学園の巨悪、公正くん

作者:七尾マサムネ

 小柄な短髪の三白眼少年、その名を公正(きみまさ)と言う。
 公正は、憧れていた。不良という物に。
 だから行動を起こした。いけ好かない教師をぶん殴り、屈服させる作戦を!
 今年教職に就いたばかりの女性教師が来るのを、廊下で待つ。気弱そうだし、少し大きな声を出せば、言う事を聞かせられるはず……。
「おはようございます、公正くん。今日も早い登校ですね」
「お……はようございます、先生」
 折り目正しい礼をして、教師とすれ違う公正。
「くそっ、こんなはずじゃ……!」
 床とにらめっこしつつ、公正は、唇をかみしめる。
 その背後に、眼鏡の少女が現れた。
「はい、不良発見。今から私が更生させてあげる」
「……俺を不良って呼んでくれるのか」
「ええそうよ。学園中の教師を従えて、番長……あるいは、影の校長として君臨しているに違いないわ、恐ろしい子!」
 まるで心を読んだかのような指摘に、公正は胸を張り、
「そ、そうさ! 俺は、すげえ不良になる男だからな!」
「そう。なら、私が手伝ってあげてもいいわよ」
「え?」
 ぽかんとする公正の胸に、少女は鍵を突き刺し……ドリームイーターを生み出した。

「日本各地の高校にドリームイーターが出現する事件は、まだ続いています。ドリームイーター達が着目しているのは、高校生が持つ、強い夢の力のようですね」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)によると、今回の被害者は、公正という男子高校生。不良への強い憧れを、ドリームイーターに狙われたらしい。
「公正くんから生み出されたドリームイーターは強力です。けれど、ドリームイーターに対して、この夢の源泉である『不良への憧れ』を打ち消せるような説得ができれば、弱体化が可能です」
 不良になるのは無理だと諦めさせる説得でもいいだろうし、不良という概念そのものに嫌悪感を抱かせるようなものでもいい。不良になる、という意欲をなくすことが大切だ。
 説得が成功すれば、戦闘も大分楽になるだろう。
「生み出されたドリームイーターは、校長室に向かいます。校長先生の椅子に座ろうと、校長先生を襲撃しようとするところに割って入り、阻止して欲しいのです」
 ドリームイーターを生み出した元凶……エグザクトリィは、既に姿を消しており、敵は一体のみだ。
 学園ドリームイーターは、一般人よりケルベロスを優先して狙ってくる事がわかっている。そのため、校長先生の救出や、他の学校関係者の避難はさほど難しくないだろう。
 ドリームイーターは、公正の不良のイメージを反映してか、巨漢の番長の姿をしている。パンチやキックと同時に、攻撃対象の欲望や平静さを喰らい、精神に影響をもたらすことが可能だ。
 先端が鍵状になった木刀を振るい、トラウマを具現化させる力も持つという。
「公正くんの心の奥底にあるのは、不良への憧れというよりは、強い者への憧れ、なのかもしれません。説得を成功させて、公正くんの気持ちも解きほぐしてあげて欲しいです」


参加者
蛇荷・カイリ(暗夜切り裂く雷光となりて・e00608)
小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080)
館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)
百鬼・澪(癒しの御手・e03871)
石動・真吾(一輝当千・e44539)
九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)
カーラ・バハル(ガジェットユーザー・e52477)
犬飼・志保(拳華嬢闘・e61383)

■リプレイ

●咲かせてみせよう悪の花
「この年になっても、校長室に入るって緊張するな。まあ、そんなこと言ってる場合やないか」
 意を決し、校長室の扉をあけ放つ、小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080)。
 そこには、校長先生へと、今まさに襲い掛からんとする番長型ドリームイーターの姿が!
「そこまでや! ってな」
「自分より弱い相手を狙おうなどと、呆れたことですね」
 百鬼・澪(癒しの御手・e03871)とボクスドラゴンの花嵐が、校長先生を背にかばった。
「き、君達! 危ないから下がっていなさい……いや、け、ケルベロスか!?」
 とっさに退避を促す校長先生だったが、乱入者の正体を、瞬時に察したようだ。
(「不良への憧れですか……。私は礼儀作法と勉学に勤しんでいたから、あまり良しと思ってませんね」)
 校長先生を廊下に逃しながら、敵をうかがう犬飼・志保(拳華嬢闘・e61383)。
 ボロボロの学生帽に、改造された学ラン。番長ファッションに包まれた肉体も筋骨隆々。まさに、荒々しさや力の塊そのもの、といった風体だ。
 見かけだけでなく、不可視の圧が、ケルベロス達にのしかかってくるようだ。
(「子供っぽい外見へのコンプレックス、か……俺、公正の気持ち、ちょっとだけ分かる……かも」)
 自身も背の低さを感じている石動・真吾(一輝当千・e44539)は、そんな風に思ったりもする。
 ケルベロスが現れるなり、ドリームイーターは標的をそちらに変更した。
 まるで『イグザクトリィ』の狙いはケルベロスとの戦闘にあった、とでもいうような、見事な切り替えようだ。
 ドリームイーターが引き付けられている隙に、別働班の館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)や九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)達が、周囲の生徒達の避難に取りかかっている。
 素早く周囲の人払いを済ませると、カーラ・バハル(ガジェットユーザー・e52477)達もまた、校長室に集結した。
「今の子って、番長みたいなのにはあんまり憧れないものなのかと思っていたけど、中々珍しい子もいるものだわさ。さてさて……そんな夢見る少年を助けましょうかっと!」
 人払いの殺気を、今度は戦闘のそれに変えて。蛇荷・カイリ(暗夜切り裂く雷光となりて・e00608)が、仲間達に加勢した。

●悪で花実が咲くものか
 このドリームイーターは、悪の化身。大人しく、説得に耳を貸してくれるはずもない。ならば、応戦しつつ、言葉をぶつけるだけだ。
「雷光団第一級戦鬼、九十九屋・幻だ。手合わせ願うよ!」
 説得とはいえ、戦いとあれば楽しまねば。幻が、嬉々として敵に斬りかかった。
「不良というのは読んで字のごとく、『良くない』事を表しているんだ。人に暴力を振るったり、脅したり、学校をさぼったり……君はそういう事をされたらどう思う?」
 己の血に染まり、赤みを増した幻の刀を、ドリームイーターの学ランが阻んだ。正確には、その下に隠された、硬い筋肉の鎧が。
「それに、君が不良になってしまえば君の家族も悲しむだろう。もう一度よく考えてみて欲しい」
 ドリームイーターは平然とした様子で、木刀を振るう。肩慣らしとばかり、来客用のソファが、真っ二つにする。
「なるほど、その番長があんさんの不良イメージなんやな。でも、そんなマンガみたいな格好いい不良、実際はおらんからな」
 木刀を肩に乗せ、ポーズを決める相手を見て、真奈が声を投げた。
「弱いもんには強いけど、自分より強いもんには頭があがらん、そんなんばっかりやで」
 真奈の放つ幻竜波を、素手で受け止めるドリームイーター。
 これは、手ごわい相手になりそうだ。そのためにも、皆で説得を重ねていかなければ。
「不良はあんたが思ってる以上に荒くて、利己的で野蛮な連中の集まりよ。自分自身の力量も知らず、誰彼構わず喧嘩売る、ムカつく者なの」
 ウイングキャットのソラマルにひっかかれる番長に、志保の言葉が刺さる。
「今のあんたが不良気取っても、叩き潰されるのがオチよ……あたしとかにね!」
 有言実行。志保の、人差し指と中指を使った二本貫手が、番長を襲う。
「学園の支配って、その後はどうするのかしら? 巨悪として、恐怖政治でも敷くの? でもそれって貴方が思う本当に格好いいこと?」
 斬霊刀とモザイク、本質こそ違えど木刀同士。カイリとドリームイーターがつばぜり合いを演じる。
「そこから先も格好いいのかどうか考えてみるのも、目標ってものには必要じゃないのかしら?」
 互いを弾き合い、距離を取る二者。だが、次の攻撃は、カイリが先に踏み込んだ。電光石火の突撃で、相手の学ランを破る。
 すると、ドリームイーターは剛腕にモザイクを宿し、パンチを繰り出した。攻撃に特化している上、公正の夢の力の強さか。その威力は、割と凄まじい。
「そう、暴力によってこの学校を従えたとして、それで終わりなんかじゃない。暴力には暴力で対抗されるだろうし、それこそ学外からも次から次へと狙ってくる人はいるはずだ」
 攻防を行いつつ声をかける詩月の髪留めからは、冷却材が噴霧され続けている。放熱索である青の長髪からも、電子頭脳の熱が放出されている。
「そんな人達に、ずっと勝ち続ける気概はある? 諦めず、自分を保つことはできる?」
 問いと共に、詩月は、ドラゴニックハンマーをコンパクトにスイング。相手の機動力を奪うように、下半身めがけ打撃する。
「そうです。貴方が不良ぶって人に言うことを聞かせようとしたように、今度は貴方を狙って、不良の方々が言うことを聞かせようとしてくるかもしれません」
 澪の言葉の直後、味方の背後に爆煙が上がった。煙に混じって、雷の欠片が弾ける様子は、花弁が舞うよう。
「そんな無用の争いを我が身に招くとしても、貴方は不良になりたいのですか?」
 花嵐のタックルを、姿勢を低くして受け止めるドリームイーターに、澪が問う。
「強い『何か』に憧れる気持ちは分かる。身長が低かったりでガキッぽく思われるのが嫌な気持ちも、まァ分かる」
 仲間を木刀からかばったカーラの如意棒が、折れた。いや、ヌンチャクに分離したのだ。
「でもそれは、周りの奴にぶつけたからッて意味ねエぞ? それともお前がなりたいのは、そんなんなのか?」
 カーラは、ヌンチャクで木刀を絡めとると、相手のボディに反撃を加えた。一連の動作の間も、敵の目をじっと見据えたままだ。
「そんなダセエのよりもっとカッケエ強さ、見せてやるからかかってこいよ!」
 カーラの挑発を受け、ドリームイーターが吠える。
「公正ってさ、不良マンガとか好きでよく読んでるタイプ? でも、ああいうのによくある『伝説の番長』ってさ、自分より弱い舎弟とかを守るために巨悪に立ち向かうもんじゃねーの?」
 真吾が、仲間達に紙兵を向かわせながら、訴える。
「校長先生は偉いが、喧嘩が強いわけじゃねえ。自分より弱い奴を選んで暴力でねじ伏せようなんて、強い奴に立ち向かう度量もねえ卑怯者、ザコ敵のやることだ。そんなの、すげーカッコ悪いぜ」
 そうだろ? と訴えかける真吾。
「強い男に憧れるんなら、ダチとか好きな人とか、大切な人を守るために戦えよ」

●悪の栄えたためしなし
「……ッ!」
 突然、ドリームイーターが、頭を抱えた。
 皆の説得が功を奏し、その力が弱体化したのだ。
 電光の如き速力を披露していたカイリが、いよいよ雷そのものと化した。ドリームイーターへと降り注ぎ、その巨体の芯までを余さず焼き尽くす。
「澪ちゃん!」
 再び人身を取ったカイリに応え、澪が格闘にうって出た。
 ドリームイーターと違ってその所作に荒々しさはなく、たおやかなもの。華麗な一撃で、番長をひるませる。
 これまで感じていた圧が消えたのを確かめ、真吾がパンチを繰り出す。加速の間にその拳は獣化し、体格差のある相手を打ちすえる。
 そして真奈が、エクスカリバールを振りかぶった。味方の攻撃とタイミングを上手く合わせて、スイング。見事なヒット!
「どや、おばちゃんもなかなかやるやろ?」
 これぞドヤ顔、という奴である。
 別方向から振り下ろされてくる詩月のハンマーを、両腕で受け止めるドリームイーター。だが、万全の状態ならいざ知らず、弱体化した今では、その衝撃をしのぎ切る事はできなかった。
 詩月が即座に離脱したところに、幻が、妖の剣技を披露する。霊体のこもった刀で、ドリームイーターの剛腕を切り捨てる。手を離れ、壁に付き立つ得物を取り戻そうとするドリームイーターだったが、その木刀を幻が蹴り飛ばす。
 やむを得ず、ドリームイーターは足技で応戦する。
 だが、志保は、背後から相手に組み付くと、膝蹴りを決めた。それだけでは終わらない。更に、アゴめがけ飛び膝蹴りをもう一発。床に横臥したところに、更に容赦ない蹴りの嵐。
 とっさに身を起こしたものの、くらくらと体を揺らす敵に向け、カーラの鋼鞭が絡みついた。縛り上げた敵の体を引き寄せると、勢いよく、ヘッドバッドを食らわせた。
 同時に倒れる二者。果たして、立ち上がったのは、カーラの方だった。
 夢は夢へと還ったのだ。

●更新される夢
「う、ううん……わっ、アンタらは……ごめんなさい!」
 公正は、意識を取り戻すなり、自分を囲むケルベロスに頭を下げた。
「百歩譲って不良めざすんもいいけど、あまり人に迷惑かけちゃいかんで。またそんなんしたときは、おばちゃんがしかりにくるからな」
 公正を諭す真奈。外見は真奈の方が幼くとも、人生経験がにじみ出る。
「不良になっても良い事はないですよ? 表面は大人しくても本質は激情家な人もいます。……私のように」
 これからは気を付けてくださいね、と、志保。怒涛の膝地獄の記憶が焼き付いているのか、公正がぶるりと震えた。
「本当に強い人というのは、誰かを傷つけるのではなく、誰よりも優しくなれる人なんじゃないでしょうか」
「そうそう! 正義とか悪もだけど、義理とか人情とかも大切なものよ?」
 澪の言葉にうなずきつつ、カイリもぽむぽむと、公正の頭を撫でた。
 すっかりしょげた様子の公正の肩を、真吾がバンっと叩いた。
「こまけえことは気にすんな! 俺たちまだまだ成長期だから! ……たぶん! 一緒に毎日肉食って牛乳飲んで体鍛えようぜ!!」
「お、おう!」
 つられたように、公正が元気に応じた。
「確かに、誰かを守るケルベロスの方がかっけーかもな」
 思わずこぼれた公正の言葉を聞いて、カーラも、自分達の戦いぶりが伝わったようで、嬉しかった。
 この分なら、もう安心だろう。立ち去ろうとする幻達を、公正が引き止めた。
「お、おい、もう行っちゃうのかよ」
「敵を倒して終わりじゃない。後片付けまでが、ケルベロスの仕事だからね」
 くひひ、と笑う幻。その行先が、戦闘で荒れた校長室だと知ると、公正も「自分も手伝う!」と同行を願い出た。
(「名前と見た目にコンプレックスがあって、余計になのだろうけれど。……この年頃の子供の、麻疹みたいなものなのかなぁ」)
 公正を見ながら、詩月は、そんな風に思う。
 その思春期特有の夢の力こそが、『イグザクトリィ』達、学園ドリームイーターの狙いなのだろう。
 だが、ケルベロスがいる限り、夢の力をいいように使わせたりはしない。

作者:七尾マサムネ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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