美しさのために、汗は流れる

作者:一条もえる

『この夏、ワタシはホンキを出す』
 そんなキャッチコピーを大々的に掲げて、スポーツジムがオープンした。
 とある商業ビルの最上階に現れたそれは、煽り文句が示すように女性限定。
 インストラクターも全員が女性。ともすればへこたれそうになる会員を、彼女らが励まし励まし、親身になって(少なくともそのように見せて)会員たちの手助けをしてくれる。
 建物の外側は全面ガラス張りで、眺望は最高だ。また、とあるデザイナーがデザインしたという内装は、とうていジムとは思えぬ洒落たもの。一角にはフルーツジュースのスタンドまである。最新の運動器具が備えてあるのは、言うまでもない。
「いいわね。会員数も順調に伸びてるじゃない!」
 汗を拭きながらスタッフルームに現れた社長が、満面の笑みを浮かべて頷いた。
 社長自らも、トレーニングウェアで客の前に立つ。長身の肉体はすらりと引き締まり、説得力があった。
「もう少し、スタッフの増員も考えないといけないかしら……?」
 そんな、嬉しい悩みを抱えていた社長だったが。
「あら……?」
 エアコンが嫌な音を立てた。それとともに、室温がだんだんと上がってくる。
 きょうは10人ほどの会員と、同程度の人数のスタッフがいたが、ただでさえ火照っていた彼女らの全身から、一気に汗が噴き出してきた。
「暑いー」
「びしょびしょー」
 会員たちはそう言って、ぴったりとくっつくシャツをつまみ、胸元を広げてあおいだ。皆、まるで頭から水をかぶったようである。
「すいません、皆さん。どうやらビルの空調の故障のようで……今日は閉店とさせていただきます」
 お詫びのクーポンを配りながら、「好事魔多しね」と、社長は肩をすくめた。
 ところが、彼女らの災難はこんな程度では済まなかったのである。
「ぶひひひひひ! 汗に濡れたメスどもは、たまらんぶひーッ!」
「ぶひ! ねっとりたっぷりと、組んず解れつするぶひーッ!」
 ベンチプレスの上に虚空に突如として魔空回廊が開かれ、オークどもが雄叫びをあげながら我先にと飛び出してきたのである。
「き、きゃー!」
「ぶひひひひひ!」
 女性たちは逃げようとしたが、ぬとぬとと汚らしい粘液でぬめった触手はそれを許さない。あっという間に全身をからめ取られ、汗と粘液とが混じり合った。

「フィットネス、ですか。そうですね、健康には一応気をつけてはいますが……」
 朝比奈・昴(狂信のクワイア・e44320)はさほどの熱心さもなく、首を傾げた。服の上からでもスタイルの良さがわかる昴にしてみれば、焦る必要はないのであろうが。
「そうねー。健康は大事だもんね」
 そう言う崎須賀・凛(ハラヘリオライダー・en0205)の前には、大きな中華鍋がある。そこに油を注いだかと思うと、タマゴを割り入れた。
 刻みネギを入れ、塩胡椒し、エビのむき身を入れる。鍋をあおって、あっという間に出来上がったのは何人前かという大量の炒飯だった。
 まずは皆に皿を回し、そして自分にも大盛りを。
 鍋をあおるたびに、凛の豊かな胸は弾んでいた。大盛りの炒飯をテンポよく口に運んでいるが、その食べっぷりの割に、よけいな肉は多くない。
「もぐもぐ……。
 失礼ねー。これでもそれなりに気は使ってるし。第一、カロリーは頭脳労働で大量に消費されちゃってるの!
 それはさておき、事件のことね」
 そう言って、レンゲを置いた凛は事件について確認を始めた。
「最近オープンしたばかりのスポーツジムに、オークがいっぱい現れるみたいなの。……そうね、20匹くらいは。
 幸い、まだ時間はあるみたい。だから事前に潜入して、敵を待ちかまえてね」
 事件が発生するのは、休日の午後である。今から向かえば午前中、オープンする10時ごろには到着できるだろう。
 ただし、関係者に詳細を説明することは避けた方がいい。事情が知れてしまうと皆は逃げてしまうおそれがあり、予知が外れることになりかねないからだ。
「さて」
 立ち上がった凛の皿は、すでに空になっていた。またしても先ほどと同じようにタマゴを割るが、今度の具はハムに、人参やピーマン、椎茸なども細かく刻んで入れた、五目炒飯だった。
「もぐもぐ……。
 だから、避難はオークが現れてからね。もし避難してない人がいると、イタズラされちゃいけないから……できるだけ優先してね」
 屋内の様子であるが。
 まずエレベーター/階段を上ってきて扉を開けるといきなり、広々としたラウンジがある。一角にはジューススタンドもある。
 右手に受付があって、その奥に事務室。左手には更衣室。そして奥の両開きの扉がトレーニングルームである。
 ラウンジや更衣室にも数人の会員やスタッフがいて、くつろいだり着替えたりしている。それでも、大多数の者はトレーニングルームで汗を流している。
「もぐもぐ……。
 こんなに暑いのに、大量のオークに絡まれたんじゃ、たまらないもんね。
 みんな、絶対に成功させてね!」
 米の最後の一粒まで綺麗に平らげ、艶のある唇で凛は微笑んだ。

「もちろんです。
 参りましょう、皆さん。聖王女の恩寵がありますように」
 昴は胸の前で手を組んで、祈りを捧げた。


参加者
メルティアリア・プティフルール(春風ツンデレイション・e00008)
難駄芭・ナナコ(爛熟バナナマイスター・e02032)
山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918)
フレナディア・ハピネストリガー(サキュバスのガンスリンガー・e03217)
サロメ・シャノワーヌ(ラフェームイデアーレ・e23957)
エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)
朝比奈・昴(狂信のクワイア・e44320)
草薙・桜依(見習い巫女・e61789)

■リプレイ

●異変
「思った以上に盛況ですね」
 客となって潜り込んだ朝比奈・昴(狂信のクワイア・e44320)は、流れる汗を拭ってペットボトルに口をつけた。
「美容には、適度な運動が必要だもんね。さすが、言うだけあってなかなかのジムね」
 ランニングマシンで汗を流しながら、フレナディア・ハピネストリガー(サキュバスのガンスリンガー・e03217)が笑う。
「お客様、なにかスポーツの経験が……?」
 インストラクターが目を丸くして問うてくるのを、
「以前に、少し。しかし最近は身体がなまってきたものでな」
 と、エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)が助け船を出して誤魔化した。
「危なかったですね……。言われてみればわたしたち、普通の人よりも、かなり」
 同じくマシンで走っていた草薙・桜依(見習い巫女・e61789)が、額の汗を拭った。
 暑ければ暑いし汗もかくが、ケルベロスである一同は、スタミナも運動能力も常人とは比べものにならない。加減をしてさえこれだから、本気など出そうものなら。
 それに注意しながら、再び運動を始める。
 その光景を眺めながら、
「美しくなろうと懸命な姿こそが、美しい……ってね」
 メルティアリア・プティフルール(春風ツンデレイション・e00008)は微笑んで、壁にもたれ掛かった。
 見た目、完全に可憐な少女だが。
 傍らでは、ジューススタンドで買ったバナナジュースを飲みながら難駄芭・ナナコ(爛熟バナナマイスター・e02032)が、
「これじゃダメだ。やっぱりもぐもぐしなきゃ、バナナじゃねェ……」
 と、うなだれる。それはそれとして、顔を近づけてきて、
「オークが出てきたらアタイは誘導に回るから、よろしくな」
「誘導はボクがやるよ。これでもボク、男の子だし。オークはこっちに見向きもしないでしょ」
「いやいや。メルちゃんの可愛さなら、全然いけるぜ! こういうのは女子力の高い方が」
 と、ぎゅ~ッと抱きしめるが。メルティアリアはにべもなく、その顎を押し返した。
「やめてよ。ボクが可愛いのなんて、今更でしょ」
 ともかくふたりは打ち合わせを終え、ナナコはラウンジに出ていった。
 更衣室には、山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918)とサロメ・シャノワーヌ(ラフェームイデアーレ・e23957)がいた。
「本当にどこにでも現れるよね!」
「まったくだね、許し難いよ」
 そう言いながら、サロメはシャツを脱いだ。細身ながらも豊かな胸が現れ、居合わせた会員が、「わぁ」と目を見張る。
「お、お綺麗ですね。いっしょに並んでると、恥ずかしいな……」
「そう言っていただけるとは、光栄だね。でもマドモワゼル、それはあなたの魅力を少しでも損なうものじゃ、ないよ」
 と、サロメは会員の手を取った。
「がんばろう」
「は、はいッ!」
「じゃ、ボクはそろそろ襲撃に備えておくね!」
 涼子が更衣室の扉を開けた。ちょうどインストラクターが入ってこようとしたときで、彼女は怪訝そうに、
「襲撃?」
 と、首を傾げる。
「あぁ、それは……」
「えぇッ! このジムがオークの襲撃を受けるッ?」
 涼子が事情を説明すると、インストラクターも更衣室にいた会員も、大声を張り上げた。
 正確に表現するなら、「オーク?」「襲撃?」「ここに?」「そんな!」「いやぁッ!」と、ひどく混乱した、悲鳴のようなものだったのだが。それだけに、恐怖は容易く周囲に伝わった。
 会員だろうとインストラクターだろうとなりふり構ってなどいられず、入り口に殺到し始める。
 ブゥン……。エアコンが不調を訴え、冷気が止まった。
「まずい……!」
 歯噛みしたサロメだったが平静を装って避難を呼びかけた。
「あ、慌てないで! ボクたちが絶対に守るから!」
 涼子も声を張り上げる。
「なに? もう始まっちまったのか? ……クソッ、やってやんよォ!」
 バッグの中に潜ませていたバナナにかぶりつき、ナナコは拳を握りしめた。
「エアコンは壊れるわ、オークは出現するわ、このスポーツジム、なにか引きつけてるんじゃないかしら!」
「まったくだ。年中騒がしい連中だが、この猛暑日だぞ? 暑さに負けて、少しくらいおとなしくしていてもらいたいな!」
 フレナディアとエメラルドとが、現れた魔空回廊を睨む。
「メスぶひ、いいニオイの汗まみれのメスが、山盛りぶひ!」
 そこからオークどもが、下卑た笑いをあげながら着地してきた。
「く……」
 あまりの汗で、下着が透けてきた。桜依は顔を赤らめて胸元を押さえながらも、オークどもの前に立ちはだかる。
 トレーニングルームにも混乱は伝わり、女性たちは我先にと逃げ出し始めた。そのままはやく逃げ出してくれればいい、というのは理屈の話で、
「痛ぁ!」
「どいてよ!」
「きゃあ!」
 混乱する扉の前では押し合いへし合いが続き、転倒する者、そこを踏みつけにされる者など、なかなか避難もままならない。
「予期せぬことは起こるもの。これも聖王女がお与えになった試練というものでしょう……!」
 両手を組んで祈りを捧げる昴に、無数の触手が這い寄ってくる。睫毛をわずかに震わせただけでそれに耐えるが、おぞましい触手は両手両足に絡みつき、昴の身体が宙に浮く。汗に濡れたシャツの中で、豊かな胸が躍った。
 その胸にも、触手は絡みつく。胸を押さえ込んでいた下着は引き裂かれ、汗と粘液とで透けたシャツに、突起が浮かび上がった。
「あ……!」
 触手が脇腹を這い上がり、昴は思わず嬌声をあげてしまった。
 まさか、そんな。困惑しつつ、歯を食いしばる。
「昴さん……!」
 咄嗟に駆け寄ろうとした桜依だったが、あまりの発汗のせいか目眩を覚え、触手の前でへたり込んでしまった。
「い、いや……ッ!」
「ぶひひひひ! なぶってほしいぶひ?」
 オークは嘲笑とともに触手を蠢かせる。後ずさりする桜依にボタボタと汚らしい粘液が滴り、彼女を汚していく。太い触手が裾からシャツの中へともぐり込んでいく。ぴったりと張り付いたスパッツにさえ、触手は無遠慮に侵入してきた。
「そこは……だめ!」
「まずいわねぇ……」
 辺りを見回してため息をついたフレナディアも、オークどもに取り囲まれた。
「キサマも粘液まみれにしてやるぶひ!」
「あら……強引なのもたくさんなのも、嫌いじゃないけれど……」
 四方八方から触手が群がってくる。フレナディアは両手にそれを取り、指を絡ませた。しかし、とても手が足りない。
「ちょ~っとこれは、お腹いっぱいね。溢れちゃいそう」
「冗談じゃない!」
 エメラルドが、這い寄ってきた触手を叩き落とした。
「ぶひ? ぶひひひひ! 気の強いメスを屈服させるのも、大好物ぶひ!」
「ぶざけるな! 誰が貴様らなんぞに……。
 我はヴァルキュリアの戦士、エメラルド! 貴様らの狼藉、ここまでだ!」
 と、指を突きつけて睨みつけた。
 するとオークどもは表情を一変させ、
「ケルベロスぶひ!」
 一転して殺気が込められた触手を伸ばしてくる。
 1本、2本とかわすが、ついに触手にからめ取られてしまった。それは骨も砕けよと、エメラルドを締め上げる。
「ぐあ……!」
 そこに巨大な銛のように研ぎ澄まされた触手が襲いかかり、脇腹を深々と貫いた。汗と粘液が混じり合った臭いが充満していたジム内で、飛び散った血の臭いは余りに鮮烈だった。
 なおも触手は絡みつき、エメラルドの首を締め上げる……!

●汗と粘液
「ぶひひひ、こっちにもメスがいるぶひ!」
「きゃあッ!」
「落ち着いて! キミたちには、指一本だって触れさせない!」
 メルティアリアが、扉に群がる女性たち向けて放たれた触手を叩き落とした。
「ごめんね、遅くなっちゃって!」
「怪我はない?」
 ラウンジから、涼子とサロメがやってきた。サロメが転倒した女性を助け起こし、逃がす。
 ようやく混乱を収めることが出来たようだ。同じく現れたナナコは、
「キミたちを守る、ねぇ。頼もしいけど、メルちゃんが言うとやっぱり可愛いわ!」
 笑って九尾扇の羽を伸ばし、オークどもを打ち据えた。
「さぁ、ボクたちが相手だよ!」
 涼子は拳を握りしめて飛び込んでいく。体内からわき上がるグラビティ・チェインを籠手に込め、驚きに目を見張ったままのオークに向け、叩きつけた。
「絶対に、倒す!」
「ぶひぃ~ッ!」
 顔面を砕かれ、吹き飛ぶオーク。
「おのれ、こっちにもケルベロスぶひッ!」
「げほ……」
 首を締め上げる触手が緩み、エメラルドは床に落下した。
「すまない、大丈夫?」
 サロメの放った桃色の霧が全身を包み、よろめきながらもエメラルドは立ち上がった。
「なに……私が不覚をとっただけのこと。戦いはこれからだ」
 とはいえ、囮となって嬲られ続けた皆の疲労は濃い。
「ボクの次に可愛くなるくらい、とびっきり可愛くしてあげるね!」
 メルティアリアが合図すると、色とりどりの花々が周囲に咲き乱れた。爽やかな芳香が、ジム内を満たす。
「ありがとうございます……わ、わたしだって!」
 内股から粘液を伝わせながら、桜依は立ち上がった。エクトプラズムで作りだした疑似肉体が、仲間たちを包む。
 ぶひぶひとオークどもが喚く中、低い低い声がどこからか聞こえてきた。
「聖なるかな、聖なるかな。聖譚の王女を賛美せよ、その御名を讃えよ、その恩寵を讃えよ……」
 昴だ。粘液に全身を汚されながらも、一身に祈りを捧げる。
「その加護を讃えよ、その奇跡を讃えよ……!」
 祈りが終わるとともに、その全身がワイルドスペースに浸食されていった。
「ああああッ!」
 全身を貫く激痛。黒く淀んだスライムのごとき姿に変化した昴は、悲鳴のような祈り、祈りのような悲鳴を上げてオークどもに襲いかかった。彼女が声を張り上げるたび、オークどもの血が流れる。
「凄まじいね」
 感嘆の声を漏らしたサロメはオークどもに向かって微笑んでみせ、紫の瞳でのぞき込んだ。
「ぶ、ぶひ?」
「武器なんて、キミには似合わない」
 投げキッスされたオークは、なんということか。傍らにいたオークに触手を叩きつけたではないか!
 オークどもは、急いで取り押さえようとしたが……。
「チャンスだね!
 かわせるかな? 地摺り焔鮫ッ!」
 涼子の蹴りから放たれた炎が、獲物を喰らう鮫のごとくオークどもに襲いかかった。
「みな、さすがだな。私も出遅れてなど、いられん!」
 傷の痛みは残るものの、エメラルドは光の翼を大きく広げた。その暴走が全身を光の粒子へと変えていく。
「喰らえッ!」
「おのれッ!」
 エメラルドを取り囲むオークども。
「ぶひひ、さっきの二の舞ぶひ!」
「そう、うまくいくかしらね?」
 フレナディアは両手に構えたバスターライフルを、オークどもの鼻先に突きつけた。その銃身を振り回すように、巨大な魔力の奔流を放つ。
 威力はさほど高くない。しかし喰らったオークどもの動きは、確実に鈍る。
「ざまぁみろ。下品な輩は、焼き豚にして焼きバナナにしてやんよォ!」
 言葉の意味は分からぬが、ナナコのすごい自信である。放たれた蹴りはそれを裏付ける威力で、暴風を巻き起こしながらオークどもを蹴散らした。
 しかし、オークどもも怯んではいない。罵声を上げながら、触手を伸ばしてくる。
 立ちはだかったメルティアリアが、鋭く尖ったそれらを弾き落とす。
 しかし、触手の先端から放たれた毒液を浴びせられ、吐き気を覚えて膝をついた。
「メルちゃん!」
「指一本だって触れさせないって、言ったでしょ。もちろん、キミにだってそのつもりだもの」
「……カッコいいじゃない」
 思わず呟いたナナコはそっぽを向き、
「やっぱり可愛いけど!
 でもサンキュな! 背中はよろしく頼むぜェ!」
 と、敵群めがけて突進していく。
「照れてる……んでしょうか?」
 首を傾げた桜依が、メルティアリアの傷を癒す。
「そうだね。王子様みたいだったよ、さっきの姿は」
 サロメが微笑む。お株を奪われたような格好だが、そこで見苦しい嫉妬など起こさないのが、理想とする王子様。
「あとは私が引き受けた。いこう、ステイ!」
 主の声に応じて、テレビウム『ステイ』が凶器を振り回しながら、敵群の前に躍り出た。それにメルティアリアのボクスドラゴン『ヴィオレッタ』も続き、三者は敵の攻撃を盾となって受け止めた。
「おのれ! 大人しくしていれば、もっと汗をねぶってやったぶひ!」
「だれが……! そんな変態は、巫女であるわたしが退治してあげます!」
 顔を真っ赤に赤らめながらも、桜依は両手に護符を構えた。召還された黄金の融合竜が、魔力の息を吹き付ける。
「残りは、あと……」
 一時の狂気から我に返った昴が、『達人の一撃』で1匹のオークを斬り伏せた。
 もちろんオークの反撃も凄まじく、ジムの床は両者の血で汚れている。
「絶対に、倒すッ!」
 涼子のバトルガントレットが炎をあげ、その拳を急加速させる。凄まじい威力に、喰らったオークは血反吐をまき散らしながら、高価なトレーニング器具を押しつぶして倒れた。
 しかし、彼女は少し飛び込みすぎた。焦ったか。
 その足元を触手が払った。新たな触手が首を絞める。
「惜しいメスぶひ。ケルベロスでなければ、連れ帰ってやったぶひ」
「勝手な、ことを……!」
「気をしっかり持て、涼子殿!」
 エメラルドの槍が一閃する。触手が数本、まとめて切り落とされた。
「こんなのは、どうかしら?」
 フレナディアがミサイルランチャーを取り出した。その着弾とともにガスが溢れ、オークどもを石化していく。
「炎と硝煙の宴に、酔いしれましょ?」
 フレナディアの言葉通り、続く激闘に、辺りには硝煙の臭いが立ちこめていった。
「ぶ、ぶひ……!」
 ついに、残されたオークは1匹。敵は触手を蠢かせながら後退りする。
「あなたも聖王女の奇跡を……その身に受けなさい」
「ぶ、ぶ、ぶひぃぃぃぃッ!」
 細められた目の奥で、妖しく瞳が輝く。再び魔獣となった昴の牙爪が全身を切り裂き、オークの身体は窓ガラスに叩きつけられた。あまりの衝撃に、それは粉々に砕け散る。
 血飛沫をまき散らしながら、オークの死骸は落下していった。

「どうしたものかしらねぇ、これ。やっぱり片付けていった方がいいの?」
 フレナディアが苦笑して、肩をすくめた。
 吹きッさらしとなった窓からは風が吹き込み、器具の残骸があちこちに散らばっている。
「これは……!」
 警戒が解かれ、戻ってきた社長は言葉を失っていた。あまりの惨劇にかと思いきや、皆のところに駆け寄ってきた。
「引き締まった身体と、美しさ! 『ケルベロスとトレーニング!』、次はこれよ!
 どう、あなたたち! 一緒にやってみない?」
「は、はぁ……」
 手を握られた昴が、目を白黒させた。
「転んでも、ただでは起きないんですね」
 呆れたように、感心したように。桜依が息を吐き出した。
 とにかく今は、シャワーが浴びたい。

作者:一条もえる 重傷:エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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