輝きを持った若さを乞う

作者:白鳥美鳥

●輝きを持った若さを乞う
 不入斗・葵(微風と黒兎・e41843)は、8歳のケルベロス。ただ、事情があって学校に通う事が出来ていない。でも、葵は学校に行きたくて、小学校の様子を眺めてから、溜息をついてから、大好きなぬいぐるみを求めて玩具屋に向かっていた。
「あら、随分若い子じゃないですか」
 そう声をかけられた。相手は暗い服装の暗い感じのする女性だった。
「ふふ、その若さ、頂きますね?」
 彼女はそう言うと、葵に向かって襲い掛かって来たのだった。

●ヘリオライダーより
「みんな、緊急事態だ!」
 デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)が、真剣な口調でケルベロス達に話し始めた。
「不入斗・葵がデウスエクスの襲撃を受ける事を予知したんだ。だから、急いで連絡を取ろうとしたんだけど、全然連絡が取れないんだよ。一刻も猶予は無いんだ。葵が無事なうちに、皆に救援に向かって欲しいんだ」
 デュアルは状況を説明する。
「場所は街中の道なんだけど、一般人はいないよ。だから、安心して戦える。相手は女性で暗い雰囲気をしている。花の鍵を持っているからドリームイーターみたいで、若さに対して非常にこだわりを持っているらしい。葵は8歳だから、格好の対象なんだよ。とにかく、一刻の猶予も無い。葵を救うために、急いで向かって欲しい」
 デュアルはケルベロス達に訴える。
「いくら若さに拘るドリームイーターとはいえ、いくらなんでも8歳の葵を狙うなんて酷すぎだよ。みんなの力で葵を救ってほしい。みんなの活躍を期待しているよ!」


参加者
シャーリィン・ウィスタリア(千夜のアルジャンナ・e02576)
隠・キカ(輝る翳・e03014)
マリアム・チェリ(カラカラ・e03623)
不入斗・旭(アンダーボス・e06562)
円谷・円(デッドリバイバル・e07301)
鴻野・紗更(よもすがら・e28270)
不入斗・葵(微風と黒兎・e41843)
天瀬・水凪(仮晶氷獄・e44082)

■リプレイ

●輝きを持った若さを乞う
 不入斗・葵(微風と黒兎・e41843)の前に現れたのは、ドリームイーター・幻想の追走者。
(「あれ……この敵と昔どこかで会ったような……」)
 葵は一目見た時、幻想の追走者に見覚えがある様な気がした。だが、それがあだとなり、幻想の追走者が誘う眠気に襲われ、それ以上の思考が出来なくなってしまった。
「葵、無事か……!!」
 そんな葵に、誰よりも身近な存在である家族、兄、不入斗・旭(アンダーボス・e06562)の声が聞こえる。
「葵、怪我は!?」
 旭に抱きかかえられて、葵はぼんやりと目を開ける。
「……うん。ちょっと眠いけど……大丈夫だよ」
「……葵を傷つけたな……その報いは受けてもらうぞ、おばさん」
 大切な妹を傷つけた幻想の追走者に、旭は静かな殺気を込めた瞳で睨みつける。その言葉に、幻想の追走者はピクリと顔を引き攣らせた。
「おばさんですって? ふふ、貴方、私に喧嘩を売ったわね? こちらこそ、容赦しないわよ?」
 明らかに怒った顔。それはベール越しであるのに分かるほどのものだった。若さに拘る彼女にとっては許しがたい侮辱だったのだろう。
「私を愚弄するものは許せないわ。逃がしはしないわよ」
 幻想の追走者は、持っていた鍵を薙ぐようにして風を起こし、刃状になった風は旭達に襲い掛かった。

●若さを狙うドリームイーター・幻想の追走者
「葵、まずはあなたからだ」
 天瀬・水凪(仮晶氷獄・e44082)は、夢うつつになりかけている葵に対して癒しの風を巻き起こし、その意識を回復させる。
「若さというのは、古今東西自らの自信につなげるために求める方の多いもののひとつでございますが、物事には相応と云うものがございますし、いつまでも若く在り続けるなど、とうてい無理なことです」
「何を言うのかと思えば……。若く無ければ出来ない事は多いもの。私には若さを手に入れる手段があるの。それを実行しているだけだわ」
 鴻野・紗更(よもすがら・e28270)の言葉に、幻想の追走者はくすりと笑う。……そう、このドリームイーターは、ある意味、『若さ』というものに憑りつかれているのだ。
「参ります」
 言葉では通じない相手。そう判断し、紗更は魂を喰らう一撃を叩き込む。
(「歳をとるごとに若さが羨ましくなるものなのかなぁ? 私はそうはなりたくないな……」)
 先程からの幻想の追走者の言葉を聞いていると、円谷・円(デッドリバイバル・e07301)は、そう思ってしまう。でも、自分はそんな羨ましさを抱く者にはなりたくはない。
「蓬莱っ、皆を守って癒して!」
 もふもふのウイングキャット、蓬莱に声をかけると円は構える。
「しびれちゃえっ!」
 伝説上の月竜を模した鱗を幻想の追走者に向かって投擲し、月の狂気で痺れさせた。一方、蓬莱は清らかなる風を旭達に送っていく。更にシャーリィン・ウィスタリア(千夜のアルジャンナ・e02576)も、黄金の輝きをもって紗更達に護りの力を高めていった。彼女のボクスドラゴン、ネフェライラは旭へと属性インストールを施していく。
「だいじな兄妹だもん。二人をひきはなすなんて、絶対だめ」
 助けに来た葵とは初対面だけれど、隠・キカ(輝る翳・e03014)は彼女に自分と似ている何かを感じていた。だから、なおの事守りたい気持ちが強い。その想いを込めて、幻想の追走者に炎に包まれた幻影の竜を撃ち放つ。
「追随させて戴きます」
 マリアム・チェリ(カラカラ・e03623)も、キカに続いて激しい雷を撃ち放った。
「思い……出した、あの時楓ちゃんを殺した奴!!」
 葵には抜け落ちている記憶がある。それがだんだんとはっきりしてきた。そう、かつて葵の大切な人を殺したその相手が……今、目の前にいた。
「あら、お会いしたことがあったかしら? 残念ね、その時に取り逃したなんて」
 葵の甦ってきた記憶と怒りに対して、幻想の追走者は平然としている。寧ろ、その時に葵の『若さ』を奪えなかった事の方を残念がっている様だ。
「もう、あの時みたいに無力じゃない! 皆もいる! だから……全体負けない!」
 そう、今は自分を助けに来てくれた人達がいる。だから、皆を信じて……自らを信じて。
「シャーリィンさん達に護りの力を!」
 葵の紡ぐ歌は癒しと穢れを払う力を乗せて、シャーリィン達へと護りの力を送りこむ。
「バッカルさん! 一緒に葵を守ってくれ!」
「なぁ゛の゛ー」
 旭の声に渋カッコイイ系ナノナノのバッカルさんは、そう返事を返す。旭が幻想の追走者に漆黒の闇で掴みかかると、バッカルさんのハート光線が撃ち込まれた。
「ミーミアは旭ちゃん達の援護をするの! シフォンは葵ちゃん達をお願いなのよ!」
 ミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)は、命中力に不安がある旭達にむかって、オウガ粒子を放ち、命中力を高めていく。相棒のウイングキャット、シフォンは葵たちに向かって清らかなる風を送りこんで行った。また、応援にかけつけてくれたジュスティシア・ファーレル(シャドウエルフの鎧装騎兵・e63719)が、ドローンを展開して旭達の守りを高めていく。
「ふふっ、皆、若いわねえ……。どの子にしようかしら?」
 値踏みをするように、ケルベロス達を見回す幻想の追走者。
「この中では、わたくしが最年長ですが……皆様も範囲の様でございますね」
「という事は、わたくし達全員、ターゲットになりうるという事ですわね」
「それだと一点集中って事は減りそうだけど……」
「やはり、幼い葵が一番心配である事には変わらぬな。それに、旭も心配だ」
 そんな幻想の追走者に、紗更、シャーリィン、円、水凪は小さな声で言葉を交わす。やはり、葵は一番の最年少であるし、彼女を守りたい兄も敵に対して挑発的な言葉を投げかけている。やはり、一番心配なのは旭と葵の兄妹だろう。
「では、俺はお二人に特に注意を払って庇えるように動きましょう」
 マリアムも話しに加わり、こちらも方針の確認をし合う。
「あら、相談事? 余裕があるのね。私に勝てると思っているのかしら?」
 相談し合うメンバーを見て、幻想の追走者はにこりと笑うと、そのターゲットに向かって飛び込む。その相手は……やはり葵。
「やはり、まずは一番若い子かしら?」
 闇の様なオーラが葵に向かって放たれるが、それをマリアムが駆けつけて庇う。
「ご無事ですか?」
「うん。ありがとう、マリアムさん」
 その間に紗更は幻想の追走者との距離を一気に詰め、急所を狙って強烈な蹴りを叩き込んだ。
「油断大敵だよっ」
 円の放つ矢が更に撃ち貫く。蓬莱はマリアム達に向かって清らかな風を送りこんで行った。
「……頼むぞ」
 水凪は大地に潜む死者の無念を引出し、幻想の追走者に向かって放つ。その念は幻想の追走者に纏わりついた。
「若さが美しさとでもお考えなのかしら……? 老いは醜さなどでは、ないのだわ。それだけ、己に歴史を刻んでいる証なのですから」
 そう微笑むシャーリィンの美しさは、呪いとなって幻想の追走者の動きを奪う。一方、ネフェライラはマリアムの元に向かって属性インストールを施した。
「だれかをこわしても若さは手に入らないんだよ。白雪姫の魔女だってそうだった」
 キカは遺伝子に秘める受け継いだ破壊の記憶を呼び起こし掌に宿した力を以って幻想の追走者に強力な一撃を加える。続けてマリアムが大地を枯らす猛炎の蹴りを降り注がせた。更に旭が重い蹴りを放ち、バッカルさんは尖った尾から毒を注入していく。
「さっきはありがとう」
 葵は庇ってくれたマリアムに御業を使って回復する。それに、マリアムは頷く。
「一番辛い思いをしているのはあなたです。俺も精一杯手助けしますから」
「……うん、ありがとう」
 旭も葵の近くに寄り、軽く肩を抱いた。
「俺も葵を助けに来てくれたみんなに感謝している。……葵、もう少しだ」
「……うん!」
 優しい言葉と兄から感じる温かい体温に大きく頷いた。

●哀しみと覚悟
「くっ、若さ……若ささえあれば……こんな傷! そう、あなた達から奪えば……!」
 黄金の花が舞い閃く。綺麗な色がマリアム達の意識を惑わせていった。
「皆、意識を取り戻すのだ」
 水凪は癒しの風を巻き起こし、彼等の意識をはっきりさせていく。
「ありがとうございます、天瀬様」
 紗更は水凪に礼を言うと、幻想の追走者に向かい構える。
「わたくしの持つ、魔術のひとつでございますれば」
 紗更の身に宿したグラビティ・チェインに不可避を宿す魔術へと変換し、ほの光る青い雨粒を纏い、幻想の追走者に強烈な一撃を加える。
「葵ちゃん、援護するよっ」
 円は『虚無球体』を幻想の追走者に向かって撃ち放った。
「うつくしいものは、いいもの。身体であって、心であっても。ですから、奪わないでちょうだいな……きれいな、ものを」
 シャーリィンはファミリアである蠍を撃ち放つ。それに続いてネフェライラがブレスを吐きだした。
「仲良しの二人をひきさくなら、きぃ達があなたをこわす」
 キカは魔法の光線を放ち、幻想の追走者の動きを鈍くさせていく。それに続き、マリアムの激しい雷が襲った。
「……葵、どうする?」
「……葵……楓ちゃんの仇を取りたい」
「そうか。分かった」
 旭は葵の気持ちを確認する。それに対して、葵は強く頷いた。
「葵ちゃんに力を与えるの!」
 ミーミアが雷の力を使って、葵の力を底上げする。旭は漆黒の闇で幻想の追走者を捕らえ、バッカルさんは麻痺光線を放つ。
(「楓ちゃん……あの時、今と同じ力があればっ!」)
 そんな気持ちが葵の中を過る。でも、今は一人では無い。兄も救いに来てくれた人達もいる。それがとても心強い。
「楓ちゃんの仇を……討つ!」
 葵は漆黒の闇を槍に変えると、幻想の追走者を思いっきり貫く。そして、その一撃で幻想の追走者は消えていったのだった。

●これから……
「葵、怪我は!? あのおばさんドリームイーターに何かされなかっただろうな!?」
 葵が止めを刺した後、旭が葵に駆け寄り抱き上げる。
「怪我がないか? 怖くなかったか?」
「……うん、大丈夫」
 兄が妹の無事を喜ぶ姿を、助けに駆け付けたケルベロス達は温かく見守る。
 あのドリームイーターが葵の心にどれだけ傷をつけたのかを分かるは出来ない。でも、少しは彼女の中の何かが変わった様に思えた。
 それから、旭は葵の救出を手伝ってくれたシャーリィン、キカ、マリアム、円、紗更、水凪、ジュスティシアに深々と頭を下げる。
「妹を……葵を助けに来てくれて、本当にありがとう……本当に感謝してもしきれない……」
「皆来てくれてありがとう! まだ子供だけど……一応ケルベロスだもんね。学校もにも頑張っていってみる!」
 兄に続いて葵も感謝の言葉を伝える。
 そんな葵にキカが近寄っていく。引っ込み思案のキカだけれど、葵に伝えたい事があるから。
「きぃも学校、うまくいかないこと、多いけど、でも、たのしいよ。だいじょうぶ、葵もゆっくりやれば、きっと通えるようになるよ」
「キカさんもそうなんだ……。葵も、キカさんみたいに頑張ってみる」
 キカの言葉に、葵は微笑む。葵の傍には兄の旭が優しくついているのを見てキカは思う。
(「きょうだいって、いいな。……うん、きぃにはずっとキキが居てくれたね」)
 キカはいつも大事に抱えている玩具のロボ『キキ』を、ぎゅっと抱きしめた。
 そんなキカに、旭が優しく声をかける。
「もし、キカが良かったらだけど……葵の相談相手になって貰えないかな? 学校に関しては、俺じゃ歳も離れていて力になれないし、キカなら葵の気持ちを分かってくれる様に思うんだ」
「……うん。きぃで良ければ」
「ありがとう、キカさん」
 キカと葵は微笑みあう。二人は初めまして同士だけれど、学校に関して、同じような気持ちを感じられる二人は良い関係を築けるかもしれない。
 葵にとっては、これからが本当の新たなスタートライン。思い出した記憶は辛い物だけれど、いつかはそれを乗り越えられる様に――そう願う兄とケルベロス達なのだった。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。