熊本城ドラゴン決戦~すべての想いを込めて

作者:ハッピーエンド

 ここは熊本。ケルベロスたちが護りし大地。
 勝利に沸いた陽は流れ、今これよりは闇が差す。
 天空を覆う竜の群れ。飛び交い狙うは熊本城。闇の一つが流星のように降り堕ちた。
 天地を揺るがす轟音、衝撃。城壁が悲鳴を上げる。
 それは特攻。身を砕き、コギトエルゴスムの姿を晒し、それでも流星雨は止むことを知らない。
 ほどなく熊本城は跡形も無く崩れさり、後に残ったものは、ただ膨大な力の塊であった。


 作戦会議室に集まったケルベロス達が見たものは、真剣な表情で前を向く、アモーレ・ラブクラフト(深遠なる愛のヘリオライダー・en0261)の姿。
「熊本市全域で行われたドラゴン勢力との戦いは、最小限の被害で敵を撃退する事が叶いました。まずは、皆様方に深い感謝と称賛を」
 静かな所作で、深々と頭を下げる。
 そしてゆっくりと頭を戻すと、スゥッと息を吸い、細く吐き出した。
「しかしドラゴンの進軍は止まりません。竜十字島から出撃したドラゴンの軍団が、すぐそこまで迫ってきています。
 皆様には、今すぐ熊本城に向かい、熊本の戦いに参加したケルベロス達と合流、熊本城の防衛に参加してほしいのです。
 敵の目的が『熊本城』に封じられた『魔竜王を復活させる事すらできる魔竜王の遺産の奪取』であることは間違いありません。
 敵の目的は2つあります。
 1つは魔竜王の遺産の封印を解除する事。
 『魔竜王の遺産』の封印は、皆様がグラビティ・チェインの略奪を阻止して下さった為、いまだ破られておりません。
 敵は、この封印を無理やりこじ開けるべく『侵空竜エオスポロス』の軍団を熊本城に突撃自爆させようとしております。自爆する事で自らのグラビティ・チェインを捧げ、封印を解放しようとしているのです。
 もう1つは、封印を解除した魔竜王の遺産を、竜十字島に転移させる事。
 魔竜王の遺産が、竜十字島に転移させられてしまえば、こちらから手出しする事は至難となり、ドラゴン勢力の野望を食い止める事は不可能となるでしょう。
 それを防ぐ為には、侵空竜エオスポロスを迎撃すると同時に、覇空竜アストライオスと配下の四竜。廻天竜ゼピュロス、喪亡竜エウロス、赫熱竜ノトス、貪食竜ボレアース、への攻撃を敢行する必要があります」
 深い、漆黒の瞳がケルベロス達を見つめた。
「作戦はこうです。
 まず、熊本城に突撃してくる『侵空竜エオスポロス』1体と戦います。
 侵空竜エオスポロスは、覇空竜アストライオス配下のドラゴンで、素早い機動と鋭い斬撃、電撃のブレスなどを得意としております。彼らは熊本城突入の12分後に自爆しコギトエルゴスムとなる事で、封印解除の為のグラビティ・チェインを放出します。これを完全に阻止する為には、12分が経過する前に敵を撃破することが必要となります。
 仮に撃破できなかった場合でも、大きなダメージを与える事ができれば自爆の効果が弱まり、封印を解除するグラビティ・チェインも減少しますので、可能な限りダメージを与え続けるようにしてください。
 エオスポロスを撃退した後は、儀式を行なう覇空竜アストライオスと四竜への対策が必要となります。
 覇空竜アストライオスは、自爆による封印の解除に失敗した場合、儀式を終了させた配下の四竜を犠牲に捧げてでも、魔竜王の遺産を手に入れ竜十字島に送り届けようとします。
 これを阻止する為には、儀式が完成する前に、覇空竜アストライオス、或いは四竜の一体を撃破する必要があるのです。
 ただし、覇空竜アストライオスと四竜は、エオスポロス軍団の背後にいる為、まずはエオスポロスを突破しなければ戦いを挑む事は出来ません。
 検証した結果、成功の可能性が最も高い作戦は、侵空竜エオスポロスと戦いつつ、少数の飛行可能なケルベロスを突破させて、覇空竜アストライオスと四竜を奇襲する作戦であると判明いたしました。
 覇空竜アストライオスと配下の四竜は、互いに連携して戦います。突破した戦力を一つの目標に集中させてしまえば、他の4竜に妨害され確実に撃退されてしまうでしょう。勝利の鍵は、本命部隊と連携妨害部隊に分かれることかも知れません」
 アモーレはケルベロスたちを真摯な瞳で見渡すと、勇壮に拳を振り上げた。
「人類の命運は、あなた方の活躍にかかっております。皆様に勝利を!!」
 そして最後に一つ。歓声にかき消される中、想いを零した。
「……ですがお願いです。必ず無事に帰って来てくださいますように」


参加者
シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)
桐山・憩(コボルト・e00836)
レカ・ビアバルナ(ソムニウム・e00931)
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)
朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)
葛城・かごめ(変種第一号・e26055)
ラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)
ナザク・ジェイド(甘い哲学・e46641)

■リプレイ


 夕闇迫る熊本城。番犬達が見上げたものは飛翔する黒き絶望の群れ。
 全長12m。俊敏なフォルム。蝙蝠のような翼。血のような真紅の瞳。侵空竜エオスポロス。
 明確な目的をもった闇の流星が降り堕ちる。
 だが、衝突は未だ。
 立ちはだかる地球の護り手たちがいる。翼竜は中空に侵攻を止めた。
 竜は語らぬ。ただ息を吸い――、
 天空に吼える。
 圧倒的な音波の障壁に、生命は委縮した。やはり最強種。対峙するだけでも心を削られる。
 そんな中、竜に突進する白銀の塊がある。
 体当たりするように跳んできたそれを、竜はかわすことすらしなかった。
 弾かれ落ちたのはママチャリ。
「城山病院から熊本城まで歩いて1時間15分かかるはずなのにお早い到着って? ふっ……チャリで来た!!」
 玉のような汗を弾ませ、ドヤ顔を見せるのは銀のエルフ。ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)。
 この空気感でいきなりなに言ってるのこの人!? 戦慄。思わず集まる視線。
 しかしドヤ顔。圧倒的なドヤ顔。
「どこかの誰かを思い出すセリフです!」
 流れに乗ったのは赤茶けた癖っ毛を揺らすウェアライダー、朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)。はわわ~といった表情で合わせてくれるあたり、かなりいい娘。
 だが、これ以上のコメディは竜が許さなかった。
 大気が鳴動した。
 空間に電極が満ちている。喉が痺れ、全身の毛が逆立つ。
 落ち着いた表情でアラームをセットしたのは、黒色の着物を纏ったレプリカント、葛城・かごめ(変種第一号・e26055)。本作戦では時間が大きくカギを握っている。
 咆哮。竜は全ての大気を吸い込むが如く胸を膨らまし――、
 光と共に着弾する紫電の雷光。
 骨がバラバラになりそうなほどの衝撃。
 脳髄に電撃が走り、息を吸うことすら叶わない。
 轟音と共に外壁が崩れ、番犬もまた膝を付く。
「嘘だろ」
 思わず零したのは白い衣を纏ったドラゴニアンの少年。ラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)。
 ディフェンダー。皆を護ることを一番に考えていた。それが抜かれた。こうもあっさりと。雫が頬を伝う。思考で追いつけるものではない。
「先制攻撃は想定内」
 かごめが歯を食いしばり立ち上がる。その視線は気だるげな銀のサキュバス、ナザク・ジェイド(甘い哲学・e46641)に。
 ナザクは敵に銀のレイピアを構え。その視線をヴィルフレッドへと向けた。口の端が微かに上がっている。
 OK、そういうことだね。
 言葉は要らない。木の葉乱舞がレカ・ビアバルナ(ソムニウム・e00931)の橙の髪を舞い上げる。それを見て仲間も理解した。ナザクの命中率は足りている。
「太陽の騎士シヴィル・カジャス、ここに見参! この星の空はこの星に生きる者たちの空だ。断じて、貴様らの空ではない!」
 真紅の鎧をまとった青髪のオラトリオ、シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)の翼がはためき、
「魔竜王が復活したら今度こそ地球は滅亡する。何としてもここで食い止めるわよ」
 かごめの黒髪が風に揺れ、二人の身体から舞い踊ったオウガ粒子が後衛を癒し、力を与えた。
「とりあえず、さっさと刻んじまえばいいんだろ!!」
 ギザギザ歯のヤンキーレプリカント、桐山・憩(コボルト・e00836)の眼力がさらにそれを強固なものとした。
 フワリッ。白い翼が宙に舞う。
 悲しげな眼の黒いアメショ、もといウイングキャット『エイブラハム』。
 連携が繋がる。淀み無く。あらかじめ定め合った意思の疎通はピタリ噛み合った。見事というほかはない。
 一斉に高められた後衛の精神。
 レカの赤茶けた瞳が竜を見据える。
 初手。敵の機動を砕く為の一撃。それがどれほど重要なものか。すべての者が理解していた。
 弓を引く。霊力を圧縮。引き絞る。外さぬよう。定める狙いは確りと。
 脳裏に過るは護りし人々の顔。
 任せて逃げて。そう言って私はここまで来たんだ。
「私は、あの人たちを護りたい!」
 霊弾が飛ぶ。運命を込めて。
 それは、竜の鱗を貫き、肉にまで達した。
 同時に花吹雪。視界を奪う花弁の陰で剣閃が煌めいた。
「先の戦いでは市民達に勇気づけられた。彼らの期待に応える義務がある。必ず成し遂げる。誰も死なせない」
 白銀のレイピアを引き抜くナザクは、確かな手ごたえを感じていた。
 機動は削いだ。となれば次は、
(一撃だよね)
 環が唇をペロッと舐める。
「頼んだぜ」
 ラルバから送られる波動。精神が研ぎ澄まされていく。
(フロレはまだ厳しいな……。なら)
 ガチャリ。
 構えられたのはロケットランチャー。
 白月の砲弾。当たる寸前で無数の弾丸を散開させ、雨垂れのように敵を穿つ。
 仲間の内で最も火力を持つ環の攻撃。しかし竜は眉を顰めることすらしない。
 翼をバサリはためかす。突風。番犬達の身体が揺れた。
 踏ん張りがきかなくなったところに、
 ビュゴッ!!
 旋風のように漆黒の尾が通り過ぎる。
 骨を砕く衝撃。外壁に身体が叩きつけられる。
 瓦礫から身を起こしながら、環の瞳が竜を見つめた。
 堅い。ともかく堅い。ドラゴンってこんなに堅いもの? いくらなんでも……。
 敵の目的は自爆だってアモーレさんは言っていた。この戦いは時間勝負になるって。
 ……ディフェンダー。たぶん、そうなんだね。
 環は合図を送る。敵はディフェンダー。仲間たちの表情が険しくなった。
 だが、幸い氷も服破りも用意している。やってやれないことはない。

 連携に次ぐ連携。氷、捕縛、服破り、足止め、武器砕き。竜の自由を打ち砕く。
 雷球。獰猛な爪。俊足の尻尾。番犬のダメージも軽微では済まない。
 互いに損傷を重ね合い、かごめのアラームが運命の時を告げた。

●突破
 封印解除と転送。その両方を止めるためには、確実にここでシヴィルを送り出す必要がある。
 失敗はこの世界の崩壊に繋がる。
 脳裏を過るは家族の顔。仲間の顔。助けた人々の顔。
 覚悟を共有するように、仲間たちの瞳が絡み合った。
 勇壮に翼をはためかすシヴィル。
 竜の周りに不穏な雷光が満ちていく。
 撃ち落とす気か? そうはさせない。
「空にあるのは竜より太陽だと思わない?」
 斬撃。ヴィルフレッドがコートをはためかせ、竜の喉元を斬り裂いた。
「押し通る!」
 続けてシヴィルの矢が、飛行を阻むように翼に撃ち込まれる。
「すべての攻撃を集中させて!」
 エネルギー光線の奔流。回復手のかごめまでもが、この瞬間にかけて竜の額を焼き焦がした。
 竜の頭が揺れる。
「良い位置に来たじゃねぇか!」
 天空高く飛び上がった憩のかかと落とし。だが、竜の瞳は見透かした瞳でそれを見つめている。
「何処を見ているのです? 余所見する暇などありませんよ!」
 眼を覆うブラックスライム。レカの腕より飛来したそれが、竜の目に纏わりついた。
 憩のかかと落としが脳天に突き刺さる。竜の瞳に紅い怒りが宿った。
 それでも首を振り、なおもシヴィルを逃すまいと目を見開く。
 開けた視界に映ったのはエイブラハムの尻尾だった。
「オレの分も暴れてきてくれよ!」
 気を取られた隙に、ラルバの御業がその身体を絡めとる。
「斬り放題だな」
 ナザクの斬撃が頭に突き刺さった。
 シヴィルは天空を駆ける。
 無理な体勢。それでも竜は執念で口角をパチパチ光らせ。
「よそ見なんか、させませんよ!!」
 天空を駆けあがる環。電光石火の雷光が竜の顎を蹴り上げる。
 雷弾は虚空に爆ぜた。
 培ったBSの数々が、竜の動作をうまく阻害した。これ以上追うことは叶わない。
「力なき人々を守る盾たる騎士として、憎きドラゴンどもをこの空から駆逐してやるとしよう!」
 天空を駆け抜ける太陽の翼。
 頑張ってこい。
 その後姿に仲間たちは希望をかける。
 だが――、
 憎悪の眼で見つめる竜が、怒りの咆哮をあげていた。

●佳境
 一人欠けた状態での戦闘。ディフェンダーは二枚。その状況で、憩はシヴィルを突破させるために怒りを植え付けた。さらにそれは倍々と増えている。損傷は限界を迎えていた。
「だから……頑丈じゃねぇって……言ってんだろ……」
 ボロボロの腕はもう上がらない。それでも立っているのはなぜなのか。憩は自分でも分からない。
 優しい翼が身体を包む。おいおいエイブラハム。まだ戦えってのか?
「上等だオラァッ! どうせあと2、3分だろ! コーヒー淹れるより楽勝だぜ!!」
 強がり前を向く。が、そこに迫るのは現実という名の凶器。
 怒りの爪撃が空を斬る。
 はは。ダメだこりゃ。
 死が、形を成して襲い来る。
 過ったのは、たくさんの人の姿。
 そうか、私はそのために戦っていたのか……。
 衝撃は来なかった。替わりに襲ったのは突風。そして、目の前で弾け飛んだ白い固まり。
 外壁が肉弾を受けて崩落した。そのままピクリとも動かなくなる。
 撃ち飛ばされたのは白衣のドラゴニアン。
 この戦い二枚しかなかったディフェンダーの片割れ。損傷は他の比ではない。
「ラルバさん……っ!」
 言葉の速さを動きが上回った。反射的に跳び出すかごめの分身体。力強くラルバの身体を揺り動かす。
 だが動かない。
「お願い……!」
 癒やしの光が猛々しくラルバを揺さぶる。が、少年は微動だにしない。
 その間にも竜の眼は、番犬を逃さない。
 おいおい……これはなんの冗談だ……っ!?
「削るぞドラ助!! 来いよ! こっちだオラァッ!!」
 絶叫。喉が切れた。憩の身体から軋みが消えた。護る。それしか考えられない。
 竜の怒りは憩に向いている。ラルバが砕けた以上、次はない。
「無茶なことをするね! だけれどそういうの、嫌いじゃないよ!」
 銀のエルフが駆け抜ける。竜の損傷を抉り広げ。
「麻痺でもなんでもいいです! 止まれぇ!!」
 環の想いも閃光となって竜の損傷を広げた。
 奇跡は、それを信じた者にのみ応えるという。
 だがそれは違う。
 為すべきことを為した者に、それは応えることがあるだけだ。
 竜は目を見開いたまま、痺れに巨体を硬直させた。
 弓を放ちながら、レカがラルバに駆け寄る。
「ラルバさん、起きてください」
 反応は無い。
「あなたも、助からないとダメです!!」
 その瞳から、優しい雫が零れ落ちた。
 ナザクもたまらず、
「お前が助けた者たちは、お前が助からなければ救われない」
 その魂を揺り動かすよう、言葉をぶつける。
 憩がラルバの胸元を掴んだ。
「起きろよ、ラルバ。てめぇ、皆で帰るんだろうがよ。お前も生きなきゃダメだろうがよ!」
 その時、無情にアラームが響き渡った。
 攻撃の機会は、あと一手。

●信念対信念
 混濁する意識。それでもオレは敵と戦っている。だが知っている。本当は、オレの身体はもう動いていないことを。
 光。癒しの光。温かい雫。魂を呼び起こす言霊。
 動きたい。立ち上がりたい。笑って、大丈夫だって、あいつらに、誇るべき仲間に応えてやりたい。
 でも動かない。オレ、今までどうやって戦っていたんだっけ……?
 不意に、力が添えられた気がした。あぁ、そうか、そうだったっすね。これが、力の使い方……。
 視界がブワッと広がった。握りしめた拳には力の塊が。
 かごめの光が、諦めることなくラルバを照らし続けていた。
「ラルバさん!」
「ありがとうみんな! オレも最後まで戦う!」
 視線の先には、すべてのグラビティを解き放とうとする黒竜の存在。
「止まれえぇ!!」
 ラルバの御業が竜を縛り、
「削るぜドラ公!!!」
 嬉々とした表情で、憩の全力スマッシュが、エイブラハムのキャットリングと共に飛来した。
「良かった……」
 心底より心を零したのはかごめ。
 疲労はピークを迎えている。連戦。それも、盤面の管理を怠りなく勤め続けた。
 周りを見つめる。誰もが誰も、ベストを尽くしてここまで来た。
 この仲間で良かった。この星が心を教えてくれたように、この仲間は絆を教えてくれる。それは、湧き立つ力になるんだ。
「勝とう。絶対」
 残ったすべての力を込め、光が竜へと飛来する。
「ええ、勝ちましょう」
 穏やかな微笑み。レカとかごめの目が合った。
 信頼する仲間たちとここまで来た。あとは、想いを力と変えて撃ち抜くだけ。
「あの人たちを護るためにも」
 弓を引き絞り、力の限り穿ち抜く。
「あの人たち、か。事情は僕も知ってるよ」
 何故って? だって、有能な情報屋だからさ。
「さぁ、城を落とせず地に落とされる覚悟はできてるかい?」
 僕も護りたい。ヴィルフレッドの懐からげっ歯類が跳び出した。つぶらな瞳で主人を覗くと、電光石火で竜に駆けていく。
 竜もさる者。咆哮。軋みを上げる身体を、それでも砕けぬ信念でもたげ、前を向く。力の奔流はなお荒れ狂う。
「お前達も種の存続と繁栄の為必死に戦っているのだろう。だがそれは、この地を、人々を傷つけていい理由になどならない!」
 剣を握るナザクの掌に力がこもった。
 温かい市民。心強い仲間。私が護りたいもの。お前が護りたいものと、どちらが上か!
 剣閃が煌めく。
 さぁ、最後の一手。泣いても笑ってもこれが最後。
 環は身体を落とす。その爪に、蹴り脚に、すべての力を集束させ。
 魂が震える10数分だった。でも、それもこれで終わり。あの竜を倒して、仲間も、みんなも、護り抜く。
「全力特攻あるのみ!」
 信念でも……友情でも……怒りでも……なんでもいい! 力を……! あいつを墜とす力を!!
 紫電が突き抜ける。
 戦いの結末は、果たして――。

 爆煙が晴れる。中から現れる竜の姿。
 双眼は衰えず。遺産の埋もれし地を凝視する。
 そして――、
 瞳から光が消えた。全ての生命力を使い果たしたその身体は、燃え尽きた灰の如く崩れ去る。
 彼もまた背負っていた。竜族の命運を。
 誇り高き最後だった。


 侵空竜を討ち取った。全ては意思の疎通が導き出した勝利。頼もしい仲間だった。互いの顔を見つめ合い、自然と拳を交わし合う。
 暴力的な光がその顔を照らしたのは直後だった。
 侵空竜のうち、何体かが自爆したのだ。
 閃光に塗れる優美なる城。砂塵が嵐のように荒れ狂い城を包み込む。
 番犬は撤退を始める。互いに互いの肩を貸し。
 途中、一つの竜が天空から墜ちていく姿が見えた。
 シヴィル達がやったのだ。今ここにはいない仲間の戦果。胸がすく。本当によくやってくれた。
 これで転送は防げた。後は封印だが……。
「なんだかマズそうなものが出てきてませんか?」
 砂塵の内より浮かび上がったものは、力の塊だった。怪しく輝くドラゴンオーブ。封印が解かれたのだ。
 ゴクリ番犬は息を呑んだ。
 オーブ争奪戦は未だ終わらない。

 無言で走る番犬達。重苦しい空気を纏っている。
 だが誇るべきだ。転送を阻止したことを。侵空竜を討ち取ったことを。そしてなにより――、
 誰一人として仲間を失わなかったことを。

作者:ハッピーエンド 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月7日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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