熊本城ドラゴン決戦~竜に挑みし者達

作者:絲上ゆいこ

●紅に染まる空は、夜を連れて
 熊本城を飲み込む影は、夜だけでは無い。
 城へ影を落とす、大量の黒き竜は、夜を、影を率いて迫り征き。
 竜達は速度を落とす事無く、熊本城へとこぞるように突っ込んだ。
 一瞬の間。
 城へと押し込まれた竜の身が一瞬光ったかと思うと、爆音が響き渡った。
 黒煙が舞い上がり、崩れ落ちる城。
 その瓦礫の間から、禍々しくも恐ろしい力を秘めたモノの姿が現れ――。

●決死隊
「よーう、集まってるか? 熊本の前哨戦は大勝利って言っても良い感じだったぞぅ」
 結い上げた白髪を揺らしてパチパチと手を叩いた、レプス・リエヴルラパン(レプリカントのヘリオライダー・en0131)は皆に笑いかけ。
「さて。集まってくれたお前達には今すぐ熊本に出向いて貰い、先の戦いに参加したケルベロス達と合流して、熊本城防衛戦をして貰いたいと思っているぞ」
 早速片目を瞑ると、手のひらの上に資料を展開した。
 先に行われた熊本全域での戦いでは、最小限の被害でドラゴン勢力を撃退する事に成功したケルベロス達。
 しかし。
 竜十字島から出撃したドラゴン軍団は、すでに熊本目前に迫っている。
「皆のお陰で、敵サン共は一般人を倒す事でのグラビティ・チェインを集める事に失敗。魔竜王の遺産の封印はまだ破られては居ないが――」
 レプスが予知で語った通り。
 熊本に到着したドラゴンの軍団は、熊本城に特攻を行い。自爆する事で自らのグラビティ・チェインを捧げて、その封印を解放しようとしているのだ。
「いやー、涙ぐましい献身だが……、俺達からすりゃたまったモンじゃねェな」
 肩を竦めたレプスは、資料を切り替える。
「敵サンは『侵空竜エオスポロス』の軍団を熊本城に突撃させて竜王の遺産の封印を解いた後は、『覇空竜アストライオス』と配下の四竜、『廻天竜ゼピュロス』、『喪亡竜エウロス』、『赫熱竜ノトス』、『貪食竜ボレアース』が儀式を行う事で魔竜王の遺産を竜十字島に転移させようと目論んでいるようだ」
 魔竜王の遺産が竜十字島に転移してしまえば、ドラゴン勢力の野望を食い止める事はほぼ不可能と成ってしまうであろう、とレプスは言う。
「って訳で、皆には今回、侵空竜エオスポロスを迎撃すると同時に、儀式を行う覇空竜アストライオスと四竜をぶっ叩いて貰うぞぅ」
 口調は軽いが、言っているレプス自身自覚しているのであろう。
 それは口で言う程簡単では無い、とても困難な事だと言う事を。
 眉を下げ、瞳を細めたレプスは言葉を次ぐ。
「まず、お前たちには熊本城に突撃しようとする『侵空竜エオスポロス』の1体と戦って貰うぞ」
 エオスポロスは熊本城突入の12分後に自爆してコギトエルゴスムとなる事で、封印の解除の為のグラビティ・チェインを放出しようとする。
 それを阻止する為には、12分以内に撃破する必要があるという事だ。
「もし、撃破ができなかった場合もできるだけダメージを与えておいて欲しいんだ。ダメージが蓄積していればしているほど、放出されるグラビティ・チェインの量も減るはずだ」
 切り替えられたレプスの掌の上の立体映像は、巨大な黒い竜。
 この竜こそ、『侵空竜エオスポロス』である。
「コイツは素早く動く上に、鋭い斬撃を繰り出して来るぞ。電撃のブレスも得意としているようだな」
 レプスは小さく息を吐き。
「そして、さっきも頼んだ通りもう一つ」
 そう、今回の目的はエオスポロスの撃破だけでは無い。
 同時に、儀式を行おうとする覇空竜アストライオスと四竜への対策が必要となってくるのだ。
「『覇空竜アストライオス』は自爆での封印解除に失敗した場合、儀式終了後の四竜を犠牲にしてでも、魔竜王の遺産を竜十字島に送り届けようとする、と予知に出たぞ」
 それを防ぐ為には、そもそもグラビティ・チェインを減らしてしまうしかないであろう。
 つまり。
「お前たちには『侵空竜エオスポロス』に加えて、『覇空竜アストライオス』か四竜を、最低でも1体は撃破して欲しいんだ」
 竜は一体でも強大な力を誇る。
 しかも、覇空竜アストライオスと四竜は、エオスポロスの軍団の背後に位置している。
 正攻法であれば、エオスポロスを突破しなければ戦いを挑む事すらできないのだ。
「……っつー訳で、皆で検証を重ねたンだが……。『侵空竜エオスポロス』と戦いつつ、少数の飛行可能なケルベロスを突破させて、覇空竜アストライオスと四竜を奇襲する作戦が成功の可能性が最も高いっつー事になったンだ」
 飛行状態は、前衛・中衛がいなくても「近」の攻撃を受けない、という特殊なポジションである。
 他のポジションのように攻撃力が上がるわけでも、命中率が上がるわけでも無い。
「『覇空竜アストライオス』と配下の四竜は互いに連携して戦う。っつー訳で突破した全戦力を1体の目標に集中させた場合は、他の4体が連携して妨害をしてくるだろうな。……本命の攻撃の他、残りの4体に対しても少数での攻撃を仕掛けて、連携を妨害する必要があるって事だ」
 掌の上の資料では、ケルベロス達と退治する6匹のドラゴンが表示されている。
「四竜は『覇空竜アストライオス』を守る事を最優先にするぞぅ。ある程度の戦力でアストライオスを攻撃しつつ、本命にキメた竜に攻撃を集中させるのも良いかもな」
 両目を開き、ケルベロス達に向き直ったレプスは真剣な表情。
「――本当に、本当に危険な作戦だ。無理だと思ったヤツは他のヤツに任せて貰って構わない。……だが、ここでドラゴン共を止められないと、良くない事が起こる事は確かだ」
 ケルベロス達を見やったレプスは、どこか祈るように言葉を紡ぐ。
「すまねえが、……頼んだぞ、ケルベロスクン達」
 そして、レプスはいつものように笑って見せた。


参加者
フェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)
平坂・サヤ(こととい・e01301)
アルディマ・アルシャーヴィン(リェーズヴィエ・e01880)
アルケミア・シェロウ(ユーリカ・e02488)
リィ・ディドルディドル(悪の嚢・e03674)
クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)
プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)
ネリシア・アンダーソン(黒鉛鬆餅の蒼きファードラゴン・e36221)

■リプレイ

●夕
 茜色の空を背に佇む熊本城。
「……わぁ、すごい……」
 青い羽根を広げたネリシア・アンダーソン(黒鉛鬆餅の蒼きファードラゴン・e36221)が、思わず感嘆の息を漏らしてしまった事を、誰も咎められはできないだろう。
 空を埋め尽くす影は、鳥の影なんて生易しい物では無い。
 それは1匹が10メートルを超える、大量の巨大な竜影の群れ。
 手を翳して空を眺めていたプラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)の黒革のヒールが、石畳を叩いて音を立てた。
「ドラゴン大攻勢って感じかな? この量のドラゴンは圧巻されちゃうね」
「ああ、……全くだな」
 腕を組んだまま。
 倣うように空を見上げるアルディマ・アルシャーヴィン(リェーズヴィエ・e01880)が、細く息を吐く。
 自らが周りのケルベロス達に比べて、力が不足している事は自覚していた。
 しかし、アルディマは貴族の末裔だ。
 民は護るべき者――竜勢力が、罪なき人々。……市街地を狙った事は、けして許せる訳では無い。
 その紫色の瞳に揺れるのは、怒りと決意の色だ。
「大丈夫ですよ」
 平坂・サヤ(こととい・e01301)は、鴉めいた燕尾を揺らして首肯する。
 人事は全て尽くした、何なら皆で水垢離だって行った。
 ならば、後は。
「天命とは、待つものではなく観るものです」
 サヤはまっすぐに侵空竜を睨めつける。
「そうそう、天命は神様が与えるものだよ!」
 つまり、神様の私に任せなさいと言う事らしい。
 胸を張ってぴかぴかのゴッドスマイルを浮かべたフェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)が宙を掻くように、紫電を纏う杖で大きく円を描く。
「神様はドラゴンよりも凄いってこと教えてあげる!」
「それは、それは、よろしくお願いしますねぇ。――それは、よくあること」
 サヤが観れば、道がつく。
 ありえることは、おこること。
 定められた竜の因果を、少しだけ捻じ曲げる魔力。
 重ねるように、針路を定められた雷撃が、城へと一直線に向っていた侵空竜エオスポロスを貫き。
 進路を邪魔された事に、侵空竜はケルベロス達を睨めつけた。
 大きく口を開く竜。
 ごう。
 地響きに似た轟きが、空と地を震わせた。
 それは、悪念と盲信。
 邪魔者は排除し、自身を捧げる事を断決した、雷を纏った不退転の咆哮だ。
「――ッッ!」
 ビリビリと全身で感じる、純然なる敵意。
 彼らにも矜持はあろう。
 しかし、それはこちらとしても同じ事だ。
「うるさいわね」
 翼を大きく広げて空を舞うリィ・ディドルディドル(悪の嚢・e03674)が、尾をゆらゆらと揺らし。
 避雷針代わりに投げつけたボクスドラゴンのイドが雷のブレスを受けて墜落して行くのを横目に、普段と変わらぬ赤茶色の視線でバッサリと言い斬った。
「来なさい、倒してあげる」
 リィの力強い言葉に。思わず怯みそうになっていた心を抑えつけながら、クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)は強く強く、盾の持手を握りしめた。
「……如何に強敵であろうと、守護の騎士として皆様を護りきるでありますっ!」
 纏ったオウガメタルが加護を光を灯し。
 光の羽根を大きく広げて爆発的に加速すると、後衛を背に。クリームヒルトは雷撃を盾で受け止める。
「絶対に通してなんかあげない」
 銀の髪が、さらさらと揺れた。
 アルディマの前に立ったアルケミア・シェロウ(ユーリカ・e02488)が、焼けた背に瞳を細めた。
 借り物の服だが怒られたら、まあ謝っておこう。
「――感謝する」
「うん。まだまだ庇うからさ、ヒールは頼んだぜ」
 にい、とアルケミアは不敵に笑う。
 慌てて、テレビウムのフリズスキャールヴが癒やしを与えるためにピョイピョイ踊りながら応援する。
「あなたのしようとしている事は、置いといてさ」
 サキュバスの、空を飛ぶ事を忘れた羽根が風を切った。
 雷撃が駆け抜ける横を、跳ねるように。
 竜の巨体へと、間合いを詰めたプランが竜の頬に手を伸ばす。
「余計な事を考えないで、わたしの事だけ見てほしいよ」
 わたしをみて、めをはなさないで。
 竜の愛おしさを満たすように。
 サキュバスとしての本能を隠すこと無く、プランは甘く甘く笑む。
 視線を奪われたかのように、一瞬動きを止めた竜。
 その隙を逃す事無く、翼いっぱいに風をはらんだリィが空を蹴り。
 練り上げたグラビティは、漆黒を纏う鉤爪と化す。
「ここに来た事を、後悔させてあげる」
「同感だね」
 指先に膨れ上がったエクトプラズムを纏わせて。
 懐に潜り込む形で同意を示すのはアルケミアの声だ。
 竜の巨体の上と下。
 精神を犯す爪先が竜を刳り、霊弾が顎下にぶちかまされる!
 バランスを崩されたエオスポロスは、軋んだ鳴き声を響かせ。
 うっとおしそうに瞳を細めて石垣を蹴り削りながら、勢いを殺してその場に齧りついた。
「……熊本城も、熊本も……渡さないよっ!」
「罪無き人々を襲った事、その身で償って貰おう」
 加護を宿した輝きを放つネリシアに、アルディマの生んだ加護が重ねられ。
 応えるかのように、侵空竜は吠える。

●空
 自由自在に戦場を飛び回るリィは、竜の頭上で翼で風を受け止めるのを止めた。
「邪魔よ」
 翼を止めれば、その身は重力に従って落下する。
 彼女の体重と、重力に乗った勢いを籠めた刃の様な蹴りを竜にお見舞いしてから、再び空へと飛び立つリィ。
 しかし。
 空中からの一撃はどうしたって軽くなってしまう。
 軽く踏み堪えた竜は、牙を剥く。
「威力より物量と確実な効果を……生成開始っ! ――鬆餅焼成!」
 リィとは反対側に翼を駆け。竜の死角へと潜り込んだネリシアの放つワッフル型のビームが、幾つも放たれた。
 見えぬとは言え、気配を察知した竜が跳ね跳ぶように風を巻き起こし。尾を揺すって威圧するように吠えて、間合いを取る。
 サヤのポケットの中で揺れ、定刻を伝えるスマートフォン。同時にピリリとプランの時計が音を立てた。
 か細いその音に竜が警戒したように反応し、その身を不機嫌そうに捻る。
「5分経過だよ」
 囁いたプランの声。
 それは始まりの合図だ。
「了解した!」
「封印は、解かせないであります!」
 皆の後ろに居たアルディマが地を蹴って、その翼に大きく風をはらませ、同時に槌を握って光の翼を広げたクリームヒルトが声を上げて、風を切って駆けた。
 まるで、二人共飛び立つ寸前のように。
 クリームヒルトの腕に握りしめた槌が砲と形を変え、グラビティが弾ける。
 竜が感じたのは、何か不自然な強い違和感。
 咄嗟に巨大な腕を翳して、違和感を持った者達を払い落とそうとする。
 しかし、それはエオスポロスにとって一番の悪手であった。
「神様が割れるのは、海だけじゃないよ」
「騎士さん、わたしとみんなを護ってね」
 フェクトのライトニングロッドに籠められた魔力は冴え冴えしい刃を湛え、プランの生み出したエネルギー体の騎士が氷槍を携える。
「ドラゴンの意志だって、その身だって割ってみせるっ!」
 翳された腕をカチあげる形で、フェクトと氷の騎士はその得物を交わし振るう!
 振り下ろし損ねた腕は、更に得物を狙い――。
「邪魔しないで欲しいでありますッ!」
 光の翼で生み出された勢いをそのまま、懐へと潜り込んだクリームヒルト。
 轟音を立てて、横薙ぎに叩き込む形で放たれる竜砲。
「そう、そっちじゃないよ」
 アルケミアの朱色の瞳が、怪しく蠢いた。
 瞳に宿りし冥王の術式が揺れ、その視線は斬撃を生む。
 こちらを、見ろ。
「刮目せよ」
 畏敬せよ。戦え。
 そして――仲間を、通せッッ!
 振り下ろされた腕は、クリームヒルトを薙ぐ寸前でアルケミアへと叩き込まれる。
 鮮血が爆ぜて弾き飛ばされた彼女は強かに身体を打つが、彼女の口元は笑みに歪んでいた。
 後方へと届かぬ攻撃は飛び立つ『飛行』中の二人――、リィとネリシアに届きはしない。
「シェロウ、まだまだ庇うのだろう?」
 アルディマの癒やしの力がアルケミアを包み。
「あったりまえ、だよ」
 口の中に溜まった血を吐き出して、アルケミアは立ち上がった。
「それじゃ、行ってくるわね」
 返す手で振り上げられた爪先をギリギリまで引きつけて。
 避ける形で宙を蹴った、リィは懐をすり抜けて空を翔ける。
「イド」
 途中まで並行して飛んだイドを突き放すように、唇に一度押し付けた人差し指をイドの額に押し付けるリィ。
 ちゃんと仲間の力になりなさい。
 廻天竜へと翼を羽ばたかせるリィとは反対側。
 リィが引きつけた分、悠々と侵空竜をすり抜けて駆け行くネリシアが狙うは覇空竜。
「……皆、気をつけてね!」
「――いってらっしゃい、ご武運を!」
 宙を蹴って二度跳ねたサヤが、飛び込む形で竜の傷を抉るように刃を振るいながら、空を見ること無く言う。
 敵の動きから目を離す事など出来やしない、それほどの強敵だ。
 しかし、ケルベロス達はその強敵の隙を突いて二人を送り出す事はできたのだ。
「後は、墜とすだけだね」
「よーし、全部私に任せてっ」
 プランとフェクトは背中合わせ。
 後の戦いは人数が減った分だけ、辛い戦いと成るだろう。
 だからこそ、フェクトは笑って見せた。

●光
 ころんと跳ね飛ばされたフリズスキャールヴが、倒れたままその画面にパラライズを示す雷のアイコンを映し出している。
「皆様ッ! もう少し、……もう少しであります!」
 盾を構えたまま、クリームヒルトの焦りの滲む声。
 ジリジリと熊本城へと近づき征く侵空竜。
 竜の体力も減ってきてはいた。
 しかし、それ以上にケルベロス達の体力も削られている。
 何よりもクリームヒルトを焦らせていたのは、タイムリミットが差し迫っている事であろう。
 足止めを図りながら戦うケルベロス達は、仲間を二人送り出した分の火力不足が否めなかった。
 ココを通してしまえば、他のチームが撃破できなければ。
 この街に、この世界に、大変な事が起こってしまうかもしれない。
「制限時間ギリギリ、だね」
 プランの柔い身体のラインを曝け出した傷は生々しく。
 瞳を細めて痛む身体を引きずるように、紫水晶に氷の力を宿す。
「……まだ、倒せるはずだよ!」
 放つ紫水晶は、竜を横殴りに。
「もちろん、絶対に、絶対に、通さないであります……ッ!」
 クリームヒルトが得物を握りしめて頷いた。
「そうなのです……、もっと踏ん張ってるひとたちがいるのです、サヤが倒れてる場合じゃないのです」
 サヤのちからは、人のためのものだ。
 未だ地獄に身を置く、あの人もそれを望むだろう。
「おまえを、見逃してやる訳にはいかないのですよ」
 力を振り絞り、サヤはぎゅっと槍を握りしめる。
「ゆきましょう、フェクト」
「おっけー、神パワーでなんとかしちゃおう……っ」
 満身創痍、ひゅうひゅうと喉を鳴らしたフェクトがサヤに合わせて翔け。
 竜が身を捻らせたかと思うと、一瞬でその尾がフェクトの間の前に迫っていた。
「やらせない」
「やらせないで、ありますっ!」
 フェクトを跳ね除けて。
 同時にその間に滑り込んだのは、クリームヒルトとアルケミアだ。
「はあああああああッ!」
「最後まで、食らいついてやる!」
 槌を左右に構えたクリームヒルトとアルケミアは、思い切り槌を振り上げ――。
 片や灯す力は竜の砲。
 片や灯す力は可能性を奪う氷の槌。
 尾と槌が交わされ――。
 庇おうと間に飛び込むイドの姿。大型車に跳ね飛ばされた様な衝撃が二人と一匹を襲い。
「……ッ!」
 咄嗟に受け身を取ったクリームヒルトの、背負う盾がガリガリと削れ火花が散り。
 けぽ、と血を吐き出しながらも、クリームヒルトは叫ぶ。
「アルケミア殿ッ!」
「ぐえ……っ」
 尾が身体を打ち抜き、玉みたいに弾かれた身体。
 石畳が自らの肉をガリガリと削る痛みが、だんだん薄れて行く。
「ごめん、限界、みたい」
 血の海に沈み。
 同時に気を失いながらもクッションになったイドを抱きしめて、アルケミアはそのまま瞳を瞑った。
「倒れて下さいッ!」
「――神様を、なめるなっ!」
 倒れた彼女が護りたかったものを、護る為に。
 竜の巨大な腕を駆け上ったサヤは、紫電を纏う槍でその瞳を貫き。
 同時に、サヤが足場とした腕を斬り飛ばすフェクト。
 ああ、もう少し、もう少し力があれば。
 その身体を引きずりながら、大きく翼を広げた侵空竜。
 駆けたアルディマが、大きくその竜の口を開いた。
「受け継ぎし魂の炎を今此処に! ――竜の火よ、不死なる神をも灼き払え!」
 並ぶ牙が見えたかと思えば、炎の息吹が灯される。
 展開された魔法陣が炎を収束し、竜の傷口を炎が舐め――。
 その炎を纏ったまま、勢いをつけた竜は熊本城へと身を滑り込ませた。
 壁の崩れる音。
 他のエオスポロス達が同じ用に飛び込んで行くのが見える。
「皆様! 爆発に巻き込まれぬように、逃げるでありますッ!」
 戦闘不能になったアルケミアを抱き上げたクリームヒルトは、叫ぶ。
「……っ」
 仕留めきれなかった。
 仕留めきる事が出来なかった。
 アルディマが眉間に皺を寄せて、倒れたサーヴァント達を抱えて走りだす。
 次の瞬間、城の中が白く輝き。
 エオスポロスが自爆する轟音が響き渡った。

●禍々しい力
 夜の帳が落ちだした紅色の空のもと、崩れ落ちる熊本城。
 もうもうと黒煙と砂埃が上がるその中に、ひどく禍々しい気配を感じた。
 ゆっくりと、ゆっくりと。
 晴れる砂煙の中に怪しく輝く何かが見えた。
 ――ドラゴンオーブ。
 禍々しい気配を撒き散らす3m程のその玉は、ケルベロス達が撤退した後も、崩れ落ちて瓦礫と化した熊本城の上にゆらゆらと浮いていた。

作者:絲上ゆいこ 重傷:アルケミア・シェロウ(ユーリカ・e02488) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月7日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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