狂乱のハイドランジア

作者:飛角龍馬

●攻性植物『紫陽花』
 薄曇りの下、色鮮やかな紫陽花が咲き誇る。
 大阪市内のとある紫陽花園は、梅雨時の今、まさに見頃を迎えていた。遊歩道の多い園内には、この時期ならではの景色を堪能しようと多くの観光客が訪れる。
 園内の片隅には、あずま屋の建てられた円い小広場があり、辺りを色とりどりの紫陽花で囲まれたその場所は、園内の密かな絶景ポイントだった。
 異変はそこで起こった。
 奥まった場所のため、今は人の気配もないその小広場に、どこからかふわふわと花粉のようなものが舞い降りてきたのだ。それは群生する紫陽花の一部に付着すると、瞬く間に侵食を開始した。
 みるみるうちに根、茎、花までもが巨大化し、大顎を持つ異形の怪物と化していく。
「キルキルキルキルキルキル!!」
 根を地面から引き抜いて立ち上がった五体もの攻性植物が、葉や茎を触手さながらにのたくらせながら前進を始めた。
 それぞれの体に咲くのは血のような赤色、恐ろしいほどの純白、そして冷淡な青。
 散策する観光客が襲われるまで、そう時間はかからない。

●紫陽花園へ
「大阪市内の紫陽花園で、複数の攻性植物が暴れ出そうとしています」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が予知した情報を元にケルベロス達に説明を始めた。
「発生するのは五体で、これらは花粉に似た謎の胞子によって紫陽花が変異したものです。同種の事件が多数発生していることから、攻性植物達は大阪市内に重点的な攻撃をかけているものと考えられます」
 このまま放置すると、ゲート破壊成功率も徐々に下降していくことが予想される。
「人的被害の防止という観点からも、攻性植物の凶行を阻止しなければなりません」
 言うと、セリカは手にしたメモ帳に視線を落とした。
「撃破目標の紫陽花型攻性植物は、一般人を見つけると即座に殺害しようとするので、迅速な対応が必要です」
 幸い、まだ一般人の被害は出ていない。
 攻性植物の出現地点も、紫陽花園の奥まった場所にある小広場であるため、今から向かえば、さほど周囲を気にせず戦闘を仕掛けることができるはずだ。
「ただ、紫陽花が攻性植物化させられる前に広場で待ち受けてしまうと、謎の胞子は別の場所に飛んでいってしまうことが考えられます。よって攻性植物に変異したタイミングを見計らって攻撃を仕掛けて頂きますよう、お願いします」
 敵は発見した獲物を殺そうとする性質があるため、戦闘に持ち込んでしまえば、ケルベロス達を差し置いて一般人を襲いに行くということはないだろう。
「敵はいずれも好戦的で、消滅するまで戦い続けるようです。同じ植物から発生したためか、連携して攻撃を仕掛けてくるので注意して下さい」
 数も多いので、油断すると思わぬ苦戦を強いられる恐れもある。
「もう一つの特徴として、攻性植物の戦い方は、花の色によってそれぞれ異なるようです。赤の花を持つ二体は攻撃を担当。白の二体は回復を担い、残りの青い一体は妨害重視。攻撃には皆さんの使用する攻性植物と似たものを使用すると考えられます」
 このままでは紫陽花園はおろか、周辺市街地にまで被害が及ぶことになる。
「急ぎ紫陽花園に向かい、攻性植物を撃破して下さい。宜しくお願いします」


参加者
雨月・シエラ(ファントムペイン・e00749)
ギヨチネ・コルベーユ(ヤースミーン・e00772)
ドローテア・ゴールドスミス(黄金郷の魔女・e01306)
エルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004)
葛籠川・オルン(澆薄たる影月・e03127)
森光・緋織(薄明の星・e05336)
レピーダ・アタラクニフタ(窮鼠舌を噛む・e24744)
アベル・ヴィリバルト(根無しの噺・e36140)

■リプレイ

●紫陽花咲き乱れる戦場へ
 灰色の空の下、紫陽花園ではケルベロス達が先回りして行動を開始していた。
「デウスエクス災害の対応中よ。今からこの近辺は立入禁止!」
 ドローテア・ゴールドスミス(黄金郷の魔女・e01306)が不安そうな親子連れに声を掛け、事情を説明する。
「ここはケルベロスにお任せをー!」
 レピーダ・アタラクニフタ(窮鼠舌を噛む・e24744)もアイドルらしく明るく振舞って、不安を緩和させていった。
「大丈夫、レピちゃんはつよーいヴァルキュリ星人なんですよ☆」
 レピーダが女の子に弾けるような笑顔を向けると、幼い瞳に輝きが戻る。
 出来る限りのことをして、二人は早急にケルベロス達が集結している地点に向かった。
 攻性植物の出現地点である小広場は、園内の片隅にあった。そこへ至るには、左右を紫陽花に囲まれた小径を通る必要がある。その入口付近をアベル・ヴィリバルト(根無しの噺・e36140)がキープアウトテープで封鎖していた。
「こんなもんでいいだろう。どうだ?」
「問題なしだよ。見たところ一本道だし、オレ達が食い止めれば大丈夫そうだね」
 森光・緋織(薄明の星・e05336)が張られたテープに指をかけて言った。
 罪もない人々の血が流れた惨劇を、緋織は思い出す。
 今度こそは――そう呟いた緋織に、アベルが小さく首肯したように見えた。
「もうそろそろかな」
 道にまでせり出した紫陽花の草陰に身を隠しながら、雨月・シエラ(ファントムペイン・e00749)が、広場に向けて凛とした顔を覗かせた。
「ええ、恐らくは」
 応えた葛籠川・オルン(澆薄たる影月・e03127)はと言えば、道の反対側に立って腕組みしていた。傍らに咲く紫陽花を見て、小さく呟く。
「……理不尽なことですね」
「わたくしに最も似合う花は薔薇ですが、紫陽花も素敵ですわ。東洋の薔薇と呼ばれただけのことはあります」
 エルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004)はバスターライフルを小径の奥に向けながら、優雅に辺りの紫陽花を愛でていた。
「花言葉、色によって違うのですよね。ええと、たしか」
 アイズフォンを起動。検索をかける。
「青は冷淡、そのままですわね」
 言った直後、小径の奥から攻性植物の奇声が響き渡った。
「ああ……現れたようですね」
 オルンがいち早く察知し、ケルベロス達がそれぞれに駆け出した。
 小径を抜け、紫陽花に周りを囲まれた小広場へ。
 蔓をのたくらせる攻性植物に、真っ先に立ちはだかったのはギヨチネ・コルベーユ(ヤースミーン・e00772)だった。
「日本の紫陽花は大変慎ましく、美しいものと理解しております」
 ドラゴニックハンマーを振るい、構える。
「風流のない方々にはご退場いただきましょう」
「キュッキュリーン☆ 季節の風物詩、汚させはしません!」
 レピーダが傘――もとい、カサドボルグを回転させながら敵前に飛び出した。
「今回の仕事は除草? 剪定? 嫌だワ。枝切り鋏忘れちゃった」
 剣と槍を手にドローテアがおどけて見せ、
「さてと……さっさと終わらせちゃおうか」
 シエラが巨大なガトリングガンの銃口を攻性植物に突きつける。
「ええ、手早く片付けましょう」
 美しく咲いていた紫陽花が、かくも醜怪な姿に変異させられるとは――胸に渦巻く虚無感を表には出さず、しかし見るに耐えないとばかりにオルンが言った。
「キルキルキルキルキルキル!」
 四体もの攻性植物が鰐に似た口を開けて攻撃態勢を取る。
「折角、色は綺麗だってのにな。鳴き声と姿で台無しだぜ、お前さん達よ」
 アベルがガントレットで覆われた両の拳を打ち鳴らすと同時、背後から光の束が飛来した。光はケルベロス達の間を縫って、青い紫陽花を咲かせた攻性植物に命中する。
「相手はわたくしたちが致しましょう。一体たりとも通しませんわ!」
 狙撃したエルモアが軽やかに跳躍、攻性植物の群れに砲口を向けた。

●速攻、迅雷の如く
 不意を衝かれた攻性植物達にケルベロスが速攻を掛ける。
 ギヨチネとシエラが左右に散開。二体の赤紫陽花が伸ばす槍さながらの蔓を引きつけ、レピーダが光の翼を羽ばたかせて突貫した。
「行っきますよー!」
 光り輝く粒子に包まれながら、赤紫陽花の間を抜けて青紫陽花に突っ込む。
「まずは牽制を。……直撃すれば相当の痛手でしょうが」
 オルンのロッドから雷が迸り、青紫陽花を感電させる。
「ギィェエェェエェェ!!」
 片方の赤紫陽花が叫びながら蔓の槍でギヨチネの全身を貫いた。ガードで急所を逸したギヨチネが重々しく唱える。
「怨嗟の声よ、地に響けよ、我らは惆悵に栄えん」
 刑戮された戦士達の霊が怨嗟を放ちながら青紫陽花を取り巻いて苛み、緋織が妖精弓に番えた祝福の矢をドローテアに放ったその時、怒りに翻弄された青紫陽花がギヨチネの肩に食らいついた。
「ぐ……ヌゥウッ!!」
 狙い通りだとガントレットに覆われた手で頭部を掴み、血に塗れながら引っ外す。
「一気に行くワよ。攻撃を集中さセて!」
 青紫陽花に斬りかかるドローテア。
「今日はわたくしも青色、ジャマーの気分なのです!」
 バスターライフルを構えたエルモアがフロストレーザーを発射。
 青紫陽花が氷結していく。
「いい援護だ」
 アベルが光り輝く掌で青紫陽花を引き寄せ、片方の拳で鰐に似た頭部を痛烈に殴打。
 その間にシエラがガトリングガンを手に駆ける。敵前衛の棘の付いた蔓に足を切られ血を散らしながらも白紫陽花に銃口を向けて射撃した。
 弾雨の中、二体の白紫陽花が、青紫陽花に光り輝く粒子を降り注がせる。
「思った通りだワ。完全には癒やしきれないようね」
 ドローテアが笑み、青紫陽花を破邪の剣で鋭く一閃。
「これは……ひょっとして、色で役割の自意識が違うのでしょうか」
 青紫陽花にブラックスライムをけしかけながら、オルンは考えを巡らせていた。
「我が身を顧みず、と言ったところかしラ。健気なこと」
 ドローテアが長剣に霊体を憑依させながらうねくる蔓を避け、悠々と間合いを維持する。
「キミ達の相手は、こっちだよ!」
 シエラが尚も加速、赤紫陽花が伸ばす蔓の槍を引きつけ、巨大な鉄塊剣を振るい幾つかを斬り捨て、剣を盾に受傷を最小限に。
 長剣で地面を抉り描いた緋織の魔法陣が、光を放ってシエラとギヨチネに癒し、
「早々に散らせてやるさ。苦しまないようにな」
 アベルが高速の蹴りで青紫陽花を吹き飛ばした。
「青の紫陽花――無慈悲に命を奪う無情にして冷淡な青、ですか」
 言ったエルモアが肘から先を高速回転させて青紫陽花を引き裂き、レピーダがカサドボルグの柄に力を込めた。
「冷たいだけのキャラなんてイマドキ通用しませんよっ!」
 光刃の傘が展開し、一振りだけで青紫陽花の首を飛ばして消滅させる。
 反撃とばかりに赤紫陽花が伸ばした幾つもの蔓が、割って入ったギヨチネを深く貫いた。
「こんなもので無辜の人々を虐殺させるわけにはいきませぬ」
 鮮血滴る蔓を掴み、鋭い眼光で敵を射抜く。
「狂える花々は……この場にて散っていただきましょう」

●曇天に舞う
 シエラが棘の揃った赤紫陽花の蔓に猛追されながらも、白紫陽花の上に黒い太陽を顕現させる。絶望の黒光が降り注ぐ中、白紫陽花は構わず前衛に輝く花粉を撒き散らした。
「これは……ちょっと狙いが外れたかな」
 シエラが苦笑する。各所を切り裂かれ、受けたダメージは小さくない。
 白紫陽花の捨て身の支援を受けながら、攻撃力に優れた赤紫陽花が猛攻を掛ける。
 半端に攻めれば守り手の負担は蓄積していく一方だ。
 戦士達の怨念が呪詛を撒き散らしながら赤紫陽花を取り囲む。豪腕も折れよとハンマーを振るい前衛に打撃を与えていたギヨチネを、棘の生えた蔓が絡め取った。
「ぐッ――ヌゥッ……!!」
「させませんっ! このぉっ……!」
 レピーダが光の翼をはためかせて赤紫陽花に突っ込むが、放り投げられた巨体があずま屋の柱を負って転がる。呻きながらも何とか立ち上がるギヨチネ。
「いま回復を」
 心に沸く焦りを抑えながら、緋織が桃色の霧でギヨチネの体を包み傷を塞ぐ。
「気負うな。一人で戦ってるわけじゃない」
 アベルが掌から気力を放って回復を後押しし、敵に拳を構え直した。
「さて、こうなりゃ耐性の上から踏み潰してやるほかないかね」
「ええ。集中攻撃、いきますわよ!」
 エルモアが蔦の触手を掻い潜りながら赤紫陽花の懐に飛び込んだ。
「団結も紫陽花の花言葉。確かに厄介ですけれど……狙いが散漫ですわ」
 高速回転させた腕で植物の体を吹き飛ばし、態勢を崩させる。
「わたくしの連携は、攻撃を重ねる仲間の存在を前提としたものです。このように!」
 離脱と同時、アベルが解き放ち揺蕩っていた『藍紫色のなにものか』が、咆哮と共に赤紫陽花に喰らいついた。
 シエラがもう一方の赤紫陽花を誘い込み、襲い来る大顎を後退して避ける。
 そして儚く笑った。
「残念、狙いはキミじゃないんだ」
 爆ぜろ――念じただけで、離れた赤紫陽花が爆発した。
 爆炎の中で叫ぶ赤紫陽花の前で、レピーダの翼が光輝を放つ。
「紫陽花に色をつけるのは静かな雨。決して、人々の血ではありません!」
 呼応して掲げた柄の先から高出力の光刃が開いた。
「閃光にして刃たる者(カサドボルグ) !」
 それはさながら、梅雨空の下に広がった光の傘。
「……さようなら、梅雨に咲いた色」
 ダンスするような回転運動と共に、振るわれた光の刃が赤の攻性植物を四散させた。
 尚も残る同胞の回復に専念する白紫陽花。
「自己犠牲ですか……あんな姿になってまで」
 オルンが呟きながら、病魔が象る烏の群れを招来する。
「行け」
 自身を取り巻くそれらに冷たく命じる。
「カレイド、散布!」
 好機と見たエルモアが鏡のような6機の特殊兵装――カレイドを射出。
 鏡を思わせるカレイドが即座に展開、エルモアの放つレーザーが筒状に反射していくその中をドローテアが駆け跳ぶ。
「チェイン接続開始。術式回路オールリンク。封印魔術式、二番から十五番まで解放――いくワよ。《蠍の星剣/Scor-Spear》!」
 万華鏡さながらのレーザーが次々に目標を貫き、ドローテアの剣が赤い軌跡を描きながら残りの赤紫陽花を一刀のもとに両断にした。
「さあ、一気に畳み掛けるワよ!」
 ドローテアの声掛けに、ギヨチネが竜のブレスを放射して二体の白紫陽花を火炎で包む。
「それじゃ、抑えてた分は発散させて貰うよ!」
 防戦と牽制に力を傾けていたシエラが不敵に笑み、一気に速度を上げる。
 無色透明の地獄の炎を鉄塊剣に纏わせ疾走、跳躍。
 迎撃しようと伸ばされる蔓を一刀のもとに切り払う。
 それだけで、白紫陽花の本体が刀身に触れてもいないのに切り裂かれた。
 否、刀身を覆う地獄が植物の体さえも断ち切っていたのだ。
 傷だらけになりながら二体の白紫陽花が攻撃に出るが、既に遅きに失していた。
「終わりだね。逃しはしないよ」
 緋織の左目が紅く光を放つ。
 魔眼と化した瞳孔が絞られ、視線の先の白紫陽花を魅了し縛り付ける。
「せめて安らかに」
 手を伸ばしたオルンの仕草に合わせ、不気味に旋回していた病魔の鳥が白紫陽花に降り注いで鳥葬に付した。
「終わりね。こんなんじゃ生花にもなりそうにないワ」
 ドローテアが急所を適確に斬り飛ばし、
「ほら、食事の時間だ。逃げられるもんなら逃げてみな」
 アベルが力を込めて短く言葉を紡ぐ。
 藍紫色をした貪食の権化が咆哮し、白花の攻性植物に襲いかかる。
 龍の如き暴威が最後の敵を喰らい尽くした。

●そしてまた花は咲く
「せっかくの絶景ポイントだったのに……残念ですわ」
 攻性植物と化した紫陽花が土から這い出た時にそうなったのだろう。特に荒れ果てている箇所を見ながら、エルモアが小さく肩を落とした。
「植物も生き物だから……出来る限り癒しておきたいね」
 緋織が傷んだ紫陽花にヒールをかけて回る。傾いたあずま屋も修復された。
 オルンも植物の傷ついた箇所を調べて周り、緋織に伝えていく。
 ふと立ち止まり、小さく息を吐いた。
 無事な紫陽花は何事もなかったかのように咲き誇っている。
 それが生命の強さというものか。或いは、そう生きるしかないのか。
「在るがままに咲く花、ですか」
 冷淡にして無情。エルモアが青い紫陽花の花言葉に触れていたのを思い出し、オルンが目を細めた。
「残った紫陽花には力強く咲いて欲しいもんだな」
 アベルが辺りを見回して、思いを馳せる。去年と今年――二年続けて綺麗な紫陽花の中、生まれた日を祝福された。そんな縁があって、紫陽花は大切な花だ。
「ちょっとくらい傷つけられたって、強く咲いていかないと、ネ」
「ですね! 萎んでいるより、やっぱり笑顔を咲かせないと☆」
 ドローテアの言葉にレピーダが笑みを浮かべる。
 紫陽花の見頃も終わりを迎える。それでも根を張る大地があれば、紫陽花はまた花開くだろう。エルモアが目を閉じて願いを込めた。
 いつかまた、人々の願う色に染まってくれると信じて。
「それにしても夏の風物詩よねぇ。ああやだ、帰ったらうちの草むしりもしないと!」
 思い出しちゃったワ、とドローテア。これから待つ植物との格闘を忘れようとするかのように手を叩いて、
「ね、後でスイカ食べにいきましょ!! アタシのおごりよ!! 麦茶もつけるワ!」
「それもいいな。あー、折角だ、ちょっと見て回ってからにしても構わないか」
「カメラを用意してございます。この機会に写真を撮って帰れればと」
 アベルの横でギヨチネが言った。片付けを手伝った後、スマホカメラを操作していたらしい。その無骨な手の中では端末が妙に小さく見える。
「キュキュッ☆ 写真撮影ですかっ?」
「先程から挑戦しているのでございますが、操作がなかなか」
「ギヨチネ、それ向きが逆だ。しかも連写になってる」
 あさっての方を向いて鳴ったシャッター音に、緋織がツッコミを入れる。
「……晴れてきたね」
 シエラが言って空を見上げた。
 薄曇りの合間から光が差し、白磁の肌と長い髪を照らす。
 レピーダが地面に落ちた紫陽花の花びらを綺麗に拾って掌に載せ、息を吹きかけた。
 風も手伝って、花弁が空を舞う。
 シエラが花びらを目で追いながら言った。
「もうすぐ梅雨も終わりかな」
 色とりどりの紫陽花が、陽を浴びてきらきらと輝いていた。

作者:飛角龍馬 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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