アルベルト・フォークロア――君を解体したい

作者:のずみりん

「やぁ、ノード01」
「ん……ッ!?」
 忌まわしい呼称と声色にアインシュタイン・フォークロア(レプリカントの鎧装騎兵・e02954)は振り向き、気づく。
 何気なく通りすがった首都郊外の立体交差、影を重ね立つ一体のダモクレス。
「アレ……んんっ……誰?」
「バージョンアップしたんだ、ワタシ。今はエグゼフォース所属、個体名『EXE-04 アルベルト・フォークロア』」
 髪は金で、瞳は群青。
 ダモクレスの姿、今のアインシュタイン、どちらとも違い、どちらにも似たダモクレスは表情を変えずにしれりといった。
「早速だけどノード01、君を解体したい」
「んんっ!?」
 戦闘経験がアインシュタインを反応させる。アルベルトの右手で染み出す粘液がケーブル状に解け飛ぶのを、先読みの差で跳ね避ける。
「なん、で……」
「任務。それと……仕様……?」
 戦闘態勢のアインシュタインを舐める視線が、初夏の熱気に寒気をはしらせた。
「こういうのを、なんていうんだったかな? 言語データ検索……あぁこれだ。ノード01、君が欲しい」
「アインは……違う!」
 情熱と程遠いプロポーズへの拒絶反応が、過去のアインシュタインを引きずり出す。
 ダモクレスとしてのアインシュタインは、母機の能力強化インターフェースだった……アルベルトの言葉は比喩でもなんでもない、文字通りの意味だ。
「んんっ? 興味深い反応……じゃあ、ワタシはこうしよう。リミット解除、『蒼き戦鬼形態』発動」
 いいしれぬ不愉快な仕草。だが直後の驚きがその感情すら吹き飛ばす。
「うう、んっ!?」
 アルベルトのコアが輝き、蒼光のドレスを展開する。
 アインシュタインの感情から生まれた力……戦鬼の姿まで模倣したのか、このダモクレスは!
「ダメ……それ、でも……っ!」
 迫るダモクレスに、アインシュタインは迷わず逃走を選んだ。
 今はこれしかない……だが決して惨めな敗走ではない。今の彼女は知っている。自分は一人ではない、窮地を助け合う仲間がいると。
 追ってくるダモクレスとドローンを振り払い、アインシュタインは走る。再び過去を振り払うために。

 アインシュタイン・フォークロアが、姉妹機のダモクレスに襲われる。
 予知された邂逅を、リリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)は集まったケルベロスたちに告げた。
「アインシュタインの姉妹機は過去にも出現しているが、今回の個体はエグゼフォース所属機、『EXE-04 アルベルト・フォークロア』を名乗っており、見た目も能力も全く違う」
 予知の中でアルベルトは『バージョンアップした』と語っているが、真相はわからない。
「戦場に配下や同一個体が複数存在している様子はないが、一体でも十分すぎる強敵だ……すぐにヘリオンを飛ばす。アインシュタインを救出し、共にアルベルトを撃破して欲しい」

 戦場となっているのは首都郊外、道理が複雑に立体交差する再開発地区の一角。
 避難や救助が必要ない状況は救いだが、油断は決してできない。
「敵の能力だが……以前出現した『フォークロア』系列機とはほぼ別物だ。惑わされるなよ、ケルベロス」
 確認されている能力は右手の液状兵器、専用ドローン。そしてアインシュタインの能力をを模倣した『蒼き戦鬼形態』。
「右手の液状兵器……リキッドケーブルとでもいうか。粘液とワイヤーケーブルの特徴を併せ持つ。ちょうどブラックスライムとケルベロスチェインの複合武器のような感じだ。攻撃のメインはこれだろう」
 専用ドローンはヒールドローンに似ているが、より積極的な補助……攻撃やヒールの効率を強化するもののようだ。
 メディックのポジションと合わせ、攻め落とすには相応の火力が必要だろう。

「厄介な相手ですが、アインシュタイン殿を解体させるわけにはいきません」
 少々過激な調子でソフィア・グランペール(レプリカントの鎧装騎兵・en0010)は言う。
「何度も追いかけてくる過去なら、何度でも振り払いましょう。皆様と、ソフィアと、アインシュタイン殿で、です」


参加者
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)
アインシュタイン・フォークロア(レプリカントの鎧装騎兵・e02954)
アーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)
霧崎・天音(星の導きを・e18738)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)
アトリ・セトリ(エアリーレイダー・e21602)
學天則・一六号(レプリカントのガンスリンガー・e33055)
カテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)

■リプレイ

●因縁の再訪
「リミット解除――ッ!」
 紅と蒼、二色の戦鬼が交錯する。
 先手を打たれたアインシュタイン・フォークロア(レプリカントの鎧装騎兵・
e02954)は即座に切り札、『紅き戦鬼形態』を切った。
 空より見るものあれば、絡み合い地を走る二筋の流星が見えただろう。
「んんっ? おかしいな……拮抗している」
「……ボクは……っ、違うっていった……!」
 首をかしげるアルベルトに、立体交差をくぐると同時、展開したアインシュタイン
の装甲からマルチプルミサイルが放たれる。
 複雑な軌道を描く弾頭の一斉射……だがその全ては着弾直前に爆散する。
「んんっ……君は一番よくわかっているんじゃないか? そんな半端な攻撃」
「……んんっ!」
 戦鬼の衣はコアから溢れた余剰エネルギー、コアブラスターのオーラを着込んでい
るようなもの。生半可な攻撃は通じない。
 勿論、他ならぬアインシュタイン自身も承知のうえだ。
 吹き上げられた爆煙は煙幕、腕と絡みつく粘液を伸ばす蒼の戦鬼から巧みに身を隠
し、下へ、再び上へ。やってくるチャンスを狙う。
「ん、はしっこい……有効性はよくわかったよ。まずは君の衣を剥がす必要がある」
「……んっ、今……!」
 高架を上に飛んだアインシュタインに滴る粘液がケーブル状に伸びる。地を掴み、
飛び上がってくるアルベルトへアインシュタインはあえて逃げず、抜き打ちざまにゾ
ディアックソードを突く。
「……んくっ、戦闘経験の差か……!」
「……んっ……!?」
 至近距離でこすれ合う紅蒼の衣が、わずかな時差で掻き消える。蒼は突き立てられ
た星辰の力に、そして紅はにじみよる粘液に。
「……スライム……ワイヤー……?」
 答えはどちらも、だ。紙一重でかわした粘液のケーブルは瞬く間に姿を変え、『レ
ゾナンスグリード』のようにエネルギー放出口へと喰らいついていた。
 この変幻自在の武器も、ダモクレスの嘯く『バージョンアップ』した代物か。
「素晴らしい洞察だよ、ノード01。ますます君が欲し……ん!?」
 だが対峙は唐突に終わった。陰る空に、ねばりつくアルベルトの声が途切れ、直
後。
「くれてやるものなど一つもない。我が嘴を以て……貴様を破断する」
 炎と共にそれはきた。着地するジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)の
地獄が陸橋を抉り、二人の間合いを強引に開かせる。
 そして更に飛び散る炎へ降り注ぐ銃弾の雨。
「またフォークロア、エグゼフォースか……今日こそ決着をつけよう、アイン」
「フォークロアはともかく、そっちは初めて聞く名前だね……ともあれ、態勢を立て
直そうか?」
 戦闘システムを起動する降着姿勢のマーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・
e21176)から、銃撃と共に飛び出したくるのはアトリ・セトリ(エアリーレイダー・
e21602)と彼女の相棒、ウイングキャット『キヌサヤ』だ。
「ん……なるほど、先のミサイルはこの合図……」
「ご明察。キヌサヤ!」
 手になじむ『S=Tristia』でのクイックドロウ。アトリは展開するドローンを足止
めし、仲間と相棒へ、立て直す時間と退路を確保する。
「……んっ、みんな……!」
 キヌサヤの羽ばたきに手伝われ、アインシュタインは陸橋下へと飛び降りる。確信
をもって降りた先には予想通り、更なる仲間たちの頼もしい姿。
「このタイミングにとは間の悪い……もとい、性の悪いダモクレス。姉に変わって助
太刀いた候」
「エグゼフォース……絶対に守ってみせるから……今度こそ」
 カテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)、そして敵愾心も露な霧
崎・天音(星の導きを・e18738)。
 エグゼフォース。その名前についてわかることは少ないが、二人の様子と言葉でア
トリは因縁とするべきことを理解する。
「アインシュタインさんも、整備します。あまり時間はないので、少々手荒いです
が」
「……んっ……みんなも、気を付けて……強い……!」
 時をこじ開けるアーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)の『時間
がない』はなかなか重い。そして実際、ウィッチオペレーションを施す最中にも立体
交差で人影が弾ける。
「マークさん! ジョルディさん! こちらへ! 援護します!」
「前は守る! 頼んだ!」
 學天則・一六号(レプリカントのガンスリンガー・e33055)は飛び退いてくる仲間
たちに声をかけ、守りを半身たるシャーマンズゴースト『アルフ』に頼む。
 変形する彼の右腕にはもう一体の盟友、オウガメタル。その腕より放たれた輝きは
彼の共生者の故郷たる惑星レギオロイドの黒光『ライジングダーク』となり、迸っ
た。

●攻防、交錯
「ん、オウガメタル……新たな協力者。エグゼフォースからのデータにあった。警戒
対象」
「やはり、研究されていますね……」
 アーニャはライフルを揺らしつつゼログラビトン弾を放つが、当たらない。自分の
時間への干渉能力も警戒対象になっているのだろうか?
 射出された新たなドローンを伴い、ふわり、ふわりとアルベルトが接近する。
「敵機、接近します……!」
「ドローン禁止区域の標識も読めぬとは、嘆かわしい」
 アームドフォートで牽制するソフィア・グランペール(レプリカントの鎧装騎兵・
en0010)の声に、軽口でカテリーナは切り返し、工事区域の注意看板を足場に飛びあ
がった。
「この標識は進入禁止、そしてここは、ダモクレス禁止でござるなっ!」
「ん……ここはまだ工事途中じゃなかったのかな? ……工事中だからか」
 空の日差しが『まんぷく丸』の刀身を輝かせ、月光一閃。盾にされたドローンご
と、青地のジャケットが両断され……再生する。
 かなり自然で人間的でありながら、どこか機械的で不自然。恐るべき再生力と、
『不気味の谷』のような不安さを伴ってダモクレスは接近する。
「手の内は見せてもらっているよ。ワタシを解体するコトはできない」
「二年前を思い出すね、この強さ、しつこさ……!」
 影の弾丸へと切り替えたアトリの銃撃に粘液が弾け、そのまま反撃を開始する。飛
び散る液状ケーブルはケルベロスバーストに似つつも、その打撃力、貫通力はけた違
いに高い。
「これで、後衛なんて……!」
 アーニャがウィッチオペレーションを施す間にも、今度はマーク、ソフィアへと更
なる傷が抉られる。
 メディカルレインのような広範囲への癒しがあれば、あるいは……そうも思うが、
この火力相手なら一つに絞ったのは正解だったかもしれない。
「君たちの情報は十分集まっている。どいてもらうよ」
 再びケーブルが襲い掛かる瞬間を、アトリは一気に転がりつめた。締め上げるエア
シューズ『take a step toward』が燃え上がらせる闘志で踏みつけ千切る。
「君はそうでも、自分にはまだ用があってねッ」
「んんっ……しぶといのは君たちこそだ」
 反射的に繰り出される逆手の粘液、だが密度を増すケーブルにはジョルディがすか
さず割って受ける。漆黒の『Raven Shroud【Mk-75.Re】』重装を貫かれながらも、地
獄の炎を燃やし、力の限りケーブルを引きずった。
「んぅっ!?」
「重騎士の本分は守りに有り! 天音殿!」
 加えられた逆方向の膂力にケーブルが粘液へと弾け飛ぶ。だが効果ありだ……引っ
張り上げられ、バランスを崩した瞬間を天音のダブルスパイラルバンカーは見逃さな
い。
「人の心の火は、消させない……!」
 飛翔突撃する螺旋の衝撃は紙一重でありながら、ごっそりとダモクレスの装甲を抉
り、交差する道路に突き刺さる。
 勢いを駆使して反転、少女の髪と結ばれたリボンが二色の軌跡を華麗に描いた。ダ
モクレスへの怨嗟を纏う右脚『獄炎斬華・恨壊』からの隙を与えぬ苛烈な連脚が、彼
女と宿るものたちの激情を切り刻みつけていく。
「WARNING!」
「ッ!」
 だがマークが警戒を放つ。
 今度はアルベルトが僅かな隙へと喰らいつく側だ。何発目かの連打の後、受ける利
き腕に集中させた粘液が天音の足を絡めとり、不快な感触をともない駆け上がる。
「はな、せっ……!」
「天音さん、衝撃に備えて!」
 危機を救ったのは一六号の御霊殲滅砲だった。腋を抜くように放たれた大型光弾は
粘液を掠めて剥がしつつ、その先のアルベルトを狙い撃つ。
「っと……ドローン!」
「させんぞ! バンカー、パニッシャーモード!」
 引き戻されるアルベルトのドローン、激突するジョルディの『Jd-E.T-A.R.M』バン
カーシールド。バンカーのロッドに弾かれながらも、球体型の無人機は巧みに衝撃を
かわして転がる。
 攻防を支えるドローンは厄介極まりないが、ひとまずは十分。
「マークさん、前を……」
「ROGER」
 マークの『PG-8000』プラズマグラインダーが奏でる『騒音刃』が再度の接近を拒
む中、アーニャは天音への治癒を完了する。
 地をうつ高周波が泡立たせたせた舗装路を挟み、双方は再び『静』で対峙する。
「手強い……データ以上」
「それが僕の、僕たちの矜持ですから」
 荒い息を吐きながらも、一六号は毅然と言い切った。
「機械は人の役に立ってこそ幸せがある……ダモクレスの手が加わったものでも、僕
が生まれたのはこの地球だ。僕はレプリカントとして、その使命を全うする!」
 奇妙な生い立ちを持つ一六号は、アルベルト・フォークロアの目にどう映ったの
か? その視線を隠すバイザーに、不規則な電子線が交錯する。
「……アルベルト……君だって……」
「……地球人というのは、面白い事をいう」
 アインシュタインに呼びかけられたアルベルトに、とまどいが見えたのは人間特有
の錯覚なのだろうか?
 一六号の傍ら、シャーマンズゴースト『アルフ』は興味深げに傾げた顔を寄せた。

●ノード、ノット
 しばし対峙は終わり、再び戦場が動き出す。
「彼の言い分なら、ワタシたちの矜持というヤツはマキナクロスとその使命を全うす
る事じゃあないかな。ノード01」
「……んんっ。ボクは、アインシュタイン・フォークロアだ。……キミだって……ア
レルヤのノードじゃない……!」
 叩きつけた拳から粘液が弾け、再びケーブルと化してケルベロスを狙う。
 それは牽制であり、同時に本命。
「けっこう、打ち込んでるはずなんだけどな……!」
 強欲の妖精の祝福の矢をジョルディへと渡しつつ、アトリは再びリボルバーを抜
く。排莢、魔影の弾丸をスピードローダーから装填。薬室再閉鎖。
「守りを破らんことには、どうにもならんが……」
「破れないよ、君たちには」
 アルベルトに答える暇はない。ケーブルの絡む大盾『Black Fortress』をジョル
ディは躊躇なくパージ。今は時間が惜しい。
 駆け寄る間にも、本命……一際鋭いケーブルの一つはアインシュタインを食らいに
かかっている。
「……んっ、出力復調……リミット解除――!」
 再び赤き戦鬼の衣をまといアインシュタインが跳躍するが、ケーブルはなおも追い
すがる。地面を、壁を、標識をはい……弾けた先端が戦鬼の衣に喰らいつく。
「なにがそこまでアインシュタイン殿を求めるか……なるほど」
「……カテリーナ……ありがと……!」
 流れを切り裂いたのは『対デクスエウス用高周波苦無』を叩きつけたカテリーナ
だった。地を刺す高速振動型対デクスエウス用ナイフを引き抜き、順手の『まんぷく
丸』を突き付ける。
 その意図は『皆まで言うな』、もしくは。
「んっ? なにが、かな」
「おおっと、動くなでござるよ? この地域、地球はダモクレス禁止。お前は違反切
符でいきなり免許取消、指名手配の殲滅対象でござる……宿敵、いや愛しの君の手前
とあっても、哀しいかないや」
 忍びの術は体術だけに非ず。忍んでないどころか暴風そのもののカテリーナだが、
その巧みな『忍法虚仮威しの術』は纏った分身や武技以上にアルベルトを絡めとって
いく。
「……君は何がいいたい……!?」
「その反応で確信できた。その戦鬼の衣……ダモクレスたるフォークロアでなく、ア
インシュタイン殿に近しい存在なのではござらぬか?」
 全てはそれは推測混じり、あくまでカテリーナの弁。
 だが真偽はともかく、振り上げられた粘液兵器の拳は今までになく感情が乗ってお
り……つまりアルベルトの戦闘経験での敗北を意味していた。
「それ以上は言わせない」
「それはこちらの台詞です。アルベルト・フォークロア」
「TARGET LOCK……!」
 虚仮威しに乗せられた十数秒の浪費は大きい。死角を突くように襲い掛かるソフィ
アの突きをギリギリでかわすアルベルトへ、次に襲い掛かるは巨大な鉄骨。
 一気に接近したマークのプラズマグラインダーが、切り裂いた標識の柱を目くらま
しに迫ってきたのだ。
 粘液を回転で振り払い、受け止めればそこから引き裂かれる回転鋸とアルベルトの
相性はかなり悪い。大きく身を弾いて避けるのはやむなし、だが。
「お願いします!」
「了解! この星の平和は……僕たちで守って見せる! イチロクバスター、チャー
ジ……ショット!」
 強化アームパーツに取り付けられた『ストレージシールド』から充填、溜めこんだ
出力を叩き込んだ『イチロクバスター』が咆える。
 大砲と化した右腕から放たれる太陽エネルギーの弾丸、ソーラーブリットは奔流を
伴い、攻防を支える敵の専用ドローンを貫通してアルベルトへと突き刺さった。

●戦鬼、再び
「フゥッ!」
 直撃と爆発。掘り下ろされたスロープを吹き抜ける風に、キヌサヤが尻尾を膨らま
せる。
「ENEMY SURVIVE!」
「来る!」
 アトリとマークの声が重なり、蒼が駆けた。
「あれが、アルベルトの……!」
「そちらがリミッター解放するなら、ワタシもできるのは当然」
 その身を『蒼き戦鬼形態』へと変えたアルベルトが突進する。アーニャたちの弾幕
を声ごと振り切り、無造作に目標へと手を伸ばす。
「今度はワタシが、後の先……!」
「どうかな!」
 勝利を確信するアルベルトの声。だがそれに被せてジョルディとそのコア機関は咆
えた。
「HADES機関オーバードライブ! 俺の野性が! 魂が! お前を斃す炎へ変わ
る!」
 増大する圧力に『Raven Shroud【Mk-75.Re】』装甲が割れる……否、展開する。
 ワイルドハントの技を解析、開発された最終形態『インフェルノ・フォーム』の放
つ赤と青、コアエネルギーと地獄の炎の輝きが重騎士の黒影にほとばしる。
「んっ!? まだそんな切り札を……!」
 だが驚愕しつつも、アルベルトは止まらない。放たれる破壊光線を紙一重にかわ
し、加速力をもってアインシュタインへと突進、ねばりつく拳が切り結ぶ。
 予測されるジョルディの動きは大振り。組み打ちに持ち込み、盾にするつもりか。
「予定より早いけど、役に立ってくれるかな!」
「んんっ……それでも……!」
 万事は計算尽く。そこに予想外があったのは、アインシュタインと彼女自身。
「……ん、まただ……押しきれない……!?」
「んっ!」
 アルベルトの右腕が千切れて飛んだ。比喩抜きの、尋常ならざる怪力による『素手
で引き裂く』土蔵篭りの一撃。
 再び身を戻そうとするダモクレスだが、その力は既に及ばない。
「通ってくれてたか……」
 撃ち尽くした薬莢を輩出し、アトリはふぅと息をつく。
 驚異の回復を打ち破る『魔影:不効蝕撃』、『イチロクバスター』に重ね撃った二
段構えの銃撃は確認こそできなかったが、アルベルトへと届いていた。
 かつて宿敵たちとの戦いでは死中に活を見出すのみだったが、ケルベロスたちの手
に入れた新たな力はそこから一歩をつめている。
「このっ……!」
 行き場を失った生命エネルギーを奪い、アインシュタインが飛び退く。使い切った
『R.F.ストレージシールド』をパージ。
 アルベルトが振り払い態勢を治す僅かな時間で、フォーメーションは完成した。
「あわせられるか、マーク?」
「AFFIRMATIVE」
 視界を遮るシールドを突き破る、マークの『DMR-164C』から『pile bunker
charge』。機能を失った右手で受け、なおもダモクレスの身体は流される。
 その先に待ち構えるものは。
「これまでか、な……!」
「あぁ、ケリをつけさせてもらう。インフェルノォォォォォ……バス
タァァァァァァァッ!!」
 今度こそ、ジョルディの切り札が咆えた。二つの力より生み出されたソウルフレイ
ムを増幅・集中した超破壊光線は、再生を封じられたアルベルトの身体を光に変えて
いく。
「……アルベルト……さようなら……」
「ん、またね」
 最期を悟った唇が何かを呟いた気がするが、一瞬。
「ソウル……オーバー……!」
 地面を穿つ『Inferno Buster』が爆発した。

「……みんな……ありがとう。……助かりました」
「無事なら……私はそれで安心……その、はず」
 アーニャに治療されながらのアインシュタインの礼、天音はそういいつつも煮え切
れぬものを感じていた。
「あの、最後に彼女は……?」
「……またね……って……でも、見えただけかもしれない……」
 一六号にアインシュタインは答えつつ、あくまで私見だと付け加える。これまでの
彼女の宿敵たちはどれも意味深な言葉を発していた。意識しすぎ、毒されたのかもし
れない。
「……これで、これまでに倒したフォークロアは三人……もしかして、また……」
「彼女はアレルヤじゃないよ。断言はできないけど、ほぼ間違いなく」
 残骸を調査してきた、アトリは言う。多くは消し飛んでいるが、パーツの共通性は
少ない。なによりかつて相対した自己複製型ダモクレス『アレルヤ・フォークロア』
はコアの破壊と共に全機が機能停止したはずだ。
「……06と同じような改造機だったのかもな」
 戦闘システムを終了し、マークは搭載された『R/D-1』の位置へと手をかざす。壊
滅した所属部隊の亡霊、彼の宿敵もエグゼフォースとして襲い掛かってきた。
「オバケ・レプリカント・スレイヤーとは厄介な……これからも増えそうとは、先が
思いやられるでござる」
「……ん。ボクは……ボクたちは、負けない、から……」
 アインシュタインの覚悟は初めて宿敵と対峙した日から決まっている。それが
フォークロアであれ、そうでなかれ。ぶつかりあう宿命というのならば、立ち向かう
までだ。

作者:のずみりん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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