魔竜顕現~魔竜ラセン・トガノオロチ

作者:ほむらもやし

●熊本城跡
 夕方の気配が一層強まってくる。
 熊本のシンボルである天守閣があったはずの位置には何もなく。
 今はドラゴンオーブが浮遊している。
 その下方は広大な瓦礫の野、爆風に吸い寄せられたバスや乗用車が踏みつけた折り紙のように潰れていて、薙ぎ倒されたクレーンは元の形がわからない程、そして無残に破壊された石垣を構成していた巨石が散らばっている。
 その様な瓦礫の野にあちこちに煌めく宝石――自爆したエオスポロスのコギトエルゴスムが埋もれていた。
 ドラゴンオーブから発せられた光は、それら、すべてのコギトエルゴスムに注がれる。
 次の瞬間、光は巨大な影を立ち上がらせて、空をかき回す様な螺旋を描き、地を震わせる嗤い声を響かせる。
 凄まじい力が溢れ出して、暗くなりかけた空を染め上げるが如き光とともに、岩の様な身体から沢山の赤い首の生えたドラゴンが現れる。
 不意に音が消えた様な刹那、そのドラゴンはふわりと浮かび上がり、赤黒い巨体でドラゴンオーブの前に立ち塞がる。その姿は目に入る全てを消し去さんとする憎悪の化身のようだった。

●戦いの幕間
 熊本城でのドラゴンとの決戦はひとまずの勝利をみた。
 しかし19体のエオスポロスの自爆を許したことで、魔竜王の遺産『ドラゴンオーブ』の封印は破壊された。
 ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)はあなた方ケルベロスに向かい合う位置に立つと、小さく息を吸い込んでから口を開く。
「事態は深刻だ。ドラゴンオーブは『時空の歪み』とも言える空間を生み出し、その内部を禍々しい力で満たそうとしている。この力が充ちた時、ドラゴンオーブから魔竜王の後継者となるべき、強大なドラゴンが生まれると判明した」
 革張りのメモ帳を閉じるとケンジは眉間に皺を寄せて険しい表情を見せる。
「阻止する為には、時空の歪みの中に突入し、ドラゴンオーブを奪取、或いは、破壊する必要がある。しかし。この歪みの中には既に覇空竜アストライオス、喪亡竜エウロス、赫熱竜ノトス、貪食竜ボレアースの4竜が入り込んでいる」
 さらに時空の歪みの周囲には、ケルベロスの侵入を阻止すべく、19体のドラゴンが守りについている。
 ドラゴンオーブを奪取、或いは、破壊して、ドラゴンたちの目論見を阻むには、これら強大なドラゴンに挑む必要がある。

「諸君にお願いしたいのは、19体のドラゴンのうち1体『魔竜ラセン・トガノオロチ』への攻撃だ」
 まず、時空の歪みに突入するチームと連携し、同時に攻撃を行い、突入を援護するのがあなた方の第一の目的となる。
 そして、突入したチームが撤退してくるまでの最大30分間、魔竜ラセン・トガノオロチを抑え続ける。
「敗北は許されない。魔竜ラセン・トガノオロチをはじめ、19体のドラゴンは目の前の敵の排除に成功すると、他のドラゴンの救援に向かう。どこか1か所でも、しくじれば、連鎖的な戦線崩壊につながるから、忘れない様に」
 なお19体のドラゴンは、覇空竜アストライオスと同等の戦闘力があり、少人数のケルベロスでの撃破は不可能な強敵だ。
 但し、生み出されたばかりの為かどうか、理由は不明だが、戦場に一人でもケルベロスが健在であれば、その場で戦い続けるという性質があることが判明しいぇいる。
「だから無茶を承知でお願いする。倒せずとも時間を稼ぐことはできるよね?」
 仲間のケルベロスの支援も期待できるかも知れないが、基本的に戦いは引き受けたパーティなりチームで担うもの。他力や漠然とした希望に縋るような作戦は破滅への最短コースになるだろう。
「それから、支援チームの作戦次第では、戦力集中によるドラゴンの撃破を狙う可能性もあるから、そのときは柔軟に要請に応じて下さい」
 336名ものケルベロスが必死につないでくれた未来への道だ。こんな所で終わらせたくない。
 これから先もつないで行こう。
 ケンジは拳を握りしめて、あなた方に未来を託した。


参加者
ミライ・トリカラード(夜明けを告げる色・e00193)
ドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638)
伏見・万(万獣の檻・e02075)
空飛・空牙(空望む流浪人・e03810)
フォルトゥナ・コリス(運命の輪・e07602)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
絶龍・しいな(赤黒き風・e44078)
牧野・友枝(抗いの拳・e56541)

■リプレイ

●負けないことが大事
 目の前で鎖の絡まる赤い首が何本も蠢いて山のように積み重なって見えた。夕方の気配に強められる赤、文明が終焉を迎える日があるのならこんな感じかも知れない。
 19体の侵空竜の自爆を許したことが今回の危機の一因だ。
 しかし、この戦いは、汚名を雪ぐのとは違う。
 今、ミライ・トリカラード(夜明けを告げる色・e00193)の胸の中にあるのは、身が尽きるまで護り、戦い抜く決意。予期出来なかった問題にも、分からないことにも、知恵を巡らせ、できることはすべてやる覚悟だ。
 一連の戦いには人類の未来が懸かっている。
 言い表せない感情を、足りない語彙に、精一杯詰め込んで、皆、此処に立っている。
「?!」
 巨体の下部でたくさんの触手が蠢き、滑るように動く魔竜は瞬きの間に間合いを詰めてくる。
 薙がれた巨尾からの打撃が、近接攻撃に備える前衛陣の体力を削り取る。
 当然、予測できた事態。中に向かった仲間が戻ってくるまで、それが叶わずとも、救援が着くまでは耐えてみせる。その誓いを果たす為にミライは自らを癒す。
 フォルトゥナ・コリス(運命の輪・e07602)は頭の中で思い描いていた通りに、声を張り、希望の詩を綴る。共鳴する響きは大きな癒力をもたらす。そして無駄の無い動作から、牧野・友枝(抗いの拳・e56541)は治療無人機群を飛び立たせた。
 一歩後ろに引いて、ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)は巨躯を見上げた。
 拳に集中させた、光輝のエネルギーの煌めきが溢れ出す。
「覚悟はいいですか」
 真っ直ぐに拳を突き出しさえすれば、簡単に当てられると信じた。事実、拳は当たったが、巨体は微動すらしない。幾ら良いシュートを放ってもゴールラインを超えなければ得点にはならないのと似ている。
 直後、高笑い共に跳び上がり、ドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638)は蠢く首の一本にしがみつくと、破壊のオーラを叩き込む。
「カッカッカッ! これぞドラゴンアーツの真骨頂じゃ!」
 並の神経の者なら絶望してしまいそうな状況にあっても、どこか楽しげに見えるドルフィンの姿は張り詰めた空気に微かな潤いを与える。
「こんなに図体でかいのに、なんで外すんだよ」
 伏見・万(万獣の檻・e02075)は零すように言った。
 答える者の居ない問いに、戦場の静寂は増す。
 辛うじて、鋭い蹴りの効果を刻みつけた、空飛・空牙(空望む流浪人・e03810)が無言のまま、得物を前に突き出す。長い時間を戦い抜かねばならない。そのために無視できない程のバッドステータスを叩き込むつもりだ。
 併せて、僅かでも命中力を確保しようと、絶龍・しいな(赤黒き風・e44078)の繰り出した、流星の輝きが爆ぜて、衝撃に大気が揺さぶられる。
 効いているのか効いていないのかも分からない程度のかすり傷に、しいなは舌打ちをひとつして、後ろに間合いを広げる。嫌な因縁を感じた。同時に胸中に押さえている狂気が溢れ出しそうになる。
(「人類の存亡の懸かるこんな時に――ああ、まったく困ったものよね」)
 普通であれば、中学最後の夏休みを迎えるこの時期、学校の制服では無く、こんな鎧を身につけて戦っているなんて、とっくに人間離れしてしまっていた。
 再び大きく動く巨体、どこか嬉しげにドルフィンが衝撃に備えて身構えた瞬間、敵は前衛では無く、目障りな攻撃を掛けてくる、空牙と万を目掛けて突っ込み、巨尾を叩き付けた。
 自身とメディックの2人に意識を向けていた、ミライは虚を突かれる形となる。
 事前情報で敵は列攻撃を基本とすると聞いた。列攻撃は異なる列を跨がらない。メディックを守ることに意識を向ければ中衛への意識は疎かになる。
「このままじゃあ持たない!」
 己の方針の弱点に気がついた、ミライは声を上げ、空牙に向けて溜めた癒しのオーラを送る。一方、敵の注意を傷ついた中衛から剥がすが如くに、ミリムは高質量の獣撃を、ドルフィンは具現化した光の剣で攻勢で強める。
「なにをやっているのですか? しっかり当てて下さい!」
「いやあ、悪い、悪い、そのうち決めてやるから、落ち着つくのじゃ」
 敵の攻撃を前列に誘引したほうが守りやすいが、単攻撃を誘発すれば、一撃で落とされる。
 しかしこれ以上、後ろに攻撃を通したくは無い。作戦に多少の修正を加えつつ、ギリギリの塩梅を求めての苦悩は続く。
「まあ、まったく攻撃を受けずに済むなんて、あり得ないんじゃねぇの?」
「不都合があれば、俺は皆に合わせるぜ」
 付与される盾の加護に、空牙はひと息をつくも、深傷も顧みずにサイコフォースを発動して一矢を報いる。そして万は自ら癒すが、その回復量はまったく追いついていない。
「まだ、ここで倒れる定めではないわ!」
 フォルトゥナの掲げた腕の先から現れた輝く龍、そして溢れる光は莫大な癒力を注ぐ、続けて、友枝も癒しを送ると共に光の盾を具現化し守りを固めた。
「大変、これくらいじゃ、全然足りてないわよ!」
 胸騒ぎを覚えたフォルトゥナが悲鳴の如き言葉を零す。
「確かにヤバそうだね。でも次はきっと前衛が押さえてくれるはずだよ」
「本当に?」
「本当だよ。キミも覚悟を決めて、此処に来たんだろう。狼狽えてはいけないよ」
 否定はせずに、それでも友枝は根拠のない楽観で返した。実際のところ、余程運が悪いかミスでもない限り、ジャマーの2人には行かないだろうという読みはある。ただ、命がけの戦いの最中に、それを口にするのは、何となく無粋に感じる。
(「そうは言ったけど、軌道修正できなければ、長くはないかもね」)
 ディフェンダーは3人、中衛の2人が狙われた場合、2人とも守られる可能性は贔屓目に見ても五分を下回る。
 ディフェンダー以外の者が、攻撃は食らえば耐久力の大部分を削り取られるばかりか、回復の為に莫大な手数が必要だ。それら厳然とした事実が、フォルトゥナと友枝の心に重く圧し掛かった。
「この鎧の力を見せてあげるよ……だあああああ!!」
 緊迫した空気の中、盛大に響き渡る、しいなの声と共に、ドラゴンの尾と見まごうばかりに巨大化させた尾を振り下ろす。爆音が轟いて、衝撃波と共に砂を含んだ風が吹き抜けた。
「あーあ、まったく。また外したわよ。半端ないわよね……」
 そう嘆いた直後、魔竜は輝くブレスを吐き出した。
 砂煙が銀光に煌めき、何かが焼ける楊な嫌な臭いが立った。
 たったひと吹きのブレスで体力の大部分を削り取られた、しいなは危機感を募らせる。続けて後衛が狙われれば自分だけが為す術もなく落とされてしまう。
 一方、メディックの2名は、ディフェンダーに守られて事無きを得ていた。
 ダメージを肩代わりしたミライはすぐに自らを癒す。続けて、フォルトゥナと友枝が癒術を発動すれば、ミリムも危険な状況は脱することが出来る。
 銀の髪を揺らしてドルフィンは疾駆する。そして間近では高い崖のような胴体を見据え、超高速の蹴りで急所を貫く。衝撃に痺れるような足の痛みを感じるが確かな手ごたえに、ドルフィンに表情は歓喜に色づいた。
「カッカッカッ! いけるのじゃ。ドラゴンとて、絶対無敵ではないのじゃ」
 無論、急速に削り取られる体力の上限や、庇い切れない時のリスクも孕んだままだったが、魔竜の繰り出す、すべての攻撃に絡みつこうとする、ミライとミリムの執念に根負けするように、一向に敵意はディフェンダーに偏って行く。

●戦線の崩壊
「おぬしらばかりに偏るのも、拙いようじゃのう」
 消耗の激しいミライの分と合わせて2人分のダメージを引き受けたドルフィンが唇の端を上げて目を細める。
 まだ、ここで倒れる定めではないわ。
 聞き飽きて来た台詞に救われる。
 だがフォルトゥナの作り出す共鳴する癒力でも、2人分のダメージを回復しきるには足りない。
 しかし次の一撃を耐える準備はできる。それは、癒やすべきは誰か、守るべきは誰かを2人のメディックで把握しようとしていたからに他ならない。
「もう、いいよ。ドルフィン。ディフェンダー同士で庇い合うべきじゃ無いよ」
 ボクには盾の加護もある。もう一度くらいは耐えられるかも知れないと、ミライは微笑み、淡い幻影の如き光盾の加護をドルフィンに重ねる。消耗の平準化を目指せば、その過程で時間を稼ぐこともできるが、纏めて落とされるリスクも増す。
 走り回り、左翼と右翼からそれぞれに仕掛ける万と空牙の動きがよく見える。やっとの思いで刻みつけたバッドステータスの殆どが癒しの一手で消し去られると分かっていても、その一手を使わせる為に、懸命に攻撃を繰り出している。
「それじゃあ、後は頼んだよ」
 ミライは、そう言い置くと、しいなが自身で作り出した巨尾を叩き付けるのに機を合わせて前に出た。
「ばーか! 滅びろドラゴン!!」
 文字通り、言い表し切れない気持ちを、憤怒も後悔も怨嗟も仲間への感謝も……僅か10文字ほどの言葉に詰め込んで、ミライは満身の力で叫ぶ。
 次の瞬間、しいなたち後衛に向けられていた害意は、ミライ一人に向けられた。
 高速で迫るそれが、魔竜の巨大な爪だと認識した時にはもう、視界は赤に塗り替えられていた。骨が断たれるような感覚は激痛とは違う痺れと変わり、それに感想を抱く猶予も無いままに意識は闇に落ちた。
「ミライさん!」
 そう叫ぶ刹那、ミリムの頭の中で、戦いの経験から来る勘が次は自分がそうすべきだと告げていた。
 重ねたエンチャントやバッドステータスの発動の期待に縋るならば、より長く戦場に立てる可能性も出てくるが、その代償に別の仲間が倒れることになる。被ダメージが半減となるディフェンダーなら、そう言う事態を避けようと考えるものだ。
「ディフェンダーって、そんなに良いものではありませんよ」
 痛いし、苦しいし、ディフェンダー何やってるの? って言われるし、そうだったとしても、最後まで護りたかったが、もう難しそうだ。ミリムは自分が倒れた後、ポジション変更を試みるだろう、空牙らに忠告すると、その真意を告げることも出来ないまま、魔竜との距離を詰めた。
 空牙と万の、体力の上限は、少ない被弾にも関わらず、既に大幅に削り取られていた。
 しかもグラビティの構成はジャマーとしての攻撃に偏ったものとなっている。防具に回復力、エフェクトと、周到に準備を整えたディフェンダーですら、苦戦をする相手に、単にポジションだけを変えて、挑んでも一手を捨てるだけの見返りは無いだろう。
 振り下ろしても突き立てても、びくともしない岩の如き腹部を目掛けてミリムはチェーンソー剣で挑み続ける、そしてドルフィンは、傷だらけの身のまま魔竜の背に跳び乗ると、掌を突き降ろす。瞬間、溶岩を素手で掴んだが如き激痛、それでも耐えながら螺旋を流し込む。
「ほら、死角ができてんぜ?」
「引き裂け、喰らえ、攻め立てろ!」
 無数の分身と共に仕掛ける、空牙の同時攻撃、全球の視界を持つと思われる魔竜の不意を突くが如き斬撃が襲いかかり、間髪を入れず、叫びと共に万が繰り出す飢えた群狼の幻影が魔竜の傷跡に襲いかかった。
 揺れる巨体。そのダメージは挙動から見ても明らか、そこに流星の輝きを纏って急降下する、しいなの蹴りが炸裂する。
 直後、急速に迫り来る、巨体と薙がれる巨尾。間近で見れば山か壁が動くかに見えるそれが、咄嗟の動きでしいなを庇おうとしたミリムの全身を打ち据える。
 次の瞬間、全身を巡る血管が一斉に弾けるが如き激痛に襲われた、ミリムのダメージは限界を超過して、フォルトゥナを護ったドルフィンの消耗も危険域に達する。
「頑張って!」
 奇跡的に立ち上がった友枝が己の身も顧みずに、マインドシールドを発動する。
「カッカッカッ! 盛り上がって来たのう!!」
 ミリムが倒れたことで、戦局は益々悪くなったが、強力な癒力の恩恵を一人で享受出来ると気づけば、損害を顧みずに、強敵と戦える絶好機だと、ドルフィンは不謹慎と自覚しながらも、思わずにはおれなかった。
 果たして、空牙と万が前衛に移る間、ドルフィンは見事に耐え凌ぐも、重ねた盾の加護を以てしても、次の一撃を凌げるかは疑わしい。
 戦局の悪化は空牙や万が想定していたような、緩やかな速度ではなく、積み木を崩すかの如き勢いで変化する。2人分のダメージを引き受けたドルフィンの身体は文字通り崩れ落ち、万もまた、力尽き果てた。
 残された空牙にはもう、打って出ること、挑発を掛けるしか出来なかった。

●引けない地獄
 かくしてディフェンダー陣の全壊を以て、援軍要請の赤の信号弾は打ち上げられた。
 フォルトゥナ、しいな、友枝らが考えていたよりも、ずっと早い幕引きだった。
 3人のディフェンダーで中衛、後衛に向けられた攻撃を全て庇ってくれるだろうと言う漠然とした期待が現実を見誤らせたのかも知れない。
 残っている者は皆、既に体力の上限を削り取られている。纏めてなぎ倒されて全滅するくらいなら、少しでも時間を稼いだ方が良いと、腹いっぱい息を吸い込こんでから、友枝は思い切り叫んだ。
「オラァ! ちっぽけな人間相手にその程度か! ドラゴンも大したことないね!」
 覚悟を孕んだ青の瞳が閃光の如くに煌めく。
 今なら傷ついた仲間と共に逃げることも出来るだろう。しかし援軍の到着を信じて、続ける。
 今、ここで稼ぐ1秒、1分は、戦いを繋ぎ、人類がこの地球で次の朝を迎える為のものとなるならば、命を賭す意味があるはずだ。
「さあ、掛かって来なよ。斃せるものなら斃してみなよ。私は戦って死ぬのなんて、怖くないよ!!」
 永遠を生きるデウスエクスにとって、死は理解しがたき概念。
 得体のしれない『死』を恐れぬ存在に不気味さを感じたのか、それとも言葉の真偽を確かめる為か、或いは生意気な敵を消したいと思ったのかは定かではないが、魔竜は友枝の身体に比して大きすぎる爪を突き刺して、無造作に切り下げた。
 次の瞬間、骨を断たれ肉を切られた身体が、粘性を帯びた音を立てて崩れ落ちる。
 フォルトゥナとしいなには、もう「援軍が来る」という希望に縋って耐えることしか思いつけなかった。
 体力の上限を削り取られた状態で、魔竜を挑発すれば、本当に死んでしまうかも知れない。でも、どちらか1人が犠牲になれば、ほんの少しの間だけど時間を稼ぐことができる。
 すごく怖いけれど、それで皆との約束が果たせるのなら。と、思うと不思議と怖さが薄らぐ気がした。
 逡巡の間に、薙がれた魔竜の巨尾は2人を打ち倒した。
 だが、赤くぼやける視界の先に、ようやく来援した仲間の姿を認めた。
「……ギリギリだよね。まったくもう、死ぬかと思ったんだから」
 しいなとフォルトゥナは、安らかな顔を地面に落とす。泥混じりの血が飛び散る音が2度響いた。

作者:ほむらもやし 重傷:ミライ・トリカラード(夜明けを告げる色・e00193) ドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638) 空飛・空牙(空望む流浪人・e03810) 牧野・友枝(抗いの拳・e56541) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月20日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 3/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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