ミッション破壊作戦～地獄の庭師たち

■リプレイ

●ミッション１５－４「足利樹海化地帯」
　栃木県足利市。
　北に渡良瀬川を抱くこの街はいま、『クルウルクの落とし子』の根城と化していた。
　建物を喰らい、生命を喰らい、グラビティを喰らい、平和な街を毒々しい緑に塗り潰す、草木の体を持つ獣の群れ。
　今も彼方の樹海からは、異形なる者たちの雄たけびが風に乗って聞こえてくる。
「くるうるく、くるうるく……ですか」
　ヘリオンの下に広がる一面の樹海を見下ろしながら、ミルフィ・ホワイトラヴィット（ナイトオブホワイトラビット・e01584）は桃色の眉毛を小さく潜めた。
「ここも侵食が進んでしまっておりますわね。奴らを倒して、早く解放せねば……」
「『クルウルクの落とし子』――彼らを落とした『親』は、いかなる存在なのでしょう」
　時計屋の青年ダリル・チェスロック（傍観者・e28788）は、回廊の主を生んだ『何か』を想像する。いずれそいつともまみえる時が来るのだろうか、そう考えながら。
「建物や道路の跡が、あちこちに見えます。きっと賑やかな街だったんでしょうね……」
　ガートルード・コロネーション（コロネじゃないもん・e45615）の胸に去来するのは、大きな決意。この地を攻性植物から取り戻し、必ず復興させるという決意だ。
　どれ程の時間を要するかは分からない。だからこそ、取り戻すのは早いほどいい。
「帰りたいと待ち望む子ども達が……おじさんやおばさんになっちゃうと大変ですからね」
「さァーて、ぶっ壊しに行くぜ。昔の事は覚えちゃアいねェが、あァーいう草っぱ共は見てるだけで焼き尽くしたくなる」
　ザベウコ・エルギオート（破壊の猛獣・e54335）は自らの荒ぶる心を鎮めるように、砲丸の如き両拳を握り固めた。彼の母星を侵略した攻性植物への敵意も露わに、今度こそ叩き潰してやるとオウガの青年は牙を剥いて笑う。
「３度目の正直です、ハイ。周りが侵食される前に壊してしまいましょう」
　降下ポイント到着を告げるアナウンスが流れ、ハッチが勢い良く開け放たれた。流れ込んでくる強風が、ロスティ・セヴァー（身体を探して三千里・e61677）の纏う炎と水を激しく波立たせる。すでに準備は万全、すぐにでも降下できる――。
「……あれ？　人数、足りなくない？」
　ふと、今・日和（形象拳猫之形皆伝者・e44484）がヘリオンの中を見回した。
　仲間の姿が、一人見えない。
　チーディ・ロックビル（天上天下唯我独走・e01385）の姿が。
「あ、さっき飛び降りたぜ。待ちきれないって」
「あの野郎、抜け駆けは許さねエーぞ！」
「では私達も行きましょう、ハイ」
　カーラ・バハル（ガジェットユーザー・e52477）の返事を聞いて飛び降りるザベウコ。
　追いかけるように、ロスティと仲間達が樹海へ降下していく。

●咆哮
　一番槍で降下したチーディの眼下に、強襲型魔空回廊が迫ってきた。
「おーおー、見えてきた見えてきた」
　チーディは速さを愛する男。
　彼が今全身に浴びているのは、叩きつけるような風。まぎれもない速度の証だ。
　しかしチーディは今、自分の置かれた状況に嫌悪を覚えていた。
「俺はよ、高いとこから飛び降りるのが大嫌いなんだよ。何故ならァ――」
　カッ、と目を見開いてチーディが吠える。
「皆、同じ速さで落ちるからよ！　一緒に並んで仲良くゴールなんざ冗談じゃねぇ！！」
　チーディはそれきり考えることをやめた。
　知恵は俺より遅い奴が使えばいい。
　欲しいものは掴み取る。邪魔なバリアは叩き潰す。それだけだ。
「ヒャッハァァァァ！！　俺が一番だァァァァァァ！！　名声！　金！！　女！！！」
　魂が欲するものを、チーディは残らずグラディウスへと注ぎ込み、吼えた。
「ココをぶっ壊して大金星獲ってェ！！　欲しいモン全部手に入れてやるぜェ！！！」
　グラディウスを突き刺し、叩きつけ、吠える。技術も流儀もない無茶苦茶な攻撃に、回廊のバリアが激しく震えた。
「俺はチーディ・ロックビル！！　喜べ、てめぇは俺の栄光の疾走の踏み台だァ！！」
　樹海の上空に響く野獣の咆哮。
　続いて降下してきたのは、ダリルとロスティ、そしてミルフィだ。
「彼らは存在自体が脅威。ただそこに居るだけで、どれほど人々の脅威になるか……」
　平穏な生活を送っていただけの人々。彼らから平穏を奪い去った罪は重い。
「ここは人の世界。去れ、今すぐに」
　足利解放にありったけの魂の叫びを込めて、ダリルはグラディウスの力を解き放った。
「居なくなれ、居なくなれ、跡形も無くその全てを打ち壊してくれる――！」
「いくら何でも緑化活動が過剰過ぎます！　商店街の活気を返してもらいますよ！」
　バリアに突き立てたロスティのグラディウスから放たれるグラビティが炎となって爆ぜ、雷となって迸り、魔空回廊を焼き払いはじめた。攻性植物達は成す術なく逃げ惑いながら、１体、また１体と炎に包まれて灰へと還ってゆく。
「クルウルクの落とし子……今回こそ貴方達の手から、この地を解放しますわ！」
　ミルフィは８人の中で唯一、過去の作戦に参加したケルベロスだ。
　故に、足利解放にかける思いは人一倍大きい自負がある。
「もうこの地を……地球を……貴方達に蹂躙はさせませんわ！」
　異界と化した足利の地、そこを闊歩するデウスエクスを残らずこの地から放逐してみせると決意をこめて、グラディウスを叩きつける。
「外宇宙の果てにでも消えておしまいなさい！！」
「……へへ。何でだろうなァー、震えが止まらねェーぜ」
　降下してきたザベウコは今一度、グラディウスをガッと握りしめた。
　攻性植物はザベウコの母星プラブーダを侵略した敵である。彼の脳からデウスエクス時代の記憶は失われて久しいが、体に宿った本能は未だその恐怖を忘れていなかったようだ。
「狂った植物どもッ！　あんたらの居場所は、この地球でもプラブータでもねェ……」
　胸に渦巻く想いは、すべて剣へと込めた。
　ザベウコは恐怖を振り払い、一閃。
「今すぐ――この足利の土地から消え失せろ！」
「ココは歴史ある町なんだってね。古い建物や蔵があるのを見れば分かるよ」
　日和は雑念を払い、グラディウスを構えた。
　デウスエクスによって蹂躙された街。破壊された日常――そこで虐げられる人々の顔を、日和は何度見ても慣れることはない。
　だが、同時に彼女は知っている。デウスエクスの支配から解放された人々の笑顔も。
「ココも信頼するみんなとボクが助ける。町に笑顔があふれるように」
　胸に秘めた己が意思を、偽りない言葉で磨き上げ、刃に変えて叩きつける。
　足利に住む人たち皆の想いを、デウスエクスから取り戻すために。
「行くよグラディウス、キミも全力を示しなさい！」
　魔空回廊の精鋭部隊をグラビティの奔流が押し流していく。緑一色だった商店街が、炎と煙とデウスエクスの死骸に溢れた地獄に姿を変えていく。
「ひっでエことしやがる……商店街、無茶苦茶じゃねエか……ここで暮らしてた人らがどんな思いでココにいられなくなったと思ってやがるんだ？」
　カーラの顔が、悲しみに染まった。踏み躙られたであろう幾多の命と未来に祈りを捧げ、明確な殲滅の意思を込めた一撃を振り下ろす。
「ざけんじゃねエぞ、雑草野郎！！　そんなことはさせねエ！！」
　彼らを放置すれば、その緑はどこまでも人々の街を侵食していくだろう。
　地球を守るためにも、ここで刈らねばならない。彼らの命を、ひとつ残らず。
「そんな酷エこと、もう二度とさせるもんかよッ！　奪わせたり絶対にしねエッ！！」
「人々が積み重ねた歴史と文化。これ以上、異界の森に呑み込ませる訳にはいかない！」
　最後に降下してきたガートルードが、グラディウスをバリアへと差し込んだ。
「この地に溢れた人々の生活の息吹。交差する運命。それを見つめ続けた街並みを、今こそ足利市に取り戻せ！　いざ進め猟犬達！」
　少女は仲間達を鼓舞しながら、魂の叫びをグラディウスに込めて、攻性植物たちを、回廊を焼き払ってゆく。
　すべてが異界の森に呑み込まれる前に、クルウルクの落とし子共を駆逐するのだ。
「愛する人、愛する街、すべてを奪われた人々の嘆きと怒りを乗せ！　解放の号砲とせよ、グラディウス！」
　バリアを突き破った８人のケルベロスが、足利の街へと降下してゆく――。

●脱出
　ザベウコは着地するなり、回廊を覆い隠す煙霧を見て叫んだ。
「やったか！？」
　それを聞いた仲間達は、こみ上げる嫌な予感を振り払いながら煙霧の向こうを眺める。
　程なくして、ガートルードが一言。
「やってません……ね」
　ザベウコの叫びのせいかは不明だが、魔空回廊は未だ健在であった。
「……次に託しましょう、ハイ」
「……ええ、そうですね」
　ロスティの言葉にダリルは頷くと、グラディウスが揃っている事を確認し、仲間達と駆け出した。破壊が失敗した以上、さっさと退却あるのみだ。
「皆様、撤退ですわ……！」
　バスターライフル『クロックハンズブラスター』を手に、ミルフィが先達で走り出す。
　抵抗する攻性植物を、道を塞ぐ蔦ごと吹き飛ばし、一直線に駆けるケルベロス。
　そして――。
　樹海との境界が目と鼻の先に迫った時、そいつは現れた。
『くる　う　くるうるく――』
　猟犬の行く手を塞いだのは、蔦に覆われた肉食恐竜の如き『何か』。
　ブルドーザーのごとき巨躯。引き裂くためだけの爪と、捕食のためだけの牙。
　攻性植物、クルウルクの落とし子である。
『くるうるく　りむがんと　おぐん　そーど　ほろわろ　なうぐりふ！』
　原始的な恐怖を呼び起こす、落とし子の咆哮。
　大丈夫、これは普段の戦闘と変わらない。ダリルはそう自分に言い聞かせた。
「迅速に処理させてもらう――！」
「それっ、燃えちゃえ！」
　手始めに轟竜砲。そこへ日和がエアシューズで追撃する。
「ココはキミ達の領域じゃないよ。早く帰りなさい！」
　蔦を焼き焦がす日和のグラインドファイア。たちまち炎が落とし子の体を包み込み、敵の体力を奪い始めた。
「これはご挨拶ですわ！　受け取って下さいませ！」
「プログラム起動！　行け、鋼鞭！」
　ミルフィのフォートレスキャノンと息を合わせ、カーラが『封縛鞭』を発射。巨木の如き敵の脚を鋼で締めあげる。
『くるうるく　りむがんと　ぐろうす　ほろわろ　なうぐりふ！』
　葉から滲む液で傷を塞ぎながら、奇怪な言葉で落とし子は咆哮した。恐竜の体では決して発音しえない言葉。それが自分たちの殲滅を示すものだと、ケルベロスは本能で理解する。
「倒れるわけには、いきません！」
　敵の迅速な撃破には、命中の底上げが急務だった。ガートルードはオウガ粒子を拡散し、前衛の味方を包み込んでゆく。
「食らえやオラァ！」
「さあ、私が相手ですよ！」
　ザベウコと息を合わせ、ロスティのファナティックレインボウが落とし子に命中した。
　目のない顔でじろりと二人を睨みつけた落とし子の頭へ――。
「どこ見てやがる、ノロマがァ！」
　チーディの轟竜砲が放物線を描いて直撃。畳みかけるようにダリルのジグザグスラッシュが叩き込まれ、ザベウコとロスティへの怒りを増幅させた。
　ケルベロスは敵の視線がディフェンダー２名に絞られてゆくのを確認する。後は集中砲火を浴びせ、１秒でも早く倒すのみだ。
「光と闇の一撃を受けてみろ！」
「得体の知れぬ連中ですわね。此処を解放したら、いずれ正体を探ってやりますわ……！」
　日和の降魔真拳が、ミルフィのゼログラビトンが次々と撃ち込まれてゆく。
　氷に、炎に、パラライズに、武器封じ。集中攻撃を浴び状態異常を山のように付与された落とし子は、悶え苦しみながら体の蔓を鞭のようにしならせ、ザベウコの体を締め付ける。
「へへ……どうしたよ？　プラブーダを侵略した力ってエーのは、こんなもんかオイ！？」
「容赦はしねエ！　ぶっ飛べデウスエクス！！」
　旋刃脚とファナティックレインボウを織り交ぜた攻撃で絡みつく蔦を引きちぎり、更に敵を挑発するザベウコ。叩き込んだ轟竜砲で回避を封じるカーラ。
「これ以上、誰も傷つけられないように守れる力を。再び立ち上がり、偽りの神を討ち払う力を……今こそ、与え給え！」
　『再生の光芒』でザベウコを回復したガートルードは、その時、背後からデウスエクスの鳴き声が迫るのを感じた。煙幕の効果が切れ始めているのだ。
「……セヴァーさん」
「ええ。モタついている余裕はなさそうですね、ハイ」
　オウガ粒子でダメージを回復しながら、頷くロスティ。援軍に包囲されればこちらの敗北は免れ得ない。最大の敵である『時間』が静かにケルベロスへとにじり寄ってきた。
「どうした！？　テメエなんざノロくて止まって見えんぜ！！」
『くるうるく　りむがんと　ぐろうす　おおさか　ほろわろ　なうぐりふ！！』
　命中が強化されたチーディの気咬弾が、落とし子の頭部に直撃。怒り狂った落とし子は、ザベウコへ牙を突き立てる。
「効かねえなオラァー！　ウェーイ！！　チャンスだぜ！！」
　気合いとノリ、その他諸々を込めた『ハイパーパワーポージング』でダメージを回復しながらザベウコが叫ぶ。息を合わせ、ロスティが跳んだ。
「左に地獄！　右に混沌！　同時に行きますよ、地獄混沌波紋疾走ッ！」
　地獄の炎と混沌の水。赤と青の奔流を纏い、ロスティの拳が敵の鼻面を叩きのめした。
　悲鳴をあげるクルウルクの落とし子に、牙を剥いた猟犬が一斉に襲い掛かる。
「終わりだ。謳え雷、地に響け――」
　ダリルの掲げる惨殺ナイフが招く、『Tonitrua』の雷撃。
「目を閉じて――わたくしからの愛、お受け取り下さいまし……」
　快楽と共に生命を奪う、ミルフィの口づけ。
「トドメだよ。ボクをこれ以上、怒らせるなよ！」
　敵を自壊させる視線、日和の『阿遮一睨』。
「たとえ１秒でも……てめエらを止められるなら！」
「この地に、お前たちデウスエクスは必要ない！」
　３人の奥義にカーラのスカルブレイカーとガートルードの猟犬縛鎖が加わり、巨大な鉄槌と化して振り下ろされた。
　ガードを試みる落とし子。しかし――。
「キメぇんだよ触手野郎が！！！　俺様に燃やし尽くされて死ね！！」
　『キメぇ』と言った時、チーディは既に攻撃を終えていた。意識外から放たれた横殴りの一撃が落とし子を地獄の炎で包み込み、姿勢を大きく崩させる。
『くるうる……く――』
　炎上する落とし子は５人の鉄槌に叩き潰され、のたうち回り、すぐに動かなくなった。

●帰還
「み……皆さん、大丈夫ッスか？」
　領域を離脱したカーラは、肩で息をしながら仲間達を振り返った。
　７人の仲間はグラディウスを掲げ、その身の無事を示す。
「破壊に至れず残念でしたが……次は必ず成功させましょう、ハイ」
　ロスティの言葉に頷き、合流ポイントへと向かうケルベロスたち。
　樹海から聞こえる獣の咆哮は、未だ途絶えそうになかった。

作者：坂本ピエロギ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年7月3日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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