●瓦礫の山から
侵空竜エオスポロスの自爆によって、熊本城は崩壊。辺りには凄まじい砂埃が巻き起こり、しばらく内部を見ることができなくなっていた。
やがてそこから、だんだんと砂煙が晴れていくと。かつて熊本城がそびえ立っていた場所には、怪しく輝くドラゴンオーブが姿を見せていた。
その禍々しい力が溢れるように流れ出し、どこかに向かっていく。行き着く先は瓦礫の中……、自爆したエオスポロスのコギトエルゴスムだった。
怪しい力がコギトエルゴスムに流れ込み、徐々に凶悪な気配が漂い始める。煙のように広がり始めた悪意は次第に『何か』の意志に従い、形を持って身体を成していった。
そうして現れたドラゴンは元のエオスポロスではなく、異様な程に濃い『死』の匂いを纏う存在。腐臭とはまた異なる、目にしただけで生物が持つ本能的な恐怖を呼び起こすような、黒いドラゴンだった。
「ォ……。ォォォォオオオオオッ!」
昏い地の底から響き渡るような咆哮を上げて、黒いドラゴンは立ち上がる。そしてドラゴンオーブを守るように、圧倒的な恐怖を振り撒きながら、その場に立ち塞がるよう構えたのだった。
●薄氷
「……熊本城での戦いは、辛うじて勝利。と言えるでしょう」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は真剣な眼差しで、集まったケルベロスたちに話を切り出した。
「過半数の『侵空竜エオスポロス』を撃破し、『廻天竜ゼピュロス』も撃破した事で、出現した『ドラゴンオーブ』を竜十字島に転移させる儀式は止めることができました」
しかし――、状況は予断を許すものではない。
「複数の『侵空竜エオスポロス』が自爆したことによって熊本城は崩壊し、ドラゴンオーブの封印は解かれました。ドラゴンオーブは『時空の歪み』のような空間を生み出し、そこを禍々しい力で満たそうとしているようです。どうやらこの力が十分に満ちたとき、ドラゴンオーブから魔竜王の後継者ともいうべき、強大なドラゴンが生み出されるということが予知されています」
阻止するための作戦を求め、ケルベロスたちはセリカの話の続きを促す。
「これを食い止めるには、時空の歪みに突入し、『ドラゴンオーブを奪取』あるいは『破壊』する必要があります。既に時空の歪みの中には、覇空竜アストライオス、喪亡竜エウロス、赫熱竜ノトス、貪食竜ボレアースの4竜が突入しており、すぐに後を追わねばなりません」
緊張が走る。時間は刻一刻と、限界へと近づいているのだろう。
「ですが、時空の歪みの周囲には、ドラゴンオーブの力で出現したらしい『19体の強力なドラゴン』が、侵入者を排除すべく待ち受けています。
この19体のドラゴンを抑え、時空の歪みの内部に突入、アストライオスら4竜と対決し、ドラゴンオーブを奪取、或いは破壊する……」
厳しい現実が、絶望の影を抱いてのしかかってくる。だがそれでも、まだあきらめる訳にはいかない。
「危険かつ成功率の低い……、無謀とも思える作戦となりますが……。現状、これ以上の作戦は存在しません。どうか、皆さんの力をお貸しください」
セリカの言葉に異を唱える者は、誰もなかった。
●死を纏う竜
「皆さんにお願いしたいのは、19体のドラゴンのうちの1体『魔竜デス・グランデリオン』を抑えることです。時空の歪みに突入するチームと同時に出撃し、彼らの突入を援護して下さい。
そして、突入したチームが撤退してくるまで……『最大30分の間』、デス・グランデリオンを抑え続けることが任務となります」
1体とはいえ、強力なドラゴンを相手に30分……。話を聞いていたケルベロスたちの表情にも、微かに動揺が走る。
「19体のドラゴンは目の前の敵の排除に成功すると、他のドラゴンの救援に向かうという連携を行うらしく、1か所でも崩れてしまうと、連鎖的に全戦場が崩壊してしまうでしょう。
デス・グランデリオンは、覇空竜アストライオスに勝るとも劣らない戦闘力を持っており、少人数のケルベロスでの撃破は不可能です。
……ですが、生み出されたばかりであるからなのか、戦闘中のケルベロスが1人でも健在なら、その場で戦い続けるようです。ですから、たとえ撃破は不可能であっても、時間を稼ぐことは可能です」
それでも、危険なことに変わりはないが……。とセリカは微かに不安を滲ませる。
「仲間のケルベロスの支援も期待できますが、基本的には、突入班の帰還までドラゴンを抑え続けられるように作戦を練っておくようにお願いします。
ただ、支援する他チームの作戦によっては、戦力を集中してドラゴンの撃破を狙う場合もあるかもしれません。その場合は、支援チームと力を合わせてドラゴンの撃破を目指してください」
セリカはここまで説明すると、静かに息を吐き出し、ケルベロスたちに向き直る。
「強大な敵、困難な状況……。確かに事態は、危険な方向に流れているのかもしれません。ですがこれは、ドラゴンオーブを破壊するチャンスでもあります。皆さんの力を合わせて、どうか希望を、掴み取って下さい」
セリカはそう言って、ケルベロスたちに激励を送るのだった。
参加者 | |
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ディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544) |
神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623) |
神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023) |
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423) |
スミコ・メンドーサ(グラビティ兵器技術研究所・e09975) |
天音・迅(無銘の拳士・e11143) |
月岡・ユア(孤月抱影・e33389) |
ノルン・ホルダー(黒雷姫・e42445) |
崩壊した熊本城跡に広がる、時空の歪み。
そこを守護するように構える19の魔竜の1翼。昏く澱んだ闇の如き気配を纏った黒い体の中から、冷酷なまでに冷ややかな青い瞳が、こちらを見ていた。
「産み出された魔竜王の僕か……」
ディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544)が魔竜――、デス・グランデリオンを前に小さく呟いた。
その外観。確かに強力な戦闘能力を感じさせると共に、心に訴えかけてくるような印象がある。闇夜の墓地に、ひとり佇んでいるかのような。或いは、死後の世界を描いた絵画の中に入り込んでしまったかのような。
濃厚な死の気配を、その竜が纏っているように感じてしまう。
「死の体現を前に……、抗おう」
ディークスは自身に言い聞かせるように構えながら、肩に乗せた月蜥蜴に力を呼応させ、光の粒子を生み出し始める。
「あれが、デス・グランデリオン……」
神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)は親友から託された想いを握り締めるように、小さく息を吸い込んだ。
「ここで倒せないのは悔しいけど、時間を稼ぎます」
敵を見据え、空間に守護の力を展開し――。
次の瞬間、魔竜が動く。
――速い。
その巨体からは想像できない敏捷性で、ケルベロスたちとの間合いを詰めると顎を開き、黒炎の如きブレスを噴き出してきた!
「……おぉぉっ!」
衝撃を受け流すように後ろに跳んで地面を転がり、神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)は焦げたマフラーを払い捨てて右手を振り抜く。
「炎よ、全てを遮る盾となれ!」
蒼き焔を壁のように展開しながら、煉は素早く立ち上がって武器を構えた。
「ドラゴンオーブに向かった仲間の為にも、抑えてみせる」
ノルン・ホルダー(黒雷姫・e42445)が石化の魔力を光線に変えて撃ち出すが、敵は素早く飛び上がって攻撃を避ける。
「負けない戦いなんて性に合わないけど、給料分は働くさ」
その間にスミコ・メンドーサ(グラビティ兵器技術研究所・e09975)が僅かに目を細めつつ、装備の排熱機構を利用したスチームを噴出する。そこに微粒子レベルで含まれる特殊金属がバリアの役割を果たし、自身を守ることになる。
「銀天のイリス、参ります!」
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)は敵を見据え、銀の煌めきと共に凛々しく構える。その光を後方へと広げて振り撒き、仲間の感覚を研ぎ澄ませていく。
「時の欠片が見えるかもしれねえな?」
天音・迅(無銘の拳士・e11143)は自身の赤毛を縁取る藤の花を触媒に、時読の祝福を月岡・ユア(孤月抱影・e33389)へと施す。
「さーて、頑張っていこうかぁ」
その輝きを浴びながら、ユアが走る。一歩近づく毎に強くなる『死の香り』が、ユアの感覚にピリピリとした緊張感を満たしていく。
「皆で無事に帰れるように、ココは耐えて見せようじゃないか♪」
体皮、翼、爪に尾。ユアは黒い敵の姿を視界に捉え、一瞬で間合いを詰めていた。
その全貌は幸運な者を嗤う罰犬のようであり、死の世界へ誘う案内人のようでもあった。
だがまだ、ここで死んでやるつもりはない。
ユアは牽制に振るわれる尾を紙一重でかわし、後ろ足の根元に鋭い蹴りを突き入れる。
ぢっ!
鋭い翼が胸元を掠め、僅かに血が滲み始めるが……。
ユアは構わず間合いを取り、金の瞳で死の使いを睨みつけるのだった。
「戦線を、必ず護る」
ディークスが黒太陽を具現化し、絶望の黒光を照射する。しかし相手はまるでそよ風でもあびるかのように揺るがず、こちらを狙って突き進んできていた。
「空間に咲く氷の花盾……。皆を守ってっ!」
幾度めか、鈴が氷壁の術法を発動させる。まるで業火に雪の欠片を投げ入れているかのような、徒労感がじわじわと心に影を落としてくる。
(「…………」)
鈴は小さく首を横に振り、奥歯を噛みしめる。敵の強さと威圧感が、心の弱さに入り込んでくるのだ。例えひとりで敵わない相手だとしても、仲間と友と、人々のために。鈴は自身を奮い立たせる。
「ヒナの宿敵……、勝負だ!」
煉が怒りの咆哮を上げ、狼頭の顎が砲弾を放つ。その轟竜砲の軌跡を追って、ノルンもダッシュで間合いを詰めた。
獅子座の力を輝きに変えて、打ち付けるように振り下ろす!
「……!」
煉の轟竜砲が胸に刺さり、ノルンの一撃は黒い翼を強打した。しかしデス・グランデリオンは微動だにせず、ただ無数の黒い刀が生えているかのような翼を、ばさりと広げた。
風が、吹き抜けた。
熱くも冷たくもない、ただの風。しかしそれを受けたノルンが、煉が、がくりと膝を着く。
(「な……、に……?」)
ディークスも崩れ落ちそうになる足を必死に支えながら、急ぎ呼吸を整えようとしていた。
何が起きたのか、全く理解できない。
ただ黒竜の翼が起こした風を浴びただけで、生きる気力、活力のようなものが根こそぎ奪われた風になってしまったのだ。
パァン!
スミコが自身の頬を張る。
「お前を倒そうなんて、思っちゃいないさ」
しっかりしろ、顔を上げろ、拳を握れ。言葉とは裏腹に、スミコは内心、自身を叱咤し続ける。
「ただ、負けるつもりもない! きっちり、時間まで付き合ってもらうぜ!」
気力を振り絞って新型ヒーリングドローン『サンクチュアリ』を発進させ、何とか体勢を立て直そうとする。
「突入していった班の退路は死守しよう!」
ユアがその間に敵の眼前へと詰め寄り、ブラックスライムを喰らい付かせる。
一瞬の後に振り払われる気配を察してユアは下がるが、その刹那に迅が鈴に向けて祝福の藤花を捧げ、イリスはオウガメタルから光の粒子を振り撒いていく。
「光よ、我らを導く標となれ!」
どれだけ癒しを施しても、傷は完全に癒えはしない。それでも、攻め手に繋がれば、相手の攻撃を食い止めることに繋がる。
ならば少しでも、鋭い攻撃が仕掛けられるよう、万全の体勢に近づけるだけだ。精霊の力を宿したアクセサリーに一瞬だけ意識を巡らせて、イリスは静かに息を吐いた。
●黒炎は死を糧に
「…………っ!」
駆け抜ける炎が、防具を越えて皮膚を焼き、肉を焦がす。
自身の血が蒸発して霧散するのを目の端に捉えながらも、ディークスは静かに、一瞬だけ息を吐いて痛みに耐える。
ダメージが無いわけではない。だが怯んだところで、事態が好転するわけでもない。
ならば痛かろうが痺れようが、最高のパフォーマンスで動くだけだ。
ディークスはオウガメタルに命じ、光の粒子を纏いながら走り続ける。
「お願い……」
鈴は手にした指輪を握り込み、祈るように力を呼び起こす。背に抱く翼から温かな、揺らめく輝きを持つ光が溢れ始めた。
オーロラのような虹色の光は死の炎を浴びた仲間たちを包み、その邪炎を打ち消していく。
「ま……、もうちょいふんばるとするかな」
ユアも無傷ではなく、口元に滲んだ血をぐっと、拳で擦り拭っていた。
傷付いた身体に鞭を打って敵の姿を見据え、ダッシュで間合いを詰めていく。エアシューズが唸りを上げて火花を散らし、星のような闘気が輝いて集まり始めた。
「……剣神、解放」
はあはあと、荒い呼吸のなかでひとつ。ノルンは静かに呟いていた。
直後、カチンと頭のどこかでスイッチが入ったかのように、金色の騎士は剣を手に飛び出す。
ぎぃん!
高速で魔竜の喉元へ迫るノルンだったが、刹那、相手の爪が剣を受け止める。闇色が金色を受け切って弾き飛ばし、ノルンはばごんと地面に叩き付けられる。
直後、ノルンに気を取られた魔竜の背に、流星の如き蹴りが突き刺さっていた。
隙を狙っていたのはユアだ。
僅かに敵が揺らいだ一瞬に、迅も鋭い蹴りを突き入れる。ひゅんっと首の下を抜けて逆サイドに回り、待ち構えていたイリスに手を掴んでダッシュの勢いを止めて貰う。
イリスは衝撃にやや面食らいながらも、すぐにオウガメタルを操って前衛の援護に戻った。
「まだだ、陣形は崩れちゃいない。……死守するぞ」
スミコは駆け足で立ち位置を調節しつつ、仲間へも指示を出す。その最中にも武装の損傷状況を確認し、まだ戦えることを確かめる。
聞き慣れたジェネレータの駆動音が、バリアと共にスミコを包んで呼吸を整えさせてくれた気がした。
「いくらでも貼り直してやる」
煉が炎を滾らせて、壁のように展開していく。これももう、何度破られ、何度発動させたことだろうか。煉は額に滲んだ汗が目に入らぬように、乱暴に拭って集中を続けた。
動くたびに身体が軋み、自身の攻撃の反動ですら、叫び出しそうな痛みが走る。それでもノルンは獣の力を拳に集め、渾身の力を込めて撃ち出した。
「死地にしてたまるか……。必ず、帰ると約束した」
ディークスが刹那だけずらし、脇腹あたりに蹴りを打ち込む。ふたりが攻撃している間に、スミコはライフベンダーを設置していった。
「光よ、かの敵を束縛する鎖と為れ! 銀天剣・玖の斬!」
イリスは武器に光を集め、鎖に変えて魔竜の体へ絡みつけていく。そこに迅が飛び込んで拳を握り、降魔の一撃で魂に喰らい付く。
「コイツの死の力……、命をただの燃料のように扱うのか」
ユアが小さく呟いて、ブラックスライムを変形させる。捕食モードとなったその牙が、巨体の腹に飛び掛かり……。
どんっ!
振り下ろされた黒翼が鋭く、命を削る陣風を起こす。
まともに喰らったユアがこれまでの負傷もあり、意識を刈られてその場に倒れた。
「レンちゃん!?」
同じく後衛の鈴は、煉が庇っていた。
「やら、せ……ねぇ!」
平気だと示すつもりで声を出した煉だったが、息も絶え絶えだ。鈴は急いで光の盾を召喚し、煉の治療と守護に回す。
「この蒼炎が絶えねえ限り、この先には行かせねぇ!」
煉が闘気を爆発させ、敵へと駆ける。リュガから属性の力をひったくるように受け取って加速し、蒼星狼牙棍を分解。多節棍として黒き翼を掻き分けながら敵の背に迫る。
「おらぁっ!」
右手の炎が煉の闘志に応えて滾り、噛みつくように棍を握って魔竜の背へと叩き込んだ。
反動を利用し、煉は背から飛び降りるとダッシュで下がり、仲間との陣形を確かめる。
●果ては何処に
先は見えず、全てを呑み込みそうな黒炎が行き過ぎる。
そのあまりにも濃い闇色は、炎と呼ぶには生易しい、死の気配を纏っていた。
「……死に臨む者か……。良い響きだ」
どこか自嘲を含んだような調子で、ディークスが呟く。メタリックバーストの輝きを生み出すが、傷はほとんど癒えたように感じられなかった。
もう、どれぐらい戦っただろうか?
負傷と回復。強化と解除が繰り返され、どこかの神経がイカれてしまったのではないかと思えるほどだ。
「……熊本市民を、仲間を、みんなを守り切ってみせる」
煉はぜえぜえと息を切らしながらも、魂の力を己の身体に憑依させていた。全身に禍々しい呪紋が浮かび、魔人へと変貌していく。
ほとんど同時に迅は時読の藤花で、鈴へと祝福を捧げる。
「次代の魔竜王なんて誕生させない。……絶対に」
鈴も満身創痍ではあったが、氷の結界を生み出して前衛の元へと広げていく。ここまで保ったのは、前衛の守りを固め、皆が援護するという作戦が働いていたのが大きい。崩れるとすれば、この作戦が機能しなくなったときであろう。
「お願いします!」
イリスもそれを感じ取っているのか、鋼の輝きを前衛に振り撒いていく。
「ここだ!」
スミコが純白の槍を繰り出し、稲妻を魔竜に叩き込む。その背を目隠しにしていたノルンが一歩分だけ遅れて踏み込み、重力を集中させた一撃を振り下ろした。
手ごたえはあった。このダメージで敵がヒールに回れば、まだ戦闘を続けられるだろうが、どうなるか――。
黒い翼は無慈悲にも、死の風を纏って振り下ろされた。
「…………」
限界を超えたディークスの身体がどさりと倒れ、ノルンが膝を着く。
「ぅ、あ……」
肉体はこのまま、大地に身を委ねよとノルンに囁いていた。しかしその魂が、ぎりぎりで意識を掴んで離さない。
だが、これ以上は――。
スミコを始めとした何人かが、自陣を顧みて判断に移ろうとした、その時だった。
●異変
どぉん……!
(「!?」)
次元の歪みの方向で、何か異変があったらしい。大きな振動のような衝撃が響いたかと思えば、程なく突入していたケルベロスたちが、帰還を開始しているように見えた。
――ざわり、と空気が変わる。
風? 匂い? 音? 五感のどれが警鐘を鳴らしているのか、明確には分からない。
分かるのは何か、膨大な力が次元の歪みから放出されているらしいということだ。
「グォォォォォォォォォォッ!」
その力を浴びたデス・グランデリオンが咆哮を上げ、体躯が次第に巨大になっていく。
「な…………」
スミコが一瞬、言葉を失う。
これまで死力を尽くして喰らい付いていた相手が、みるみるうちに巨大に……。大きさだけの話ではない。ケルベロスの眼力をもって視れば、戦闘力さえも強大になっていくのが分かる。
「――撤退だ!」
それしか、手がない。
今、この状況から足掻いたとしても、容易く蹴散らされてしまう。
「っ……!」
イリスも傷ついた仲間に手を伸ばし、その場から離れていく。
「次は絶対負けない。首を洗って待ってろ」
よろめき唇を噛みながら、ノルンは魔竜に一言だけ告げる。
それが、精一杯だ。
触れるだけでこの命が、消し飛ばされてしまうのではないかとすら感じさせる、強烈な暴虐性を帯びた『死』の圧力。
ケルベロスたちはその魔手に捕らわれぬように、全力で撤退することしかできなかった。
作者:零風堂 |
重傷:ディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544) 月岡・ユア(皓月・e33389) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年7月20日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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