魔竜顕現～禍いの秘宝は竜の巣にありて

■リプレイ

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　ドラゴンオーブを奪取するために時空の歪みへと突入したケルベロスらを見送って２０分が過ぎようとしていた。
（「無事でいておくれよ……」）
　ソロ・ドレンテ（胡蝶の夢・e01399）は時空の歪みを見上げ、友人達の安否を気遣う。
　危険なのは突入した彼らだけではない。その活路を死守するために、19体の魔竜たちと戦うケルベロスたちがいる。
　強大なドラゴンを相手に持ちこたえるのは容易ではない。救援を求める信号弾が既に幾つもあがり、その度に、支援に向かう仲間たちを見送った。
　天まで焦がす炎、大気を揺さぶる爆音。剣戟の音、咆哮、伝わる全てが、戦いの激しさを教えている。
「チーム・アマゾネスの出番はまだでしょうか」
　セレナ・アデュラリア（白銀の戦乙女・e01887）は、逸る心を抑えかねていた。剣の柄に手をかけては放すをもう何度も繰り返している。
　数多な魔竜の自爆を許し、ドラゴン・オーブが出現した現状を、己のふがいなさ故とするセレナは、騎士として汚名を晴らすその時を待っているのだ。
　ちなみに、期せずして女性ばかりのチームとなったため、『チーム・アマゾネス』を名乗っている。

　とは言え、出番が来ると言う事は、ドラゴンと相対する者たちが、危険な状態にあると言う事でもある。
　幸・鳳琴（黄龍拳・e00039）は、目を落とし、手元のタイマーを確認した。歪みが消失するまで後10分程度。
（「合図が来ないなら、それに越したことはないのですが……」）
　しかしその思いも空しく、タイマーが２１分経過を表示した瞬間、天高く信号弾が打ち上げられた。
「あれは……魔竜ハート・バイターと戦ってる班だね」
　リュイェン・パラダイスロスト（嘘つき天使とホントの言葉・e27663）は望遠鏡をのぞき、把握した状況をざっと伝える。
　今のところ、立っているのは３人……2人に減った。もう時間の問題だ。
「行こう！」
　フィー・フリューア（赤い救急箱・e05301）を先頭に、ケルベロスたちは救援を求める戦場へと駈け出した。

　戦場へとたどり着いた時、魔竜ハート・バイターに対峙するケルベロスは、清水・湖満（氷雨・e25983）ただ一人となっていた。
　紫闇のブレスを容赦なく浴びせられてよろめく少女へ、ドラゴンは、止めの一撃を加えようと尾を振り上げる。
「させません！　『空想と妄想の力、お借りします』！！」
　エニーケ・スコルーク（黒馬の騎婦人・e00486）は胸の前で手を組むと、ニコニ光線を放った。
　思想のエネルギーは過たずドラゴンを撃ち抜き、不意の衝撃にハート・バイターはたたらを踏んでその動きを止める。
　ガートルード・コロネーション（コロネじゃないもん・e45615）が追い撃ちに放ったサイコフォースは、ドラゴンに届く手前で弾けてしまう。
　気を引くにはそれで十分だった。ハート・バイターは、新たな邪魔者に首を向け、怒りの咆哮を上げる。
　湖満が救援者達へ振り返る。
　色を失くした唇を震わせて、何かを言おうとして果たせない。頽れる細い体を、フィーは精いっぱいに手を伸ばし抱き留める。
「……よく頑張ったね。後は任せなよ」
　フィーの声は届いただろうか。安堵の表情を浮かべたまま、少女は意識を手放していた。

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　カラン、コロン。
　ソロが高下駄を打ち鳴らせば、戦場に似つかわしくない軽やかな音色が響く。
　ひらりと喰霊刀『虎王』を振るい、宿る御魂を仲間たちへと移し、力を与える。
　鳳琴は守護の魔法陣を描き、フィーが雷の壁を構築した。
　銀光を靡かせてセレナが駆ける。
「我が名はセレナ・アデュラリア！　騎士の名にかけて、此処から先は通しません！」
　わざとドラゴンの懐深くに入り込むのは、先に戦い、倒れた仲間たちから出来る限り遠ざけるためだ。
　ケルベロスチェインを投げれば、蛇のようにドラゴンを絡め取り、締め上げる。
「シュリー、お願い」
　アリス・ティアラハート（ケルベロスの国のアリス・e00426）は両手を広げ、くるりとターン。
　シュリーとはアリスの纏うオウガメタルの事だ。お願いに応えて放出されたオウガ粒子が、きらきらと降り注ぐ。
「古来より女性のみの戦闘集団は様々な場所にいましたとか」
　愛くるしい笑みに芝居がかった口調、おどけている様で、リュイェンは真剣そのものだ。
「ここもそうだ。花が舞い、しかし散らぬ我々に幻惑されるといい」
　ゾディアックソードに宿した星座のオーラを飛ばせば、ハートバイターに冷たい星が纏わりつく。
（「この力が仲間の支えとなるなら……存分に振るおう。異形の力を！　誰ひとり……倒れさせない！」）
　ガートルードの祈りが混沌の水を呼び寄せる。癒しの力を高める水は、霧と化してリュイェンを包みこんだ。

　ハート・バイターは大きく首をもたげ、紫闇のブレスを吐いた。強力な毒素の塊に皮膚が焼かれ、息がつまる。
　それでも、フィーの構築した雷の壁が毒素を遮断し、その効果を薄れさせた。
「反撃、させてもらいます！」
　鳳琴はドラゴニックハンマーを砲撃形態に変形させる。露出度高めのアーマー姿と相まってアマゾネス感がすごい。
　渾身の力を込めて撃ちだす竜砲弾はハート・バイターの頭部に命中した。
　衝撃に仰のくハート・バイターへ、エニーケが獣撃拳で追撃する。
「可憐ながらも凛として咲き誇る花々の底力を見せてさしあげますわ……！」
　宣言通り、駿足と演舞の如き華麗な動作で翻弄し、空いた隙へとてつもなく重い一撃を叩き込む。
「さあ、まだまだいっくよー！」
　フィーはサークリットチェインを展開する。先に鳳琴の開いた魔法陣に重ねて癒し、守護を厚くする。
　ハート・バイターの振りあげた腕にソロのエネルギー光弾が炸裂し、爪の一つをもぎ取った。
　思わず引いた腕に、子猫が飛んできた。アリスの杖が姿を変えた子猫は、魔力を込めた爪で鉤裂きに傷口を広げる。
「『今を歌おう。本当を歌おう』」
　ガートルードの祈りとリュイエンの歌声が共鳴し、傷を癒していく。
（「強敵も強敵なドラゴンの前で、ケルベロス1人となれば仔犬も同然。しかし2人なら、8人なら？」）
　厳しい状況だからこそ、明るく華やかに咲き誇る。けれど、儚く散ったりはしない花たち。

　ハート・バイターの緋色一閃、セレナを襲った。『星月夜』を構えて受け止めるセレナだったが、凄まじい勢いに押され、剣ごと地面に叩きつけられてしまう。
「く……ぅあ」
　全身が砕けるような衝撃に息がつまる。動けないセレナを、ハート・バイターは踏み潰そうとする。
　そうはさせじと、フィーは杖を掲げてライトニングボルトを放った。電撃に麻痺させられたハート・バイターは体勢を崩した。
　その隙に鳳琴はセレナへ駆け寄った。引っ張り上げたその真横をドラゴンの足が落ちていく。
　ソロが石化の呪文を唱え、動きの鈍ったところへ、エニーケのチェーンソー剣が唸りを上げた。
「私達は女の子でも……勇敢な女戦士です！ドラゴンさんにも負けません！」
　叫ぶアリスの翼に、空色の焔が点る。空色の【地獄】は光焔の翼と化した。弾丸のように放たれる光焔はドラゴンを灼いて、行動不能に陥らせる。
　リュイエンの歌と、ガートルードのマインドシールドがセレナを癒し、立ち上がらせた。

　チーム・アマゾネスよりも先に、ケルベロス班と死闘を繰り広げていたのだ。全滅させたとは言え、ハート・バイターも浅くない傷を負っている。
　それでも新たに現れたケルベロスたちは、小さくいかにもひ弱で、簡単にねじ伏せられるだろうと思ってしまった。
　だから、想像もしなかったその力強さに、ハート・バイターは焦燥と苛立ちを覚えていた。
「力だけでまかり通れると思うなよ！　ここは宇宙で唯一法則が違う！　傲慢な翼も地に堕ちる！」
　リュイェンが叫ぶ。

　この時点で、タイマーは26分経過を告げていた。
　戦いに集中するケルベロスたちに、それを確かめる余裕はなかったけれど。

●
「…………？」
　最初に異変に気付いたのはガートルードだった。
　時空の歪みから、何かとてつもないものが溢れてくるような、嫌な感じがある。
「皆、気を付けて！　何かが……」
　そこまで言ったとき、時空の歪みから本当に姿を現したものがあった。
　それは、突入したケルベロスたちだった。ドラゴンオーブが見当たらないのは、恐らく破壊したのだろう。とにかく、彼らは無事、帰還したのだ。
　チーム・アマゾネスたちに安堵と歓喜が広がる。が、それは次の瞬間、驚愕にとってかわった。
「成功したのね……って、え、ええ？」
　突入したケルベロスたちの後を追って、アストライオスとエウロスの2竜が現れたのだ。それ自体は不思議ではない。驚いたのは別の事だ。
「ど、ドラゴンさん達、すごく……お、おおきいですぅ！？」
　アリスは目を丸くして茫然と見上げていた。
　そう、２体のドラゴンは巨大化していたのだ。時空の歪みから放たれるエネルギーを浴びて、体長はおよそ２倍、全体では８倍にもなるだろうか。最早、膨れていると言っても過言ではなかった。
　グゥロォウウウウウウウウオオオオオオオ！！
　不意にハート・バイターが咆哮する。２体に気を取られていたケルベロス達が振り返れば、ハート・バイターもまた、巨大化し始めていた。

　一回り大きくなった尾を振り回してのウィップテイルは、今までとは比べ物にならない威力だった。
　嵐のような勢いで、展開したヒールドローンを破壊し、雷壁を砕いて、エニーケ達を薙ぎ払う。
（「……これは無理かな。色んな意味で」）
　フィーはちらりと後方を見遣る。先に戦い、倒れている彼らを巻き込むわけにはいかない。
　最初から役割は魔竜の足止め。撃破できるとは思っていない。突入班が無事戻ったことにより、彼我２班の役割は十二分に果たせたのだ。
　誰もが、潮時だと悟った。
　フィーは、ロッドを構える。脈打つ深紅がさらに濃く、強く輝いた。
「枝葉を伸ばし絡め取れ！」
　攻性植物に似た、茨めいた棘蔦がロッドから伸びてハート・バイターに絡みつく。もがくほど、細長い棘がじわり食い込み、動きを阻害する。
　ソロのペトリフィケイションは時間がたつほどに石化を広げ、動きを鈍らせる。
　エニーケの空想と妄想のエネルギー光線はセレナの重い斬撃と同時にハート・バイターを打ちのめした。
「最初に言いましたわね、底時からをお見せする、と」
　悶絶する魔竜へ、薄く微笑むエニーケ。
「ここは宇宙で唯一法則が違う！　……いや、そういう意味じゃなくて！」
　巨大化とか反則だよね、思いつつ、リュイェンはヒールドローンを飛ばした。一方で、ガートルードに行けと促す。
　頷き、ガートルードは戦列を離れ、戦闘不能者に駆け寄り助け起こした。
「もうちょっとだけ、我慢してくださいね」
　痛みに呻くのを励まし背負いあげて、ガートルードは可能な限り急ぎ、その場を離れた。

　アリスは指輪を掲げ、具現化した光の盾で、ドラゴンと戦う者たちを防護する。
「夢幻・万華鏡！」
　ソロの生成した蒼白の蝶が、ハート・バイターを夢幻に誘う。
「アデュラリア流剣術、奥義――銀閃月！」
　セレナは魔力をめぐらせ、限界まで向上させ身体能力を持って、必殺の一撃を放った。それは、確かに急所を抉ったはずであった。
　しかし、巨大化したドラゴンにとって、そのダメージは致命傷には程遠いものだった。
　ハート・バイターが大きく息を吸う。噴き出す炎のブレスは、それまでと比べ物にならない激しさで、アリスの付与した光の盾ごと燃え尽きそうになる。
「さあ、此処まで耐えて見せたよ？　他の技はもう無いのかい？」
　赤頭巾も焼け焦げる有様で、自分でもおかしくなるような強がりだ。それでもフィーは、自分たちに注目させるため、挑発を続ける。
「折れることなき、心をもって―！」
　鳳琴の輝くグラビティが龍の形を取り舞い上がる。
　その輝きは傷を癒し、その形状が図らずも魔竜の気を引いた。
「うん、しょ……っと！」
　戦闘不能者を助け起こすアリス。よたつくアリスにリュイエンとソロが手を貸し、鳳琴とエニーケの背に庇われて、離脱する。

　後方の者たちがあらかた退避したことを確認すると、残ったケルベロスたちはいっせいに大技を叩き込む。
　縛鎖が締め上げ、棘蔦が絡み付き、思想のエネルギーで撃ち抜き、竜砲弾が砕く。
　突然の一斉攻撃に、不意を撃たれたハート・バイターは防御しきれない。衝撃と光に目がくらみ、ケルベロスたちの姿を見失った。
　ようやくその戒めを振りほどき、体勢を立て直した時には、ケルベロスたちは遥か彼方へと離脱していた。
　『さて、今日はここまで。お代は次回に。君らの命さ』
　リュイエンの芝居がかったセリフが残響する。姿は見えないが、仰々しく一礼しているのだろう。
　グゥオオ…………グォオオオオオオオオオオオオンン！！！！！
　魔竜は怒り狂い、巨大な尾を激しく地に打ち付ける。虚空に向けて吼え猛るたび、噴き上がる炎が天を焦がした。

　ドラゴン達の凄まじき咆哮を背に受けながら、ケルベロスたちは、風雲急を告げる熊本を後にしたのだった。

作者：黄秦	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年7月20日 難度：難しい 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 7／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 3
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