熊本城ドラゴン決戦~火国に響く竜の慟哭

作者:秋月きり

 破砕音が響く。
 夕闇に染まる熊本の街に響く爆撃に似た音は、ドラゴン達が奏でる破壊の音だった。
 侵空竜エオスポロス。それが熊本の上空にひしめく無数のドラゴンの群れの名だった。そして、先の破砕音は、彼らによって奏でられた物。
 悲鳴じみた咆哮が響く。続いて再度響く破砕音は、彼らが自身の魔力と質量すらをエネルギーとして熊本城に叩き付けた為に奏でられた音――即ち、特攻攻撃によって発生した音だったのだ。
 一撃につき一体。命すらを武器とした自爆攻撃は、強硬な熊本城をガリガリと梳っていく。
 熊本城に転がるドラゴンのコギトエルゴスムは、十や二十では効かなかった。まさしく無数のコギトエルゴスムが散乱する中、熊本城は崩壊を始めていく。
 そして、そこから零れ落ちた物。
 それこそがまさしく、魔竜王の遺産であった――。
「熊本市全域で行われたドラゴン勢力との戦いは、最小限の被害で敵を撃退し、勝利する事が出来たわ」
 朗報はリーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)から紡がれる。ケルベロス達を覆う喜色はしかし、次の瞬間、緊張した物へと転じられる。
 先の戦いはあくまで前哨戦。それは誰しもが理解している事だった。
「そう。竜十字島から出撃したドラゴンの軍団が、すぐ傍まで迫ってきているわ」
 ドラゴン達の目的は『熊本城』に封じられた『魔竜王の復活すら可能と噂される魔竜王の遺産の奪取』である事は明白だ。
「先の戦いで、ドラゴン達は充分なグラビティ・チェインを確保できなかったわ。その為、魔竜王の遺産の封印は未だ、破られていないの」
 それが先の戦いで為せた事だった。それは間違いない。
 だが。
「ドラゴン達はこの封印を無理矢理こじ開けようと、自身の軍団を熊本城に特攻、自爆する事を決行しようとしているわ」
 略奪出来なかったグラビティ・チェインの代わりに、自らのそれを捧げる事で、封印を解放しようとしているわけだ。
「みんなには、今すぐ熊本城に向かって貰いたいの」
 また、熊本の戦いに参加したケルベロス達とも現場で合流する事となる。共に力を合わせ、熊本城の防衛を頼みたい。それが此度の依頼内容だった。
「ドラゴンの目的は二つ」
 リーシャは人差し指と中指を立てた後、一本ずつ折りながら概要を説明する。
 一つは先の説明通り、ドラゴンの軍団――『侵空竜エオスポロス』の軍団を熊本城に突撃させて自爆させ、魔竜王の遺産の封印を解除すること。
 そして、もう一つは、覇空竜アストライオスと配下の四竜、廻天竜ゼピュロス、喪亡竜エウロス、赫熱竜ノトス、貪食竜ボレアースの儀式により、封印を解除された魔竜王の遺産を、竜十字島に転移させること。
「当然、魔竜王の遺産が竜十字島に転移させられてしまえば、私達から手出しする事は至難となってしまうわ」
 そうなれば、ドラゴン勢力の野望を食い止める事は不可能となるだろう。
「つまり、それを防ぐ為には、侵空竜エオスポロスの迎撃と同時に、覇空竜アストライオスと配下の四竜への攻撃を敢行し、儀式を止める必要があるわ」
 強大なドラゴンとの戦いとなるが、ここで敗北を喫する訳にいかないだろう。
「まずは熊本城に突撃してくる『侵空竜エオスポロス』の1体との戦いとなるわ」
 侵空竜エオスポロスは、覇空竜アストライオス配下のドラゴンで、素早い機動と鋭い斬撃、電撃のブレスなどを得意としているようだ。
 彼らは、熊本城突入の12分後に自爆し、コギトエルゴスムとなることで、封印の解除の為のグラビティ・チェインを放出する。
「これらを完全に阻止する為には、12分が経過する前にエオスオロスを撃破する必要があるわけね」
 もしも撃破が叶わなくとも、大きなダメージを与える事が出来ていれば、自爆の効果が弱まり、封印を解除するグラビティ・チェインも減少するだろう。その為、可能な限り大きなダメージを与える必要がある。
「それと、覇空竜アストライオスと四竜が行う儀式への対策も必要となるわ」
 覇空竜アストライオスの目的はあくまでも魔竜王の遺産にある。
 故に彼はエオスボロスの自爆による封印の解除に失敗した場合、儀式を終了させた配下の四竜を犠牲に捧げてでも、魔竜王の遺産を入手、竜十字島に送り届けようするようだ。
「これを阻止する為には、儀式が完成する前に覇空竜アストライオス本人、或いは四竜の一体でも撃破する必要があるの」
 しかし、それにも問題がある。
 覇空竜アストライオスと四竜は、侵空竜エオスポロスの軍団の背後にいる為、彼らを突破しなければ戦いを挑む事すら敵わないのだ。
「みんなで検証した結果、侵空竜エオスポロスと戦いつつ、少数の飛行可能なケルベロスを突破させて、覇空竜アストライオスと四竜を奇襲する作戦が必要という結論になったわ」
 最も成功度の高い作戦は、しかし、非常に危険な作戦となる、
「全てはみんなの勇気と力に掛かっている。……ごめんね。無理を押し付けるようだけど、今はみんなに頼るしかないの」
 リーシャの声は、幾ばくかの謝罪と共に紡がれた。
「覇空竜アストライオスと配下の四竜は、互いに連携して戦う事が出来る為、突破した全戦力を一体の目標に集中させた場合、他の四竜が連携して妨害してくる可能性が非常に高いわ。その場合、確実に撃退されてしまう危険性がある事は承知して欲しい」
 故に、それらも考慮して作戦を組む必要があるだろう。
 全てはケルベロス達の双肩にかかっている。故にリーシャは彼らの武運を祈る。それがヘリオライダーとして出来る、最大の祈りだった。
「それじゃ、いってらっしゃい。……無事、帰って来てね」
 柔らかい微笑みは、悲しげに彩られない様、気丈に紡がれていた。


参加者
レクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)
エニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)
流星・清和(汎用箱型決戦兵器・e00984)
ノル・キサラギ(銀花・e01639)
フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)
イピナ・ウィンテール(剣と歌に希望を乗せて・e03513)
千斉・アンジェリカ(空墜天使・e03786)
信田・御幸(真白の葛の葉・e43055)

■リプレイ

●キャッスルオブクマモト
 放たれた紫電は白亜の城壁を焼き、黒い焦げ跡を残して行く。
 電撃の息吹を放ったドラゴンはそのまま旋回。城を背に陣形を構えるケルベロス達を嘲笑うかのように空中での待機を選択していた。
「解放―――! 輝き、戒めよ!」
 その彼を貫く蒼光はレクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)が放ったものだ。解放された蒼光――地獄は、12メートルに及ぶドラゴンの身体を侵さんと牙を剥く。
(「――浅い」)
 光を掻き消したのはドラゴンの雄叫びだった。竜の鱗に幾分の傷を残し、光は消えていく。
「空想と妄想の力、お借りします!!」
「コードX-0、魔術拡張。雷刃起動、ターゲットロック。蒼雷を纏え! 雷刃結界!」
 追撃の光線はエニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)とノル・キサラギ(銀花・e01639)からだった。両腕を組むエニーケの放つ憧憬と妄想の光、そしてノルが放つ蒼銀の電撃は竜の翼を貫き、彼の機動力を削いでいく。
「おらおらおら。おっちゃんの壁、良く見ぃや!」
 似非関西弁と共に小型治癒無人機を召喚するのは流星・清和(汎用箱型決戦兵器・e00984)だ。喚び出されたドローン群は彼だけではなく、フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)や彼女のサーヴァント、テラの前にも盾と浮遊する。
「ここが私たちの戦場――」
 続くイピナ・ウィンテール(剣と歌に希望を乗せて・e03513)の選択もまた、援護グラビティだった。妖しく揺らめく幻影は紫電纏うノルの姿をゆらりと白亜の壁に映し蠢かせる。
「さあ、勢い良くぶつけてきなさい!」
 フィストの詠唱は巨大な桐箱と化し、ドラゴンへと叩き付けられた。見る者が見ればそれはまさしく巨大なタンスによる殴打だったが、死闘繰り広げるこの瞬間、流石にそれを突っ込む者もいない。仲間に清浄な風を付与するテラもまた、何処ぞ吹く風とばかりに涼しい顔をしていた。
(「良かった。いつも通り……か?」)
 エニーケ達後衛にオウガ粒子を放出する信田・御幸(真白の葛の葉・e43055)はいつも通りの恋人の挙動にホッと胸を撫で下ろす。
 戦う前に感じた違和感は、今や鳴りを潜めている。杞憂だったか、との思いすら去来していた。
「あんじゅちゃんもいくよーっ!」
 追従するは千斉・アンジェリカ(空墜天使・e03786)による付与グラビティだった。御幸が付与した対象へ、更にオウガ粒子を散布。その者が持つ感覚を鋭敏化していく。
「――相手はドラゴン。相手にとって不足なし!」
 願わくばこのまま押し切ることが出来れば。
 ノルの祈りはしかし、その成就が困難な事は、彼自身が一番承知していた。
 相手は個体最強と言われた戦闘種族なのだ。万全の態勢を敷いても組み易い相手だとは思っていない。まして――。
(「おっちゃん達の狙いはコイツの撃破だけやないもんな」)
 爪撃から仲間を庇った清和は内心で独白する。彼らの狙いの一つは目の前のドラゴンの撃破。そして、彼らの儀式を阻止する事。
 だが、本当の狙いを悟らせるわけにいかない。そう。今は、まだ。

 侵空竜エオスポロス。
 12メートル超の巨体を誇るドラゴンの群れが此度、ケルベロス達の相手だった。
 42体にも及ぶドラゴン達の狙いは熊本城に封印された魔竜王の遺産、ドラゴンオーブ。魔竜王の復活すら叶えると謳われる遺産の奪取を、当然ながらケルベロス達が看過出来る筈も無く、今、この熊本城を護るべくドラゴン達の前に立ち塞がっている。
 ドラゴンが纏う紫電は、彼の竜が電光石火を冠とする雷竜の証か。鋭き爪も、口から零れる吐息も、紫電を纏い、火花を散らしていた。
「勝たねば。……勝たなければ」
 己に言い聞かせるような独白の後、フィストがぎりりと歯噛みする。
 その瞳に宿る昏き光の正体は憎悪。過去から今まで抱いたドラゴン達への憎しみと、先の戦いで傷つき犠牲となった熊本市民への悔悟が、その色をより一層濃くしていった。
(「……フィスト?」)
 そんな恋人に御幸は心配げな視線を送る。
 彼女の抱く憤りや憎悪は承知していた。憶える義務感も理解出来る。だが、今の彼女を捉えているものは――。
(「妄執や呪縛の類じゃないか……?」)
 このまま圧し潰されてなくなってしまうのではないか? そんな恐怖すら覚えてしまう。
「さて、いこうか」
「せやね」
 ノルの声に清和が同意の声を上げ、レクシアとアンジェリカが同意とばかりに頷く。
 それが鬨の声となった。侵空竜エオスポロスの一匹が彼らを見咎め、すーっと距離を詰めて来たのだ。
 彼の竜にもケルベロス達が排除すべき脅威と映ったのだろうか。ニタリと浮かぶ笑みは、獲物を見つけた肉食獣さながらであった。
「……此度も無事、帰ります」
 胸に抱く思いは、送り出してくれたヘリオライダーの声。イピナの呟きはむしろ、彼女の抱く誓いだった。――ドラゴンを撃破する。胸を押さえ、その誓いを心に刻んでいく。
「神風特攻の真似事ならあの世でやりなさいな」
 エニーケの挑発をエオスポロスはどう受け取ったのか。
 眩いばかりの雷撃――すなわち、電撃のブレスが、返礼の如く、彼女達の視界の中で弾けた。

●突破
 タイマーが更なる時間経過を告げていた。
「5分経過――っ?!」
 ノルの声は焦燥に染まっていた。
 先に4分の経過を告げた。だが、仲間達は動けていない。それはエオスポロスへの攻撃ではなく――。
「ちょっとまずいなぁ」
 清和の視線は翼を持つ彼女達に注がれていた。
 覇空竜アストライオスの執り行う儀式の阻止の為、飛行能力を持つ仲間を送り出す。それもまた彼らの狙いであった。
 だが、その機会は二度しか与えられておらず、この時点で、一度目の機会は潰えていた。
「奴も私たちの狙いに気付いているようだ」
 先の攻防でそれを知ったのだろう。フィストの指摘通り、エオスポロスは両翼を広げ、威嚇の態勢を取っている。それはまさしく、自身の主の下に敵を向かわせない意の表れだった。
「六根清浄、急々如律令! ――やはり、さっき突破出来なかったのは痛かったか」
 治癒を施す御幸の声もまた、落胆の色が濃かった。このまま突破が叶わない。そんな悲嘆の未来を幻視してしまい、嘆息が零れる。
「――いいえ。この戦いに儀式阻止は必須です! ウィンテール家が当主、イピナ・ウィンテール。行きます!」
 可憐な声が響いたのはその時だった。
 仲間を覆う暗雲を払うよう、イピナが純白の両翼を広げ、エオスポロスへ吶喊する。
「そこを、退きなさい――!」
 無数の凍結弾はエオスポロスを宙に固定するが如く、肩口、腰、脚に着弾。血飛沫と共に、霧氷の煌きを熊本の空に残して行く。
「イピナさん?!」
 その悲鳴はエニーケから零れた。
 流石は個体最強と謳われたドラゴン、その一端であった。硬い鱗に支えられた防御力と有り余る体力はイピナが放った全弾を受けてもなお、怯む事なく仁王立ちの態勢を維持している。そして、その爪はイピナの身体を捉え、裂かれた傷口を灼いていく。
「あああああっ?!」
 空に木霊する悲鳴は、悲痛な程痛ましく。
「イピナを援護しろ!」
 ノル、エニーケ、清和、フィスト、御幸の5人によるグラビティをその身に受けながらも、エオスポロスの動きは止まらない。
 大太刀の如き牙が白銀の甲冑ごと、その身体を喰らおうとした瞬間だった。
「――かかりました、ね」
 獲物である筈の彼女が零した物は悲嘆でも落胆でもなく、微笑であった。
「――っ?!」
 その一瞬で悟る。
 ケルベロス達の総数は8人。だが、自身を攻撃するグラビティが目の前のそれを含め、6筋であったことを。
「せーのっ!」
 喜色混じりの掛け声と共に、右翼より飛び出すのはアンジェリカだった。
「必ず吉報をお持ちします! 皆さんもご武運を!」
 そしてエオスポロスの左翼をレクシアが抜けていく。
 突破を許すまじと吐き出されたエオスポロスのブレスはしかし。
「悪いな。壁をやってるおっちゃんはまだまだ元気やでー?」
「儀式は成功させない!」
 飛び出した清和の煽りと、フィストの決意が壁となり、電撃の息吹は二人の元へ届かない。
「私たちは貴方にあの二人を追わせません」
 御幸の治癒グラビティを受けながら紡がれたイピナの宣言は、エオスポロスの立ち位置にとっても全うな物だった。
「それに、貴方にも使命がある筈。――それでも二人を追いますか?」
 血塗れで旗を振るう聖女の如き立ち姿に、ドラゴンは雄叫びを以って応じる。
「これで、6対1」
「――苦しい戦いになりそうですわね」
 ノルが唾を飲むのと、エニーケが言葉を零すのは同時だった。

●火国に響く竜のコエ
 果たしてそれは、エニーケの言葉の通りだったか。
 ノルが設置したアラームは10分の到来を告げている。それはヘリオライダーの予知の刻限が迫っている事を意味していた。
(「それなのに――!」)
 奇しくもドラゴンと同じく紫電を纏うノルの内心は、焦燥に塗れていた。
 この時点において、エオスポロスの動きに陰りは見えなかった。幾多のケルベロスの攻撃を身体に刻みながらも、飛び交う雷撃はケルベロスと熊本城を焼き、爪や牙による攻撃は彼らの身体を傷つけている。
「流石はキャスターの加護、と言った処かな」
 御幸の零した台詞は、何処か賞賛混じりに紡がれていた。
 12メートルの巨体故、俊敏に躱す事は無理にせよ、最小限度の動きで致命傷を避けているのだろう。竜鱗と皮膚は切り裂かれても、骨肉が、そして臓器さえ無事ならば活動に支障はない。あたかもそれを体現しているようでもあった。
「だが、それでは――」
 空の霊力を叩き付けながら発せられたフィストの悲嘆は理解出来る。だが、現実は認めなければならない。
 辛い現実だが、それを告げるのも自身の役目だと、御幸は恋人に更なる言葉を紡ぐ。
「――僕たちの負けだ」
 2人の突破迄、充分なダメージを与える事が出来なかったこと。
 足止めに特化し過ぎており、作戦上、主体とした氷のダメージが満足に付与できなかったこと。故にその後の足掛かりと出来なかったこと。
 短時間で多くのダメージを積み重ねるのに、クラッシャーの不在は致命的であったこと。
 なにより。
「二人の突破が成功してしまった事、ですか」
 淡々と告げられた御幸の言葉に、イピナが頷く。
 それが手数を減じると言う事であり、全てだった。ケルベロス達の思惑は成功した。むしろ、成功し過ぎていた。
 二人の突破は覇空竜アストライオス、そして配下の四竜の儀式阻止への光明となるだろう。その為に尽力した事は過ちではなく、賞賛に値する事だ。だが、彼らの戦いに於いては――。
「ならば暴走を――」
「無理ですわ」
 フィストの口にした最終手段に、エニーケが首を振って応じる。
 絶体絶命の窮地を引き金として行える潜在能力の暴走はしかし、『負けそうだから暴走する』と言った都合の良い能力ではない。まして、侵空竜エオスポロスの目的が熊本城への特攻自爆である。
 ケルベロス達が何もしなければ、彼ら自身の無事は保証されている。ならば、これは潜在能力の暴走を許す『絶体絶命の窮地』ではなかった。
 12分の経過を告げるアラームが響き、同時にエオスポロスが空高く舞う。
「諦めるのは早いで。自分達の力を信じるんや!」
 清和の言葉は最後の攻防の幕開けとなった。
 諦めない事。最後まで抗う事。それがケルベロス達に許された反逆の刃。それがあったからこそここまでやってこれた。デウスエクスの侵攻に心折ることなく、立ち向かう事が出来た。
 ならば、今は――。
「祓い給え、清め給え。宇迦之御魂大神、魔を喰らう牙を我らに与え給え――!」
 虚無魔法は見切られている。ならばと荼枳尼天に捧げた御幸の祈りは、仲間達に破壊の力を付与し。
「全パーツ射出っ 超合金合体! いくぞ必殺、フォートレススラーッシュ!」
「全砲台、一斉射出!」
「レクシアとアンジェリカを送り出した。これは俺達の仕事だっ!」
「ここで負ける訳にいかない!」
「闘気を、力を乗せて……ぶつける!」
 清和の大剣が、エニーケの一斉掃射が、ノルによる虹色の斬撃が、フィストの雷纏う刃とテラの戦輪が、そしてイピナの闘気がドラゴンを貫き、その身体を切り裂いて行く。
 零れた鋭い声は、確かに悲鳴だった。
 だが、それでも。
 エオスポロスの身体は光に包まれ、一条の矢と化す。
 その狙いはケルベロス達ではなく、熊本城そのものだった。
「――!」
 黄金の瞳に喜色が宿る。それはドラゴンにとっては福音で、ケルベロス達にとっては絶望だった。
 エオスポロスの身体が熊本城に突き刺さる。それは彼らと対峙していたエオスポロスの一体だけではない。十重、二十重とばかりに突き刺さる衝撃は熊本城を、そして熊本その物を震撼させ、発する爆音はケルベロス達の耳を、そして空間そのものを侵食していく。

 爆風から我が身を庇ったケルベロス達が顔を上げた時。
 そこにあるべき城の形は、存在していなかった。

●戦いの先に見た物
 土煙が舞う。濛々と土煙が舞う。
「あ。ああああ。ああああ」
 嘆きが零れる。ケルベロスの誰かが零したか、或いはその全てか。そんなことはどうでもいいと、嘆きの声を振り払う。
 土煙の中、熊本城が存在していない事は明白だった。
 そして。
「……あれが、ドラゴンオーブ?」
 ノルの呟きに、フィストと御幸がごくりと唾を飲む。
 熊本城があった筈の場所。そこに存在するのは妖しく輝く宝珠だった。
「ならば、今、確保すれば――!」
 ドラゴンに奪わせない。
 その意図で行われたエニーケの試みはしかし、ばちりと言う異音と共に、彼女の身体が弾かれる結果に終わってしまう。
「空間が歪んでいますの……?」
「いえ、もっと禍々しい物の様です」
 エニーケに続き、手を伸ばしたイピナはその正体を掴めず、首を振る。
 熊本城が占拠していた空間は、今や結界の様な物で覆われ、そこからの侵入を阻害している。これがドラゴンオーブの特性なのか、それともそれを封印した何者かの意図なのかは判らない。
「なんにせよ、ここに突っ立とくわけにいかんやね」
「一旦、脱出しよう。この情報を持って帰って、そして、私たちも立て直さないと」
 清和の言葉に頷くのは御幸だった。
「そう、だな。このままで、終わらせるわけにいかない」
 フィストの吐露は、今のケルベロス達の心情の代弁でもあった。

作者:秋月きり 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月7日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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