ミッション破壊作戦～スパイラルアタック！

■リプレイ

●ミッション１８－５「宮城県仙台市」
　ヘリオンが夏の蒼穹を往く。目的地は宮城県仙台市郊外だ。
「あそこに、彼らが……」
　果たして、徐々に近付く巨影を見詰めるタンザナイト・ディープブルー（流れ落ち星・e03342）。『彼ら』の狙いは『載霊機ドレッドノート』。ならば、強襲型魔空回廊もその近くだろう。
「撤退ルートは、平坦かつ遮蔽物が少ない道を探しましょう。候補も複数あれば、安心です」
「了解」
　木霊・ウタ（地獄が歌うは希望・e02879）も撤退路の下調べに余念がない。
　約１年前――弩級ダモクレス本来の姿を取り戻したダンジョン「載霊機ドレッドノート」を、ケルベロス達は仙台市まで残り僅かの地点で停止させた。鎌倉奪還戦から数えて５回目の全世界決戦体制「ドレッドノート攻略戦」だ。
「勝ったと思ったら、別のデウスエクスに占領されつなんて、ね」
　腹立たし気に唇を尖らせる御手塚・秋子（とある眷属・e33779）。
「このままじゃ、地元の人も安心出来ないよね？　だから、ずんだ餅や牛タン、漬け丼……さっさと解放して、安心して御当地グルメ食べるんだ！　勿論、皆でね！」
「ずんだ餅も好きだけど、枝豆は塩派ね」
　穂村・華乃子（お誕生日席の貴腐人・e20475）も、仙台市の方を熱心に眺めている。仙台は彼の政宗公のお膝元。萌の限りを拳で語る武闘派お姉さんのやる気は十分だ。
「仙台の皆は……ドレッドノート攻略戦の時、一緒にお花見してテンションを上げてくれた。戦いを見守ってくれた」
　彼らのケルベロスへの信頼に応えたい、と義理堅いウォーレン・ホリィウッド（ホーリーロック・e00813）は決意の表情。ダリル・チェスロック（傍観者・e28788）も静かに頷く。
「あの戦争で実感しました。如何に彼らが頑張って暮らしていて、その上で、私達に笑顔で託してくれた事が」
　彼らの想いに応える行動は、何も戦争時に限らない。常に、いつでも。ケルベロスは、人々を護るのだ。
「命を弄ぶ奴に俺達が負ける訳がない！」
　パンッと拳を掌で打ち鳴らしたウタの意気軒高な言葉に、否やはない。
「……」
　近付く降下の時間。今回、ミッション破壊作戦に初挑戦の山下・仁（旅団巡り中・e62019）は、グラディウスを握り締めて緊張の風情。
「ふむ、敵は螺旋忍軍、か」
　対照的に、既に二桁の回数をこなしてきたクオン・ライアート（緋の巨獣・e24469）は、気負う様子もなく開かれたハッチから身を乗り出す。強風が紅の前髪を煽り、剣呑に金の双眸を細めた。

●スパイラルアタック！
　軽やかに身を躍らせ、クオンは冷ややかに吐き捨てる。
「相変わらずコソコソと裏で動くのが好きな連中だ、な」
　彼らの「マスター」とやらの企みも、興味が無い訳ではない……が、クオンは幾許かの関心を、即振り切る。
「座視して、成就させてやる義理も無い！」
　傷癒えきらぬ仙台の地に、これ以上の騒乱はクオンが許さない！
「我は巨獣！　この仙台の町に蠢く不埒な忍び、その企みを破壊し蹂躙する緋の巨獣也！！」
「地球の命は、てめぇらにとっては単なる路傍の石頃ってか……そんなふざけた事、絶対に認めないぜ！」
　ウタは腹の底から、デウスエクスへの怒りを謡う。
「この仙台にも、大勢の日常がある。未来への希望も、な」
　彼らの未来や命を、螺旋忍軍の好きなようにされて堪るものか！
「命と！　心と！　それらが重なり合い響き合って紡ぐ未来へのハーモニーを！　途切れさせやしねぇ！　俺達地獄の番犬の牙を！　喰らいやがれ！」
　最後はお定まりの叫びと共に、ウタはグラディウスをバリアに叩き付ける。
「仙台市の皆は、弩級ダモクレスが迫る中、僕達を信じて残ってくれたんだ」
　彼らの笑顔や応援に勇気と力をもらったケルベロスは、ウォーレンばかりではないだろう。
（「螺旋忍軍が、何処の誰の命令で動いてるかは知らない、けど……お世話になった仙台が未だに占領されているのは、胸が痛いよ」）
　だから、ウォーレンは叫ぶ。仙台奪還の決意を。
「これ以上好きにはさせない！　この街に平和と笑顔を取り戻すんだ！」
「ドレッドノートの所為で沢山の人が虐げられ、今も尚、その存在が脅威となって突き刺さる」
　ダリルも又、仙台の地に安寧を取り戻せていない事に抗議の声を上げる。
「これ以上、この街をここに住まう人々を苦しませるなど有り得ない！」
　応援に駆けつけてくれた彼らの強さ、暖かさ、想い――それらを踏み躙り脅かさんとするなら、今直ぐ去るがいい！！
「この回廊が発見されて、ずっともやもやしてたのよ」
　奥歯を噛み、秋子はキッと魔空回廊を睨む。
「頑張って勝って市民を守れたと思ったのに。結局守れてない！」
　秋子だって、まだまだ思う存分、御当地グルメを堪能していないのだ！
「安全な生活とご飯の為に壊れて！」
「仙台は歴女の聖地！！　歴女達の萌えと伊達の二文字はお姉さんが守ります！」
　華乃子の叫びは……とっても深かった。
（「いい加減、あの無意味にでかいガラクタも、片付けたいと思ってたのよね」）
　すっきり片付けたら――ハヤブサに乗って、牛タン堪能して、ずんだ餅を片手に歴史散策するのが、華乃子の目下の目標だ。
「その為にも、こんな場所にある魔空回廊はさっさと撤去させて貰うわよ」
　改めて、声を大にしよう――萌えは全ての原動力！
「地元の皆さんと同志一同の為にも、砕け散りなさい！！」
「……あっしは、強くなりたい」
　仙台を想う叫びが多い中、仁は自らの心と向き合う。
「強くなって皆の力になって、旅団に帰ったら『お帰り』って言ってもらえて」
　旅団の人達と闘技場で鍛錬して、村長と百烈拳で遊んで――そんな日常を守るケルベロスになりたいと、１５歳の少年は将来の夢を叫ぶ。
「だってもう独りは嫌でやんす！」
　初のミッション破壊作戦。気合を入れる為、大切な人の口調を真似た。一方で、自宅警備員独特の構えでグラディウスを振り下ろす。
「アレキサンドライト……」
　７者７様の叫びが響く中、タンザナイトは苦悩を滲ませる眼を閉じる。『彼ら』の事は詳しくは判らない……覚えていない。
（「消えてしまった記憶……ただ１つ確かなのは、この縁の先に犠牲と苦痛が続いていく事」）
　絶たねばならない、雪がねばならない。それが譬え、どんな過去であろうとも。
「……グラディウスよ、どうか応えて下さい」
　宙に身を躍らせた。激しい風圧に思わず目を見張れば、どんどん魔空回廊が迫ってくる。
「タンザに宿縁と苦痛の連鎖を断つ機会を！　どうか、どうか……どうか……！！」
　――その時、タンザナイトは振り下ろしたグラディウスの切っ先がスルリとバリアを潜り、重力落下の勢いで切り裂いていく感触を覚えた。
　特に誰の叫びが良かった、という訳ではないだろう。だが、バリアの１箇所を、８つの刃が攻撃出来たのは偶然か必然か。
　――――！！
　雷光と爆炎に煽られ、激しい螺旋の気流は竜巻のよう。１０に１つの僥倖を掴み、バリアの破片が粉々に散った後には――もう何も残っていなかった。

●アレキサンドライト達
「よし！　回廊破壊成功、だ！」
　快哉の声を上げるクオン。その声を頼りに、ケルベロス達は集う。同時に、グラディウスを紛失しないよう、各自大切に仕舞い込む。
「全員、揃っていますか？」
「僕はここにいるよ」
　人数を確認するダリルに答えるウォーレンの口調も弾むよう。ミッション破壊を１度で遂げた達成感は一入だ。
　だが、喜びを分ち合う時間はない。
「さて、さっさと逃げましょうか。方向は……？」
「こっち……っ！」
　アイズフォンで地図を確認しようとする仁に、声を掛けたウタの表情がハッと強張る。
　周囲は騒然として、だが、弾幕の向こうに、２つの影が沈着に佇む。
「影分身は……全員混乱中か。ホント使えない！」
「落ち着いて、アレキサンドライト。僕達は間に合ったんだから……」
「ああ、アレキサンドライト。俺達は包囲網が完了するまで、時間を稼げばいい」
　歌うような掛け合い。奇襲を警戒する秋子が身構える暇もあればこそ、白獅子のウェアライダーの少年２人が姿を現す。
「あらまあ、随分と」
　いっそ愛らいアレキサンドライト達の容姿に、華乃子は獲物を狙う獣のように目を眇める。
「お姉さん、ホンキ出そうかしら？」
　無論、デウスエクスに手加減する心算は一切ない。
「…………まって！　あれ！」
「タンザナイト！？」
　華乃子の言葉に、同時にケルベロスの方を見たアレキサンドライト達は、刮目する。警戒も露わな彼らを、タンザナイトも痛みを堪える表情で見返した。
「……まあ、やる事はいつもと変わらないか。俺達は、死ぬ訳にはいかない」
「うん！　僕達を見た者は、皆殺しだ……！」
　地面を蹴るアレキサンドライト達。片やバターナイフを握る碧眼の少年、片やガラスナイフを振るう紅眼の少年――各々の眼が怪しく輝き、秋子に氷弾と炎弾が同時に爆ぜる。
「くっ！？」
　痛みを紛らわせるべく飴玉を口に放り込む秋子。ミッション地域の敵の情報は、ある程度知れる。炎弾はまだしも、防具耐性の合う氷弾までも易々と命中させた彼らは、流石『本体』といった所か。敵も眼力を具えれば、最も打たれ弱い所から狙ってきたのは、幼い見た目に違う沈着ぶりだ。
　先手は取られたが、戦いはこれからだ。
「……さあ吹き荒れろ。此処は氷獄、貴様の世界だ」
　術式・紅蓮氷獄――上空より投擲されたクオンの槍が、触れただけで肌を凍て付かせ切り裂く死の吹雪を喚ぶ。本来は広範囲に展開される魔方陣だが、被ったのは青のアレキサンドライトのみ。
「前衛か中衛か……列は違えるようだな」
「……っ！」
　ジワリと胸を食む罪悪感を堪え、タンザナイトのドラゴニックスマッシュが唸る。中衛の青が打ち据えられようとして、加速したハンマーの軌道を先んじて遮る赤のアレキサンドライト。となれば。
「ふむ、貴様が盾役か」
　氷のように冷めた視線で、赤を睨め付けるクオン。この時点で、どちらから倒すか確定する。
「ふむ……フォーチュンスターはまだしも、最初から追撃技は少々厳しそうです」
　その呟き通り、ダリルは前衛へ星型のオーラを蹴り込むダリル。ただでさえ硬いディフェンダーを早々に撃破するには、服破りの技は必須だろう。
「光の雨がここに降るから――ずっと僕のことだけ見ていて？」
　一方で、こちらが着実に切り崩されても厄介だ。自ら降らせたグラビティの雨に紛れて、ウォーレンはディフェンダー――赤い少年に接近する。天気雨の中、きらきらと光り輝く右手が齎すのは怒りの衝動。
　続いて、華乃子も素早く「ラクガキの怪物」を描き上げる。やはり赤目掛けて怪物を突撃させるが……こちらは、宙返りでかわされた。２人の実戦経験の差がそのまま命中率に顕れた形だ。
　空と大地と、風と海と――蒼き地球とそこで息づき歓ぶ生命を、ウタは謳う。「青の凱歌」は確かに秋子を癒し、奮起させる。だが、一部の凍結は溶けぬままだ。
　常にキュア伴うメディックのヒールでも、掃い切れぬ厄があるとなれば。
「青はジャマーだな」
「そのようね」
　秋子にシャウトの用意はない。キュアが飛ばせるのはメディックのウタのみだが、ウォーレンが初手から怒りを片方に植えてくれた。流石に、残った厄が即致命的とはならないだろう。
　寧ろ『全員』の攻撃が命中する状況にする事こそが肝心ならば、秋子もスナイパーとしての務めを全うするべく。
「Hey, Freeze!」
　文字通り、敵の足を止めるべく、赤い細剣を幾振りも出現させる。鋭く風を切り、魔剣は次々と小柄を貫く。
「援護します！」
　仁もドラゴニックハンマーを担ぎ、轟竜砲をぶっ放す。
　敵の混乱は何れ収束する。ミッション地域の破壊が成功すれば尚更、敵の憤りも大きい。万が一、逃げ遅れれば……正直言って、とても怖い。
（「でも、私が……あっしが求める物がこの先にある以上、乗り越えてみせるっす！」）

●流れ落ち星
「アレキサンドライト、ケルベロスにもウェアライダーがいるよ」
　華乃子の鹿角を目の当たりにして、顔を顰める赤の少年。彼のガラスナイフが、彼女目掛けて閃いた。
「そうだね、アレキサンドライト。恩知らずだね、僕達は創造主たるマスタービーストに尽くして当然なのに」
　バターナイフはウォーレンを切り裂きながら――特にタンザナイトを見やる２人の視線は、心なしか険悪。
「やめろ。あんな奴、仲間じゃない」
「やっぱりタンザナイトさんの知り合いですか！？」
「……判らない」
　仁に答えるタンザナイトの心許ない呟きに、ダリルは気遣う表情を浮かべる。
（「最後の最後、可能なら彼の手で決着を」）
　それも、ケルベロス達の奮闘次第だ――短期決戦はより効率が求められる。スナイパーの足止めを礎に、ディフェンダーが怒りの技も使って積極的に敵を引き付け、メディックが回復で盾を支える。その間にジャマーの弱体化が加速すれば、クラッシャーの火力も活きてこよう。その点、今回は各自がポジションの役割をよく全うした。
「く、このっ！」
「アレキサンドライト！」
　堪え切れず２人が、ナイフに映る鏡像越しに互いを見やる。その瞬間を逃さず、攻撃を畳み掛けるケルベロス達。
「さあ行くぞ。貴様らの存在を……破壊しつくしてやる」
　クオンのチェーンソー剣がズタズタに切り裂かんと唸りを上げる。
「私の愛を受け止めてね」
　華乃子痛恨の一撃――萌えの力を拳に乗せてぶん殴り、更に追い掛けてぶん殴る。
「鳴り響けよ雷、その閃光を知らしめよ」
　容赦なく、ダリルの簒奪者の鎌が振るわれる。その軌跡を標に、雷雲より召喚された一条の光は、竜の如く、流の如く、琉の如く、赤のアレキサンドライトを打ち据える。
「やったか！？」
　将来性溢れる仁の一撃と同時。紅を見開き崩れ落ちる相方を前に、青のアレキサンドライトは息を呑む。
「どうした？まだだ、まだこれからが本番だ！」
　容赦なく、フォーチュンスターを蹴り込むクオン。それを合図に、ケルベロスの攻撃が殺到する！
「ぶっ飛べ！　この力の奔流は未来を創る意思だ！」
　初めて、攻撃に転じたウタよりサイコフォースが爆ぜ、少年は悲鳴を上げる。
「マスターが復活するまで、僕達……僕は死ぬ訳には！」
　出鱈目に振り回されるバターナイフを、ウォーレンが身体ごと遮る。
「タンザナイトさん……大丈夫だよ」
　その言葉は慈雨のように。
「その手で倒して。仙台を解放して」
　そして、ダリルの視線と秋子の声に促され、タンザナイトは徐に青い少年の前に立つ。
　―――！！
　伸ばした如意棒は真っ直ぐに――そこに達成感はない。己の知らぬ罪があり、手の届かない所で膨らんでいく。償い切れないなら、せめて命が保つ限り戦い続けよう。
「タンザは……人で在ると、決めたのだから」
　過去に向き合えた、とも言い切れないが、幾許かの安堵はあった。

作者：柊透胡	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年7月16日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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