ここは熊本。ケルベロスとドラゴンが未来を賭し、命と命で凌ぎを削った魂の戦場。
勇壮にそびえた城は、今や跡形もなく。瓦礫と化した城跡から、怪しい紫炎がたち昇る。
空中に浮遊するは、魔竜王の遺産。ドラゴンオーブ。
怪しい霊気は漂い、漂い。苛烈に散った侵空竜のコギトエルゴスムへと優しく寄り添う。
名状し難い力の奔流が荒れ狂い、瞬く間に白銀の老竜が大地に鎮座した。
魔竜アストラ・ワイズ。叡智に溢れ朽ちたる身体を持つその竜は、前足を優雅に交差させると、絹のように滑らかな髭をその足に乗せ刹那の瞑想を行なった。
閃熱。雷光。暴風。微動だにすることなくそれらは巻き起こる。古竜の叡智は人知を超える。
己の力を確認したアストラは、穏やかなる瞳を優しく閉じた。
次にその瞳を開くときは、オーブを略奪せし矮小なる者が現れし時と決め。
アモーレ・ラブクラフト(深遠なる愛のヘリオライダー・en0261)はケルベロスを迎えると、勇壮に両手を振り上げた。
「熊本城で行われたドラゴンとの決戦。我々は勝利を収めることに成功しました。
過半数の侵空竜エオスポロスを撃破し、廻天竜ゼピュロスも打ち砕きました。これによりドラゴンオーブは熊本に留まっております。
エクセレント! 死力を尽くし戦って下さった皆様に感謝と称賛を!
しかし敵もさる者。19体の自爆により、ドラゴンオーブは目を覚ましました。あれは『時空の歪み』のような空間を生み出し、その内部を禍々しい力で満たそうとしております。
その力が充ちた時、ドラゴンオーブから魔竜王の後継者となるべき強大なドラゴンが生み出されてしまう事が予知されています。
猶予はありません。一刻も早くドラゴンオーブを奪取。或いは破壊する必要があります。
あれが存在する時空の歪みの中には、既に覇空竜アストライオス、喪亡竜エウロス、赫熱竜ノトス、貪食竜ボレアースの4竜が突入しております。
そして、その歪みの周囲には、ドラゴンオーブの力で出現したと思われる『19体の強大なドラゴン』が侵入者を阻止すべく待ち構えているのです。
今回の作戦は、この19体のドラゴンを抑え、時空の歪みの内部に突入。アストライオスら強大なドラゴンと対決し、ドラゴンオーブを奪取或いは破壊することとなります。
危険かつ成功率の低い無謀な作戦となりますが、現状これ以上の作戦は存在しないのです」
真摯さを瞳に湛え、アモーレが資料にレーザーポインターを照射する。
「当班が担当するのは、出現した19体のドラゴンの1体『魔竜アストラ・ワイズ』の迎撃です。
当班は、別動隊が時空の歪みに突入すると同時に、アストラへの攻撃を行い、かの竜を足止めすることで別動隊の突入を確実なものとします。
その後、別動隊が撤退するまでの間、アストラを抑え続けることが任務となります。時間は最大で30分ほどとなるでしょう。
つまりは足止め部隊ということですが、これは決して容易な任務ではありません。
敵となるドラゴンは、覇空竜アストライオスに勝るとも劣らない戦闘力があり、少人数のケルベロスでの撃破はまず不可能でしょう。30分耐え忍ぶことすら困難だと想定されます。
また、19体のドラゴンは目の前の敵の排除に成功すると、他のドラゴンの救援に向かうという性質を見せます。1か所でも戦線が崩壊すれば、連鎖的に全戦場が崩壊することは必至です。
仲間のケルベロスの支援も期待できますが、可能ならば当班だけでドラゴンを抑え続ける作戦を練ることが推奨されています。
19竜は一人でもケルベロスが健在であれば、その場で戦い続けます。
なお、支援チームの作戦によっては、戦力を集中してドラゴンの撃破を狙う作戦が採られる場合もありますので、その場合は支援チームと力を合わせてドラゴンの撃破に当たってくださるようお願い致します」
最後にアモーレは顔を上げ、ケルベロスの瞳を見つめた。
「熊本市にはまだ数万人規模の市民が取り残されており、その救助を行うには時間が足りません。彼らを救うためには、なんとしてでもドラゴンオーブを処理する必要があるのです。
あまりにも危険な任務。無理強いはできません。ですが、どうか真摯に生きる人々のため、その番犬の牙を振るってください」
アモーレは深々と頭を下げた。
そして、どうか皆様も。生きて無事に戻って来てくださいますように。
参加者 | |
---|---|
花凪・颯音(欺花の竜医・e00599) |
エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859) |
レカ・ビアバルナ(ソムニウム・e00931) |
楡金・澄華(氷刃・e01056) |
和泉・紫睡(紫水晶の棘・e01413) |
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020) |
遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166) |
ナザク・ジェイド(甘い哲学・e46641) |
強大な魔竜と対峙する者たちがいた。
前中後衛の3人がアラームをセットする。時間は5分おき。
橙の髪を揺らす穏やかなエルフ、レカ・ビアバルナ(ソムニウム・e00931)。
ドヤ顔で敵を見つめる銀の少年、ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)。
豊かな藍色の髪を姫カットにした女優、遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166)。
互いに決意を瞳に湛え、今運命の時を刻み付ける。
歌声が廃墟に響いた。鞠緒の歌う5分の歌。威風堂々と戦いを告げ。
前触れはなかった。竜は動かず眼すら開けず。
ただ、光が破裂した。
閃熱。堪らず腕で顔を護る。骨身を焦がす魔的な理。灼けつく。苦悶。武器を持つ手がままならない。
クラッシャーかと見紛う火力に番犬達は戦慄す。これが魔竜。強者の名を冠せし者。
脚まで届く銀髪の少女、エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)の視線が、その友、銀髪のミステリアスなドクター花凪・颯音(欺花の竜医・e00599)と絡み合った。回復の余剰が無いように。息の合ったコンビネーション。守護星座が輝き、霊薬が注がれる。
さらに、気だるげな銀髪のサキュバス、ナザク・ジェイド(甘い哲学・e46641)の銀鎖から生まれた魔方陣、鞠緒のウイングキャット『ヴェクサシオン』の空色の翼、颯音のボクスドラゴン『ロゼ』の柔らかな光が前衛の防備を強固にしていく。
耐久戦。初手の選択がモノを言う。
護りと並行して鍵となるのはBS。この戦いでの主軸はクラッシャーに在らず、ジャマー。
凛々しき忍、楡金・澄華(氷刃・e01056)は、気合を入れるように漆黒のポニーテールを纏め上げた。蒼と漆黒の愛刀を吸い、魂を震わせてゆく。
その耳元でヴィルフレッドがなにやら敵の情報を囁いた。
困り顔の銀髪ドラゴニアン、和泉・紫睡(紫水晶の棘・e01413)の鷹眼薔薇が両の翼を広げ、澄華と鞠緒の精神を研ぎ澄ます。
後は、敵の脚を砕く必要がある。
橙の髪が風になびき、レカが狙いすましてスイングする。現れた竜の顎がアストラの脚に喰いついた。
追い打ちをかけるように鞠緒の絶望の歌が、纏わりつくような情感で、アストラを呪うように響き渡る。
だが泰然自若。竜は微動だにしない。
風が裂く。敏なる千の刃が斬撃となって。暴風。装甲が削られる。狙いはまたも前衛。一点集中で砕くつもりか。
影が走る。
竜の死角から地を走る紫電の雷撃。当たる。
だが、揺ぎ無い。澄華の眉目が怪訝に寄った。
読めぬやつだ。底知れぬ。……なにを考えている?
試しに言葉をぶつけてみる。
「以前戦い、倒した竜は仲間のためにその命を捨てた誇り高き竜であった。名はグザニア……私はこの竜を斬ってきたぞ、仲間と共にな!」
反応は凪。聞いているのかすら伺い知れぬ。
紫睡もまた、言葉を投げかけた。
「なぜ他のドラゴンは攻勢に出ているのに、貴方だけは守りに重きを置くのですか?」
答えはやはり返って来なかった。
そのやり取りを、凍った瞳で見つめる少女がいた。
エルスの中で記憶がフラッシュバックする。竜十字島。次々と己が身を犠牲に捧げた気高き仲間。託されたメモリー。海中は恐怖と絶望で凍る様に冷たかった。当時まだ11。少女の心を砕くのに、仲間の死は十分すぎた。
――ドラゴンは殺すべきもの。
憎むべき巨悪。誇り高き存在。どちらの評価も、ひとひらの真実。
爆光。豪砲。引き絞った魂の投擲。光が駆け抜ける。
吹き荒ぶ千の斬撃。装甲の端が飛び、豊かな髪が舞い千切れ、千の血潮が風に舞う。
光と暴力のワルツは止まず、加速度をつけて止まず、止まず。命を燃料に踊り狂う。
友が、あの渦の中に居る。先ほどまで一緒に戦っていた仲間も、竜を抑えている。抜かれるわけにはいかない。熊本の命運はこの手にかかっている。
市民の声。親しき友からの激励。先ほどまで共に戦っていた仲間もまた、身を案じこの作戦の成功を祈っている。託された想いが支えとなる。
仲間たちの声は連携を生み、互いに護り合い、支え合う。
しかし、持久戦。遂に竜の魔光が番犬を貫く。
最も損傷が深かったのは銀髪のドクター、颯音。
熱と雷とに焼かれた身体は既に立っているだけでも奇跡に近かった。
閃光が弾ける。腕で目を護る。灼けつく熱は、しかしその身を焼かなかった。恐る恐る目を開く。空中に浮かぶ小竜の影。力尽きたように崩れ落ちる。
「ロゼ!!」
小竜は、主人の腕の中で誇らしげに微笑むと、粒子となって風に溶けた。
怜悧な瞳が竜を射貫く。哀しみはしない。ただ、誇りに思う。
襲い来る千の斬撃。
青の瞳は雄々しく立とうとするが――、
遂に颯音は崩れ落ちた。
その身体を力強く抱え、避難させたのは紫睡。
「まだ……戦える……!」
「後は私たちに任せて下さい」
血を吐くような盟友の想いを胸に、紫睡は駆ける。
その間に、ヴェクサシオンがDFへと移動している。常に3枚はDFを維持する作戦。その護りは固い。
足止め、パラライズ、アンチヒール、催眠。そして炎がようやく付きだした状態。
天空から降り注ぐ爆雷。
ヴェクサシオンの身体が霧散した。
相棒が空に溶けるのを見て、鞠緒の旋律が力を増す。仲間を励ますように、己を励ますように。
代わりにDFに入ったのはレカ。
「護りましょう」
そう声をかけた瞬間に、気づく。既に満身創痍のナザクに。
視線を感じ、ナザクが笑った。
「まだまだ倒れないぞ。私は無事に帰ってヴィルフレッドのチャリをヒールしなければいけないのだ」
どこまでも真面目くさった顔で、紫のサキュバスは呟いた。
キョトンとするレカの横で、ヴィルフレッドも乗ってくる。
「大丈夫。そんなこともあろうかと、僕のチャリは全国津々浦々に配備されているからね!」
ドヤ顔。圧倒的なドヤ顔。
「な、なんだって!? そんな大量のチャリを……。ケルベロスの鏡だな。日本経済への貢献は計り知れん」
真顔とドヤ顔。軽口を叩き合う二人を見つめ、橙のエルフはクスッと愛しげに笑みを浮かべた。
「ふふ。それでは、この戦いを無事に終わらせたら、サイクリングにでも行きましょうか」
とりとめのない会話。日常への希望。そんな、すぐ先に見える人生が、なによりも生存本能を揺さぶることもある。それはリアルに。実にリアルに。手放したくない光となって輝き囁く。
千の斬撃が舞う。ナザクを庇ってレカの橙の髪が舞い散った。
ヴィルフレッドの損傷も限界が近い。
だが、ここにきてようやくアストラが攻撃以外の選択を選んだ。
大地が鳴動し、精霊が光の柱となって天を貫く。
そして――、
初めてこの戦いでアストラの眼が開かれた。
澄華が、鞠緒が、レカが、ヴィルフレッドが、四方から果敢に打ち込み。エルス、紫睡、ナザクの放った回復強化の光が戦場を包む。
それを迎え撃つように閃熱が瞬いた。
一人の男が前に出た。
次の斬撃に耐える体力は無い。ならばこの身体。時間と引き換えに差し出そう。
「誇り高き竜よ。その叡智と魔力を同族の為に使うというならば、今ここでぶつけてみせろ。俺も同じだ。仲間の為に、ここを明け渡すわけにはいかない!」
ナザクは吼えた。
……絶対に敵わぬ敵を前に、一歩も引かぬ人々がいた。「俺」が此処を明け渡す訳にはいかない。命が武器になるというのなら、それも良いだろう。何処までも喰らいついてやる。
竜の両眼は、見通すような瞳で男を見つめた。そして――、
その鱗に異変が起きた。静かに、混ざるように、色を失う。替わりに浮かび上がるは、星々の煌めき。
金色の瞳が色相を変えた。
光が消え、混沌が渦を巻き。双眸の奥に広がるは星の大海。
開く。闇が。クワと開く。
深淵が裂けた。
光が爆ぜる。燦然と。
防ぐこと能わず。無比の一撃。
後にはボロが横たわる。
「ナザクさん!!」
レカがその身を抱え、飛び退った。
弱々しい呼吸。絶え絶えに消えそうな生命力。重傷などというレベルではない。
目は移ろい、声を発せぬ。唯一、ただ掌のみが、弱々しくも確かにレカに想いを疎通させた。
――頼む。
託された想いは熱となって混ざり。動かす。その身体を。
「ここで少しお休みください」
戦友を戦場の外に横たえ身を翻す。その瞳には、先ほどよりも更に色濃く決意が流れ込んでいた。
そして、一人の少年もまた決断を下した。
ヴィルフレッドはふと空を見上げる。
あれを見た後だ。正直、震えが来るよね。
自嘲めいた笑みを浮かべ――、
でもね。ドヤ顔は僕のアイデンティティさ。誇りを顔に貼り付けることが出来ないような人生に用はない。
「君が仲間を想い戦う様に、僕もあの空間にいる友人、守る者がいる仲間のためにここに立っているんだ。なら僕もみんなの様にかっこいい様、見せたいんだよね!」
挑み、全身でドヤる。矜持を全身に纏わせて。
竜は首をもたげ――、
光が爆ぜる。燦然と。
嵐の中の木の葉のように、その身体は弄ばれた。
ボロが大地に横たわる。
友の身体を抱き、鞠緒がフワリと戦場を駆けた。
「あなたの覚悟は、とてもとても美しかったです」
――そうでしょ?
言葉にならず、表情すら変えることが出来ない。
だが鞠緒は確かに見た。友の自信に満ち溢れたドヤ顔を。
「その誇り、皆の力にさせていただきます」
友への想いを歌に乗せ、鞠緒が戦場を駆ける。歌は4曲目が終わるところだった。
やはり、あなた方は身を差し出してしまうのですね。
レカの瞳は哀しげに、しかし少しの誇らしさを以て揺れていた。
今日、様々なところで見た光景。誰かが誰かを想い、身を投げ出す姿。
信頼や愛情。後に残った者に、先を託して。
ドラゴン側から見たらきっと、人間はただの弱者だろう。けれど人間は往生際が悪いのです。
託された想いに応え、全力で身を砕いた。そろそろ私の番も終わる。
20数分。残りが4人。少しでも時間を稼げれば、乗り切れることだろう。
一瞬、仲間を振り返る。
――託しましたよ。
フワリ身体が躍る。光に誘われる蝶のように。
穏やかなエルフは、紫睡の眼前で閃熱を一身に浴び、糸の切れた人形のようにその務めを果たし切った。
これだけ力の差を感じた戦場があっただろうか。すでに味方は半数以上倒れ、相手は悠然と見下ろすのみ。
DFはもう自分だけしかいない。紫睡の身体は震えた。
「もう……少しだよ……」
目が、口の動きを捉えた。ハッと見つめる。そこには、既に倒れた仲間の姿があった。
「紫睡さん……。もう少し……もう少しだよ……。予感がするんだ。もう少しだけ、頑張ればきっと……」
颯音のそれは果たしてハッタリか。それともなにかの空気を明敏に感じ取ったのか。
どちらにせよ、紫睡にとっては効果があった。
そうだ。中に向かった仲間たちもまた、最善手を尽くしている。
そして、颯音さん。倒れたと思っていた仲間もまだ戦っていた。こんなに頼もしいことは無い。
今身体が動くのは、この友たちが身を砕き、繋いでくれたため。
怯えた表情が、形を変える。
戦おう。たとえ、最後の一人になろうとも。
友の想いを力に変えて、紫睡は護る。誇りを胸に。
――美しい。
この苛烈な戦場で歌いながら、鞠緒は仲間の生き様と、竜の生き様の中に美を見出していた。
矜持を以て挑み散った仲間。その矜持を汲み取り、誇き高き無比の一撃を放った竜。
命と命。未来と未来を奪い合う関係だというのに、認め合うものもあるのだ。
私も全力で応えなければならない。人の未来をつかみ取るために。
遠之城家に伝わるオラトリオの正装を翻す。可憐に、華麗に、凛とさせ。
その歌声は気丈に、誇り高く、気高く響き渡る。
届け、伝われ、英雄の歌。
希望の歌が、仲間の未来を照らし出す。
ポニーテールが躍動する。
愛刀を縦横無尽に振るい、澄華は戦場を駆ける。
私には、難しいことはよく分からん。漠然と、遺産とやらをなんとかしなければこの世界がまずいことは分かる。
だが、それだけ。リアリティの欠如したお題目だ。
そんな私だが、簡単なことならばよく分かる。
周りの者たちの瞳に宿る炎の温度。どれだけの覚悟と信念をもって戦っているのか。それだけは私にもビンビン感じられる。
誇りに思うよ。命を預け合える善き仲間だ。
30分。必ず30分、時を稼いで、そして一人残らず退避させる。
剣技に術……私の持てる戦技でもって。
どのような手段を用いてでも。
――殺したい。
焼きついた過去の映像。繰り返し、繰り返し、絶えることなくエルスの中で再生され続ける血塗られた映像。
理性なんて弾き飛ばして、力の限りあいつを滅茶苦茶に壊してしまいたい。
魂が獰猛に牙を剥いていた。
でも、だけど……。
踏みとどまる。理性の淵で。焼きつく仲間の決死の覚悟。
記憶はフラッシュバックする。あの日見た、仲間たちの覚悟。取り戻したい、取り戻せない、仲間たちの笑顔。
心に刻め。私はメディック。今の私には仲間を救う力がある。あの日を繰り返すな。信じて命を託されている。応えなくてどうする。
憎悪も、殺意も、制御できるものではない。だけれど今この瞬間だけは――、
――凌駕しろ。仲間の命がかかっているのよ。
杖を握る掌は、白と朱とに染まっていた。
アラームが鳴り、鞠緒の歌が6曲目に入る。
4人がまだ大地の上に立っている。30分まで後5分。結末は見えた。戦略と、絆が導いた勝利。
だが――。
異変は起きた。
力が。暴力的ともいえる圧倒的な力が、歪みから噴出した。
膨大な力の奔流は、アストラの身体に纏わりつき、脈動と共にその身体を膨らませ、どんどんと、どんどんと、強靭に、巨大にと変貌させていく。
何かが起こったのだ。歪みの中で。オーブを砕いた結果、それとも奪われた結果――。
考えている暇は無かった。仲間を担いで駆け抜ける。
そして、エルスの魂の咆哮だけがその場に残った。
「グラヴィオール! 灼岩竜ラヴァグルド! 雪晶竜ニヴァリス! 廻天竜ゼピュロス! この手は奴らの血に染めたわ! そして! 竜十字島へ、お前らに定命化の祝福を齎して帰ってきた、お前の眼中の塵芥は! 必ず、お前の命を貰い、そしてお前らを一匹残さず滅ばして、仲間の仇を討つわ!」
その日、番犬は竜の希望を粉砕した。
怨嗟の咆哮が響き渡る。慟哭のように。魔竜の悲しみが空を震わす。
だが竜よ。その数十倍。数百倍の市民が、熊本の地でお前たちに魂を引き裂かれたのだ。そして今もなお、お前たちはその地を侵略している。
始まる。大戦争が。これは取り戻すための戦い。
優しい人々の営みを、在るべき処に取り戻すための戦い。
取り戻そう。その手に。
人々の命運を、我々は握っている。
作者:ハッピーエンド |
重傷:ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020) ナザク・ジェイド(とおり雨・e46641) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年7月20日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 14/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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