熊本城ドラゴン決戦~嵐の訪れ

作者:つじ

●夕暮れの嵐
 日は傾き、激戦を終えた熊本城にも夕闇が訪れる。先の戦闘の痕も真新しいそこに、現れたのは竜の軍勢だった。
 侵空竜エオスポロス。翼持つ者、誇り高き、力ある種族が躊躇いもなく建物へと突っ込んでいく。頭から飛び込んだそこをひとしきり破壊し、ドラゴンがその場にうずくまる。
 選んだ手段は、自爆。
 自らを犠牲にグラビティ・チェインを撒き散らすのは、一匹に止まらず、滞空していた者達も次々と特攻、自爆を繰り返していく。

 どれほどが犠牲になったものか、彼等はついに望みを叶える。封印の枷を解かれ、熊本城の廃墟に現れた、それは……。
 
●空へ
「熊本市で行われたドラゴン勢力との戦いは、最小限の被害で敵を撃退することができました! ご協力ありがとうございまーす!」
 ハンドスピーカーを構えた白鳥沢・慧斗(暁のヘリオライダー・en0250)が、大音声でケルベロス達に呼び掛ける。
 勝利と言って良い成果に対して、その声はやはり緊張が感じ取れる。その理由はもちろん、敵勢力の侵攻がまだ終わっていないからだろう。
 竜十字島から出撃したドラゴンの軍団は、『熊本城』に封じられた『魔竜王を復活させる事すらできる魔竜王の遺産』を狙い、すぐそこにまで迫っている。
「現地で戦った方々の活躍により、グラビティ・チェインの略奪を阻止できた為、魔竜王の遺産の封印はいまだ破られていません。
 しかし、この封印を無理やりこじ開けるべく、ドラゴンの軍団は熊本城に特攻、自爆する事で自らのグラビティ・チェインを捧げ、封印を解放しようとしているのです!!」
 今すぐに熊本城に向かい、熊本の戦いに参加したケルベロス達と合流、熊本城の防衛に参加してほしい。つまり援軍要請だとヘリオライダーは告げた。
 判明している限り、敵の目的は2つ。
 一つは『侵空竜エオスポロス』の軍団を熊本城に突撃させて自爆させ、魔竜王の遺産の封印を解除する事。そして、もう一つは、覇空竜アストライオスと配下の四竜、廻天竜ゼピュロス、喪亡竜エウロス、赫熱竜ノトス、貪食竜ボレアースの儀式により、封印を解除された魔竜王の遺産を、竜十字島に転移させる事だ。
「魔竜王の遺産が、竜十字島に転移させられてしまえば、こちらから手出しする事は至難となり、ドラゴン勢力の野望を食い止める事は事実上不可能となるでしょう!
 それを防ぐ為には、侵空竜エオスポロスを迎撃すると同時に、儀式を行う、覇空竜アストライオスと四竜への攻撃を敢行する必要があります!」
 敵は強大なドラゴン。しかしここで敗北するわけにはいかない。
 
「まず、各チームとも熊本城に突撃してくる『侵空竜エオスポロス』1体と戦っていただきます! その戦闘の中で隙を見て、飛行しているケルベロスの方を覇空竜アストライオス達の元に送り出します! その方は他班の突破者達と合流し、共に覇空竜達を奇襲!
 残った方々はエオスポロスが自爆する12分後までにこれを撃破! 突破組は覇空竜アストライオス、もしくは四竜のいずれかを仕留める事で儀式を阻止! この両者を満たすことで、我々は敵の野望を挫く事ができるのです!!」
 慧斗の言うこれが、作戦の概ねの流れになるだろう。厄介な話だが、検討の結果これが一番勝率が見込めるものらしい。

 侵空竜エオスポロスは、覇空竜アストライオス配下のドラゴンで、素早い機動と鋭い斬撃、電撃のブレスなどを得意としている。
 熊本城突入の12分後に自爆しコギトエルゴスムとなる事で、封印の解除の為のグラビティ・チェインを放出するが、大きなダメージを与える事ができれば、自爆の効果が弱まり、解放されるグラビティ・チェインも減少するようだ。勿論、完全に撃破すれば自爆そのものを阻止することができる。
 そして、侵空竜の軍団の後ろに控えた覇空竜アストライオスは、自爆による封印の解除に失敗した場合、儀式を終了させた配下の四竜を犠牲に捧げてでも、魔竜王の遺産を手に入れ竜十字島に送り届けようとするという。
 覇空竜アストライオス或いは四竜の一体でも撃破することができれば、儀式は阻止できるようだ。
「非常に危険な作戦となりますが、全てはケルベロスの皆さんの勇気と力にかかっていますので、どうぞよろしくお願いします!!」
 声と共に力を込めた拳を握り、ヘリオライダーは一同にそう告げた。
「四竜は、覇空竜アストライオスを守る事を最優先にする為、ある程度の戦力でアストライオスを攻撃しつつ、本命の攻撃を集中させる作戦は有効かもしれません。
 うまく連携を妨害し、無事勝利を納めてきてください! 皆さんの御武運をお祈りしています!!」


参加者
物部・帳(お騒がせ警官・e02957)
奏真・一十(無風徒行・e03433)
シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)
エストレイア・ティアクライス(オーダーメイデン・e24843)
アレックス・アストライア(煌剣の爽騎士・e25497)
九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)

■リプレイ

●接触
 日の落ちた空を、翼が覆う。熊本城へと舞い降りる巨体の一つにグラビティを放ち、ケルベロス等は浸空竜エオスポロスを引きつけた。
 降下の勢いのまま着地したエオスポロスは、その爪で地を引き裂くようにして、流れる全身を留める。低い地響きから察せられるその質量。こちらを見下ろす体躯は10mを超えるか。
 そしてその地響きも、咆哮も、熊本城を囲むそこかしこから聞こえてくる。
「さすが、前座とは違うという事ですか」
「くさるな。目の前の敵に集中しますよ」
 避難している市民を思い、表情を曇らせる物部・帳(お騒がせ警官・e02957)にメルカダンテ・ステンテレッロ(茨の王・e02283)が声をかける。咆哮する巨体を追って、一同はそれぞれに武器を手に取った。
「さぁ、いこうか……」
「まさか再びドラゴンと相対する事になるとはね。実に面白い、心が躍る!」
 エヴァンジェリン・ローゼンヴェルグ(真白なる福音・e07785)の散布する金属粒子を突っ切り、九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)が初撃を放つ。
「雷光団第一級戦鬼、九十九屋 幻だ。手合わせ願うよ!」
 跳躍しての一撃に、竜はその咆哮で応えた。音による震えと共に、空気が帯電していくのが肌で感じ取れる。
 吐息にはその竜の特性が色濃く表れる。エオスポロスの場合は――。
「電撃、でしたか……!」
 帳、そしてサキミやディケーが前に出たそこを、幾重もの稲妻が駆け抜ける。
「難儀なことになりそうだな……」
 これを相手取るだけでなく、その先の目標にも手を伸ばさなくてはならない。光の翼を広げたアレックス・アストライア(煌剣の爽騎士・e25497)は、上空に気を配りつつも前衛にブレイブマインを展開した。
「さあ、花開く様に」
「連なれ剣よ、導きの翼となれ!」
 ともあれ、まずは命中率の確保を。シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)、そしてエストレイア・ティアクライス(オーダーメイデン・e24843)がそれぞれに味方のサポートに回る。
「さあ、こっちを見なさい」
 一方でメルカダンテは側面から仕掛け、幻と共に足止めにかかる。ここまですれば『強引に飛び去る』ような真似はされないだろう。
 その間に奏真・一十(無風徒行・e03433)は靴から花びらを舞わせ、ブレスを凌いだディフェンダー達を癒しにかかった。
「きつい相手だろうが、何とか耐えてくれ」
「どうでしょうね、あまり長くはもたないかも知れませんが……」
 はいはい、といった調子のボクスドラゴンに苦笑しつつ、帳もまたオウガメタルを展開。
「負けられない、ですよねぇ」
 そしてもう一度、味方の盾となるべく、前へ。

●突破
「手を貸してくれるか?」
「お任せ下さい、このメイド騎士に!」
 光の翼を広げ、エストレイアが「寂寞の調べ」の調べを奏でる。
 その音色に乗せて、振り回される尾の一撃を跳躍して躱したエヴァンジェリンが右腕を振り下ろす。瞬時にオウガメタルがその腕を覆うが、硬質かつ巨大になったそれも、竜の前では小人のそれか。それでもなお鱗を砕く鈍い音色の合間を抜けて、シアのゼログラビトンが放たれる。狙うはその爪、多少なりとも動きが鈍れば壁役の負担は軽くなる、はず。
「釘付けになってもらいましょう」
 相手の体勢を鑑み、重心の乗った前肢にメルカダンテが刃を振るう。さらにその反対側からは。
「……捉えたッ!」
 幻が突進、神速の刺突でその身を穿つ。
 牙が噛み合い、軋む音。低く唸った竜はその翼を大きく打ち払った。地に叩き付けるようなそれは旋風を巻き起こし、付近のケルベロス達の体勢を崩す。
「この……止まれッ!」
 空中で姿勢を崩しながらも、アレックスがアームズフォートでの砲撃を仕掛ける。
 護る事こそ騎士の本分。だがそれではこのデウスエクスは止まらない。姿勢を低く、屈んだように見えた次の瞬間、10mを超す侵空竜が跳ねた。
「速い!?」
「危ないですよっ!」
 巨体に似合わぬスピードと、ヘタをすれば両断されかねない爪。シアへと迫るそれの前に帳が飛び込み、吹き飛ばされて地面を転がる。
 さらに追い打ちをかけようとした竜の鼻面に蹴りを打ち込み、メルカダンテはその気を引くように翼を広げて見せた。
「やけに前のめりですね」
「自爆覚悟で来ているからな。わからなくもない」
 迫る牙をへし折るように、エヴァンジェリンがハンマーを横薙ぎに振るう。
「短期決戦ならこちらも……!」
 その後の狙いを考えれば望むところ。こちらも両翼をかざして見せつつ、シアが杖から雷光を放った。
 激しく動き回る竜を追っての戦闘。その中で味方のサポートに全力を尽くしているのが一十である。倒れた帳に駆け寄った彼は、鉄塊剣で刺突の構えを取る。
「動かないでくれ」
「えっ」
「大丈夫。治るから」
 創痍施錠。傷口に突き込まれたそれが、鍵を閉めるように回る。嘘のようだが傷は塞がった。
「よし、引き続き頼む」
「もうちょっと、こう……いえ、何でもありません」
 それでもなお痛む身体を起こして、帳は銃に手を伸ばした。

 飛行状態のアレックスがフェアリーブーツから星を放つ。駆ける流星を追えない状況に歯噛みしつつ、彼はブレスの射線から逃れるように空を舞った。
「性に合わないんだけどな、こういうのは」
 目指すべきはその先、それを思えば仕方のない事ではあるが。
「大丈夫です、すぐにその時は来ますよ……!」
 こちらも牽制と援護に注力しているエストレイアがそう告げる。役割はそれぞれにある、その機を逃す事が無いよう、二人はまた敵の動きに目を向けた。
 そすして続く戦いの中、戦況、そして開幕からの時間を鑑み、幻が仲間に示す様に赤刀を掲げる。
「頃合いだ! 全員でかかるよ!」
「了解だ。足元はこちらで引き受けよう」
 一十が地へと這わせた攻性植物が活性化し、竜の身を絡め捕るのに合わせ、その周囲の赤が暗く濁る。
「幸い触媒は十分に撒いてありますからね。私からもこれを……!」
 朽ちたる死者の晩餐。帳の呪歌に応じ、血で描かれた文様から無数の腕が生じる。縋りつくように、抱きしめるように、死者の手が竜を掴んでいく。
 エオスポロスは忌々し気にそれらにブレスを吐きかけようとするが、その背に降り立った幻がそれを許さない。
「くひひ、大人しくしてなよ?」
 呪いを込めた斬撃に、シアとエストレイアの砲撃が続く。そして上方からはさらに、輝く剣が二振り。
「我は女神の騎士にして裁定者。彼の輝きを以て汝に相対す。今まさに審判の時。汝、悔悟せよ。これより全て、汝より出でて還る物!」
「我が魂を刃と為し、万物悉く薙ぎ払え!」
 『いざや傾け、天秤よ』、加えて『天を裂く極光の白刃』。アレックスとエヴァンジェリンが同時にそれらを振り下ろした。
 上からの圧力に、踏み締めようとした竜の足が滑り、その身が地へと押さえつけられる。
「よし、今だ!」
「さあ、行きましょう!」
 一時的とはいえ、生じた決定的な隙。これを逃すまいと、メルカダンテとシア、そしてエヴァンジェリンが翼を大きく広げた。
 迫り来る侵空竜を突破し、上空の四竜、そしてアストライオスへと向かう動き。ケルベロス達のそれを察知したエオスポロスは、全力で拘束に抗い、尖兵を追うべく翼を広げる。
 飛行速度を考えれば、飛び立つことさえできればすぐに追いつける、はずだったが。
「そこです!」
「自分以外を思う暇がおありで?」
 首を伸ばしたそこに、待ち受けていたのはシアの銃口と、メルカダンテの鎖。
「奇跡を殺せ、ルクスリア」
 捉えたそこに、レーザーと『貫く槍』が放たれる。 この瞬間の攪乱のために翼を強調していた二人がは、出鼻をくじかれ、苦悶に呻く竜から離れた。
「こうも上手く引っ掛かるとは……間抜けなのか、それとも忠誠心の賜物か?」
「形振り構っていられないのは此方も同じなの。ごめんなさいね」
 苦し紛れのブレスによる雷撃が空間を裂くが、雑な狙いで放たれたそれはさして効果を示す事はない。そしてその間に、同時に飛び立っていた本命の二人、エストレイアとアレックスは戦場からの離脱に成功していた。
「よし、こっちはこっちで、役目を果たそう」
「はい、征きましょう!」
 それぞれ、狙うべき個体は打ち合わせ済みだ。アレックスがエウロスを、エストレイアはゼピュロスを確認する。既に、それぞれの戦場を突破してきたケルベロス達が集まりつつある。
「信じていて下さい! 必ず勝利してみせます!」
 振り返る事はしない。けれど送り出してくれた仲間達にそう言って、二人はそれぞれの敵へと向かっていった。

「……行けたか」
「ええ、あちらは任せておいて大丈夫でしょう」
 一十の言葉に、地に降り立ったメルカダンテが頷く。
 足止めや捕縛による拘束と、集中攻撃……秩序だった攻撃が功を奏し、二人を奥の戦場へと送り出す事に成功した。ここまでの作戦は狙い通りと言って良いだろう。
 が、当然のことながら二人の表情に笑みはない。
「こっちもさっさと片付けないとね!」
「はい、がんばりましょう!」
 幻が刀を、シアが杖を握り直し、跳ぶ。その先では、拘束を脱した侵空竜が、怒りに燃えるように牙を剥いていた。
 そう、戦いはまだ終わっていない。

●対峙
「しぶといな……!」
 負傷を押して前進し、エヴァンジェリンが刃を振るう。返り血を糧に戦線維持を試みる彼女に、帳のオウガメタルと一十の放つ花びらのオーラが降り注いだ。
「なかなか、厳しい状態でありますな」
「支えて見せるとも、この程度で……!」
 腕のマインドリングを起動させ、帳が敵の攻撃に備える。
「来ますよ!」
 また雷を纏う風が吹く。荒れ狂うブレスに巻かれ、ディケーが力尽きた。
 突破を主軸とし、サポートに回っていたとはいえ、二人手数が減ったのは単純に負担となる。
「弱音は聞きたくありません」
「こちらも手厳しいな」
 氷弾を放つメルカダンテに並ばれ、一十が苦笑する。
「さすがはドラゴンってとこだね」
「相手だって弱ってきているはず。大丈夫よ」
 敵の尾を刀身で逸らす幻は、今の戦いを明らかに愉しんでいるようだが。彼女の作った空白に滑り込み、シアが刃を抜く。
 絶空斬、敵の傷口をなぞるその斬撃は、積み重ねた効果をさらに増大させるもの。
「止まりなさい……!」
 動きさえ止めてしまえば、そこを起点に畳み掛けられるはず。
「我慢比べってわけじゃないだろうが――」
 振り向きざまに薙ぎ払われた爪と、エヴァンジェリンの鎚が正面からぶつかる。双方共に弾き飛ばされ、生じた隙に、幻が踏み込んだ。
「それじゃもう一度……迅雷!」
 閃く刃が、竜の頭部に突き立った。

「大丈夫か?」
「はい、まだ何とか――」
 一十の癒しの鉄塊剣がシアに刺さった。
 エヴァンジェリンの血襖斬りに合わせて刃を一閃、月を描いたメルカダンテが再度距離を取る。
 敵の動きは確かに鈍ってきているが、決定機は未だ見えない。
「……見誤まった、か?」
「いえ、この辺りは優先順位の問題でしょう」
 彼女を背に庇う位置で、帳が首を横に振った。奥に二人送り出す事に重点を置けば、これもまた予想の上のはず。
 だからこそ。
 続く攻撃を躱せないと踏んだ帳は、迫る敵の腕にマインドソードを突き立てる。それでもなお踏み潰すように振るわれた爪が、彼の身を貫いた。
「ッ……ここまで、よく耐えた」
「私が前に出るよ!」
 後列から幻が前へ。しかしほどなくサキミもまた限界を迎える。
「まだです。まだ戦える……!」
 険しい表情を浮かべながらも、シアは銃の引き金を引いた。

「もう時間が無い! 何とか畳み掛けるよ!」
 情報にあった時間、自爆の準備は既に整いつつある。
 最後の一撃に賭けるべく、メルカダンテもまた狙いを定め……敵が強く吼えるのを聞く。
「……自爆してでも、か」
 今更覚悟の多寡で実力が変わるようなことはないだろう。しかし、その目は。
「行かせはしない。……もう一度だ」
 もはや回復に手を回す余裕はない。一十が攻性植物を再度目覚めさせる横で、シアが刃を手にする。
「少しでも、動きを鈍らせます」
「くひひ、ここまで縺れるとはね」
 呪詛の染み込む刃を構えた幻。そしてエヴァンジェリンもまた、両腕を上段に構える。生まれた極大の光刃が天を衝き、振り下ろされる時を待つ。
「……これで、仕舞いにしよう」

 姿勢を低くした竜が、また強く地を蹴った。
 彼方へ手を伸ばす様に、ケルベロス達は残った力を振り絞る。

●残ったもの
 怒涛の如き連続攻撃を、しかし侵空竜は凌ぎ切った。傷付いた身体を引きずり、こちらも最後の力を振り絞るようにしてボロボロの翼を打ち振るう。
 速度の加減などもはや必要ない。ケルベロス達の追撃を振り切り、竜は熊本城に頭から突っ込んだ。
「そんな……」
「間に合わなかった、か」
 シアと幻が、崩れていく城の様子に歯噛みする。同じように仕留めきれなかった多数の侵空竜が集まり、最終的にそれらは次々と自爆していった。
「熊本城が……」
 広がる爆風と土煙に、目を覚ました帳が表情を曇らせる。
 一度は人々を避難させる拠点にと考えていた場所だったが……。立ち上る土煙が晴れたそこには、変わり果てた姿があった。城は完全に崩壊。瓦礫と化している。
「あれは……?」
 城のあったその場所に、妖しい輝きが浮かんでいた。外見としては、全長3m程の球体だが。
「予想とは少し違うが……あれがドラゴンオーブか。封印は解かれてしまったようだな」
「でもドラゴンの儀式は阻止できたんだよね?」
 目を凝らすエヴァンジェリンの横で、幻が四竜達の居た空を見上げる。ドラゴン達の目的は阻止できたはずだ。少なくとも、今だけは。
 今の内にと付近のケルベロスが近づこうと試みるが、揺れる空間に弾かれ、近付けないでいる。
「空間が歪んでいる、のか?」
「そう見えますね。……けれど、問題はそこではなさそうだ」
 一十とメルカダンテが言葉を交わす。現象は飽くまで現象。ただその奥にある禍々しい気配が、確かにその場に滲み出てきていた。
 どうしたものかと、ドラゴンオーブと自らの負傷を見比べて、帳が弱弱しく口を開く。
「このままでは手出しができませんし……不本意ながら、今の私達では何か起きても対処し切れない、でありますな」
「ええ、一度帰還して休みましょう。先行したお二人も無事だといいのだけど……」
 シアの言葉に頷いて、一同は一旦の退却を決める。

 ドラゴン達が命を賭してまで求めたもの。戦場に残されたそれは、まだもう一波乱起こしそうだ。

作者:つじ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月7日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。