ハニーの誕生日~ビュッフェ&ナイトクルーズ♪

作者:ハッピーエンド

●誕生会、事前リハーサル
「うわぁ。いい匂い~。おいしそ~!」
 降りそうな満天の星々の下、汽笛をあげる船上で、嬉しそうな少女の声がフワリ風に舞った。透き通っているけどクッキリ聴こえてちょっと癒し系。そんな声。幸せ以外の一切の感情を含んでいない可愛い声。
 少女は花につられるチョウのように、ずらっと並べられた料理の間をピョコピョコ動き回り、料理を運んできてくれるスタッフの皆さんに、『ありがとうございます!』と跳びつかんばかりに感謝を表している。
 緑色の瞳はキラキラ輝き、あさぎ色の和服にくくり付けられた琥珀糖の袋とナノナノのスイッチがピョンピョン嬉しそうに弾んだ。
 それもそのはず、目の前に並べられた料理は圧巻!
 ぷりっぷりの魚で作られたお刺身が! 磯の香りただようクリーミーなウニが! 宝石のように輝くイクラが!
 照りっ照りのタレにまみれたハンバーグが! トロットロの卵が煌めくオムレツが! サクッサクの衣を着込んだエビフライが!
 ボルシチが! カルパッチョが! タリアータが!
 ケーキが! パフェが! タルトタタンが!
 キラキラ輝く星の下! ズラッとどれでも食べ放題! お好きに召しませビュッフェパラダーイス!
 ササッ。
 スタッフの一人が、うやうやしくナイフとフォークを差し出した。
 目の前には、豪快に音をジュウジュウ立て、得も言われぬ旨みの匂いを撒き散らす肉の塊。
 サクッ。
 ナイフが、柔らかなフィレステーキを裂き、圧倒的な肉汁をドバッと噴出させた!
『おおっ!』
 外野のスタッフ達からもどよめきが起こる!
「では……、いた! だき! ます!!」
 ぱくうっ!
 光が、弾けた。
「なんていうものを……なんていうものを……」
 感動は滂沱の涙となってハニー・ホットミルク(縁の下の食いしん坊・en0253)の頬を伝った。
『そ、そんなに!?』
 ゴクリッ。
 若いスタッフたちの喉から、分かりやすいレスポンスが響いてくる。
「一言でいうなら、宇宙!」
『宇宙ッ!!』
 戦慄が走った! あらゆる者の視線がステーキに釘付けだ!
『クッ!』
 一人のスタッフがハニーに走り寄った。
『このドネルケバブも! 俺たちが魂をかけて作ったドネルケバブも試してみてくれ!!』
 ハニーはそれを、聖杯でも戴くように丁寧に受け取り――、
 サクッ。
 ビッグバンが巻き起こった。
「恐ろしい……人はここまで食を進化させたというの……」
『そ、そんなにっ!?』
「一言でいうなら、最終兵器ドネルケバブ!」
『最終兵器ドネルケバブッ!!』
 視線が一気にドネルケバブへと注がれる!
 その後も、
「生命の源!」
『生命の源ッ!!』
「天界の雫!」
『天界の雫ッ!!』
「えーと水蒸気爆発!」
『えーと水蒸気爆発ッ!!』
 様々な料理のレヴューが続き、スタッフたちはよだれの洪水を抑えることが出来なくなっていた。
 クスッと、ハニーがイタヅラっぽく笑う。
「それじゃあみなさーん! 事前リハはここまでにしましょう! ここからはみなさんがお客様として楽しんでくださーい! 英気を養って当日はよろしくお願いしますよ~!」
 福音が響いた。
『うおっしゃあああぁぁぁぁっ!!』
『いやったぁぁぁっ!!』
 若いスタッフたちを中心に、歓声が渦のように響き渡る。
『ドネルケバブ! オレはファーストフードの王様! ドネルケバブを倒れるまで食べるぞぉぉっ!!』
『きゃああ、イチゴにチョコにレアチーズ、プリンにタルトに見たこともないスイーツまで……。母さん。私、生きて帰れないかもしれない!!』
『俺、このウニ丼、一度でいいから腹いっぱい食ってみたかったんだぁ! うっっっめぇぇぇぇぇっ!!』
 会場は歓喜のるつぼと化した。
 緑のエルフがホクホク笑う。
「みんな嬉しそうだなぁ。嬉しいなぁ。当日は、みんなも喜んでくれるといいなぁ♪」


■リプレイ

 大ホールへの扉を開くと、そこには食いしん坊の夢を現実にしたような世界が広がっていた。

 トップバッターはヒノト。
 ハニーへの祝辞を終え、橙の瞳は好奇心に揺れている。
「突然だけど、これからの一年の豊富は?」
「一年!? そうだね……みんなの笑顔と、美味しいを護りたい。かな!」
「それはいいな。いい一年になる事を祈ってるぞ。ケルベロス同士、依頼で一緒になった時は頼りにさせてくれ」
「こちらこそ」
「ところでさ、特に美味かったものはないか? アモーレが絶賛してたものでも!」
 ハニーはクスクス笑いながら向こうを指差した。その先ではアモーレが絶賛、称賛の言葉で鍋を埋め尽くしている。
 鍋を。
 !?
 ――夏だぞ!?
 ヒノトはハニーを見やるが、
「お腹いっぱい食べてきてね♪」
 グイッ。背中を押し出される。
 グツグツグツグツ。
「やぁ、貴方もすき焼きですか」
「ソノヨウデス」
 ――時は経ち。
「こんなに腹いっぱい食事したの、いつ以来だろ」
 そこには極楽の表情を浮かべたヒノトの姿があった。

 今度はヴィルフレッドとナザク。
 祝辞と御礼が述べられ、
「こちらこそ、いつもありがとう。楽しんでいってね♪」
 ハニーも嬉しそう。
「しかしあれだね、もう最高だよ」
「ああ。控えめに言ってパラダイスじゃないか」
「口の中でとろけそうなとろふわオムレツ! 香辛料が肉を引き立てる生ウィンナー!」
「ナッツたっぷりの新鮮サラダにデミソースのハンバーグ。ピザにカレーに……あ、オムレツは注文ごとに作ってくれるのか……」
 トロットロの卵に、鮮やかなケチャップ。
 一口食べ、
「……うむ、ハニーの食リポは決して大袈裟ではなかったな」
 横ではヴィルフレッドも、
「う、うめぇ……! ……この美味さを表現しようにもその言葉はバベルの塔崩壊と共になくなった……!」
 大満足で止め処なく箸を進めていく。
 ――ふと、ナザクが真剣な表情でアモーレを見つめた。
「……なあ、アモーレに訊いておきたい事があるんだ。とても大切な事なんだ。はぐらかさないで答えて欲しい。その、左手の薬ゆ――」
 目の前を、出来立ての香ばしい唐揚げが横切った。
「待ってくれ、すぐに行く」
 ナザクは脱落した。
 やれやれ。銀の少年が後を継ぐ。
「左手の指輪が気になって夜10時から朝5時までしか寝れ――」
 今度は、目の前を芳醇な香りのズッパイングレーゼが通り過ぎて行った。
「……指輪の話はまた後でだよ、じゃあね!」
 ――時は経ち。
「おいしい! すごくおいしい! おいしすぎてやばい!」
「これもうまいな。あれもうまかった。あっちもうまそうだ」
 二人の言語中枢は天に召された。指輪の話は忘れ去られたのだ。

 お次はレスターとラルバ。
 祝辞と共に宿縁戦の御礼。
「助けてもらった借りは必ず返す。何か困った事があれば文字通り飛んでいく」
「ハニーはオレにとっても恩人だぜ……おっと、チョコもアモーレもな。オレも何かあったら助けになるからな」
 心強い二人の言葉に、ハニー達も嬉しそう。
「それじゃあ、早速助けてもらっちゃおうかな」
 ハニーがイタヅラっぽく微笑んだ。
「料理人の皆さんが、美味しそうに食べるところを見たがってるんだ。いっぱい食べて助けてね♪」
「そういうことなら喜んで協力させてもらうよ」
「お腹ぱんっぱんになるまで食べるぜ!」
 二人はそのまま料理の殿堂へダイブした。

 こちらはグレッグとノル。
「ノルは何が食べたい?」
「おにく!!」
 あどけない瞳を輝かせながら、ノルは嬉しそうにトングを鳴らした。
 グレッグの顔から笑みが零れる。返答が自分の希望と同様なのが妙に嬉しく。
 二人でウキウキ、肉コーナーを歩き始めた。
 早速現れた。ジュウジュウ音をたてるステーキ。
 切ったそばから肉汁が滝のように溢れ出すハンバーグ。
 トローリソースを纏った、しっとりローストビーフ。
 ノルの瞳がキラキラキラキラ。ついついグレッグも嬉しくなって次々とノルの皿へとホイホイホイ。
「おいしいー!」
 光り輝くノルを見つめながら、グレッグも穏やかな瞳の奥を輝かせた。
 そして気づく。野菜も摂った方が良い。
 しかし伴侶は目の前の肉に釘付け。水を差す訳にもいかない。
 ――これだな。
 掴んだのは、ドネルケバブ。
「多少野菜が入ってるし、ピタパンは小麦なので実質野菜だから大丈夫だろう……多分」
 ピザを野菜というアメリカ人的発想。
「そういえば、前にお米は野菜だなんて話もした気がする」
「そうだったな」
 冗談めいた会話が楽しい。二人はふふっと笑った。
 こんなに食事が楽しいのも、きっと相手がノル/グレッグだからだ。
「可愛くて美味しい、苺や夏の果物のケーキ。持って帰れたらいいのに」
「色々食べ比べて……気に入った物があれば、それを今度作って土産代わりに持っていくのも良いんじゃないか?」
「そういうお裾分けも素敵だな」
 仲の良い友人と食べるケーキも、きっと素敵なことだろう。
 でも今は――、
 ノルとグレッグ。二人で楽しむ。共に生きる大切な人と。

 こちらはチーム蝸牛庵。
「あ、清士朗さんおめかししてる」
「ふ、少しだけな?」
 フィーの言葉を受け、清士朗はスッとポーズをきめた。
 ネイビーのナポリ風ジャケットに、クリーム色のパンツ。茶の革靴。オレンジのポケットチーフで少しドレッシー。
 少しと言うけれど、かなり決まっている。
「……ベルトがキツキツになっちゃっても知らないよ♪」
 ニシシっと笑うフィーだが、こちらもなかなか様になったお洒落さん。
 白のサマーワンピと、トレードマークの赤ずきん姿。
 横では縒も、フィーとお揃いの、白のサマーワンピに身を包み、ターコイズのリボンチョーカーできめている。
 恭志郎も、ちょっと形容することが出来ないくらいピシッときまった服装をきめていた。多分。
「でもそんなの関係ねぇ、食べよう」
 清士朗の声を合図に、仲良し4人組はトングを片手に躍り込んだ。
「わぁ、これだけ色々あると壮観ですね……!」
 恭志郎の口から感動が零れ、
「ごちそう ごちそう うれしいな~♪」
 縒は思わず歌ってしまった。
「……うぅう、いろんなとこから美味しそうな匂いが……ど、どこから行こうかなぁ、悩むなぁ」
「縒さん、お魚はあの辺にお刺身とかお寿司、あっちにムニエルとかポワレ……和食コーナーに兜焼きとかありましたよ」
「えっ、恭ちゃん、おさかなあっちにいっぱいあるの?」
 思わず身体が流れるが、
「縒ちゃんはやっぱおさかな? お肉も美味しそうだよ。ほらローストビーフ目の前で切り分けてる!」
 フィーが指差す先では、シットリとしたローストビーフが上品にくたぁっと皿の上に倒れ込んでいた。
「そっちにも!? えーと……どっちから行こ……って、はわぁ!?」
 軽く頭がビジー状態になった縒の前に現れたのは清士朗。大ホールで働くウェイターよろしく、大量の料理を皿に盛って現れた。
「サーモンとイクラの赤に、ブラックオリーブが黒く皿を引き締めるカルパッチョ。寿司は鯛に中トロ、ウニ、ふっくら穴子。多めに持って来たし、縒も食べるか?」
「あ、おさかな! 食べたいです!」
 あーん。
 ぱくぅっ!
 魚の旨みが弾けた。
「う、かるぱっちょもおすしもおいひい……」
 幸せそうな顔で、もぐもぐ。
「フィーちゃんは何食べるの?」
 ――その時フィーの嗅覚が、ある匂いをビビッと脳に叩き込んだ。
「……ん? あれは!」
「あれ、どこ行くの?」
 そこは、桃源郷。
「アップルパイ……! しかも何種類も!」
 あれは大正義の紅玉にシナモン。あっちは黄色い林檎にリコッタチーズ。とどめは青りんごにカスタード!
 ひゃああーっと両手を顔の横で握りしめ、お皿にアップルパイをてんこ盛りにしていく。
「もうスイーツ!? 早くない!?」
 ツッコむ縒の口に、えい。アップルパイを突っ込んだ。
「ほら縒ちゃんもひと口ずつ味見」
「……うん、まぁ、食べるけど」
 もむもむもむ。
 そして、お皿の上のアップルパイが次々とフィーの口の中へと吸い込まれていく。
 ああ、幸せ。黄金の蜜。とろけるよ……。
「……帰ったらアップルパイロスになりそう」
 幸せを体中から迸らせながら、リンゴの精は呟いた。
「ね、恭君、またこれ食べたい。作れないかなぁ?」
 恭志郎は、フム。とアゴに指をあて。
「……んー、真似た物なら作れるとは思うけど……流石にプロの味を再現は難しいですよ。例えばこのひと皿……材料と手順は大体思い浮かぶんだけど、隠し味なんだろう……もしかして巽さんなら分かりますか?」
「隠し味探しはなかなか難しいが――ひょっとして蜂蜜かな?」
 恭志郎の目から鱗が落ちた。
「そうかも! 流石です! じゃあ、今度試してみようかな」
 その時はまた仲良し4人で、お喋りでもしながら楽しむのだろう。

 こちらはレカとルリ。
 ハニーをしこたま喜ばせた後、匂いにつられてやってきた。
「でぃらっしゃい!」
 職人気質のイケメンが、せっせと蕎麦を茹でている。
「お蕎麦と、海老天ぷらをお願いします」
「私はお蕎麦と、大葉の天ぷらを」
 気風の良い返事が響き、鍋の中で海老が、大葉が、シュワワワッと衣をつけていく。
「そぉい!」
 カラッと上がった天ぷらが、天空に打ちあがった。
「熱いうちに、いきな」
 湯気を立て、蕎麦と天ぷらが光り輝く。
 ゴクリ。二人は唾をのみ――、
 サクリ。
 つるつる。
 光が弾けた。
「茹でたては三たての一つ。頷けるお味だわ」
 ふわっと出汁の香りが顔を撫でる。
「香りもよいのですね。ルリさん、大葉は如何ですか?」
「さくさく、とっても美味しいですよ♪ レカさんの海老天ぷらもおいしそうですねぇ」
「ええ、こちらもおいしいですよ!」
 つるつるサクサク食感を楽しみ、つゆが全身に染み渡る。
 ぷはっ。
 椀から顔を上げた二人は零れるような笑みを浮かべていた。
 さてとお次は、
「「クレープブリュレ」」
 以心伝心。デザートコーナーへ。
「ずっと気になっていたんですっ」
 ルリが瞳を輝かせれば、
「わぁ……! 焦がしカラメルとクレープの相性が抜群ですね!」
 レカの瞳もキラキラと、
「焦がしカラメルの苦甘さがじんわりお口に広がって、生クリームが優しく舌の上で溶けていくよう」
「甘さ控えめな生クリームも素晴らしいです」
「美味しいですねぇ」
 夢のような時を過ごし、最後は桃ジュースを手に取り甲板へ。
 そこではアッと息を呑むような星空が、二人を待っていたのだった。

 こちらは壬蔭と涼香。
 デザートコーナーの前で、ウキウキ、ソワソワ。涼香のピンクの瞳がキラキラ輝いている。
 目の前には、洋画に出てきそうなクリームたっぷりのケーキ!
 フルーツやらシロップやらチョコやらあれやら、そびえ立つパフェ!
 そしてそして、プリンアラモード! この世の全ての素敵を詰め込んだら、きっとこんな形になるに違いないプリンアラモード!
 横から、ねーさん(羽猫)を肩に乗せ、壬蔭が顔を出した。
「涼香さんは食べたいものある?」
 答えはキラキラ輝く瞳を見れば、一目瞭然だった。
「プリンアラモードか……久々だな……」
 二人で嬉しそうに取り分ければ、みるみる夢のようなプレートが出来上がった。
 次は海の見える席を探し、二人と一匹、夜風に遊ぶ。
 席に着いたら、甘々タイムが待っていた。
「……みかげさん、プリン食べる?」
 ふと、いたずら心が頭をもたげた。
 大きなスプーンにプリンを掬って、クリームも果物も乗せて……。
「はい、あーん?」
「あー――少し多くないか……」
「あーん?」
「あ、あーん」
 ぱくっ。耳まで真っ赤に染まっていく。
「美味しいなこれ……」
 彼女も笑顔で嬉しそう。
「このチーズタルトも美味しいぞ……」
 攻守交代。彼のターン。
「え、お返し!?」
「あーん♪」
「………………あ、あーん……」
 今度は涼香の顔が赤くなる番だった。
「……すごく、甘い、です」
 その後も涼香と壬蔭、さらにはねーさんも加わり、甘々あーん大会は続く。
 涼香は思う。
 甘い物好きっていうのは今回の発見。こうやってこの人の事、一つ一つ知っていけると嬉しいな。

 こちらはアンセルムと和希。
 持ち運びやすい料理を手に、甲板で静かなひと時を過ごしている。
 和希のトレーには、寿司に天ぷら、唐揚げ、サラダ、そしてソフトドリンク。
 アンセルムは、ジュースに寿司に、ドネルケバブ。
 星空を眺めながらの食事は、少し不思議で、澄んだ空気がした。
「今年もいろいろありましたね。菩薩累乗会に熊本滅竜戦。それに、アンセルムさんの紛い物との戦い……」
「そうだね……色んな事がありすぎたよ。もう今年が半分切ってるなんて、信じられないぐらいだ」
 アンセルムは見上げた星から視線を和希へと移し、
「何だかんだやってこれたのは、キミがいてくれたお陰かな」
 ふふ、と穏やかに微笑んでみせた。
「これからもよろしくね?」
「……こちらこそ、ですよ。僕もアンセルムさんのこと、とても頼もしく思っています。これからも色々なことがあって、それもきっと良い思い出になる、と思います。今までのことがそうだったように」
「これからか……」
 世界はどうなっていくのだろうか。ボクらはどうしているのだろうか。
 ――ん、そういえば。
「そうだ。たしか和希って、来年は20歳になるよね」
「ええ。来年は20歳になりますが……」
「なら、誕生日を迎えて大人になった時に……お酒、飲みに行かない? せっかくだし、一緒に飲めたらって思うんだけど……どう?」
「……それは光栄です。是非ともご一緒させてください。その時には、お酒の種類や飲み方を教えてくださいね?」
 この親友となら、この先も素敵な未来に違いない。

 こちらは勇華とエーゼット。
「わーい、ビュッフェだぁ。色々一杯美味しそう……えへへ、わたしはプリンアラモード食べようっと。エー君は何食べる?」
「んー、迷うけど……フルーツタルトにしようかな!」
「じゃあ食べるもの取ったらあっちいこう、海がよく見えるとこ!」
 ホールを抜けて甲板に上がると、そこには静かな世界が広がっていた。
 周り一面を覆う深い蒼。
「……綺麗な海だね。見てるとなんだか、心が洗われるみたい」
 吸い込まれるような海に、勇華がウットリ零せば、
「見上げれば星空、見下ろせば水面、隣には君がいる……どこを見ても綺麗だ」
 彼の綺麗な緑の瞳が、勇華を見つめていた。
「スイーツも美味しい……大好きなエー君と一緒にいるからかな、とっても美味しいよ。それにとっても幸せ」
「僕もとても幸せ」
「ずっとこうしていられたらいいな」
「これからも、こうやって二人でたくさん思い出を作っていきたいね」
 瞳の中には愛しい人。赤の瞳にエーゼットが映り、緑の瞳に勇華が映る。
「……ねぇ、えっと……。あの……エー君もうちょっとしたら18だよね?」
「わぁ、覚えててくれたんだね」
「そうしたらその……えっと……プ、プレゼント用意しなきゃだね!」
「ありがとう、嬉しいよ」
 勇華は勇気を出そうと顔を少し引き締め――、
 唇を震わせ、みるみる顔を真っ赤にしてゆき――、
 ボフッ。オーバーヒートした。
「楽しみにしててね!」
「……? うん、楽しみにしてるね?」
 ころころ表情を変える愛しい人を見ながら、エーゼットは不思議そうに首を傾げるのだった。

 こちらは再び、ラルバとレスター。
 ホールで幸せいっぱい料理を食べて、今は夕涼みに甲板へ。
「もう食べられないぜー」
 ラルバは目をバッテンにしながら、しかしその手にはフルーツ盛り盛りのクレープをシッカリ握りしめている。
 そんな友の姿を微笑ましく見つめながら、レスターは珈琲を口に含んだ。苦味が心地よい。
 星空と海が美しいコントラストを見せている。こんな蒼い空間では、感傷が胸に迫ることもある。
「ハニーには勿論。ラルバにも本当に感謝してるんだ。俺一人じゃ宿敵を倒せたか心許なかったから。俺もキミの力になれた?」
「宿縁邂逅で一緒に戦ってくれたみんなには本当に感謝だ。もちろんレスターにも。おかげでお師匠様の仇も打てたし、オレもここにいられてる。オレもレスターの助けになれたなら嬉しいぞ」
 歳の差が有る二人だが、そこには友情が確かに存在した。
「地球にはこんな美しい眺めがあるんだね」
「夜空、本当にキレイだ」
 この友ともっと色々な景色を見たい。互いにそう思いながら、天界の宝石を眺め、息を零すのだった。

 こちらはヌリアと銀河。
「本当に沢山の料理の数だ。選ぶのにかなり悩んだよ」
「そうね。沢山の料理が並んでたわ」
 二人の大皿には、苦心の末に選び抜かれた逸品が色とりどりに盛りつけられている。
 ホールからデッキに抜けると、優しい潮風の香りと柔らかな夜のベールが二人を包み込んだ。
 星空は地上で見えるより多く、無傷な光が瞬いて見える。
 席を探して歩いているこの時すら、楽しく愛しい時間。
 やっと見つけた席に料理を置き、二人は星を見上げた。
「船上からの星空は少し贅沢だな」
 天の川は夏の代表的な星座と共に、南に行くほど輝いて、
「天の川をネックレスにして君にプレゼントしたいな……」
 つい、銀河は呟いていた。
 本心からの言葉。しかし少し、照れも出る。
 そんな銀河にヌリアは、やんわりと、
「素敵だけれど、織姫と彦星が会えなくなるわ」
 天使のように微笑んで見せた。
 銀河はホウと暫し見とれ、
「お! 流れ星だ。そう言えばそろそろかな? 夏の流星群」
 赤くなった顔を隠すように話を変える。
「流れ星はタイミングを逃しがち――」
 見上げたヌリアの瞳の先で、ころり光が零れ落ちた。
「もう一度見えるかな? ……あぁほら! 東側」
 恋人たちの時が流れる。
 ヌリアの願い事は心で呟く前に消え、心には抜け殻の願いだけが残る。世界に等しく夜の訪いがあるように、と。口には出さずに胸の内。
 銀河の頬を心地よい風が撫でる。これからも二人でこうして一緒に同じものを見ていきたい。そんな想いを込めて流星に願いをかけた。

 こちらは宝と雅也。
 熱気に満ちたホールを抜けて、甲板でひと涼み。
「そういえば、2人だけで出掛けるのは初めてか?」
 宝はビターな香り漂うアイス珈琲をカランと鳴らし、相棒の雅也へ。
「たまには、2人だけもいーだろ?」
 雅也は珈琲を受け取り、空を仰ぐ。零れるような星が広がっていた。
 暫し二人、無言で夜の空気を感じ、
 宝が意図を探る様に、その金の瞳を向けた時だった。
 チャラン。
 目の前で、チェーンが揺れた。太陽のチャームが付いた銀製のウォレットチェーン。
「宝も誕生日おめでとさん」
 ニッカと笑い、照れを隠すようにコーヒーをグイっといく。
 ――そういうことか。
「どうも」
 プレゼントを静かに身に着け、小さく笑う。
 潮風が涼しく、コバルトブルーの海は深く。純白の天使、白いの(ナノナノ)が空を遊ぶ。
 静かな大人の時間が過ぎていった。
 ちょうど、ホールから出てきた参加者の声が聴こえてきた。
「美味しすぎて言語中枢がストライキした」
「うまうま」
 あまりの表現に、2人、顔を見合わせる。
 思わず笑ってしまった。
「そろそろ俺たちも行くか。ハニーやアモーレが絶賛してた料理だもんな。食べなきゃ勿体無い!」
「そうだな。折角だから、料理を頂くか」
 パチン。指を鳴らすと、シュタッ。白いのが嬉しそうに飛んでくる。
「陸に着いたら一杯付き合えよ」
「勿論、そっちも奢らせて貰うぜー……あ、あんま高い場所は勘弁な?」
 いつかの花祭りでの請求書事件を思い出し、2人笑うのだった。

 甲板の上。ハニーは夢心地でいた。
「あの人も、あの人も、あの人も楽しそう。嬉しいなぁ」
「至高の誕生日プレゼントを戴きましたね」
「うん!」
 月華の光を浴びながら、緑のエルフは星に願いをかけた。
「これからも、みんなが幸せでありますように♪」

作者:ハッピーエンド 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月16日
難度:易しい
参加:24人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 9/キャラが大事にされていた 3
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