キミならいつでも大歓迎

作者:一条もえる

「せんぱぁ~い♪ もうちょっと飲みましょうよぉ~♪ 次のお店!」
「ダメだよカナちゃん。ちょっと飲み過ぎ」
 とある大学近くにある商店街。ここには定食屋や居酒屋が何軒も軒を連ねていた。共通しているのは、美味く、多く、そして安いということ。
 それゆえに、いつも多くの学生たちで賑わっていた。
 その片隅で、ショートカットの女子大生が、男子学生に寄り添って歩いている。
 男子学生の方は、足取りのおぼつかない後輩を支えるように歩いていたのだが、女の方は、それを知ってか知らずか、「ねぇねぇ」と男の服の裾を引っ張る。
「だってー。今日は私の、誕生日じゃないですかぁ。やっとハタチになって、先輩と一緒に飲めるようになったんですから!」
「そうだね。改めて、ようこそ我がサークルへ」
「はい!」
「とか言っても、適当な連中集めて、ことあるごとに飲んでるだけなんだけどな……」
 こんなところに入ってしまったこの子は、どうしてやめもしないのか。
 一緒に飲んでいた悪友たちは、
「コンビニでスポド買ってくるわ」
 などと言い残し、酔っ払いの相手を押しつけていった。まだ帰ってこない。遅い。
「はぁ……。
 カナちゃん、他でもあんまり飲み過ぎないようにね? 悪いこと考えてる奴だっているかもしれないよ?」
 冗談めかせて言ってみたが、カナはギュッと腕にしがみついてきた。押しつけられる豊かな胸の感触よ。
「……先輩にだったら、いいんだけどな」
「え?」
 小さな呟きのことを、男はそれ以上聞き返すことは出来なかった。
 上空から飛来した巨大な牙が、アスファルトを粉砕して突き刺さり、あたりに粉塵をまき散らしたからである。
「カカカカカ!」
 牙はたちまちのうちに竜牙兵へと変じ、ふたりの方へと襲いかかってきた。
「カナちゃん!」
「先輩、先輩ッ!」
 千鳥足では、いやたとえ酔っていなかったとしても、襲い来る竜牙兵の凶刃からは、とうてい逃げ切れるものではない。
 ふたりは折り重なるようにして倒れ、流れ出た血は止めどなく通りを汚していった。

「また、竜牙兵が現れるのか」
 ヘリオライダーから話を聞くなり、神野・雅(玲瓏たる雪華・e24167)は長大息して顔をしかめた。
 是澤・奈々(自称地球の導き手・en0162)が歌うような抑揚で、
「あぁ、悲しみの涙と、赤い血が流れる……」
 などと呟いて雅の方をちらりと見たが、雅はそれが耳にも入らなかったように厳しい顔をしていたので、しょせんそれに立ち入れるほどの過去を持たない奈々は、狼狽えて黙り込んだ。
 ケルベロスたちに求められているのはもちろん、竜牙兵の凶行を阻止することである。
 これを見過ごせば、少なくとも通りにいる数十人のグラビティ・チェイン、そして恐怖と憎悪とがドラゴンに捧げられてしまうだろう。
 ただの一人の犠牲も出さず、敵を食い止めたいところである。
 ヘリオライダーによれば、敵の出現は午後9時ごろとのことだ。急いで向かえば5分前には到着できるだろう。
 しかし、事前に襲撃を周知することはできない。それを知れば人々は(ケルベロスたちがどう押しとどめたところで)逃げ散ってしまうだろうし、そうなれば敵は別の場所を狙うことになってしまう。
「わかってる。苦しい戦いなのは、いつものことだ」
 出現する竜牙兵は3体。
 竜牙兵としては小集団だと言えるが、
「いつだってこっちの戦力はギリギリだからな。3体で、こっちといい勝負が出来るってことか」
 雅がため息をつくと、
「そ、それは……」
 と、奈々の顔が真っ青になった。
 3体が現れるのはほぼ同時だが、わずかに早く出現した1体のそばにいた大学生らしき男女が、はじめの犠牲者となってしまう。
 残りの2体は、通りにいた他の人々をそれぞれ追うようである。
 古い商店街であり、あちこちに狭い路地がある、人々はそちらに逃げ込む者が多いだろう。裏路地には明かりも乏しく、入り組んだ路に入ってしまわれると見通しが利きにくい。状況の把握が難しくなってしまうだろう。
 携帯電話という手段もなくはないが、敵を目の前にした場合、そんなものを操作しているゆとりがあるだろうか。
 竜牙兵の前に立ちはだかりさえすれば、敵はこちらを無視してまで人々を追うことはない。そうなれば、避難させることは容易なのだが。
「で、では私は皆さんの誘導を……!」
 奈々が怖じ気づきでもしたかのように、挙手した。
 鼻で笑った雅は、
「そうだね、そうしてもらってもいいかもしれないね」
 頷いてみせてから、
「それぞれを食い止める必要があるってことか」
 と、腕組みした。

「ドラゴンの陰謀は、必ず挫く。さぁ、行こう!」
 雅はそう言って、仲間たちを促した。


参加者
ゼロアリエ・ハート(紅蓮・e00186)
武田・克己(雷凰・e02613)
ソル・ログナー(鋼の執行者・e14612)
フィオ・エリアルド(ランビットガール・e21930)
サロメ・シャノワーヌ(ラフェームイデアーレ・e23957)
神野・雅(玲瓏たる雪華・e24167)
鴻野・紗更(よもすがら・e28270)
鈴森・姫菊(クーガー・e34735)

■リプレイ

●竜牙兵の凶刃
「カカカカッ!」
 その兜には鶏冠のように紅い房が揺れていた。『鶏冠』は嘲笑をあげながら剣を振り上げ、襲いかかる。
「カナちゃん!」
 男はカナを、愛しき後輩を腕の中に抱きしめた。その身体は、すっぽりと抱きすくめられるほどに小さかった。胸は大きいのに。
 その小さな身体が、腕の中で震える。
 逃げられないならば、せめてこの身体が盾となれば……!
「先輩、先輩ッ!」
 その思いが、虚しいものだとしても……。
「おい、骸骨野郎。無粋にもほどがあるぜ」
 間に割って入った者から、電光のごとき鋭さで刃が繰り出された。その突きは『鶏冠』の肩を深々と貫き、肩当てを吹き飛ばす。
 直後、ローラーダッシュの摩擦によって放たれた蹴りが襲いかかった。
 しかし敵は剣を使ってそれを防ぎ、延焼することはなかった。
「炎は消えましたか……残念です。
 さぁ、おふたりとも。わたくしどもが防ぎますので、今のうちに避難を」
 鴻野・紗更(よもすがら・e28270)が、背後のふたりに声をかける。
「おら、でかぶつ。お前の相手は俺がしてやるぜ」
 と、刀を肩に担いだ武田・克己(雷凰・e02613)が、手招きした。
 男女が慌てて竜牙兵から離れる。
「た、助かりました」
「お気になさらず。ケルベロスは、このためにあるのです……!」
 紗更は振り下ろされた刃を大槌で受け止め、はじき返す。
「こういう賑やかな場所にこそ、歓迎しない輩が現れるんだよねー」
 場にそぐわぬ笑顔を浮かべ、ゼロアリエ・ハート(紅蓮・e00186)が肩をすくめた。
 抱きしめ合う男女の背を押したゼロアリエは、辺りにいる人々にも声をかけ、戦場から逃がしていく。
「こ、こっちです!」
 是澤・奈々(自称地球の導き手・en0162)が手を振って誘導した。
 我に返ったふたりは、先輩が手を引き、カナも懸命に走り出した。
「逃ガスモノカ!」
 ところが、新たに2体の竜牙兵が現れて、その進路をふさごうとする。
「ひぃ」
 思わず悲鳴を上げながら奈々は刀を構えたが、
「毎度、懲りねぇ奴らだな!
 ここからは俺に任せろ。変身ッ!」
「さぁ、いくよ。かわいがってあげる」
 ソル・ログナー(鋼の執行者・e14612)とサロメ・シャノワーヌ(ラフェームイデアーレ・e23957)の声が響く。
 流星の煌めきと重力。そして美しい虹。それぞれを纏った蹴りが、天空から同時に竜牙兵を襲う。
「グオッ!」
 獅子の文様が施された胸当てが、大きくへこむ。『獅子文様』は吹き飛ばされて、小料理屋の看板を倒した。バチッと音を立て、電気が消える。
「きれいな女性が見ているんだ。少し格好を付けさせてもらおうか。
 ……世の平和を破壊するモノは、俺が破戒してやる!」
 と、ソルがポーズを決めた。
「オノレ……!」
「おや、怒ったのかい? 悪いね、君には私だけを見ていてほしいのさ」
 サロメは芝居がかった仕草で、『獅子文様』にウインクしてみせた。
「奈々殿、こちらは私たちに任せてくれ」
「そのまま予定通り、避難誘導をお願いね」
 神野・雅(玲瓏たる雪華・e24167)とフィオ・エリアルド(ランビットガール・e21930)も、救援に駆けつけた。
「さて……番犬の縄張りで、好きに出来ると思わないで!」
 フィオが護符を放つや、御業が炎を放つ。
 鈴森・姫菊(クーガー・e34735)のオーラの弾丸も、敵を喰らい尽くさんと襲いかかった。
「人の恋路は、邪魔するもんじゃないわよー!」
 しかし竜牙兵は全身を焼かれながらも、垢じみた外套を翻して跳び下がり、剣を振るってオーラを叩き落とした。
 『垢外套』が、歯を鳴らして笑う。
「やるじゃない。空気は読めないくせに」
 姫菊が、鼻を鳴らした。
「ねぇ、みやびちゃん?」
「そうだな……。若人の未来を守るのが、年上の務め」
「ちょ……やめて、年の話は」
「我らは民を守る盾にして、仇なす者を葬る剣なり。
 悲しみの涙と血が流れる未来を、変えてみせよう!」
 オウガメタルを煌めかせ、雅は敵群を睨みつけた。
 不幸な結末には、絶対にさせない。
「マズハ貴様ラカラ血祭リヨ!」
 『垢外套』が剣を大上段に振り上げた。星座のオーラがフィオらに襲いかかる。
「私たちを優先してくれるのは、助かるけど……」
 避けきれなかった凍てつく傷口を押さえ、フィオが呻く。
 幸いなことに敵の狙いはケルベロスに移り、辺りにいた人々も奈々に導かれて遠く離れていったようだ。
「お返しよ!」
 御業に鷲掴みにされ、『垢外套』が動きを止めた。フィオは御業に力を込め、敵を引きずる。
「ダメよ?」
 敵はそのままの体勢からも剣を掲げようとしたが、姫菊の放った飛礫が手の甲に命中し、思わず得物を取り落としてしまった。
「見えてる悪い未来は、バシッと止めないとだ」
 ゼロアリエが大槌を構え、狙いを付ける。振り返って、
「いくよ、猫さん!」
 と、呼びかけるが。当のウイングキャット『リューズ』はそっぽを向いたではないか。
「ひどいなぁ」
 相も変わらず笑いながら、ゼロアリエは竜砲弾を発射した。すると従者もそれに呼応して飛び上がり、『垢外套』をさんざんにひっかいた。
 サッと跳び避けたところに、竜砲弾が命中する。
 吹き飛ばされた『垢外套』が、裏路地に積まれたビールケースと空き瓶を粉々に砕く。
「ひ……!」
 腰を抜かした中年男が、その陰に隠れていた。
「こっちの救出もお願いするよ、奈々ちゃん!
 俺はこっちの相手で、忙しいからね」
「は、はいぃ!」
 敵を見据え、目を細めて笑うゼロアリエの姿に気圧されたか。奈々は素っ頓狂な声を上げて、男に肩を貸した。
「ヌゥ!」
 竜牙兵の視線が男に向けられるが……。
「サロメさん、誘導しましょう!」
 ソルが声を張り上げる。
「うん。君も、私の方を向いておくれ」
 頷いたサロメは、竜牙兵どもの方に視線を送って息を吸い込んだ。
 唇から発せられるのは、絶望しない魂の歌。
「コザカシイッ!」
 『垢外套』の怒りが、そちらを向く。
「ちょっと待ってろ。お前も、まとめてぶち抜いてやるからな!」
 ソルはガジェットを刃に変えて、空の霊力を込めて『獅子文様』を切り裂いた。そのことがいっそう、敵の怒りを駆り立てる。
「カァッ!」
 星座の重力を宿した竜牙兵どもの剣が、サロメに狙いを付けて振り下ろされた。
 速い!
 迷わず跳び下がったが、剣身はそれを追って伸びてくる。とっさにオウガメタルを蠢かせて防いだが、敵の剣はそれさえ切り裂いて、肩を深々と割られてしまった。
「く……!」
 喉元に、熱いものがこみ上げてきた。
「治療は任せろ!」
 雅は大自然と繋がり、癒しの力を流し込む。その力は絶大で、負った傷は瞬く間にふさがれていった。
「助かったよ。さすがだね」
「こう見えても、本職は医者だからな」
 敵群はなおも襲いかかろうとしたが、サロメのテレビウム『ステイ』は自らが傷つきながらも敵の刃を防いだ。

●明るい光
「さぁ、俺を無視するんじゃないぜ?」
 克己の声に応じるように、『鶏冠』は剣を叩きつけてきた。
 避けたのは紙一重。狙いを失った切っ先が電柱を砕き、倒れてきた柱が立ち飲み屋の玄関を破壊した。
「なんて威力だ」
 呆れたように呟き、刀を構えてさらなる出方を窺う。
「カカカカ! 臆シタカ?」
「まさか! いつも熱くなるばかりじゃないのさ。お前に言っても無駄だろうが……」
「ホザケ!」
 星座のオーラが襲いかかる。割って入った紗更が、それを受け止めた。身につけた衣服がたちまちのうちに凍りつく。
「差し出がましいかとは思いましたが……」
「いや。助かったぜ」
「そう言っていただけると、恐縮です。では、参りましょう」
 氷に苛まれながらも、紗更は大槌の柄を握りしめる。竜砲弾を喰らった敵は、たまらずよろめいた。
「ただ斬って捨てるのみよ!」
 克己の刃が、敵を切り裂く。
「ヌゥ……!」
「まだ、終わりではございませんよ。……それでは、失礼します!」
 グラビティ・チェインを込めた掌を、気合いとともに繰り出した。
「我ニ、勝テル気デオルワ!」
 しかし、なんということか。『鶏冠』は身をよじりなら直撃を避け、間合いを詰めてきたではないか。掌の当たった胸当てにはヒビが入るが……まだ、浅い。
 その間に敵の刃は、目の前まで迫っていた。
「ち!」
 『鶏冠』の脛を狙って弧を描いた克己の刃だったが、敵はそれさえ飛び越えた。
 竜牙兵の剣が、紗更を袈裟懸けにする。
「く……」
 肩を押さえ、紗更は歯を食いしばって痛みに耐える。
「鎖骨が、砕かれましたか……」
 むしろ、咄嗟に大槌の柄で受け止めていなければ真っ二つにされていたことだろう。
「強敵だな」
「そうおっしゃる武田様は、少しも焦っているように見えませんが」
「紗更もな」
 敵の刃がどれほど自身を傷つけようとも、克己は高ぶる感情を抑えることができなかった。
 しかし、さすがにふたりで相手をするのは苦しくなってきた頃に。
「お待たせー! おバカちゃんたち、連れてきたわ!」
 場違いなほどに明るい声とともに、姫菊がチェーンソー剣を構えて飛び込んできた。
 モーターが唸りをあげて『鶏冠』に襲いかかる。
 敵は咄嗟に跳び下がったが、その間に克己と紗更とは体勢を立て直し、仲間たちと合流する。
 竜牙兵どもが、カタカタと歯を鳴らした。
「カカカカ! 仲間ノソバデ、死ニタクナッタカ!」
「戯れ言を……。私は二度と、喪ったりはしない!」
「カカカカ! 何のことだ?」
「私は、竜を葬るということだ!」
 雅が古木でできた杖を振ると、辺りには穏やかな風が吹いた。爽やかな癒しの風が、ケルベロスたちの傷を癒していく。
「同感だね。私の可愛い可愛いお姫様たちが、泣くようなことがあっちゃいけない」
 サロメが発した白い霧が、彼女自身を包んでいく。
 ここまで竜牙兵を誘導するのは、さほど難しいことではなかった。敵の狙いはケルベロスに変わっていたし、攻撃はサロメにもっとも集中していたからだ。もっともその分、多くの傷を負ったが。
「ホザケ!」
 『垢外套』が剣を振り上げて迫ってくる。
 しかし、その前には得物を護符から刀に持ち替えたフィオが立ちはだかった。
「吹けば魂散る、花嵐……狂い咲け! 『裏桜花剣舞』!」
 気が送り込まれた喰霊刀を一閃すると、桜吹雪が巻き起こる。それは『垢外套』を押し包み、花弁のひとつひとつが敵を切り刻んでいった。
「グ、オオオオッ!」
 そればかりか、全身から血を滴らせた敵は目標を見失ったように、こちらや同胞をきょろきょろと見回した。
 その隙を、ゼロアリエは見逃さなかった。自分のこめかみを、ツンツンとつつく。
「ネジの1本でも抜けちゃったのかい?」
「敵は、竜牙兵だよ……?」
「……うん。そうだね。ネジが足りてないのは、俺の方だった!」
 怪訝な顔をするフィオに向けて肩をすくめ、
「目標、補足。『スターゲイザー』ッ!」
 よろめく敵の側頭部に、照準は定められた。その狙いを違うことなく、流星の重力が込められた蹴りは『垢外套』のこめかみを砕き、首の骨をへし折った。
「ガ、ガ……」
 その身体が、大の字になって倒れ込む。
「オノレ!」
 『獅子文様』が放った星座のオーラが、ケルベロスたちを包む。しかしソルは凍てつく冷気で手先の感覚を失いながらも、さらに踏み込んだ。
「なにが『オノレ』だ。怒ってるのは、こっちの方だ!」
 神速の突きが敵のひしゃげた胸当てを貫いて、大きなヒビを入れた。
「グ……」
 溢れ出る血を、掌で受け止めようとする『獅子文様』。
「グオオオオッ!」
 獣のような叫びとともに、足もとが光り出す。描かれた守護星座が、竜牙兵どもの傷を癒しているのだ。
 その隙をついて、『鶏冠』の守護星座がケルベロスたちを襲う。
「く……やっかいな真似を」
 頬に飛び散った血を拭い、雅はまたもや、古木の杖を握りしめた。
 しかし。
「みやびちゃん? ちょっと暴れ足りないんじゃないの?」
 姫菊がその横顔を見て、笑った。拍子抜けしたように、雅の肩から力が抜ける。
「あ……姫には、バレてたか」
「もちろん。わかりやすいもの」
「行かれませ。雅様の穴は、わたくしがふさぎます」
「私にも、任せてもらおうかな?」
 紗更とサロメが、それぞれ癒しの雨とオウガメタルの煌めきとで、傷ついた仲間たちを癒していく。
「だったら一丁、派手にやってやるか!」
「その意気よー!」
 姫菊が、敵の刃をかいくぐって間合いを詰めた。
「キミは、俺が相手をしてやるよ」
 斬りかかってこようとした『鶏冠』の前には、ゼロアリエが立ちはだかる。
 姫菊とゼロアリエ。気合いとともに繰り出されたふたりの拳が、音速を超えて竜牙兵どもの腹に食い込んだ。衝撃波のごとく、敵の護りを吹き飛ばす。
 それでも、『鶏冠』も『獅子文様』も雄叫びをあげながら斬りかかってきた。克己が深々と、胴を割られる。
「大丈夫か!
 く……創星は空を往き、闇を裂く。catch this,shooting stardust!」
 ソルの拳が『鶏冠』の顎を捉え、その身体が浮き上がらせる。
 克己はズボンを真っ赤に染めながらも、退こうとしない。
「木は火を産み火は土を産み土は金を産み金は水を産む! 護行活殺術! 森羅万象神威ッ!」
 大地の気が集約されていく。竜牙兵の全身に次々と刃が食い込み、十文字に斬られた『鶏冠』は、大きな音を立てて四散した。
「……風雅流神名雷鳳。この名を継いだ者に、敗北は許されてないんだよ」
「無茶なことしやがって」
 ソルが呆れた声で、手を伸ばす。さすがに克己も、倒れ込んでいた。
「分の悪い賭けほど、燃えるからな。……いや、それほどでもなかったか」
 薄く笑って、克己はソルの顔を見上げた。
「オォノレェェェェッ!」
「あなたはそこで、悪夢と踊っていて」
 怒り狂う『獅子文様』の腹を貫いた、フィオの刃。そこから流れ込んだ呪詛が、敵を苛む。
 敵は手当たり次第に剣を振り回し、斬れるはずもないトラウマに惑わされる。
「お前にも、過去があるんだな。しかし……」
 本当に忘れられない過去があるのは、雅の方だ。
「攻撃もそれなりに出来るってことを、見せてやるよ。
 ……凍てつけ、我が腕の中で!」
 それは復讐に狂った女の譚。『彼』を奪ったすべてを怨み、白銀の氷竜が紡ぐ呪詛が『獅子文様』の全身を押し包み、すべての熱を奪っていった。

「竜牙兵を倒したぞ!」
 辺りに知らせるように、ソルが声を張り上げる。
「はー、終わった終わった。お腹も空いたし、なにか食べていこうよ」
「いいわねー」
 と、ゼロアリエと姫菊とが店の物色を始める。
 ずいぶんと悩んで決めた店では、見覚えのある男女が奥の席に座っていた。男はしがみついてくる女を受け止め、優しく頭を撫でてやっていた。
「若いとは、いいものだな。未来には明るい光しかない」
 雅は笑って、杯を傾けた。

作者:一条もえる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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