かべた。
「なら俺からも言っておく、次にかすみがうらで見たときは――容赦しねえぜ」
 言葉の内容とは裏腹に、声には再会を願うような響きがあった。

作者:天草千々 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年11月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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