夏の有酸素運動

作者:鬼騎

 とある一室。分厚いカーテンが部屋の窓から差し込む陽の光を遮っている。
 食べ散らかしたゴミや衣服などが散乱する仄暗い部屋の中でひとつ、パソコンのモニターだけが光を放つ。そのモニターにはトレーニングウェアやシューズ、ダイエット、ジョギングの紹介などが載っているページが映し出されている。
「その夢、私が代わりに果たしてあげる」
 フードを深く被ったパーカーから覗く女の唇は歪に笑みを浮かべる。わずかに覗く首元はモザイクで覆われていた。

 ヘリオライダーの籏本・杏鶴は集まってくれたケルベロスと向かい合い、説明を始めた。
「今日は皆あつまってくれてありがとね!」
 杏鶴はガサガサと地図を広げながら説明を続ける。
「今回の敵はドリームイーター。殺した人に成り代わり、その人が叶えたいと語っていた夢をすでに叶えている人を襲って、ドリームエナジーを奪おうとしてるの」
 広げた地図にペンで丸をつけて指を指す。
「事件が起きる場所はこのあたり。住宅街ど真ん中で、時間は日が昇ってすぐの早朝ね。狙うのはジョギングとか、ランニングをしている人だよ」
 今回の場所は住宅街であり、時間もあいまって事前の避難は難しいという。
「ドリームイーターを惹きつけることができれば、夢の力が大きいケルベロスを一般人より優先して襲ってくるはず。時期もあってか、結構この時間に走ってる人がいるから、一般人の保護もどうするか考えておいてね」
 続けてドリームイーターの戦力の話に移ろうとするが、杏鶴の表情は硬い。
「このドリームイーターなんだけど、回復を多用してくるよ。かなり頻繁に回復するみたいだから、何かしら対策をしないと長期戦に持ち込まれるかもしれない。他は遠距離の単体攻撃を二種類使ってくるから気をつけてね!」
 杏鶴はそれとね、と言葉を続ける。
「人を襲うドリームイーターはほんと許せないから皆には頑張って欲しいんだけど、ここ最近朝でも暑い日が多いから、自分たちの健康にも十分気をつけてね!」


参加者
赤星・緋色(中学生ご当地ヒーロー・e03584)
ラプチャー・デナイザ(真実の愛を求道する者・e04713)
立花・吹雪(ウラガーン・e13677)
神居・雪(はぐれ狼・e22011)
ヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518)
ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)
シンシア・ミオゾティス(空の弓・e29708)
月島・彩希(未熟な拳士・e30745)

■リプレイ

●朝練の時間
「もっと背を伸ばして走るんだ」
 ヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518)は首からかけたメガホンを手にラプチャー・デナイザ(真実の愛を求道する者・e04713)へと声をかけながら並走をしていた。その姿はまるで生徒を指導する先生のようだ。
「はぁ……ひぃ……」
 一刻ほど前は珍しく頑張ってやっちゃうでござるよー! と張り切っていたのだがいまや息も絶え絶えである。
「大丈夫? ドリンク必要かな?」
 ヒエルと同じように並走をしていた月島・彩希(未熟な拳士・e30745)はボクスドラゴンのアカツキに目配せをする。熱中症対策として皆に配るようにと用意していたドリンクを配るためだ。とはいえ、息が上がっているのはラプチャーただ一人である。
「私ももらってくね」
 アカツキが配るドリンクを手にとりながら颯爽と駆け抜けるのは赤星・緋色(中学生ご当地ヒーロー・e03584)だ。トレーニングウェアなど見た目にもこだわることで走っている人というアピールに繋げる。
 彼らは今、住宅街のど真ん中で走っている。しかも日が昇ってすぐの早朝という時間帯だ。この近辺に現れるというドリームイーターを引きつけるための行動だ。しかし昨今の朝は早朝といえど猛暑といった具合である。
「なかなか現れんな」
 皆が走っているルートの近く、暑さ対策などの荷物をまとめて置いてある場所に待機しているペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)そうこぼす。
 その横では暑さ対策としてコールドスプレーを吹き付けたタオルを首にかけている立花・吹雪(ウラガーン・e13677)もその言葉に頷いている。
「運動するのは気持ち良いのですが、いかんせん暑いですからね」
 最初は囮役の皆で走っていたのだが、走りっぱなしというわけにもいかないのでそれぞれ休憩を挟みながら走っている。
「アンタが休憩はいるならアタシはもういっちょ走ってくるかな。しかし……ほんと早いとここねぇもんかな。暑くてかなわねぇぜ」
 持参した冷たいドリンクを荷物に戻し、そうボヤきながら軽く走り始めたのは神居・雪(はぐれ狼・e22011)だ。
「みんなファイトだよー!」
 しっかりと帽子をひんやりタオルを首にまきながらぴょこぴょこ飛び跳ね、走る皆を応援をするのはシンシア・ミオゾティス(空の弓・e29708)だ。ドリームイーターが現れた際にすぐに一般人の保護や戦闘場所の確保に動けるようにという算段で囮役は皆にまかせている。
 皆でわいわいと走る姿はまるで学校の部活動のようで楽しげだが、その時間は長くは続かない。二つの人影がケルベロスたちが居る場所に徐々に近づいていた。

●襲撃の時間
「あはっ、もっと良い夢、見つけちゃった」
 長ズボンに手袋、そして長袖のパーカーに目深く被ったパーカーのフード。まるっきり季節感を無視した人物はそう言葉を発する。目星をつけていたであろう自身の目の前を走る一般人を一気に追い越し、跳躍した。
「その走る足も見た目の良いウェアもどれも素敵ぃ!」
「うっ!」
 ドリームイーターは跳躍した空中から赤黒いモザイクをケルベロスに向けて飛ばす。遠近両方に対応したドリームイーターの攻撃は容赦なく緋色へと直撃する。どうやらドリームイーターは走る見た目にもこだわって居た彼女を夢を奪うターゲットとして認識をしたようだ。
 狙われているとはいえただでやられるわけにはいかない。まとわりつくモザイクを振り切りながら緋色はスターゲイザーを繰り出した。
「ネコは回復お願いっ」
 シンシアはウイングキャットのネコに戦闘の指示をし、まずは一般人の対策をと、先ほど走ってた一般人のほうを見る。そこではすでにペルが一般人の避難に着手していたため、自身はキープアウトテープを手早くはりめぐらせる。
「ぐるぐるーっとね!」
 シンシアと別方向では一般人が近寄ってこないよう、吹雪と雪もキープアウトテープで道を塞ぐ。これで一般人対策は問題ないだろう。
「お前の攻撃は必ず当たる。行け!」
「デウスエクス! ようやく来たでござるね!! これで、やっと、運動から解放されるでござるよ!」
 ヒエルの当足一閃の狙アップからのラプチャーの如意直突きで確実にダメージを与える。攻撃に特化したポジションからの攻撃ダメージはドリームイーターを大きく仰け反らせた。
 動きが止まったドリームイーターに続いてライドキャリバーのイペタムと魂現拳のデットヒートドライブが決まる。ライドキャリバーが突撃した道筋では炎が残りアスファルトを焼く。
「アカツキ、皆のサポートするよ!」
 アカツキは攻撃を受けた緋色に属性インストールを、彩希は後列の仲間に百戦百識陣で破剣の付与を試みる。
 本来ならディフェンダーに狙いを引きつけたかったところだが、こうなってはしかたなし。ドリームイーターがにやけた笑みを浮かべれば見る見る間に傷がモザイクで修復されていく。
 長期戦、嫌な単語が脳裏に浮かぶがやることはただ一つ。ケルベロスたちが今持てる力全てをもって、叩くのみである。

●攻防の時間
 ペルが一般人を安全な場所へ避難させてもどってきたのは戦闘が始まって3分がたったころだが現状は拮抗していた。
 互いに攻撃を与えても即座に回復、その繰り返しであったが数の暴力というべきか、ケルベロス側が与えている効果がドリームイーター一人のキュアでの回復が間に合わない状態にまで積み重なりつつあった。
「またせたな。追い詰めていこう」
 ペルは美しい奇跡を描く斬撃、呪怨斬月を放ちドリームイーターのモザイクをえぐり取る。
「はぁっ、邪魔なのがまた一人! 邪魔しないでその夢よこしなさいよぉ!」
 ドリームイーターはヒールを使い、えぐられたモザイクを修復にかかる。だがそれは完全に治りきることはなく、ケルベロスの追撃が襲いかかる。
「追加だ! これでもくらいなっ!」
 雪は傷をかばう形で立っていたドリームイーターに対し、傷とは反対側に痛烈な一撃、破鎧衝を繰り出す。
「拙者も追加行くでござるよ! ファイヤー!!」
 ラプチャーの掛け声とともに拳より出でし龍がドリームイーターを焼き払う。ドラゴニックミラージュだ。サーヴァントたちの攻撃も相まってドリームイーターはあちこち炎で包まれ、なにかが焦げる匂いがしている。
「黒ヤギさんったら読まずにたーべたっ! あたれー!」
 シンシアのMAO-03Cが治りきっていない傷口へと打ち込まれた。この技は傷の回復を阻害する効果があり、効果はてきめんだ。
「もう一撃!」
 さらに追撃を与えるのは緋色のハウリングフィストだ。強烈な一撃でドリームイーターを道の端まで吹き飛ばす。
「いたいじゃないのぉお!」
 ドリームイーターはフードから覗く唇をわなつかせアスファルトに拳を叩きつける。
「それは他人から何かを奪おうとする罰だと思え」
 ヒエルは気力溜めを行い、味方を庇った際に削れた体力を回復させる。
「貴女はここで必ず仕留めます」
 彩希はオウガメタルを拳に集め、戦術超鋼拳を繰り出した。
 ぐぅ、と顔をしかめるドリームイーターだが、まだ余裕が残る表情である。
「まだまだ、ここからが本番だよっ!」
 吹雪が放った絶空斬は見事に傷をなぞり、傷を広げていく。
 ケルベロスたちの狙いが発揮されていくと、徐々にだが形勢がケルベロスの優勢へと傾いていった。

●終わりの時間
「はぁあああ!」
 ドリームイーターが叫ぶと全身をモザイクが駆け巡る。体のあちこちについた傷を修復していくが回復が追いついていないのが目に見えてわかる。修復されきらない傷。防衛一方になったドリームイーターに対し、ケルベロスたちは勝機を見出していた。
「減らされた分、また増やしますねー!」
 シンシアはファミリアシュートを放ち、ドリームイーターにジグザグの効果を与えて行く。
「あぁ! まだまだ行くぜっ!」
 味方の回復が間に合っている以上、回復要員のつもりでいた雪もどんどん攻撃へと参加していた。繰り出されたグラインドファイアがドリームイーターにさらに追い討ちをかけて行く。
「そのなりであまり暴れてくれるな。暑ぐるしくてかなわん」
 ペルは再び呪怨斬月を放ち確実に攻撃を当てて行く。もともと季節感を無視した服装な上に炎やらモザイクやらが撒き散らされていて見苦しい見目になっているのは確かである。
「いちげきひっさーつ!」
 緋色は大ジャンプからのグラビティチェインを纏わせた武器を全力投擲するPS-CCを放つ。直撃した瞬間大爆発が起こり、ドリームイーターの体が宙に浮く。
 ヒエルはその隙を見逃さず、足に氣を纏わせ旋刃脚を繰り出し宙に浮いたドリームイーターの体を塀に叩きつけた。その手応えで終わりが近いことを直感で感じ取る。
「いけるぞ」
 それに即座に反応したのは同じ旅団に身を置く面々だった。
 起き上がろうとしているドリームイーターの目の前に躍り出たのは彩希だ。
「もっと早く! もっと鋭く! この一撃を! 氷牙!!」
 放たれた一撃は冷気を帯び、敵を凍りつかせる。ダメージこそはでかくないものの、氷を付与し、次のダメージへと繋げる。
「人が創り出した文化の結晶、くらうでござるっ」
 ラプチャーのイメージクリエクトが直撃するとドリームイーターの動きが完全に止まる。
「い、や……夢……私の……」
「そこです! この花は貴方へせめてもの手向け、この一閃で切り裂く!」
 最後を決めたのは吹雪だった。雷を帯びた斬魔刀【絶花】で一刀両断する雷華を放つとドリームイーターはその場に崩れ落ちたのだ。

●後片付けの時間
「皆さんと依頼をご一緒出来てとても頼もしかったです」
 吹雪はにっこりと微笑みながら割れたアスファルトや崩れた塀などを片付けながら今回一緒に参加した仲間へと声をかける。
 まだ早い時間なため、瓦礫の片付けや周辺のヒールをしておけばこの後の通勤・通学時間には影響もでないだろう。
「ねぇねぇ、緋色ちゃん大丈夫? シンシアがちゃんと代わりに働くよ?」
 シンシアはドリームイーターに狙われ集中攻撃を受けていた緋色の心配をする。だが緋色自身は今ではもうシャウトなどを利用して傷はしっかり癒えていた。
「大丈夫だよ。それに皆で片付ければすぐに終わるよ」
「そうでござる。それにしても普段から鍛えてる人は走るひとつでも違うでござるな……」
 これを機に拙者も少しは頑張るべきだろうかと悩むのはラプチャーだ。瓦礫の撤去ひとつとってもケルベロスの仕事は意外と体力仕事だということを実感する。
「しかしあっちぃな……とっとと片付け終わらせて涼みてぇぜ」
 ヒビの入った地面に雪はカムイの力を借り、ヒールをかけていく。暑さが苦手ということもあり、耳や尻尾は心なしかぐったりしてしまっている。
「戦闘後というのもあってより暑さを感じるのは確かだ。我はこれが終わった後は、何か冷たいスイーツでも食べに行きたいところだ」
「それも捨てがたいねー。ただ私は走って汗もかいちゃったし、お風呂屋さんとか行きたいな。どこか開いてたりしないかな」
 ペルの冷たいスイーツも彩希のお風呂も多数の共感を呼ぶ。
「ふむ。俺はまだ体を動かしたりないな。もう少し走り込んで……」
 ヒエルのその言葉にはえぇー、と多方向から軽い不満の声があがるのだった。

作者:鬼騎 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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