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すっかり瓦礫の山と化してしまった熊本城。
かつて天守閣があった場所に浮かび上がってきた禍々しい球体……。
「魔竜王の遺産、ドラゴンオーブが目覚める!」
そう。ドラゴンオーブの出現に気づいたのは、ケルベロス達だけではなかった。
覇空竜アストライオスは、ドラゴンオーブの怪しい輝きをいち早く察して、紫の球体の元へ向かっていく。
後には当然ながら、喪亡竜エウロス、赫熱竜ノトス、貪食竜ボレアースが付き随っている。
「……後継者の誕生を、竜十字島の玉座で迎える事ができなかったのは痛恨である……」
そんな呟きを残して、ドラゴンオーブが生み出した時空の歪みへ自ら吸い込まれ、姿を消す覇空竜アストライオス達。
その後、ドラゴンオーブの周りを取り巻く時空の歪みからは、まるでドラゴンオーブを守るかのように、強大なドラゴン達が次々と現れた。
女性の上半身が浮き上がったふうに見える胴体と美しい鱗、蝙蝠のような巨大な翼を持つドラゴン。
白い鱗に紫の翼、太く立派な爪を有し、赤々とした炎を操るドラゴン。
彼岸花のように真っ赤な首がごつごつした岩の身体から無数に生えているドラゴン。
その数、全部で19体。覇空竜アストライオスに勝るとも劣らない精鋭揃いである。
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「熊本城で行われたドラゴンとの決戦は、辛うじて勝利する事が出来ました。皆さんお疲れ様でした……!」
小檻・かけら(麺ヘリオライダー・en0031)
「過半数の侵空竜エオスポロスの撃破に加え、廻天竜ゼピュロスの撃破にも成功した事で、覇空竜アストライオスは出現した『魔竜王の遺産、ドラゴンオーブ』を竜十字島へ転移させる計画を失敗したのでありました」
しかし、情勢は予断を許さない。
「ドラゴンオーブは『時空の歪み』のような空間を生み出し、その内部を禍々しい力で満たそうとしてるであります……」
その力が充ちた時、ドラゴンオーブから魔竜王の後継者となるべき強大なドラゴンが生み出されてしまうと、予知で判明したのだ。
「これを阻止する為には、時空の歪みの中に突入してドラゴンオーブを奪取、或いは破壊する必要があります」
既に時空の歪みの中には、覇空竜アストライオス、喪亡竜エウロス、赫熱竜ノトス、貪食竜ボレアースの4竜が突入しており、すぐに後を追わねばならない。
「しかし、時空の歪みの周囲には、ドラゴンオーブの力で出現したと思われる『19体の強大なドラゴン』が侵入者を阻止すべく待ち受けてるであります」
この19体のドラゴンを抑え、時空の歪みの内部に突入、アストライオスら強大なドラゴンと対決し、ドラゴンオーブを奪取或いは破壊する……。
「危険かつ成功率の低い無謀な作戦となりますが、現状、これ以上の作戦は存在しません。皆さんの力を、どうかお貸しくださいませ、宜しくお願いいたします」
かけらが深々と頭を下げる。
「さて、この作戦の目的は、ドラゴンオーブを奪取或いは破壊する事でありますが、そう簡単には行えません」
まず、時空の歪みへ突入する為には、ドラゴンオーブを守る19体のドラゴンに対して攻撃を仕掛けて 、隙を作る必要があるからだ。
その後、突入したチームが帰還する退路を守り抜く必要もあるので、19体のドラゴンと戦うチーム——同時進行で編成が行われている他班の事だ——の支援は不可欠である。
「しかも、先に突入した、覇空竜アストライオス、喪亡竜エウロス、赫熱竜ノトス、貪食竜ボレアースへの対処も要るであります」
その全てに対応した上で、ドラゴンオーブの奪取、或いは破壊を目指さなければならない。
「皆さんが何をすべきか、良く相談なさって、作戦を成功に導いてくださいませね」
かけらは微笑んでつけ加えた。
「ドラゴンオーブの奪取を目指す場合、自分の『ドラゴンオーブの所持者に相応しい資質』を宣言し、ドラゴンオーブによる審判を仰ぐ事が可能であります」
資質が認められるとドラゴンオーブを奪取できるが、失敗した場合は膨大なダメージを被り戦闘不能は免れない。
「ドラゴンオーブの奪取に成功したら、再びドラゴンに奪い取られないよう防衛しつつ撤退せねばなりません」
また、ドラゴンオーブを破壊するには『純粋なダメージ量』が必要となる。
一斉攻撃する人数とダメージ量、攻撃し続ける時間が肝要だが、一定の割合でドラゴンオーブに攻撃を反射される可能性もある。
「反射での戦闘不能を避けるには、手加減攻撃する必要がありますが、その分破壊までに必要な時間や戦力が大きくなるでありましょうね」
一方、アストライオス達4竜を撃破する為には、1体に対して最低でも4~5チーム以上が連携して戦うのを薦める。
撃破を狙わない場合でも、ドラゴンオーブへ向かうチームの邪魔をさせまいと戦い続ける必要がある為、2~3チームで連携した方が良いだろう。
他方、19体のドラゴンとの戦いを援護する支援チームは『敗北したチームの戦場に駆け付けて、ケルベロスに勝利したドラゴンが他のドラゴンの増援に向かうのを阻止』し、突入班が戻るまで、退路を守り続ける事が目標となる。
「突入班が撤退してくるまで長いと30分程度かかりますので、その間、なんとしても、退路を支え続けてくださいましね」
また、本来支援に回るべき複数班で同じドラゴンを一斉に攻撃し、ドラゴンの撃破を目指す事も可能だ。
撃破したドラゴンが4体以上となった場合——その後ケルベロスが敗退したとしても、突入班は『ドラゴンの数が減って、防備が薄くなった箇所を強引に突破して撤退』できるようになる。
「ただし、倒したドラゴンが3体以下の場合、撤退行動は至難となってしまう為、賭けの要素が強くなるであります」
退路を維持しつつ、可能な範囲でドラゴンを撃破するという作戦もありえるが、突入班の戦力が足りなくなる危険性には留意すべきかもしれない。
「確かに危機的状況でありますが、これは、ドラゴンオーブを破壊するチャンスでもあります。皆さんのご武運をお祈りするであります!」
かけらは彼女なりに皆を激励して、説明を締め括った。
参加者 | |
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ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542) |
東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771) |
据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357) |
竜峨・一刀(龍顔禅者・e07436) |
リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540) |
フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378) |
マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402) |
田中・レッドキャップ(美貌の食神妖花・e44402) |
●
廃墟と化した熊本城。
8人は、消えたドラゴンオーブを追って次元の歪みへと足を踏み入れる。
次元の歪みの周囲に蔓延る魔竜達は、彼らの足止め目的な19班が、注意を引きつけてくれていた。
「大丈夫大丈夫、落ちついていこう」
歪みの中へ突入する直前、へらへらと能天気に振る舞って仲間の緊張をほぐしてくれたのは、ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)。
彼の希望はドラゴン班いずれかの支援や貪食竜ボレアーズへの挑戦であったが、ドラゴンオーブも強敵という点では変わりない為、やはり内心では緊張するらしい。
(「オーブまでの道のりはスーパーGPSと紙の地図を利用して記録するから復路も大丈夫……」)
ピジョンは、予め8人で打ち合わせた内容を必死に再確認、未知の場所にいる不安を少しでも払拭しようとしている。追い込まれるとハイになるタイプのようだ。
「ドラゴン相手はかなり怖かったからねー。今回の作戦も不安がいっぱいだけど……」
東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)は、陽の光が一切届かぬ暗い荒野に降り立ち、きょろきょろと辺りを見回した。
年の功——という訳でもあるまいが、終始ヘリオン内の空気に気を使い、他班への連絡役を受け持ってきた苺。
彼女のサバサバした性格とフットワークの軽さは、当班にとって無くてはならないものだっただろう。
「けど、みんなで協力してドラゴンオーブを破壊しようねっ」
今も、改めて気合いを入れ直し、薄く靄がかった紫の光の中、仲間達へ発破をかけた。
「ドラゴンは恐ろしい……デウスエクスだった頃から恐るべき敵として常に相対してきた」
フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)も、怪しい光の中を手探りで進みながら、次第に近づく強敵の数々を肌で感じていた。
「殺されるリスクを考えるとやっぱり怖い……それでも……生きる事を諦めないのは言うに能わず、しかし死を恐れていても前に進めない」
前回、彼女自身は重傷を負わずに無事帰ってきたものの、エウロスを仕留められなかった悔しさは密かに燻っている。
「だから……全力を尽くすだけよ」
とはいえ、エウロスを討ち漏らした無念以上に、ドラゴンオーブを脅威に感じたからこそ、今こうしてドラゴンオーブの破壊に向かっているのだろう。
怪しい紫の光に満ちた荒野を進んでいると、前方にドラゴンの群れらしき影が見えてくる。
「あれがアストライオスと……ゼピュロスを除いた四竜じゃな」
竜峨・一刀(龍顔禅者・e07436)の眼光が、翼を広げて飛ぶドラゴン達を捉えるや鋭さを増した。
一刀は今回、大規模な作戦の煩雑さを憂いてか、他班をも含めた作戦会議の進捗状況やそれぞれの班の方針を纏めて、相談がスムーズに進むよう尽力していた。
それだけ、現場に辿り着くまでの間にも時間と労力を惜しまなかった彼の事。当班の方針として早々と決まった『ドラゴンオーブ破壊』への思い入れも、人一倍強いに違いない。
「命を捨て活を見出したのは敵ながら見事。こちらも死をもってあたらねばな」
死に装束を纏い、肩で風を切る一刀の姿からは、悲壮な覚悟が看て取れた。
「ん……まずはアストライオスに、追いつかないと、だね……」
リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)も、アストライオスより先にドラゴンオーブを破壊すべく、草一本生えていない荒野を急いでいる。
元暗殺者という過去を持つ、歳より幼い外見をしたシャドウエルフの少女。
いざ戦闘ともなれば魔宝刃ファフニールを手にデウスエクスの命を刈り取る、歴戦の鹵獲術士である。
「ドラゴンオーブ……反射に対する考え得る対策……効けばいいんだけど……」
いつでも斬りかかれるように霊刀「鳴月」の柄に手をかけたまま、ひた走るリーナだ。
さて、時空の歪みに突入して8分。いよいよアストライオス達に追いつこうかという段階。
8人や他のオーブ班がアストライオス達へ接近するのとほぼ同時に、アストライオスら4竜と交戦予定の8班がそれぞれ2班ずつに分かれて、奴らへ襲い掛かっていく。
「今の内にドラゴンオーブの元へ向かいましょう」
それを見た田中・レッドキャップ(美貌の食神妖花・e44402)が、ドラゴン戦線を突破すべく意気揚々と走り出す。
どこかのんびりした性格の為か、本人が語った当班に来た経緯も他に希望者が居た事を思えば決して褒められた言動では無い。
だが、自分の修練不足もしっかりと認識していて、現地に到着するまで彼なりに自身の火力や耐久性の向上に努めていた、密かな努力家である。
「……あれじゃないですかね?」
レッドキャップは、覇空竜達とケルベロスらの戦いが激しさを増すより早く、彼らの間を縫うように突破して、気づいた。
遠方からでも隠しきれぬ威圧感を放ってくる、眩い光の存在に。
「地球を破壊する程の力を持つデウスエクスの後継者……そんな者の誕生を看過する事はできませんな」
据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)も、遠目ですらはっきりと判る光を見据えて、険しい表情になる。
穏やかな物腰で、東洋医術に基づいた人体の経絡に干渉する独自のグラビティを使う、どことなく胡乱な空気漂うウィッチドクターの男性だ。
そんな赤煙とて、今回の任務には真剣そのもの。
前回はフレックと別の班で貪食竜ボレアースに挑み、本人曰く痛い目を見た事から、最初こそ奴との再戦を希望していたようだが。
「始末を付けましょう。手遅れになる前に」
今は班の方針に賛成し、ドラゴンオーブの破壊に闘志を燃やしていた。
「ワタシは死ぬ覚悟はまだできないから」
マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)は、ガタガタと震えているシャーマンズゴーストのアロアロを小脇に抱えて、自身は足を停めずにドラゴンオーブを目指していた。
髪に咲いた赤いハイビスカスと清潔感のある白いフレアワンピースが、生来持つ南国情緒を高めている、オラトリオの女性だ。
「まだまだやりたいことがあるし、守りたい人達がいるから……」
死を覚悟して次元の歪み突入に臨んだ仲間が多い中、マヒナは生への執着心を自らの支えにして、オーブを必ずや打ち砕く決意を固めている。
「だから何があっても、諦めたくない! 皆で作戦成功させて帰ろう!」
マヒナはまるで自分に言い聞かせるように呟いて、ドラゴンオーブの威容にも負けじと胸を張った。
●
ドラゴンオーブの元へいよいよ辿り着いた8人。
まずは、他班にいるドラゴンオーブとの因縁浅からぬ少年が、オーブの所持者に相応しい資質を備えているかどうか、審判を仰ぐ事になっていた。
永遠のような数十秒間が過ぎ、
「……ッ!」
オーブの中に一瞬竜の影が映った刹那、少年は強い衝撃に晒されて後ろへ吹っ飛んでいた。
すかさず銀髪の精悍な男が駆け出し、彼を受け止める。
「コイツが俺の、『太陽の意思』だッ! 『超太陽砲』!!」
同時に、赤いジャケットを着た少女が、金のツインテールを太陽の如く光り輝かせて、掌から極大の焼却光線をオーブ目掛けて放っていた。
火力の極致たる光の帯がオーブに命中するのを目の当たりにして、8人は悟る。
資質の宣言は残念ながら失敗、4班による一斉攻撃が始まるのだ、と。
「ドラゴンオーブってどんな感じかと思ったけど、名前の通り禍々しい見た目をしているんだね」
早速苺が、バトルオーラを滾らせて体を錐揉み回転、そのままオーブへ突撃する。
光を放つ球体を支える、高純度の水晶以上に透き通った毒々しい意匠の高坏へ、渾身の力で体当たりした。
マカロンは主の命に忠実に、属性インストールで一刀の異常耐性を高めている。
「我が手に来たるは大いなる父神が神槍! 刹那たるこの時にてその力を示せ!!!」
鋼鉄の刃群に変じた光の翼を広げ、そのひとひらから偉大なるアスガルドの主神が振るったという神槍を顕現して投げつけるのはフレック。
たった一瞬の変化でも本物に迫る威力を持つ神槍は、ドラゴンオーブの硬くツルツルした表面を貫き、黒いヒビを蜘蛛の巣状に広げた。
「いかなる生命体とて、グラビティ・チェインの流れさえ読めれば……!」
赤煙は自らを奮い立たせて、キスオブドラゴニアン・壊を仕掛ける。
しかし、輝くオーブの中に竜の影が一瞬映り込んで、赤煙の体内に痛みが走った。
「これが反射か……」
軽く血を吐く赤煙だが、作務衣を着ていた為に受けるダメージは少なくて済んだ。
「莫邪宝剣、手裡にあり! 活殺自在、その無明ここで断ち切る!」
次いで、一刀が金剛王宝剣を手にしてオーブへ斬りかかるも——哀れ、肩を斬られていたのは彼の方だった。
それでも経帷子のお陰でダメージを軽減できたのは幸いである。
「わたしの死の刃からは決して逃れられない……黒死の刃に呑まれて滅びろ……!」
リーナはオーブへ手を翳して照準を定め、自身を中心に半径10mの結界を展開。
瞳が紅に染まるや否や、空間ごと切り裂く不可視の斬撃を繰り出し、ドラゴンオーブへ多くの亀裂を残した。
「オーブを破壊するのに必要なのは『純粋なダメージ量』……時空凍結弾で氷に期待するの、やめた方が良いかもしれないね……」
ヤシの木の幻影を作り出し、ドラゴンオーブの頭上からココナッツを落下させるのはマヒナ。
ゴツン!
オーブの天辺に、かなり痛そうな音が響いた。マヒナが反射を恐れて慎重に使用を決めるのも尤もな威力である。
アロアロは神霊撃を繰り出すも、跳ね返されて尻餅をついた。
「でしたら、服破りも無意味……やはり火力重視ですね」
レッドキャップは、尻尾をするする伸ばしてドラゴンオーブへ挑むも、
「あっ……駄目ぇぇ……背中に悪寒が」
運悪く反射されてしまい、自分自身が寒気に苦しんだ。
それでも耐性を考慮してスイートコーデを合わせた為、苦痛は軽減されている。
「必ずや破壊してみせる……!」
ピジョンは真剣な物言いになって、ハンマーからドラゴニック・パワーを噴射する。
その勢いに任せてドラゴンオーブへハンマーを叩きつけるつもりだったが、運悪くオーブに反射されてしまう。
すかさずマギーがピジョンの前に滑り込み、主の代わりに胴を強打された。
●
「それにしても、物理的に痛いギャンブルだよね、勝率五割の」
ドラゴンオーブに攻撃を見切られる危険は無いと踏んで、連続でスピニングドワーフを放つのは苺。
「ほらね!」
すぐさま回転突撃と同じ一打を食らって、盛大に文句を言った。
癒し系アルバイト制服を着た彼女はディフェンダーでもあり、確実に痛みは軽減されている。
「そうね。ただ、オーブが見切ってこないのは幸いだったわね」
フレックも、心おきなくReplica「Gungnir」ばかりを放てるとあって、刃の羽に渾身の力を込めて、ドラゴンオーブを貫かんとするが、
「痛っ……流石あたし、なんてね」
そのまんま刺突を跳ね返され、軋む脇腹を手で抑えた。
総攻撃開始から数えて3分。
「死ぬものと決めてしまえば気楽なものよ。まあ、身を捨ててこそ生きる道あれってな」
練り上げた気を両手から解き放ち、一振りの光の刃を形成するのは一刀。
知恵の名を冠した刃は、ドラゴンオーブへ深々と減り込んで、太い刀傷を刻みつけた。
「DPSを上げて行きましょう。毎分のダメージ効率重視です」
サキュバスの尻尾をグラビティによって触手の如く伸ばし、ドラゴンオーブへ纏わりつかせるのはレッドキャップ。
快楽エネルギーをドラゴンオーブの内部へどんどん注ぎ込んで、悪寒を齎すのは無理でも確実に体力を削った。
「大丈夫かな? 無理せず手加減攻撃も織り交ぜてね」
マヒナがレッドキャップへ魔術切開を施す傍ら、アロアロも祈りを捧げて自らの傷を塞いでいる。
戦闘開始から6分。
「帰るよ……にいさんや旅団のみんなのところへ……絶対に……!」
既に3度も反射を食らっているリーナは、それでもめげずに黒死斬滅結界・アンサラーで斬撃を続けていた。
「すぐには帰れなくても……絶対に……」
場合によっては暴走も辞さないほど思い極めているリーナの意思は、きっとオーブよりも固い。
「さあ、次こそ当ててみせる!」
ピジョンは渾身の力でもってドラゴニックハンマーを振り下ろす。
ガキィン!
噴射による加速とハンマーそのものの重みも加わって、ドラゴンオーブへより強い打撃を与えた。
「オーブの頸とはどこだろう……否、考えている暇は無い」
赤煙は——もう何度目になろうか、ドラゴンオーブと台座の隙間を手刀で突いて、グラビティ・チェインを爆発させんとする。
同じ頃、別の班では右眼を地獄化した黒衣の青年が復讐心に身を委ね、血を啜り骨を砕かんと斧を振るっていた。
他にも、細身のシャドウエルフが千を超える剣の群れを一斉掃射したり、長い黒髪靡かせた美女がゲシュタルトグレイブを突き立て、そこから黒炎を噴き出させている。
すると。
——ビキビキビキッ!
宝玉へ次第にヒビが入ったかと思うと、遂に砕け散った。
膨大な魔竜の力によるものか、オーブの破裂は凄まじい大爆発を起こして、周りの荒野がますます無味乾燥とした更地になってしまった。
「うわっ……!」
8人も大きな爆風に曝されて、来た道を押し戻されるより他はない。
オーブは確かに破壊したのに、その残骸を目に焼きつけられない事へ後ろ髪を引かれながら。
そして、絶叫轟かす覇空竜と喪亡竜が追ってくるまで、時間はかからなかった。
巨大化した奴らを視界に捉えた8人は、追われている4班へ手分けして加勢する。
「さあ、一刻も早く脱出しましょう」
赤煙が氷の如き白いお下げ髪をした少女を担ぐ一方、レッドキャップはエウロスへ尻尾を絡みつかせている。
「こっちはあたしに任せて、全員揃って帰りましょ!」
ニッと明るい笑顔で宣言するや、黒髪姫カットドワーフを背負って飛ぶのはフレックだ。
リーナは霊刀「鳴月」を構えて、エウロス目掛け斬りかかる。
「余計な事やもしれぬが、わしにも手伝わさせてくれんか」
一刀が声をかけたのは、意識の遠い刈り上げの男に肩を貸している金髪青年。
彼と2人で白髪を支えて進む最中、苺はバスターライフルから凍結光線を発射、アストライオスの気を逸らそうと必死だ。
「大丈夫かい? 微力ながら手伝わせて貰うよ」
ピジョンも魔法で銀色にきらきら光る針と糸を生み出し、アストライオスの足元を縫いかがっていく。その脇ではマヒナが、灰色の髪をした少年を抱きかかえて走り抜けた。
8人が4班の撤退を助ける傍ら、共にオーブ破壊に尽力した3班が、咄嗟に役割を分担して覇空竜達の足止めに動いてくれた。
彼らの惜しみない協力、そして自分達もまた精一杯力を尽くしたお陰で、計40人の脱出劇は無事に終わりを迎えそうだ。
作者:質種剰 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年7月20日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
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