魔竜顕現~立ちはだかる毒氷

作者:森高兼

 多数の『侵空竜エオスポロス』は軍勢の首魁『覇空竜アストライオス』に命じられるがまま、破壊対象である熊本城に自爆を実行していた。1体、また一体と……捨て身の特攻が続いたことで、あえなく名城が瓦礫と化す。
 熊本城の崩壊で周辺を覆った砂煙は数分後には晴れ、ケルベロス達が上空にて怪しく輝いた何かを見上げた。
 天守閣があった場所に浮遊していたのは……全長3メートルの『ドラゴンオーブ』。瓦礫に埋もれているエオスポロスの『コギトエルゴスム』に反応したのか、全部に謎の力を注ぎ込んでいった。
 コギトエルゴスムの1つに堆積する瓦礫が空高く吹き飛んだ。石垣の破片は透明な毒液によって溶けて消滅し、木材の残骸が一瞬で凍って硝子のように砕け散る。単なるエオスポロスの復活とは何かが違う。
 瓦礫を舞い上がらせて顕現したのは、荘厳な雰囲気を持つ蒼きドラゴンだった。凍結させた透き通る緑の毒液で全身の所々を補っている。その体躯はアストライオスを始めとした『赫熱竜ノトス』、『喪亡竜エウロス』、『貪食竜ボレアース』の4竜にも匹敵するだろう。
 魔竜が悠然と構え、どこか静かながらも身体の芯に響く咆哮を上げる。それは弱き者に対する、視界に入ることさえの警告とも感じさせるものだった。

 サーシャ・ライロット(黒魔のヘリオライダー・en0141)が少し性急に話を切り出してくる。
「過半数の侵空竜エオスポロスに自爆させず、『廻天竜ゼピュロス』も討つことができた。ドラゴンオーブが『竜十字島』に転移されなかった以上、熊本城の決戦は辛うじてケルベロスの勝利だな」
 そう言いながら、サーシャの表情は険しかった。やはり情勢は複雑のようだ。
「ドラゴンオーブは周囲に『時空の歪み』のような空間を作り、内部に禍々しい力を満たそうとしているのだが。その力が充ちた時……魔竜王の後継者となるべきドラゴンが生み出されることを予知した」
 一度は地球を滅亡に至らしめた魔竜王の後継者誕生。それが何を意味するのかは言うまでもないだろう。
「阻止するには時空の歪みに突入し、ドラゴンオーブの奪取または破壊が必要だ。アストライオス及び、ボレアースとエウロスとノトスはすでに中にいるぞ」
 しかし、後を追うのは容易なことではない。ドラゴンオーブの力により出現したと思われる『19体の強大なドラゴン』が、ケルベロスの行く手を阻んでくる。幾つもの困難を突破できてやっと……目的を果たせる無謀な作戦だ。
 サーシャは柳眉を下げると、やや力無く笑いかけてきた。
「すまないな。それが現状では最大の作戦となっている。とても危険かつ高い成功率は見込めないが……それでも、君達に力を貸してほしい」
 最初から確かな決意を示していた皆に応じ、サーシャが改まって話を進めてくる。
「君達の役目は『魔竜フィンブル・グラム』の迎撃だ。まずは時空の歪みに急行するチームと同時に攻めて突入を援護してくれ。それからチームが帰還するまでの最大『30分間』、魔竜を抑え続けることになる」
 魔竜は眼前にいる者達を排除できれば、他の戦場へと加勢に向かうようだ。それによって全体が連鎖的に制圧されてしまうのは……必至だろう。
「奴の力はアストライオス達に勝るとも劣らず、少人数では敵わない。だが生み出されたばかりのためか、君達の誰か一人が立っている限りは戦場を離れもしないのだ」
 拘束するように時間だけ稼ぐのは、けっして無理ではないということ。
「長時間を戦い抜ける作戦を練り、突入したチームと共に撤退できるようにするのが第一目標だな。支援チームが協力してくれる場合、奴の撃破を目指す作戦も立てられるぞ」
 作戦の立案に重要な事柄は資料に纏められている。
 サーシャが皆を一瞥してきた。
「さっきはあなた達の前で弱気になって、ごめんなさいね。ケルベロスが完璧に力を合わせれば、今回の敵達に勝るとも劣らないはずなのよ」
 そう断言してきたサーシャの顔に、皆が見せたような決意の色が浮かんでいる。
「今更あれこれと言うのは無粋かしら。準備ができたら……君達を送り届けるとしようか」
 毒氷の魔竜が鎮座する戦場に血路を開くため、皆は最善の道を模索していくのだった。


参加者
ミスラ・レンブラント(シャヘルの申し子・e03773)
風魔・遊鬼(風鎖・e08021)
緋色・結衣(運命に背きし虚無の牙・e12652)
クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)
四方堂・幽梨(義狂剣鬼・e25168)
霧島・トウマ(暴流破天の凍魔機人・e35882)
ドロッセル・パルフェ(黄泉比良坂の探偵少女・e44117)

■リプレイ

●ケルベロスの結束
 蒼き魔竜『フィンブル・グラム』は熊本城までの道程に威風堂々と座していた。
 支援を要請しておらず、フィンブル・グラムに挑む8人のケルベロスには敗走が約束されている。だが突入班の退路を保つことができれば、こちらの目的は達成となるのだ。
 此度は3つの隊列が持久戦の鍵を握る。クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)のテレビウム『フリズキャールヴ』が中衛を担い、人数の均等になった構成は効果を発揮してくれるだろう。
 瓦礫が散乱する道を疾走する後衛陣へと、フィンブル・グラムは視界を遮る猛吹雪のような毒の氷刃を降らせてきた。
 ドロッセル・パルフェ(黄泉比良坂の探偵少女・e44117)がフィンブル・グラムの意図に推理を働かせる。
「相性が悪いですし、私やクリームヒルトさんに攻撃を優先するつもりでしょうか?」
 先の防衛戦では敵に突破を許し、リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)は屈辱を味わった。
「ドラゴンオーブは決して貴奴らの手には渡さん」
 じきに突入する者達を信じ……霧島・トウマ(暴流破天の凍魔機人・e35882)や風魔・遊鬼(風鎖・e08021)と共に仲間を庇っていくため、大量の紙兵を配置につかせる。
 さらにミスラ・レンブラント(シャヘルの申し子・e03773)の加護で、前衛陣の呪力耐性は急激に向上していった。
 四方堂・幽梨(義狂剣鬼・e25168)が『オウガメタルの鞘』から粒子を放出させる。
「とにもかくにも態勢を整えていかないとだね」
 光り輝くオウガ粒子は幽梨とミスラの超感覚を一気に覚醒させた。フィンブル・グラムの攻撃に移るのは、全ての隊列に援護が完了してからだ。
 出現時の咆哮に言葉を返すように、緋色・結衣(運命に背きし虚無の牙・e12652)がフィンブル・グラムに告げる。
「人はドラゴンと比べたら弱く脆いかもしれないが。個の力を仲間と補い合うことは人間の得意分野なのでね。付け焼き刃の連携は……戦いにおいて無力だと教えてやるよ」
 敵の左前足に煌めく飛び蹴りを炸裂させた。もう片方の足で蹴った反動を利用して後方に下がっていく。
 トウマが結衣に『破壊のルーン』を付与し、遊鬼は後衛陣の足元に守護の魔法陣を描いた。
 援護する後衛陣を排除しようと、フィンブル・グラムが神経毒ガスを波状に拡散させてくる。
 しかし、トウマはクリームヒルトの前に飛び出て彼女が浴びることを阻止した。
「させるかよ!」
「感謝するであります」
 舞い踊って花びらのオーラを降らせたクリームヒルトが、ドロッセル達の体内に侵入した毒素を殆ど消し去る。
 主を守ってくれた礼を述べるような動画により、フリズキャールヴはトウマの解毒を完全に済ませた。
 ミスラが救いを求める者、救われぬ者達に向けた祈りの言葉を紡ぐ。
「報復には許しを、裏切りには信頼を、絶望には希望を、闇のものには光を……許しは此処に、受肉した私が誓う。『この魂に憐れみを』……!」
 優しき心の祝福を込めた加護は、後衛陣の抵抗力を強く高めた。
 先程は仲間を庇えたトウマだったものの、『心』が何故か落ち着かない。フィンブル・グラムに無視され、今感じているのは歯がゆさだ。とにかく敵を構造解析していき、念には念を入れて中衛陣に攻撃の狙い所を伝染させる。
 結衣はフィンブル・グラムの右前足に地獄の炎を叩きつけた。
 フィンブル・グラムの撒き散らす毒の濃度が薄まるように、遊鬼が黒き鎖を操って後衛陣の足元に守護の魔法陣を描いていく。闇に溶け込むような黒衣を纏い、黙々と任務遂行する様は……まさに忍。
 毒氷の刃に切創をつけられ、クリームヒルトは後衛陣を治療した。ミスラの祈りが中衛陣に届く。
 ドロッセルは攻性植物を『収穫形態』に変形させて黄金の果実を実らせた。
「私達が早々に戦線離脱してしまう事態には備えておきましょう」
 聖なる光が迸る果実で中衛陣の進化を促していき、さらなる呪力耐性の向上を図る。自然に治癒されることの意味は大きいだろう。
 毒ガスを吸い込んでしまいながらも惑わされず、クリームヒルトが光で己を包む。攻撃を回避できなければ、中衛が新たな標的になった時にフリズキャールも長くは堪えられない。各隊列で最も真っ先に戦闘不能となりえるのは仕方ないのだ。
「ボクが皆様を護るであります!」
 痛手を負ってからでは遅く、恐るべき魔竜を引きつける覚悟を決めた。

●苦闘
 結衣がフィンブル・グラムの爆破で毒ガスを吹き飛ばす。
 フィンブル・グラムが毒液を振り撒いてくる前に、クリームヒルトは眉根を寄せた。
「毒ばかりで汚いトカゲでありますね」
 雑音など掻き消すかのように巨翼が広げられ、別の切り口から煽ってみる。
「牙や爪も無駄な飾りでありますか?」
 フィンブル・グラムが強烈な風圧を伴って羽ばたいてきた。爪牙はあるドラゴンであり、意外にも逆鱗に触れるものだったらしい。
 クリームヒルトに巨大なフィンブル・グラムの影が差す。魔法陣で僅かに軽減されてなお凄まじい毒雨により、彼女の姿が見えなくなった。
 止んだ後、皆の目に映ったのは……猛毒に痙攣を起こしながらも武器を握り締め、うつ伏せで気絶するクリームヒルトの姿だ。
 結衣に退避させられているクリームヒルトを一瞥し、幽梨が日本刀を手にフィンブル・グラムへと肉迫していく。
「死中に活……活に八門……断ちて滅すば、死門へ下る」
 薙ぎ払おうとしてきた敵の左前足の凍結部位に『黒鈴蘭』を振るい、鋭い刀傷を刻み込んだ。
 鬱陶しいと言わんばかりにフィンブル・グラムの双眼に捉えられた中衛陣を、遊鬼が守りを固め、ドロッセルは耐性を強化していった。
 リューディガーが暴風のように吹き荒れてきた毒ガスからミスラを庇う。
「そう簡単にはやらせん……トウマも忠告したはずだぞ」
 紙兵の霊力で意識も大体はっきりとした。
 ミスラは霊体を憑依させた得物でフィンブル・グラムを斬り、トウマが『零の境地』を載せた拳で敵を殴りつける。
 弓に催眠状態を誘発するエネルギーの矢をつがえた遊鬼は、フィンブル・グラムの巨躯を射抜いた。毒の属性があるドラゴンとて薬にはできない一矢だ。多少は皆の苦痛を思い知ったことだろう。
 虚空に飛ばされたフィンブル・グラムの毒液が氷結され、中衛陣へと降り注いできた。
 ケルベロスチェインで一部を叩き落としながら、幽梨に迫る毒刃を全身で受け止める遊鬼。毒に蝕まれようとも、呻き声は一切漏らさない。
 幽梨は空の霊力を帯びた『黒鈴蘭』でフィンブル・グラムを斬った。
 連続で殴りかかったところで当たるとは限らないため、トウマがフィンブル・グラムの魂を啜る斬撃を繰り出す。
「お前、いつになったら俺達にかかってくるんだ?」
 挑発とならないように言葉は選んだ。ここまで歯牙にもかけられないと、ぼやきの1つくらいは口にしたくなって当然か。
 結衣は炎を纏う喰霊刀『レーヴァテイン・エクセリオ』を構えた。
「その目に映るは崩壊する記憶の残滓、そして全ては灰燼へ。仇なす命よ、忘却の彼方に消え去るがいい」
 一振りごとに斬撃の記憶を留め、灼熱の魔剣でフィンブル・グラムを斬り刻む。炎の牙が桜吹雪のごとく舞い散り、鮮血と業火は大輪を咲かせた。それに呼応して右前足を焼く地獄の炎が燃え滾る。
 迅速に対処できるクリームヒルトを欠いた上で、中衛陣が毒ガスの危険に晒された。
 頼みの綱であるドロッセルが息を合わせてくれて、リューディガーが彼女に呼びかける。
「頼んだぞ」
「お気に入りのスイーツを分けていきます」
 ドロッセルはヒールの力を注ぎ込んだ特選スイーツを、フリズキャールヴにパスしてあげた。1人だけで個人を癒していくのは間に合いそうにない。それでも……やるしかないのだ。
 フィンブル・グラムの毒槍が中衛陣に細かな無数の傷を負わせてきた。
 進化している肉体で毒を跳ね除け、ミスラが両手に持った喰霊刀を暴走させる。
「私達は諦めない」
 二刀一対の存在たる妖刀、『虚空ノ双牙-陰-』と『虚空ノ双牙-陽-』にてフィンブル・グラムの量前足に喰霊刀究極奥義を見舞った。

●不屈の魂
 リューディガーが毒の凶刃からフリズキャールヴを助け、遊鬼はフィンブル・グラムを射た。
 広がってきた毒ガスは直撃し、活動限界に近づくフリズキャールヴ。ふらつきながらも幽梨に応援動画を発信させた。
 豊富な種類の回復薬を風に乗せて運び、遊鬼が中衛陣にばら撒く。フリズキャールヴに分身を呼び出してやることはできた。あえてそうしなかったのはフリズキャールヴの意思を尊重したからで、クリームヒルトもいれば同様の結論が出されていたはずだ。
 中衛陣に及ぶ容赦ない強襲は続く。
 幽梨が毒を受けるのを防いだリューディガーは、一時的に消滅するフリズキャールヴを見やった。
「よく頑張ってくれたな」
 皆にエールを送るような所作の後に、フリズキャールヴが静かに消えていく。
 残り7人になった。だが前衛陣以外の被害も軽微とは言いがたい。序盤での攻撃が緩かったとはいえ、フィンブル・グラムにどれだけ傷を負わせられているのか。
 リューディガーが獣化させた狼の腕に重力を集中し、フィンブル・グラムに高速で重たい打撃をぶちかます。
 フィンブル・グラムの表情を窺いながら、ミスラは傷口から噴出させた血液を禍々しい紋様として全身を覆った。
(「消耗はしているはずですが……」)
 不意に、フィンブル・グラムが口を開けてくる。毒ガスの青さが色濃くなり、飲み干すような勢いで取り込まれた。体表の傷が瞬時にふさがる。
 完治のように見えるだけでも、勝てない現実を再認識させられた者達の絶望感は深そうだが。
 トウマは拳に『零の境地』を載せ、ぶん殴ったフィンブル・グラムの体を硬直させてやった。いざとなれば強撃される気構えのできている彼に、今更恐れるものなど皆無だ。
 深淵のごとき闇色の喰霊刀に、結衣が無数の霊体を憑依させた。
「誰も死なせはしない」
 『無命』でフィンブル・グラムの腹を一閃し、敵の体を内部から汚染していく。
 通常濃度に戻っている毒ガスが、中衛陣の立つ地点に充満させられた。
 幽梨が不敵に笑い、親指で首を切るジェスチャーをフィンブル・グラムに見せつける。
「よう、トカゲの旦那。御立派な図体を、虫けらに切り刻まれていた気分はどうだい? 来いよゲロトカゲ。そっ首貰ってやるからさァ!」
 フィンブル・グラムには無反応を貫かれてしまった。皆の攻撃を侮ってはいないのだろう。
 結局は中衛陣に攻撃が継続されると危ない幽梨は、毒で血を吐きながらもフィンブル・グラムの腹部の傷をでかく斬り広げた。
「ヒールは無用だよ」
 やや申し訳なさそうに、ドロッセルが幽梨の意を汲む。
「……論理的に考えて、それが一番でしょうか」
 癒しの効力があるスイーツはミスラに投げられた。それによって幽梨よりも先に彼女が膝を折ることがありえなくなる。
 そして、幽梨は無慈悲な毒ガスによって昏倒するのだった。

●激闘の果て
 今一度……フィンブル・グラムの毒の脅威が後衛陣に襲いくる。
 毒ガスの幻覚により、結衣はドロッセルをフィンブル・グラムだと誤認させられて攻撃してしまった。我に返って彼女に一声かける。
「すまないな」
「厳しくなるのはこれからですね」
 毒ガスを濃縮させて二度目のヒールをしてくるフィンブル・グラム。決死の思いで積み重ねてきた負荷も、しっかりと活きてはいるようだ。
 遊鬼は体を張り、ドロッセルの盾になることができた。おかげで、また彼女に何かを行動させることができる。
 フィンブル・グラムには一手の損となった。その証拠に苛立ちを覚えており、低く唸ってきている。
 自分が倒れると今度こそ前衛陣の番のはずで、ドロッセルがケルベロスチェインを解き放った。
「後10分……皆さんに託します!」
 フィンブル・グラムの思惑から戦いの終盤まで無事となった前衛陣を信頼し、前線を長く維持していられるように魔法陣を描き終える。それから躱せそうにない鋭利な毒の刃にやられてしまった。
 ようやく、フィンブル・グラムの双眸が前衛陣に向けられる。ミスラと結衣を最後に1人ずつ始末するという魂胆か。
 毒ガスに咳き込みながらも対象者を間違えないように、リューディガーは周囲に『一角獣』の名を冠したヒールドローンを展開させた。
「救護部隊、全力を以って我らが同朋を援護せよ!」
 あらゆる状況に対応できるように独自カスタマイズされているヒールドローンが、フィンブル・グラムの毒ガスにも効果的な解毒剤を散布していく。
 ここからは意地の勝負だろう。
 体力を削る毒を挟んだ後の毒ガスに解毒剤の効きが悪かった結果、遊鬼はフィンブル・グラムに守護の力を与えてしまった。彼の顔に悔しさの色が浮かんだが……心配はいらない。
 ミスラが二振りの『虚空ノ双牙』にグラビティ・チェインの破壊力を込めた。
「私達の後ろには、私達を信じて虎穴に向かった仲間達の命運。そして熊本に暮らす何千何万もの命が掛かっている。今逃げれば、その人達を見殺しにする事になります」
 フィンブル・グラムに全力の二撃を叩きつけて呪力を弾けさせる。
「私はもう後悔したくない、だから最後まで戦い抜いて見せる!」
「後少しだけ、耐え抜ければいいのだ!」
 ルーンの力を宿らせていた結衣は、ミスラと呼吸を合わせて解呪可能性に保険をかけていた。守護が砕けて無防備のフィンブル・グラムを『無命』で斬りつける。
 前衛陣が2人同時に戦闘不能になると、撤退条件を満たしてしまう。それだけは避けたい。
 仲間達の荒ぶる『心』に奮起したトウマが、デウスエクスに対する無自覚の『怒り』を爆発させたようにフィンブル・グラムを挑発する。
「最強種族が群れになって、ようやく可能性掴んでるって相当なお笑い草だよなァ。人間相手にこうでもしないと勝てないってのは相当格が落ちたもんだ」
 フィンブル・グラムの態度が明らかに変わり、駄目押しの一言で締める。
「しかも、その俺ら相手に今は足止めまで喰らってんだぜ?」
 現状でフェインブル・グラムが5人を制圧できずにいるのは事実。魔竜としての矜持か、今になって空気の震える荒々しい咆哮を上げ、最大の一撃でトウマを屠ってくる。
 飲み込まれて毒と血の海に沈んだトウマを担ぎ、遊鬼は一旦後退した。
 激闘から26分が経過直後、魔竜フィンブル・グラムは歪みから発生した膨大な力で巨大化を始めた。
 結衣が帰還してきた突入班を猛追する首魁に気づく。
「俺達の役目も終わりか。全員で生きて帰るのだ!」
 魔竜の変化に驚愕しながらも作戦成功を確信し、皆はすぐさま撤退開始するのだった。

作者:森高兼 重傷:クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545) 霧島・トウマ(暴流破天の凍魔機人・e35882) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月20日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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