忠実なる処刑人

作者:神無月シュン

「お盆の頃にまたゆっくり来るから」
 帰天・翔(地球人のワイルドブリンガー・e45004)が墓前で手を合わせる。
 現場が近くだったこともあり、仕事を終えて元気な姿を見せようと、家族の眠る墓地へと足を運んだ。
 流石に夜の墓地は暗い。墓石の掃除等はまた今度ゆっくりと。そう挨拶をし、帰路について少し――。
「っ!?」
 急な殺気を感じ翔は咄嗟にしゃがむ。さっきまで首のあった場所へと銀色の光が走る。
 転がるように距離を開け、立ち上がる翔。眼前には身の丈ほどの鎌とも斧ともとれるような、巨大な獲物を携えた人影が立っていた。黒いローブに身を包み両手足、顔共にモザイクで覆われている。
 ドリームイーター・処刑人―パニッシャー―。
 ギリッ。その姿を捉えた瞬間、恐怖と怒り、二つの感情が翔の中で渦を巻く。今にも襲い掛かりそうになる自分を抑えようと、歯を喰いしばった。
「まさか、てめぇの方からやって来てくれるとはな!」
「…………」
 命令を忠実に遂行するだけの、このドリームイーターには、言葉など必要ないのだろう。ただ無言で今か今かと、翔へと襲い掛かるタイミングを窺っていた。

 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、ケルベロス達に緊急招集をかけ、集まったメンバーに説明を始める。
「帰天・翔さんが、宿敵であるデウスエクスの襲撃を受けることが予知されました」
 現在連絡がつかないと聞き、会議室がどよめく。
「一刻の猶予もありません。準備ができ次第、救援へと向かってください」

「敵は身長程もある巨大な武器を、力任せに振るってくるようです」
 現場は夜の墓地。戦闘には十分な広さがあり、一般人は居ない。

「急ぎ、翔さんの元へと向かい、宿敵を撃破してください」


参加者
テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)
バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)
ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)
ソシア・ルーンフォリエ(戦舞奏唱・e44565)
レナ・ネイリヴォーム(イニチウムフェザー・e44567)
死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)
帰天・翔(地球人のワイルドブリンガー・e45004)
鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)

■リプレイ


 帰天・翔(地球人のワイルドブリンガー・e45004)の救援の為、出撃したケルベロス達は、目的地の墓地へと続く道の入り口までやって来ていた。
 道の先には灯りは無く、前方には闇が広がっている。
「失伝者絡みの話となると、私も無関係ではありませんかね……」
「彼も、か」
「この戦い、私達も支えよう?」
 死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)、レナ・ネイリヴォーム(イニチウムフェザー・e44567)、ソシア・ルーンフォリエ(戦舞奏唱・e44565)の3人が道の先を見つめながら話をしている。
「先ずは翔さんと合流ですね」
 バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)の言葉に頷き、ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)と鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)が持参したランプを手に前方を照らし、足元に注意と声を掛け合うと、先導して夜道を走り始める。
 他のメンバーも前を行く灯りを頼りに続く様に走り出した。
「まさか、てめぇの方からやって来てくれるとはな!」
「…………」
 ドリームイーター・処刑人―パニッシャー―。
 黒いローブから覗く両手、両足、そして顔。そのどれもがモザイクで覆われている敵。ローブに付いているシミみたいなものは、今まで処刑した者の血……だろうか。言葉を話せないのか、ただ無言で立ち尽くす相手、それが余計に威圧感を増す。対峙しているだけで、翔の中の恐怖心が膨れ上がっていく。
「行って、テレーゼ!!」
 静寂を斬り裂く様に、墓地に声が響く。
 テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)の指示に、ライドキャリバーのテレーゼが、翔とパニッシャーの間へと滑り込む。
「おぅ、居やがった。おい、無事か!?」
 ランプを手に道弘が声をかける。
 駆けつけてきた仲間達を見て、翔はさっきまで感じていた恐怖心が薄れていくのを感じた。
「なんて巨大な武器でしょうか」
 パニッシャーの手に握られているのは、身の丈程の大きさのある斧の様な武器。銀色に輝く刃には、所々に赤黒いシミが付いている。いったいどれほどの命を奪ったのだろうか。バジルは背筋に寒気が走った。
「……サポートします」
「てめぇの都合で勝手に仲間を処刑される訳にはいかねぇ、助太刀するぜ!」
 今にも襲い掛かってきそうなパニッシャーを睨みつけ、刃蓙理と道弘は武器を構える。
「処刑されるのはあなたの方よ、ドリームイーター」
「此処はお前が荒らしていい場所じゃない。塵になって消え失せろ」
 レナとノチユも続く様に構える。
 仲間達が武器を構える中、翔は一度目を閉じる。仲間がいるという事のどれほど頼もしい事か。胸の内に恐怖心はもう……ない。
 そして、目を開くとパニッシャーを睨みつける。
「人形野郎! てめぇを、今ここでぶち殺してやる!」


「切り裂け!! デウスエクリプス!!」
 テレサの『ジャイロフラフープ・オルトロス』が、パニッシャーが動き出すよりも早く襲い掛かる。それに合わせるように、テレーゼが激しいスピンで襲い掛かる。
「炎よ、高く立ち昇りなさい!」
 更にバジルの炎を纏った蹴りが、パニッシャーを燃え上がらせる。
「臆病者の僕には、彼のような意地も勇気もない……だからせめて、成し遂げようとする人の助力をしたい」
 ノチユが刀を構える。抜き放つと同時、弧を描く軌道がパニッシャーの胴を捉える。
「申し訳ありませんが此処は通しませんよ!」
 振り下ろされるパニッシャーの攻撃に、ソシアが立ち塞がる。
「きゃっ!?」
 パニッシャーの強力な一撃に、攻撃を受けたソシアの身体が宙を舞う。
「大丈夫ですか?」
 地面へと叩きつけられた、ソシアの元へと刃蓙理が駆け寄ると、即座に回復を施す。ソシアのウイングキャット、ミラもまた心配そうに上空を飛び回り回復に加わっていた。
「んな物騒なもん持ってんじゃねぇよ!」
 道弘が斉天截拳撃を放つ。武器封じ効果のあるグラビティによって、パニッシャーの力を少しでも削ぐ事が出来ればとの判断だ。
 起き上がったソシアはオウガ粒子を放出、仲間を支援する。
「行きます」
「喰らいやがれっ!」
 レナと翔、2人の蹴りが流星の煌めきを宿し、続けてパニッシャーに襲い掛かる。
 テレーゼがガトリングを掃射する中、テレサはタイミングを見計らって砲撃を行う。
「この飛び蹴りを、その身に受けてみなさい!」
 バジルの攻撃に怯むパニッシャーへと、地獄の炎を纏わせた刀を振るうノチユ。
 反撃にパニッシャーが大斧を横に薙ぎ払うように振るう。
『ぐああああああっ!』
 パニッシャーの一撃に、近くにいたケルベロス達がまとめて吹き飛ぶ。
 刃蓙理はすぐに詠唱を開始。
「よくもやってくれたなっ!」
 刃蓙理とソシアが仲間を回復する最中、チェーンソー剣を構え、道弘がパニッシャーへ襲い掛かる。振り下ろされた剣がパニッシャーの胴を斬り裂いていく。
 続けてレナの日本刀『緋燕』が弧を描く。
 その間に、腕のワイルドスペースを巨大刀に変形させる翔。そして飛び上がるとパニッシャー目掛け、力任せに振り下ろした。


 ――ギュイイィイン。
 スピンを伴ったテレーゼの突撃がパニッシャーを吹き飛ばし、距離をあける。
「くそっ! なんて馬鹿力なんだ」
 道弘がパニッシャーを睨みつける。その横では今しがた攻撃を受け、倒れている翔へとノチユ、刃蓙理、ソシアの3人が駆け寄って、回復に努めていた。
「しっかりしろ」
「穢れた円環……Dirty Loop」
「こんなところで終わってはだめです」
 3人の懸命の治療に、出血も治まり傷口も徐々に塞がっていく。
 一撃の威力が高いため、回復に手を回さざるを得なく、どうしても手数が足りなくなる。回復を減らしてでも攻撃を増やすか……。それとも現状維持の耐久戦に持ち込むか……。
「今はとにかく一撃でも多く撃ち込みます」
 バジルが小刀【Blue Rose】を振るう。鮮やかなナイフ捌きでパニッシャーを斬り刻んでいく。
「それしかねぇな! 怒號雷撃!」
 道弘の放つ雷がパニッシャーを撃つ。
「やっ!」
 ヌンチャク型如意棒で首、腕、胴と次々に攻撃を撃ち込んでいくレナ。
 回復を終え、よろよろと起き上がった翔は、染み付いた血を硬化させ包帯を槍へと変える。
「どりゃああああああああっ!」
 ――渾身の一投。
 槍は真っ直ぐにパニッシャー目掛け飛んでいくと、腹部へと深々と突き刺さった。
 どれくらい打ち合っただろうか、回復を続けながら戦ってはいるが、ケルベロス達は皆、ボロボロでいつ倒れてもおかしくはない。肩で息をしながら、武器を構える。
 苦しんでいるのか余裕なのか……。言葉も話さず、表情すらもわからない。そんなパニッシャーも、身に纏っているローブは既にボロボロで、武器を持つ手も若干下がってきている。どうやら限界が近いのはどちらも同じらしい。
「…………」
 ――キィィィィン!
 墓地に甲高い金属音が響く。翔に目掛けて振り下ろされた大斧を、テレーゼが割り込みその鋼の機体で受け止めたのだ。
 とどめを刺すべく、ケルベロス達は力を振り絞り攻撃を開始する。
「青き薔薇よ、その神秘なる茨よ、辺りを取り巻き敵を拘束せよ」
 茨でもってバジルがパニッシャーを取り巻いていく。
「お前の墓は何処にもない。墜ちろ、果てのない地獄へ」
「シャドウリッパー」
「戦術超鋼拳」
 ノチユ、刃蓙理、ソシアの攻撃が次々と襲い掛かる。
「その身体の内側、魂まで貫いてみせる」
 身体に紅色の呪紋様を浮かばせるレナ。緋燕へと真紅のオーラを載せ、一突き。
「トドメだ! 思いっきりやんな!」
 道弘に勇気づけられ、翔が腕へと力を込めると、ワイルドスペースが激しく輝き始める。
「てめぇの命を頂くぜ! 俺の剣でなぁ!」
 ワイルドスペースが徐々に形を変え、やがて禍々しい形へと変わる。それは物語に出てくる死神の鎌のようだった。
「さぁ、最後は翔さんの手で引導を渡してあげて下さい!」
「お膳立ては済んでるぜ、一丁かましてやれ!」
「いけー!」
「やれ!」
「とどめー!」
 仲間の声に背中を押され、パニッシャーへと翔の腕が振り下ろされる。
「死んで詫び入れに行きやがれ!」
 放たれた斬撃は、パニッシャーを頭から縦に真っ二つに両断し、地面へと落ちる間もなく光の粒子となって消えていった。


「おかげで助かったよ。ありがとう」
 戦いが終わり、普段の礼儀正しい性格へと戻った翔が、仲間達に深々と頭を下げた。
「気にするな」
「仲間なんだから当然です」
「無事でよかった」
 ケルベロス達は翔に向かって、暖かい言葉をかけていく。
 まずは傷の治療をと、各自腰を下ろす。ランプの周りに集まって、怪我の確認と治療を行っていく。
 しばしの休憩を終え、刃蓙理は周囲の安全確認へと向かった。
 その間にテレサ、バジル、ノチユ、ソシア、レナ、翔、道弘は手分けして周りの被害を確認していく。
 力任せに振るわれた敵の攻撃に、地面や生えてる木々、墓石にいくつもの抉れた跡が見える。
 大きな傷はランプの灯りでも何とかわかるのだが、細かな傷などはどうしても見つけにくい。
 とりあえず大きく壊れた個所だけでもと、修復をしていく。その後、一つ一つの墓石を手探りで傷を探しては修復していく。墓参りに来たら大事な墓が傷だらけだったなんて、悲しすぎる。手など抜ける訳がない。
「騒がしくしてすまない。これ以上、あなた達の眠りを妨げる者は居ない」
 ノチユが全ての墓の前へと、一輪ずつ花を供える。
 テレサは一つ一つ丁寧に、墓の前で手を合わせていく。
「ほら、今はこんなに頼れる仲間達が沢山できたんだ……だから安心して。随分と騒がしい墓参りになっちゃったけど、詳しいことは今度来た時にでも、ゆっくり話すよ……」
 翔が家族の墓へと手を合わせ、語り掛ける。
 その様子を他のケルベロス達は少し離れて眺めていた。
 家族への挨拶を終え合流すると、仲間達と一緒に、墓地を後にした。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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