禍津夢喰

作者:雷紋寺音弥

●逢魔ヶ刻
 霧のように細かく生温かい雨が、神社の境内に降り注いでいた。
 湿った空気が全身を濡らし、なんとも嫌な気分にさせられる。こんな日に限って傘を忘れた自分を呪いながら、白銀・ミリア(白銀の鉄の塊・e11509)は足早に、鳥居を抜けて立ち去ろうとしたのだが。
「……? なんだ、こりゃ?」
 突然、足下に落ちて来た赤い欠片を、ミリアは怪訝そうな顔をして拾い上げた。見たところ、水晶のようだが、それにしても何故こんなものが降ってきたのか。そう思い、ふと顔を上に向けたところで、彼女は眼前に迫る巨大な赤い塊を捉え、思わず後ろに飛び退いた。
「やれやれ、失敗でげすか。意外と反応が良くて、驚いたでげすよ」
 神社の階段を抉るようにして落下した巨大な結晶体。その上に、音もなく降り立ったのは、背後に赤い結晶を浮かべて微笑する一人の少女。
「アタシのモザイクを晴らすため、アンタの心を……いや、命もいただくでげすよ。悪く思わねーで欲しいげすね」
「お前は……その胸のモザイク、ドリームイーターか!」
 身構えるミリア。しかし、奇襲に失敗したにも関わらず、現れたドリームイーターの少女は不敵な笑みを浮かべたまま、ミリアへと襲い掛かって来た。

●穢れし火廣金
「招集に応じてくれ、感謝する。白銀・ミリアが、宿敵であるデウスエクスの襲撃を受けることが予知された」
 大至急、連絡を取ろうとしたのだが、敵も仲間を呼ばれることは解っていたのだろう。何らかの方法によって通信を妨害され、携帯電話などで連絡をつけることができなかったと、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)は集まったケルベロス達に向けて、自らの垣間見た予知について語り始めた。
「ミリアを襲撃するのは、ドリームイーター、ヒヒイロカネ。一見して小柄な少女にしか見えないが、その性格は外道そのものだ」
 外見とは裏腹に、本質は金に汚く淫蕩かつ奔放。自分以外の全てを見下す自信家でもあり、他者を陥れることで愉悦に浸る。
 人間として考えても、最低最悪の性格だ。そんな彼女のモザイク化している部位は胸元。どうやら、思春期の心を失っているらしく、それを表しているのだとか。
「今から向かえば、ミリアが敵と戦闘に入る直前で介入できる。敵の得意とする技は、背中の結晶体を利用したグラビティだ」
 その輝きは敵対する者を結晶化させ、守りに用いればあらゆる傷を回復させる。それだけでなく、結晶体を飛ばして相手に突き刺すことで、そこから生命力を吸収する。
「搦め手の通じ難い、厄介な相手だな。おまけに、こいつの得意とする戦い方は守りを重視した防御特化だ。大技の威力に任せて叩き潰そうにも、威力を半減されてしまうぞ」
 相手の嫌がることを網羅しつつ、自分が最も倒れにくい、スタンドアローンな戦い方をする面倒な相手だ。戦いを有利に進めるには、仲間同士での適切なフォローと、瞬間火力を上げるための策が必要となるだろう。
「敵の目的が何かは知らないが、このままミリアを見捨てておくわけにもいかないからな。彼女を救出した上で、外道なドリームイーターを撃破して欲しい」
 ミリアが襲撃されるのは、管理する者のいなくなって久しい古びた神社。周囲には一般人の姿もないので、遠慮なく戦ってくれて構わない。
 最後に、それだけ付け加え、クロートは改めてケルベロス達に依頼した。


参加者
桜庭・果乃(キューティボール・e00673)
斎藤・斎(修羅・e04127)
カトレア・マエストーゾ(幻想を紡ぐ作曲家・e04767)
風鈴・響(ウェアライダールーヴ・e07931)
ガロンド・エクシャメル(災禍喚ぶ呪いの黄金・e09925)
白銀・ミリア(白銀の鉄の塊・e11509)
幽川・彗星(生守死活の剣士人・e13276)
セレッソ・オディビエント(葬儀屋狼・e17962)

■リプレイ

●壱ノ刻・禍雨
 べた付く雨が肌を濡らす。どことなく、己の似姿を連想させるデウスエクスの少女を前に、白銀・ミリア(白銀の鉄の塊・e11509)は二振りの斧を抜き放って身構えた。
「ったくよぉ……今さらになって出てきやがるとはな。似た容姿でいらねぇ誤解生む前に……なにより、そのひねくれまくった性格、地獄の先で矯正してきやがれ!!」
 それだけ言って、答えは聞かない。どうせ、まともな返事など最初から期待していないのだ。霧雨を振り払うようにして回転しつつ斬り付けるが、対するドリームイーター、ヒヒイロカネは、何ら動ずることなくミリアの攻撃を真正面から受け止めた。
「へぇ~、思ったよりも、やるみたいでげすね。これなら、アタシも遠慮なく全力で殺しに行けるでげすよ」
 その身を斬られ、削られながらも、ヒヒイロカネは不敵な笑みを浮かべつつ、背中の結晶を展開して行く。人の血を思わせる赤い色の塊が眩く輝いた瞬間、強烈な衝撃がミリアの全身を襲い、彼女の身体を社の近くまで吹き飛ばした。
「……っ! な、なんだ、こりゃ……」
 すぐさま立ち上がろうとするが、脚に力が入らない。まるで鉛の塊を背負わされたかの如く、全身が重たく感じられる。
「すぐには殺さねーでげすよ。骨までしゃぶられてミイラになるか、そのまま石の塊にされるか、好きな死に方を選ばせてやるでげす」
 どちらにせよ、お前には勝機も未来もない。薄笑いを浮かべて迫るヒヒイロカネだったが、果たしてそんな彼女の言葉は、突如として飛来したリングが頭に直撃したことで遮られた。
「痛ぇでげすな……。誰でげすか、邪魔するのは?」
 頭を擦りながら、ヒヒイロカネがリングの飛んで来た方向を睨み付ける。その矢先、社の影から飛び出して来たのは、ウイングキャットのたまを引き連れた桜庭・果乃(キューティボール・e00673)だった。
「ミリアちゃん、大丈夫? まだ倒れないで!」
「サンキュー、助かったぜ」
 舞い降りる花弁のオーラを浴びて、ミリアがようやく立ち上がる。
 身体が軽い。全身の痺れと重さは消えている。この状態なら、まだ万全の力で戦える。
「おや……どうやら、お仲間がいたようでげすね。これは予想外でげすな」
 狙いを阻止され、ヒヒイロカネは実に面白くないと言った様子で顔を顰めた。もっとも、そんな彼女のつまらない理屈に、付き合ってやるつもりなど毛頭ないが。
「ミリアを狙うとはいい度胸だ……」
「大丈夫ですか? 間に合って良かった……力を貸します」
 怒りを露わにするセレッソ・オディビエント(葬儀屋狼・e17962)が前に出ると同時に、幽川・彗星(生守死活の剣士人・e13276)がミリアへと軽く微笑んだ。だが、直ぐに真剣な面持ちへと切り替わり、そのまま一気に間合いを詰めた。
「ミリアを狙った罪、その身で贖え!」
「終わらせますよ! 雨で風邪を引く前に……ね」
 オルトロスのタフトを先頭に、次々と斬り掛かるセレッソと彗星。済んでのところで身を翻し、深手を負うことを避けるヒヒイロカネだったが、それだけで終わるはずもなかった。
「不意討ちをしかけるなんて、デウスエクスらしい卑怯な手だね。折角だし、きっちり返り討ちして赤っ恥をかかせてやろうじゃないか」
 戦いの舞台は整った。そう、カトレア・マエストーゾ(幻想を紡ぐ作曲家・e04767)が告げつつ防御の鎖を展開したところで、斎藤・斎(修羅・e04127)もまた、敢えて敵の正面に立ち。
「卑怯卑劣は力なき者の専売特許、お好きなだけなさるとよろしいでしょう。……ですが、神気取りの振る舞いと思えば、これは実に滑稽なことで」
 その上で失敗したのであれば、ケルベロス一人に恥の上塗りだろう。そちらに個人的な恨みはないが、出てきた以上はこの場で倒れて消えろとだけ言い放ち。
「伏して悔いて、泣いて死んで」
 続けて紡がれるのは、魂を束縛する呪いの言葉。だが、本来であれば複数の敵へ同時に与えるための呪詛は、その範囲の代償に威力を大きく削がれている。
「ハッ……! この程度の呪いで、本気でアタシを殺せるとでも思ってるんでげすか?」
 案の定、真正面から攻撃を受けたにも関わらず、ヒヒイロカネは涼しい顔をして立っているだけだ。ならば、せめて攻撃を自分のところへ引き付けてやろうと、今度は風鈴・響(ウェアライダールーヴ・e07931)が挑発を仕掛けたが。
「……思春期の心が欠落したとか言ってるけど、ほんとは胸とかなんじゃないか?」
「下らねーでげすね。それで挑発のつもりでげすか? そっちこそ、胸にばっかり栄養送って、脳みそに栄養が足りてねーんじゃねーでげすかね?」
 返ってきたのは、より悪辣な言葉による罵倒と冷徹な微笑。ライドキャリバーのヘルトブリーゼによる突撃を片手で払い除け、余裕の態度を崩さない。
 なるほど、これはなかなか強敵だ。思春期の心が欠落しているということは、若さ故の良心や葛藤、そしてプライドや羞恥心なども欠如しているのだろう。それ故に、目の前の少女は下衆なのだ。肉体こそ幼く見えるものの、その内面は腐り切っている。
「むしろその、『悪とされるものを尽くそう』って感じこそ、思春期に誰もが考える道だと思うがね」
「悪? 何を言い出すかと思えば、どいつもこいつもアホでげすな。何が悪で何が善かなんて、元から興味もないでげすよ」
 ガロンド・エクシャメル(災禍喚ぶ呪いの黄金・e09925)の言葉さえも一蹴し、ヒヒイロカネはケルベロス達に侮蔑の視線を向けて来た。
 たった一片の良心でも持ち合わせていれば、己の悪を自覚することもできただろう。その上で、敢えて悪を選択するというのであれば、それもまた思春期特有の反抗期と言えたのかもしれないが。
「自覚なし、か……。まあ、当然だろうけどねぇ」
 とりあえず、今は仲間を助けるのが先だと、ガロンドは一斉砲撃で敵を撃つ。ミミックのアドウィクスにエクトプラズムで火器を具現化させ、零距離で叩き込ませるのも忘れずに。
「やりましたね。後はこのまま、一気に動きを封じてしまえば……」
 未だ爆風の収まらない中、斎は油断なく煙の向こう側を見据えつつ仲間達へと告げた。しかし、そんな彼女の考えを嘲笑うかのようにして、煙の向こうから現れたのは、殆ど無傷のヒヒイロカネだった。
「そんなもんで、アタシの動きを止められるとでも? ……あめーでげすよ、アンタ達」
 浮遊する結晶体の力で体勢を整え、鬱陶しそうに首を回すヒヒイロカネ。傲慢なる禍津神の少女の口元が、三日月の形にうっすらと歪んだ。

●弐ノ刻・悪神
 奇襲から一転して、数の差による有利を得たケルベロス達。だが、手数で押される状況になっているにも関わらず、ヒヒイロカネは余裕の態度を崩さなかった。
「ほらほら、逃げ回って踊って見せるでげすよ」
 背中の結晶体をミサイルのように飛ばし、ヒヒイロカネはケルベロス達を纏めて貫かんと狙って来る。タフトやヘルトブリーゼといったサーヴァント達が身代わりになる中、攻撃の隙を狙うケルベロス達ではあったものの、自分も狙われている状況で他人を庇えば、いつまでも保つものではない。
「ミリア、受け取れ!」
「よっしゃ! 任せとけ!」
 響から光球を力として受け取り、ミリアは二振りの斧を真正面から振り下ろした。それに続く形で、彗星とセレッソの二人もまた、左右から同時に仕掛け。
「剣が無くとも手刀はあります」
「お前の傷口、抉らせてもらう!」
 互いに擦れ違うような形で、ヒヒイロカネに斬り掛かる。だが、身体に刃が食い込んでもなお、夢喰いの少女は不敵な笑みを崩そうともせず。
「……面白くねー攻撃でげすな。どうせなら、もう少し芸のある技を見せて欲しいでげすね」
 そう言って間合いを測るヒヒイロカネの姿に、斎は言葉には出さずとも焦りを感じていた。
(「これは迂闊でしたね。動きを止めて一気に叩こうと思っていましたが……そもそも、初撃をクリアにされてしまっては、止めるための『基』がありませんし……」)
 こちらの思惑を悟られないように平静を装いつつ、チェーンソー剣を横薙ぎに払って斬り付ける。だが、作戦の前提が早くも崩されたことは、何よりも斎が一番良く知っていた。
 初撃で敵の動きを止るための楔を打ち込み、それを次手によって拡大させる。確かに、悪い戦い方ではないだろう。対峙する相手が楔を除去する術を持っていないか、もしくは最初から行動して来ないような的であれば。
「このーっ! あったれー!」
 苛立ちを隠し切れずに果乃が胸部から凄まじい光線を放ち、それに合わせてたまが爪で攻撃するも、ヒヒイロカネはそれらを軽々と避けてしまう。まずは相手の足を止めねば、そもそも攻撃を的確に当てられない。
「やれやれ……ここは僕が踏ん張るしかないかねぇ?」
 状況の悪さを察し、ガロンドは頭をかきながらも、アドウィクスの撹乱に乗じて稲妻を纏った槍先を突き立てた。
 もっとも、唯一、敵に技を見切られずに動きを阻害できるのは彼だけであったが、その力の半分をサーヴァントの維持に回している不利は否めない。ダメージこそ与えられるものの、彼の一撃が常にヒヒイロカネの動きを止めてくれるという保証もない。
「君たちを讃える歌を用意しておいた。まだまだへばるんじゃあないよ。それでは第6番……“聖女による頌歌”」
 見兼ねたカトレアが式神を呼び出し、記譜された楽曲を歌わせて癒しを与えるも、このままでは徐々に命を削られる。霧の如く降り注ぐ雨の先、禍津の神を祓う道は未だ遠い。

●参ノ刻・神喰
 激しい雨が肌を打ち、轟く雷鳴が天を駆ける。
 戦いが長引くにつれ、雨は一層に激しさを増し、空には灰色の雲が濁流のように渦巻いていた。
 度重なる攻撃から主達を守った末、タフトやヘルトブリーゼといったサーヴァント達は、既に姿を消していた。動きを止めることに固執し過ぎ、敵が早期に体勢を立て直すことを念頭に入れていなかったため、戦いは今や純粋な力と力によるぶつかり合いと化していた。
「ったく……無駄にしぶとい連中でげすね。そろそろ飽きたんで、死んでもらいてーんでげすけど」
 さすがに、ここまで泥試合が続けば、ヒヒイロカネとて消耗していないわけではない。纏めて一気に片付けてやろうと、再び背中の結晶を一斉に発射して、ケルベロス達の命を吸わんとするが。
「そうはさせな……っ!?」
 飛翔する赤い結晶体が、身を挺して仲間達を庇った響の身体へと突き刺さる。一発だけなら辛うじて耐えられたかもしれないが、しかしダメージを分散することが困難な現状では、全ての攻撃を彼女一人で引き受けることは不可能だった。
「これでまた、一人減ったでげすね~。さて、次こそは、そいつの命をいただきたいんでげすけどね~」
「……っ! そう簡単に、やらせると思うな!」
 品定めするようにしてミリアへと視線を向けたヒヒイロカネに、セレッソが思わず激昂して飛び掛からんと拳を握り締めた。だが、そんな彼女の肩にもまた、先の攻撃によって放たれた赤い結晶が、深々と突き刺さり生命力を奪っていた。
「落ち着いてくれ。こういう時は、感情的になった方が負けだよ」
 自身の気力を分け与え、カトレアがセレッソの傷を癒す。それにより彼女が力を取り戻したところで、ミリアは改めて声を掛けた。
「肩の力を抜いてよセレッソ。今のあたしは恋人である前に仲間だ。なら、肩を並べて戦うもんだろ?」
「……ありがとう。もう大丈夫。かっこ悪いとこ見せて悪かったな……」
 状況は苦しいが、しかし勝てない相手ではない。互いに消耗している今こそ、一気に攻める好機でもある。
「さて……ちょいとばかり時間が掛かったが、準備は整えられたみたいだねぇ」
 片手にスイッチを握り、ガロンドがにやりと笑った。幾度となく攻撃を繰り返しつつも、その合間に仲間の力を高めて行ったこと。それを爆発させる瞬間が、とうとうやって来たのだと。
「ここまで来れば、もはや小細工は不要でしょう。当初の予定とは、少しばかり状況が違いますが……」
「一気にやっつければいいんだよね! よ~し、行っくぞ~!!」
 前衛を務める者達の背後で爆発が巻き起こる中、斎と果乃もまた一気に敵へと距離を詰める。研ぎ澄まされた一閃が、不可思議な軌道を描く斬撃が、それぞれにヒヒイロカネの身体を斬り裂いて。
「後ろもらいます! なんちゃって、本当は前から……というのも嘘! 正解は地面から!」
 背後を取った彗星が、敢えて自分の居場所を伝えつつ動き回る。だが、その大半は見せ技と撹乱であり、正真正銘の一撃は死角となる真下からの攻撃だ。
「ぐっ……! てめぇ……やってくれるでげすな!」
 身体を大きく吹き飛ばされ、ここに来てヒヒイロカネの顔に初めて焦りの色が浮かんだ。
 だが、今となっては、もう遅い。長引く戦いの果てに、自らの力を高めて行き、最後に爆発させたケルベロス達の粘り勝ちだ。
「遠く離れて手の届かない獲物に襲い掛かろうと、狼は梯子のように連なっていく……。千疋狼、聞いた事はないかい?」
 落下するヒヒイロカネの身体目掛け、セレッソが魔狼の群れの名を冠した槍を投げ付ける。その矛先は寸分狂わぬ狙いで、ヒヒイロカネの胸元にあるモザイクを穿ち。
「……がはっ!?」
 衝撃に、背中の結晶が砕けて散った。しかし、そこで死ねれば、まだ幸せだった。
「地獄じゃ生温い!! 更に底まで墜ちやがれぇええ!!!」
 緋爪を構え、ミリアはそれを、幾度となく宿敵の身体へと叩き付ける。雷光が二人の影を照らした瞬間、魔獄の爪は禍津の神の喉笛を喰らい、黄泉比良坂へと送り返した。

●終ノ刻・魔晶
 静かだった。
 戦いの終わった境内は、いつしか雨も降り止んでいた。
「……欠落した思春期の心を取り戻すなんて、できやしないんですよ。その心は、その時にしか芽生えない大事なものなんですから……」
 だからこそ、人はそれを大事に育てなければならないと。そう、彗星が呟いたところで、果乃が大きく腕を伸ばし。
「お腹すいたー。何か甘いものでも食べたいなー」
 そんなことを口走ったところで、水滴を受け輝く小さな欠片が。
「あれは……敵の使っていた宝石の欠片か?」
 ガロンドが拾い上げてみると、確かにそれは赤い輝きを持った水晶の欠片だった。同じく、ミリアもそれを拾い上げ、軽く握り締めて心に思う。
(「失ったものを埋めるために、お前も必死だっただろうけどよ。この心は、あたしだけのもんだ。大事な思い出も、辛くて捨てたいものでさえ……くれてやれるもんは一つもねぇ!」)
 慢心は己を滅ぼす。その戒めとして、この欠片はありがたくいただいておく。
 そう、心の中で結んで締めくくり、ミリアは仲間達と共に朽ち果てた社を後にした。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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