流星無謀戦士襲来!

作者:秋津透

 北海道函館市、五稜郭公園。
 古くは明治維新期、旧幕府軍と新政府軍の激闘が行われ、最近ではケルベロスと螺旋忍軍が激突した戦場として知られるこの地は、鷹崎・愛奈(死の紅色カブト虫・e44629)のお気に入りの場所の一つでもある。
 いつものように、鼻歌混じりに早朝の散策を楽しんでいた愛奈の前に、いきなり空から何か降ってきた。
「?!」
 すわ竜牙兵の襲撃か、と身構えた愛奈の前に現れたのは、竜牙兵より更にタチの悪い敵、巨漢戦士エインヘリアルであった。髪や髭、眉は白く、高齢な印象を与えるが、エインヘリアル戦士の常で身体は筋骨隆々、微塵の老いも感じさせない。ゆったりとしたフード付き長衣(ローブ)をまとっているが、なぜか鎧姿よりも剣呑な印象を与える。その手には、光剣と斧が組み合わさったような、見るからにヤバそうな武器が携えられている。
 そしてエインヘリアルは、あっけにとられている愛奈に向かって、完全に想定外の言葉を告げる。
「アイラブユーじゃ、オラトリオの可憐なお嬢さん。わしはあんたに、一目ぼれじゃぞ! さあ、わしとの間に強い子孫を作ろう! 今すぐ作ろう!」
「ちょ、ちょ、ちょっと、待ってー!」
 わかんない、何が何だかわけわかんない、と、愛奈は思わず悲鳴をあげる。
 するとエインヘリアル……『流星無謀戦士 メテオール・ロビス』は、にんまりと笑って告げる。
「いいや、待たんぞ、待たんとも。いやよいやよも好きのうち、四の五の言うなら力づくでも思いを遂げる。それが男の心意気じゃ!」
 ……いや、もう、ヤバすぎるよ、こいつ。

「緊急事態です! 鷹崎・愛奈さんが、いきなり出現したエインヘリアルに襲われるという予知が得られました! 急いで連絡を取ろうとしたのですが、連絡をつけることが出来ません!」
 ヘリオライダーの高御倉・康が緊張した口調で告げる。
「愛奈さんは、函館市の五稜郭公園にいるので、今すぐ全力急行します! 一刻の猶予もありません!」
 そう言って、康はプロジェクターに地図と画像を出す。
「現場はここです。エインヘリアル『流星無謀戦士 メテオール・ロビス』は、斧のような持ち手から光の刃を生やした武器・アクスェイバーの使い手です。愛奈さんに一目ぼれしたと称しており、殺すつもりはないようですが、いろいろな意味で非常に危険で厄介なことには変わりありません。ポジションは、おそらくクラッシャー。一対一で戦ったら、愛奈さんに勝ち目はまったくないでしょう」
 すると、遠音鈴・ディアナ(ドラゴニアンのウィッチドクター・en0069)が決意を籠めた声で告げる。
「この敵には、何か因縁のようなものを感じます。微力ですが、愛奈さんの救援と無謀戦士討伐に参加させてください」
「……わかりました」
 大丈夫かなあ、という表情をしながらも、康はうなずいた。
「幸いというか何というか、敵は単体で、増援は呼ばず、撤退もしません。エインヘリアルを斃すか、愛奈さん及び救援に入った皆さんが全員無力化されるか、どちらかになります。どうか愛奈さんを助けて、エインヘリアルを斃し、皆さんも無事に帰ってきてください」
 よろしくお願いします、と、康は深々と頭を下げた。


参加者
不知火・梓(酔虎・e00528)
日柳・蒼眞(無謀剣士・e00793)
神城・瑞樹(廻る辰星・e01250)
甲斐・ツカサ(魂に翼持つ者・e23289)
リューイン・アルマトラ(蒼槍の戦乙女・e24858)
トート・アメン(神王・e44510)
鷹崎・愛奈(死の紅色カブト虫・e44629)
空鳴・熾彩(ドラゴニアンのブラックウィザード・e45238)

■リプレイ

●……爺さん、頼むから自重しろ
 北海道函館市、五稜郭公園。
 かつてケルベロスと螺旋忍軍の激闘が繰り広げられたこの地で、鷹崎・愛奈(死の紅色カブト虫・e44629)は、いきなりピンチを迎えていた。
「アイラブユーじゃ、オラトリオの可憐なお嬢さん。わしはあんたに、一目ぼれじゃぞ! さあ、わしとの間に強い子孫を作ろう! 今すぐ作ろう!」
 熱い口説き文句で迫るのは、エインヘリアルの巨漢戦士『流星無謀戦士 メテオール・ロビス』である。
 自称千歳を超える高齢とのことだが、それが八歳の幼女愛奈に激しく迫る姿は、年甲斐もないというか、はっきり言って正気の沙汰とも思えない。
 むろん愛奈は、本能的な恐怖を覚え、表情を引き攣らせて飛びのく。
「お、おばあちゃんが言ってた! 小さい女の子にプロポーズするエインヘリアルは絶対近づかないか滅ぼすかのどちらかにしなさいって! だから近づかないで! 近づいたら滅ぼすわよ!」
「おお、勇ましいのう。このメテオール・ロビス、愛のために生き、愛のために死す! お嬢さんに滅ぼされるなら、いっそ本望じゃ!」
 どこまで本気か、メテオール・ロビスは豪快に笑って告げる。なんか、こないだ、オークの幻影が似たようなこと言ってたわね、と愛奈は唸る。
「だったら死んで! 今すぐ愛のため死んで! 止めないから!」
「じゃが、愛のために死ぬには、前提として愛のために生きんとな。まずはわしとお嬢さんの愛の結晶を生み出し、それを守るためなら……」
 と、エインヘリアルが臆面もなく言いかかったところへ、高空から不知火・梓(酔虎・e00528)が飄然と降下してきた。
「おい、爺さん、ちょっと待て。まずは、相手の年を考えろ」
 まだ気分としては戦闘開始状態ではないのか、梓は長楊枝をくわえたまま告げる。
「そもそも子孫を作ろうって言ってもよ、相手はまだ女になってねぇだろぅ。目ぇ付けんなら、せめて女になった奴しとけっつーの」
「女になる? オラトリオは確か、女は生まれつき女じゃろ? それとも性別変更があるのか?」
 真面目な顔で、エインヘリアルは頓珍漢な質問を発し、梓は盛大にずっこける。
「そーじゃねーけど、そのつまり、生物学的に成熟してねーっつーんだよ!」
「ああ、そういうことか。安心せい、わしらデウスエクスの子孫の作り方は、定命の者とは違う。というか、同族のように生物学的な子を為すとなったら、年齢がどうこう言う以前に身体のサイズが違いすぎて障害になるわい」
 意外にマトモな返答をしたものの、エインヘリアルは得々と残念すぎる言葉を続ける。
「デウスエクスは、グラビティを用いて子孫を為す。つまり、触ってグラビティを流し込むだけでよいんじゃ。グラビティの力で女性側の必要な体機能は急速に成熟し、子孫ができる。簡単、安全、確実なのじゃよ」
「やだやだやだやだ、そんなお手軽に子孫作るなんて絶対にやだー!」
 夢も希望もなさすぎる、と愛奈は悲痛な叫びをあげる。
 そして、続いて降下してきた神城・瑞樹(廻る辰星・e01250)が、きっぱりと言い放つ。
「ロリコンは滅するに限る。それ以外言葉が思い浮かばないぜ」
「別にわしは、このお嬢さんが年少だから惹かれたわけではないぞ。齢千歳を超えるわしからみれば、八歳も十八歳も二十八歳も八十八歳も大差ない! 何歳だろうが魅力的な女性にはアイラブユー、それだけのことよ!」
 エインヘリアルもきっぱりと言い放ち、瑞樹は思わず遠い目になる。
(「世の中には、いろんな人間、もといエインヘリアルがいるんだな……おっと、呆れてる場合じゃねえぞ」)
 すぐ仕掛けるか、それとも後続の降下を待つか、と、瑞樹はちらりと上を見る。そこへ、日柳・蒼眞(無謀剣士・e00793)が急降下してきた。
「メテオール・ロビス……アンガス・ロビスの縁者か? 俺は、アンガス・ロビスを斃した者の一人だ」
 エインヘリアルと愛奈を隔てるように立ち、蒼眞は敢えて相手の性癖には触れずに呼ばわる。
「いざ、尋常に勝負いただきたい」
「アンガス・ロビス……おお、思い出したぞ。確か、若い方から数えて七番目のロビスであったな。そうか、奴はそなたらに討たれたか」
 さすがに少々沈痛な表情になって、エインヘリアルは唸る。
「するとおぬしら、近頃噂のデウスエクス殺しのケルベロスか。そうでなければ、定命者がデウスエクスを討つなど、できることではなかろう」
「そうよ! あたしがケルベロスだって、気づいてなかったの!?」
 声を張る愛奈に、エインヘリアルは苦笑を浮かべ応じる。
「いや、はっはっは、まったく気づいておらんかった。それでわしを滅するなどと……うむ、ますます素晴らしい! 惚れ直したぞ!」
「惚れ直すなーっ!」
 叫ぶ愛奈を無視して、エインヘリアルは蒼眞に告げる。
「そういうわけで、そなたらと勝負するのはやぶさかではないが、それはわしがこのお嬢さんとLOVEした後にしてくれんかな?」
「そうはいかん。俺は、この子や親族と懇意でな。合意の上ならいざ知らず、嫌がってるのを無理矢理……なんて非道を許すつもりはない」
 蒼眞の返答に、エインヘリアルは白い眉を寄せる。
「野暮な奴じゃな。いやよいやよも好きのうち、というのを知らんのか」
「貴方こそ自重しろ、ご老人! 嫌よ嫌よは、そのまま嫌に決まってる!」
 着地した空鳴・熾彩(ドラゴニアンのブラックウィザード・e45238)が、憤然とした口調で言い放つ。
 すると、エインヘリアルの目がぎらっと光った。
「おっ! これはまたタイプは違うが魅力的な女性が現れたではないか! お嬢さん、わしとLOVEして強い子孫を残さぬか?」
「ご、御免こうむる!」
 冗談じゃない、と、表情を引き攣らせ、熾彩は慌てて敵と距離を取る。
 するとエインヘリアルは、慨嘆するように唸る。
「うーむ、昨今の定命種の女性は、我儘というか、長期的視野に欠けるのう。デウスエクスだろうが何だろうが、新しい血を持つ強い男との間に強い子孫を残すのが、定命種にとって種族繁栄の秘訣であろうに」
「そーゆー問題じゃなーい!」
 愛奈と熾彩が、期せずして声を揃えて叫ぶ。
 そして、降下してきた甲斐・ツカサ(魂に翼持つ者・e23289)が、妙に明るい声で告げる。
「あー、えー……老いてますます盛んってそういう方向じゃないと思うんだけどね? 取り敢えず相手の年齢考えろ!!」
「その話は、もう済んだと思っとったんじゃがな。年齢がネックなら、そっちのドラゴニアンのお嬢さんならLOVEしてもよいということかな?」
 エインヘリアルが応じ、ツカサより先に熾彩が叫ぶ。
「だからーっ! 御免こうむると、言っているーっ!」
「近づいてはいけない! わたしにはわかる! あの変質者は女の敵よ!」
 高速降下してきたリューイン・アルマトラ(蒼槍の戦乙女・e24858)が、エインヘリアルから距離を取って着地しながら叫ぶ。
 そこまで言わんとも、と、エインヘリアルは初めて少々ヘコんだ表情になる。
「ヴァルキュリアとは相思相愛じゃったこともあるし、定命化したなら是非とも子孫を……と思っておったのじゃが」
「勝手に思うな! 迷惑至極よ!」
 リューインは容赦なく叫び、傍らでビハインドの『アミクス』がうんうんとうなずく。
 そこへ降下してきたトート・アメン(神王・e44510)が、ツカサとはまた違ったニュアンスの快活な声で言い放つ。
「無謀戦士か! 良い! 神王の中にも世界を征服しようという無謀な試みを行い、そうして神王の一人になったという猛者もおる」
「世界を征服か……わしも、そんな夢をみたことがないとは言わん」
 ふと遠くを見る目になって、エインヘリアルは呟く。
「しかし、デウスエクスとなって知った。数多の星、数多の宇宙、数多の空間、数多の次元、そのすべてを含むものを世界というならば、それはあまりに茫漠としすぎておる。すべての知性体……攻性植物やビルシャナのような怪しい存在まで含めても、その痕跡は、茫漠たる世界にごく浅い爪痕を残せるかどうか、程度でしかない。だからわしは、定命の者の中に子孫を残すのだ。不滅なる者よりも、無暗に増殖する者の方が、茫漠たる世界を満たすことができる」
「ふむ、なかなかに深いのう」
 うむうむ、と、トートはうなずくが、わけわかんない、と、愛奈は眉を寄せる。
 そして、ウイングキャットの『ロコ』とともに翼を使って滑空降下してきた遠音鈴・ディアナ(ドラゴニアンのウィッチドクター・en0069)が、緊張した声で呼びかける。
「初めまして、流星無謀戦士メテオール・ロビス。私は、リムズベルの血を引く遠音鈴・ディアナ。貴方とは、初めて会うはずなのに、そうは思えない。貴方のほうは。どうですか?」
「むむ? リムズベルじゃと? それはもしや、遥か昔に遡る始祖のロビスの一人と血を交わしたという、巨竜とも魔獣とも伝えられる存在か?」
 白い眉を寄せ、エインヘリアルは唸る。それに対してディアナは、声を張って応じる。
「いかにも、その通りです。我が先祖は、無謀戦士ロビスの甥と伝えられる人と相思相愛になり、その血を残しました。その経緯はさまざまな困難に満ちていましたが、何より、強大な巨竜魔獣を討とうとする無謀戦士ロビスに対し、闘い滅ぼすことなく関係を結ぼうと苦心惨憺したのです。一目ぼれしてフォーリンラブ、などという安易なものではありませんし、我が先祖と結ばれた無謀戦士の甥はデウスエクスではない定命の方でしたが、生涯妻一人を大事に守りました」
 そう言って、ディアナはエインヘリアルを見据える。
「貴方に、地球人の友となりエインヘリアルを含むデウスエクスの敵となる覚悟、そして永遠の生命を捨て定命に戻る覚悟があるなら、私は貴方の子を産んでもいいです。愛のために生き、愛のために死すとは、そういうことでしょう? ですが、その場合は、少なくとも私が生きている限りは、私以外の女性に手を出すことは許しませんよ。浮気は厳禁です!」
「そ、そ、それは……」
 ディアナと愛奈、熾彩、リューインにちらちら視線を走らせ、エインヘリアルは口籠る。
「そんなこと言われても、浮気は男の甲斐性じゃよ……ダメ?」
「サイッテー!」
 四人の女性が声を揃えて叫び、エインヘリアルはどうにも渋い表情になる。
「うぬう、もはや是非もなし……力づくでモノにするしかないか」
「そうはさせん!」
 力強い宣言とともに、新たに五人のケルベロスが姿を現わす。その中の一人を見て、愛奈が叫んだ。
「おばあちゃん!」
「アイちゃん! 聖王女様のような調停者を目指すなら、この程度の敵、乗り越えてみせなさい! ……と言いたいところだけど、さすがに少々荷が重そうね。今日のところは、助けてあげるわ」
 愛奈の実の祖母、ソフィア・フィアリス(傲慢なる紅き翼・e16957)が、他の者には滅多に見せない慈愛に満ちた口調と表情で告げる。
 一方、フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)は、決然とした口調で告げる。
「無謀戦士ロビス……我らヴァルキュリアが無上の敬意を以てヴァルハラに招いた勇者たち。その一員に挑める事こそ誉れ!」
「そういうおぬしは、我らがアイドル、フレックたんではないか! ケルベロスになっておったのか!」
 ううう、闘うよりもLOVEしたいのう、と、エインヘリアルは未練がましく唸る。
 そこへ、シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)とシヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)が委細構わず殺到する。
「こら! ロリコンエロじじい! うちのかわいい団員さんに何迫ってるのーーっ!!」
「鷹崎殿、大丈夫か。助けに来たぞ!」
「ぬおっ、こ、これはまた、いい女が……!」
 不覚にも棒立ちになったエインヘリアルを、シルのオリジナルグラビティ『世界樹の弾丸(セカイジュノダンガン)』が容赦なく貫き、更にシヴィルがオリジナルグラビティ『火霊舞・斬(イフリートダンス・スラッシュ)』を駆使して襲い掛かる。
「ぐわっ……な、何たる威力、定命の身で、何たる凄まじいグラビティ……これは、惚れざるを得ぬ……」
「お生憎さま! わたし、こう見えても恋人居るからっ!」
 シルが叫び、ゴスロリ衣装をきっちり着込んだ皇・絶華(影月・e04491)が殺到する。
「何故か解らないが、無謀戦士と聞いて来ざるを得なかった!」
「む? お主は……男か?」
 外見ではなくグラビティの質から感じ取ったか、エインヘリアルは絶華の性別を鋭く見抜く。
 しかし絶華は委細構わず、オリジナルグラビティ『心に込もるバレンタインチョコレート(キョウキヘミチビクフカキシンエンヨリキタルモノ) 』を発動、エインヘリアルの口に名状しがたい何物かを強引にねじこむ。
「貴様が偉大なる無謀戦士であるならば!! この私のチョコで圧倒的なパワーを得られるはずだ!! あと圧倒的な精力も得られるはずだ! さぁ感じるがいい!!! その無謀な肉体にあふれ出る圧倒的なパワーに歓喜の叫びを……あれ?」
「ぐわおーっ!」
 絶華がチョコと主張する「名状しがたい何物か」をねじ込まれたエインヘリアルは、耳、鼻、口、目、更には全身の毛穴から一斉に血を噴く。
「な、なんじゃこりゃーっ!」
「……おかしいな。私の弟なら喜んで食べてパワーアップしたはずだが」
 絶華の不審げな呟きに、なぜか、その背に負われている黄金拵えの斬霊刀が抗議するようにカタカタ鳴った。

●無謀戦士死すべし
(「正直、厳しい闘いになるかと思ったが……これだけ強力な助っ人が五人も来てくれれば、何とかなりそうだ」)
 油断は禁物だけどな、と、言葉には出さずに呟くと、蒼眞はオリジナルグラビティ『巨大うにうに召喚(ギガントウニウニコーリング)』を発動させる。
「うにうにっ!」
 次の瞬間、動くプリンのような謎の存在『巨大うにうに』がエインヘリアルの頭上から落ちてくるが、間一髪で躱された。
「ぬおっ!」
「ちっ、躱されたか」
 当たれば一撃必殺なんだけどな、と唸る蒼眞の傍らで、瑞樹が訊ねる。
「おい……どうするんだ、この外れたうにうにとかいうの。勝手に消えんのか?」
 すると、蒼眞は軽く応じる。
「消えはせんが、大丈夫、こいつは喰える」
「誰が喰うんだ、こんな不気味なもん!」
 少なくとも俺は喰わんぞ、と唸りながら、瑞樹は炎を伴う蹴りでエインヘリアルを激しく蹴りつける。
「ぐふっ!」
「ふん……こいつも躱すか? 躱せるか?」
 ぷっと長楊枝を吐き捨てると、梓はオリジナルグラビティ『試製・桜霞一閃(シセイ・オウカイッセン)』を放つ。
「我が剣気の全て、その身で味わえ」
「ぐわっ!」
 強力ではあるが、飛行速度が遅いため本来ならうにうに召喚以上に避けられやすい梓の一撃を、エインヘリアルは力尽きかけているのか、まともに喰らう。そして熾彩が、ネクロオーブから熱を持たない炎の刃を放つ。
「炎は刃、刃は炎。切り裂け」
「ぬうううう」
 これでは身が持たん、と、エインヘリアルは気合で自己治癒と状態異常の解除を行う。
 そこへすかさず、ツカサがオリジナルグラビティ『刃法・旋罪刈(ニンポウ・ツムガリ) 』を放つ。
「絡み合う罪業は螺旋の如し。我が刃に映りし己が業を視(うけ)よ! 刃法・旋罪刈!」
 長生きしてるとトラウマも多いでしょ、と、にやにや笑いながら、ツカサは威力こそ小さいが、着実にトラウマを与える技を駆使する。それが効いたか、目に見えて動きが鈍ったエインヘリアルに、リューインがオリジナルグラビティ『大神の鉄槌は雷光の如し(クングニルバスター) 』を放つ。
「神々より託されしこの一投、神殺しの一撃を受ける栄誉をあなたに授けましょう。そして真の死をあなたに。……クングニルバスター!!」
「ぐはっ!」
 リューイン愛用の『魔槍ゲイ・ジャルグ』が、エインヘリアルの巨体を貫く。そしてトートが、オリジナルグラビティ『神王の光輝(シンオウノコウキ)』を発動させる。
「見るが良い。天に輝く光こそ我が光輝。そして拝せよ。その輝きこそそなたを旅立たせる導きの光だ!」
 今度生まれてくる時は、ないすばでぃな美女に生まれ変わって出直すが良い、などと嘯きながら、トートは太陽の如く輝く火球を纏い、飛び蹴りを放つ。直撃されたエインヘリアルは、しかし、よろめきながらも倒れず、ソフィアが愛奈に告げる。
「アイちゃん、とどめを」
「はいっ!」
 勇躍、愛奈は愛用の武器『トライセラフ』を斧光剣形態に変え、オリジナルグラビティ『雷光斧剣(ライトニングアクスェイバー) 』を放つ。
「聖王女様……悪……いや、変態を討つ力をお貸しください!」
 祈るように呟くと、愛奈は高々と跳び上がり、光剣でエインヘリアルを真っ向唐竹割に両断する。
「これが、あたしの切り札だああああああ!」
「むうう……み、見事!」
 繰り言ではあるが、お嬢さんとの間に子孫を作りたかったぞ、と最後に残念な呻きを残し、無謀戦士メテオール・ロビスは真っ二つに裂かれて絶命する。その手から落ちた斧光剣を拾い、愛奈は高々と天に突き上げる。
「勝った! 勝ったよ! 助けに来てくれたみんなと一緒に、勝った!」
 聖王女様への長い長い道をまた一歩進んだね、と、愛奈は声には出さずに呟いた。

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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