熊本城ドラゴン決戦~誰が為に

作者:沙羅衝

 ド!! ドォン!!!
 派手な爆発音が熊本市に響き渡った。
 その音の中心は、熊本城だった。
 ドォン!!
 再び、響く爆発音。それは侵空竜エオスポロスが次々と突っ込んで自爆している姿だった。
 自爆は、熊本城が崩れ去るまで続いた。
 そしてついに、それは姿を現したのだ。

「熊本市全域で行われたドラゴン勢力との戦いは、向かってくれたみんなのおかげで、最小限の被害で敵を撃退する勝利する事ができたわ。ほんま、良うやったで」
 宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)が、ケルベロスの勝利を届ける。しかし、彼女は浮かれた様子はない。
「ただ、や。忘れてへんと思うけど、竜十字島から出撃したドラゴンの軍団が、すぐそこまで来てんねん。
 今回の敵の目的はな、『熊本城』に封じられた『魔竜王を復活させる事すらできる魔竜王の遺産の奪取』は確定や。
 前の戦いに勝利したおかげでやねんけど、まだ魔竜王の遺産の封印はいまだ破られてへん。
 するとや、アイツら、封印を無理やりこじあける為に、ドラゴンの軍団を熊本城に特攻してきよる。そいで、自爆する事で自らのグラビティ・チェインを捧げて、封印を解放しようとしているちゅうことや。
 せやから皆には、熊本城に向かって欲しい。前の熊本の戦いに参加したケルベロス達とも合流して、絶対防衛するで!」
 成る程、と頷くケルベロス達。そして、絹は説明を続ける。
「詳細や。
 今回の敵の目的は二つて言われてる。
 一つはさっき言うた、『侵空竜エオスポロス』の軍団を熊本城に突撃させて自爆させ、魔竜王の遺産の封印を解除する事。
 そんでもう一つが『覇空竜アストライオス』と配下の四竜、『廻天竜ゼピュロス』、『喪亡竜エウロス』、『赫熱竜ノトス』、『貪食竜ボレアース』の儀式により、封印を解除された魔竜王の遺産を、竜十字島に転移させる事や」
 ドラゴンが儀式を行うという事にも驚いたケルベロス達だが、転移させる先は敵の本拠地である。その事に気が付いたケルベロスが険しい表情をする。
「せや、これはほんまに、絶対防衛して、死守せなあかんねん。せやから防衛の他に、この儀式をぶち壊す。ここで負けるわけには行かんねや」
 かなりの激戦となることは、容易に想像ができた。
 絹はそれでも、ケルベロスに全体の説明をいつもよりゆっくりとした口調で話した。
「作戦内容やねんけど、まず熊本城に突撃してくる『侵空竜エオスポロス』1体と戦うで。他のチームもおるから、1チーム1体を受け持つ。コイツらは覇空竜アストライオス配下のドラゴンらしくてな、素早い機動と鋭い斬撃、電撃のブレスが得意やそうや。んで、肝心な自爆やねんけど、熊本城突入して12分後に自爆をする。つまり、それまでに撃破せなあかん。知っての通り、自爆やから、コギトエルゴスムになるだけでコイツら死なへんねん。ほんま厄介やわ。
 ちょっと話がそれたな。えっとや、まあ、最悪撃破できへんかっても、ダメージを与えればそれだけ封印を解除するグラビティ・チェインも少なくなるわけやから、少しでも多くダメージを与える事には意味があるで。
 んでや、それだけでこの作戦は終わらへん。さっきも言うた儀式。これをぶち壊さなあかん。覇空竜アストライオスはな、自爆による封印の解除に失敗した場合、儀式を終了させた配下の四竜を犠牲に捧げてでも、魔竜王の遺産を手に入れ竜十字島に送り届けようとするらしい。ただ、この儀式には四竜がそろっとかなあかん。つまり、儀式が完成する前に、覇空竜アストライオス或いは四竜の一体でも撃破する必要があるわけやな。
 儀式は熊本城突入と同時期、しかも覇空竜アストライオスと四竜は、侵空竜エオスポロスの軍団の背後にいるから、侵空竜エオスポロスを突破しなければ戦いを挑む事は出来へん」
 ざわりとした空気が包む。聞くだけでかなりの難しさだ。
「んで、検証の結果や。侵空竜エオスポロスと戦いつつ、少数の飛行可能なケルベロスを突破させて、覇空竜アストライオスと四竜を奇襲する作戦が成功の可能性が最も高い事がわかった。
 って、もう頭かかえとるか。まあ、しゃあない。気持ちは分かるで。でもや、全てはケルベロスの勇気にかかっとる。無理を承知で、頼む」
 そう言って頭を下げる絹に、ケルベロス達は決意を固めた。続々と立ち上がり、行こう、と声を上げる。
「有難うな。まあ、作戦は色々と考えられるけど、四竜は、覇空竜アストライオスを守る事を最優先にするからな。ある程度の戦力で、アストライオスを攻撃しつつ、本命の攻撃を集中させるって作戦も有効かもしれんと言われとる。考える事は多いけど、考える事を放棄したら負けや。精一杯考えて、ほんで、絶対帰ってくるんやで。ご馳走作って待ってるから!」


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
ライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)
黒住・舞彩(鶏竜拳士・e04871)
鈴木・犬太郎(超人・e05685)
ジェノバイド・ドラグロア(忌まわしき狂血と紫焔・e06599)
玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497)
四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)

■リプレイ

●熊本城防衛戦線
「そう……。それでその数のドラゴンが、熊本城にくるのね」
 四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)はそう答えながら、熊本城に向かって走っていた。
「そういう事だ、というか、らしい。まあ、俺にもなんとなく負けられない戦いだってことくらいは分かった」
 鈴木・犬太郎(超人・e05685)はヘリポートで聞いた情報を、熊本市内に居たメンバーに伝えていた。一刻も争うということで、走りながらの説明となっていたのだが、その説明は要領を得ていたようで、正確に伝える事が出来ていた。
「じゃあ……とべるひと。……ぼくは、とべない」
 伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)はそう言って仲間を見る。その視線は、各自の背中に順番に注がれていった。
「だね。その人選は、ほぼ決まりかな。ジェノ、まいあちゃん、行けそうかな?」
 ライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)が勇名の言葉に頷き、よく知る仲間を見る。
「兄貴、任せてもらって良いんだぜ。むしろ、好都合かもしれねぇ。俺の目指す称号の為には、もってこいだぜ!」
 ライゼルを兄貴と呼ぶ、ジェノバイド・ドラグロア(忌まわしき狂血と紫焔・e06599)は、そう言って背中の翼を広げる。だが、もう一人名前を呼ばれた黒住・舞彩(鶏竜拳士・e04871)は、でも、と少し考えて言葉を繋げる。
「でもそれじゃ、皆はどうなるのかしら? 私達、つまり二人もその戦場に居なくなるってことじゃない?」
 すると、
「大丈夫ですよ」
 舞彩の心配に、玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497)が、頼もしい声を発する。
「皆さん、もちろん自分もですが、心配要りませんよ。敵にとって、まさに起死回生の一手。むしろ大事なのはその、四竜による儀式……。ですから、そちらこそ、頑張っていただかなければいけません」
「そうそう。お兄様も居るし、こっちは任せて! ジェノお兄さん、まいあ、そっちはよろしくだよ」
 ユウマに続いて、燈家・陽葉(光響射て・e02459)も力強く頷く。
「分かった……。頑張る。でも……」
 舞彩はそう言いつつも、少しの不安を表情に出す。すると犬太郎が思い出したように、口を開く。
「あ、そうだ。絹がご馳走作って待ってくれている、らしいぞ。ヘリオンには俺一人だったから、色々と話を聞いておいた。リクエストあれば、何でも言ってええで! という事だ」
 その、イントネーションがめちゃくちゃな関西弁を聞き、俯いた舞彩が震える。
「……私」
 その様子を見守る仲間達。その後の言葉は、想像した通りだろう。
「……やるわ。行って来る!!」

 熊本城にたどり着くと、他のケルベロスが続々と集まっていた。
 それを確認した彼らは、お互いの幸運を祈りながら、熊本城を守護するように散っていく。仲間の状態を確認し、これから来るドラゴンとの戦いに集中し、少しの作戦を練る。
 その時間を使って、玲斗は軽食を配る。
「まずは、落ち着きましょう。その時に備えて」
 連戦である。疲労感を軽減することが、命を救う事だってある。ケルベロス達は、その言葉と食事にほっと息をつく。そのおかげか、冷静さと気力を充填する事ができた。

 そして、その時は来た。
 続々と熊本城に突っ込んでくる侵空竜エオスポロス。そして今、上空には儀式を行おうとする四竜と、覇空竜アストライオスが存在しているはずだ。
 ドォン!
 一つ大きな爆音が轟いた。
 次々に武器を抜き放ち、グラビティの輝きが交錯する。
 熊本城防衛。その戦いが、始まったのだった。

●誰が為に
 ズドォ……!
「ぐうっ!!」
 エオスポロスのぶちかましを、犬太郎が受け、背後にそびえる熊本城に激突する。
「鈴木さん!!」
 ユウマの声に応えるべく、すぐに立ち上がり、また前線へと戻る犬太郎。
「大丈夫だ。戦いは始まったばかりだ。お互いに、倒れないことに主眼を置くぜ」
 犬太郎はそう言って、内臓に位置する地獄の炎を燃やす。ユウマはコクリと頷き、身の丈ほどもある鉄塊剣『エリミネーター』を、盾のように構える。
 エオスポロスの大きさは12メートル程であろうか。その翼を羽ばたかせ、ケルベロス達を睨みつけ、威嚇する。だが、それに怯むケルベロスはこの場にはいない。
『光以て、現れよ。』
 玲斗が光の術を用いて犬太郎の傷を塞ぎながら、感覚を研ぎ澄ます力を与える。
『うごくなー、ずどーん』
 そして、勇名から超低空の小型ミサイルが放たれる。
「めいちゅー」
 パンという可愛らしいような火花が、エオスポロスの足元から上がる。
 絹の情報から、仲間を突破させる為には、その動きを封じているほうが可能性は高くなると読んだ。まずは威力よりも阻害。それを実行していく。
『響け、大地の音色』
 陽葉が妖精弓『阿具仁弓』の弦を弾くと、エオスポロスの足元を砕く。
「ガアアア!!」
 すると、怒り狂ったように口にグラビティを溜め、吐き出した。
 ゴオオオオオ!!!
「危ない!!」
 ライゼルはそのブレスを避けるが、その威力はかなりのものであることが分かった。だが、まず目的は一つだ。信頼のおける仲間を、次の戦場に送り届ける事だけに集中した。

「やっと、動きが鈍くなってきたかしら……」
 暫くの攻防の後、漸くケルベロス達の半分の攻撃がヒットするようになってきた。舞彩はそう言って、周囲を確認する。どうやら、幾つかのチームのケルベロス達が突破を成功させているようだ。
『君は知るだろう・・・己の無知を。怒号の波に飲まれな!』
 今だ。そう悟ったライゼルが、雷を纏った鎖を左腕から放つ。
「君の息吹とこの鎖、どっちが痺れるかなぁ!!」
 すると、エオスポロスの頭にそれが突き刺さる。そして勇名が合わせてアームドフォートの主砲を開く。
「どかーん」
 ドカーン!!
 その抑揚の無い言葉とは裏腹に、派手な爆発音があがった。
 そして立て続けにといわんばかりに、陽葉がにわとりファミリアの『舞葉』を突っ込ませる。
「邪魔だ! テメェの相手なんざしてられねぇ。姉御、行くぜ!」
 ジェノバイドが真っ赤な獄槍を召喚する。
『俺を止められるのは、この俺だけよ! 邪魔すんなら、地獄で詫びなぁ!』
 すると、その槍がエオスポロスを抉り、刺さる。
「行くわ! 後は任せたわよ。みんな揃って宮元のご馳走、食べましょう」
 舞彩が左腕の地獄を『竜殺しの大剣』にかえ、狙い、定める。
『魔人降臨、ドラゴンスレイヤー。ウェポン、オーバーロード。我、竜牙連斬!』
「ギャオオオオオ!!!」
 爆音の中、狂ったように雄たけびを上げるエオスポロス。
 ドゴン!!
 そこへ、犬太郎が巨大な腹に、拳を打ち込む。
「さあ、行け!!」
 その声に、ジェノバイドと舞彩が翼を大きく上げ、しならせる。
 ダッ!
 勢い良くジャンプし、飛び上がる。翼を地面へと叩き付けるように、もう一度大きく羽ばたかせる。そして、二人はそのまま上空へと舞い上がった。
「行った、ね……」
「ご武運を!」
 ライゼルの呟きにユウマが頷き、その二人に叫ぶ。そして、目の前の怒り狂ったドラゴンを見据えて、剣を構えた。
「さあ、自分達はここからが正念場ですね」
「うん、まだまだ鎖の輝きは上々だよ。そして、ここから先はショータイムだ。皆、派手にいこうか」
 ライゼルはそう言って、ふと一度だけ上空を見上げた。
(「ま、心配はしてないよ弟。信用してるからさ」)

●赫熱竜ノトス
「もう、何人か待機してるみたいね」
 舞彩の視線の先には、15名程のケルベロス達が空中で来るケルベロス達を待っていた。お互いに頷きあい、そしてその先に居る巨大なモノを見る。
「でけぇ……」
 その巨大さはジェノバイドの想像を絶していた。今までドラゴンと相対してきたことのあるケルベロス達も、その大きさに思わず唸る。
 それでもケルベロス達は、お互いの相手を探し、臆する事無く目標を定めた。
「みんな、進退、足並みそろえて行こう」
 豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)がそう言うと全員が頷く。
「最前は尽くそう。……結果がどうなろうとも、な」
 鹿島・信志(亢竜有悔・e44413)はそう言って、喰霊刀を構えた。
「目の前にあんなのが居ると、流石に緊張するぜ。ま、頑張るさ。死なない程度に……」
 月・いろこ(ジグ・e39729)が、軽い言葉を紡ぐと、ふと他の班からの準備OKの言葉を受け取る。そして、彼もまた状況を返す。
 自分達の目的の敵を見据え、間違う事を拒んだケルベロス達は、割り込みヴォイスを使いながら、五つの塊となり、広がっていく。
「伝達、完了だ。さて、此方の敵はあの燃え上がるかの様なドラゴン、ノトス……。行くぞ……」
 レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)の号令と共に、ケルベロス達は一気に上昇を開始した。
「ガアアアアアア!!!」
 すると、突如として、強烈な熱そのものが空気を震わす咆哮と共に、上空から降ってくる。
「避けろぉ!!」
 頭上を覆いつくす光景に、強烈な威圧感を感じたスプーキー・ドリズル(シーファイア・e01608)が、大声で叫びつつ、自らも翼を片方を捻じ曲げて、急激な方向転換を敢行する。
 ズドオオオ……!
 だが、その熱線を避けることが出来たのは、わずかだった。
「く……!」
 愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784)は、自らの体から発火した炎の力に耐えつつ、また、翼を羽ばたかせて上昇する。それは、己の意思の為、ここで墜ちる訳には行かないからだ。ミライはその事を少し思い出し、気合の声を上げる。すると、その炎が掻き消えた。
「良いかい、皆。目的は分かってるかい? 耐える。邪魔をする。そして、この星の番犬として、牙を剥こう」
 スプーキーは素早くリボルバー銃『clepsydra』を抜き放ち、即座に引き金を引く。
『Be electrocuted!』
 蛍光ブルーの弾丸がノトスに向かう。だが、その弾はノトスの頑丈な尾によって弾き飛ばされた。
 スプーキーが言う目的とは、我々の本体、つまり人数を集中させたケルベロス達の本体が、廻天竜ゼピュロスを屠ること。そうすれば、儀式は失敗する。それこそが我々の勝利。
「さあ! いざと覚悟し、往生せい!!」
 服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)が、その弾かれた弾丸の様子に構わず、バスターライフルから凍結光線をぶっぱなす。その二人の攻撃が、こちらからの戦闘開始の合図となった。
「さ、勝ちに行こうか」
 メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)が、左側頭部の純白の髪飾り『Constance Elliot』から力を受け取る。
『刻遡れ時計草、時の巡りは我が手の内に』
 一番ダメージの大きかったミライに施したその力は、傷を巻き戻し、更に彼女の集中力をも増幅させたのだった。

●衝撃
「ぬおおお!!」
 信志が血煙を振り撒きながら、ノトスの頭上に飛び込む。
『我が血は邪道也、されど、我が剣は正道也。切裂き抉るは我が化身。その魂を持って贖え。』
 そして、信志の動きに合わせて姶玖亜が動く。
『さあ、踊ってくれないかい? と言っても、踊るのはキミだけだけどね!』
 姶玖亜の銃弾が、その動きを阻害するべく、ノトスの動きを読みながら打ち放たれた。
 その二人の攻撃は、ノトスをかすめ、僅かだが傷を付けた。
 だが……。
「ガアアアアアアア!!!」
 空中とは思えない速度で、その尾を振り回す。そして、その攻撃を近距離で受けた信志と姶玖亜、更に衝撃が力となり、全員を襲う。速度を併せ持った力そのものという攻撃がケルベロス達を吹き飛ばす。
「怯むな! 動ける者は我に続くのだ!!」
 レーグルが叫び、気咬弾を吐く。
「止めてやる! 一人のケルベロスとしてなぁ!」
「その程度かい? 我々はまだまだ生きている。それに、魔竜王の天下はとうにおわった事も知らないのかい?」
 そして、エネルギー光弾を射出するジェノバイドとスプーキー。
 そこへ飛び込む無明丸。
「ぬぅああああああ!!」
 時間を凍結する弾丸をライフルから射出すると、それぞれが激しくノトスの体に直撃し、そこから氷が発生する。
 だが、それでもノトスの動きは変わらなかった。まるで意に介していない様に、周りの様子を確認する。その顔を向けた先は、ゼピュロスに他ならなかった。
(「あっちは、上手く行きそうかな?」)
 こちらのケルベロス達とはまるで数が違う。いろこはそう思いながら様子を窺う。ゼピュロスも暴れてはいるが、集結したケルベロス達によって徐々に削っている事が分かる。
 すると、ノトスが動いた。援護を行うつもりである事は容易に分かった。
「させないぜ?」
 いろこはその動きを予測していた。翼を全力で動かし、ノトスの目の前に回りこむ。
 すると、いろこの周囲に真っ赤な糸が具現化される。
『この想いを受け入れて。逃げることは、許さない』
 その赤い糸が、ノトスに絡みつく。
「同胞のために命を使う覚悟があるなら定命化、いかがですか? 今なら歓迎しますよ♪」
 そしてミライが舞彩にマインドリングからから盾の力を施しながら挑発する。
「他竜の援護がしたい? それもいいわね。でもその時は、私達も味方の援護をさせてもらうわ」
 続けて舞彩が、その盾の力を感じながら、雷光と地獄の炎を纏わせたビームを打ち放ち、言うのだった。

 ケルベロス達の攻撃によって、ノトスは徐々に動きが鈍くなり、体を傷つけられていった。
 メイザースが時計草の力を順に施し、少しの勝機の為に、確実に回復と支援を行う。ケルベロス達は、攻撃と支援のバランスを保ちながら、力を奪いつつも、耐える事を選択する。
 わかってはいた事かもしれないが、ノトスのその体力は未だ尽きる様子は無かった。
 空中での持久戦。飛行状態でのケルベロスは、援護の力はあると言えど、消耗に耐える事が出来ず、一度に体力を削られてしまうのだ。
(「私、いつも守ってばかりだから、こんな時こそ、その想いに応えたい。……届いて」)
 自らの体力の限界を悟ったミライは、仲間に一瞥し、にこりと微笑んだ。
『君を思い出してキュッと鳴く まんまる瞳に 闘志を燃やして おやつを見つけてもキュッと鳴く 一緒に食べましょ 独り占めはダメよ?』
 ボクスドラゴンの『ポンちゃん』を頭にのせ、一節歌う。するとポンちゃんはジェノバイドに属性を施し、頭の上でくるりと向きを変え、主と共にノトスを凝視する。その歌は、ノトスの脳髄に響き渡ったのか、明らかなる動揺の動きを見せた。
 だが、ミライのその力を押し殺したのか、口に熱を溜め込むノトス。
「駄目だ! 離れて!!」
 直撃。
 その熱線はミライを巻き込み、また数人のケルベロスが被弾する。
「愛柳!!」
 力尽きたミライが、地上へと落下していく。それを舞彩が追おうとする。
 ガツッ!
「待て!! ここで、お主が行ってどうする。彼女もケルベロスである事を忘れるな」
 諭すように、だが、自分も気持ちは分かるという表情を作りながら、信志が舞彩の腕を掴んで止めたのだ。
「信じるという事も、必要だ……」
「……そう、ね。ごめん。どうかしてた。まずはこの敵を、止める」
 奥歯を噛み締めながらも、前を向く。此方の攻撃が効いていない訳ではない。それに、恐らくはゼピュロスも……。
 ドォン!!!!
 その時、地上から大きな爆発音が響き渡り始めた。
「何!?」
 姶玖亜の言葉に、嫌な予感が付きまとう。その音は自分達が来た方向から響き渡ってきたのだ。
 ドドド……。ドォン!!!
 激しい。そして、最後に一際大きな爆音が、ケルベロス達の体を震わせる。その衝撃は、ケルベロス達の心をも揺さぶるようであった。

●自らの目的
 ケルベロス達は、その空気の震えに焦る。だが、すぐにここを死守することが優先であると切り替える。
 無明丸とスプーキーが凍結光線を射出し、いろこが糸を絡める。そしてレーグルが少しでも耐える事が出来るように、紙兵をばら撒く。
 しかし、再び襲う熱。
「これまで、じゃのう……」
 そして、無明丸が炎を上げ、意識を失いながら、落下していく。
「ここで……、退くことは、出来ぬ……」
「でも、部が悪いのは確かだね。……何処まで耐え切れるのか」
 レーグルの呟きに、メイザースが隣で冷静に応答する。そして、オーロラのような光を、全員に施す。すると幾人かの炎が消える。
「でも、最後まで付き合ってもらおうかな? 折角だし」
 姶玖亜はこの状況でも理性を保ち、お気楽な言葉を紡ぐ。それは、ゼピュロスに対峙するケルベロス達の雰囲気を悟ったからだ。残ったケルベロス達が、一気に攻撃に転じ、怒涛の攻撃を繰り出していた。
 すると、ノトスが動く。明らかなゼピュロスの劣勢の姿に、そこへと突っ込もうとしている。
「させるかよぉ!!」
「行かせない!!」
「そう言う、事だ!!」
 ジェノバイド、舞彩、信志がこれまでつけて来た傷を一気に広げる攻撃を繰り出した。その攻撃達は氷の噴出する速度を速め、翼の傷を深くし、ノトスの行動を阻害する。
「ガアァァァァ!!!!」
 思うように動くことが出来ない事に苛立ったのか、ノトスは怒りの咆哮を轟かせた。
 それと同時に、ケルベロスの視界の隅に、一つの大きな影が地に落ちていく姿が見えた。
 ゼピュロスが墜ちていく。
「やったか!」
 これでもう、儀式を進めることはできない。
「……撤退すべき、だね」
 メイザースはそう判断すると、他の仲間達に合図を送りながらくるりと方向を変え、すぐさま熊本城の方へと下降する。すると、他のケルベロス達もすぐに撤退を開始する。ゼピュロスは落とせたが、他のドラゴン達は健在。此方もかなりのダメージを受けている。何より我々は儀式を壊すという目的を果たしたのだ。即ち、これ以上の追撃は、現状を考えるとリスクが大きすぎると理解したのだった。
 続々と流星のように下降するケルベロス達。どうやらドラゴン達に追撃をしてくる気配はない。
 即座の撤退は、一つの気がかりがそうさせていた。
 先ほどの爆発音だ。
 尋常ではない爆発音。何かあった事は明白だ。
 作戦の成功の喜びと胸を襲う不安。それを感じながら、ケルベロス達は、翼を折り畳む力を強めながら加速していったのだった。

●信頼と祈り
 ここで時を少し遡る。二人の突破を成功させたケルベロス達は、6人でエオスポロスと対峙していた。
「ユウマ!!」
「守り……抜く……。守って、見せます」
 エオスポロスの鉤爪をモロに食らったユウマが、ライゼルの声に大丈夫と振舞いながら何とか立ち上がる。膝はがくがくと鳴り、手に持った鉄塊剣を杖のようにしてでも、前に立った。
「あまり無理はしないことね。でも、あなたがそれでも立つのならば、私は支えるわ」
 玲斗がそう言って、少し乱暴ながらも、ショックを伴う治療を施す。そして陽葉が『阿具仁弓』から祝福の矢の力を犬太郎に与える。
「……大事な、戦いだからな。まだ立てる限り、俺が守るぜ」
 その矢の回復と力を感じながら、犬太郎がユウマとエオスポロスの間に立ちふさがる。
 ケルベロスの目的は背後にある熊本城に向かわせないこと。自爆を阻止することだ。だが、二人を突破させた今、少しばかりの焦りを感じ始めていた。二人分の戦力の減少が、これほどまでにバランスを崩させる物とは思っていなかった。動きを阻害する傷、それに氷の効果でダメージの底上げは付けていたのだが、いかんせん戦力の減少は否めなかった。それはつまり、それだけ相手を自由にさせるという事に直結したのだ。
「きりさけー」
 勇名が抑揚の無い声を出しながら、フェアリーブーツから星型のオーラを蹴り込む。
 ズバア!!
 魔法のオーラは、エオスポロスの鱗を派手に撒き散らす。
「ガアアア!!」
 だが、ブレスが前を行く犬太郎とユウマに吐き出される。
「く……!」
 ユウマは既に限界に来ていた。ブレスの効果なのか、腕や脚だけではなく、頭も回らなくなってきた。
「……あ」
 そしてユウマは、電池が切れた機械のように、そのままばたりと前のめりに倒れこみ、意識を失った。
「此処からは、任せろ。なあに、ユウマの分まで守ってみせるさ」
 犬太郎はそう言って最前列に一人立つ。だが、それも何処まで持つか。
 後数発は耐えることが出来るだろう、だが、まだ敵は倒れそうにない。時間が経過するほどに、此方の攻撃の手が止まってジリ貧になる事は予測できた。だがここで自分が倒れてしまえば、元も子もない。此方でやられてしまっては、行ったあいつ等が悲しむかもしれない。ひょっとすると後悔するかもしれない。でも、きっと仲間はやってくれるはずだ。犬太郎は信頼を併せ持った祈りのような想いで、自らを奮い立たせた。そして自分を回復しようとした陽葉を手で制し、腹に力を込め、叫んだ。
「さあ来い! 俺はまだ立ってるぜ!!」

●そして……
 最後の力を振り絞り、ケルベロス達は攻撃を開始する。ライゼルの鎖が突き刺さり、勇名の小型ミサイルが炸裂する。
「行っけー!」
 陽葉の弓矢がエオスポロスの翼を貫通し、限界を悟った玲斗が氷結の螺旋を放つ。
 そして、犬太郎が拳を握りこみ、ありったけの力を解放させる。
『一撃だ、俺のたった一撃を全力で完璧にお前にブチ込む』
 エオスポロスの腹にめり込む拳。
「ガアアアアアアア!!」
 余りの衝撃に、叫び声を上げるエオスポロス。
 しかし次の瞬間、ケルベロス達は目を疑った。その長い首は力尽きる事無くぐるりとケルベロス達に向けられ、その鋭い眼光がケルベロス達を射抜いた。
「……たおれない」
 勇名がぽつりと呟いたと同時に、周囲で爆音と共に衝撃が轟いた。
「!?」
 声も上げることが出来ず、そのまま全員がその衝撃に吹き飛ばされる。
「そんな……!!」
 ライゼルが見た光景は、熊本城に向かって次々と突っ込み、自爆していくドラゴンの姿だった。
 時間がかかりすぎたのだ。
「行かせ、……ない!」
 ライゼルが自分達の相手だけでもと思い、鎖を展開しようと試みる。だが、自らの任務だけを遂行しようとするエオスポロスの速度に、鎖の速度が追いつかない。
 そして……自爆した。
 堰を切ったように自爆していくエオスポロスの群れは、あっという間に熊本城を破壊した。
 上がる轟音と、衝撃。
 他の相対したケルベロス達も、かなりのダメージを与えていたはずだが、その数は熊本城を破壊するには十分な破壊力を持っていた。

 爆発が終わり、今までの喧騒が嘘のような静けさを感じる。
 熊本城は砂煙に覆われ、靄がかかったようにその存在を目視できなかった。
 ケルベロス達は、待つしかなかった。それは、少しの気配を感じたからかもしれなかった。
 禍々しい、気配。
「なにか、ある」
 勇名が呟く。
「……嫌な予感がするわね」
「これは、やばいヤツ、だよな?」
 玲斗の声に犬太郎が頷く。
 砂煙が晴れていくごとに、空間の歪みと共にそれは現れた。
「あれが……ドラゴンオーブ……」
 陽葉が目を見開き、怪しく輝くそれを確認する。
「退こう……。あれは、僕達で、少なくとも今の僕達じゃあ、どうしようも無い物かもしれない」
 ライゼルは倒れたユウマを担ぎ、呟いた。余りの存在感に冷や汗が背中を伝う。
 天守閣のあった辺りに、浮かび上がったもの。それこそがドラゴンオーブに他ならなかった。

作者:沙羅衝 重傷:玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月7日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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