春の陽と照る傷に

作者:幾夜緋琉

●春の陽と照る傷に
 千葉県神栖市、鹿島灘に面する広大な土地に広がる……お墓。
 お盆にはまだ早いが、周りに棲まう人達が、故人を思い、花や線香を供えている。
『……』
 そして、手をしっかりと合わせ、故人を偲ぶ。
 ……だが、そんな故人を偲ぶ中の横では、飽きてしまった子供達が走り廻ったりして……それを叱るお母さんの姿も。
 それは何処にでもありそうな風景……だが、その時。
『……グゥォオオン……』
 地底から響く様な、稼働音。
 その音と共に、海を割り開き、姿を現わす……巨大なロボット型ダモクレス。
 突如現れたダモクレスに、周りの墓参りに来ていた人達等は悲鳴を上げて……その場から逃げ惑うのであった。

「ケルベロスの皆さん、集まって頂けましたね。それでは……説明を始めます」
 と、セリカ・リュミエールは、集まったケルベロス達へ軽く一礼すると、早速。
「千葉県の神栖市の鹿島灘に、先の大戦末期にオラトリオによって封印された巨大ロボ型ダモクレスが、復活し暴れ出す、というのが予知されたのです」
「この、復活したばかりの巨大ロボ型ダモクレスですが、グラビティ・チェインが枯渇している為に、戦闘力は大幅に低下しています」
「しかし、放っておけば、人が多く居る場所へと移動する事で、多くの人間を殺戮するでしょう……そうすれば、グラビティ・チェインを補給してしまう事になります」
「又、力を取り戻した巨大ロボ型ダモクレスは、更に多くのグラビティ・チェインを略奪し、その後体内に格納されたダモクレス工場にて、ロボ型やアンドロイド型のダモクレスを量産してしまうでしょう……そんな事をさせる訳には行きません。力を取り戻す前に、巨大ロボ型ダモクレスを撃破して頂きたいのです」
「尚、巨大ロボ型ダモクレスですが、7分経過すると、魔空回廊が開き、その中に撤退してしまいます。そうなれば、ダモクレスの撃破は不可能になりますので、魔空回廊が開く前に、巨大ロボ型ダモクレスを撃破してきて頂きたいのです」
 そして、更にセリカが。
「この巨大ロボ型ダモクレスは、鹿島灘の海を割り、姿を現わします。7分の制限時間の間に、恐らく海に面したお墓を蹂躙し、墓参りに来ていた方達を殺戮する……という事を行うのでしょう」
「幸い、巨大ロボ型ダモクレスはグラビティ・チェインが枯渇している為、全体的な性能や攻撃力は減少しています」
「ですが……一度のみ、そのリミッターを外し、その身に大ダメージを受けながらもフルパワーの攻撃を行う事が出来るようです」
「ちなみに皆さんがこの場所には、巨大ロボ型ダモクレスの現れる数分前に到着可能です。なので、余り時間はありませんが、市民の方々には避難勧告を出すことが可能です」
「又、街並みについては、ある程度破壊されてもヒールグラビティで治す事は可能です。時間制限がありますので、確実に仕留める様にお願いします」
 そして、最期にセリカは。
「罪もない人を虐殺しようとするデウスエクスだけは、決して許せません。皆さん、必ずダモクレスを倒してきて下さい。宜しくお願いします」
 と、頭を下げた。


参加者
翡翠寺・ロビン(駒鳥・e00814)
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)
カシオペア・ネレイス(秘密結社オリュンポスメイド長・e23468)
グラハ・ラジャシック(我濁濫悪・e50382)
茅宮・火奈(赤眼護剣・e56465)
碓氷・凪(比丘尼の系譜・e56592)
天霧・裏鶴(戦の鬼姫・e56637)

■リプレイ

●盆の音一つ
 千葉県神栖市の、鹿島灘に面する広大な墓地。
 今はまだ、盆にはちょっと早い時期……しかし回りに棲む人達が、花や線香を供え、故人の冥福を祈っている。
 ……そんな故人を偲び、祈りを捧げる人達の下へ現れし濫入者……巨大ロボット型ダモクレス。
「ロボットもお墓参りするんだね」
 と燈家・陽葉(光響射て・e02459)が苦笑しながら言うと、きょとんとした感じで碓氷・凪(比丘尼の系譜・e56592)が。
「……え? このダモクレス、お墓参りに来たんでしょうか?」
 信じてしまう凪に、陽葉は苦笑し。
「……うん、冗談。どう見ても違うよね。お墓参りに来た人を獲物にしようとしているのは間違い無いし……その人達の平穏と故人の眠りを邪魔させない為に頑張ろっか」
 と陽葉の言葉に湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)とカシオペア・ネレイス(秘密結社オリュンポスメイド長・e23468)も。
「そうですね。お墓を荒らすとは、何とも罰当たりなダモクレスですね」
「故人を偲ぶ場所で、殺戮など不釣り合いですね。時間も差し迫っておりますし、迅速に処理致しませんと」
「ええ。不届き者なダモクレスを許しておく訳にはいきません」
 そしてグラハ・ラジャシック(我濁濫悪・e50382)と茅宮・火奈(赤眼護剣・e56465)、そして天霧・裏鶴(戦の鬼姫・e56637)らも。
「ああ。ま、勝つっても定命化してそんな経ってもねぇし、ピンとはこねぇがとりあえず敵を始末すりゃいいんだろ? んじゃ、精々楽しく遊ぼうかね」
「そ、そうですね。え、援護は任せてください。よろしくお願いしますね!」
「巨大ダモクレス、七分という制限時間があるけど、なせばなる!! 魔空回廊に逃げる前にきっちりと仕留めて見せるわ!!」
 ……と、そんな仲間達の言葉に対し、翡翠寺・ロビン(駒鳥・e00814)は。
(「……わたしの大切なひとも、いまは土の下で眠っている。だから、余計に腹が立つんだろう……だから……なるべくなら、墓地に被害が及ばない様に気をつけないと……ヒールで治ると言っても、気分は良くないから……」)
 彼女は……怒り、逸る心を抑えながら、ケルベロス達は神栖市の墓地へとたどり着くのであった。

●荒くれの力
 ……死者の冥福を祈り、静謐に包まれる鹿島灘沖の墓地。
 幸いな事に人はまばらで、数百人単位での大量殺戮、という事は一先ずは無さそうである。
 無論、今ここに居る人は、全て倒す気概であるが。
「さて……アラームのセット準備は良いですね?」
 麻亜弥が仲間達に確認……一斉攻撃の時、5分に合せて、いつでもスタート出来るように構える。
 そして……周りの一般人達に向けて。
「おい、皆。ここにダモクレス出現の予兆あり、だ。近場の奴、特に墓場周辺は出現予想地点だ、とっとと逃げろ。わざわざ来た参拝者が殺されたんじゃあ、故人共浮かばれねぇぞ」
 とグラハが大きな声で、周囲に避難する様呼びかける。
 ……勿論、今の時点では鹿島灘の方は極々普通。ただ、ケルベロスからの言葉、という事で、ちらほらと信じてくれる。
 更に、凪や陽葉、カシオペアらも。
「ココは危険です。早く少しでも内陸へ逃げて下さい!」
「もうすぐここにデウスエクスが現れるよ。今なら間に合う、だから今の内に逃げておいてね」
「ここに居てはなりません。皆様のお墓は、私達が必ずや守ってみせます」
 そんなケルベロス達の言葉に、次々と、一般人はその場から避難していく。
 ……そうしていると、ゴポゴポゴポ……と、鹿島灘に浮かび始める水泡。
「……あれかしら?」
 とロビンが指を指す……それに火奈も頷いて。
「……そうですね。ダモクレスが現れました!」
 と仲間達に声を掛けつつ、鹿島灘に向かい駆けていく。
 ……そして、程なく。
『……ウゥゥゥゥ……』
 重低音の稼働音が鳴り響き、姿を現わすダモクレス。
 巨大な体躯は、海に身をつけていても、遥かに高い。
 ……そんなダモクレスの真っ正面に、真っ先に対峙する裏鶴、ロビン、火奈。
「さてと……それじゃ行きますかね……いざ、参る!」
「そうね。ここは、お前のようなモノが荒らしていい場所じゃない。平穏と、静謐と、祈りで満たされているべき場所よ」
「星眼流免許皆伝、茅宮火奈。守るべき方たちの為……参ります!」
 と、三人がそれぞれ威声を上げる。そしてロビンが殺界形成を周囲に展開、そして各々の手のアラームをスタートさせる。
 ……そして、ズシン、ズシン……と歩を進め、その身全部を地上に顕わにする。
「取りあえず……皆、頑張ってね」
 と、凪が早速、サークリットチェインで前衛陣に盾アップを付与する。
 同時にグラハも、前衛へのメタリックバーストを掛け、狙アップ。
 そして火奈が、流水斬のブレイク効果を追加。
 ……一方前衛陣は、最初から全力攻撃。
「くちづけするわ、あなたに」
 ぽつりと呟いたロビンの『死招く乙女』の一閃から始まり、裏鶴が。
「終わらせる!! 剣魔剛輪、桜花……大!! 天!! 衝ーーー!!」
 『剣魔剛輪・桜花大天衝』の一閃がダモクレスを貫き、更に陽葉のスターゲイザーが足止めを誘発。
 ……クラッシャーの一巡に続き、麻亜弥とカシオペアが。
「その身を凍えさせてあげますよ!」
「取りあえず……これでも食らって頂きましょう」
 達人の一撃と、轟竜砲。
 そして、ケルベロス達の攻撃が一巡した所で、対するダモクレスの反撃。
 ……とは言っても、攻撃手段はその巨躯から繰り出される殴りつけ攻撃のみ。
 一発の威力はとても高く、真っ正面から躱せずに直撃を受ければ、重傷は避けられない。
 ……ギリギリまで攻撃を惹きつけ、僅かな刻間を付いて、躱すカシオペア。
「……中々の威力ですね。油断出来ません」
 とカシオペアの言葉に麻亜弥はこくりと頷く。
 そして次の刻……また先に動くは凪。
「今度は……こっちだね」
 とサークリットチェインを後衛に掛けて、後衛にも盾アップ効果を付与。
 そして続くグラハが破鎧衝を仕掛け、火奈は。
「寄らば斬ります!」
 と『明星』のホーミング効果を加えていく。
 中衛、後衛がバッドステータスを加える一方で……。
「わたしの鎌から、容易く逃げられるとは思わないで」
 とロビンのシャドウリッパーが、ジグザグ効果でBSを倍増させる一方、陽葉はグラインドファイア。
 そして裏鶴が。
「そこ、狙うわよ!」
 と二刀斬空閃により体力を削る。
 そして、麻亜弥が。
「炎に包まれてしまいなさい」
 とグラインドファイアで炎に包み、カシオペアもアイスエイジインパクトで氷。
 炎と氷の二つの効果に、身を掻く様に悶えるデウスエクス。
 更に3刻目、4刻目……時と共にデウスエクスを削るが、見た目からは其処まで効いている様にも見えない。
 ……そして、5刻目。
『ピー、ピー』
 と、各自の時計にセットしていたアラームが鳴り始め……残り時間が少ない事を示す。
「後3分……そろそろ一斉攻撃ね」
 と裏鶴の言葉に皆も頷き、覚悟を決める。
「分かった。それじゃ……行くよ」
 と凪が近接し、達人の一撃を叩き込むと、火奈も呪怨斬月。
 更にグラハはフロストレーザーを射出し、ロビンのハウリングフィスト、陽葉のスターゲイザー、そして裏鶴が。
「待ってました!」
 と月光斬。
 そして麻亜弥が。
「海の暴君よ、その牙で敵を食い散らせ……」
 と『暗器【鮫の牙】』を打ち込み、そしてカシオペアがズタズタラッシュ。
 ……そして、敵の攻撃の瞬間。
『……!!!』
 今迄とは違う、更に低い重低音。
 その重低音が暫し鳴り響いたかと思うと、次の瞬間、蒸気と共に暴れるダモクレス。
 全力全開のフルパワー攻撃を受けたカシオペアは……一撃に、かなりの大ダメージ。
「っ……」
 と唇を噛みしめつつ、ギリギリの所で耐える。
 ……彼女の残り体力は僅かではあるが……倒せずに魔空回廊に逃げ込まれるのも避けなければならない。
「私に構わず、仕掛けて下さい」
 とカシオペアは仲間達に指示。
 その指示に頷きつつ、グラハが。
「ああ。ほら、スクラップの時間だ、派手に潰れろや!」
 と獰猛に笑いながら、黒い霧を体、特にその右腕に纏い、殴り掛かる。
 強力な『悪霊化:『さぁ、気を確かに持って』』の一閃にダモクレスの脚部をショートさせると、更に火奈の『溜め斬り』、凪の螺旋掌。
 そしてロビンのシャドウリッパーと、陽葉のグラインドファイア、そして裏鶴の阿頼耶光で。
「逃がすかぁー!!」
 その一閃に、腹部に風穴を開く。
 そして麻亜弥のグラインドファイアに、怪我を厭わずカシオペアが。
「――リミッター解除。”TERA”による殲滅を実行します」
 『T/Nereis』が穿たれ、更なる傷跡を産む。
 そして……七分目、最後のアラームが鳴ると共に。
「最後か……一気に仕留めるぜ!」
 とグラハが叫び、その悪霊化した様な腕で叩きつけると、火奈の流水斬、凪の達人の一撃。
 そして、ロビンのドレインスラッシュが一閃……と、その瞬間、ダモクレスの腕が落下。
 更に裏鶴が穿つ『剣魔剛輪・桜花大天衝』が、もう一方の脚部をも撃ち砕くと……ダモクレスは体勢を維持出来ず、よろめく。
 そして、そこに。
「最後だよ、これでとどめ!」
 と陽葉の『ヘリオライト・B』が放たれると……ダモクレスはその一撃に、完全に崩壊するのであった。

●海風は肌を凪ぎ
 そして……どうにかギリギリであるものの、七分という制限時間以内に巨大ロボット型ダモクレスを倒したケルベロス達。
「……ふぅぅ……お、終わりましたね……あ、み、皆さん! お怪我はないでしょうか?」
 と軽く汗を拭いつつ、火奈は皆を心配する声を掛ける。
「あ、僕も手伝いますよ。最後の方は全力攻撃でしたしね……」
 と凪も手を上げ、仲間達と共にまずは体力を回復。
 回復を受けながら陽葉は。
「それにしても、大きい敵っていいよね。倒し甲斐があるし」
 と軽く苦笑すると、それにグラハが。
「ああ、狙わなくても当たるしな」
 ニヤリと獰猛に笑うグラハ。
 ……そして、一通り仲間達を回復した後は、壊してしまった設備とお墓の下へ。
「……うるさくして、ごめんなさいね」
 と破壊されたお墓に跪き、手を合わせるロビン、そして麻亜弥も。
「此処に眠られていた方々にはすみません。少し騒がしかったですかね……もう、大丈夫です。安心して、眠っていて下さい」
 と祈りを捧げる。
 そして……祈りを捧げた後に、お墓の崩れた所をカシオペアが修復、掃除。
 更にヒールグラビティを使い……大きく破壊された所を回復していく。
 ……すると、ちょっとファンシーな感じになってしまって。
「まー、しかし……墓は壊れてても、ヒールで幻想化させねぇ方がいいか?」
 と肩を竦めるグラハに、麻亜弥が。
「そうですね……私達の手で、もっと綺麗にしてあげないといけませんね」
 と提案。
 そしてケルベロス達は、手分けしながら壊れた墓を、出来る限りヒールグラビティを使わずして修復。
 最低限必要な部分のみをヒールグラビティで修復していく。
 ……僅かにファンシー度合いは出てしまうものの、最低限に抑えることで……出来る限り墓の姿は以前を維持させる。
 そして、祈りに来る人達を邪魔しない様に……軽く冥福を祈りつつ、その場を後にするのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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