徒花は碧落に散る

作者:坂本ピエロギ

 6月末日。大阪府大阪市、某所。
 その日、一輪の花が大阪の街を襲った。
 3階建てのビルを覆う体で、ふわふわと宙を漂う、巨大な花が。
「お、おい! 何だあれは!?」
 その花は水を吸わない。吸うのは地球人のグラビティだ。
「逃げろ! 早く逃げるんだ!」
 その花は根でビルを叩き壊し、人を刺し、あらゆるものを無に帰す。
「ヒッ……み、見ろ! 人を食ってるぞ!」
 その花の、蓮を思わせる花弁に映るのは、胎児のようなシルエット。
「ケルベロスだ、ケルベロスを呼べ!!」
 その花の通った後には、何も残らない。何ひとつ残らない。
 花の名前は『サキュレント・エンブリオ』。
 地球に根を張り巡らす災いの花、デウスエクス・ユグドラシルの尖兵である。

「浮遊型巨大攻性植物『サキュレント・エンブリオ』の出現が予知されました」
 ヘリポートにケルベロスが集合するのを確認し、セリカ・リュミエールは語り始めた。
「大阪周辺で頻発する攻性植物の事件と同様、敵は市街地の徹底的な破壊を行いながら市民を殺害し、生息域を拡大することが狙いと見られます」
 問題は、その規模が桁外れであることだ。サキュレント・エンブリオは非常に強大な個体であり、放置すれば街ひとつが地図から消えてもおかしくないとセリカは言う。
 今回出現が予知されたのは大阪市某所の駅前大通り。ビル群を貫くように南へ走る道路、そのど真ん中に白昼堂々出現するという。市民の避難は警察と消防が事前に済ませるので、ケルベロスは敵の撃破に全力を挙げてほしい。
「サキュレント・エンブリオは、大通りの両脇に建つビル群を手当たり次第に破壊しながら浮遊状態のまま道路を南下していきます。地上やビルの中からでも攻撃は可能ですが、特定の場所に留まり続けて戦うことは不可能だと思って下さい」
 続けてセリカは、現場周辺の状況についての説明を行う。
「道路周辺のビルは、いずれも4階建て程度の商業ビルです。ビル同士を隔てる距離はそう長くありませんので、隣のビルに飛び移る事は難しくないでしょう。仮に落下しても、それによってダメージを負うことはありません。安心してください」
 なお現地には、工事業者が設置した仮設の作業スペースや、電柱などが各所に存在する。それらを使えば、飛行能力を持たない種族でもそれなりの高度を確保できるだろう。
「ご存知の方もいるかもしれませんが、サキュレント・エンブリオは撃破されると攻性植物の胞子を周囲一帯にばらまくことが確認されています。残念ながら現段階でこれを阻止する方法は判明していません。まずは敵を倒すことに全力をあげて下さい」
「巨大な攻性植物の撃破、それは新たな戦いの始まりを意味します。地球の平和のために、どうか確実な撃破をお願いします」
 セリカはそう言ってケルベロスに敬礼すると、ヘリオンの操縦席へと乗り込んだ。


参加者
鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)
松永・桃李(紅孔雀・e04056)
フィー・フリューア(赤い救急箱・e05301)
夜殻・睡(氷葬・e14891)
ヒスイ・ペスカトール(銃使い時々シャーマン・e17676)
バジル・サラザール(猛毒系女士・e24095)
レヴィン・ペイルライダー(四次元のレボリューション・e25278)

■リプレイ

●大空を奪う
 正午。
 人気の絶えた駅前の歩道から、バジル・サラザール(猛毒系女士・e24095)はビルの上で待機する仲間に向かって声を上げた。
「どう、移動は問題ない?」
「ああ、平気だぜ。ちょっとしたアスレチックってやつだ」
 屋上から鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)が返事を返す。彼は今、準備運動がてらと言わんばかりに、立ち並ぶビルの上を身軽に飛び回っていた。
 ビル間の移動も慣れさえすれば、ケルベロスならばそう危険なものではない。それを証明するかのように、ロストーク・ヴィスナー(庇翼・e02023)がダブルジャンプで屋上に跳躍してきた。
「それっ、と。この分なら、飛行に集中しなくても平気そうだね」
 彼の言葉通り、街を貫く大通りには跳躍用の足場が豊富に存在する。歩道の電柱、仮設の作業スペース、清掃用のゴンドラ……ビルの上り下りには苦労しなさそうだ。
 ロストークはビルの端に建つと、羽織ったケルベロスコートの襟でくつろぐサーヴァントをそっと呼び起こした。
「どうだいプラーミァ、大阪の街の眺めは」
 それを聞いた赤いボクスドラゴンは、屋上に飛び降りて眼下の大通りを見下ろした。
 気位の高い竜の眼が映す街中に、市民の人影は皆無である。バジルと雅貴が発動している殺界形成の影響も手伝って、既に誘導の警察を含めて避難は完了しているようだ。
 敵の出現が予知された時刻まで、あと少し。既に屋上にはロストークや雅貴の仲間たちが戦いの準備を整えて待機していた。
「サキュレント・エンブリオか……物的被害も出したくないし、速やかに倒そうぜ!」
 保護用ゴーグルを装着したレヴィン・ペイルライダー(四次元のレボリューション・e25278)が、ロストークの隣でキラリと不敵な笑みを浮かべる。ガンスリンガーたる彼にとって、敵の宙を浮かぶ大きな体は格好の獲物だ。
「エンブリオってさ、倒すとたくさん胞子ばら撒くだよね」
 フィー・フリューア(赤い救急箱・e05301)がたなびく赤いケープを抑えながら言った。
 屋上に時折吹く風は、かなり強い。この風に乗った胞子が新たな事件を起こすと思うと、フィーは一抹のやりきれなさに襲われる。
「面倒起こす前に、さっさと土に還してやりたいよ」
「まったくな。厄介な置き土産もあったもんだ」
 フィーの言葉に、ヒスイ・ペスカトール(銃使い時々シャーマン・e17676)が頷いた。
 この戦いは攻性植物とケルベロスの、いわば戦争。そして戦争で最初に犠牲になるのは、力のない者たちだ。
 ヒスイはその悲惨さを骨の髄まで知っている。デウスエクスの悲惨な犠牲者は、もう1人たりとも出したくなかった。
「さあ来い、サキュレント・エンブリオ。速攻で撃ち落としてやる」
「どうやら噂をすれば……だな。気をつけろ、来るぞ」
 夜殻・睡(氷葬・e14891)が指さした先、ケルベロスの眼前の空間がぐにゃりと歪んだ。巨大な何かが、魔空回廊を通ってこの場所へと顕現しようとしているのだ。
 そして現れる、巨大な一輪の花。暗い影が、無人の街を音もなく包み込む。
「あれが、サキュレント・エンブリオ……」
 ビルの谷間を漂う敵の姿にロストークは一瞬言葉を失う。彼が花と聞いて思い描く姿とはおよそ縁遠いモノだったからだ。睡にとってもそれは同じだったようで、
「蓮……っつーかでっかいクラゲって言うか……」
 触手のような根をうねらせ獲物を探すエンブリオの姿を形容する言葉が、とっさに出てこない。セリカの言う通り、小さな街くらい廃墟にするには十分過ぎる大きさだ。
「まあいい、斬れば同じだ。悪趣味極まる植物はさくさく伐採しようか、っと」
「ああ、見境のない敵は早く片付けよう。プラーミァ、後方で皆の援護を」
 一声鳴いて飛んでいくプラーミァ。
 その前方で、マインドリングを装着した松永・桃李(紅孔雀・e04056)が眉を潜める。
「これ程に見ていて楽しくない花はそうそう無いわね」
 桃李は可愛いものが好きだ。花を愛で、酒をたしなみ、女子と騒ぐのが好きだった。
 あの敵は、そんな彼の好きなものを全てぶち壊そうと、わざわざ自分から出向いてきた。許す理由はどこにもない。
「ホゥちゃんはメディック、ライドキャリバーはスナイパーで。援護頂けると助かるわ」
「はい、頑張ります!」
 指示されたポジションへと駆けてゆくホゥ・グラップバーンとサーヴァントを見送って、ヒスイはリボルバー銃『ミタマシロ』の安全装置をカチリと外す。
「置き土産ごと消えてほしいもんだけど……まァ愚痴ってもしゃあねえ、草刈りと行くか」
 ケルベロスの戦意を察知して、根をざわりと浮き立たせるエンブリオ。
 こうして戦いの幕は切って落とされた。

●大花は舞う
 睡は屋上から跳躍すると、間近な花弁に狙いを定めて斬霊刀『雨燕』を一閃。分厚いゴムを斬ったような手応えの後、切り裂いた傷口からエンブリオの体液が滝のように噴出した。
『イイイィィィィ――!』
 傷を負った胎児があげる断末魔の絶叫。怒り狂ったエンブリオは、釣り針のような返しが着いた根を振り回しながら、睡と仲間たちへ襲い掛かった。
「鬼さんこちら……なんつっても聞くわけないか」
 睡は追撃で飛んでくる根の衝撃をガードで殺しつつ、エンブリオの花弁を蹴って向かいのビルに跳躍。その背後で、巻き添えを食ったビルが音を立てて崩れていく。
「ぞっとしないな」
 根の何本かは、先程からエンブリオの頭上を舞う『烏』を振り払おうともがいていた。
 実際には、それは烏ではない。雅貴の召喚した影だ。雅貴が見舞う必殺の一撃、その機を作りだすための囮に過ぎない。
「テメーに養分なんざ与えやしねぇ。実を結ぶ前に、散らしてやる」
 エンブリオが僅かに見せた隙を突いて、雅貴の日本刀が一閃。大きな根が1本、のたうちながら地面へと落ちた。
「災厄広める根は切り捨てる。この星にあるまじき花は刈り取る。朽ち果てな」
 身を翻して宙を飛び、フェイントを交えて攻撃を誘い、エンブリオを翻弄する雅貴。彼が剣閃で描く白い花がふれるたび、大木の如き根は1本、また1本と切り落とされていく。
 一方の敵も、そんなケルベロスたちに怒りを煽られたのか、更に攻撃を苛烈にする。
「ああもう、ふよふよ浮かんで厄介だなあ」
 屋上を駆け回るフィーの真横に、振り下ろされた根がブンと飛んできた。縦揺れの衝撃。鼓膜を揺さぶる轟音。鉄骨を断たれたビルが、土煙と共に道路へ落下していく。
 敵の根に届く建物が次々と吹き飛び瓦礫と化してゆく様に冷や汗を流しながら、フィーはリーチを外れた屋上のアンテナに飛び乗った。ここなら少しの間、敵の攻撃を凌げそうだ。
「皆を回復するよ! グラップバーンさん、援護よろしく!」
 ケルベロスチェイン『糸紡ぎ』を繰り、フィーはサークリットチェインを発動。ホゥの「想捧」の調べに乗せて、グラビティで編んだレースの障壁で桃李ら前衛の味方を覆う。
「アナタ達の栄華なんて認めないわ。命を吸い上げるなんて冗談じゃない」
 フィーの立つビルの真下、建物の影に身を潜めていた桃李がマインドリングをかざした。
 敵は高火力でリーチが広く、さらに回復手段も持っている厄介な相手。
 故に今から、後手に回らせる。この『緋龍』を皮切りに。
「絡めとってあげる――火遊びじゃ、済まないわよ」
 マインドリングが具現化したのは、龍を象る地獄の炎。桃李が放ったそれは敵の死角から花弁を食いちぎり、体の自由を奪うようにまとわりつく。
「無粋な根や花は、断ち切って差し上げましょう」
 咆哮を轟かせて暴れるエンブリオ。そこへロストークのスターゲイザーと、プラーミァのボクスタックルが同時に襲い掛かった。
「行くよ、プラーミァ」
 白い流星と赤いコロナの如き攻撃が交差し、根の1本を千切り取った。
 敵の傷口から噴水のように吹き出す体液。すかさずバジルが汚れたアスファルトを蹴って跳躍し、根の1本に飛びついた。
「こういうのは根っこから腐らせないとね。特製の猛毒しっかり味わいなさい」
 傷口の新しい根に飛びつくと、突き刺した注射器から『過剰服薬』で薬液を送り込む。
 濃縮薬液のポンピングで、エンブリオはにわかに苦しみ始めた。
 ビルを破壊し、電柱を切り倒し、アスファルトを抉りながら道路を前進するエンブリオ。ケルベロスの攻撃で根を何本か失っていたが、次から次へと新たな根が攻撃に加わり、攻撃の気配はまったく衰える様子がない。
 そんな敵の進路を塞ぐように、信号機の上でヒスイが翼を広げて天高く飛び上がる。
「射線クリアだ、ペイルライダー!」
「こっちもOKだ、宜しく頼むよ」
 道路からヒスイの銃。屋上からレヴィンのバスターライフル。クイックドロウの十字砲火を浴び、エンブリオが弾着の煙に包まれた。
「さて。少しは根の威力も下がったかな……っと!」
 とっさに背を屈めるレヴィン。そのすぐ上を電柱ほどもある根が薙ぎ払う。
「おっと残念、こっちだ」
 レヴィンはダブルジャンプを交えたフェイントで、巧みにエンブリオを翻弄する。攻撃の余波で倒壊していく足場を振り返りながら、隣のビルへ飛び移ろうとして――。
 足場が、崩れた。
「なにぃ!?」
 落ちる。そう思った瞬間、横から飛び込んだ影がレヴィンの体をすくい上げた。
 影の主は彼方・悠乃。白い翼で空を飛ぶ、オラトリオの女性だ。
「大丈夫ですか?」
「あ……ありがとう、助かったぜ」
 冷や汗を拭って、屋上に着地するレヴィン。そこを狙いすましたように襲いかかる根を、ロストークが盾となって庇う。鮮血がしぶき、純白の翼が赤く染まった。
「ぐっ……」
「大変! 目覚める力に広がる翼、守護する姿を今ここに……」
 負傷したロストークを、すぐさま悠乃が大いなる翼で癒す。本来ならば相当なダメージを免れない攻撃も、盾アップと武器封じの影響で大幅に軽減できているようだ。
「大丈夫か!? 今のうちにしっかり回復しておけよ!!」
 そう言って敵の足元で派手に暴れているのは、応援で駆け付けた相馬・泰地だ。
 敵の足元で旋風斬鉄脚を放ち、うまく敵の意識を引き付けている。
「攻性植物の勢力拡大を許すわけにはいかねえからよ、オレも加勢するぜ!」
 泰地を振り払おうとするエンブリオの根は先程よりも力が弱く、狙いも雑になっている。
 ケルベロス達の攻撃は、確実にエンブリオを絡め取りつつあった。

●散華
 自分達に傾き始めた流れを掴むため、ケルベロスは着実に攻めの手を強めていく。
「うるさい根だ。静かにしてもらうぞ」
 弧を描く月光斬で根を切り裂き、敵の体から自由を奪う睡。いっぽうフィーは、フック付ロープを駆使してビルの谷間を縦横無尽に飛んで敵の狙いを翻弄している。
「ほらほら、こっち!」
 ある時はラペリングで敵の注意を誘い、
「残念、僕はここだよ!」
 ある時はダブルジャンプで解体用の足場を跳び、
「大丈夫!? 治療するからじっとしてて!」
 負傷したロストークの傷を巨大な×型のメディカルテープで塞ぐ。
(「仕掛けるぜ」)
 ビルの屋上を駆ける雅貴が、向かいの桃李にアイサインを送る。雷刃突を構え、日本刀の切先を敵へと向ける雅貴。頷く桃李も、惨殺ナイフで雷刃突の構えだ。
 同時に跳躍する二人。攻撃を察知した敵は根を引き絞り、空中で迎撃の体勢をとる。
 だが――。
 二人はそのまま地面へ着地。フェイントに嵌ったエンブリオに、真下から斬りつけた。
 X字に交叉する雷刃突。裂かれた根が、体液をまき散らしながら次々と地面に転がる。
『イイイイィィィィ――!!』
 絶叫を上げ、ぐらりと傾ぐエンブリオの姿をじっと観察する者がいた。
 ロストークである。
(「見つからない……やはり駄目か」)
 飛んでくる根を避けつつ、ロストークは無念そうに頭を振った。エンブリオに胞子をまき散らさせず、本体だけを枯らせる事は出来ないか。せめて手がかりを掴めないか――そんな思いを抱きながら注意深く敵を観察するも、それらしき情報は得られなかった。
(「やむを得ない。倒すしかなさそうだ」)
 ロストークが振り下ろすスカルブレイカーが胎児ごと断ち切った花弁に、屋上から助走をつけたレヴィンが跳躍。うなりを上げる戦術超鋼拳が付け根から花弁をむしり取る。
「そろそろ、かな!?」
 短剣型に形成したマインドソードを構えたヒスイが、三角跳びでビル壁を蹴った。翡翠色の銃弾が螺旋を描きながら、射線上に並ぶエンブリオの根を残らず切断してゆく。
「サラザール!」
「ええ、頃合いね」
 のたうつエンブリオめがけて叩き込んだバジルのシャドウリッパーが、バッドステータスの檻に敵を封じ込めてゆく。
 捕縛に氷に服破り、武器封じにパラライズ、足止め。あらゆる枷をはめられ八方塞がりに追い込まれてもなお、敵は生への執着を手放さず、破れかぶれの攻撃を仕掛けてきた。
「やれやれ、最後の悪あがきってやつか!?」
 ヒスイはマインドリングで障壁を形成し、刺突攻撃からバジルを庇った。
 敵の根にはケルベロスのエンチャントを消滅させる力があるのか、近距離で攻撃を受けた仲間の何人かは、ダメージを軽減させる守護が剥ぎ取られている。
 ケルベロスの食らったダメージは確実に積み重なってきていた。万一の失敗もないよう、ヒスイはミタマシロを握る手で印を描き、『身固』の呪文で守りを再強化する。
「千妖万邪皆悉済除、急急如律令……」
「チャンスだよー、皆! 回復は僕達に任せて、どんどん攻めて!」
 フィーはサークリットチェインを駆使しながら、ホゥや悠乃と共に味方をフォロー。
 ロストークの槍斧『ледников』のルーン文字が冷たく輝いたのは、その時だった。
「謡え、詠え、慈悲なき凍れる冬のうた」
 氷点下の槍斧が大気を凍らせ、純白の尾を引いてエンブリオの花弁に突き刺さる。凍結で膨張した体液によって、花弁をポップコーンのように次々と破裂させながら、敵は絶叫してのたうち回った。
「根っこからじわじわと……といいたいところだけど、早めにけりつけないとね」
 捕食形態を取ったバジルのブラックスライムが、エンブリオの太い根を捕縛。
 そこへ雅貴と、睡と、桃李の絶空斬が次々と襲いかかり、更に強固なバッドステータスの檻へと敵を封じ込めてゆく。
「視えた、そこだー!」
 レヴィンの精密射撃に根が吹き飛ぶのも構わず、エンブリオは横薙ぎの攻撃態勢に移る。前衛に狙いを定め、まとめてケルベロスを吹き飛ばそうとして――。
 しかし、そこまでだった。
『イ……イィ……?』
 ふいに根という根が痙攣し、力なく地に伏せる。桃李が付与したパラライズ、その効果で攻撃に失敗したのだ。
「終わりにしてやる」
 睡が雨燕を鞘に納め、ビルの屋上から跳躍した。
「時長らくにして伝えず、五家伝を以て曰く、一刀にてまことに断ち切るべしは身に非ず」
 睡はこのとき武器を手にしていた。ただそれが、目に見えないというだけだ。
 冷徹にして怜悧、睡にのみ扱いうる一度きりの刀。掌中に生成した冷気と重力で放つ、『抜かば魂斬る氷織の刃』が。
「刀とは魂魄切り伏すもの也。しからば一刀、馳走し候」
 体を両断して通り抜ける、ほんの僅かな冷たい感触。
 それがサキュレント・エンブリオが最期に覚えた感触だった。

●白い風
(「やった……!」)
 地響きを立てて、アスファルトに斃れるエンブリオ。それを見たロストークは、すぐさまその骸に駆け寄った。
 攻性植物の死体から湧き出してきた白い胞子が、ビルの谷間を吹き抜ける風に煽られて、さらさらと青空へ飛んでゆく。ロストークは雲のような胞子の塊めがけ、ルーンを開放した槍斧をぶつけてみたが――。
「……駄目か」
 残念ながら、効果はなかった。
 いずれあの胞子は、地球の草花を新たな依り代として再び人々を襲うことだろう。
 そう考えて落胆するオラトリオの青年の肩を、桃李が励ますようにぽんと叩く。
「お疲れ様。解ってはいても悔しいわよね、やっぱり」
「ええ。本当に……」
 ロストークは無念そうにため息をつく。あの胞子を封じ込める方法が、1日でも早く見つかって欲しいと考えながら。
「飛び散った胞子も悪さ出来ないよう――警戒を続けないとね」
「全く。コイツだけでも最悪だってのに、死花まで咲かせてくれるとは厄介極まり無いな」
 それを聞いた雅貴が、道路に散らばるコンクリートを片付けながら小さく肩を竦めた。
「ケド、せめて――止められるもんは、食い止めてやる」
「ああ……それにしてもあの敵、暴れ方がド派手だったよな」
 雅貴の隣で、睡が周りの光景を見回しながらぽつりと呟く。
 睡の言う通り、大通りの一帯は瓦礫の山と化していた。フィーとヒスイは先程からヒールの修復に大忙しで、ホゥや悠乃と一緒にあちこちを飛び回っている。
「警察への連絡は済ませたわ。後は片づけだけね」
 そこへ、バジルが戻ってきた。既に殺界形成は解除され、修復が終われば街は元の活気を取り戻すことだろう。
「――必ず見つけるさ。胞子を止める方法も、勝利の光明も、僕達ケルベロスが」
 街中へ飛んでいくロストークのヒールドローンを見送りながら、仲間達は力強く頷いた。
 見上げる青空には、岩のような大雲。無人の街に響くのは、夏を告げるセミの鳴き声。
 攻性植物との戦いは、未だ終わりそうにない。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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