●魔鏡をまといし竜
熊本城……15世紀からの長い歴史を持つその建物は、今や崩壊の時を迎えていた。
侵空竜エオスポロスの自爆は、城に致命的なほどの被害を与えていたのだ。
自爆による土煙がおさまると、城はもはや跡形もないほどの状態となっており、代わりに1つの玉が出現していた。
覇空竜アストライオスが総力をあげて手にいれようとしていた『ドラゴンオーブ』が姿を見せたのだ。
歪んだ空間のなか、オーブはただ怪しい輝きをたたえている。
変化はそれだけに留まらない。
オーブの輝きを受けて、エオスボロスが残したコギトエルゴスムが、うごめき出す。
最初、現れたのは輝きだった。
まるで鏡がまばゆい光を受けたときのように、青白い光が周囲へと広がる。
そして、輝きと共に竜は姿を現した。
まるで笑い声のようにも聞こえる鳴き声を、まず竜はもらした。
ひょうきんな印象すら受ける声としぐさ……だが、青い瞳は強い憎悪に輝いていた。
細長い鋼を何枚もつないだ形の翼を広げると、鏡にも似たなめらかな表面に瓦礫が映し出された。
歪んだ鏡像を打ち砕くかのように、乱暴にはばたかせる。
無数の光が、空中で乱反射しながら周囲へと広がっていき、散らばるかつて城だったものの残骸を吹き飛ばしていく。
そして、魔竜アヴニール・リフレクタは、ドラゴンオーブを狙うものを跳ね返す鏡となって、その場に立ちはだかった。
●魔竜を足止めせよ
集まったケルベロスたちに、石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は熊本城の戦いにかろうじて勝利できたことを伝えた。
侵空竜エオスポロスの過半数を撃破し、さらに迴天竜ゼピュロスの撃破にも成功したことで、覇空竜アストライオスはドラゴンオーブを竜十字島へ移送する儀式に失敗した。
「もし参加されていた方がいらっしゃるなら、お疲れさまでした」
ねぎらいの言葉を述べて、しかし、と彼女は続ける。
「出現したドラゴンオーブは『時空の歪み』のような空間を作り出して、その内部を禍々しい力で満たそうとしているようなのです」
力が満ちたそのときは、魔竜王の後継者となる強大なドラゴンが生み出されることが予知されているらしい。
それを阻止するには、『時空の歪み』へと突入し、ドラゴンオーブを破壊あるいは奪取しなければならない。
歪みの内部にはすでにアストライオスとその配下である喪亡竜エウロス、赫熱竜ノトス、貪食竜ボレアースが侵入しており、時間の猶予はない。
「ただ、歪みの周囲にはドラゴンオーブの力で強大なドラゴンが19体出現しています。空間への侵入を阻止しようと待ち構えているようです」
19体のドラゴンを突破して歪みの中へ潜入、アストライオス以下4体と対決し、ドラゴンオーブを破壊あるいは奪取する……。
非常に困難で、危険な作戦だが、現状他にやりようはない。
どうか協力してほしいと芹架は頭を下げた。
「皆さんに担当していただきたいのは、19体の魔竜のうち1体『アヴニール・リフレクタ』への対処です」
鏡のような金属質で20m級の巨大な体を持つドラゴンだ。
まずは歪みの内部へと突入するチームとともに攻撃を開始、援護することになる。
「そして、突入チームが帰還するまで……最大30分程度、ドラゴンを抑え続けて退路を確保し続けるのが目的です」
ドラゴンたちは目の前の敵、すなわちケルベロス排除に成功した場合、他のドラゴンの救援に向かうという。1ヶ所でも崩れると、連鎖的に崩れることになるだろう。
「なお、アヴニール・リフレクタを含めて、19体のドラゴンはいずれもアストライオスに勝るとも劣らない戦闘能力を持っています。1チームで撃破するのは不可能でしょう」
ただし、生み出されたばかりであるためか、1人でもケルベロスが残っている限り無視して別の戦場に向かうことはないようだ。
1チームだけで持ちこたえられなくても。支援チームの動きに期待することもできる。もちろん、難易度は高いがこのチームだけで持ちこたえられるならそれにこしたことはない。
なお、支援チームの判断によっては戦力を集中して撃破を目指すことになるかもしれない。その場合はうまく連携することが必要になるだろう。
「ドラゴンの攻撃手段ですが、主に範囲攻撃を用いてくるようです」
周囲に小さな鏡のようなエネルギーをばらまいた上で無数の光線を放ち、乱反射する光による範囲攻撃が行える。追撃が発生することもあるようだ。
鏡のような体に敵の体を映し出し、その戦意を本人に跳ね返す精神攻撃も可能だ。これも範囲に有効で、対象を麻痺させる効果がある。
「敵が話しかけてくることはありませんが、言葉は理解しているようです。強い挑発を仕掛けることで、単体攻撃を行わせることもできます」
自らが受けた攻撃の鏡像を作り出して跳ね返す攻撃は非常に強力で、守りを固めていてもまず確実に倒されるだろう。ただ、他の者が攻撃されるのを防ぐことができる。
一定以上のダメージを受けた場合、自分の鏡像を生み出して身を守ることもある。使用する技の特殊な効果を強化することもできるようだ。
へリオライダーは説明を終えた。
「状況はまだ好転したとは言えませんが、熊本市や熊本城の防衛に参加された方々の努力によって、最悪の状況にはいたっていません」
ドラゴンオーブを破壊するために、どうか力を貸して欲しいと芹架は頭を下げた。
参加者 | |
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村雨・ベル(エルフの錬金術師・e00811) |
リーファリナ・フラッグス(拳で語るお姉さん・e00877) |
ユスティーナ・ローゼ(ノーブルダンサー・e01000) |
レーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990) |
エディス・ポランスキー(銀鎖・e19178) |
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176) |
朱藤・環(飼い猫の爪・e22414) |
エレコ・レムグランデ(小さな小さな子象・e34229) |
●長い戦いの始まり
青白い輝きが、視界を埋め尽くした。
けらけらと笑う声。
魔竜アヴニール・リフレクタはあからさまな実力差を持ちながらも自分の前に立った者たちを笑い、そして射るような激しい光を放ったのだ。
周囲にまき散らした粒子が光を鏡の如く反射してケルベロスたちへと向かう。
「貴方がアヴニールなのね。やっと会えた」
身を守りながら告げるエディス・ポランスキー(銀鎖・e19178)の頭上を飛び越えて、光は後方にいる者たちに襲いかかる。
「SYSTEM COMBAT MODE」
機械的な声を出しながら、マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)が狙われた後衛の1人をかばった。
他にもサーヴァントのディフェンダーが後衛をかばっている。
今のは確かに範囲攻撃だったはずだ。
だが、その威力はケルベロスの単体攻撃……それも、打撃役と比べても遜色ないと感じるほどのものだった。
「マークさん、ありがとうなのパオ。トピアリウス、みんなに動画を見せて回復してあげて欲しいのパオ」
かばわれたエレコ・レムグランデ(小さな小さな子象・e34229)がテレビウムに指示を出しつつ自分は攻撃する姿勢を見せる。
他のケルベロスたちも、攻撃や、あるいは守りを固めるための私たち技を使い始める。
攻撃に回るつもりの者たちが見極めた命中率を仲間たちに伝え始める。狙撃役の1人ですら確実には当たらず、他の者たちも2回に1回よりも悪い。
それでも攻撃しないわけにはいかない。
「竜もまた、自らの命を捨ててでも目的を為そうとし、一丸となり攻めてくる。覚悟と結束力は、私達にも勝るのかもしれない。敵でなければ、その精神を敬いすらしたろう」
ひるむことなく武器を構えて、ユスティーナ・ローゼ(ノーブルダンサー・e01000)が精神を集中する。
「だが、今は戦う時だ。私達の意地を見せる時だ!」
気合いと共に、爆発が竜へと襲いかかる。
一歩遅れて、朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)の呼び出した無人機が合体し始める。
「悪いですけど、容赦してる余裕はないんで!」
形成されたロケットランチャーの引き金を引くと、白い月に似た色をした砲弾がアヴニールへと飛んだ。
集まったメンバーの中では特に高い練度を持つ2人の攻撃だったが、それでも一方しか命中しない。
いや、敵との圧倒的な実力差に比べれば、経験の多寡など誤差でしかないのだろうか。
巨体とは思えぬ機動性で、ドラゴンがケルベロスたちの攻撃をかわし、あるいは撃ち落としてくる。
「さて。わたくしたちの技がどこまでドラゴンに通じるか……?」
呟きながら、レーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990)が少しでも当たる確率を上げるべくオウガメタル粒子を散布する。
マークもドローンを展開して、皆を守らせていた。
「派手に戦ってしっかりと抑えさせてもらうとしよう。こういう戦いはあまり経験がないが……気合があればなんとかなるか!」
リーファリナ・フラッグス(拳で語るお姉さん・e00877)が気合いを入れてハンマーを振りかざす。
砲撃形態へと変化したハンマーから、狙いすまして放った竜砲弾が、アヴニールの足を少しだけ止めた。
「敵味方の思惑がぶつかり合うこの戦場でどこまでやれるのか意地を見せつけちゃいましょう。絶対阻止を目指しますが命はかけちゃダメですよ」
村雨・ベル(エルフの錬金術師・e00811)の手元から、ケルベロスチェインが動き出す。
「っと立場上はそうしか言えないので極力無茶しませんように……ね?」
とはいえ、無理をせずに勝てる相手でないことは、彼女にもわかっているだろう。
鎖は仲間たちを守る結界を描き出し、次なる敵の攻撃に備える。
歪みの仲間に向かった者たちがドラゴンオーブを撃破、あるいは奪取してくれることを信じて、ケルベロスたちは長い戦いを始めた。
●猛攻、鏡の魔竜
魔竜アヴニール・リフレクタの体が、鏡のごとく煌く。
その体に映った自分たちの姿に、ケルベロスたちの体が硬直する。
ドラゴンへと向けた想いが――戦う意思が、自分たちへと向けられる。
心を揺さぶり、掻き乱される感覚。不愉快という言葉などで言い表せないほどの、強すぎる不快感。
容赦なく行われる攻撃は、心と体の両方を打ち砕こうとする。
「敵はどうやらジャマーみたいです。クラッシャーよりましかもしれませんが……」
「まあ、名前からしていやらしい敵なのは明白ですねー」
環の見立てに、ベルが大きく息を吐いた。
エレコは無数のゴーレムをアヴニールの巨体へとまとわりつかせる。
「この子達、結構重いのパオよ」
たくさんのゴーレムたちによる攻撃は、エレコが使える技の中でもっとも当てやすい。
スナイパーやキャスターではない以上確実に当てることはできないが、仕掛け続けていればいつかは当たる。
「我輩のゴーレムを甘く見たパオね。ひとつひとつはちっちゃくたって沢山いればすごいのパオ」
まとわりつくゴーレムが、魔竜の動きを鈍らせていた。
もっとも、回復を優先していると、なかなか攻撃に回る機会は多くない。
「守りをしっかり固めないと、攻撃できる状況じゃないですね。大丈夫ですか、マークさん、ユスティーナさん」
敵の攻撃から仲間たちをかばっている前衛に環が蒸気のバリアを張る。
特にマークは装甲がボロボロになっているのが見て取れるほどだ。ただ、追加装甲を重ねているあたり、今回の戦闘での損傷ではないのかもしれない。
「損傷は修復している。行動に支障はない。――重力装甲展開」
不可視の障壁を展開しながら、マークが応じる。
「ええ。私もまだまだ戦える。示すわ、自分自身を!」
2つのルーンが刻まれた斧で専守防衛の構えを取り、ユスティーナは仲間をかばいやすい位置へと移動していった。
さらにベルも後衛に鎖の守護を展開している。
「とにかく敵の動きを制限していくしかない……な!」
狙いすましてリーファリナが放つ超重の打撃が、敵の可能性を奪って凍らせる。
エディスは彼女と反対側からアヴニールに接近した。
「あんまりそっちを向いてたら、痛い目見るわよ!」
ハンマーから派手にドラゴニックエネルギーを噴射しながら、彼女は魔竜へ接近する。
滑らかなその装甲に得物がめり込む。
「ランベールはどこにいる!」
最接近したその時に、仲間たちには聞こえないようにエディスは問いかける。
竜は青白い瞳をエディスへと向けてきた。
憎しみに満ちたその瞳。知らないと言いたいのか、それとも知っていても教えないと言いたいのか。いずれにせよ、答えはない。
「エディちゃん、どうかしたのパオ?」
「ううん……なんでもないわ、エレコ」
離脱したエディスに、エレコが心配げに問いかけてくるが、彼女は首を横に振った。
主に狙われているのは数の多い後衛で、時折前衛も狙ってきている。
マークやユスティーナ、それにレーンのサーヴァントであるドラヒムはよく仲間たちを守っていた。
だが、3人の防衛役で倍する数の後衛をすべて守り切ることはできない。
光線による激しい追撃を受けて、真っ先に倒れたのはシャーマンズゴーストのイージーエイトだった。
「イージーエイトさんが……まだ10分もたっていないのに……」
消えていくサーヴァントを案じながらも、ベルが時間を確かめる。
もっとも、捧げ続けた祈りによる守りは反射される悪意から皆を守り続けている。
次いで数分とたたないうちにドラヒムが倒れる。
「ドラヒム! あなたの分まで、何が何でも耐えますわよ!」
地獄の炎弾を放ち、燃えた傷痕からレーンが敵の体力を奪う。
だが、まだまだ戦いは終わる気配はない。
さらにトピアリウスが倒されても、まだ10分は経過していなかった。
●倒れ行く者たち
ようやく10分……3分の1が経過しようとしていた。ケルベロスの誰も倒れていないのは回復を重視し、守りを固める技も重点的に使っていたおかげだろう。
環が与えている強いプレッシャーのおかげで、致命的な命中も減ってきている。
とはいえ、回復できないダメージは蓄積していく。
反射された敵意からユスティーナがベルをかばった。
(「……限界ね」)
ユスティーナは、自分がもう次の攻撃を耐えられないだろうと、そう判断した。
回復してくれようとするウイングキャットのなんか可愛いヤツに対して首を横に振る。
そして彼女は敵へ顔を向けた。
「残念ね、やり損ねよッ! ただ薙ぎ払うだけで私が獲れるものか! 来なさいよ、私はここよ!」
アヴニールが憎悪に満ちた目を彼女へ向けてくる。
周囲に鏡の粒子が舞い始める。
視界を青白い光が埋め尽くす中で、彼女はとっさにエディスをかばった。四方八方から襲い来る光線に幾度も貫かれ、ユスティーナはその場に倒れる。
1人が倒されたものの、敵への足止めもだいぶ効果を発揮していた。
状況が動いたのは数分後。
レーンはグラビティ・チェインからエネルギー球を作り出した。
「喰らいなさい……!」
頭上に伸ばした腕の先で、激しく輝く巨大な塊。腕を思い切り振り下ろすと、ポニーテールにした青い髪と大きな胸が揺れた。
回避しようとする竜を追いかけ、必殺のエネルギー球は輝くその体を焼く。
グレイヴに雷をまとわせ、エディスの槍も敵を貫いた。
20m級の竜が、突然周囲に何体も出現する。鏡像を作ったのだ。
威圧感を感じさせる光景……しかし、回復を使わせたのはむしろ良い状況だ。
ベルは対デウスエクス用のウイルスカプセルを準備する。
「このまま回復ループに入れられたなら楽になるはずです!」
投射したウイルスが敵を冒し、回復を阻害する。
仲間たちの攻撃も半分以上は命中している――が、それでも回復を連続して使わせることまではできなかった。
先ほどまでよりもさらに多くの粒子が周囲を舞って、光線による追撃がダメージを加速させる。その光に焼かれて、ベルの体が瓦礫の中へと倒れこんだ。
意識を失う寸前、時計に目をやる。
「15分……たちました」
半分の時間が経過したことを声に出すが、仲間に届いたかどうかはわからなかった。
ユスティーナのウイングキャットを撃破した後、再びアヴニールは分身を行う。だが、分身の数は最初の時ほどではない。
幾度目の攻撃を受けた時か。
マークは反射された敵意に心を揺さぶられ、限界を感じる。
時間は20分近いはずだ。追加装甲でごまかしながらこれだけもたせられたのだから、十分な仕事はしたと言っていいだろう。
「ドラゴンにしてはマヌケな顔だな。鏡を見たらどうだ」
淡々とした機械的な、しかしはっきりと罵倒する声に竜が目を細めた。
鏡のような体に、砲口が映る。鏡写しになった自分の攻撃が、マークが行う時よりもはるかに高い威力を秘めて彼を貫く。
追加した装甲が弾け飛び、傷だらけの装甲が砲弾に引き裂かれた。
重厚な体を砕きながら砲弾が体内を貫通し、マークも倒れる。
回復を阻害して敵の回復頻度を増やすケルベロスたちの作戦は効果を上げているように思えた。とはいえ、ケルベロス側もほとんどが大きな傷を負っている。
守る者ももういない後衛に残ったエレコとリーファリナは、次の攻撃で倒れてもおかしくない状態になっていた。
幾度目か回復した敵が、打撃役に再び削られつつもまた攻撃態勢に入ろうとしている。
リーファリナはそれに気づいて、あえて高々と笑い声をあげて見せた。
「ふははは、図体ばかりでかくてなっちゃいないな! ドラゴンというのも情けないものだ!」
不敵に笑って、バトルガントレットで覆った腕で手招きしてみせる。
竜の巨体が一気に接近してきた。
眼前に突き付けられた鏡から超重のハンマーが飛び出してくる。瓦礫を衝撃で吹き飛ばしながら、打撃がリーファリナの体を地面へと埋め込み、意識を奪った。
「苦しいけど……もう我輩だって守られてるだけじゃないのパオ! 負けないのパオ!」
エレコが叫んで麻痺を吹き飛ばし、刀を振りかざす。
もう20分は過ぎているが歪みの中から仲間が現れる気配はない。
そのエレコに増幅した悪意が向けられて意識を飛ばされたのは数分後のこと。
「エディちゃん……後はお願いなのパオ」
「ええ、あと数分、止め切って見せるわ」
倒れ行く少女の声に応じながら、エディスが固い竜の体に牙を突き立てる。
また一度、竜が分身を発動させた。
環はロケットランチャーを形成して、また月の色の砲弾を放った。無数の散弾と化した砲弾は無数の裂傷を刻む。
ベルは倒れたが、ウイルスの効果は環の攻撃で少しずつ増強されていっている。分身の数は確実に減っていた。
唯一の中衛である彼女はあまり攻撃を受けていなかったが、残った前衛のレーンとエディスは危険な状態だ。
「2人まとめて倒されるくらいなら挑発してこっちに向けさせるのも手かもです。……かじりついてでも、足止めしてみせます」
金色の瞳で環は敵を見据え、敵の動きをうかがう……。
膨大なエネルギーが歪みの中から放たれたのは、その時のことだった。
●撤退
歪みから放たれたエネルギーから、まだ立っている3人は思わず身をかばう。
「見て、アヴニールが!」
エディスの声を聞き、残った2人が敵を見た。
ただでさえ巨大な魔竜アヴニール・リフレクタがさらに巨大化している。
「まさか……ドラゴンオーブが敵に?」
焦った環の言葉から、思わず敬語が外れた。
「とにかく逃げるしかありませんわ。巨大化が終わる前に、急ぎましょう!」
サイズに比例してパワーアップしているとしたら、もう手の付けようがない。
3人で手分けして倒れている者たちを支えて、どうにか撤退する。マークとリーファリナの傷はかなり重いようだ。
戦場から離れたケルベロスたちは、歪みの中から飛び出してきた仲間と、それを追う巨大化した竜たちの姿を見た。
怒り狂うアストライオスの姿を確かめて、ケルベロスたちはこれが敗北でないのだということを察した。
「ドラゴンオーブを、破壊できたんですね」
「ええ……わたくしたちは、耐えきったのですわ」
環の言葉にうなづいて、レーンが傷だらけの拳を握ってガッツポーズを作る。
時間をカウントしていたベルが倒れているが、30分はまだ経過していない気がする。突入班が努力した結果だろう。後5分もあったら全滅していたかもしれない。
ドラゴンの撃破やオーブの奪取などを狙うギャンブルを行わず、確実にやるべきことをやった結果だろう。
巨大化した竜たちの対処をなにか行わなければならないかもしれないが、それは一度撤退して態勢を立て直してからのことだ。
「アヴニール……必ず、また会いに来るわ」
巨大化した魔竜へと振り向いて、エディスが呟く。
そして、ケルベロスたちは撤退した。
作者:青葉桂都 |
重傷:リーファリナ・フラッグス(拳で語るお姉さん・e00877) マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年7月20日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
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