強襲のサキュレント

作者:零風堂

 大阪市の、とある大学の付属小学校で、その事件は起こった。
 いつもと変わらぬ授業時間中に、校庭に巨大な攻性植物が現れたのである。
 ふわふわと浮かんだ肉厚の花びらからは無数の根が触手のように伸びており、ナイフのように鋭い先端がいとも容易く生徒や教師を刺し殺し、吸収していく。
 攻性植物は校庭に居た生徒や、逃げようと飛び出してきた者を一通り殺しきると、校舎の窓や壁を破壊し、中の人々をひとり、またひとりと殺害していく。
 こうして平和な学び舎であったその場所は、惨劇の舞台へと、ほんの一瞬で塗り替えられてしまうのだった。

「大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物達が動き出し、大阪市内への攻撃を開始したようです」
 既に話を聞いていたり、実際に関連する依頼に出向いた方もいるかもしれませんが、と前置きして、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は集まったケルベロスたちに話し始める。
「敵はおそらく、大阪市内で多数の事件を発生させて、一般人を追い出してしまおうと考えているのでしょう。そうして大阪市内を拠点の中心として少しずつその規模を広げていこうという動きのようです。速さのある大規模な侵攻ではありませんが、このままでは敵の拠点が広がり、ゲート破壊の成功率も、徐々に下がってしまうことでしょう」
 それを防ぐためにも、敵の侵攻を確実に潰していきたいとセリカは言う。
「今回現れる敵は、サキュレント・エンブリオと呼ばれる巨大な攻性植物で、魔空回廊を通じて大阪市内のとある小学校の校庭に出現する事が予知されています。生徒や教師の皆さんに被害が出る前に、この敵の撃破をお願いします」
 セリカはそう言って、詳しい状況についての説明を始めた。
「撃破目標であるサキュレント・エンブリオは1体のみで、配下はいません。出現する位置はハッキリと確認できていますので、周辺住民と学校関係者、生徒の皆さんの避難は事前に行えることになっています」
 それは助かると、話を聞いていた何人かのケルベロスが、ホッとした表情で胸を撫で下ろしていた。
「ですが、巨大な敵との戦闘になりますので、校舎や体育館、或いは学校周辺の建物への被害はどうしても出てしまうでしょう。それを抑えるためには、短期決戦での撃破が望ましいと思います。校舎の壁や屋上、或いは周辺の電柱などを利用して戦場を立体的に使うことが出来れば、有利に戦えるかもしれません。建物の被害は、最終的にはヒールで回復することになりますが、素早く撃破し、損傷を減らすのは良いことでしょう」
 ならば出来るだけ迅速に倒してやろうと、ケルベロスたちも意気込みを見せる。
「多くのケルベロスの皆さんが、この大阪城周辺の攻性植物の動きを警戒してきたお陰で、敵の動きを事前に察知することができました。この成果を無駄にしないためにも、敵の撃破を、どうかよろしくお願いします」
 セリカはそう言って一礼し、ケルベロスたちを激励するのだった。


参加者
アマルティア・ゾーリンゲン(フラットライン・e00119)
イルヴァ・セリアン(あけいろの葬雪花・e04389)
城間星・橙乃(雅客のうぬぼれ・e16302)
荊・綺華(エウカリスティカ・e19440)
シデル・ユーイング(セクハラ撲滅・e31157)
千種・終(白き刃影・e34767)
終夜・帷(忍天狗・e46162)
ウリル・ウルヴェーラ(ドラゴニアンのブラックウィザード・e61399)

■リプレイ

 小学校の校庭に、突如として現れる空間の歪み――魔空回廊。
 そこから現れる巨体は、肉厚の花びらに無数の根を生やした、植物のようなモノ。攻性植物の『サキュレント・エンブリオ』だった。
 数多の命を奪わんと現れたサキュレント・エンブリオだが、出迎えたのは無力な子供たちではなく、戦闘態勢を整えたケルベロスたちだ。
「此処は子供達の学び舎です。直ちに退きなさい」
 シデル・ユーイング(セクハラ撲滅・e31157)は腰に手を当て眼鏡の端をクイッと上げて、朝礼台の上から生徒を指導する教師のように、堂々と言い放つ。
「命めぐるこの大地を穢すデウスエクスを、わたしは、決して許しません」
 イルヴァ・セリアン(あけいろの葬雪花・e04389)を始めとした何人かは校舎の屋上に陣取り、敵の出現を察知していた。
「この身は『冬』である――」
 イルヴァはひとつ呟くと、自身に秘めた氷雪の魔力を解き放つ。
「アマルティア・ゾーリンゲン――。推して参る」
 ちらりとイルヴァと視線を交わし、アマルティア・ゾーリンゲン(フラットライン・e00119)は屋上の端を蹴っていた。
 相手は巨大だが、それは足踏みする理由にはならない。胸の炎を滾らせながら、アマルティアは小さく、口の端だけで笑みを浮かべていた。
 終夜・帷(忍天狗・e46162)は仲間たちの動きを視界の端に捉えて確かめながら、校舎の上を駆け始める。刀の柄に手を添わせていつでも抜刀できるようにしながら、帷はその瞬間まで、自らの気を抑えて駆ける。
「……ふむ」
 千種・終(白き刃影・e34767)は朝礼台のやや後方で、敵に対する味方の配置に目を走らせていた。3次元に展開して多方向から攻めるならば、上からと地上からと……、奥行きか。
 終はシデルとは別方向から攻められるように、静かに素早く走り始める。
「なんて大きな……、大きな……、なんでしょうか……?」
 荊・綺華(エウカリスティカ・e19440)はサキュレント・エンブリオを目の当たりにして、赤い瞳をきょとん、と瞬かせる。
 何とも形容し難い攻性植物ではあるが、正体を誰何している暇はない。綺華を鼓舞するかのように、ウイングキャットのばすてとさまがぴょこんと羽ばたき、翼から清らかな波動を生み出し始める。
「天におられる……、わたしたちの父よ……。み名が聖と……、されますように……」
 少女の祈りは仲間たちに、戦う力を刻み付けていく。
「亡びも終わりの静寂も、すべてをこえて幾度でも命は巡り、花は咲く」
 だから――。
 一瞬の躊躇いすら無く、イルヴァが敵の頭上へと跳び込んだ。
 脳天にあたる部分にナイフの先端を突き入れると、氷晶の花がはらりと咲く。
(「……嫌いじゃないよ、お前らのような相手」)
 その直後、落下途中のアマルティアが、オウガメタルをその身に纏っていた。
 誇り高き牙と共に、紅の戦士は鬼に至る。
(「遠慮なく倒し切れる!」)
 叩き付けるように繰り出された拳がサキュレント・エンブリオの巨体を揺るがし、僅かに退かせた。そのお陰でイルヴァは敵にぶつかることなく着地し、アマルティアのやや後方で構える。
「――!」
 サキュレント・エンブリオはゆらゆらと地面のすぐ上を浮遊しながら、触手のように根を蠢かせていたが……、それらを幾つかの束にして、薙ぎ払うように振り出してくる!
「っ! 随分と大きな敵ね!」
 城間星・橙乃(雅客のうぬぼれ・e16302)は巨大な敵の迫力に息を吐きつつも、雫を湛えた水仙花を、辺りに漂わせ始めていた。
「甘やかに澄み渡るは、神秘の雫」
 橙乃の金盃水鏡から溢れる香りと雫が仲間たちの傷を癒し、また戦う力を高めていく。
「避難が完了しているのは助かるな。……憂いなく戦える」
 ウリル・ウルヴェーラ(ドラゴニアンのブラックウィザード・e61399)が小さく呟いた時、帷がちょうど目の前に来ていた。
「……!」
 察した帷が身を伏せると、その頭上を竜砲弾が通過していく。轟竜砲の軌跡を追うように、帷も敵へと身を躍らせた。
 空中で抜刀、竜砲弾が着弾した場所の中心に切っ先を突き入れて、落下の勢いも利用して斬撃を浴びせかける。
 落下途中の帷を捕らえようというのか、敵も根をくねらせるが……。
「スマートな仕事を心得ていますので」
 非常階段の踊り場から飛び出したシデルの蹴りが、その根を裂いて駆け抜ける。
 シデルは戦闘中の移動経路をあらかじめ考えており、それを頭に叩き込んでいた。今は校庭の設備から校舎、体育館の作りまで、シデルの動きを助ける道だ。
「先んじて動きを捉えられたのはいいね」
 終はシデルの反対側に回り込んでおり、間髪入れずにパイルバンカーを突き出していた。
「被害を出さずに片づけてしまおう」
 下から足元……。と言っても浮遊しているのだが、ともかく根の集まっているあたりを狙って、思い切り一撃を叩き込む。
 その巨体が倒れるということは無かったものの、ずしんと大きな音が響き渡った。

「わたしは、冬。めぐる命の理を守り、ありのままの世界を護る者」
 体育館の屋根を蹴り、イルヴァが敵に『雪花殲』を振り下ろす。その先端を花びらのひとつに引っかけて、ばりっと引っぺがしながら着地した。
 そこに刃のように鋭い、根の先端が襲いかかるが……。アマルティアが割り込んできてイルヴァを庇い、脇腹あたりに刃を受ける。
「……!」
 刺さった刃を抜こうとするアマルティアだったが、それより先に敵が根を振り上げ、アマルティアごと校舎に叩き付けようとしてくる。
「なるべく早く片づけたいわね、建物にあんまり被害出したくないもの」
 橙乃が屋上から投げ付けた鎌が、アマルティアに刺さった根をぶった斬って弧を描く。ぱしっと橙乃の手に戻ったその鎌の柄で、愛らしい雀が優美に煌めいたように見えた。
 一方では空中に投げ出されたアマルティアが、ダブルジャンプの要領でひとつ跳ね、校舎の壁に窓枠を掴んでぶら下がる。
 そこへボクスドラゴン『パフ』が近づいてきて、属性の力をインストールしていく。
「あなたに……、祝福が……、ありますように……」
 綺華の祈りが、アマルティアに英霊の加護を与えていく。ほとんど同時に校舎の壁を蹴り、アマルティアは飛び出していた。
 帷がその傍で、旗を上げるための支柱を素早く登り、頂点を蹴る。螺旋の力を掌に集め、敵にねじ込むように突き入れる。
 どんっ!
 アマルティアと帷が続けざまに攻撃を決めて、巨大な攻性植物も大きく揺らいだ。
「こちらはご遠慮願います」
 反対側の塀を昇り、シデルが破鎧衝を叩き込む。倒れ込みそうだった巨体が大きくぶるるんと揺れて、再びふよふよと漂い始めた。
「頼りにさせてもらう。……よろしく」
 ウリルが小さく言ってから、飛び上がる。翼を広げて距離を稼ぐが、飛行とまでいくと隙が大きくなってしまう。そうならないよう、校舎の壁を蹴って加速した。
 流星の如き鋭い蹴りが突き入れられた――。その反対側に、終がダッシュで駆け込んでいた。
「……っは!」
 ひとつ大きく息を吸って、大地を蹴る。終の繰り出した攻撃もまたスターゲイザー。上と下から放たれた流星の煌めきからは逃れられず、挟まれた相手はぎしぎしと、全身を大きく軋ませるのだった。

「少しでも、お役に立てるように……」
 ティニ・ローゼジィ(旋鋼の忍者・en0028)は仲間たちが攻撃している間に光の粒子を振り撒いて、味方の感覚を研ぎ澄まさせていく。
「ちょっと大振りすぎるんじゃない?」
 橙乃がひらりと舞うように、根の一撃をかわして宙に身を躍らせる。そのまま担ぐように鎌を掲げると、落ちる勢いを利用して敵の身体に『虚』の斬撃を刻み付けていった。
 着地し、敵に向き直る橙乃。……どこか違和感がある。少し敵が、ねじれているような……?
 ぶるんっ!
 捻じれたゴムが元に戻るような動きで、敵が巨体を震わせながら回転し、ケルベロスたちを弾き飛ばしていく。
「……あう」
 攻撃を受けてバランスを崩し、べたんと転倒した綺華だったが、オラトリオの羽を広げて立ち上がり、柔らかな光を放って回復を図る。
 帷は校庭の端、陸上競技用の砂場にまで飛ばされていた。軽く払って視界だけ確保すると、傍に立ち並ぶ鉄棒の上に跳び乗ってダッシュ。そこを足掛かりに体育館に飛び移り、そのまま屋根の上を駆けていった。
「地獄の炎よ、絶望を照らせ――」
 アマルティアの射程に入った帷の刀に、業火が宿る。一瞬だけ呼吸を整えて、構えるイルヴァと視線を交わした。
「そして、悪辣なる者を葬る者。――参ります」
 イルヴァは稲妻の闘気を纏った刃を突き入れ、肉厚の花びらを裂き落とす。
「今この瞬間、この場所はわたしの戦闘領域。――ほら、あなたはもう動けない」
 イルヴァに続き、飛び込んだ帷の刀が敵の中心近くにめり込んでいく。払い落とそうと何本もの根が触手のように蠢き始めるが……。
「巨大な敵の相手は、ある意味ロマンと言えるかもしれないな」
 ウリルが虚無の力を魔力で引き出し、球体に収束させて具現化させる。
「だが、これ以上は好きにはさせない」
 不敵な笑みを口元に浮かべ、ウリルは虚無の弾丸を巨体へと放っていた。それは何本もの根を抉り取って消滅させ、帷の窮地を救うこととなった。
「……ではこの辺りで、仕上げと参りましょう」
 眼鏡の端を上げながら、シデルが時計に視線を走らせる。サッカーゴールのゴールバーを蹴って跳び、鋭い蹴りを叩き込む。
「こちらに!」
 ティニがタワーシールドを地面に突き立て、身体で支えていた。そちらに向かって終が跳び、くるりと回って足を向ける。
「……!」
 その一閃は、全てを穿つ牙の如く。パイルバンカーのジェット噴射と同時に跳び、鋭い一撃を突き入れた。
 上から帷が斬り降ろし、シデルが抉り、終が穿つ。怒涛の連続攻撃にサキュレント・エンブリオの身体が崩れ、同時に胞子のようなものが舞い上がっていく。
 それから花びらの一枚一枚が枯れ落ちるように落下し、根も力なく地面へと落ちた。

「……良かった」
 ウリルはそう呟いて校舎を見る。多少の損傷はあったものの、どれも軽微であり、ヒールでどうにかなるくらいのものだろう。建物が様変わりするのは何度見ても面白いと思いながら、この場所を護れたを喜ぶウリルであった。
 とは言え、学校があまり変わった形になるのもどうかと思い、なるべく元の姿のまま修復したいと帷は考えていた。しかしながら帷は自分へのヒールしか準備していなかったので、大人しく瓦礫の片付けなどの力仕事に精を出している。
「学校、ですか……」
 ティニは教育用プログラムで学習をしていたらしく、学校に通った経験はないらしい。元の姿を覚えている人に聞きながら、橙乃らと共にヒールに精を出す。
「これは残業ではありません。アフターファイブです」
 事前の見取り図がここでも役に立つかと、シデルは手にした紙を仲間に見せて回っていた。元々は戦闘時の移動ルートを考えるための見取り図であったが、建物の元の長さもバッチリ分かるため、あとは不自然ではない外装にすれば、まぁ学校としての形はすぐに取り戻せるだろう。
「現状復帰まで、あと少し……。力仕事ならいくらか手伝えるだろう」
 終はそう言って、仲間たちと共に学校の復旧に尽力するのだった。

作者:零風堂 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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