熊本城ドラゴン決戦~天駆ける竜

作者:遠藤にんし


 夕焼けは間もなく夜に代わる――そんな空に、侵空竜エオスポロスの姿がある。
 向かう先は熊本城。突っ込んでいったエオスポロスは自爆し、そのたびに熊本城は破壊されていく。
 破壊に次ぐ破壊――もはや廃墟と呼べるほどに変わり果てた熊本城から、姿を見せたものは。
 それは球体。中に秘めたものが何なのかをはっきりと知ることは叶わないが、そこに眠る強大な力だけは、誰の目にも明らかなものだった。


「熊本市での戦い、お疲れ様だった。おかげで、最小限の被害で敵を倒すことが出来たよ」
 高田・冴はそうケルベロスたちに伝えてから、現在の状況を伝える。
「竜十字島から出撃したドラゴンの軍団は、すぐそこまで迫っているようだ」
 奴らの目的は、熊本城に封印された魔王竜の遺産の奪取で間違いない。
「みんなのおかげで、魔竜王の遺産の封印は破られていないが……奴らは、封印を無理やりにでもこじ開けようと、熊本城に特攻しては自爆するようだ」
 そうすることで己のグラビティ・チェインを捧げ、封印を解放しようとしているらしい。
「今すぐに熊本城に向かって、熊本城の防衛に参加してほしい」
 敵の目的は二つ――ひとつは『侵空竜エオスポロス』の軍団を熊本城に突撃の上自爆させ、魔竜王の遺産の封印を解除すること。
 そしてもう一つが、覇空竜アストライオスと配下の四竜、廻天竜ゼピュロス、喪亡竜エウロス、赫熱竜ノトス、貪食竜ボレアースの儀式によって、封印解除された魔竜王の遺産を竜十字島に転移させることだ。
「竜十字島へ転移されてしまえば、こちらから手出しするのは厳しくなってしまう。ドラゴン勢力の思い通りに事が運んでしまうだろう」
 それを防ぐためには、侵空竜エオスポロスの撃撃、そして覇空竜アストライオスと四竜への攻撃をしなければならない。
「何であれ、強大なドラゴンとの戦いになるだろう。それでも、私達はここで負けるわけにはいかないんだ」

 まず初めに、熊本城に突撃してくる侵空竜エオスポロス1体との戦闘が必要となる。
 侵空竜エオスポロスは、覇空竜アストライオスの配下のドラゴンで鋭い斬撃や電撃のブレスを得意とする敵のようだ。
 機動力にも優れた侵空竜エオスポロスは、熊本城突入の12分後に自爆、コギトエルゴスムとなることで、封印解除のためのグラビティ・チェインを放出するようだ。
「つまり、阻止するためには、12分以内に撃破しなければいけないということだね」
 撃破しきれなかった場合でも、戦いで消耗させることが出来れば、自爆の効果が弱まる。そうなれば封印解除のためのグラビティ・チェインも減少するので、なるべく多くのダメージを与えるようにしなければならないだろう。
「これに加えて、儀式を行う覇空竜アストライオスと四竜の対策もしないといけない」
 覇空竜アストライオスは、自爆による封印の解除に失敗した場合、儀式を終えた配下の四竜をささげてでも魔竜王の遺産を竜十字島へ送り届けようとする。
 これを防ぐためには、儀式の完成前に覇空竜アストライオス――あるいは、四竜の一体でも撃破しなくてはならないのだ。
「とはいえ、覇空竜アストライオスと四竜は侵空竜エオスポロスの軍団の背後にいるから、侵空竜エオスポロスを突破しなければ戦うことは出来ない」
 今回は、侵空竜エオスポロスと戦いながら、少数の飛行可能なケルベロスを突破させ、覇空竜アストライオスと四竜を奇襲する作戦が最も可能性が高いだろう。
「今回は、非常に危険な戦いになる……でも、私はみんなの勇気と力を信じている」


参加者
久条・蒼真(狐月侍・e00233)
三和・悠仁(憎悪の種・e00349)
水守・蒼月(四ツ辻ノ黒猫・e00393)
立花・雪菜(花天月地・e01891)
リーズレット・ヴィッセンシャフト(焦がれる世界・e02234)
市松・重臣(爺児・e03058)
瑞澤・うずまき(ぐるぐるフールフール・e20031)
妹口・琉華(ひとひらり・e32808)

■リプレイ


 大気を震わせるほどの轟音を伴って、ソレは姿を見せた。
 侵空竜エオスポロス――その威容を目にしたケルベロスらは、即座に戦闘を始める。
 真っ先に動いたのは市松・重臣(爺児・e03058)。次なる廻天竜ゼピュロスとの戦いをも控えている重臣は、翼を広げてエオスポロスへと迫る。
「儂の本気を見せてしんぜよう」
 翼を打てば生まれるのは暴風。負けじとオルトロスの八雲は刃による斬撃を叩きつけると、エオスポロスの瞳がジロリとケルベロスらへ向けられる。
 リーズレット・ヴィッセンシャフト(焦がれる世界・e02234)は威容を見上げながらも臆することは無い。短いスカートの裾を揺らしながら、リーズレットは呟く。
「我が生み出すは青藍の薔薇」
 言葉に、大地が蠢く。
「常闇より出し無数の薔薇よ、鋭い棘で彼の者を切り刻み――」
 大地からは青藍の薔薇が姿を見せ。
「――その蔦で薙ぎ払い束縛せよ」
 途端に蔓はエオスポロスへと殺到し、巻き付いては青い花を咲き誇らせる。
 エオスポロスが身をよじれば儚くちぎれてしまうものだったが、ボクスドラゴンの響も箱ごとぶつかることでダメージを与える。
 三和・悠仁(憎悪の種・e00349)の元で凝厭気トルウァトゥスは歪み、刃持つ咢へと変貌した。
 食らいついたもは喉笛へ。頑強な皮膚の下の肉にまで到達は出来なかったが、エオスポロスは牙を剥き、そこに負荷があることを思わせる呻きを発した。
 ――呻きはブレスへと変わり、悠仁へ向けて吐き出される。
 猛威を振るうブレスの前へと水守・蒼月(四ツ辻ノ黒猫・e00393)は飛び出し、そのダメージを受け止める。
 同時に生まれる輝きは蒼月のオウガメタルのもの。最も層の厚い後衛へと輝きは届けられ、護りを固めた。
 ウイングキャットのねこさんが吹かせる風に後押しされるように飛び出した瑞澤・うずまき(ぐるぐるフールフール・e20031)の手にはチェーンソー剣。力強い一撃に続いて、オウガメタルの輝きを得た妹口・琉華(ひとひらり・e32808)はケルベロスチェインを投擲。
 前衛にて陣を組み、蒼月へ癒しの力を与えながら、琉華はボクスドラゴン・ぴぃへと。
「ボクが皆を守る。ぴぃは攻撃に専念してほしいんだ」
 言葉を受け止めて飛び立つぴぃ――身を彩る花と同じ色のブレスをエオスポロスへと吐き出した。
 久条・蒼真(狐月侍・e00233)もまた初動は癒し。硬質な輝きを癒しに転化することに蒼真は不慣れではあったが、熊本城を守るために、今はその力を使う。
 浴衣の裾を揺らしてエオスポロスに急接近するのは立花・雪菜(花天月地・e01891)。エアシューズに籠められた力は流星となって発揮され、エオスポロスの動きを鈍らせる。
 ――初撃、まずは一分。
 あと数分で重臣は突破に動く――あと十分ほどでエオスポロスは自爆する。
 それを防ぐことが出来るのは、ここにいる八名だけだった。


「雪菜さん、行くぞ! 共に敵に足止めを食らわせ次に繋げよう!」
 リーズレットの言葉に、先ほど蹴撃を放ったばかりの雪菜はうなずく。
「OK! リズ、そっち任せるね! うずちゃんに届け私たちの愛ー!」
 エアシューズ『Himmel』による蹴りの用意がなかったリーズレットはもう一度ローズ・バインド――立て続けということもあって今度は見切られてしまうが、回避の瞬間に雪菜の生んだ爆発が、エオスポロスへと襲い掛かる。
 響もブレスを吹いてケルベロスたちを支援する中、二人は両手を上げて。
「うずまきさん、増し増し宜しくな!」
「よぉし! ボクにまかせろぉーー! ばりばりっ!」
 二人の間を通り抜けざまにハイタッチ、うずまきはファミリアを飛ばすことで二人の攻撃の力を増幅させにかかる。
 エオスポロスの猛撃は前衛から後衛までダメージを与えていく。蒼月、ねこさん、八雲、響は守りに徹するが、それでも全てのダメージを肩代わりすることは出来ない。
「まずはボクが強くならないと。みんなに迷惑はかけたくない」
 琉華の声に、彼自身の髪に咲く花がほころんで香りを満たす――ぴぃは箱ごとぶつかって、蒼月は半透明の御業をエオスポロスの元へと向かわせると、御業はエオスポロスの顔面を覆うように鷲掴みにした。
 そうしていられたのはほんの僅かの時間だったが、少しばかりでも視界を奪われたのが気にくわなかったのか、エオスポロスは咆哮を上げる――震えあがるような声を耳にして、蒼月は思う。
(「そこまで必死になって欲しい遺産ってどんなものなんだろうね?」)
 気になる気持ちはあるが、ろくなものじゃないだろうという予感もまたある。
 砕いて埋めるためにも、今はこの敵を倒さなければならなかった。
 悠仁の凝秘具ジズフからは釘のように鋭いものが生える。首を、あるいは心臓を、そうでなければ致命的な一撃となるように悠仁はそれを振り上げ、全力でもって振り上げる。
 叩きつけられた攻撃に逆らうように、エオスポロスは何度目かのブレスを吐き、八雲は対抗するように飛び出しては神器の瞳を向ける。
 蒼真がルーンアックスを握る手に力を籠めれば、破壊のルーンが浮かび上がる。加護を破る力を与えられた重臣は、自らへ癒しを重ねる。
 間もなく重臣は突破を試みる。その準備段階として、今は癒しに徹するべき場所だと判断したからだ――そして。
 時の訪れを告げたのは、雪菜だった。


「ええいこうなりゃヤケだ! 唸れ俺の冷やしキュウリ!! 出でよベジタブルブレイドぉぉぉっ!!」
 鋭い突きと共に発された雪菜の叫び。
 突き立てられた一撃にエオスポロスの意識が逸れた瞬間を狙って、重臣は大きく翼を広げる。
 気を惹こうとするように響は重臣のいる方とは逆方向から攻撃を仕掛けるが、異変に勘付いてかエオスポロスは爪を重臣へと振るう――八雲が重臣を守り通し、地獄の瘴気を残して消滅した。
 瘴気の残滓をかき集めるようにぴぃはブレスを吐き出し、琉華もこの時ばかりはねこさんにヒールを託し、琉華自身はエクスカリバールを手にエオスポロスの元へ、あらん限りの力でエオスポロスを打ちのめす。
「攻撃だ、重臣さんを行かせよう」
「うんっ、やっちゃおーうっ☆」
 琉華の言葉にうなずいて、エオスポロスの元へ駆け付けたうずまきが与えるのは炎。
 うずまきが走るたび勢いを増した炎がエオスポロスの脚を焼き濁ったような苦悶の声を上げさせた直後、悠仁が肉薄して凝呪刀ラスフイアでもって一撃を放つ。
 仲間のために、熊本のために、ドラゴンオーブのために――己の殺意のために。悠仁が浴びせかけた斬撃と殺意は、エオスポロスの魂を削り取るものだった。
 炎に焼かれるエオスポロスへと凍てつく波動を放つのは蒼月。バスターライフルの一撃を受けるエオスポロスの身からは炎は消えず、それでも氷は焼ける肉体から温度を奪っていくものだった。
 受け取ってしまった氷を振り払うように暴れまわるエオスポロスへと、リーズレットは凍れる力を解き放つ。
 鹵獲術士としての力が生み出したのは氷河期の精霊。吹雪を思わせる精霊たちはエオスポロスを取り巻き、氷の中にエオスポロスの巨体を押し込める。
 立て続けの攻撃に巨躯の動きが鈍る――それもごく僅かな時間のこと、とケルベロスたちは承知していた。
 だからこそ蒼真は、自身の魔力を集中させ。
「この一撃は道を切り拓く覇道の力」
 その魔力は、エオスポロスへと。
「全力を持って受けてみろ」
 ただ一点、エオスポロスの心臓めがけて放たれた――蒼真の放った殱戟の覇剣によってエオスポロスは大きくのけぞり、道が出来る。
「再会は勝鬨の下で――必ずや良い報告を交し合おう!」
 翼を広げた重臣は空へ。
 まさに今こそ正念場。護り通すためにと重臣は天高く飛翔し、次なる戦いへと向かう。
 ――その姿を最後まで見送ることなく、ケルベロスたちはエオスポロスと対峙した。


 重臣がこの場から離脱したのは戦闘開始から五分が経過した時だった。
 折り返しの六分を超え、残された時間を思いながらも戦いは続く。
 突破が完了し、エオスポロスの撃破のみが目的となった今、蒼月がやるべきことは庇いと癒し。ブレスによって響とねこさんまでもが消滅した今、仲間のダメージを肩代わりできるのは蒼月だけだった。
 エオスポロスによって与えられるダメージは蒼月一人で負うにはあまりにも重い。琉華はウィッチオペレーションで幾重にも癒しを送り届けていたが、その表情には僅かに焦燥が漂い始めた。
 既に七分が経過――残り五分のうちに、撃破しなくてはならない。
 ぴぃにも琉華の抱くその気持ちが届いているのだろうか、吐き出すブレスは勢いを増してエオスポロスを取り巻く。
 ヒールを積み上げるのは蒼真も同じ。攻撃のたびに庇いに向かうのは蒼月ただ一人となっているからこそ、ヒールは重要性を増していた。
 とはいっても、護り手を担っていたサーヴァントはもういない。他の位置につく仲間の消耗だって見過ごせないほどになっている。エオスポロスもまたダメージは蓄積しているようだったが、どちらが最後まで立っていられるのかは分からなかった。
 八分が経った辺りで、蒼真は声を漏らす。
「攻撃するなら、火力を意識しなければならないな」
 繰り広げられる攻撃の応酬、残り時間への焦燥――それらに気を取られすぎれば、暴走……あるいは死の道へと転落することだろう。
 そうならないためにと、うずまきは癒しを展開して攻撃への布石を打つ。
「ふたたび! たーげっと・ろっくおん・ちゃ~んす!」
 見るべきものは眼前の敵。すべきことはエオスポロスの撃破。
 そう知らしめるようなヒールを受けて、雪菜は鋭い攻撃で攻撃に加勢。ドラゴニックハンマーを手にしたまま大きく後退したところで時計を見れば、残りは――。
 時計を見ようとした瞬間、激しく視界がぶれた。
 互いの終わりが近いことを悟ってかエオスポロスは辺りをかき回し、おぞましい唸りと共に口内でブレスを渦巻かせる。これまで以上の力でそれが放たれる――そう気付いて、リーズレットはドラゴンの幻影を生み出して。
「焼き払えっ!!」
 掌から生まれたそれらに命じることでリーズレットは相殺を図るが、足りない。
 溢れ出る竜種の威容が戦場を舐める。苛む痛みに誰かが声を上げたと誰もが感じたが、それが自分の叫びなのか、誰かの叫びなのか、それとも吐き出されたブレスが耳を焼くせいなのかはもはや判然としなかった。
 轟音がやむ。ブレスが途切れる。中衛として攻撃を逃れたうずまきが時計を見れば、残り時間は一分ちょうど。戦場を見渡せば――。
「蒼月さん!」
 ブレスから仲間を護ったのだろう、蒼月の身体はよろめいて、倒れ込む。
 一人では後衛に立つ仲間を庇いきることは出来なかったのだろう。雪菜も体力の面から先ほどの攻撃を耐えきれなかったのか、漆黒の髪がおびただしい赤に濡れているのが見えた。
 まだ息はある。それでもエオスポロスは残された力を振り絞り、もう一度ブレスを吐き、自爆しようとしているのが分かる。
 痛ましい姿と状況に、うずまきの中で何かが声を上げた気がした――現状を打破する力が、奥底で誘っているのが感じられた。
 あと少しで、そのくらやみと手を繋ぐことは出来る。
 でも。
「三界の虜囚」
 視界の端で、黒炎が。
「欲界の引足」
 残り時間は三十秒。
「堕ちて過ぎ行く三悪趣」
 悠仁の右目から生まれた炎が、彼の武具を包む。
「諦念せよ」
 螺旋を描く炎。
「呪われてあれ」
 エオスポロスが口と翼を大きく開いて、最後の攻撃へと向かう。
「糸垂らす蜘蛛も灰の中」
 凝呪刀ラスフイアが振るわれると、獄炎はエオスポロスの下へと。
「――【塵境毀壊・罪嗤い】」
 喉笛が両断されてブレスは吐くことが出来ない。
 心臓に亀裂が走れば生存すらも許されはしない。
 十二分を超えても、自爆の衝撃が辺りに満ちることはなかった。

 生きている――激しいダメージを負った者も、魂の力だけでどうにか立っている者もいるが、とにかく七名は生き延びてはいる。
「ドラゴンオーブはどうなったんだ……?」
 雪菜に肩を貸しながらのリーズレットの言葉に答えはない。
「分からないな。無事だと良いが……」
 蒼真は呟いて、疲弊しきった己の体を引きずるように動きだす。
 全体の戦況がどうなったのかをここから知ることはできないが、少なくともこの場における戦いは成功に終わった……そう言うことが出来るだろう。
 今はただ、良い結果が出ていることを期待して。
 ケルベロスたちは、空を見上げるのだった。

作者:遠藤にんし 重傷:水守・蒼月(四ツ辻ノ黒猫・e00393) 立花・雪菜(花天月地・e01891) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月7日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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