剣の道

作者:飛角龍馬

●偽物剣士の矜持
 放課後。
 剣道場として使われている体育館からは、今日も今日とて竹刀のぶつかり合う音が響き渡っていた。
 生徒達が、防具を纏い、声をあげて相手に打ち掛かる。
 剣道の稽古は厳しい。時に防具の上からでも怪我を負い、夏のこの時期ともなれば、瞬く間に汗みずくになる。
 そんな苛烈で懸命な稽古の様子を、冷めた目で見つめる女子生徒がいた。
 名を立木片菜。
 剣術を修めた祖父に心得を教わり、人知れず鍛錬を積んできた高校生である。
 ……と言っても、祖父は幼い頃に亡くなり、憶えていることも僅かしかないのだが。
「ふん、竹刀で打ち合うなんて所詮は遊びよ。剣はただひたすらに己と向き合い、心を高める道。あんなことじゃいつまで経っても強くなれない」
 ……というのは祖父の教えに加え、それっぽい書物や漫画の受け売りなのだが。
 踵を返して、体育館から離れていく。
 その時、突如として背後から声がかかった。
「あなたの向上心は、とても良いと思いますよぉ。自分勝手で、とても良い夢ですぅ」
「何者ッ!?」
 振り向いた先には、奇妙なダルマを手にした大人しそうな少女が立っていた。
 ドリームイーター、サクセスである。
「あなたの向上心で、ダメな人達なんて、やっつけてやってくださいねぇ」
 何処からともなくサクセスが鍵を取り出す。
 誇っていた剣術など何の役にも立たず、片菜はサクセスに鍵を突き立てられていた。
 意識を失い倒れる片菜。
 その真横に影が立ち上り、瞬く間に人の形を成した。
 白の胴着と黒袴を纏い、長い黒髪を背中で結った女剣士に。
「竹刀遊びにかまけている連中に思い知らせてやる……」
 腰に物騒な刀を差したまま、女剣士は剣道場へ向かう。

●剣の道とは
「ドリームイーター『サクセス』が高校生の夢を奪い、新たなドリームイーターを作り出すという事件が発生しました。解決をお願いします」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)がケルベロス達に言った。
「今回狙われたのは、立木片菜さんという女子高生です。剣術について歪んだ向上心を持っていて、剣道部の活動を見下していたようなのですが……」
 本人は幼い頃に祖父から剣の心得を教わっただけであり、あとは我流。自分の殻に閉じこもり、慢心をドリームイーターにつけ込まれてしまったのだ。
「片菜さんから生じたドリームイーターなので、カタナと呼ぶことにします。このドリームイーターは、強力な力を持ちますが、源泉である『剣術に対する慢心』を弱めるような説得ができれば、弱体化させる事ができるはずです」
 地に足のつかない主張なので、正面から打ち砕いてやれば、弱体化させるのは難しくないだろう。うまく弱体化させる事ができれば、戦闘を有利に進めることができる。
 また、この説得が、片菜本人の心にも届くため、上手く行けば彼女の歪んでしまった思いを真っ直ぐに出来るかも知れない。
「ドリームイーター『カタナ』は、剣による接近戦を得意とし、攻撃力もかなりのものですが、幸い、弱体化させることも可能なので勝ち目は十分にあるはずです。剣道の稽古が行われている体育館を襲撃しますので、そこで待ち構え撃破して頂くのが良いかと思います」
 ケルベロスを優先的に攻撃してくるため、それを利用すれば人的被害を出さずに済む。
「たとえ歪んでしまったと言っても、彼女の夢は本来利用されていいものではないはず。皆さんの力でどうか事件を解決してあげて下さい」


参加者
鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023)
疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)
セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)
館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)
狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)
尾神・秋津彦(走狗・e18742)
葵原・風流(蒼翠の五祝刀・e28315)
御廟羽・彼方(眩い光ほど闇は深く黒く・e44429)

■リプレイ

●一触即発の対峙
「こうも堂々と行く手を阻むなんて……命が惜しくないようね」
 熱気漂う体育館の空気が一挙に張り詰めた。鞘から抜き払った白刃を光らせ、剣士の夢喰い――カタナは殺意も露わに立ち塞がるケルベロス達を睨みつける。
「守らなきゃいけないものがあるんだ。怖がってなんていられないよ」
 御廟羽・彼方(眩い光ほど闇は深く黒く・e44429)が肌を刺す剣気にも動じることなく、青い瞳に力を込めて毅然と言い返した。
「守る? 竹刀如きを振り回し剣術を愚弄する、あの無力の者どもを守ると?」
 カタナが体育館の奥に侮蔑を込めた眼差しを送る。
「慌てず、ゆっくり避難を。押し合わないで冷静に」
 館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)が持参したメガホンを使ってざわめく生徒達に呼びかけていた。剣道部の顧問である壮年にも話を通し、避難誘導を手伝って貰っている。
「皆さんは私達が必ず守ります。助け合って避難して下さい」
 セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)が体育館の入口から最も離れた側面扉を開放し、生徒達を避難させていく。
「竹刀での鍛錬が許せませんか。彼らは学生ですので、私はそれでいいと思いますけどね」
 カタナを前に、葵原・風流(蒼翠の五祝刀・e28315)が通させまいと気迫を放つ。
「寧ろ自己中心的な鍛錬のみをし続けている方が、私からすればお遊びなんですが」
「竹刀の稽古だって甘くない。必死で打ち合ってるの、見てなかったのか?」
 遺志を継ぐ者の心が曲がることなど、後を託した者が望むわけがない。鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023)が言葉に力を込めて言えば、尾神・秋津彦(走狗・e18742)が敢えて語気を抑えて、
「現代剣道が気に食わぬようですが……その成立は先人達の知恵と苦心によるもの」
 現代に至る剣道の起こりを端的に説明していく。
「武徳を奨励するという志の元、剣道の祖である遣い手達は、自流の教えを元に今に繋がる様式を制定していったのです」
「それに、竹刀は元々剣術家が怪我なく実戦的な稽古をするために開発したもの。決して非効率なものではないと思うよ」
 避難誘導を終えた詩月がカタナに対峙して言った。
「……それでは名だたる剣術の祖達も地下で泣いているでしょう。それに志を継ぐ者が今のような体たらくでは」
 カタナの返しに大きく溜息を吐いたのは、疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)だ。
 頭髪に咲いた梅花を僅かに揺らし、眼光鋭く言葉を放つ。
「懸命な稽古で得られる強さも世には存在する。一辺倒だけで物事を測るなんて三流剣士のやる事だ」
「自分がやったことのないことを批判してちゃだめーっすよ! どっちも経験した上で正しいと思うものを選ぶのが良いっす!」
 ヒコに続いた狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)の言葉も、他の者達と同様に正鵠を射て、増上した夢喰いの心を刺激するには充分だった。
「成程。では貴方達に力を示した後、あの弱者達を皆殺しにしましょう。……いざ!」
「絶対にさせないよ。私の、この剣にかけて」
 彼方が喰霊刀の禍々しくも美しい切っ先を夢喰いに突きつける。
 セレナもまた乙女座の星を宿した騎士剣、星月夜を手に、高らかに名乗りを上げた。
「我が名はセレナ・アデュラリア! 騎士として、貴殿を倒します!」

●不道の刃
 カタナが肩の上まで真剣を持ち上げ、霞の構えと呼ばれる姿勢から疾駆した。
 突進をかわしたセレナが続く雷めいた打ち下ろしを白銀の騎士剣で受け止める。
「貴方の剣は強さだけを求めた暴剣……そのような力、何も生みはしません!」
「力なき者に何ができる!」
 重い連撃を防ぐ度に火花が舞い飛ぶ。
 秋津彦の巻き起こした色鮮やかな爆発が戦場に花を咲かせ、後押しを受けた彼方がエアシューズに力を込めて加速。カタナの側面から迫った。
 セレナが袈裟に深く切り下げられるが、達人技と呼び得る剣技で騎士剣の切っ先もカタナを斬り上げている。素っ首を跳ね落とそうと尚も踏み込もうとしたカタナに彼方の炎を纏った蹴撃が決まり、すぐさま詩月が癒しのオーラを飛ばしてセレナの傷を塞ぐ。
 炎に焼かれながらも迎撃態勢を取るカタナ。
 ヒノトが手足を獣化して突っ込んだが、上体を反らして回避された。
「アカ、頼んだ! ヒコの援護を!」
 勢いのまま床を転がりながら、ヒノトがファミリアロッドをネズミのファミリア――アカに戻して射出した。
「小器用な真似を!」
「悪いが、こちらは一人じゃないんでな」
 飛び回るアカを斬り飛ばそうとするカタナに、ヒコが飛び蹴りを炸裂させる。
(「急所は逸されたか。存外にいい動きをしやがる」)
 倒れもせず跳ぶように後退したカタナに楓が手足を獣化して突貫した。
「腕を誇るなら楓さんを倒してからにするっす!」
「来いッ!」
 幾重にも弧を描く白刃を、楓が跳躍を繰り返して掻い潜りながら重力を宿した獣の拳を繰り出す。
 刀身で弾くカタナ。
 競り合いの果てに獣撃拳がカタナの胴に打ち込まれ、風流が波状攻撃を仕掛けた。
 襲い来る迎撃の刃を風流は見切って軽やかに跳躍回避。
 反対側に降り立つと円運動を伴って迫る横一閃を、縦に構えた斬霊刀で受け止め、もう片方の喰霊刀でカタナの腹を貫いた。
「……二刀流か!」
「その気になればそれ以上でも扱えますが」
 澄まし顔で返す風流。
 口から血を流しながらも不敵に笑い返したカタナが、剣舞の如き動きで前衛を斬りつけ、易々と退ける。
「多少は弱められているはずだけど……流石にそう簡単にはいかないね」
 カタナの戦法上、前衛にダメージが集中するのは分かっていた。詩月が戦況を見極めながら機械弓のグリップを握り込む。
「我が心は花なり。花が心は祝ぎなり。なれば祝ぎに相応しからぬものを遠ざけ給え」
 弓構えの姿勢から涼やかに詩を歌い上げ、弦を鳴らした。弦楽器の如く癒しの音が鳴り響くと結界が展開。前衛の傷を塞いでいく。
「達人の域にまで至ったこの剣技、上回れるものか!」
「笑わせるなよ。お前のそれは単なる空論だ」
 ヒコが中指に装着した真鍮の呪具から光の剣を具現化。カタナの刃を受け止める。
「教わったのは剣術のカタチだけか。心は何処に置いてきた」
「心、ですって」
「武術なんてモンは心備わって初めて成立つ。本当に真摯に剣と向き合えているのかよ」
 鍔迫り合いから一転、剣と剣がぶつかりあう。ヒコとて剣術はかじった程度だが、術士としてより寧ろ近接戦を得意としている。
「全く、分不相応な力を振るいやがる。……だが」
 カタナの刃を捌くのは囮。本命は拳打にあり。
「お前の剣には、圧倒的に修練が足りてねぇ」
 流体金属型に覆われた拳がカタナの胴にめり込み、吹っ飛ばした。宙に浮いたカタナを飛び上がった彼方が蹴り飛ばし、床に叩きつける。
(「攻撃が当たりやすくなってる……確実に効いてるね」)
 受け身を取って跳ね起きるカタナだが、彼方はその弱体化を鋭敏に感じ取っていた。
「今の貴殿が理想の姿か。そのように成れと、誰かに教えられたのですかな」
 冷静に言葉を突きつけながら、秋津彦が踏み込んで瞬速の手刀を放つ。
「知ったような口を!」
 剣を用いなくとも、刻む裂傷は深く。
 極寒の波動が傷口から広がり、カタナの体温を急速に奪い始める。
「心を鍛えている割には、随分感情的に剣を振るうのですね」
 怒気を発して放たれた刃を、割って入った風流が防いだ。双剣で弾き返すものの、連続する斬撃に無傷ではいられない。
「させませんっ! アデュラリア流剣術、奥義――銀閃月!」
 セレナが我が身を巡る魔力を賦活。剣の閃きもかくやという速さで疾駆すると、カタナの凶刃を騎士剣で弾き、更に深々と横薙ぎの斬撃を刻んだ。
 詩月が練った気力を放って風流の傷を塞ぎ、カタナを赤く澄んだ瞳に映す。
「ただ強くなれればいい。一人きりでも構わない。……君の想いは独りよがりだ」
 それが半人前にも至らない片菜自身の想いであったとするならば――詩月は思う。
 彼女は一体、何を恐れていたのか。
「あなたの剣は慢心塗れだね。自分一人だけで高めて、強くなった気でいる……そんな剣」
 彼方がカタナの間合いに入りながら乱れた剣を踊るように避け、極低温の魔力を湛えた喰霊刀で斬り上げた。
「ただ一人で孤独に……だなんて。そんなことで理想を目指せるはずないよ」
 傷口から体温を奪われていくカタナが苦痛に顔を歪めたその時、寒風に咲く梅花の如く、風に乗って甘やかな梅の香りが戦場に舞った。
 双翼で疾風を起こしながら、ヒコが急降下からの重い飛び蹴りを炸裂させる。
「教わった心得とやらを反芻してみろよ。己と向き合い、心を高める、だろう?」
 受け身を取ったカタナがヒコの言葉に目を見開き、そして。
「なあ――片菜」
 ヒノトがハンマーを手に夢喰いに言った。
 否、理想と現実の間で苦悩する少女に。
「今のお前が、じいちゃんの望んだ姿なのか?」

●守りたいもの
「確かに剣は自らの迷いを払い、己を高めますが……それでは今の自分以上に強くなることなどありません」
 心眼覚醒した風流が今まで以上の鋭さで二刀を振るい、卓越した技量を以ってカタナの剣筋を見切って胴を切り裂いた。自己暗示をかけたカタナが過信を打ち破られる。
「馬鹿な……私は強い……私は私だけの剣を……!」
 大上段からの袈裟斬りを、セレナが白銀の騎士剣で受け止めた。
「この剣は皆を守るためのもの。志も覚悟もなく振るう剣術など、あなたが見下す、ごっこ遊びと同じです!」
 強い意志を込めた言葉がカタナを圧倒し、騎士剣が凶刃を弾き返した。
 詩月が再び詩を歌い上げ、機械弓の弦を打ち鳴らす。音が空気を震わせて癒しの結界が広がり、前衛に刻まれた裂傷を塞いでいく。
 ヒノトのハンマーが弱体化と状態異常の蓄積に喘ぐカタナに命中し、横転して衝撃を殺し突っ込んできたカタナの斬撃を風流が悠々と受け止めた。
「いい加減、弱まってきたか」
 ヒコがファミリアロッドから魔弾を連射、幾つか弾かれるも命中した箇所が凍結する。
「剣は相手があってこそっすよ!」
 楓が蒼く煌めく薄刃の妖刀と形見のナイフでカタナに打ち掛かる。必死に二刀を捌くカタナからは、戦闘開始時の強さが失われつつあった。楓は内心、それを残念にさえ思う。
 妖刀がカタナの肩口から斜めに裂傷を刻み、力を吸い取るように楓の傷が癒合する。
「自分よりも強い相手と剣を交えて相手から学び、初めて人は強くなっていくものです」
 言った風流の二刀もカタナを斬り刻み、同様に自身の傷を塞いだ。
 後ろへ跳んだカタナに休む暇を与えず、ヒノトが斬撃を防ぎ、秋津彦と共に追撃する。
「秋津彦、連携行くぜ!」
「応!」
 電磁音をたててヒノトが二振りの閃光槍を生成、十文字に重ねたそれを渾身の力を込めてカタナに振り抜く。大きなダメージを与えるも反動は大きく、ヒノトが一瞬足を止めるが、
「達人の域に至る方途は数あれど、貴殿の歩まんとしているのは邪道」
 すかさず秋津彦がカタナの懐に踏み込み、オーラを漲らせた手刀を振り抜いた。
「何、だと……!」
「振り返られよ。何を守るべきであったのか、何処で道を違えたのかを」
 傷口を抑えながら歯噛みするカタナ。
「馬鹿な、私は……お祖父様の……!」
「あなたにも守りたいものがあったんだね……だから、独りで抱え込もうとした」
 彼方が尚も自己暗示をかけて立ち上がろうとするカタナに接近。
「私の剣は、ヒーローの剣だよ。仲間と一緒に高め合い、人々を護る為に振るう剣」
 カタナの振るう剣筋を読んでかわしながら、呪詛を載せた刀を振り抜いた。
「誰かの為に振るう剣が、仲間と共に高めた剣が、慢心の剣になんて負けないよ」
 カタナが目を見開く。
 汗を散らす彼方の眼差しの奥に、ほんの一瞬、怖気を震うような闇が浮かんだ。
 癒やしのオーラを全身に湛えながら詩月が核心を突く。
「君に足りないのは――君が一番避けていたものじゃないかな」
「他者が居るから強くなれる心ってのもあるんだよ」
 ヒコが双翼を羽ばたかせながら跳躍、旋風を巻き起こしながら飛び蹴りを炸裂させる。
 跳ね返るようにして斬り込んでくるカタナ。秋津彦がヒノトに一瞬目配せして迎え撃つ。
 手刀を構えたかと思うと、相手の剣が振り抜かれる直前に跳躍。
 背後を取った秋津彦が手刀に闘気を纏わせて奔らせる。が、それは咄嗟に振るったカタナの刃に止められていた。しかし秋津彦の瞳に差したのは驚きではない。確信の光だ。
「鉋原殿、アカ殿、懸られよ!」
「さすが秋津彦! よし、畳み掛けるぞ!」
 ファミリアのアカがカタナを翻弄し、目配せを受けたヒノトが生じさせていた二振りの雷槍を渾身の力で振り下ろし直撃させる。
「剣を合わせた相手を鏡として、互いに高め合うものだって、楓さんは教わったっす!」
 少女の迷妄を断ち切るように楓が言って、
「その成果をお見せするっすよ!」
 最後の力を振り絞り、裂帛の気合とともに剣を振り抜くカタナ。
 その脇を通り抜けるようにして妖刀が奔り抜けた。
 一刀両断。
 カタナが闇色の塵と化して消滅していく。
「ふふ、良いコンビネーションでしたな!」
 戦いを終えて、秋津彦がヒノトに手を掲げる。
「大した腕前だな! へへっ、俺達息ぴったりだ!」
 勝利の喜びも込めてハイタッチを決めた。

●その道は果てなく
 目を覚ました時、立木片菜は独りではなかった。
 介抱していたセレナが微笑して、可能な限りの説明を行い、
「……何と、申し上げれば良いか」
 唇を噛んだ片菜が、絞り出すようにそう言った。夢喰いを揺さぶった想いは、源となった少女の心にも確かに届いていたのだ。
 荒療治とも言えたが、片菜は芝生に正座し、背筋を伸ばした。
 曲がりなりにも心を鍛えてきたという少女だ。憑物が落ちた、とはこのことだろう。
 それでも過ちを認める行為は痛みを伴う。歩んできた道を思い、途方にくれるのも道理。
「もしよろしければ、今度一緒に鍛錬をしませんか?」
 だからセレナはそう声をかけていた。
「剣を合わせる相手なら楓さんがいくらでもあいてになるっすよー!」
 駆けてきた楓の元気一杯の声に、片菜が少しだけ笑って、
「勿体ない言葉。……感謝に堪えません」
「一度剣道部に体験入部してみたらどうかな」
 詩月が静な口調で、しかし想いを込めて勧めた。
「今の自分にないものは、きっと見つかるはずだろうから」
 瞑目して、片菜は頷く。
 ケルベロス達に導かれ、少女の前途は再び開けた。
 それがたとえ険しいものであっても。
 剣の道は続いていく。

作者:飛角龍馬 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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