人喰う花は夜に咲く

作者:坂本ピエロギ

 サラリーマンの佐久間・翔は混乱していた。
 女に縁のない学生生活を送りながらも勉学に励み、有名な大企業に入社してはや三か月。彼の同期達は皆あっという間に仕事を覚え、社内の女子とも仲良くなり、何事もミスなくこなすようになっている。
 自分は彼らに全く追いつけない、あらゆる面で挽回不能な差が開いてしまった――という愚痴をひとしきりこぼした後、千鳥足で繁華街の店を出たのが10分ほど前。
「ねえお兄さん。私と一緒になりませんか?」
 そう言って突如目の前に現れた白いドレスの美少女に手を取られ、なかば強引に路地裏へと引きずり込まれたのが1分前。
「ねえ、本当に……? 本当に私と一緒になってくれますか?」
 繁華街の暗い路地裏で、小さな顔で自分を見上げる少女。
 酒でぼやけた頭で、言われるがままに頷いたのが、ついさっき。
「嬉しい! さあ、私と一緒になりましょう!」
 そして今。
 佐久間は少女に唇を塞がれ、ヒルのようにうねる少女の舌で、優しく口をこじ開けられ、ぬめる唾液を注ぎ込まれている。
「んむ……むぐっ!?」
「ふふっ。これでお兄さんも……私と……一緒ですね……」
 微かな異物感を喉に感じた直後、佐久間の意識は途切れた。彼が迎えた最期、その脳裏にいつまでも少女の笑う声が反響していた。

「――以上が、私の予知した情報だ」
 夕刻。ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)が、集まったケルベロス達に状況の説明を始めた。
 今回発生するのは、昨年の爆殖核爆砕戦以降、大阪市内で続いている攻性植物の事件だ。
 同市内で攻性植物の活動が活発化すればいずれ一般市民は大阪から避難せざるを得ない。彼らが生息範囲を拡大すればゲートの破壊確率はじわじわと下がり、それだけ人類の勝利は遠のいてしまうだろう。
「さて、今回の事件の詳細だが」
 王子は一旦言葉を切って、話を続ける。
「敵は『白の純潔の巫女』という、若い少女の姿をした量産型の攻性植物だ。巫女は深夜の繁華街に出現し、女性経験に乏しく酩酊している男性を標的に襲うとみられる」
 標的となる男性の名前は佐久間・翔という。今年の春に大学を卒業し有名な大企業に就職が決まったものの、奥手な性格が災いしてか、人間関係や仕事で悩みを抱えてしまい、そこを巫女につけ込まれてしまったようだ。
 作戦は佐久間が巫女と接触する前に開始するが、彼を事前に避難されると巫女は別の場所に移動して、他の男性を襲撃してしまう。故にケルベロスが佐久間と接触できるのは、彼が繁華街の店を出てから、攻性植物の種を巫女に植えつけられるまでの間に限られる。
「お前達には、佐久間が巫女と接触するまでの数分間で、彼女からの誘惑を退けるよう仕向けてもらいたい。女性と縁が無いことのコンプレックスや、仕事で失った自信をフォローする方向で進めれば、恐らく上手くいくはずだ」
 フォローの方法は各自が自由に決めて構わない。ただし、もしフォローに失敗して佐久間が巫女の誘惑に負けた場合、彼は攻性植物に寄生されて彼女の配下に加わってしまう。
 巫女は華奢な少女の外見だが戦闘力はそれなりに高い。そこへ新手で佐久間が加われば、かなりの苦戦が予想される。
「罪なき市民が犠牲になるのを見過ごすわけにはいかん。迅速、確実に敵を撃破してくれ。それと――場所が場所だが、羽目を外すのは禁物だぞ。では、武運を祈る!」
 そう言って王子は、ヘリオンの発進準備にとりかかった。


参加者
八代・社(ヴァンガード・e00037)
楠・牡丹(スプリングバンク・e00060)
安曇・柊(天騎士・e00166)
眞月・戒李(ストレイダンス・e00383)
ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)

■リプレイ


 深夜、大阪のとある繁華街。
 酔った足取りで店を出た佐久間は、アルコールの混じった深い溜息をついた。
「もうこんな時間かぁ……終電も間に合わないし、タクシーでも拾って――」
 肩を落としながらそう呟いて、帰路に就こうとした、その時。
「すみません、ちょっといいですか?」
 彼の背中で、風鈴を思わせる女性の声が聞こえた。
 駆け寄ってくる足音。そっと肩を叩かれて、初めて自分が呼ばれたのだと気づく。
「はい、何か……って、ええ!?」
「よかった、追いつきました」
 振り返った先にいた女性の美しさに佐久間は言葉を失った。ドレス姿の艶めかしい黒髪の女性。すぐ後ろにいる猫耳の女性も、素晴らしい美人だ。
「ええと……どなたですか?」
「お店で見て気になってたの。よかったら、これもらってくれる?」
 猫耳の女性――眞月・戒李(ストレイダンス・e00383)は悪戯っぽい笑顔で佐久間の手を取ると、一枚の紙を手渡した。
 絹のように柔らかい戒李の手に包まれ、心臓の鼓動が跳ね上がる佐久間。微かに震える手で開いた紙には、連絡先と思しき電話番号が書いてある。
「戒李さんずるーい! 私も貴方のこと気になってたんです。これ、受け取って下さい」
 それを見た黒髪の女性、レティシア・アークライト(月燈・e22396)も負けじと佐久間に目を合わせ、連絡先を書いたメモに小さなキスマークを添えて差し出す。
「ど、どうも……」
 夢見心地でそれを受け取った佐久間は、熱烈なアピールに心惹かれたようだった。無論、レティシアのラブフェロモンに魅了されている事など知る由もない。
「愚痴が聞こえたけど、真面目に頑張ってればきっと見てる人はいるから。元気出して」
「ええ、朝でも夜でも、待っていますからね」
 そう言って戒李はウインクを、レティシアはとびきりの笑顔をプレゼントした。その場を通りかかった男達の視線を、残らず釘付けにする微笑みに、佐久間は上ずった声で頷く。
「は、はい! ありがとうございます!!」
 体を折り曲げるようにして感謝を述べる佐久間。手を振って、飛び跳ねるような足取りで歩きだそうとした、その時。
「ねー、お兄さん悩み事ー?」
「え!?」
 佐久間は、またも呼び止められた。彼と同年代くらいの女性、楠・牡丹(スプリングバンク・e00060)に。
「ど、どうして分かったんですか?」
「ううん。嬉しさ半分、悩み半分って顔してたから」
 伸びた鼻の下を見られたと思ったか、警戒心を露わにする佐久間に牡丹は笑って返す。
 実際は誰がどう見ても嬉しさ10割だったが、それは言わない約束というものだろう。
「私さ、バーテンの見習いなの。職業柄ってやつかな、悩んでそうな人を見ると……ね」
 それを聞いて、佐久間はやっと相好を崩した。
「ああ、それで……実は、仕事で色々ミスしちゃいまして」
「お仕事うまくいかないと凹むよねー。私もしょっちゅうマスターに怒られてるなー」
 まあ、そのマスターも今一緒なんだけど。その言葉を飲み込んで、牡丹は話を続ける。
「そういう時はちょっと良いお酒飲んで、バーテンダーにお悩み相談がお勧めだよ。何せ、話を聞くプロなんだから!」
 そう言って牡丹は裏表のない笑顔を浮かべて佐久間に名刺と思しき紙を手渡すと、
「じゃあね。気が向いたらいつでもよろしく」
 元気に手を振って、繁華街の雑踏へと消えていった。


 所は変わり、現場に近いビルの屋上。
「手応え、は、あった……ようです、ね」
「滑り出しは上々、といったところか」
 安堵の表情を浮かべる安曇・柊(天騎士・e00166)に、ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)が首肯した。
 彼らは八代・社(ヴァンガード・e00037)と共に潜伏先のビルで状況を監視している最中なのだ。社の視線の先では丁度、佐久間が牡丹に礼を言って別れたところだった。
「しょっちゅうマスターに怒られて……か」
 上機嫌で予想ルートを進む佐久間の姿に、マスターの社は思わず苦笑する。
(「励ましてやりてえもんだが、酔っ払いに迎え酒は出せねえしなあ」)
 幸いにして、作戦は今のところ順調だ。女性陣がうまく動いてくれる事を祈りつつ、社達3人は息を潜めてその時を待ち続ける。
 その時、柊がぽつりと言葉を漏らした。
「でも彼、可哀そうです、ね」
「可哀そう? 何がだ」
 と、ルース。
「お仕事、うまくいかなくて、落ち込んじゃって。それで今のが……」
 お芝居だったなんて知ったら。その言葉に、ルースはかぶりを振る。
「度を過ぎなければ良い結果を生む……良い治療になるのではないか」
 誰に言うともなく、サキュバスの闇医者は夜空を見上げて呟いた。
「自信とは時に後から付いてくるものだ。一朝一夕にはいかん」
「そうですね。嘘は良くないです、けど……これで彼が助かって、持ち直すのなら」
 きっと悪いことではない。そう柊は思い、佐久間を死なせまいと決意を新たにする。
「いざという時は……庇ってでも、止めなくちゃ」
 静かな決意を湛えた目で、柊は路地裏の闇を見下ろした。
 攻性植物『白の純潔の巫女』。
 大阪の地で暗躍する彼女は、今も舌なめずりして獲物を待ち構えているのだろう。
 だが、巫女は知らない。この場に集うケルベロス達の多くにとって、夜の街は庭のようなものだということを。
(「教えてやるよ、巫女。てめえが狩られる側の存在だってことをな」)
 出発時に告げられた敵の出現予想地点。社の視線は、その一点へと向いていた。
 来たるべき機を待ちながら、密かに牙を研ぐケルベロス達。
 戦いの時は、近い。


 その頃、社達の真下では。
「そこの男の人。待つのです」
 夢遊病者のような足取りで歩く佐久間を、一人の少女が呼び止めていた。
 占い師を思わせる、アラビア風の民族衣装に身を包んだ少女――機理原・真理(フォートレスガール・e08508)である。
「面白い運命が見えたです。手相を拝見させてくれませんか? お代は結構なのですよ」
「ま、まあ……タダでいいなら」
「では早速。マ・リーダイス・キダイ・スキ……」
 浮ついた顔で差し出された佐久間の手を取って、何かを口の中で呟く真理。
 取り出した皿の上にざっとネジをばら撒き、カッと目を見開いて言う。
「こ……これは! 間違いありません、女難の相なのです!」
「じょ、女難の相!?」
「その通り。このままでは貴男は、女絡みで恐ろしい目に遭うのです!」
「そ、そんな……どうすればいいんですか!?」
 真理の言葉に、佐久間は仰天した。美女三人に呼び止められ、今まで受けた事のない賞賛と労いを受けて、そのうえ連絡先まで貰うという幸運に立て続けに見舞われたせいか、彼は今や警戒心も猜疑心もすっかり吹き飛び、真理の言葉を疑いもせず信じたようだ。
「なに、簡単な事なのですよ」
 真理が耳元で、囁くように告げる。
「今から24時間、女性の誘惑に屈しないこと。これだけなのです」
「誘惑に屈しない……わ、分かりました!」
 そう言って駆け出す佐久間の後姿を、真理はそっと見送った。彼が巫女の誘惑を退ける事を心密かに祈りながら。


 程なくして佐久間の前に、白の純潔の巫女が現れた。
「お兄さん。私と一緒になりませんか?」
 月光を浴びて艶めかしい輝きを放つ巫女に、佐久間は一瞬驚いた表情を浮かべると、
「いやあ、今回はちょっと……お断りします」
 申し訳なさそうに、しかしきっぱりと誘惑を拒否した。
「美人さんに告白された運気を落としたくないんです。なので、ごめんなさい!」
 鼻歌を歌って去る佐久間を巫女は黙って見ていたが、ふいに、
「……そう。なら、貴男は生かして返さないわ」
 一変させた口調で手をかざし、その背中に狙いを定める。
 その瞬間、社の日本刀『缺月』が煌き、路地裏の闇を切り裂いた。
「――っ!?」
 頭上から襲い掛かる唐竹割りの斬撃。
 巫女はガードするも、ダメージを殺しきれず派手に血を流した。
「痛みが悪だと、誰が決めた?」
 そこへルースがコートを翻して着地、『一針の慈悲』を巫女めがけて突き刺す。
 巫女は投与された麻酔に抗い、怒りの視線を二人の襲撃者に向けた。
「ケルベロス……邪魔をしようと言うの!」
「ああ、邪魔するぜ。野郎の純情なんざ安いもんだが――」
 社は言葉を切り、缺月の切先より鋭い視線を巫女へと投げかける。
「それでもてめえにくれてやるほど軽いもんでもねえ」
「……後悔させてやるわ、あなた達」
 巫女は屈辱に歯ぎしりした。獲物を仕留め損ない、敵の待ち伏せまでも許すとは。
「凄い女難。真理の占いは当たった」
 次々と合流してくる仲間達の後ろで腰を抜かす佐久間をマルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)が担ぎ上げ、路地の外に追い出す。
「もう厄は落とせた。これからはきっと大丈夫……ふぅ」
 自分の試みが肩透かしに終わり、小さく溜息をつくマルレーネ。巫女と接触した佐久間を誘おうと飛び出すと、既に彼の危機は去った後だった。声をかけるタイミングが、ほんの少し遅かったのかもしれなかった。
(「別にいい。真理以外の、それも異性を誘惑するのは気が進まなかったから」)
 人を払い、戦闘準備を終えたケルベロス。
 対する巫女は本性を露わに、毒蛇の如き蔓を武器に襲い掛かってきた。
 戦いの始まりだ。


 真っ先に仕掛けたのは巫女だった。
「シャアァァッ!!」
 一斉に花開いた蔓の蕾から、眩い光線がレティシアに放たれた。
 割り込む柊。大きな翼を熱線が焼いて、衝撃で散った白い羽毛が宙を舞う。
「ルーチェ、回復は任せるわ」
 清浄の翼で傷を癒す柊の隣を、レティシアが突っ切った。
 細い腕で振り回すルーンアックスが風とともに唸り、巫女のドレスを引き裂いてゆく。
「あの男、何かおかしいと思ったら……あなた達の仕業ね?」
「ふふ~ん。色仕掛けでボクやレティと勝負だなんて、百年早いんじゃないかな?」
 戒李は猫のような笑顔を浮かべると、飛び乗った自販機の上から気咬弾を発射。
 被弾した巫女めがけ、牡丹のテレビウムがスパナを振り下ろす。
「ブローラ、いけ!」
 グシャッ、という鈍い音。
 振り抜いた凶器が、巫女の顔面に鮮やかな傷跡を刻み込む。
「植物は植物らしく花粉でも飛ばしてればいいのに。あ、それだと花粉症が大変だね」
「……目を離したら、消えてしまうかも」
 明星の如き一条の光。
 柊の『一番星』が巫女の身を焼き、ボクスドラゴン『天花』のタックルが蔓を千切る。
 額の血を手で拭い、顔をひきつらせる巫女。
「傷をつけたわね……私の顔に、傷を……!!」
 対するケルベロスは、牡丹のメタリックバーストで強化した体で正確な一撃を浴びせる。
 真理の騒音刃とライドキャリバー『プライド・ワン』のデットヒートドライブが、更なる追撃を巫女へと叩き込む。
 身を切り裂く傷にも構わず、巫女は蔓のつけた実を貪り傷を癒すと、憎しみのこもった目で柊を見つめた。
「許さない……殺してやる……!!」
「いいえ、死にません。僕には守る人が、いるのです、から」
 マルレーネの黄金の果実で炎を吹き消し、視線を受け止める柊。蛇のようにのたうつ蔓が柊の翼を切り裂くも、冷静さを失った巫女は瞬く間に劣勢に追い込まれてゆく。
 戒李の振るう拳を防御すれば、社の斬撃と、柊の刺突が巫女の身を裂いた。
 牡丹のハートクエイクアローを避ければ、ルースのプラズムキャノンがその身を焼いた。
 傷を癒す実も、ケルベロス達の繰り出す嵐の如き猛攻撃の前には焼け石に水。
 縛り上げる蔓も、焼き払う光も、マルレーネとレティシアがすぐに癒してしまう。
「馬鹿な……どうして……」
 真理のチェーンソー斬りでバッドステータスを広げられ、火だるまとなって地べたを転がりながら、巫女はさし迫る『死』に打ち震えた。
 今まで自分の誘惑をはね除けた者は誰もいなかった。皆、自分の誘惑に屈していった。
 それが、何故こんなところで――。
「甘く優しく、香りを残しふいに消える霧のように――」
 巫女の心を読んだように、レティシアが口を開く。
 月光に煌くドレスで、蝶のように路地裏を舞うレティシア。さびれた路地裏の闇は彼女の美しさを損なうどころか、一層それを際立たせさえした。
 それを見上げた巫女は悟る。自分の『美』が、ただの紛い物に過ぎなかったことを。
「それが、誘い惑わすということ」
 レティシアは爆破スイッチ『Papillon capricieux』を起動。
 薔薇を模した香りの煙幕で夜の路を包み込み、終幕の狼煙をあげる。
 そこへマルレーネもオウガ粒子を拡散し、仲間の身体を強化していく。
「真理。チャンス」
「ありがとうですよ、マリー」
 チェーンソー剣を手に、地面を蹴る真理。
 巫女の間合いへと飛び込み、回転する刃で巫女の衣を切り裂く。
「『白の純潔』を名乗った者を、許すわけにはいかないのです」
「よくも……ちくしょう……!」
 怒りに正気を失った巫女の攻撃を、柊は必死に耐える。
 熱傷を負った肌が痛む。締め付ける蔓に骨が軋む。逃げ出したいくらいに怖い。
(「……でも。他の人が、傷つく事は……もっと、怖い、から」)
 だから柊は、皆の盾となることを選んだ。
 巫女を見据える真直ぐな眼差し。
 牡丹の破鎧衝が巫女の服を裂き、ルースのイガルカストライクが過たず胸を貫いた。
 決着の時だ。缺月を鞘に収めた社が、巫女の喉笛に狙いを定める。
「見せてやるよ、おれの『銃弾拳法・終式』……!」
 夜空の月を背負い、社は跳躍。
 同時に戒李の『終息世界』が、巫女を暗闇の結界に包み込んだ。
「見せてあげる……ボクの『心象魔術』を」
 戒李の記憶書庫と紐づいた暴虐の嵐が荒れ狂い、巫女の心と体をいたぶり、苛む。
 がら空きになった巫女の心臓目掛け、叩き込まれる無数の銃弾。
 路地裏に重なり合って反響する銃声から遅れるように、ゆっくり崩れ落ちる巫女めがけ、戒李は黒猫の爪をかざし――。
(「初手はヤシロに譲ったからね、こっちはボクがもらうよ」)
 一閃、振り下ろす。
 巫女はコギトエルゴスムの破片となって、路地裏の闇に溶けて消えた。


 数分後、路地裏を抜けた街の通り。
「助けて頂いて、ありがとうございました」
「お気になさらないで。騙してしまって御免なさい」
 頭を下げる佐久間に、レティシアは詫びの言葉を返した。
「今日は何とか乗り切ったようですね。でも、これは貴方の転機になるです」
 酔いが醒め、ばつの悪そうな佐久間の肩を、口元のヴェールを外した真理が叩く。
「貴方の努力は、きっと実る日が来るですよ」
 そう言って微笑む真理の腰に、
「……真理。後片付け、終わった」
 マルレーネが背後から抱きついて、全ての任務が終わった事を告げる。
 佐久間と別れの挨拶を交わし、帰路を踏み出すケルベロスたち。
 大阪に降りた夜の帳を、煌くネオンがいつまでも照らしていた。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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