陽の煌き

作者:深水つぐら

●陽よ踊れ
 緑の島々が見える港は、夏の陽に揺れていた。
 茹だる様な暑さの中を九十九島から渡る風が涼を運べば、浜辺の波に混じって子供達の歓声が聞こえてくる。水遊びに興じる彼らが空を見上げた時、巨大な赤の足が見えた。
 『それ』は爬虫類に似ていた。大きさは全長十メートル程だろうか。鱗を持つ巨足は子供達の居た浜辺を踏み付けたが、何事もなかったかの様に歩みを進める。
 浜辺は混乱と恐怖に溢れていた。統制の取れぬ言葉達に翻弄され、その場所に散らばっていた人々は我先にと浜辺の出口へと向かっていく。立ち並ぶ海の家を巨大な尻尾が薙ぎ払い、悲鳴が生まれた。
「お母さん、おかあさぁああん!」
「たすけてぇ!!」
 陽よりも赤い色――体に咲かせた血花が浜辺に溢れた時、一人の子供が天を仰ぐ。
 その先に見えたのはドラゴンと呼ばれるデウスエクスが、煌く炎を吐き出す姿だった。

●煌きを討て
 長崎県の中でも世界に誇る造船所を有する港街・佐世保――そこに予知があった。
 それは先の大戦末期に、オラトリオにより封印されたドラゴンが復活して暴れ出すというものだ。
 元々、調停期に倒されたデウスエクスは宝石(コギトエルゴスム)となり、世界各地に人知れず封印されていたはずだった。だが、その封が解かれたと言うのだ。
「誰が封印を見つけ出し、解除したのかはわかりません。ですが、ドラゴンが復活する事は事実です」
 そう告げたヘリオライダーのセリカ・リュミエールは、一同を見廻すと今一度、姿勢を正す。
 彼女が『予知』した場所は、佐世保市の中心部からやや離れている九十九島の近辺だった。そこに炎を繰るドラゴンが現れるという。
「復活したデウスエクスは、グラビティ・チェインの枯渇により、弱体化しています。しかし、補給によって、力を取り戻す事ができるでしょう」
 グラビティ・チェインの補給――この予知では『人間の虐殺』から得る事を指している。つまり、ドラゴンは九十九島に現れ、そこから人間達が多く居る市の中心へ進んでいくのだ。
「この予知以外にも彼等は大量に一斉復活を遂げる事がわかっています。速やかに対処しなければなりません」
 セリカはそう言うと、予知によって得た情報を述べていく。
 敵が出現するのは九十九島の元島だ。水族館が見えるこの小島のとある海岸から人間を襲い始める。
 予知で見えた攻撃は爪を超硬化し、呪的防御ごと超高速で貫くというもので、これは近くに居る者にとっては脅威だろう。他にも巨尾による薙ぎ払いは店や人々といった複数の被害を出していた。
「最も注意して頂きたいのは炎の息――ドラゴンブレスです。これは多数の被害をもたらす上に、後々まで炎の害が残ります」
 つまり、その対策も練っておくべきという訳だ。弱体化により飛行能力が無くなっている程とはいえ、ドラゴンを甘く見るべきではないだろう。
 今回、ケルベロスが有利に動ける鍵と言えば、浜辺の対岸にある遊覧船だろうか。
 相手の様子を見るのに、船の見張り台を使わせてもらえるらしい。登れる人数は二名だが、出現の確認やおびき寄せて上空からの奇襲などに使えるだろう。しかし、船は動かす事が出来ないと言う。
 被害が出ない様に市民へ避難勧告を出した為、操縦できる一般人がいないのだ。逆に言えば、居ないからこそ思い切り戦える。破壊されたものはヒールで治せるのだから、それこそ思い切り確実にぶちのめせる。
 一連の説明が終わると、アーヴィン・シュナイドは、無愛想な顔を一同へ向けた。
「見張りやら、なんやら決め事は他の奴に任せる」
 ――俺はおまえらの決めた作戦に異論はない。
 ぶっきらぼうなもの言いだったが、失くした左目に燃える地獄が物言わぬ信頼を見せていた。
 罪もない人々が虐殺される様を、黙って見ている訳にはいかない。
「気合い入れていこうぜ」
 アーヴィンの声にセリカもよろしくお願いします、と頭を下げた。


参加者
天神・世羅(紫唐揚羽師団のお母さん的な・e00129)
シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)
稲垣・晴香(伝説の後継者・e00734)
ベルム・ラピエラルク(灰色の愚者・e01005)
メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)
劉・嫣然(胡蝶の夢・e02129)
燦射院・亞狼(日輪の魔壊機士・e02184)
工藤・誠人(地球人の刀剣士・e04006)

■リプレイ

●初陣
 空の青さが眩しいのは、夏の陰りが見えたからか。
 南国の地に吹く夏風は、ケルベロス達の間をすり抜けると、シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)の青髪をさらった。
「移動するならやはりここからか……」
 見据えるのは眼前の元島である。今、彼女らが潜伏するのはデウスエクスの攻撃で変形した元島付近の岬だった。作戦の動線上、出現地が見にくい位置にいる為、やはり出現地の対岸で遮蔽物の少ない遊覧船側の方が位置を確認しやすい。
 緑豊かな九十九島は緩く穏やかな波間に佇んだままだ。本来ならばこの波に子供達の歓声が混じっていたはずなのに。
 声の聞こえぬ海岸を、ベルム・ラピエラルク(灰色の愚者・e01005)の銀瞳が静かに見つめている。思案に耽るオラトリオが思い出すのは、過去が繋いだ情報だった。
(「ドラゴンといや個体最強のデウスエクス、だっけか?」)
 これまでに戦の経験はあったが、ドラゴンと対峙するのは初めてである。恐ろしい種だと伝えられたものと出会う。そう考えただけで手が震えた。
 その理由は臆病風に吹かれたからではない。
「いいねぇ、強いってのはそそるぜ」
 頬を撫でる潮風が心地よく感じた。緩む口元と同調する様に右翼の焔が楽しげに燃え盛る。島風を受けて流れたそんな地獄の焔に、メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)は血気盛んさを見取ると、やれやれと首を振った。
 強さを求めるその姿勢は、若さ故に眩しい。だが、相手が相手ならば抑えきれまいか。
「初陣がドラゴンとは……私も引きがいいのか悪いのかわからないね?」
 モノクルの上に落ちたマーシュの花弁を避けると、掛け直した縁に触れる。その仕草を見て、ようやく天神・世羅(紫唐揚羽師団のお母さん的な・e00129)は微笑んだ。ヘリオン内部では明るくお茶目な姿を見せていた彼女だったが、今は比較的冷静、というよりも大人しく見える。
「割と落ち着いてる……自分でも不思議なくらいに」
「緊張、のせいかもしれないですね」
 程良い緊張は物事に集中させてくれるものだ。
 工藤・誠人(地球人の刀剣士・e04006)は二人にそう告げると、自分自身を落ち着かせる様に息を吸った。
 初陣の獲物がドラゴンだと言う事は、正直怖い。だが、自分が動かねば散る命がある――ならば逃げる理由はなかった。
「皆さん頑張りましょうね」
 腰に佩いた己の唯一の拠り所となる刀を握れば、感覚が研ぎ澄まされていく。
 そんな彼らの隣では、燦射院・亞狼(日輪の魔壊機士・e02184)が、仮面の下から器用に手持ちの芋けんぴを齧っていた。さすがGOLDの名持ちである。甘い。
 その視線が自分達とは異なる場所に立つ稲垣・晴香(伝説の後継者・e00734)へ向けられる。
「さあて、ケルベロスとしての仕事。ウチのプロレス団体をメジャーにしていくためにも頑張るわよ」
 ルージュのリングコスチュームに包まれた四肢はすらりと長く、晴香の魅力を惹きたてている。彼女が立つのは囮として動く仲間達とは離れた場所だ。
 ヘリオライダーの予知では、相手は九十九島に現れ、そこから人間達の多い市街地へ進むという。彼女はその言葉から人口密集地への進路に重きを置いたのだ。仲間の作戦とは異なる単独行動ではあるが、それが吉と出るか凶と出るか――。
 そのやや左の船場には遊覧船の見張り台から双眼鏡で眺める劉・嫣然(胡蝶の夢・e02129)の姿があった。見つめる先の浜辺には逃げ遅れた者はいない。ほっとした事で緩んだ気持ちが手持ちのものを探らせる。だが、思い立ち、同じく見張り台に潜伏するアーヴィン・シュナイド(地球人のブレイズキャリバー・en0016)を一瞥すると、取り出しかけた煙管をしまった。
「未成年にゃ毒だからねぇ」
「そりゃどうも」
 怒ったのかそっぽを向くアーヴィンを嫣然は楽しそうに笑う。だが、すぐに掌のスマートフォンを覗き込むと、現れたレプリカントの男に声を掛けた。
「元気かい、色男」
「おう元気よ、べっぴんさん」
「そりゃよかった。お客だよ」
 言葉の後に、男の喉が楽しげに鳴るのが聞こえた。

●誘導
 初めに見えたのは爪だった。
 黒鋼の輝きを持つそれが一気に巨体を持ち上げると、軽々と元島の山を越え、そのまま麓の浜辺に着地する。
「ドラゴン……か。大人しく封印されたままでいてくれたのなら、戦わずに済んだのだろうが」
 シヴィルの呟きは胸騒ぎの寂しさが混じっている。平和を乱す赤い巨体を見た誠人は、ぽつりと感想を漏らした。
「……やはり大きいですね」
 これを、今から打ち破るのか。
 意図せず弓月へと変わった口元が肌に粟立ちを生み、その上を風が撫でる。メイザースの広げた虎鶫の翼が起こした風だ。それが温く感じるのは周囲の熱のせいだろうか――瞬間、亞狼の声が響く。
「おぅヤローども、殺っちまえ」
 飛び出したのは灰色の愚者だった。
 己が両手から生み出した物質時間を凍結する弾丸は敵の足元を貫くと、さらに誠人のサイコフォースと共に抉っていく。二人の動きに続き、世羅が言の葉を紡げば黒き槍が生まれ、ドラゴンの身へと降り注いでいく。
 打撃を受けたドラゴンの吼える声に確実な手応えを感じる。
「感情は戦闘の前と後にだけありゃいんだ、今は欠片もいらねぇ」
 無慈悲に、無情に、的確に。
 亞狼の背後に浮かんだ黒き日輪が熱波を叩きつければ、その悲鳴は怒気を帯びたものへと変わった。そこへ更なる追撃をと、飛び出したのは星の力を宿した剣――黒天を携えたシヴィルだ。
「太陽の騎士シヴィル・カジャス、ここに見参!」
 開く掌から放たれたドラゴンの幻影は、相手の巨体へと食らいつく。
 不意打ちによる先制攻撃は功を奏していた。だが、その効果も長くは持たない。ドラゴンは百メートルはあった島の間を一足飛びで移動すると、ケルベロス達の眼前へと到着する。そうして吐き出された業炎は、最前線を支える仲間の身を焼いた。
「くっ!」
 漏れ出た声を心中で叱咤し、ケルベロス達は炎から逃れると改めて得物を握り直す。そしてそのまま――駆け出した先は後ろだった。相手の気は十分に惹く事が出来ている。ドラゴンが吼える中を撤退しながらメイザースは笑った。
「あぁ、手元が狂うから動かないでくれるかい?」
 言って放つ柔らかな光は、的確な癒しを前衛に施すと、殿を務める彼らの支えとなる。今回はあくまで囮であり、逸脱しては好機を逃してしまう。
 役割を少しでも補う様に、駆け付けた仲間であるサラの旋風縛鎖と翼の揮う斬霊刀がドラゴンを牽制する。重ねて亞狼がケルベロスチェインを放つが、相手の尾が弾いた。
「これじゃあわかんねぇな」
 おびき寄せる段階で、敵の耐性と能力値の強弱をある程度は推測したかったのだが、相手の回避能力が高く効果の判断材料がそろわないでいた。唯一正確だと思えるのは、ケルベロスが本能的に見抜く命中率からだろう。遠隔爆破の技が決まりやすく、ダメージの通りがよさそうだと言う事ぐらいか。
 命中率の低さはおびき寄せるにはちょうど良いが、このままで本格的な戦いとなればまずいかもしれない。
 一抹の不安を抱き、亞狼が振り向くと声が響いた。
「避けてぇ!!」
 陽よりも赤い色。煌く炎が男の視界を覆う。
 燃える。
 そう思った瞬間、轟音と共に雷撃が空を薙ぐ。瞬く間に四散した炎の後に降ったのは、麗しき淑女の声だ。
「さあさあ余興は仕舞いだ、幕はもう上がっているのさ」
 朗々と。
 炎を相殺した嫣然の言葉に、アーヴィンが鉄塊剣と共に空に舞った。

●合流
 ようやく合流を果たしたケルベロス達は、ファンシーな船着き場へ着地するとドラゴンへと得物を向けた。
 桟橋の渡る船着き場の戦場に、追いついたドラゴンが巨尾を向ける。後退の間に何度か苦しめられた薙ぎ払い――その時、メイザースが声を上げる。
「そのまま動かないで!」
 何を言っているのだろう。
 仲間達の間に動揺が走った瞬間、ドラゴンの巨体が吹っ飛んだ。
 全く別の方向から繰り出された攻撃は晴香の放った一撃である。
「後ろからぶん殴るってのは趣味じゃないけど、私に背を向けてるイケずなアンタが悪いんだからねっ!!」
 完璧に隙をついた攻撃だった。待ってましたとばかりに晴香は指を鳴らすと、ドラゴンに声を張り上げる。
 初期位置が離れたお陰で合流には手間取ったが、不意の一撃を放つ事が出来たのだ。だが、その自由さが活きたのは、この依頼に挑んだケルベロスの方針の中に、囮には前衛を含む抑え役を確実に配置するという良策を選択していた影響が大きい。
 運が彼らに味方していたのだ。
 盛大な水飛沫の後に再び陸へと姿を現したドラゴンは炎を放ち、ケルベロス達を牽制する。そうして再び展開された攻防は、予想外の長期戦へと発展した。
 長期戦において、要となるのは回復の支援である。アルベルトの様に駆け付けた仲間による癒しの支援のおかげで、倒れる者はまだいないが、妨害支援を主とする嫣然が回復に回る程に疲弊は蓄積されていた。
 それは味方の攻撃への支援が減った事を意味する。もちろん、敵の威力をそぐ事は基本だが、同様に自分達の戦力を上げる事も大事だ。戦毎で状況が違う為に、どちらが優れているとは一概に言えないが、同時に行った方が決着は早く済んだだろう。
 戦いが長引けば、その分、回復役への負担は増していく。
「届け! 私の想い!!!!」
 幾度目になるかはわからない世羅の歌が周囲に響き、彼女と共に声を上げるボクスドラゴンが味方を癒していく。
 私の歌が、みんなの力になります様に――世羅の顔にはいつもとは違う強い意志が見て取れた。その願いが叶い始めた事を、動いた戦況が教えてくる。
「敵、射程距離に入りました」
「目標捕捉、砲身展開。これより支援砲撃を開始します」
 声と同時に展開されたサキュバスミストがシヴィルの体を癒していく。振り向けば彼女の背後を守る様に、旅団【太陽の騎士団】の仲間達が手を振っている。
「牽制は任せて走ってー」
「了解、感謝する!」
 後押しされた太陽の騎士が地を蹴ると、詠唱により出現した魔法光線がドラゴンの体に直撃した。確実に動きが鈍くなっている――そのチャンスをケルベロス達は見逃さない。
「ドラゴンが怖くて、異種族プロレスなんて、やってらんないのよっ!!」
 言った晴香の達人技が決まると、流星の様に飛来したベルムがドラゴンの背で顔を上げた。
 地獄を持つ降魔拳士は、子供の様にあどけなく笑う。
「行儀のなってねぇ奴だな、閉じてろ!」
 紡いだ言の葉もろとも光り輝く左手で上顎を掴むと、反対側の漆黒の闇手がその昏さを増した。
 次いで響いた打撃音はドラゴンの下顎を粉砕したものだ。それでもなお超硬化の爪が振るわれ、先程攻撃した二人を襲った。或るいは飛び退り、或いは受け止め――紙一重でベルムは避けたものの、接近戦を望んだ晴香は受けたダメージが限界に達したのか、一瞬意識を手放す。だが次の瞬間に踏み留まると、内なる闘志を滾らせた。
「守りは好みじゃないんだけどね……!」
 纏うオーラが癒す傷は微かなものだ。滲む血を手の甲で拭き捨てると再び地を蹴った。
 これ以上長引けば倒れる者が出る。だがそれはドラゴンも同じだ。もはや動けぬまでに鈍った体の動きは、牽制するに留まり始めている。
 動きの鈍る相手にどう攻めるか――瞬間を見極めたのは亞狼だった。
 これまで観察していたからこそわかったのは、相手が攻撃をする直前が好機だということ。ちらりと仲間に目配せすると手の中の爆破スイッチに力を込める。その目が追うのは攻撃のタイミング――ドラゴンの尾が高く上がった。
「Assemble! GO!」
 解き放った言葉に爆破音が炸裂する。そこから生じた波は仲間達の得物を揮わせた。
 響く悲鳴、でたらめに振られる巨大な尻尾。それらを避け、泳ぐ様に誠人は走り出す。
 己はただひと振りの刃。
 赤茶の瞳がもがくドラゴンの四肢を捉え、唇に言葉を乗せさせる。
「消える覚悟を決めてください」
 瞬間、迷いの無い一閃がデウスエクスの腹を斬り裂いた。

●予感
 その手応えの無さに刃が震えていた。
 針先が震える感覚に似たそれに、誠人は困惑した表情を見せる。己が斬ったものは確かに――振り向いた先にあった巨体は地響きと共に倒れると、一気に光へと四散する。
 その色は美しい陽色――おそらく傾きかけた陽がドラゴンの鱗に反射したからだろうか。
「……倒した? 終わった、のか?」
「うん……やったね☆」
「今回はフィニッシュを譲ったけれど、次は負けないわよ」
 にっこりと微笑む世羅や勝気な晴香の言葉に、誠人の顔にようやく安堵の色が見える。その感情は周りの仲間達にも伝わると、ようやく笑顔が咲いた。
「やれやれ、大仕事だったね?」
 周囲を見渡したメイザースは、その後に控える仕事にも気が付いていた。ドラゴンの攻撃による被害は桟橋以外にも、遊覧船を始め各船にも及んでいる様だ。
「ああ、やっぱ強敵との戦いはいい。強くなるには一番手っ取り早いぜ」
 ベルムがパチンと自分の拳を掌に叩きつけると、仲間達は血気盛んな彼にやれやれと息を吐いた。しかし、シヴィルだけは笑わずに心配そうに空を望む。
「強敵と言えば、各地で封印されていたデウスエクスどもが次々と復活している、そう、ねむが言っていたな」
 デウスエクスの復活。その言葉にそれぞれの顔が引き締まる。
 今回の様な強敵が他にも出現している――張り詰めた空気を破ったのは、避難を手伝っていたアルネやドルフィンら仲間が人々を連れ帰った声だった。アーヴィンの呼び掛けで動いてくれた彼らのおかげで、避難者の混乱は少なかった様だ。
「さぁて、片付けしとくか」
 背伸びをした亞狼が告げると、ケルベロス達は思い思いに散っていく。修復を施す仲間の歌を聞きながら、嫣然が空を見上げれば、散り行く光の欠片が見えた。
 その光は彼女の頬に口付けする様に寄り添う。
「よい黄泉の旅路を――晩安」
 かけられた声は溶ける様な響きを持っていた。鱗は風に溶け、とろりと消えていく。
 この烽火が黎明となるか黄昏となるか。どちらに行くかはわからない。
 予兆の光は、地球に何をもたらすのだろう。
 一抹の不安を持ちながらも見上げた空には、昼間の月が白々と浮かんでいた。

作者:深水つぐら 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年9月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 23/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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