アイツの「絶対許せない」は何だったのか

作者:小宮祭路

 誘蛾灯のような淡い光が3つほど、暗い夜道の中で右へ左へと泳ぐかのようにたゆたっている。そのうっすらとした灯りに浮かび上がるのは、深海魚のような姿だ。
 彼らの発した青白い光は魔法陣にも似た法則性を持っていた。これこそが死したデウスエクスを蘇らせる深海魚――死神たちの真骨頂である。
 魔法陣じみた光の構造体ができあがると共に、一際強い光を放ち、周囲を煌煌と照らした。
 徐々に光が晴れ、姿を見せたのは仁王立ちするビルシャナだった。体毛に覆われた体の筋肉が不自然に隆起し、呼気が荒く、明らかに知性の光を失っている。
「グオオオオオ、スイスイミンミンネムネムネムゥウウウウウウ!!!!!」
 ビルシャナは生前の経文を叫んでいるのだろうか、あるいは自らを解放せんがための叫んでいるのだろうか。それはきっと、誰にもわからない。

「はいはいは~い! みなさんこんにちは! 今度はね、死んじゃったデウスエクスを生き返らせるこわいこわい死神さんですよっ!」
 笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)がマップをびしっと指さす。どうやら長野の軽井沢付近に出現するようだ。
「3体の死神さんがビルシャナを1体蘇らせちゃいます。ホントは蘇らせる前に倒して欲しいんですが、う~ん、できないみたいです」
 死神は戦力を増やすために死したデウスエクスを自らの戦力にしたいようだ。恐らく人気のないところから戦力を増強しつつ人の多い場所を目指してくるつもりなのだろう。
「周辺は林や森が多いんですが、反対側は観光地もあって、逃がしてしまうとたくさんの被害が出ちゃいます。ですからすぐに死神の出現場所に向かってください」

 敵の出現数は死神が3体、知性のないビルシャナが1体でこれ以上増えることはない。舞台は夜だが、基本的に森林近くの平地で戦闘することになるため、それほど気にすることはないだろう。また付近の住人の避難は完了している。
「合計4体も敵が出て来ます。数は多いんですが、死神の1体1体はそれほど強くありません」
 死から蘇ったビルシャナだけは1体の死神より強力だと思った方がいいかもしれない。
「ビルシャナさんは炎や氷の攻撃をしてきます。生前唱えた経文だけは口をついて出ちゃうみたいで、聞いてて眠くなっちゃわないように気を付けてください」
 ビルシャナは強烈な怒りを見せるが、普段使わないような特別な攻撃をしてくることはない。
「また、死神さんは噛みついたり、魔法弾を撃って来ますが、複雑なチームワークを取ったりすることはありません」
 しかし、数が多いので油断は禁物だ。

 ねむはう~ん、と唸ったあとにこう続けた。
「ネムネムいってるデウスエクスさんは、ねむとは関係ないですよ? もしかしたら静かに眠っていたいのかもしれません。静かな眠りを妨げる死神を必ずたおしてくださいね!」


参加者
カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)
尼崎・結奈(硝子の茨・e01168)
ディーク・ガルトナー(贋者・e02703)
神咲・刹那(終わりの白狼・e03622)
葛城・柊夜(天道を巡る鳶・e09334)
ルア・シルファリア(レプリカントの鎧装騎兵・e12220)
天宮・燕雀(籠の鶏売りもすれば買いもする・e14796)
アロイ・アリアージュ(レプリカントの鎧装騎兵・e15168)

■リプレイ

●死神の呼び戻した命
 3対の輝く瞳が軽井沢の森近い夜道を泳いでいる。淡い光の中ゆっくりと姿を見せたのは深海魚のような姿……しかし、空中を深海魚が泳ぐはずもない。彼らは死神と呼ばれるデウスエクスだ。
 輝く瞳の描く軌跡は魔法陣へと姿を変え、辺りを光に染めていく。ゆっくりと光が収束ていくと、自らの生前にそらんじた経文を咆吼に変え、ビルシャナが姿を現わした。
「スイスイミンミンネムネムネムゥウウウ!!」
「蘇ったようです」
 猫耳型ヘッドフォンをつけ執事服をまとったルア・シルファリア(レプリカントの鎧装騎兵・e12220)が呟いた。本人はさして気にも留めていないようだが、ルアの執事服に収まらない谷間が胸元から顔を見せている。
「そのようですね」
 夜風が天宮・燕雀(籠の鶏売りもすれば買いもする・e14796)の椿咲く緑髪を撫でていく。燕雀は死神たちに歩を向けた。
「さて、ビルシャナを抑えにいくとでもしましょう」
 デウスエクスたちもケルベロスの面々に気づき、それぞれが警戒と退路を確保しようと動き出す。方角は観光地のある人里だ。顔に怒りを張り付け筋骨隆々のビルシャナも、死から呼び戻されたために主導権が死神にあるのか、そちらに従っている。
 死神とビルシャナの距離はほとんど離れていない。
「さぁ、出ましたわね。貴方がたの相手は私たちですわ」
 カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)が自らの指で赤い髪を優雅に撫でる。ライドキャリバーと共にいる赤い瞳のアロイ・アリアージュ(レプリカントの鎧装騎兵・e15168)が持ってきた照明に手をかけた。
「カトレアさん、準備はできました。点灯しますよ」
「ええ、こちらも点けますわ」
 とカトレア、アロイの用意した照明が辺りを照らし始めた。ケルベロスにとって森近くの夜道で戦うということは造作もないことだが、念には念をいれているというわけだ。
 アロイはライドキャリバーに乗り、デウスエクスの元へと走っていく。
 相沢・創介(地球人のミュージックファイター・en0005)はやや後方からその状況を見ていた。執事服がよく似合い、微笑みを絶やさない葛城・柊夜(天道を巡る鳶・e09334)と、白い髪を後ろへと払う、恵まれた体躯を持った神咲・刹那(終わりの白狼・e03622)も一緒だ。創介が口を開く。
「普通のビルシャナとは違って顔が恐いね」
「その歪んだ魂ごと利用しようとする奴がいたか…。いくら死神に知性がないとはいえ、嘆かわしいことです」
 首肯しながら刹那が戦場を指さす。
「そうね、柊夜。でも倒してしまえば再び眠らせることができるわ。……見て、戦闘が始まりそうよ。私たちもすぐに対応しなくちゃ」
 さらに後方で全体を見ていたルアは、すかさず前衛を成す全てのメンバーにヒールドローンを飛ばした。
「戦闘開始ですね」
 彼らの視線の先では今まさにデウスエクスの退路を塞ごうと、一人の男が立ちふさがろうとしているところだった。
「ご機嫌いかがでしょうかァ……。ほう、そちらのビルシャナさんは大層お怒りのようですねェ。どうでしょうかァ、俺と一緒にティーパーティなどはァ~? あっは☆」
 ディーク・ガルトナー(贋者・e02703)だ。彼の漆黒の髪の奥に白い笑顔が浮かび上がる。
 隠しもしない彼の殺意を感じ取ったデウスエクスたちは臨戦態勢に入った。
 しかしディークは視認する暇も与えず懐から何かを振り抜き、凄まじい速度で放った。ビルシャナは咄嗟に身を守ろうとするものの、体に何かが突き刺さる痛みに身をよじる。ビルシャナの体に刺さったのはナイフだ。
 ディークは『煽動』を避けることができないビルシャナを見てあざ笑う。
『……この程度の攻撃も避けられないんですかァ~?随分と愚鈍なんですねェ…♪』
「ウガァアアアア!!」
 ビルシャナは血管の浮かび上がる腕に力を込めて拳を振り抜き、孔雀型の炎をディークに向けて発射した。グァン!! と火炎がディークに直撃するが、ディークは全く微動だにせず、自らの状況を愉しんでさえいる。
「いいですねェ……最後にはどんな声で鳴いてくれるんでしょうかァ♪」
 再び腕を振り上げようとするビルシャナの前に、いつの間にか燕雀が移動していた。
「連続で攻撃を食らうのは流石に危ないかと。ここは私に任せてください【氷結の槍騎兵】!」
 燕雀が氷の騎士を召喚し、ビルシャナを斬りつける。斬撃を受けたビルシャナはそのまま吹き飛び、ビルシャナと燕雀たちの間に距離を作り出した。
「あなたがたをここで止めます」
 ビルシャナは燕雀の攻撃で足元が少し凍り付いている。
「そう。私たちはあなたたちデウスエクスという害虫を、ここから絶対に通したりはしないわ」
 ナイフを手に、絹糸のような金髪の尼崎・結奈(硝子の茨・e01168)が姿を見せた。
 空気を裂くナイフの一撃が優雅に、無造作に、ビルシャナの体を深々と突き刺さる。
「グォオオオオ! グオッ!」
 ビルシャナは何かに激しく脅え、やたら滅多に腕を振り回すが、当然そうした攻撃を結奈が避けられぬわけもない。
「知性がないという話だったけれど、自らのトラウマは忘れがたいようね。どんな幻影を見ているというのかしら」
 結奈のガラス玉のような瞳が怒れるビルシャナを捉えていた。
 ビルシャナの劣勢に、ついに3体の死神たちも動き出す。

●うつろなる怪奇
 やや後方に陣取り、死神にプレッシャーを与えている柊夜と刹那が首を傾げた。
「いくら照明があるとはいえ、ああも空中をすいすいと泳がれていると深海にでも潜ったような気分になりますね」
 刹那が首肯する。
「死者を蘇らせることといい、趣味のいいデウスエクスとは言えないわね。まとめて打ち込みましょう」
「了解です、刹那さん。では一気に接近し、手早く一体を倒すのが目標ですね」
 柊夜は独特の足運びで瞬く間にビルシャナに気を取られていた一体の死神に接近する。柊夜の瞳が死神を射貫いた時には彼は既に技の構えに入っていた。
『後の先にて機先を制し、矛を収めさせるが葛城流柔法の“武”…先ずは出足を止めさせていただきましょう』
 死神は柊夜の攻撃に対処しようと動いたが、視界にいたはずの彼の姿が消えてキョロキョロと周囲を見渡す。
「消えたように見えたでしょうか? これが『葛城流柔法・水面波頭返し』です」
 柊夜の声が響くや否や、死神の視界が一回転した。水面に現れては消える波頭のように、デウスエクスは痛烈に地面へと叩き付けられ、遅れて痛みを感じる。ガッ! という音が死神の口から漏れ出た。
「それで終わりだと思わないことね」
 倒れた死神に刹那が日本刀を振るった。柊夜の攻撃で完全に足が止まったところを狙いすましたことにより、死神の一部が斬り飛ばされる。魚のようにビタンビタンと地面に身を打ち付けていた。
「あ、危ないです!」
 と、他の死神が狙っていた刹那の前に体をねじり込み、アロイが噛み付き攻撃を身代わりした。
「くっ」
「アロイ!」
「だ……大丈夫です、刹那さん。しばらくは痛みを誤魔化せますから。ですが……この一撃、安くはないですよ」
 彼女のライドキャリバーが炎をまとい、主人を攻撃した死神に特攻をかける。ダメージはそこまで通らないが、死神を後ろに追いやることができた。アロイは自分に近寄ってくるライドキャリバーに手を置いて労う。
「ありがとう」
「気休めかもしれないけれど、癒させてもらうね」
 創介が言葉を紡ぎ、ブラッドスターで僅かながらアロイの傷を癒した。
 しかし、もう一体の一撃を防ぐことはできず、死神と相対する刹那たち後衛の全員が死神の吐き出した怨霊弾の直撃を受けた。
「負けませんわ。そう来るのなら!」
 カトレアが攻撃を受けた直後、反撃に転じた。
『紅き薔薇の散る儚き世の理を示せ……。さぁ、この動きを見切れますか!?』
 薔薇の花が散るかのごとく、高速の一薙ぎが死神を襲う。
「私達の力を合わせれば、こんな敵はすぐに倒すことができますわ」
 カトレアの高速剣技、『紅薔薇一閃』だ。赤い髪が戦場に舞い、一刀のもと、撫で切りにされた死神たちの動きが緩慢になった。だがそれでも死神はいつの間にか動き出し、夜道を深海のように泳ぎ回っている。
「へえ、流石死の神と仰るだけのことはあるようですわね。死への冒涜、いつまで続けるおつもりですか?」
 しかし、先ほどから攻撃をまとめられた一体の動きがフラフラと定まらない。
 猫耳型ヘッドホンを可愛らしく揺らすルアは『コア・オーバーレイ』を使用する。
『コア・ブラスターリミットカット・・・消し飛びなさい』
 胸部が変形展開され……そこから限界を越えた極太のレーザービームが発射される。
「例えデウスエクスだろうとも、死者に鞭打つ行為は許しません」
 ルアの光の一撃が手負いの死神を一体葬り去った。
 続けてアロイがレガリアスサイクロンで残りの死神2体に回し蹴りを見舞い、少しだけ離れたビルシャナと完全に合流させることを防ぐ。
「貴方たちのいいようにはさせません!」
 死神との戦いがボルテージを上げる一方、ビルシャナを抑える3人も被害を最小限に食い止めながら戦っていた。両者は非常に近い距離関係で戦っている。ビルシャナが若干先行して死神を守るような形で、3人もそれに合わせて動いていた。
 結奈がビルシャナの攻撃を避けながら氷の弾丸を撃ち込む。ビルシャナの体には血があちらこちらから噴出しているが、敵の動きに乱れは未だ生まれていない。
「まったく……。体力がかなり有り余っているようね。その体ではいくら動いても疲れを感じないのだろうけれど、思っていたより厄介だわ」
 結奈と入れ替わるようにして燕雀が振り向きざまに翼から光を放ち、ビルシャナが弾き飛ばされる。
「体力お化けというわけでしょうか」
「そうね、まさにお化けといえるかしら。虫とは全く……」
 結奈の声が尻すぼみになる。
「何かおっしゃいましたか?」
「いっ、いえ……大丈夫。隣人の地は絶対に踏ませないわ」
 2人のオラトリオは舞うように入れ替わり立ち替わり攻撃をしかけていた。
「さァて、失礼しますよォ?」
 その間をディークがするりと抜けてフォローするなど、3人でビルシャナの進行方向を邪魔しながら相手の体力を削っていく。
 しかし、死せるビルシャナとはいえ、自分が何をすべきかというのはわかっていた。さきほどから死神と自分が分断されていることには本能的に気付いているのだ。いや、それは死神の発する信号にビルシャナが反応しているだけなのかもしれないが。

●経文響く
 劣勢を悟ったビルシャナは両手をバチンと合わせた。隆起した筋肉は凶暴そのものだ。死神と戦っていた創介がビルシャナの行動に目を留める。
「何をする気だっ!?」
 するとビルシャナは叫ぶように呪文を唱え始めた。
「スイスイミンミンネムネムネム、スイスイミンミンネムネムネム、スイスイミンミンネムネムネムゥウウウッ!!」
 オンッ……! と周囲に経文の効果が広がり、前衛にいた者全てが飲み込まれる。
 ディークはぐぐっと体が重くなるのを感じた。
「なんだか耳に残るんですよねェ~。スイスイミンミン……ふぁあ。いやァ、緊張しなければならないというのはわかっているんですがねェ?」
 アロイは眠気にフラッと立ちくらみを起こし、ライドキャリバーにどつかれている。
「きゃっ! も~! 怒るよ?」
 ライドキャリバーは知らないよ? とでもというように自らのライトをチカチカとあらぬ方向へと向ける。
「みっともないところは見せられないわ」
 結奈は翼で眠気を感じる自分の顔を隠した。その隣の燕雀は頭を掻いて眠気をごまかす。
「これは強力な攻撃ですね……。睡眠というのは最も人が無防備をさらけ出しますから」
 カトレアも自らの力が抜き取られていくのを感じていた。
「……ビルシャナには一矢報いねばなりませんわ」
 創介も目を擦りながら歯がみをする。
「眠らされるわけにはいかない……ぐっ!?」
 眠気で動きが鈍り、創介は後ろから死神に噛みつかれてしまった。
 しかし、シヴィル・カジャスが巨大な鎧を鳴らし、その死神に二刀による星天十字撃を撃ちこんだ。
「ネムネムネ……『胸』だとっ!? 貴様はあろうことか女性の胸に信仰のあるビルシャナだというのか。不埒な輩は成敗するっ!」
 戦化粧をした狸のウェアライダーである分福・楽雲が死神たちにハウリングを試みた。
「経文打ち消す化け狸の叫び、ってな。へへっ。お前らに戦いってモンを見せてやるぜ。ガアァッ!!」
 彼の咆吼により、死神の動きがより遅くなったようだ。
 しかし、先んじて崩された陣形は相手にとって格好の的になる。柊夜がルアに声をかけた。
「ルアさん、前衛の皆さんにお願いします」
「はい、すぐに治してみせます」
 メディックとして戦いを見守っていたルアが手のひらを天に向け、己の理力を解き放った。
「眠気……実際の戦闘だとこれほど嫌な手もありません。すべて治してさしあげます」
 ルアが空から薬液の雨を降らせ、全員の眠気を解消し、受けていた傷も癒していく。
「素晴らしいタイミングですね。これで心置きなく反撃ができるというものです」
 燕雀がビルシャナの傷を広げるために斬りつけ、凄絶に笑む。髪から覗く椿の花びらが一枚、空に舞い上がった。
「残念ながら、チームワークは私たちの方が上のようでしたね、ビルシャナさん」
 ビルシャナの胸元から血が吹き出た。怒りに雄叫びを放つビルシャナだが、既に勢いが失われている。ディークが懐に入りこみ、血襖斬りを試みた。
「ギウウウウ!!」
「あああ……この肉を断つ感触! 叫び! たまりませんねェ! もっと、もっと魅せて下さい…その顔を、俺に…!」
 隙をついて死神についていたはずのカトレアがビルシャナに肉薄する。
「さきほどはよくもやってくださいましたわね。これはお返しですわ」
 カトレアの斬撃がビルシャナの腕を斬り飛ばした。
「グエエエエエ!」
「あら、大丈夫ですわ、あなたはすぐに眠りに帰ることができますから」
 カトレアはおどけるように言ったが、その瞳は真剣だった。

●お眠りなさい
 結奈が『雨夜の月』を発動させたのはその直後のことだ。にわかに氷雨が降り始め、幻の月が輝き出す。
『真実は虚飾に、虚飾は真実に。夢は現に立ち返れ。この世の理を、私は守るために否定する。顕現せよ、目覚めと共に訪れる終焉よ、我が元へ』
 終焉する世界を再生するかのように、破壊の力がビルシャナの肉体が崩壊させ、永遠の眠りへと誘う。
「ネム……レル……」
 聞こえるか聞こえないかといったビルシャナの最後の一言は空に霧散した。
「愚かなデウスエクスね……」
 結奈の呟きがぽつりと戦場に落ちる。
 残りの死神との戦いも終局を迎えていた。瞳に静かな怒りを見せている柊夜の攻撃が死神を捉えた。
「死した者を冥府から呼び戻すという行為……懺悔の用意は出来ているか?」
 体崩しからの降魔真拳が死神の真芯を捉え、打ち貫き、倒した。
 最後の一体にアロイが的確な破鎧衝を見舞う。
「手応え、アリです!」
 しかし、怒り狂う死神の反撃をその身で受けてしまった。だがそれは彼女が己に課した仕事でもある。彼女の顔には笑みが浮かんでいた。この後の展開に確信があったからである。
「とどめお願いします!」
「承知したわ!」
 刹那が後方から跳躍し、拳の嵐を見舞う。しかし、『奥義「閃裂」』の速度は死神に視認できただろうか。
 正しく剛風とでもいえる拳が死神を打ち貫き、確かに死神を討ち取った。
 
 煌煌と夜道を照らす照明を消しながら創介がつぶやく。夜道に静寂な闇が再訪した。
「……結局どんなビルシャナだったんだろう」
 カトレアがそれに応える。
「私にはわかりかねますわね。今は再び眠りにつかせてあげられたことを喜びたいものですわ。しかし一口に眠りといっても、深いものですわね」
 燕雀が微笑んで会話に加わる。
「やはりそういった本能に抗うのは難しいと改めて思いましたよ」
「さて、新たなデウスエクスを探しにいきますかァ……楽しみですねェ」
 ディークは本気の欠伸をしながらすでに次の戦いのことを考えていた。柊夜と刹那は己の負傷を再確認しながら回復を行っている。アロイはライドキャリバーのダメージを確認しながら、兎大福をビルシャナの倒れた場所にお供えするルアをぼんやりと眺めていた。
 結奈は闇に溶ける自らの服に身を包み、自らの戦いの意味を考えながら夜空に視線を向ける。
 ――長野のさんざめく星空が彼らを静かに見守っていた。

作者:小宮祭路 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年11月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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