魔竜顕現~蜷局巻く魔竜の進軍

作者:長野聖夜


 見事なまでに瓦礫化した熊本城。
 その場所で怪しく光り輝くドラゴンオーブ。
 ――同時に。
 ドラゴンオーブが何処か禍々しさを感じさせる光を発し、先の戦いで自爆したエオスボロスのコギトエルコズムへと注いでいく。
 光に飲まれたエオスボロスのコギトエルコズムの一つが漆黒の輝きを纏い、周囲を黒い輝きで照らす。
「グルアアアアアア」
 押し殺す様な、並並ならぬ咆哮。
 咆哮と共に、コギトエルコズムが瞬く間に巨大化し、黒い大蛇を思わせる血の様に赤い瞳を持つ7階建てのビル程長大な魔竜が胸元に怪しく光る深紅の鉱石を怪しげに輝かせ。
「グルアアアアアア!」
 光と共に周囲を圧しかねぬ地に轟く雄叫びの様な産声を上げたかの魔竜が共に生まれ落ちた魔竜達と共に、生まれ出でたドラゴンオーブを護る様に立ち塞がり、根源的な恐怖を呼び起こさせる咆哮を上げた。


「熊本城での侵空竜エオスボロス戦、皆さんお疲れ様です」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が静かに告げる。
「皆さんの活躍で侵空竜エオスボロスの過半数を撃破し、廻天竜ゼビュロスも撃破に成功しました。それ故にドラゴンたちの本拠地十字島にドラゴンオーブの輸送を阻止できたこの結果は辛うじてですが成功と言えるでしょう」
 しかし、情勢は予断を許さない。
 ドラゴンオーブが出現してしまったから。
「ドラゴンオーブは『時空の歪み』の様な空間を生み出し、その内部を禍々しい気配で満たそうとしています」
 もしこれが充ちてしまったら、ドラゴンオーブから魔竜王の後継者とも言うべき強力無比なドラゴンが生み出されてしまうと予知されたのだ。
「ですが、これを阻止する手段もあります。それは『時空の歪み』に皆さんが侵入し、ドラゴンオーブを奪取、或いは破壊すると言う方法です。最も……問題点があるのですが」
 それは、ドラゴンオーブの周囲に19体の強大なドラゴンが展開、ドラゴンオーブを守護していること。
 つまり、19体の強大なドラゴンを抑えた上で『時空の歪み』に突入、更に先行して『時空の歪み』に突入済みの覇空竜アストライオス、喪亡竜エウロス、赫熱竜ノトス、貪食竜ボレアースの4竜とドラゴンオーブを巡って争わなければならない。
「成功確率は低く且つ危険で無謀な作戦にこの作戦はなるでしょう。ですが、今は他に打てる手がございません。どうか皆さんのお力をお貸し下さい」
 一礼するセリカに、ケルベロス達がそれぞれの表情を浮かべるのだった。


「さて、皆さんにお願いすることは一つです。それは、ドラゴンオーブを守護すべく現れた魔竜の一体、ハート・バイターの迎撃です」
 とは言えこの班だけでは魔竜は絶対に倒せない。
 だが、時間稼ぎを行うことはできる。
「皆さんには、『時空の歪み』に突入班が突入する直後、ハート・バイターに攻撃を仕掛けて頂き、突入班の突入と、戻って来るまでの時間稼ぎをして頂きます」
『時空の歪み』に突入班が突入し、撤退してくるまでに掛かる時間は最大30分。
 この長時間、ハート・バイターを引き付けておく必要が有る。
 尚、ハート・バイターの戦力は覇空竜アストライオスに勝るとも劣らない実力だ。
「魔竜達は目前の敵がいなくなれば他の戦場に向かってしまいます。もし何処か一班でも崩れてしまえばなし崩し的に戦線が崩壊してしまうでしょう」
 ただ、逆に言えばそれは1人でも目前にケルベロスが立っていれば魔竜が戦い続けてくれること。
 それは倒せずとも時間を稼ぐことが不可能では無い事の証左である。
 だからこそ勝つ戦いでは無く、負けない戦いが重要だ。
「かと言ってただ守り続けるだけでは耐えきれません。そこで魔竜達の戦いの法則が重要になります」
 ハート・バイター達は一定のダメージが蓄積すると回復行動を行う。
 また、挑発行動が強く成功すれば、対象を単体に絞ってくる様だ。
「この一撃に凌駕も無く耐えられるケルベロスは恐らくいないでしょう。ですが、自分一人の犠牲で他の皆さんを守る覚悟が在るのなら……そしてそれを補える作戦があるのなら……状況によっては効果的かも知れません」
 他班のケルベロスの支援を受けられる可能性は0ではない。
 だが、自分達だけでハート・バイターをどれだけ抑えられる様にするのかを考えないでは、この作戦の完遂は不可能だろう。
「ですから……どうか皆様、最善を尽くして下さいます様、お願い申し上げます」
 セリカの言葉にケルベロス達はそれぞれの表情で返事を返した。
「他の皆さんが決死の思いで勝ち取ってくれた機会です。危機的状況ではありますが、同時にドラゴンオーブを破壊する絶好の機会でもあります」
 だから……と呟くセリカ。
「どうかこの機会を逃す事無く、最善を尽くして頂けます様、どうかよろしくお願いいたします」
 セリカの一礼に背を押されケルベロス達は静かにその場を後にした。


参加者
エヴァンジェリン・エトワール(白きエウリュアレ・e00968)
長谷地・智十瀬(ワイルドウェジー・e02352)
シャルロット・フレミス(蒼眼の竜姫・e05104)
リューデ・ロストワード(鷽憑き・e06168)
白石・明日香(愛に飢え愛に狂い愛を貪る・e19516)
レヴィアタン・レクザット(守護海神龍・e20323)
レミリア・インタルジア(蒼薔薇の蕾・e22518)
清水・湖満(氷雨・e25983)

■リプレイ


「行くぞ」
 熊本城の残骸から現れた一体の魔竜を見て、リューデ・ロストワード(鷽憑き・e06168)が呟き計152名のケルベロス達と共に戦場を駆け始める。
「ええ、そうね、リューデ」
 凜としたエヴァンジェリン・エトワール(白きエウリュアレ・e00968)が寄り添う様にリューデの隣で走りながら、静かに首肯。
(「例え、何が在ろうとも、アタシは貴方を……」)
 友愛の誓いを胸に秘して。
(「正直に言えば、ドラゴンが相手なのは私は怖い」)
 レミリア・インタルジア(蒼薔薇の蕾・e22518)は内心の怯えを認め。
 ――けれども。
(「エヴァンジェリンがいる。リューデも、智十瀬も……他の皆もいる。だから、最後まで守り切って見せる!」)
(「さて……リューデの心臓を奪った竜牙兵の親玉ってのは、どれだけ強いんだろうな?」)
 強敵と戦うからだろうか。
 長谷地・智十瀬(ワイルドウェジー・e02352)は昂揚を抑えきれぬ。
 戦意高揚は、シャルロット・フレミス(蒼眼の竜姫・e05104)も同様だ。
(「何人か倒れるかもしれない……それでも、やるしかない」)
 敵が敵だから。
 今自分達に出来る最善を尽くし、30分と言う長時間を耐え抜く。
 それこそが自分達に課せられた役割。
「レヴィ、上手く行くやろか?」
 清水・湖満(氷雨・e25983)がすり足で駆けつつ呟くと、レヴィアタン・レクザット(守護海神龍・e20323)が竜化部分を鋭利化させながら大丈夫だ、と頷いた。
「私達は出来る限りのことをやった。後は最善を尽くせば良いだけだ」
「そうやね。ありがとな、レヴィ」
 レヴィアタンの激励に湖満は淡く笑み、今回の作戦の要の一人の筈の白石・明日香(愛に飢え愛に狂い愛を貪る・e19516)を見る。
「さあ、行きましょう」
 怪しげに微笑む明日香の心の裡が読めずそれが余計に不安を煽るが、今は信じて戦うしか無い。

 ――かくて魔竜ハート・バイターとの戦いが始まる。


「グルァァァァァァ……!」
 咆哮と共に、ハート・バイターが明日香達へ紅蓮の炎。
「させない」
 明日香に迫るそれを、白を基調とした戦装束に身を包み、左手に嵌めた竜を象った籠手とその肩を覆う蒼い炎で絡め取ったシャルロットが微笑。
 これだけ強烈な炎を放ってくる相手と戦う事実が心地よい。
「貴様の炎、最後まで受け止めさせてもらうぞ」
「エヴァンジェリン」
「ええ」
 リューデが湖満を、エヴァンジェリンが智十瀬を庇う。
(「これだけの炎、か。流石だな」)
「リューデ、回復は任せてや」
「承知した」
「湖満、それなら私が先に行こう」
 湖満がそう伝えると同時に、レヴィアタンが周囲の大気中の水分を凝縮させ、上空へ。
 撃ち出した水球に向けてレヴィアタンが炎を吐くと同時に水球が爆発、水蒸気が発生し、明日香達の姿を晦ませる。
「流石やな、レヴィ」
 霧の向こうから全身を淡い光に覆われた湖満が現れオウガ粒子を放ってシャルロット達を覆い、火傷と負傷を鎮める。
「さて、行きましょうか」
 明日香が妖艶な笑みを浮かべながらオウガ粒子をレヴィアタン達へと放ち、その命中精度を上げた。
「今回は守り切れたけれど、次は守り切れるか分からないから」
 エヴァンジェリンが小型治療器の群れを智十瀬達の周囲に展開。
「リューデ達も無理はしないで下さいね」
 レミリアが告げ、前衛の立つ地面にケルベロスチェインを展開、描き出された防護の魔方陣がシャルロット達を防御。
 その間に智十瀬が戦場を駆けた。
「行くぜ!」
「ああ、そうだな」
 猫の様にしなやかな動きで地面を疾駆しその足に蒼白い光と共に鋭い蹴りを放つのに合わせてリューデがライトニングダガーの先端に集めた雷を解き放つ。
 砥がれた猫の爪の様に鋭い蹴りが胸に刺さり、更に放たれた雷を受けて僅かに動きを鈍らせた。
(「この位じゃ動じねぇよな……!」)
 好戦的な笑みのまま地面を蹴って高みに至り、ハート・バイターと正面から向き合い、帯刀していたゾディアックソードを抜刀。
「そいつを鈍にしてやるよ」
 一瞬で抜いた刃がハート・バイターの口を斬り裂く。
「グルァァァァァァ!」
 剃刀の様に鋭い尾を明日香達へと解き放つ。
 リューデが湖満を、エヴァンジェリンが明日香を庇うが、接近していた智十瀬はその斬撃に吹き飛ばされる。
「智十瀬」
 湖満が智十瀬の身をひらひらと黒く大きな葉で包み込み回復。
 エヴァンジェリンの支援が無ければ、大打撃だっただろう。
「まだまだ、と言う事か。行くぞ……ハート・バイター」
 リューデが黒から灰のグラデーションの中に一際鈍く輝く羽から光を放出し、明日香達を癒しながら宣言した。


「10分、やね」
 アラームを聞いた湖満がすり足でエヴァンジェリンに接近、傷を強打し懐刀で斬り裂き手術をしながら息を一つ。
 ハート・バイターによる火と毒のブレスの猛攻は、幾度となくシャルロット達を飲み込み、また、明日香達を守る為のエヴァンジェリン達の決死の防御による癒えぬ傷の蓄積は、確実にシャルロット達を追いつめている。
 智十瀬とレミリアの連携は、ハート・バイターに負傷を蓄積させるが、決定打には至らないのか回復してこない。
 改めて強力な敵なのだと、レミリアは実感する。
(「オーブから後継者を産み出させるわけにはいかない。僅かな力なれど耐えて見せましょう」)
「大地よ、地の底より沸き上がりその手を伸ばせ。大地を走る彼のもの脚に」
 歌う様に告げながら、レミリアがハート・バイターの範囲数メートルを隆起させ、その身を捉えて動きを阻害。
 だが、ハート・バイターは巨大な咢を開き、紫のブレスを明日香達へと吐き出した。
「守り抜く」
「やらせはしないわ」
「やらせない」
 リューデが湖満の、エヴァンジェリンが明日香の、シャルロットが智十瀬の盾となるが、毒に体を蝕まれ体力を奪われる。
「負けるわけには行かないんだ!」
 シャルロットが叫び自らの全身を焼く炎を鎮める間に、ハート・バイターの剃刀の様に鋭い尾が明日香達を貫いた。
「まずい……!」
 リューデ達が守ろうとするが、毒が回った影響か、僅かに反応が遅れた。
「これは……あかんわ」
 湖満がよろけ、智十瀬も喀血するが辛うじて立っている。
 だが最も体力の劣る明日香だけは例外だった。
 きちんと距離を取る様に立ち回りつつ、回復も行っていたのだが尾による火力を埋める為に欠けていたものがある。
 それは……耐性。
「少し相手を見くびっていたのかしらね……」
 地面に倒れ伏す明日香。
 深手を負った湖満が智十瀬を黒く大きな葉で包み込もうとするが。
「あなたは自分の回復を優先してね」
 エヴァンジェリンが自らの気を溜めて智十瀬に放ち、その傷を癒す。
「分かったわ、エヴァンジェリン」
 頷き自らの上空に黒く大きな氷を生み出す湖満。
 生み出された其れが爆発を引き起こし降り注ぐ欠片が彼女を癒し、回復力を高め。
「まだ、やられるわけにはいかない」
 リューデが冷静に告げ、オーロラの様な光で火傷と毒を癒していく。
「此処で諦めては他の者達に示しが付かないのでな!」
 レヴィアタンが大気中の水分を凝縮した水球を炎で焼き、湖満達の姿を晦ませた。
「行きます」
「まだまだだぜ!」
 レミリアが一瞬でハート・バイターの背後に回り込んでその背を斬り裂き、レヴィアタンによる霧の向こうから現れた智十瀬がゾディアックソードに空の霊力を帯びさせ猫の様に翻して一撃を加える。
「そこだな」
 シャルロットがハート・バイターに、竜の牙や鱗の使われた滅竜刀 ―轟―による一閃を放ちその魂を喰らった。
 魂を喰らわれ、ハート・バイターが自らの傷を癒す。
 生まれた隙を見逃さず、湖満が明日香を欠いた現状で最適と思われる解を検討。
「レヴィはリューデ達を頼むわ」
「任せて貰おう」
「湖満、俺はお前達の回復に回ろう。エヴァンジェリン、シャルロット、レミリアは智十瀬を軸に攻撃を」
「分かったわ」
 レヴィアタンが黄金の果実でリューデ達を、湖満がレミリア達を、リューデが智十瀬達をメタリックバーストで回復し、智十瀬が先陣を切って飛び出す。
「うおおおお!」
 流星の如き煌めきと共に蹴りを放ち滑らかになっていたハート・バイターの動きを鈍らせ、レミリアが半透明の『御業』を召喚しその身を焼き、エヴァンジェリンがヌンチャク型の如意棒でハート・バイターを殴打。
 更にシャルロットが滅竜刀―轟―に空の力を這わせて残虐に斬り裂く。
 バシャ、と血飛沫が宙を舞った。


(「……厳しいな」)
 鋭利化した足で旋風の刃の如き蹴りを放ちながら、レヴィアタンは息をつく。
 人数故か中衛は攻撃を受ける頻度が少なかった。
 だが明日香が倒れ人数が同一になるとハート・バイターは、今度は中衛にもブレスを浴びせかけてきて、其れが戦線を逼迫させる。
 元来、レヴィアタンも体力がある方ではない。
 シャルロット達が庇っていなければ、既に倒れていただろう。
「だが、諦めるわけには行かないのだ!」
 レヴィアタンの叫びに応じる様に、ハート・バイターが全てを焼き尽くす煉獄のブレスを放つ。
「レヴィ!」
 湖満の叫びにリューデとシャルロットがレミリア達の盾となるが、炎に身を焼かれ、肩で息を切らし始めた。
「まだ……諦めていませんから……!」
 シャルロットの影から飛び出したレミリアが白刃に青白い雷光が奔るコルセスカから蒼白い雷光を放出ハート・バイターの身を貫く。
 湖満が右手の籠手型の縛霊手から、無数の紙兵を散布しリューデ達を守るが傷を癒しきれていない。
 確実に、追い詰められている。
(「アタシは、リューデを……その思いを守りたい」)
 ――だから。
「アタシを見なさい。前の戦闘でゼピュロスを倒す間、アストライオスを抑え、そうして帰還した心臓が、この胸にある」
 トン、と自らの心臓を叩き。
 訥々と語るエヴァンジェリン。
 ハート・バイターがその様子を見て取り咆哮。
 ――この身が、朽ち果てようとも。
 リューデは……皆は……。
「アストライオスですら奪えなかった、アタシの心臓を、アナタは奪える?」
 すっ、とglischを腰だめに構えて。
「……やってごらんなさい。その胸に、槍を突き立てて上げる」
 ハート・バイターが吠えながらその胸に禍々しく輝く深紅の宝石から一条の光を放つ。
 光の速度で飛ぶそれは、とてもではないが避けられそうにない。
「エヴァ……!」
 リューデに振り返り、静かに微笑み。
「アナタの想いを、成し遂げて」
 告げながら光条に撃ち抜かれ、力尽きるエヴァンジェリン。
 エヴァンジェリンのお陰で僅かに隙が生まれ、リューデが悔しさを感じながらもメタリックバーストで回復する。
「既に何人かがやられたが……それでもやるしかないのだな」
 シャルロットが喰霊斬りでハート・バイターを袈裟に斬り裂き、湖満がメタリックバーストでレヴィアタン達の傷を塞ぐ。
(「まだ、20分に満たないのに……」)
 湖満の内心の呟きが聞こえていたのかどうかは分からないが。
 ハート・バイターが尾を智十瀬達へ。
「――駄目だ!」
 シャルロットが叫びながら智十瀬を庇うが、その斬撃はシャルロットの急所を斬り裂き致命傷となり、シャルロットが力尽きる。
「ぐっ……」
 湖満を守ったリューデも限界寸前。
 回復しても、この有様。
「智十瀬」
「リューデ……?」
「後を頼んだ」
 智十瀬に願いを託し、リューデが語り掛ける。
「この心臓、貴様には絶対に食らえぬ物だ。興味はあるか」
 服を捲り、心臓の無い胸を晒してハート・バイターを嘲う。
 ――今、俺の胸に宿るは、決して恐れぬ勇気。
 なれば。
「空の皿を舐めるつもりか、愚かだな」
 喰われた心臓など、くれてやる。
 その言葉に触発される様に、ハート・バイターが緋の光線でリューデを射抜く。
 心臓の部分を正確に貫かれ、リューデはその場に崩れ落ちた。
(「だが、これは……」)
 それは、心臓の代わりに皆がこの胸にくれたもの。
 貴様には決して奪えない。
「皆、俺が最後まで守る! だから……頼むぜ!」
 リューデに想いを託された智十瀬が飛び出し、その隙を埋める様に、レミリアがシャドウリッパ―で、レヴィアタンが旋刃脚でハート・バイターを攻め、湖満が智十瀬を黒く大きな葉で包み込んだ。


「20分……やね」
 アラームを聞いた湖満が智十瀬の傷を懐刀と強打で強制手術。
「まだ……だ!」
 智十瀬に守られつつ息を荒げたレヴィアタンが熾炎業炎砲。
「はい……最後まで……!」
 レミリアが呟きながらシャドウリッパ―。
 もう既に限界が近いが撤退を促す者はいない。
(「明日香が倒れていなければ、まだ追い詰められなかったかも知れないんやけれど」)
 早々に倒れた明日香を想い、息をつく湖満。
 竜相手に生半可な覚悟では通用しない事を、改めて実感。
「グルァァァァァァ!」
 紫のブレスを吐き出すハート・バイター。
「レミリア!」
 智十瀬がレミリアを庇って力尽き、レヴィアタンもゆっくりと崩れ落ちる。
「すまない、湖満……」
 最後の力を振り絞り、特製信号弾を撃ち出すレヴィアタン。
 そこには、どうか援護が届きますようにとの願いが込められている。
(「此処まで来たのならば……仕方ありませんね」)
 レミリアが覚悟を決める。
 メディックである湖満は、攻撃せずとも回復で粘れる。
 それに一縷の望みを託すために。
「アストライオスの元に行きたくば私達を倒さないといけません」
 レミリアの囁き。
「動ける限り私は貴方の前に立ち道を塞ぎます。向かいたいのならば、私を完全に動けなくすることですね」
 挑発しながら、白刃に青白い雷光が奔るコルセスカの切っ先でその身を貫くレミリア。
 ハート・バイターの胸から光が迸ったのは、その時だった。
 地面に落ちるレミリアに軽く頭を振りつつ湖満が頭上に黒く大きな光を生み出し爆発させ、降り注ぐ欠片で自らを癒す。
 ――そして、22分目。
「グルァァァァァァ!」
 ハート・バイターが紫のブレスを吐く。
 それは、回復したとはいえ既に限界寸前の湖満には致命傷だ。
(「……も、あかんわ」)
 その身を毒に蝕まれ、髪飾りを落としかけたその時。
『空想と妄想の力、お借りします!!』
 エニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)が叫びと共に放った必殺の光線に撃ち抜かれ、ハート・バイターが其方に意識を向けた。
(「ああ……助けに来てくれたんやな……」)
 自分達だけで支え切ることは出来なかったけれど。
 それでも、他班に託せるだけの時間は稼げたと着物越しにフィー・フリューア(赤い救急箱・e05031)の温もりを感じて確信する。
「後は……頼んます……」
 囁きは、果たして彼女に聞こえただろうか。
「……よく頑張ったね。後は任せなよ」
 それが安堵と共に意識を手放す直前、湖満に聞こえた言葉だった。

作者:長野聖夜 重傷:エヴァンジェリン・エトワール(暁天の花・e00968) シャルロット・フレミス(蒼眼の竜姫・e05104) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月20日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 9
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